流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
撮影現場は並木道だった。整備された道。柵を隔てた脇には樹木が並んでいる。
学生服を着たミソラとスズカ。その周りにはたくさんのスタッフがいる。
「ねえキザマロ。あの人が監督さん?」
「ですです」
「……ウィザードじゃねえか?」
ウォーロックの言う通り、監督はウィザードだった。
「そうなんです。オクダマスタジオではウィザードも人間と同じようにして働いているんですよ」
「へ~」
目は赤いバイザー、口はメガホンのような形をしている。ボディは黄緑色だ。手には黒と白の縞々模様の、「カット」とか言って鳴らす道具。
「あれ、なんていうんだっけ?」
「カチンコっていうんですよ」
「そのまんまだね」
その時、スタッフの一人がスバルたちに駆け寄ってきた。先ほど、ミソラのメイクを担当していた女性だ。
「君たち、そろそろ出番よ。心の準備は良いかしら?」
「は、はい!」
急に緊張してきた。ウォーロックがヒソヒソと呟いた。
「いい加減にその緊張しやすい体質治せよ」
「いや、治すとかの話じゃ……」
「もっとでかいことしてきただろお前は」
それはロックマンとしての話だ。確かに、エンプティ―との戦いを世界生中継されたことだってある。
「それとこれとは話が……」
「あれ、一人足りなくない?」
女性スタッフに言われて気づいた。ジャックがいない。
ゴン太が小さく手を上げた。
「ジャックの奴なら来ないぜ。さっき自由行動の時に声かけたんだけれどよ。なんか、興味ねえって」
「あ~。そっか」
本人が嫌がるのならば仕方ない。ゴン太もなんだかんだ言って、気にしてくれているらしい。
「じゃあ、後は委員長だね」
隣のルナを見ると、緊張で顔が真っ青になっている。魂だけどこかへ飛んでるみたいだ。
「このドリル女、生徒会長を目指すとか言ってなかったか?」
「うん、さすがに今回ばかりは……」
気づいて振り返った。
「ジャック? 来ないんじゃ……」
「いや……まあ、これも経験つうか……出てやってもいいっていうか……まあ、誘われたし」
ジャックの目が、ちらりとミソラの方を見た。さっきのことを気にしているのだろうか。
「良かった。一緒に出ようよ」
「……ああ」
そしてちょうどお声がかかった。さっきのウィザード監督が手を上げた。
「よし、じゃあエキストラ役の人たち、入って!」
ビクウッとスバルたちの背中が飛び上がった。ジャックだけは平然としてる。肝っ玉がでかいのだろうか。
「よよよよよ、良し! いいいい、行くわよ!」
珍しく動揺しまくっているルナだった。声が震えている。
女性スタッフに案内されて、ミソラとスズカを挟んだカメラの反対側。ゴン太とジャックは右側に、スバルとルナとジャックは左側に集まった。談笑しているようにと指示をもらった。
「それじゃあ本番行くよ。スズカちゃん、ミスはしないでね」
「は、はい!」
スズカの手に汗が握られているのが見えた。周りのスタッフたちに混じっているアイスから「いつも通りにやりなさい!」という声が聞こえた。スズカが目を閉じる。
「よし、シーン17、カット1。テイク1、スタート!」
スバルはルナとジャックと他愛ない会話をしているふりをする。ルナは顔が引きつってるが、ジャックはいつも通りの仏頂面だった。緊張はしていないらしい。
そんな彼らなど置き去りにして、ミソラとスズカの演技は進む。
「どうしよう、スズカ……?」
「どうしたのミソラ。なんでそんなに思いつめた顔をしているの?」
「そ、そんな顔してる?」
「してるよ。せっかくの念願の歌手デビューが決まったのに、どうして?」
スバルは横目で、ちらりとスズカをうかがった。先ほどまでの自信のなさそうだった彼女はどこにもいない。素人の目のスバルでも、確かな演技力があるのは見て取れた。
「うんとね……このままでいいのかなって」
「このまま……どういう意味?」
「……不安になっちゃうの。歌うことは好きだよ。私が歌うと、皆が笑顔になってくれるから。……そう、聞いてくれる人たちの笑顔が、私が歌う理由だったの」
「……それとデビューと、何か関係があるの?」
スズカの演技力に負けじと、ミソラも会心の演技をする。目にうっすらと涙を浮かべる。
「デビューするってことは、大勢の前で歌うってこと。それって、今まで笑顔をくれた人たちが遠くに行ってしまうような気がして……」
スズカは首を横に振った。
「ミソラ、それならなおさら、デビューすべきだよ」
「え?」
「大勢の人たちがミソラの歌を聞いてくれる。それはたくさんの人を笑顔にできるってことだと、私は思うよ。そこに距離なんてないんじゃないかな?」
「距離なんてか……」
「カーーーーーーーーーーーット!!」
監督の大きな声と共に、カチンコが鳴った。まだミソラが台詞を言ってるときにこれだ。つまり、これはリテイクの要望。先ほどのシーンで何か問題があったのだ。
ビクリとスズカが肩をすくめた。
「あ、あのごめんなさい。私、何かミスを……」
オドオドとしているスズカ。スバルから見ると、何かミスがあったようには見えなかった。
「いや、スズカくんにミスはないよ。よくやってくれた。名演技だったよ」
「あ、ありがとうございます」
どうやら問題はスズカではなかったらしい。
「問題は……」
監督は空中を滑走するように、スバルたちの元へ来た。
「え、僕!?」
ミソラとスズカの演技を凝視し過ぎてしまったのだろうか。
「違う。君もいい」
ほっと胸をなでおろした。
「君たちだよ!」
監督が指さしたのは、ルナとジャックだった。
「え?」
「あ?」
今度はルナが面食らう番だった。
「君たち、二人とも服が黒じゃないか。背景のエキストラだからって、黒がこう多いと画面が暗くなるんだよ」
「あ~、そういうことか」
今日に限って、ルナは黒い服を着てしまっている。ジャックの普段着と被ってしまっているのだ。黒色は目立つ。それが背景で並んでいるとなると、無意識に目を向けてしまうだろう。
「というわけで……そうだね、君抜けて」
「……は!?」
いらないと言われたのはジャックだった。
「おい、こっちは出てやって……」
「なら良いよ。エキストラはおまけみたいなものだから」
厳しいようだが、これも職人肌というものなのだろう。監督の決定は絶対だ。けれど、ここは黙って見ていることはできない。
「あの、ジャックは出させてあげてください」
せっかく来てくれたのだ。なのに除け者扱いなんてひど過ぎる。スバルが頼むと、離れたところにいたゴン太とキザマロも駆け寄ってきた。
「お願いだ。ジャックを出させてあげてくれよ」
「お願いします」
キザマロが頭を下げると、ゴン太も慌てて頭を下げた。ジャックがスッとゴン太の後ろに回った。
「あの……よろしければ、予備の衣装とか貸してもらえませんか。私、着替えてきますから」
「そんな時間ないよ」
ルナのお願いにも、監督は首を横に振った。いてもいなくてもいいエキストラ役のために、貴重な時間は割けないのだろう。ルナが目をつぶった。そして力強く告げた。
「分かりました。なら私が抜けます」
「え?」
驚いたのはスバルだけでない。キザマロと、ゴン太の後ろから出てきたジャックもだ。
「おいドリル女。お前何言って……」
「委員長、今日出れるの楽しみにしてたじゃないですか」
「そうそう、わざわざお化粧とおめかしまでして……」
「スバルくん、それ余計だから!」
ルナの一睨みで、スバルはカエルのように縮こまった。
「監督さん……ジャックくんは昨日転校してきたばかりで……今日は彼に、楽しい思い出を作っていってほしいんです。だから私が抜けます。ジャックくんを出させてあげてください」
深々と頭を下げた。スバルとキザマロも続けてだ。そしてミソラが監督の後ろに立った。
「監督、私からもお願いします」
とどめに主演俳優からの懇願。監督も無下にはできないようだった。
「う~ん……まあ、どっちかが抜けてくれたら、こっちはそれでいいしね。分かった。じゃあ金髪の君が抜けてね」
「分かりました」
顔を上げたルナには笑みがあった。
「ドリル女……」
「良いのよジャックくん。私の分も楽しんでちょうだい」
『ごめんなさいルナちゃん。私が黒なんて選んじゃったから……』
「モードは悪くないわよ。ありがとう」
ウィザード監督が元の場所へと戻る。
「じゃあテイク2始めるよ。皆元の場所へ……ん? そこの大きいの、どうした!?」
「大きいの?」
というとゴン太だろう。そういえばさっきから静かで動きがない。見ると、ゴン太の顔が真っ赤になっていた。
「ぐ……ウググ……」
「ゴン太くん!?」
頭を抱えるゴン太。ふらついて後ずさりする。ジャックが「あ……」と声を上げた気がした。
「グウウ。ブルオオオオオ!!」
ゴン太が雄たけびを上げた。同時に赤い光を放つ。次の瞬間には姿が変わっていた。
2メートルを超えるであろう巨体。大きなお腹に太い腕。頭には二本の巨大な角。
「ロック、これって……」
『オックスだ。オックス・ファイアになりやがった!』
オックス。FM星人の一人。FM星の地球侵略の時にやってきた戦士だ。ゴン太に取りついて、オックス・ファイアとなって暴れた。ロックマンが最初に戦った相手でもある。どうやら、ゴン太の中に残っていた残留電波が蘇ってしまったのあろう。それにしても、なぜこのタイミングで……。
などと考えている暇はなかった。オックス・ファイアがある人物に目を付けた。彼の正面……直線状にいた一人の少女。ミソラだ。ミソラに目をつけてしまった。
「ブルオオオオオ!!」
突っ込んでいく。無防備に立ち尽くしているミソラに向かって……。
「させない!」
スバルの体が青く光る。飛び出す。ミソラの正面に立ち、オックス・ファイアを迎え撃った。
「ドリルアーム!」
ロックマンは左手をドリルへ変え、オックス・ファイアのお腹に突き刺した。オックス・ファイアの突進力はそのまま威力に変換され、体を穿った。
「ブオオ!」
衝撃で後ずさりしようとするオックス・ファイア。だがそれも許さない。
「マミーハンド!」
地面からミイラの手のような物が出てきて、オックス・ファイアの足を掴んだ。電流が流れて体をしびれさせる。足が止まった。一気に決めにかかる。
「フリーズナックル!」
右手に、水色の巨大な拳が装着される。力の限りにオックス・ファイアの顔を殴りつけた。巨体が大きくのけぞり、仰向けに倒れる。赤い電波粒子が舞い、ゴン太の電波変換が解けた。隣では牛のような赤い電波体……オックスが地面に倒れている。
「よし、終わり!」
『俺が出るまでもなかったな』
オックス・ファイアの戦い方は熟知している。その巨体から繰り出されるパワーは、確かに圧倒的だ。だが最初の突進さえ止めてしまえば、後はただの大きな的にすぎない。
「大丈夫、ミソラちゃん!?」
「ロックマン、ありがとう!」
どうやら無傷らしい。撮影にライブまであるのだ、ここで擦り傷一つしようものなら、大問題になるところだった。
「良かった、君が無事で……」
「いいねえ君!」
「うわっ!」
ロックマンとミソラの間に、ズイッと割り込んできた者が一人。ウィザード監督だ。
「いいね、いいね、いいね、いいねええええ! 今の最高だったよ。君、ロックマンだよね! あの有名な、世界を二度救った英雄の!」
「え……っと……い、一応そうです……」
「いやあ、私の撮影現場に来てくれるだなんて思いもしなかったよ」
どうやら、このウィザード監督はロックマンの正体がスバルだと気づいていないらしい。周りのスタッフの中でも指摘する人がいない。どうやら、スバルが電波変換するところは運よく見られなかったらしい。皆、オックス・ファイアに視線が集まっていたのだろう。
静かにホッとするロックマンに、ウィザード監督はとんでもない爆弾を投下した。
「どうだい、このままドラマに出てくれないかな?」
「……はっ!?」
待ってほしい。スバルはエキストラとして背景に少しだけ出る予定だったのだ。それが主演のミソラと共演。たまったものではない。心臓が虫のように小さなスバルに向かって、羞恥を全国にさらせと言ってるようなものだ。
「歌うことに悩むヒロイン。そこに颯爽と現れるヒーローのロックマン。ヒロインを勇気づけて、去っていく……! 最高だ! これは視聴率大幅アップ間違いなしだあああ!」
ロックマンの気持ちなど微塵も気づいていないようで、ウィザード監督は一人盛り上がっていく。
だがこれに黙っていない者がいる。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ずっとスタッフたちと様子を見ていたアイスだ。慌てて監督に駆け寄った。
「その役は、スズカがやるとこちらはうかがって……」
「うん、まあそうなんだけれど……ロックマンの方がインパクトあるからね」
ウィザード監督は平然とそう告げた。
「お詫びに今度なんかのCMに、メインで出演させてあげるから、それで手を打ってよ」
「そ、そんな! ドラマとCMでは待遇が全然違うじゃありませんか!」
アイスとしてはもっともな抗議だろう。スズカのマネージャーとして、引き下がるわけにはいかないのだ。
「もう良いよ、アイス」
そのスズカがアイスの背中に触れた。
「CMの件、よろしくお願いします」
「うん、できる限り良い話持ってくるから」
「ありがとうございます」
アイスは悔しそうな顔で頭を下げた。
「良いの、スズカ……?」
「仕方ないよ、さすがにロックマンを差し置いて私……というのは無理がある話だし。それにね……」
スズカはミソラとロックマンに輝く目を向けた。
「ミソラとロックマンの共演だよ。私も見たいんだ!」
「くぅ……!」
アイスには悪いが、これは期待に応えないわけには、いかなくなってしまった。腹をくくることにした。
〇オックス
FM星人。FM星人侵略の際に、この者と
〇オックス・ファイア
牛島ゴン太とオックスが電波変換した姿。トランスコードは005。
戦闘データはほとんど得られなかったが、類まれな破壊力を持っていると推測される。
来たる作戦の戦力候補に抜擢するか見極める必要あり。
今後、接触を図ることを検討中。
参照.ヨイリーレポートより抜粋