流星のロックマン Arrange The Original 3   作:悲傷

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 次回より、不定期更新とさせていただきます。
 遅筆で申し訳ありません。


第15話.スペード

 コダマタウンに眠りの時間が訪れた。道に人の姿はほぼ無く、昨日はスバルとマナブがいた展望台も無人だ。信号機も全て赤で統一されている。人や車が通るときに、感知して青色に変更してくれる。これも電波での情報通信によるものなので、デンパくんたちの仕事だ。電波世界は夜も絶賛大賑わいの大忙しなのである。

 そんな町の小学校の一室……科学部と書かれた部屋。今日は月明かりが強い筈だが、生憎と雲が多い。当然灯りは消えているので、部屋は真っ暗だ。

 そんな科学部室の中央には緑色の大きなロケット。それを一体の電波体が見上げていた。

 少し移動してロケットを別の角度から見て、次に上から見下ろして、少し離れた所から全体を見て……これをもう何時間も繰り返している。

 

「このロケットが明日……オイラを宇宙に連れて行ってくれるッス……」

 

 マナブの予想通り、学校からの許可はすぐに下りた。明日は運動場でこれが打ち上げられて、自分は宇宙に行く。

 そう考えると興奮してしまい、どうしても落ち着けなかった。マナブに頼んで、今日はここに残らせてもらっている。

 

「楽しみッス……」

 

 宇宙はどんな景色なのだろう。映像とかで見るものとは、まるで別物なのだろう。どんな星が見えて、どんな人工衛星とすれ違ったりするのだろうか。

 そしてそこからマナブとコイルと通信する。なんなら、科学部の2人やルナルナ団とだって通信できるだろう。

 

「マナブくんの夢は、オイラの夢でもあるッス……」

 

 いつもロケットを触っていた。いつも宇宙を夢見ていた。いつも大変だったけれどめげなかった。そんなマナブをマグネッツは見てきた。だからこそ応えたい。

 

「マナブくん、頑張ろうッス。オイラ達の夢、叶えようッス!」

「残念だけれど……」

 

 無人であるはずの空間に、突然訪れた他人の声。マグネッツはビクリと背中を反らした。振り返った先にあるのは暗闇。壁に窓はついておらず、ドアもない。そこから声がしたのだ。

 

「だ、誰ッス……?」

 

 自分の聴覚プログラムに故障でも起きたのだろうか。いや、それはないはずだ。明日に備えてフルスキャンを行ったのが、つい数時間前の話。マナブのみならず、科学部2人も加わった厳重なチェックだったのだ。あの3人が揃って検査ミスをするとは考えづらい。

 つまり……。

 

「だ、誰かいる……ッスか?」

 

 暗闇に疑問を投げかける。するとどうだろう。何かが動いた。コツコツと足音が聞こえる。それも一つではない、二つだ。そしてこれはマグネッツにとって運が良かったのだろうか、もしかしたら悪かったのかもしれない。ちょうど雲の合間から月が顔を出し、光が部屋に差し込んだ。

 2人の姿があらわになる。髪を横に広げるように結った物静かな女性と、逆立った髪をしたガラの悪そうな少年。なぜだろう。不敵な笑みを浮かべている少年よりも、無表情な女性の方に寒気が走った。

 

「ヒッ! ひ、人!? な、なんで……?」

 

 今の時間、学校は立ち入り禁止だ。入ろうとしても警備ウィザードが監視をしている。彼らは何をやっていたのだろう。いやそれ以前にどこから入ったのだ。入口は彼らがいた場所の反対側だ。窓もだ。

 

「どうやって入ったんッスか!?」

 

 女性は答えない。一言も話すことなく、ただマグネッツを直視していた。そのオレンジ色の瞳は静寂で、まるで全ての音がそこに吸い込まれているかのよう。

 

「しし、質問に答えるッス! それと、残念って何がッスか!?」

 

 マグネッツの動揺が面白かったのだろうか。少年の方がクツクツと笑い出した。

 

「スピカモールの次はロケットか。さっすが姉ちゃん、目の付け所が違うぜ」

 

 少年がハンターVGからエアディスプレイを広げた。反対側からでも分かる。あれは学校のホームページだ。このロケットの打ち上げについて、大きく書かれていた。

 

「こ、このロケットをどうする気ッスか!?」

 

 マグネッツの得意分野は磁力を応用した通信だ。戦いは得意な方ではない。それでもこのロケットを後ろにして、退く気は無かった。謎の2人組相手に半歩だけ前に出た。

 

「このロケットはマナブくんの……そしてオイラの夢が詰まってるッス! 触らせないッスよ!」

「……質問に答えてあげるわ」

 

 女性が懐から何かを取り出した。あれはトランプだ。薄っぺらいカードが白くて細い指に挟まっている。ただの遊具だ。なのになぜだろう、酷く不気味に感じられた。

 

「やや力不足な気がするけれど、特別よ。あなたにスペードの称号をあげるわ」

 

 女性が指を素早く動かした。そう思たっ時にはトランプは消えていた。いや違う。胸に違和感がある。マグネッツの胸に、先ほどのトランプが貼りついていた。表には青いスペードのマーク。

 

「ヒッ! な、なん……ジ……なんナんッスか、これ……ギ……」

 

 トランプに描かれていたスペードのマークが浮き上がり、大きく広がった。加えてトランプから電流が発せられた。それはマグネッツの体を走りだし、勢いを増して全身へと駆け巡った。

 

「うぎゃああああああ!!?」

 

 激痛、悲鳴、身もだえる一体のウィザード。悲惨な光景を前に少年は歯をむき出しにして笑っていた。

 

「昼間のものとは違うぞ。これは3枚しかない特別製のカードだ。もちろん強力だぜ」

「出力制御の改竄、倫理プログラムの無効化、加えてそのウィザードに設けられた特殊関数の検索と活性化……あなたの場合は磁場操作ね。エネルギーのほとんどをそこに流入するよう、外骨格も書き換えてしまうわ」

 

 彼らの説明はマグネッツにはほとんど届いていなかった。彼の体内には規格外のプログラムが注入され、勝手に書き換えられていく。ウィザードは電波だ。データの……プログラムの塊だ。

 変わっていく。いらない変数が追加され、不要な関数が加えられ、必要なデータが無効にされていく。

 そして、彼の記憶データにもそれは及んでいく。

 

「や、やめて……」

 

 マナブがいる。目の前にマナブがいる。自分とコイルを見て嬉しそうにするマナブ。実験に失敗して落ち込むマナブ。それを励ます自分とコイル。科学部の2人。変だったけれど協力してくれたルナルナ団。

 彼らの記憶が、マナブとの記憶が、消えていく。千切られて、破られて、消えていく。

 

「オイラ……オイラ……は……」

 

 手を伸ばす。

 

「オイラには、やりた……こと……が……」

 

 何だっけ。何をしたいんだっけ。何をしたかったんだっけ。あれ、自分はなぜ手を伸ばしているのだろう。

 

「オイラ……は……」

 

 視界が真っ黒に塗りつぶされた。

 

「あなたはマグネッツよ。スペード・マグネッツ」

 

 目を開く。そこには一人の女性と一人の少年。スペード・マグネッツは仰々しく二人に頭を下げた。

 

「フウウウウ……」

 

 肩が震える。漲る力が自分の胸を内側から叩いてくる。

 

「どう、生まれ変わった気分は?」

「ウイッスウウウ!!」

 

 両手を横に広げた。いや剣だ。右手は赤色で、左手は青色の長剣に変わっていた。肩も同じだ。円錐を半分に割ったような形をしていて、右側が赤、左側が青色だ。

 そして彼の躍動を感じさせるように、下半身は丸くて紫色のエネルギーの塊。

 物々しくなった目は獲物を探すように左右を見渡し、口からは蒸気のような白い煙を吐いた。

 

「俺は……無敵だあああ!!」

 

 暴れたい。この力を何かにぶつけたい。破壊だ。破壊。破壊破壊破壊破壊破壊……破壊。

 

「その衝動、今しばらくは抑えなさい」

「……ウイッスウウ……」

 

 主の命令ならば仕方ない。スペード・マグネッツは両手の剣を下して、今一度2人に頭を垂れた。

 

「明日の、このロケットの打ち上げ式。その時に暴れなさい。そう、その力を本能のままに使ってね」

「ウウウ、オオオオ!!」

 

 ならば楽しみ待とう。その時を。明日、人々が阿鼻叫喚する様を、我が主たちにお見せしようではないか。

 狂乱の電波体は吠えた。まだ見ぬ、明日集まるであろう人間たちに。そして、空高く飛び立つはずの、希望のロケットに向かって。




○コダマ小学校
 コダマタウンにある小学校。
 校則は「よく学び、よく食べ、よく寝る」。
 年間行事が充実していて、文化祭や修学旅行がある。
 二学期には生徒会選挙がある。
 学校の総責任者の理事長先生は、普段は購買のおばちゃんをしている。
 最近、校長先生が代わりました。


 参照.マロ辞典より抜粋
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