流星のロックマン Arrange The Original 3   作:悲傷

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第17話.磁力の怪物

 ロケットの電脳内に飛び込んだロックマン。こんな精密機械を制御しているプログラムなのだ。本来は高密度かつ整理整頓された光景が広がっているはずだろう。だがスバルとウォーロックの目に飛び込んできたのは、荒れに荒れた物だった。

 激しい電流が空中に漂っている。いや磁力だろう。デンパくんが、白い粒子のようなものに流されていた。先ほど、ロケットから逃げられなかった人たちとよく似ている。デンパくんはNと書かれた赤い箱に当たると動きを止めた。痛そうにしているが、消滅することはないだろう。N箱の反対側には、Sと書かれた箱がある。

 他にも、断線されて火花を散らしている配線や、燃料制御を行っているはずのエンジンが異常なほど蒸気を噴出していた。

 そして電脳の中枢。コントロールパネルと思われる場所。そこに彼はいた。

 

「ウォオオオオオオ!!」

 

 雄たけびを上げ、両手の剣を広げるその姿には、怪物という言葉が相応しい。

 見るものを怯えさせる彼に、スバルは臆することなく近づいた。

 

「マグネッツ。すぐやめるんだ、こんな事!」

 

 呼びかけられて、マグネッツのほうもようやくロックマンを認識した。

 

「ウウウウ、違う!」

「え?」

「俺様の名前はスペード・マグネッツ。俺は生まれ変わったんだあああ!」

 

 どうやらそれが今の彼の名前らしい。額にスペードのマークが書かれていることから命名しているのだろうか。

 

「スバル、悠長に話してる暇はねえぞ!」

 

 ウォーロックの言うとおりだ。一刻でも早く爆発を止めなくては。できればマナブのウィザードを傷つけたくはないが、そんなことも言っていられない。

 

「行くよ、マグネッツ。バトルカード、キャノン!」

 

 ロックマンの左手が大砲へと変わり、火を噴いた。大口径の弾がスペード・マグネッツの顔面に直撃する。顔が少しのけぞった。ダメージは確実に入ったようだ。

 

「無敵の俺に挑むか。グラビティロケット!」

 

 スペード・マグネッツの前に、三つのミサイルが召喚された。ロックマンに向かって真っすぐに飛んでくる。

 ロックマンは横っ飛びで躱そうとした。だが最後の一発は避けきれそうになかった。

 

「ガード!」

「任せろ!」

 

 ロックマンが左手を掲げると、緑色の盾が出来上がった。ウォーロックの体の、緑色の部分を硬質化させたもので、たいていの攻撃はこれで防ぐ、もしくは緩和させることができる。今回も予想通り、衝撃も爆風も防ぎきることができた。

 だがこのミサイルにはもう一つ、あるものが込められていた。ロックマンの体に黒いものがまとわりついた。

 

「うわっ! なにこ……れ?」

 

 慌ててその場から離れようとして気づく。足が動かない。厳密には、足の裏が床にぴったりとくっついて離れない。

 足元を見ると、黒い円状のものが広がっている。二度、三度と足を動かそうとするが、しっかりと吸着されていて微塵たりとも動かない。磁力を利用した重力空間だろうか。

 

「かかったな。粉砕してやる!」

 

 スペード・マグネッツに動きが……いや、変化があった。両肩の赤と青の突起。それが上にスライドし、両手が格納される。上半分は細く、下半分は太い円錐。その姿はまさしくロケット。

 

「アクシスジェット!」

 

 そのまま回転し、炎を吹き出し、高速で突っ込んできた。

 

「逃げっ!」

 

 躱そうとするが、まだ足は離れてくれない。

 

「ガード!」

 

 ウォーロックが自ら盾を展開した。盾とスペード・マグネッツが触れる。その次の瞬間には、ロックマンは大質量に撥ね飛ばされていた。

 

「うわあああ!」

 

 数回ほど回転し、壁に体を打ち付けた。ガードは便利だが、これはさすがに防げなかった。

 

「スバル、この程度でくたばっちゃいねえよな!?」

「当たり前でしょ!」

 

 痛いといえば痛いのだが、動けないほどではない。ロックマンは立ち上がり、ロケットの状態で再び突っ込んでくるスペード・マグネッツに向かって、キャノンを連続で放った。確かに威力は高いが、しょせんは真っすぐ突っ込んでくる体当たりだ。ならば高威力の遠距離攻撃を当ててやればいい。効いているようで、少し速度が落ちた。

 

「スバル、このバトルカード使ってみたらどうだ?」

「あ、なるほど。バトルカード、シュリシュリケン!」

 

 ロックマンの背後から手裏剣が突然飛んできた。両手で抱えれそうなほどの大きさだ。それは正面から突っ込んできていたスペード・マグネッツに見事に刺さった。

 

「グワアアッ!」

「効いた!」

「へっ、やっぱり電気属性だったな!」

 

 磁力を操れることから、スペード・マグネッツは電気属性であると、ウォーロックは予想したのだ。木属性であるシュリシュリケンは、電気属性の相手にダメージが大きい。スペード・マグネッツはたまらずロケット形態を解除すると、突っ込んでくる勢いのままロックマンに接近し、赤い右手の剣を振り上げた。

 

「マグネットソード!」

 

 大きく横に一薙(ひとなぎ)してくる。だが大振りだ。反対側……スペードマグネッツの左手側に移動すれば容易に躱せる。スペード・マグネッツもそれは理解していたのか、立て続けに左手の剣を振り下ろしてきた。

 

「ソード!」

 

 ロックマンの左手が一本の剣に代わり、その剣を打ち払った。そのまま後方に飛び退いて距離をとる。

 

「どうだ、スバル?」

「うん、確かに力はある」

 

 左手には少しだけしびれが走っている。動きを封じてくるミサイルは厄介だし、ロケット形態の突撃もかなりの威力だ。スペード・マグネッツの実力は確かに高く、並みのウィザードでは相手にならない。FM星人たちや、ムー大陸の電波体たちに匹敵するだろう。

 だがロックマンは彼らを倒してきた。そいつらを上回る強敵とも戦ってきた。この程度の相手なら、もう攻略法は見えてきている。

 

「グレートアックス!」

 

 巨大な斧を召喚した。破壊のみに特化したその形状からは、高い攻撃力を秘めているのが一目で分かる。問題点は形状だ。斧は長い柄の先端についているため、取り回しが難しいのだ。なにより、まだ小学五年生のスバルの体格にまるで合っていない。ちなみに木属性の武器なので、ただでさえ高い攻撃力は、スペード・マグネッツ相手にはさらに跳ね上がる。

 もちろん当たればの話だ。

 

「フウウウ、それで俺を倒そうっていうのか!」

 

 ロックマンは大きく振りかぶってから走り出す。スペード・マグネッツがグラビティロケットを放ってきた。重い斧を持っているロックマンに避けるすべはない。右手と右肩で斧を支えて、自由になった左手でシールドを展開して防ぐ。重力場が足元に形成され、動けなくなる。

 だが動けなくなっただけだ。ロックマンにダメージはない。スペード・マグネッツからすれば、近づく以外に攻撃手段がないのだ。

 

「切り刻む。マグネットソード!」

 

 両手の剣を広げて近づいてきた。グレートアックスの射程内に入る。

 

「今だ!」

 

 ロックマンがグレートアックスを縦に振り下ろした。だがこんな大振りな攻撃、スペード・マグネッツも分かっているはずだ。案の定、横に動いて軽々と躱された。

 

「終わりだ!」

 

 スペード・マグネッツがロックマンに接近する。(かた)や斧を振り切って隙だらけのロックマン。片や右手の剣を振りかぶっているスペード・マグネッツ。勝敗は決していた。戦っているのが彼らだけならば。

 

「ビーストスイング!」

 

 ロックマンとスペード・マグネッツの間に、青い影が割り込んだ。ウォーロックは自慢の爪で、スペード・マグネッツの右腕を斬った。右手が大きく後ろに下がる。

 

「ぐわ!? こ、この!」

 

 隙だらけの攻撃を見せてスペード・マグネッツを誘い込み、ウォーロックで対応する。それがスバルとウォーロックの作戦だった。

 スペード・マグネッツは無事な方の左手で切りかかろうとするが、もう遅い。眼前に敵がいる状態で無防備をさらしてしまったのだ。

 

「バトルカード、ウッドスラッシュ!」

 

 木属性の剣をスペード・マグネッツの懐に突き刺した。彼の口から「ガ、ア……」と苦痛の声が漏れる。

 

「ごめんね、マグネッツ。これは君を助けるためなんだ」

 

 そしてそのまま胴を切り裂いた。ウォーロックももう一発、顔にビーストスイングを叩き込んだ。完全な致命傷。

 

「こ、こんな馬鹿な……お、俺は無敵じゃ……」

 

 グルンと仰向けに倒れるスペード・マグネッツ。巨体は床に叩きつけられると、赤色の電波粒子をまき散らし、霧散した。赤い電波粒子は集まりだし、幾つかの赤黒い球体へと変わった。その中央で横たわっていたのは一体のウィザード。白い体に、頭には赤いラインと、サングラスのような黄色い目。額にはMの文字。昨日見たマグネッツの姿だった。

 

「大丈……ウッ!」

 

 駆け寄ろうとしたとき、体に痛みが走った。たまらず膝をつく。

 

「どうしたスバル?」

「いや、なんでも……」

 

 体のあらゆる場所から、何かに突き刺されたような痛みだった。だがすぐに治まった。たぶん気のせいだろう。

 

「それより……!」

 

 マグネッツは横たわったまま動かない。慌てて抱き起こす。

 

「無事だよなおい? 返事しろおい!」

 

 ウォーロックはペチペチとマグネッツの頬を叩く。顔が右に左にと往復される。

 

「ちょ、ちょっとロック。乱暴だよ!」

 

 だがそれが効いたらしい。マグネッツの腕がピクリと動いた。

 

「う、う~ん……」

「気づいた!?」

「こ、ここは……どこッスか!? あれ、ロケットの中ッスか?」

 

 飛び起きて、あたりをうかがうマグネッツ。どうやら無事らしい。暁シドウとアシッドが、暴走ウィザードを倒したことから大丈夫だろうとは思っていた。だがこうして彼が生還したのを確認して、初めてスバルは胸をなでおろした。

 

「良かった……」

 

 その時、左手のハンターVGがピピピと音を立てた。

 

「あ、電話だ」

 

 エアディスプレイを開くと、ルナが映った。

 

『どうやら上手くいったみたいね』

「委員長、そっちは?」

『大丈夫、暴走も磁力も止まったわ』

「ならもう大丈夫だね」

 

 これでロケットが爆発することはない。電脳世界を直したら、ロケットはすぐにでも飛び立てるだろう。ここからはマナブたちの仕事。これで一件落着だ。

 

「上だスバル!」

「え?」

 

 見上げる。黒い。いや紫か。物体? 何かが迫っている。それが顔に直撃して、ようやく炎だと気づいた。熱がロックマンの顔を焦がす。

 

「うわああ!」

 

 床を転がり、慌てて顔の炎を消す。

 

「まだ来るぞ!」

 

 続いて降ってくる紫色の炎の集団。一つは床を穿ち、一つはロックマンの足元に着弾した。

 

「隠れてマグネッツ!」

 

 第一優先したのはマグネッツの安全確保だ。未だに状況を飲み込めず、右往左往している彼を抱えて、物陰に隠れた。

 

「な、ななな何が……」

「静かに!」

 

 申し訳ないが、彼には黙っていてもらおう。対応している余裕などない。物陰から顔を出して、様子をうかがう。

 襲い掛かってきた炎の一つは箱状のプログラムに着弾したらしい。よく見ると、炎は髑髏の形をしていた。燃え移った物体を糧に大きくなったようで、髑髏が口を開けてロックマンを見ているような気がした。

 

「スバル、敵はあそこだ」

 

 ウォーロックが指さした。ロックマンたちがいる場所より少し上の階層。そこに黒い影がある。ここからではよく見えないが、翼を広げているようにも見える。

 いったい何者なのだろうか。なぜ攻撃してくるのだろう。いやそんなことは関係ない。攻撃してくる以上は応戦しなければならない。

 

「ここにいてマグネッツ!」

 

 震えている彼にそれだけ告げて、物陰から飛び出した。途端に炎の弾幕が降ってきた。

 

「シュシュリケン、ワイドウェーブ、ギザホイール!」

 

 遠距離攻撃系のバトルカードを三枚も使った。

 木属性の手裏剣と、横に幅広い水の塊と、ひらべったい円状のカッターだ。

 一枚目は速度重視で、二枚目は属性相性……敵が炎属性であると考慮して選んだ。だが本命は三枚目だ。一度だけ敵を追尾して曲がってくれる効果がある。威力は低めだが、今は戦いの序盤。敵に少しでも傷をつけて、弱らせるのが優先だ。

 三つの攻撃が、黒い影に三方向から襲い掛かる。どれか一発は当たるはずだ。そんなロックマンの淡い予想は外れた。

 黒い影は掌から炎を一発だけ放った。それは素早いシュシュリケンを正確に撃ち落とした。続いてその大きな翼を振った。いや剣のように振り下ろした。ワイドウェーブを真っ二つに切り裂いたのだ。当たれば高いダメージが期待できたが、目の前で破壊されれば当然傷はつけられない。

 だがその間にギザホイールが敵に到達した。当たると思った時には、黒い影は空高く跳躍した。ギザホイールが90度角度を変えて追いかける。だがそれも、空中で軽く羽ばたいて横にずれることで避けて見せた。

 

「嘘っ!」

「隠れろスバル!」

 

 ロックマンは転がるように、別の物陰に身を潜めた。これはまずい。敵は相当の手練れだ。すぐに撃退なんて無理だ。これは観察と対策をしっかりしなくては、返り討ちにあう可能性すらある。だが一番の問題点はマグネッツだ。彼は今も震えて縮こまっている。まずはどうにかして彼を逃がさなくては。

 

「考えてる暇ねえぞ!」

 

 見ると、黒い影は両手に炎を召喚していた。またあの攻撃が来る。とにかくここから離れるべきだ。敵を引き付けて、マグネッツの安全確保が第一優先だ。

 だがそれは必要なかったらしい。黒い影は突然動きを止めた。手の炎が少しだけ小さくなった気がする。何秒間かその場で佇むと、舌打ちして手の炎を消した。そして空高く飛び立っていった。おそらく、電脳世界から出て行ったのだろう。彼に続いて、あたりに漂っていた赤い球体も空へ昇って行った。まるで何かに引き寄せられているかのよう思えた。

 この場には静寂だけが残った。

 

「……帰っ……た?」

「みてえだな……ちっ、何だったんだあの野郎……」

「……さあ?」

 

 予測するには情報が少なすぎる。

 

「あ、あの……一体、なにがあったんッスか?」

 

 それでも、マグネッツを助けることはできたのだ。今はそれで良しとしよう。




育田(いくた)道徳《みちのり》
 コダマ小学校5年A組の担任の先生。僕たち皆の人気者。7人の子供を持つお父さんです。
 アフロと、首から下げた二つのフラスコが特徴。それぞれにはコーヒーとミルクが入っており、いつでもコーヒー牛乳が飲めるらしいです。お腹を壊さないのでしょうか?
 学校の教科書通りの授業はあまり好きではなく、様々な面白い話をしてくれる。そのせいで、一度学校ともめたことがあります。
 育田先生はほとんど覚えていないみたいですが、FM星人のリブラに取りつかれて、事件に発展しました。まあこれ、後でスバル君から聞いた話なんですけれどね。

〇こうちようすけ
 二学期から新たに就任した校長先生。校歌を変えようと意気込んでいる。まだ就任したばかりで、あまりよくは分からないです。悪い先生ではないみたいなんですが、前の校長先生がアレだったから不安です。

〇おおごえねっしょう
 前の校長先生。成績第一主義で、学習電波を導入しようとして、事件に発生しました。(事件を起こしたのは、リブラと電波変換していた育田先生ですが)
 その後、育田先生を解雇しようとして、理事長先生に拒否され、自分が解雇されました。
 今では演歌歌手として活動していて、それなりに成功してるみたいです。


 参照.マロ辞典より抜粋
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