流星のロックマン Arrange The Original 3   作:悲傷

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チュートリアルはまだもう少し続いたりする……。


第11話.スピカモールへ

 ここはどこだろう。ふわふわとしていて気持ちいい。何も見えないのにとても明るい。真っ白な世界に自分はいる。

 

「……ね……さん」

 

 声が聞こえた。誰だろう、女性のものだ。

 

「この…………前、決め……れた?」

「ああ、決め……よ」

 

 今度は男性のものだった。なぜだろう。声が聞こえない。ところどころが聞こえない。

 

「…………だ」

「フフ……宇……が好きな、……さんらし……わね」

「無……に広がる……宙のように……限り……強さ……しさを………………だ」

 

 2人は楽しそうに笑っている。それだけは雰囲気で理解できた。

 

「………………ん、良……前……」

「よろ……くな、……」

 

 自分の頬に暖かいものが触れた。固いようで逞しく、力強くて優しい……。

 

「俺が、お前の……」

 

 

 ピピピという電子音が鳴り、少年は勢いよくベッドから身を起こした。

 

「おはよう!」

 

 スバルは布団を跳ねのけるようにして起床すると、ハンターVGを手に取った。中ではウォーロックが腕を何度か振っては身を捩じり、時には爪を前に翳していた。

 

『おう、起きたかスバル。外に出て良いか?』

「良いよ。物は壊さないでね?」

『言われなくても分かってるっつの』

「なら良いけれど。ウィザード・オン」

 

 ウォーロックはハンターVGの電脳世界から、現実世界に移動すると、再び先ほどの動きを再開した。

「シッシッ!」というウォーロックの掛け声を聞きながら、スバルはクローゼットを開けた。赤い長袖服がずらりと並んでいる。そのうちの一番右……一番最後に洗濯した物を手に取って、パジャマから着替えていく。

 

「シャドーボクシング?」

「おう、今はウルフが相手だ。次はオックスでやってみる」

 

 ウォーロックは今まで戦ったことのある強敵たちの動きを思い出し、自主トレーニング中だ。こうしている間にも、スバルはタンスから紺色の半ズボンを取り出した。これもいくつも並んでいるうちの一番右を手に取った。

 

「暁さんのウィザードって、どんなのだろう?」

「さあな。けれど俺たちの敵じゃねえよ」

 

 それについてはスバルもある程度同感だった。オックスもウルフも強力なFM星人だ。彼らを上回る電波体など、そうそういないはずだ。

 だが暁シドウのあの自信は何なのだろうか。油断はしない方が良い。ウォーロックのように驕るつもりも、相手を下に見るつもりもない。だが負ける気だけは一切なかった。

 

「待っててくださいね、部長さん……」

 

 スバルが着替え終わると、タイミングよく部屋がノックされた。

 

「スバル、起きてる? 入っても良いかしら?」

「良いよ母さん」

 

 入って来たのは、母親のあかねだった。細い体に、若々しさを保っている顔つき。長めの髪は後頭部で結っている。

 

「今日出かけるんだったわよね。朝食作ってあるから」

「ありがとう」

「じゃあ、母さんは仕事に行ってくるから」

 

 そしてあかねの視線はウォーロックに移った。

 

「ウォーロックくんもよろしくね」

 

 シャドーボクシングをしていたウォーロックは動きを止めて、スバルの隣に並んで自分の胸を叩いた。

 

「おう、お袋。スバルは俺がしっかり見てるから、安心してな!」

「そう、頼もしいわね」

 

 ウォーロックの様子にスバルは少しだけ目を細くした。いつもはぶっきらぼうな彼だが、あかねと話すときだけは凛々しく振る舞うのだ。

 

「それにしても、天地くんに感謝しないとね。こんなにカッコいいバトルウィザードを作ってくれるだなんて」

「うん、本当にね」

 

 スバルは極力明るく答えた。

 

「それじゃあ気を付けてね」

「母さんも」

 

 そうしてあかねは出て行った。スバルの部屋が静まり返る。

 

「ねえ、ロック……」

「今はこれで良い。お前は間違ったことはしちゃいねえよ」

 

 あかねはスバルの正体がロックマンであることを知らない。ウォーロックがAM星人であり、大吾の友人であることもだ。

 ブラザーたちには話せていても、あかねにだけはずっと打ち明けられずにいる。

 

「……そう、これで良いんだ……」

 

 大吾が行方不明になって3年。あかねは不登校になったスバルを女一つで育ててきてくれたのだ。そんな息子がロックマンで、命がけで戦っていると知れば、どうなるだろう。心中穏やかでいられないことだけは確かだ。

 

「それに俺も居心地悪くなっちまうしな。助かってるぜ」

「……うん」

 

 自分のためだけではない。あかねとウォーロックの為に黙っている。そう思うと少し気分が楽になった。

 

「ごめんね母さん。いつか……必ず話すから」

 

 そして大きく息を吐いた。

 

「朝ごはん食べてくるよ。その後ウェーブロードに行くよ」

「トレーニングだな。よっしゃ、早く済ませろよ!」

「……くれぐれも、物は壊さないでね」

 

 激しく体を動かしだしたウォーロックに一言注意をしてから、スバルは一階へと下りた。

 

 

 ウェーブロードで電波ウイルスを退治したりと、体を動かしたスバルとウォーロック。待ち合わせ時間が迫って来たこともあり、スバルはウェーブロードを伝って目的地へと足を向けた。

 

「どうだスバル?」

「う~ん、準備運動としては物足りないかな?」

「俺もだ。尾上とウルフを誘えば良かったかもな」

「それは止めよう」

 

 地球人の尾上十郎と、FM星人のウルフ。FM星人襲来の際、スバルと共に戦った頼もしい仲間だ。電波変換した時の名前はウルフ・フォレストという。

 尾上は基本的には良い人なのだが、戦闘狂な側面があり喧嘩っ早い。手加減とかできるような人ではないため、模擬戦のつもりが命のやり取りにまで発展してしまう。相棒のウルフも似たようなものだ。

 血に飢えた狼人間。それがウルフ・フォレストのイメージだ。スバルは軽く身を震わせると、頭を横に振った。こういう時は思考を切り替えるのだ。

 

「……そういえば、今日夢を見たよ」

「夢、どんなのだ?」

「えっとね……」

 

 5秒ほど黙ってから、スバルは首を傾げた。

 

「どんなのだったかな……なんか白い世界にいた気がするんだけれど……」

「お前、普段からボーっとしてるからな……」

「何が言いたいのさ?」

 

 そうしている間に小川が見えてきた。川沿いには赤くて四角い機械が設置されている。その装置の真ん中には細長い棒状のものが突き出ており、先端には丸い電光案内板がついている。

 ここが待ち合わせ場所だ。赤い装置の側には、すでにルナがいた。

 

「お、委員長が一番乗りか」

「流石だね」

 

 スバルはウェーブロードから飛び降りようとして、ふと気づいた。直前までロックマンになっていましたとルナに知られれば、また昨日のやり取りの繰り返しになる。

 ここから少し離れていて、かつ自宅がある方角で、そして人目につかない場所に飛び降りて、電波変換を解いた。

 

「おはよう、委員長!」

 

 そして何食わぬ顔で戻って来た。ルナもスバルに気づいて手を振った。いつもの青い服装だ。

 

「スバルくん、調子はどう? ウォーロックも」

『ついでみてえに訊くなよ。そんなもん、絶好調に決まってんだろ!』

 

 ハンターVGの中から不機嫌そうに、ウォーロックが答えた。

 

「僕も問題なさそう」

「そう、なら良いわ。今日の勝負、負けられないわよ!」

『当たり前だろ。俺たちが負けると思ってんのか?』

「そうだね。僕も勝ちたい」

 

 ロックマンは世界を救ったヒーローなのだ。人前に出るのは苦手ではあるが、自分が背負った看板の重さを、スバルは理解しているつもりだ。負けは許されない。

 

「キザマロはともかく、どうせゴン太が遅刻するでしょうから、あれでも聞きましょう」

「そうだね。ゴン太はどうせ遅れてくるし」

 

 ルナが指さした先は道の脇だった。そこには白い機械が設置してある。中央には緑色の電光板。

 スバルとルナがそれの正面に立つと、ピロンという音が鳴り、音声が再生された。

 

― WAXA管理     ―

― ウェーブステーションへようこそ! ―

― メニューを選んでください    ―

 

 この機械は情報発信端末だ。今は電波ネットワークでいくらでも情報を探せるが、その分嘘も多い。信頼できる機関から発信される情報には、大きな価値がある。

 スバルとルナのハンターVGに、オレンジ色のパネルがポップアップされた。バトルカードの無料配布、付近で出没する電波ウイルスの情報、周囲の地図情報などと書かれている。だが今回はニュースの項目を選んだ。

 

― スピカモールでニホン初めてとなる ―

― バトルウィザードによる『ウェーブバトル大会』が開催されます ―

― 果たして優勝は誰の、どんなウィザードか? ―

 

「あら、話題になっているのね。今日の大会」

「うわあ、人が沢山来るんだろうな……」

「しっかりしなさいよ」

 

 落ち込んでいくスバルと異なり、ハンターVG内の異星人はヒートアップしていた。

 

『おうおう、早く戦いてえぜ!』

「……あまり言いたくないけれど、ウォーロックを見習ったら?」

 

 ルナがそう言うと、ウェーブステーションが次のニュースを再生した。その内容に2人の耳が釘付けになった。

 

― 大人気ドラマ、ソングオブドリームの瞬間最高視聴率が40%を突破 ―

― 主演の響ミソラちゃんは ―

― 『すごく嬉しい! これからも応援よろしくお願いします!』 ―

― と元気溢れる喜びのコメントをよせてくれました ―

 

「さすがミソラちゃんね」

 

 響ミソラ。スバルたちのブラザーであり、国民的人気アイドルだ。スバルたちと同じ小学5年生でもある。加えてFM星人のハープと電波変換してハープ・ノートになれる。スバルの最初の戦友であり、最初のブラザーでもある。

 

「うん。大人気だもんね」

「その通り、ミソラちゃんファンクラブの一員として誇らしいです」

 

 スバルが振り返ると、いつの間にかキザマロが後ろにいた。

 

「そうだよね。僕たちも誇らしいよ」

 

 うんうんと頷く3人。キザマロは眼鏡をクイッと上げた。

 

「それにしても……このウェーブステーションは酷いですよ。キング財団が孤児院に多額の寄付をしたことを放送してないんですから」

「またキング財団が?」

 

「そうです」とキザマロが頷くと、彼のハンターVGからペディアが出てきた。

 

「キング財団の寄付について報道するウェーブステーションの数を検索……ゼロ件」

「ゼロは酷いね……」

 

 ペディアの演算能力は本物だ。少々信じられないが、疑いようもない事実なのだろう。案外、WAXA管轄のウェーブステーションも当てにならないのかもしれない。

 

「放送しないって言ったら……」

 

 スバルにつられるように、ルナとキザマロも空を仰いだ。

 

「あの赤い星は何だろう?」

 

 まだ午前中の青い空。その1点に、赤い星が瞬いていた。肉眼で把握するにはやや小さいが、望遠鏡を使えば輪郭くらいは見れる。そんな小さな星だ。

 

「スバルくんが知らないのなら、僕にも分からないですね」

 

 キザマロが首を横に振った。

 

「集計完了。あの星についての情報は一切ないみたい」

 

 ペディアの実力を理解している分、これは怖い事実だった。

 

「情報規制でもかかっているのかしら?」

「僕も機密事項には検索をかけられないからね。捕まるし」

「ええ、それだけは止めてくださいね」

 

 キザマロは自分のウィザードに忠告をしておいた。

 そしてようやく最後の一人が到着した。

 

「遅れちまった。面目ない!」

 

 ゴン太が走ってやって来た。歩いていなかっただけマシというものだろうか。

 

「遅いわよ。一本逃しちゃったじゃない!」

「そう言っている間に来ましたよ、ウェーブライナー」

 

 キザマロが言うと、スバルたちの目の前にある小川で変化が起きた。小川の側に設置してある赤い機械から、電波粒子が放出された。それは1本のレールへと姿を変え、小川の上を覆うように敷かれた。

 そしてスバルたちから見て右側……小川の向こうから、風をかき分ける音を立てて、オレンジ色の電車がやってきたのだ。電車は電波のレールを走り、徐々に速度を落として、スバルたちの前で止まった。

 

「いつ見ても凄えな、これ!

「凄いでしょう、これもリアルウェーブなんだよ」

「マテリアルウェーブはこんな細部まで作りこめませんでしたからね。技術の進歩は凄いです!」

 

 物質化が可能な電波、リアルウェーブ。乗り物だけではなく、ちょっとした建物も作れるようになったらしい。その代わり、リアルウェーブを生成するプロジェクターが必要になる。先ほどの赤い機械がそれだ。

 盛り上がりだす男3人を他所に、ルナは一足先にウェーブライナーへと入っていく。

 

「さあ行くわよ」

 

 スバルたちも乗り込んだ。

 

『では出発しま~す』

 

 アナウンスが流れた。これを操作しているのはウィザードだ。リアルウェーブできているだけあって、人間よりもウィザードの方が適任なのだろう。

 ウェーブライナーは電波のレールの上を高速で走り出した。目指すはスピカモールだ。

 

 

 約10分後、ウェーブライナーから降りたスバルは目を輝かせた。

 

「ここがスピカモール。凄い、色々な店がある!」

「そうでしょう、服やアクセサリーのお店も沢山あるんですから」

 

 駅から一歩前に進めば、そこには店舗の群れが広がっていた。服やアクセサリー、靴専門店、電化製品、美術館に絵画展、ファーストフード店と喫茶店、歯医者もある。駄菓子屋は開店準備中らしい。

 早速ゴン太が牛丼屋に歩み出そうとしていたので、背中を掴んで止めておいた。

 

「僕のマロ辞典によると……ここは『子供たちが心踊る空間を』というコンセプトで、キング財団の全面サポートによって造られたそうですよ」

「ここもキング財団が支援しているんだね」

「最近、パパからよく話を聞くわ。ミスター・キングは子供たちの幸せのめには資金援助を惜しまない、素晴らしい人だって」

 

 ゴン太も含めて、男3人は「えええ!?」と声を上げた。

 

「すげえ。委員長のお父さん、そんな凄い人と会ったことあるのかよ!?」

「会ったって言っても、パーティーでミスター・キングの演説を聞いて、少しお話ししただけらしいけれど」

 

 スバルにはキングの凄さがあまり想像できない。どうしてもふんわりとしか把握できないのだ。だが小金持ちであるルナの父親ですら、少し顔を合わせた程度でしかない。と考えるとよく理解できた。

 

「凄い……なんか、凄いしか言えてないけれど、とにかく凄いんだね!」

 

 そこに耐えかねたかのようにウォーロックの声が入った。

 

『スバル、そんなことよりも早く会場に行くぞ』

「そうだった。行こう!」

 

 キザマロがブラウズ画面で地図を開いていた。

 

「会場は広場ですね。バンドグループが公演をすることもあるみたいです」

「じゃあ早速行きましょう」

 

 ルナの号令を受けて、スバルたちは人ごみをかき分けるように進んでいった。なので気づく事なく……そもそも気にかけることすら無かった。ある一人の少年とすれ違ったことに。

 

 

 その少年もスバルたちには一瞥くれることすらなかった。彼にとって、スバルたちは特別でも何でもない。ただ同じだった。側を通り過ぎていく、幾つもの顔。顔、顔顔顔……顔。どれも憎らしい。どいつもこいつも平然とした顔で、他人の側を通り過ぎていく。

 すぐ側にいる人間が突然襲い掛かってくるとか、この場所で事件が起きるとか、微塵も心配していないのだろう。

 これがこの国か。平和な国の住民様というやつか。

 

「腹が立つ……」

 

 オールバック……というには、パンク風に遊ばせている髪。紫色の上着。スバルと同い年くらいの年齢。昨日、姉と共に公園にいた少年だ。

 

「こいつらは知らないんだろうな……」

 

 そう思うと、少年の胸に黒い炎が灯った。吊り上がった目がギョロギョロと周囲を見渡す。そこに運悪く、目に止まった者がいた。一体のウィザードだ。何の変哲もない、量産型の青いウィザード。量産型と言っても、見た目、人格、能力など、ある程度は個人の好みでカスタマイズされている。

 だがウォーロックのような戦闘特化型でもなく、ペディアのように情報処理特化型でもない。汎用性を求められた、ごくごく平凡なウィザードだ。

 彼が少年の目に留まったのは、本当にただ運が悪かっただけだ。機嫌を悪くしている少年の側を主人が通り、その後ろに付いていっていた。それだけだ。

 少年は懐から一枚のカードを取り出した。バトルカードとは違う、トランプのようなものだ。軽く手首を振って、先ほどのウィザードの背中に投げつけた。すれ違いざまの一瞬。互いに歩く速度を緩めることすら無く、人ごみの中での所業だった。

 

「……ん? ジ……あれ?」

 

 ウィザードが立ち止まった。すると彼の主人と、その恋人の女性も足を止めた。

 

「何?」

「いや、俺のウィザードが急に……おい、どうかしたのか?」

「いえ、ジ……何か体が……ジ、ジジ……熱く……ジ……ジジジ……」

 

 ウィザードの呂律が回らなくなっていく。そして段々と手や首がガクガクと痙攣していく。心配して慌てだす男性と女性。周囲も異変に気づいて集まりだす。

 そんな喧騒から離れながら、少年はニヤリと笑った。

 

「さてと、テストと行こうじゃねえか。ノイズの力ってもんのな……」




○星河あかね
 スバルくんのお母さん。
 スバルくん曰く、美人で料理上手で自慢らしい。
 スバルくんの正体がロックマンであることは知りません。

○天地守
 天地研究所の若き所長。年齢はたぶん30前後。
 肥満気味の丸い顔が特徴的で、優しい人。
 スバルくんのお父さんの後輩で、スバルくんとも親しい。
 スバルくんがロックマンであることを知っている人の1人。
 助手には宇田海(うたがい)深祐(しんすけ)さんがいる。

○天地研究所
 コダマタウンから少し離れたところにある研究所。
 宇宙の研究や、電波の技術開発などを行っている。
 展示品の目玉は疑似宇宙体験ができる無重力室。
 シンボルはロケットを再利用した電波通信装置。なんでも、宇宙に信号を送って、スバルくんのお父さん……星河大吾さんに向けて送っているらしい。
 一つ前の携帯端末「スターキャリアー」の開発にも携わっている。



 参照.マロ辞典より抜粋
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