流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
入館証を見せると、警備ウィザードは謝罪と共に中へと入れてくれた。玄関ホールの壁には、ここオクダマスタジオで撮影された、番組のパンフレットが飾られている。
「見ろよキザマロ。ソングオブドリームのパンフレットだぜ!」
「持ち帰り自由ですって、布教用に10冊ぐらい……」
「あなたたち、さすがにそれはやめなさい」
それは独占というものだ。ルナに怒られる二人を見て、ジャックはあからさまにため息をついた。
「何が面白いんだ、あいつら?」
「ジャックは見てないの、ミソラちゃんのドラマ?」
「見てねえよ……」
スバルの方を見ることもなく答えた。
「もしかして、ミソラちゃんの曲も?」
「ああ」
「そっか……」
ミソラを知らないなんて……とは思わなかった。自分も半年前までは知らなかったのだから。
「今日はミソラちゃんのライブもあるしさ、聞いていくといいよ。凄いよ!」
「……煩いのは苦手だ」
今日もずっとテンションが低い。今回の企画は楽しんでくれるだろうか。そんなことを考えていると、廊下の方から声が聞こえた。
「お~い、皆~!」
ミソラだ。わざわざ出迎えに来てくれたらしい。手を振り返そうとして、スバルは言葉を失った。
ミソラはいつものピンク色のパーカーではなく、学生服を着ていた。中学生が着るようなやつだ。セーラー服だろうか? 彼女にしては珍しくスカートを履いている。
「来てくれてありが……」
「うおおおおおおおおおおおお!」
突然ゴン太が吼えた。
「ど、どうしたのゴン太くん?」
「ミソラちゃん、可愛すぎるぜその衣装!」
「す、素晴らしいです!」
「キザマロくんまで? そう……かな?」
ミソラは両手を広げて、体を少しだけ左右へと揺らして見せた。短いスカートがふわりと揺れる。ゴン太とキザマロから歓喜の声が上がった。
「ど、どうかな……スバルくん?」
「ふえっ!? あ、え……えっと……い、いいんじゃないかな!?」
「そ、そっか。ウフフ……」
照れくさそうに笑うミソラをみて、スバルは胸を締め付けられた気がした。
「す、すごいわね……さすがアイドル……」
『ルナちゃんも負けていませんよ』
ミソラがようやくルナを見た。というより、ゴン太の後ろにいたので気づくのが遅れた。
「うわっ、ルナちゃん! その恰好どうしたの? すっっっごく可愛い!」
「そ、そうかしら?」
ルナは調子に乗って、その場で一回転して見せた。長いスカートがゆったりと揺れる。
「うんうん、ルナちゃんの大人っぽさがすごく出てると思うよ」
「ほんと? あ、紹介するわ。私のウィザードよ」
モードが出てきた。
「こんにちは、モードです」
「うわ、こっちも可愛い!」
「ポロロン、よろしくね」
ハープも出てきて自己紹介をしている。男四人は完全に蚊帳の外だ。
「にしても、さっすがミソラちゃん。男どもとは言うことが違うわね。見習いなさいよ。特にジャックはね」
「なんで俺ピンポイントだよ!」
頭おかしいとか言ったからだろうとスバルは予測した。
「君がジャックくん? スバルくんから話は聞いてるよ。今日は楽しんで行ってね」
ミソラはスッとジャックに手を差し出した。握手券が高値で取引されていることを考えたら、とんでもない機会だろう。
だがジャックはその手を払った。パシッと軽い音が鳴る。
「あ……」
「ちょっと!」
「おい。ミソラちゃんになんてことすんだよ!」
ハープに続いて、ゴン太が珍しく怒りの声を上げた。
「ジャックくん、今のはないんじゃないですか?」
キザマロもだ。ルナも目を吊り上げている。スバルも同じ気持ちだが、気持ちを抑えた。
「待って皆!」
ここは皆を落ち着かせる側に回った。
「ジャック。なんで、こんなことをしたの?」
ハープと同じくミソラの隣に立ちつつも、ジャックに尋ねた。ここはミソラの味方をすべきだが、ジャックにだって理由があるはずだ。そこは訊いておきたい。
「……むかつくんだよ」
「え?」
ミソラが面食らった顔をした。
「お前みたいに、誰にでもいい顔をしてるような奴が、俺は嫌いなんだよ」
ジャックは鋭い目でミソラを見ていた。
「やい、ミソラちゃんになんてこと言うんだ!」
「良いじゃないですか、アイドルは皆に笑顔を与える者なんですよ!」
「そこがミソラちゃんの良いところだと、私は思うわよ」
ルナはジャックにというよりは、ミソラを励ますように言った。
「そういうのはな、どうせ大した苦労もしてないやつがするんだよ。辛い目にあって、嫌なことされて、そこから這い上がったやつには絶対できねえよ。むかつくんだよ、お前……」
スバルはミソラを横目で見た。悲しんでいるのが一目で分かった。拳を握りしめて、それは違うと言おうとした。
「そうそう。優しさを、大人気アイドル様の貫禄と間違えているのよね~」
スタジオの奥から聞き覚えのない声がした。見ると、一体のウィザードが近づいてくるところだった。青色の女性型。オーダーメイド型らしい。頭には氷柱を思わせる青い塊、目には黄色のバイザー。手には緑色の本を持っている。あれは彼女が管理している情報データだろうか。顔が丸いこともあってか、30前後の女性という印象を受ける。
「ミソラは表向きニコニコして、本当は他人を見下しているのよ。よく化けの皮を見破ったわね、あなた」
このウィザードはジャックの味方らしい。
「……誰だお前?」
ジャックが眉をしかめた。するとそのウィザードの後ろからバタバタと走ってくる少女がいた。
「アイス、なにしてるの!」
この青いウィザード……アイスの持ち主らしい。ウィザードの隣に立つと、深々と頭を下げた。横に伸びたでっかいサイドテールが床に触れそうになる。
「ごめんなさい、私のウィザードが迷惑を……」
それを決めるのはスバルたちではない。ミソラだ。そのミソラはというと、顔を輝かせていた。
「スズカ。大丈夫だよ、気にしてないから」
「ほんと、ありがとうミソラ……」
「何言ってるの、これくらい気にしないよ」
ミソラはスズカと呼ばれた少女の隣に立ち、スバルたちに紹介した。
「この子はスズカ。私のブラザーなの」
「こんにちは。いまいち売れてない俳優のスズカです」
どう考えても首が斜めに傾いて痛めそうな髪型だ。ただ、クリっとした目をしていてかわいらしい顔立ちをしている。
スバルは、ミソラとスズカを交互に見た。
「スズカ? この子がスズカちゃん? え、ミソラちゃんはスズカちゃんとブラザーなの?」
スバルの発言に、スズカは目を見開いた。
「え、私のこと知ってるの?」
「いや、知ってるっていうか……君のファンの子から、サイン頼まれてて……」
スバルはカバンからサイン色紙を取り出した。昨日預かったやつだ。
「さ、サイン!? 私の……? そっか……私のこと、見てくれてる人がいるんだ……初めてだよ、サイン書くの……」
スズカは両手を合わせると、一筋の涙を流した。ファンの子のフルネームを伝えると、いそいそと書き出した。ペンが全然走ってない。どうやらサインを書くのは本当に初めてらしい。
「あの、これからもよろしくお願いします。って伝えてもらって良いかな?」
「いいよ、任せて」
受け取って、大事にカバンにしまっておいた。と、一連のやり取りが終わると煩くなるウィザードがいる。
「もう、スズカったら……この程度で喜んでどうするの。あなたは大女優になれる子なのよ。それこそ、そこにいるミソラなんかと違って!」
妙にミソラにケンカを売るやつだ。ここまであからさまにされると、スバルとしても機嫌が悪くなってくる。
「あのさ、ミソラちゃんになんの恨みがあって、そんなこと言うんだよ」
すると、アイスは悲鳴のような声を上げた。
「キー! あるに決まってるわ。ソングオブドリームの主演は、本当はスズカがなるはずだったのよ。なのに、アイドルだからって理由でかすめ取って……演技力なら、スズカの方がずっと上なのに!」
これは逆恨みにもほどがある。それは監督の決定で会って、ミソラに責任はない。そのミソラはというと、当然という顔をした。
「そんなの知ってるよ。スズカが一流の俳優だってことは、ブラザーの私がよく知ってるもの」
「そうやってまたいい子ぶるのが腹立つのよ!」
スバルには分かる。ミソラは悪意一つなく、ただスズカを素直に称賛しているのだ。ただ、アイスには調子に乗ってるように見えるらしい。そんなアイスをスズカが宥める。
「それはアイスの考えすぎだよ。ソングオブドリームは、元々ミソラを主演にすることで企画が始まったんだから。それに、私の知名度で主演は絶対に無理だよ」
「そんなことないわ。皆見る目がないのよ!」
これは会話にならない。相手にしない方が良いタイプだ。スズカはスバルたちに頭を下げた。
「ごめんなさい。アイスに悪気はないんです。私のマネージャーだから必死になってくれてるだけで……。あ、今日の撮影、私もミソラの友人役で出るんです。よろしくお願いします」
もう一度深々と頭を下げると、未だにヒステリーを起こしてるアイスを連れて廊下へ。そしてある部屋へと入っていった。スバルからもかろうじて部屋の名前が見えた。
「大部屋?」
「説明しましょう。ミソラちゃんのような大物には個室が、そうでもない人たちには共用の大部屋が与えられるんです。皆の荷物とかごちゃごちゃになって、大変らしいですよ。椅子もパイプ椅子だとか」
「そっか……」
どうやら、結構苦労しているらしい。
「皆ごめんね。スズカはいい子なんだ」
「うん、そうだね」
会った時間は短いが、それくらいは分かる。
「アイスも悪い人じゃないの。スズカのことが大切なだけなの」
「……だろうね」
それでも、もう少し見境はつけてほしいところである。
「さてと皆!」
ミソラは明るく振舞って見せた。
「撮影まで、まだ少し時間があるから見学していってよ。私、監督さんと打ち合わせがあるから」
「分かったわ。じゃあ皆、自由行動と行きましょう」
「おー!」
「了解です」
「……おう」
皆それぞれの方角へと歩き出した。道案内板を見ようとしているスバルに、ミソラが声をかけた。
「スバルくん、この道真っすぐ行ったら、ライブ会場だよ」
「なんで、僕の行きたい場所が分かったの?」
「分かるよ、それくらい」
「あはは、お見通しか……」
ミソラと別れて、スバルは小走りで駆け出した。物すっごく大きなリアルウェーブで作られたライブ会場。ぜひとも拝見しなくては。
〇危ない暴れん坊ウルトラ将軍様
200年以上前から続く、超人気大河ドラマ。
民に扮した将軍様が「この
昔っから、こんな感じだったのでしょうかね。
参照.マロ辞典より抜粋