流星のロックマン Arrange The Original 3   作:悲傷

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 次回更新日は7月23日(日)です。


第28話.撮影開始

 撮影現場は並木道だった。整備された道。柵を隔てた脇には樹木が並んでいる。

 学生服を着たミソラとスズカ。その周りにはたくさんのスタッフがいる。

 

「ねえキザマロ。あの人が監督さん?」

「ですです」

「……ウィザードじゃねえか?」

 

 ウォーロックの言う通り、監督はウィザードだった。

 

「そうなんです。オクダマスタジオではウィザードも人間と同じようにして働いているんですよ」

「へ~」

 

 目は赤いバイザー、口はメガホンのような形をしている。ボディは黄緑色だ。手には黒と白の縞々模様の、「カット」とか言って鳴らす道具。

 

「あれ、なんていうんだっけ?」

「カチンコっていうんですよ」

「そのまんまだね」

 

 その時、スタッフの一人がスバルたちに駆け寄ってきた。先ほど、ミソラのメイクを担当していた女性だ。

 

「君たち、そろそろ出番よ。心の準備は良いかしら?」

「は、はい!」

 

 急に緊張してきた。ウォーロックがヒソヒソと呟いた。

 

「いい加減にその緊張しやすい体質治せよ」

「いや、治すとかの話じゃ……」

「もっとでかいことしてきただろお前は」

 

 それはロックマンとしての話だ。確かに、エンプティ―との戦いを世界生中継されたことだってある。

 

「それとこれとは話が……」

「あれ、一人足りなくない?」

 

 女性スタッフに言われて気づいた。ジャックがいない。

 ゴン太が小さく手を上げた。

 

「ジャックの奴なら来ないぜ。さっき自由行動の時に声かけたんだけれどよ。なんか、興味ねえって」

「あ~。そっか」

 

 本人が嫌がるのならば仕方ない。ゴン太もなんだかんだ言って、気にしてくれているらしい。

 

「じゃあ、後は委員長だね」

 

 隣のルナを見ると、緊張で顔が真っ青になっている。魂だけどこかへ飛んでるみたいだ。

 

「このドリル女、生徒会長を目指すとか言ってなかったか?」

「うん、さすがに今回ばかりは……」

 

 気づいて振り返った。

 

「ジャック? 来ないんじゃ……」

「いや……まあ、これも経験つうか……出てやってもいいっていうか……まあ、誘われたし」

 

 ジャックの目が、ちらりとミソラの方を見た。さっきのことを気にしているのだろうか。

 

「良かった。一緒に出ようよ」

「……ああ」

 

 そしてちょうどお声がかかった。さっきのウィザード監督が手を上げた。

 

「よし、じゃあエキストラ役の人たち、入って!」

 

 ビクウッとスバルたちの背中が飛び上がった。ジャックだけは平然としてる。肝っ玉がでかいのだろうか。

 

「よよよよよ、良し! いいいい、行くわよ!」

 

 珍しく動揺しまくっているルナだった。声が震えている。

 女性スタッフに案内されて、ミソラとスズカを挟んだカメラの反対側。ゴン太とジャックは右側に、スバルとルナとジャックは左側に集まった。談笑しているようにと指示をもらった。

 

「それじゃあ本番行くよ。スズカちゃん、ミスはしないでね」

「は、はい!」

 

 スズカの手に汗が握られているのが見えた。周りのスタッフたちに混じっているアイスから「いつも通りにやりなさい!」という声が聞こえた。スズカが目を閉じる。

 

「よし、シーン17、カット1。テイク1、スタート!」

 

 スバルはルナとジャックと他愛ない会話をしているふりをする。ルナは顔が引きつってるが、ジャックはいつも通りの仏頂面だった。緊張はしていないらしい。

 そんな彼らなど置き去りにして、ミソラとスズカの演技は進む。

 

「どうしよう、スズカ……?」

「どうしたのミソラ。なんでそんなに思いつめた顔をしているの?」

「そ、そんな顔してる?」

「してるよ。せっかくの念願の歌手デビューが決まったのに、どうして?」

 

 スバルは横目で、ちらりとスズカをうかがった。先ほどまでの自信のなさそうだった彼女はどこにもいない。素人の目のスバルでも、確かな演技力があるのは見て取れた。

 

「うんとね……このままでいいのかなって」

「このまま……どういう意味?」

「……不安になっちゃうの。歌うことは好きだよ。私が歌うと、皆が笑顔になってくれるから。……そう、聞いてくれる人たちの笑顔が、私が歌う理由だったの」

「……それとデビューと、何か関係があるの?」

 

 スズカの演技力に負けじと、ミソラも会心の演技をする。目にうっすらと涙を浮かべる。

 

「デビューするってことは、大勢の前で歌うってこと。それって、今まで笑顔をくれた人たちが遠くに行ってしまうような気がして……」

 

 スズカは首を横に振った。

 

「ミソラ、それならなおさら、デビューすべきだよ」

「え?」

「大勢の人たちがミソラの歌を聞いてくれる。それはたくさんの人を笑顔にできるってことだと、私は思うよ。そこに距離なんてないんじゃないかな?」

「距離なんてか……」

「カーーーーーーーーーーーット!!」

 

 監督の大きな声と共に、カチンコが鳴った。まだミソラが台詞を言ってるときにこれだ。つまり、これはリテイクの要望。先ほどのシーンで何か問題があったのだ。

 ビクリとスズカが肩をすくめた。

 

「あ、あのごめんなさい。私、何かミスを……」

 

 オドオドとしているスズカ。スバルから見ると、何かミスがあったようには見えなかった。

 

「いや、スズカくんにミスはないよ。よくやってくれた。名演技だったよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 どうやら問題はスズカではなかったらしい。

 

「問題は……」

 

 監督は空中を滑走するように、スバルたちの元へ来た。

 

「え、僕!?」

 

 ミソラとスズカの演技を凝視し過ぎてしまったのだろうか。

 

「違う。君もいい」

 

 ほっと胸をなでおろした。

 

「君たちだよ!」

 

 監督が指さしたのは、ルナとジャックだった。

 

「え?」

「あ?」

 

 今度はルナが面食らう番だった。

 

「君たち、二人とも服が黒じゃないか。背景のエキストラだからって、黒がこう多いと画面が暗くなるんだよ」

「あ~、そういうことか」

 

 今日に限って、ルナは黒い服を着てしまっている。ジャックの普段着と被ってしまっているのだ。黒色は目立つ。それが背景で並んでいるとなると、無意識に目を向けてしまうだろう。

 

「というわけで……そうだね、君抜けて」

「……は!?」

 

 いらないと言われたのはジャックだった。

 

「おい、こっちは出てやって……」

「なら良いよ。エキストラはおまけみたいなものだから」

 

 厳しいようだが、これも職人肌というものなのだろう。監督の決定は絶対だ。けれど、ここは黙って見ていることはできない。

 

「あの、ジャックは出させてあげてください」

 

 せっかく来てくれたのだ。なのに除け者扱いなんてひど過ぎる。スバルが頼むと、離れたところにいたゴン太とキザマロも駆け寄ってきた。

 

「お願いだ。ジャックを出させてあげてくれよ」

「お願いします」

 

 キザマロが頭を下げると、ゴン太も慌てて頭を下げた。ジャックがスッとゴン太の後ろに回った。

 

「あの……よろしければ、予備の衣装とか貸してもらえませんか。私、着替えてきますから」

「そんな時間ないよ」

 

 ルナのお願いにも、監督は首を横に振った。いてもいなくてもいいエキストラ役のために、貴重な時間は割けないのだろう。ルナが目をつぶった。そして力強く告げた。

 

「分かりました。なら私が抜けます」

「え?」

 

 驚いたのはスバルだけでない。キザマロと、ゴン太の後ろから出てきたジャックもだ。

 

「おいドリル女。お前何言って……」

「委員長、今日出れるの楽しみにしてたじゃないですか」

「そうそう、わざわざお化粧とおめかしまでして……」

「スバルくん、それ余計だから!」

 

 ルナの一睨みで、スバルはカエルのように縮こまった。

 

「監督さん……ジャックくんは昨日転校してきたばかりで……今日は彼に、楽しい思い出を作っていってほしいんです。だから私が抜けます。ジャックくんを出させてあげてください」

 

 深々と頭を下げた。スバルとキザマロも続けてだ。そしてミソラが監督の後ろに立った。

 

「監督、私からもお願いします」

 

 とどめに主演俳優からの懇願。監督も無下にはできないようだった。

 

「う~ん……まあ、どっちかが抜けてくれたら、こっちはそれでいいしね。分かった。じゃあ金髪の君が抜けてね」

「分かりました」

 

 顔を上げたルナには笑みがあった。

 

「ドリル女……」

「良いのよジャックくん。私の分も楽しんでちょうだい」

『ごめんなさいルナちゃん。私が黒なんて選んじゃったから……』

「モードは悪くないわよ。ありがとう」

 

 ウィザード監督が元の場所へと戻る。

 

「じゃあテイク2始めるよ。皆元の場所へ……ん? そこの大きいの、どうした!?」

「大きいの?」

 

 というとゴン太だろう。そういえばさっきから静かで動きがない。見ると、ゴン太の顔が真っ赤になっていた。

 

「ぐ……ウググ……」

「ゴン太くん!?」

 

 頭を抱えるゴン太。ふらついて後ずさりする。ジャックが「あ……」と声を上げた気がした。

 

「グウウ。ブルオオオオオ!!」

 

 ゴン太が雄たけびを上げた。同時に赤い光を放つ。次の瞬間には姿が変わっていた。

 2メートルを超えるであろう巨体。大きなお腹に太い腕。頭には二本の巨大な角。

 

「ロック、これって……」

『オックスだ。オックス・ファイアになりやがった!』

 

 オックス。FM星人の一人。FM星の地球侵略の時にやってきた戦士だ。ゴン太に取りついて、オックス・ファイアとなって暴れた。ロックマンが最初に戦った相手でもある。どうやら、ゴン太の中に残っていた残留電波が蘇ってしまったのあろう。それにしても、なぜこのタイミングで……。

 などと考えている暇はなかった。オックス・ファイアがある人物に目を付けた。彼の正面……直線状にいた一人の少女。ミソラだ。ミソラに目をつけてしまった。

 

「ブルオオオオオ!!」

 

 突っ込んでいく。無防備に立ち尽くしているミソラに向かって……。

 

「させない!」

 

 スバルの体が青く光る。飛び出す。ミソラの正面に立ち、オックス・ファイアを迎え撃った。

 

「ドリルアーム!」

 

 ロックマンは左手をドリルへ変え、オックス・ファイアのお腹に突き刺した。オックス・ファイアの突進力はそのまま威力に変換され、体を穿った。

 

「ブオオ!」

 

 衝撃で後ずさりしようとするオックス・ファイア。だがそれも許さない。

 

「マミーハンド!」

 

 地面からミイラの手のような物が出てきて、オックス・ファイアの足を掴んだ。電流が流れて体をしびれさせる。足が止まった。一気に決めにかかる。

 

「フリーズナックル!」

 

 右手に、水色の巨大な拳が装着される。力の限りにオックス・ファイアの顔を殴りつけた。巨体が大きくのけぞり、仰向けに倒れる。赤い電波粒子が舞い、ゴン太の電波変換が解けた。隣では牛のような赤い電波体……オックスが地面に倒れている。

 

「よし、終わり!」

『俺が出るまでもなかったな』

 

 オックス・ファイアの戦い方は熟知している。その巨体から繰り出されるパワーは、確かに圧倒的だ。だが最初の突進さえ止めてしまえば、後はただの大きな的にすぎない。

 

「大丈夫、ミソラちゃん!?」

「ロックマン、ありがとう!」

 

 どうやら無傷らしい。撮影にライブまであるのだ、ここで擦り傷一つしようものなら、大問題になるところだった。

 

「良かった、君が無事で……」

「いいねえ君!」

「うわっ!」

 

 ロックマンとミソラの間に、ズイッと割り込んできた者が一人。ウィザード監督だ。

 

「いいね、いいね、いいね、いいねええええ! 今の最高だったよ。君、ロックマンだよね! あの有名な、世界を二度救った英雄の!」

「え……っと……い、一応そうです……」

「いやあ、私の撮影現場に来てくれるだなんて思いもしなかったよ」

 

 どうやら、このウィザード監督はロックマンの正体がスバルだと気づいていないらしい。周りのスタッフの中でも指摘する人がいない。どうやら、スバルが電波変換するところは運よく見られなかったらしい。皆、オックス・ファイアに視線が集まっていたのだろう。

 静かにホッとするロックマンに、ウィザード監督はとんでもない爆弾を投下した。

 

「どうだい、このままドラマに出てくれないかな?」

「……はっ!?」

 

 待ってほしい。スバルはエキストラとして背景に少しだけ出る予定だったのだ。それが主演のミソラと共演。たまったものではない。心臓が虫のように小さなスバルに向かって、羞恥を全国にさらせと言ってるようなものだ。

 

「歌うことに悩むヒロイン。そこに颯爽と現れるヒーローのロックマン。ヒロインを勇気づけて、去っていく……! 最高だ! これは視聴率大幅アップ間違いなしだあああ!」

 

 ロックマンの気持ちなど微塵も気づいていないようで、ウィザード監督は一人盛り上がっていく。

 だがこれに黙っていない者がいる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 ずっとスタッフたちと様子を見ていたアイスだ。慌てて監督に駆け寄った。

 

「その役は、スズカがやるとこちらはうかがって……」

「うん、まあそうなんだけれど……ロックマンの方がインパクトあるからね」

 

 ウィザード監督は平然とそう告げた。

 

「お詫びに今度なんかのCMに、メインで出演させてあげるから、それで手を打ってよ」

「そ、そんな! ドラマとCMでは待遇が全然違うじゃありませんか!」

 

 アイスとしてはもっともな抗議だろう。スズカのマネージャーとして、引き下がるわけにはいかないのだ。

 

「もう良いよ、アイス」

 

 そのスズカがアイスの背中に触れた。

 

「CMの件、よろしくお願いします」

「うん、できる限り良い話持ってくるから」

「ありがとうございます」

 

 アイスは悔しそうな顔で頭を下げた。

 

「良いの、スズカ……?」

「仕方ないよ、さすがにロックマンを差し置いて私……というのは無理がある話だし。それにね……」

 

 スズカはミソラとロックマンに輝く目を向けた。

 

「ミソラとロックマンの共演だよ。私も見たいんだ!」

「くぅ……!」

 

 アイスには悪いが、これは期待に応えないわけには、いかなくなってしまった。腹をくくることにした。




〇オックス
 FM星人。FM星人侵略の際に、この者と酷似(こくじ)した個体の映像データあり。同一個体と推測される。

〇オックス・ファイア
 牛島ゴン太とオックスが電波変換した姿。トランスコードは005。
 戦闘データはほとんど得られなかったが、類まれな破壊力を持っていると推測される。
 来たる作戦の戦力候補に抜擢するか見極める必要あり。
 今後、接触を図ることを検討中。


 参照.ヨイリーレポートより抜粋
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