流星のロックマン Arrange The Original 3   作:悲傷

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 次回更新日は7月26日(水)です。


第29話.ヒーローとヒロイン

 人が意識を失いかける時とはどういう時だろう。頭に大きな衝撃を受けたとき? 委員長のような怖い人を前にしたとき? 色々とあるだろう。

 だがこれだけははっきりと言える。

 星河スバルの11年という短い生涯において、今が一番やばいと。

 向けられるカメラ。集まるルナたちとスタッフたちの視線。なにより、これはしばらく経ったら全国に放送されるのだ。自分の顔が全国にさらされる。まだ良い。もうとっくに世界に知れ渡っているのだから。辛いのは、自分の素人演技を大勢の人たちに見せることの方だ。復学したばかりのころに参加した、学園祭の劇とは違う。ロックマンVS牛男とかいう茶番劇とは規模が違うのだ。

 

「大丈夫だよ、ロックマン。緊張しないで」

「あ……うん……」

 

 ミソラは励ましてくれるが、緊張とはそれでとれるようなものではない。

 

「ロックマン、台本は読んだね。じゃあシーン17改変版。シーン1、テイク1。スタート!」

 

 息をつく間もなく始まってしまった。カチンと、カチンコの音が鳴る。その瞬間には、目の前のミソラは役者になっていた。

 

「どうしよう、ロックマン……?」

「ど、どうしたんだい?」

 

 噛んでしまった。リテイクが来るかと思ったが来なかった。これはこれで良いと判断されたみたいだ。次の台詞を思い出す。

 

「思いつめたような顔をしているよ?」

「そ、そんな顔してる?」

「してるよ。念願の歌手デビューなんだってね。君の夢なんだろう、どうしたんだい?」

 

 今度は噛まずに言えた。

 

「うんとね……このままでいいのかなって」

「……どういう意味だい?」

「……不安になっちゃうの。歌うことは好きだよ。私が歌うと、皆が笑顔になってくれるから。……そう、聞いてくれる人たちの笑顔が、私が歌う理由だったの」

「……それとデビューと、何か関係があるのかい?」

 

 良いぞ、のってる。だんだんと調子が出てきた気がする。

 

「デビューするってことは、大勢の前で歌うってこと。それって、今まで笑顔をくれた人たちが遠くに行ってしまうような気がして……」

 

 ここで先ほどのスズカのように、ミソラを励ますのがロックマンの役目だ。だがそれでいいのだろうか。スバルに疑問が生まれた。

 

「歌いたくないのかい?」

 

 思わずその言葉が出てきた。ミソラが驚いた顔をする。

 

「歌いたくないって……そんなことないよ」

「なら……」

 

 後は自然と言葉が出ていた。

 

「歌ってみたらいいんじゃないかな。もし違うと思ったら、歌いたくないって思ったら、その時は歌わなくっていいよ」

「え……?」

「無理して歌うことなんてないんだから。そしてまた歌いたいって思ったら、再開したらいい。皆に笑顔を届けたいって君の気持が本当なら、きっとそれは多くの人に届くはずだから」

「……うん……」

 

「あ……」とスバルは思った。やってしまった。台本とは全然違う台詞を言ってしまった。

 カチンコが鳴った。

 

「ロックマン!」

 

 ウィザード監督がものすごい勢いで突っ込んでくる。申し訳ないと謝罪しようとしたが、両肩をガシリと掴まれた。

 

「素晴らしいいい!!」

「……え?」

「すごいアドリブだったよ! そうか、確かにそうか! 悩んでる子に歌うよう応援するよりも、選ぶように促す……確かに、こっちの方が良い!」

 

 どうやらウィザード監督はいたく気に入ってくれたらしい。

 

「よし、このまま収録! 後はミソラがお礼を告げて、ロックマンが去るシーンだけだ!」

 

 こうして、さっきのシーンがそのまま使われることになった。別れるシーンの撮影もすぐに終わった。撮影スタッフが撤収を開始する。

 

「お、終わった……」

「いやあ、本当にありがとうロックマン!」

 

 ウィザード監督がねぎらいに来てくれた。

 

「ど、どうも……」

「おかげで良い絵が撮れたよ。君のおかげでね」

 

 そして、ロックマンの耳元で呟いた。

 

「赤い少年」

「……え?」

 

 ウィザード監督は親指と人差し指で丸を作ると、手を振って去っていた。

 

『あの監督、気づいてやがったのか』

「あの人の方が役者じゃない?」

 

 

 大部屋。オクダマスタジオの役者たちが詰める場所。パイプ椅子の上で、スバルはぐったりと天井を仰いでいた。

 

「お疲れ様ね、スバルくん」

「かっこよかったぜ、スバル!」

「すごい演技っぷりでしたよ!」

「……ありがと……」

 

 ルナ、ゴン太、キザマロへの返事にも力が入っていない。

 

「ミソラちゃんもスズカちゃんも、いっつもこんな神経使うことしてんの?」

「そうだよ、大変なんだよ役者って」

 

 ミソラが答えた。なお、スズカはここにはいない。

 

「うん、ほんと凄いと思う……」

「スバルくんとウォーロックくんほどじゃないと思うけれどな」

「あ、ロックで思い出した!」

 

 スバルは重い体をなんとか起こした。

 

「ゴン太!」

「おう、オックスか? ウィザード・オン!」

 

 彼のハンターVGから赤い電波粒子が出てきた。それは赤い牛へと姿を変える。

 

「ブルル……、久しぶりだなウォーロック」

「おう、そうだな」

 

 ウォーロックも出てきた。ハープも同じように出てくる。

 

「オックス、あなたミソラに……」

「ハープ、さっきは悪かった」

 

 ハープがビクリと飛び上がった。オックスが謝罪をしたのだ、無理もない。

 

「どどど、どうしたのあんた……頭でも打った?」

「ああ、スバルのやつが思いっきり殴ってたな……」

 

 ウォーロックも目を見開いて、数メートル飛び退いた。ハープに至っては、ウォーロックの腕にしがみついている。よっぽど恐ろしいものを目にしてしまったらしい。

 

「そう怯えるな。同郷のよしみ……ってやつか? 同じウィザードになったんだ。まあ、仲良くしてくれ」

「……ウィザードになった?」

 

 そういえば、ゴン太がウィザード・オンと言っていた。

 

「おう、さっきオックスと話してな。俺のウィザードになってくれたぜ!」

 

 モードとペディアも驚いて飛び出してきた。

 

「ほ、ほんとうですか!?」

「び、びっくりした!」

 

 オックスはブルルと笑いながら答えた。

 

「今まで、ゴン太にはさんざん迷惑かけちまったからな。これからはお詫びってやつも含めてゴン太に力を貸すぜ」

「よろしくな、オックス!」

「ブルル!」

 

 オックスはゴン太に応えると、モードとペディアに自己紹介をし始めた。

 

「ねえ、ウォーロック……スバルくんも良いの?」

 

 ハープが尋ねてきた。スバルとウォーロック、ミソラが集まる。ルナたちはオックスの周りに屯している。

 

「あいつFM星人よ。いえ、私もだけれど……」

「う~ん、悪い人には見えないけれど……」

「っていうか、別人のように見えるわね……」

 

 ミソラとハープが頷きあっている。

 スバルとウォーロックに至っては、あいまいな顔をしていた。

 

「……スバル、お前が決めろ」

「え、何を?」

「あいつをここで消すか、見逃すかだ……」

「……あ」

 

 ウォーロックが何を言いたいのか、スバルは理解した。

 スバルの父、星河大吾。大吾は宇宙ステーション「キズナ」から脱出するとき、オックスの襲撃を受けた。とウォーロックから聞いている。その時の衝撃で、宇宙の彼方へ飛んで行ってしまったのだと。他の乗組員たち、スティーブたちもだ。

 言わば、オックスは大吾の仇と言っても過言ではないのだ。

 スバルはオックスを見た。オックスはモードやペディアと親しそうに話している。数秒ほど見つめて、スバルは首を横に振った。

 

「ロック、あれはオックスであって、オックスじゃないよ。ゴン太の優しさに触れた影響かな?」

 

 見た目はオックスだが、中身は別物なのだろう。以前戦ったオックスと比べて、温厚で丁寧すぎる。記憶を維持したまま、ゴン太の性格の一部をインストールし、別人格になったようだ。

 

「なら、今のオックスを責めるのは間違いだよ」

 

 それがスバルの答えだった。

 

「そうか、なら俺もそうするぜ」

 

 ウォーロックは答えると、オックスの方へと向かった。

 

「おいオックス。さっそくウィザードバトルしようぜ」

「良いぜ。俺もバトルは大好きだからよ」

「知ってるっての。何年の付き合いだと思ってんだよ」

 

 ウォーロックもオックスを受け入れるつもりらしい。大吾のことで心残りがあるのは彼も同じだろうに。

 

「ポロロン、あいつも変わったわね……」

 

 ハープはウォーロックを見て、クスリと笑った。

 

「あれ、どうしたのハープ?」

「なんか怪しいよね?」

「ちょ、違うわよ。勘違いしないでちょうだいね?」

 

 別に何も言ってないんだけれどな~。とスバルはミソラと小さく笑いあった。

 そんな大部屋に一人の来客が訪れた。スズカだった。

 

「ミソラ。アイスを見なかった?」

「アイス? ううん、見てないけれど……」

「そっか……どこ行っちゃったんだろう……」

「一緒に探そうか?」

「良いよ。ミソラはこの後ライブでしょ。ちゃんと準備しないと。それじゃあね」

 

 スズカはすぐに出て行った。アイスを探しに行ったのだろう。 

 

「そういえば……」

 

 スバルは周囲を見渡した。

 

「ジャックもどこに行ったんだろ?」




〇ミソラちゃんファンクラブ
 ミソラちゃんのファンクラブ。会員数は現在進行形でどんどん増えています。
 委員長とスバルくんも入ってくれないでしょうかね。
 
 参照.マロ辞典より抜粋
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