流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
マナブには、原作にはない設定を追加しております。
ルナルナ団を結成した日の夜。夕飯も食べ終わってしばらくすると、スバルは外へ出た。夜空の下、見慣れた町並みを歩いていく。
近くにある大きな公園の側を通り、中にある店を確認する。この前火事があった店だ。新しい室外機が置かれている。どうやら大事は無かったらしい。
「ロッポンドーヒルズとかは大分発展したけれど、この町はあまり変わらないね」
ここは郊外なこともあり、あまり都市開発が行われることは無い。最近変わったことと言えば、案内所ができたことくらいだろう。
その案内所が見えてきた。道の脇に灰色の装置が置かれている。その装置の前にはサラリーマン風の一人の男性がいた。
「もしもし、ちょっといいですか?」
男性が装置に向かって話しかけると、台の上に電波体が召喚された。犬のような顔に、頭には青い帽子をかぶっている。
「ぼくコダマタロウくん! コダマタウンへようこそ! ……だわん!」
このコダマタロウくんもウィザードだ。彼は道を尋ねられると、男性のハンターVGに目的地への道順データを送り、途中の道の特徴を細かに伝えている。
「電波世界は賑やかになったけれどね」
ビジライザーをかければ空にはウェーブロードが見える。そこには灰色の体をしたデンパくんと、赤色の体をしたデンパちゃんたちが忙しそうに駆け回っていた。メールや画像、計算ファイルや測定結果など、電波でやり取りできる様々な情報を運ぶのが彼らの役目である。
『変わらねえっていや、お前もだよな』
「そんなに?」
『ああ。ほんと飽きねえよな、そのつまらねえ趣味』
「ロックも分からないかな、天体観測の面白さが」
これからスバルは展望台に向かうのである。コダマ小学校の裏山にある寂れた場所で、一時間ほど星空を眺める予定である。
『分からねえよ。宇宙人の俺からしたら、町を散歩するのと大して変わらねえ。お前だって電波変換して、宇宙に行った事あるだろ?』
「それとこれとは別だよ。地球から見る宇宙って、また格別の面白さがあるんだよ」
『分からねえよ……』
体を動かすのが好きなウォーロックからすれば、ほとんど止まっている星空を眺めることは暇でしかないのだろう。
『ったく、明日はあの暁てやつと戦うんだろ。早めに休めよ?』
「だからこそだよ……」
先ほどまでとは打って変わって、スバルの目は闘士のものへと変わっていた。
「気が張っちゃって、少し眠れそうにないんだよ」
『そうか、お前なりの息抜きか』
戦いの前に体調を整える。当たり前のことだ。星空でも見上げれば少しはリラックスできると考えたのだろう。
学校の門が見えてきた。ここから少し離れたところに展望台へと繋がる階段がある。門の前を通り過ぎようとして、スバルは気づいた。門から校舎への間にある運動場。そこに誰かいる。
思わず立ち止まると相手もこちらに気づいた。眼鏡をかけた大人しそうな顔つきに、スバルは軽く頭を下げた。
「あ、部長さん」
「スバルくんかい?」
科学部部長の木野マナブだった。
「どうしたんだい、こんな時間に?」
「いや、こっちの台詞ですよ」
マナブは校門に近付いてハンターVGをかざした。リアルウェーブでできた門が電波粒子となって消滅した。
「僕はあれ。ロケットを打ち上げるとしたら、やっぱり運動場しかないよなって、下見をね」
マナブが外に出ると、再びリアルウェーブの門が出来上がった。
「そんなことまで……」
「まあ、これは気晴らしみたいなものだよ。ギガエナジーカードが手に入らないと、結局打ち上げられないからね」
マナブが肩を竦めた。笑おうとしているようだったが、その顔は疲れ切ったと訴えるようなものだった。
スバルに一つの提案が生まれた。
「部長さん。今から展望台に行きませんか?」
「展望台?」
マナブはここから少し離れたところにある階段を見た。展望台への入口だ。
「そう言えば、行った事なかったな」
「僕のお気に入りの場所なんです。良かったら、一緒に天体観測をしませんか?」
「いいね。気分や思考を切り替えるのに丁度いい」
やっぱりこの人はスバルと同じ毛色の人物らしい。こうしてスバルの同行者にマナブが加わった。早く帰りたそうにしているのはウォーロックだけだった。
◇
「良いなあ、ここ。学校の屋上とは全然違う、星が近くに感じる……」
「そうでしょう。気に入ってもらえると思ったんです」
思った通り、マナブは展望台を気に入ってくれた。スバルも隣に並んで空を見上げた。
「よくここに来るのかい?」
「はい、そうなんです。コダマタウンで一番宇宙に近い場所ですから」
それはつまり、大吾と最も近い場所に居られるということだ。夜空には、秋の星座を代表するアンドロメダ座があった。スバルは目を細める。
「ねえ、スバルくん」
「なんですか?」
「その……君の苗字って、星河で合ってたよね?」
マナブの言い出し辛そうな顔を見て、スバルは意図を察した。
「そうです。僕の父さんは星河大吾です」
やっぱりとマナブは頷いた。
「よく知っていましたね?」
「知ってるよ。僕ら宇宙好きの間ではヒーローみたいな人だから」
「そうですか……」
父親が偉大な事くらいスバルはよく知っている。だがその名前を他人から語られるのは初めての経験だった。
「父さんは僕の憧れなんです……」
スバルは夜空を仰いだ。今日は月の光が強めで、星の数はさほど多くはない。
「ブラザーの開発に、キズナクルーの船長……凄い人だものね」
「はい。父さんを探しに行くのが、僕の夢なんです」
「信じているんだね?」
「もちろんです」
マナブは知る由もないが、星河大吾は今も宇宙を彷徨っている。ウォーロック曰く、ゼット派の力で電波の体となり、宇宙で迷子になっている。どこにあるのかも分からない地球を探してだ。
そんな彼を迎えに行く。それがスバルの夢だ。
「驚いたな。僕と同じような夢を持っている人がいただなんて」
「部長さんも、やっぱり宇宙の仕事に?」
「うん、僕はね……」
マナブは星空を見上げた。
「君のお父さんが乗った、宇宙ステーション『キズナ』。あれに憧れてさ……」
「部長さんが……?」
素直に驚いた。同じ学校に、同じものを見ている人がいたことに。
「今はまだ通信できる装置をロケットで飛ばすことしかできない。けれど将来は、色々な星に向かってロケットを飛ばしてみたいんだ。なんなら『キズナ』みたいな宇宙ステーションを作る部品や機材を運ぶのも面白そうだし。なにより……」
スッと、遠い空に向かって手を伸ばした。
「僕は宇宙と通信がしたいんだ」
「通信?」
マナブは隣のスバルを見た。
「改めて考えてみると、通信って凄くないかい? 遠く離れている人と、こうして隣にいるように会話ができるんだ」
「……そうですね!」
スバルはそれが持つ力の大さをよく理解している。宇宙で迷子になった時、ルナたちとのブラザーバンドがスバルを見つけてくれたのだ。
「自分で作ったロケットを宇宙の遠くへ飛ばして……まだ僕たち地球人が見たことのない映像や、乗り込んでいるウィザードとの通信……ワクワクしないかい?」
するとハンターVGからマグネッツが出てきた。
「オイラも宇宙に行ってみたいッス! そしてマナブくんとコイルに、オイラがみた宇宙の光景とかを教えてあげたいッス!」
続いてコイルがマナブを挟んでマグネッツの反対側に出てきた。
「その通信を受け取るのが僕の役割ですッチ!」
「ありがとう、2人とも」
ウィザード2体に挟まれて夢を語るマナブ。スバルは自然とはにかんでいた。
「凄いな、部長さんは……」
「それほどでもないよ」
「いえ、凄いですよ本当に」
自分の夢を持ち、具体的に思い描き、それに向かって全力で進む。そうそうできることではない。
だからこそだろう。スバルは心に決めた。
◇
「今日は誘ってくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ楽しかったです」
「それじゃあ」
展望台を後にすると、マナブとマグネッツたちとは手を振って別れた。そしてスバルは帰路へとつく。走ってだ。
『おいおい、珍しく熱くなってるじゃねえか』
「なるよ、あんな話聞かされたら」
自分と似たような夢を持ち、同じ人に憧れ、邁進している。そんなマナブを前にしたのだ。
「ロック!」
『なんだ?』
「明日、絶対に勝つよ!」
『おうよ!』
決意を秘めて少年は走った。今日は明日に備えて、早く寝よう。
○デンパくんとデンパちゃん
情報伝達を担う電波世界の住人。プログラムの一種である。
丸みを帯びた形状をしており、手足は無い。デンパくんは灰色で、デンパちゃんは赤色。
個体ごとに人格が設定されており、働き者も居れば迷子になるうっかり者や、仕事を覚えようと必死になっている新人もいる。これは設定されたプログラムの違いによる影響である。
情報伝達に特化しているため、戦闘能力は無い。電波ウイルスに襲われるとひとたまりもないという弱点がある。
○ナビ
電波世界の住人。デンパくんとは異なり、何かの作業に特化した者たちをさす。車の運転や機械の操作、学習の補佐など、多岐にわたる。
200年前は1人1体のナビを持っていたらしい。その形が崩れて久しいが、人類は再びウィザードという新たなパートナーを得ることになった。
デンパくんの発達とウィザードの登場により、彼らは役目を終えつつある。
参照.ヨイリーレポートより抜粋