流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
人が意識を失いかける時とはどういう時だろう。頭に大きな衝撃を受けたとき? 委員長のような怖い人を前にしたとき? 色々とあるだろう。
だがこれだけははっきりと言える。
星河スバルの11年という短い生涯において、今が一番やばいと。
向けられるカメラ。集まるルナたちとスタッフたちの視線。なにより、これはしばらく経ったら全国に放送されるのだ。自分の顔が全国にさらされる。まだ良い。もうとっくに世界に知れ渡っているのだから。辛いのは、自分の素人演技を大勢の人たちに見せることの方だ。復学したばかりのころに参加した、学園祭の劇とは違う。ロックマンVS牛男とかいう茶番劇とは規模が違うのだ。
「大丈夫だよ、ロックマン。緊張しないで」
「あ……うん……」
ミソラは励ましてくれるが、緊張とはそれでとれるようなものではない。
「ロックマン、台本は読んだね。じゃあシーン17改変版。シーン1、テイク1。スタート!」
息をつく間もなく始まってしまった。カチンと、カチンコの音が鳴る。その瞬間には、目の前のミソラは役者になっていた。
「どうしよう、ロックマン……?」
「ど、どうしたんだい?」
噛んでしまった。リテイクが来るかと思ったが来なかった。これはこれで良いと判断されたみたいだ。次の台詞を思い出す。
「思いつめたような顔をしているよ?」
「そ、そんな顔してる?」
「してるよ。念願の歌手デビューなんだってね。君の夢なんだろう、どうしたんだい?」
今度は噛まずに言えた。
「うんとね……このままでいいのかなって」
「……どういう意味だい?」
「……不安になっちゃうの。歌うことは好きだよ。私が歌うと、皆が笑顔になってくれるから。……そう、聞いてくれる人たちの笑顔が、私が歌う理由だったの」
「……それとデビューと、何か関係があるのかい?」
良いぞ、のってる。だんだんと調子が出てきた気がする。
「デビューするってことは、大勢の前で歌うってこと。それって、今まで笑顔をくれた人たちが遠くに行ってしまうような気がして……」
ここで先ほどのスズカのように、ミソラを励ますのがロックマンの役目だ。だがそれでいいのだろうか。スバルに疑問が生まれた。
「歌いたくないのかい?」
思わずその言葉が出てきた。ミソラが驚いた顔をする。
「歌いたくないって……そんなことないよ」
「なら……」
後は自然と言葉が出ていた。
「歌ってみたらいいんじゃないかな。もし違うと思ったら、歌いたくないって思ったら、その時は歌わなくっていいよ」
「え……?」
「無理して歌うことなんてないんだから。そしてまた歌いたいって思ったら、再開したらいい。皆に笑顔を届けたいって君の気持が本当なら、きっとそれは多くの人に届くはずだから」
「……うん……」
「あ……」とスバルは思った。やってしまった。台本とは全然違う台詞を言ってしまった。
カチンコが鳴った。
「ロックマン!」
ウィザード監督がものすごい勢いで突っ込んでくる。申し訳ないと謝罪しようとしたが、両肩をガシリと掴まれた。
「素晴らしいいい!!」
「……え?」
「すごいアドリブだったよ! そうか、確かにそうか! 悩んでる子に歌うよう応援するよりも、選ぶように促す……確かに、こっちの方が良い!」
どうやらウィザード監督はいたく気に入ってくれたらしい。
「よし、このまま収録! 後はミソラがお礼を告げて、ロックマンが去るシーンだけだ!」
こうして、さっきのシーンがそのまま使われることになった。別れるシーンの撮影もすぐに終わった。撮影スタッフが撤収を開始する。
「お、終わった……」
「いやあ、本当にありがとうロックマン!」
ウィザード監督がねぎらいに来てくれた。
「ど、どうも……」
「おかげで良い絵が撮れたよ。君のおかげでね」
そして、ロックマンの耳元で呟いた。
「赤い少年」
「……え?」
ウィザード監督は親指と人差し指で丸を作ると、手を振って去っていた。
『あの監督、気づいてやがったのか』
「あの人の方が役者じゃない?」
◇
大部屋。オクダマスタジオの役者たちが詰める場所。パイプ椅子の上で、スバルはぐったりと天井を仰いでいた。
「お疲れ様ね、スバルくん」
「かっこよかったぜ、スバル!」
「すごい演技っぷりでしたよ!」
「……ありがと……」
ルナ、ゴン太、キザマロへの返事にも力が入っていない。
「ミソラちゃんもスズカちゃんも、いっつもこんな神経使うことしてんの?」
「そうだよ、大変なんだよ役者って」
ミソラが答えた。なお、スズカはここにはいない。
「うん、ほんと凄いと思う……」
「スバルくんとウォーロックくんほどじゃないと思うけれどな」
「あ、ロックで思い出した!」
スバルは重い体をなんとか起こした。
「ゴン太!」
「おう、オックスか? ウィザード・オン!」
彼のハンターVGから赤い電波粒子が出てきた。それは赤い牛へと姿を変える。
「ブルル……、久しぶりだなウォーロック」
「おう、そうだな」
ウォーロックも出てきた。ハープも同じように出てくる。
「オックス、あなたミソラに……」
「ハープ、さっきは悪かった」
ハープがビクリと飛び上がった。オックスが謝罪をしたのだ、無理もない。
「どどど、どうしたのあんた……頭でも打った?」
「ああ、スバルのやつが思いっきり殴ってたな……」
ウォーロックも目を見開いて、数メートル飛び退いた。ハープに至っては、ウォーロックの腕にしがみついている。よっぽど恐ろしいものを目にしてしまったらしい。
「そう怯えるな。同郷のよしみ……ってやつか? 同じウィザードになったんだ。まあ、仲良くしてくれ」
「……ウィザードになった?」
そういえば、ゴン太がウィザード・オンと言っていた。
「おう、さっきオックスと話してな。俺のウィザードになってくれたぜ!」
モードとペディアも驚いて飛び出してきた。
「ほ、ほんとうですか!?」
「び、びっくりした!」
オックスはブルルと笑いながら答えた。
「今まで、ゴン太にはさんざん迷惑かけちまったからな。これからはお詫びってやつも含めてゴン太に力を貸すぜ」
「よろしくな、オックス!」
「ブルル!」
オックスはゴン太に応えると、モードとペディアに自己紹介をし始めた。
「ねえ、ウォーロック……スバルくんも良いの?」
ハープが尋ねてきた。スバルとウォーロック、ミソラが集まる。ルナたちはオックスの周りに屯している。
「あいつFM星人よ。いえ、私もだけれど……」
「う~ん、悪い人には見えないけれど……」
「っていうか、別人のように見えるわね……」
ミソラとハープが頷きあっている。
スバルとウォーロックに至っては、あいまいな顔をしていた。
「……スバル、お前が決めろ」
「え、何を?」
「あいつをここで消すか、見逃すかだ……」
「……あ」
ウォーロックが何を言いたいのか、スバルは理解した。
スバルの父、星河大吾。大吾は宇宙ステーション「キズナ」から脱出するとき、オックスの襲撃を受けた。とウォーロックから聞いている。その時の衝撃で、宇宙の彼方へ飛んで行ってしまったのだと。他の乗組員たち、スティーブたちもだ。
言わば、オックスは大吾の仇と言っても過言ではないのだ。
スバルはオックスを見た。オックスはモードやペディアと親しそうに話している。数秒ほど見つめて、スバルは首を横に振った。
「ロック、あれはオックスであって、オックスじゃないよ。ゴン太の優しさに触れた影響かな?」
見た目はオックスだが、中身は別物なのだろう。以前戦ったオックスと比べて、温厚で丁寧すぎる。記憶を維持したまま、ゴン太の性格の一部をインストールし、別人格になったようだ。
「なら、今のオックスを責めるのは間違いだよ」
それがスバルの答えだった。
「そうか、なら俺もそうするぜ」
ウォーロックは答えると、オックスの方へと向かった。
「おいオックス。さっそくウィザードバトルしようぜ」
「良いぜ。俺もバトルは大好きだからよ」
「知ってるっての。何年の付き合いだと思ってんだよ」
ウォーロックもオックスを受け入れるつもりらしい。大吾のことで心残りがあるのは彼も同じだろうに。
「ポロロン、あいつも変わったわね……」
ハープはウォーロックを見て、クスリと笑った。
「あれ、どうしたのハープ?」
「なんか怪しいよね?」
「ちょ、違うわよ。勘違いしないでちょうだいね?」
別に何も言ってないんだけれどな~。とスバルはミソラと小さく笑いあった。
そんな大部屋に一人の来客が訪れた。スズカだった。
「ミソラ。アイスを見なかった?」
「アイス? ううん、見てないけれど……」
「そっか……どこ行っちゃったんだろう……」
「一緒に探そうか?」
「良いよ。ミソラはこの後ライブでしょ。ちゃんと準備しないと。それじゃあね」
スズカはすぐに出て行った。アイスを探しに行ったのだろう。
「そういえば……」
スバルは周囲を見渡した。
「ジャックもどこに行ったんだろ?」
〇ミソラちゃんファンクラブ
ミソラちゃんのファンクラブ。会員数は現在進行形でどんどん増えています。
委員長とスバルくんも入ってくれないでしょうかね。
参照.マロ辞典より抜粋