流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
エレベーターに乗ろうとして鉢合わせてしまった相手に、スバルは軽く頭を下げて一歩退いた。
「あ、すいません」
「いえ、こちらこそ失礼します」
自分よりも少しだけ背が高い少年だった。多分年上……6年生だろう。眼鏡と少し大きな白衣が印象的だった。
彼の後ろには少年と少女が一人ずつ。スバルより小柄なので、4年生くらいだろうか。
彼らは3人がかりで何か大きな物が載った台車を慎重に引いていく。
「揺らさないように……傾けても駄目だよ。重いから」
「「はい、ぶちょー!」」
コトコトと音を立てながら、ゆっくりと進んでいく3人。ウォーロックはハンターVGの中から、彼らの奇妙な行動を窺っていた。
『何やってんだ?』
「あの人たち見たことある。確か科学部の人たちだよ」
『科学部? だからか。お前好きそうだもんな』
ウォーロックの指摘通り、スバルは科学部たちの行動を興味深そうに観察していた。
3人は台車から緑色の円柱状の物を取り出すと、それを床に置いた。そしてハンターVGを取り出してエアディスプレイを展開した。
「噴射口に損傷無し。ノズル角度機構……異常なし。重心のずれもありません、ぶちょー!」
「風速は微風。気温は良好。上空に横断する物体無し。打ち上げに最適な環境です、ぶちょー!」
「エネルギー制御システム異常なし。こっちも大丈夫だよ」
女の子が告げると、もう一人の男の子が続けた。部長と呼ばれた眼鏡の少年がエアディスプレイを閉じると、2人も閉じた。
「さて2人とも。本日の科学部の活動内容は、小型試作機型ロケットの打ち上げ実験だ。これまで3回連続で期待値以内に納めることができた。今回も同様の結果を出したい」
「了解です!」
「必ず成功させましょう!」
ちゃんとした部活だなとスバルは彼らの行動を見て感心していた。あの大きさだと風の影響を大きく受ける。噴射口や重心のずれなどもっての他だ。あちこちに細かい傷がついている小型ロケットは、彼らの今までの努力を物語っていた。
ぶちょーと呼ばれた少年は、部員たちの意思確認を行うと眼鏡をかけ直した。穏やかな目だが、そこには強い意志が見えた。
「では、早速実験を開……」
それは突然のことだった。屋上菜園に備え付けられていたスプリンクラーが突然異音を発したのだ。スバルも含めた4人がそれに気をとられた。視線が集まったのを見計らったかのように、スプリンクラーは大量の水を噴射しながら、激しく回転し始めた。
「うわ故障!?」
『スバル、ビジライザーだ!』
スバルがビジライザーをかけると、電波世界が見えるようになった。スプリンクラーの周囲にヘルメットを被った電波ウイルスがいた。ツルハシをこれでもかとひっきりなしに振り下ろしている。
「電波ウイルスの仕業だ!」
スバルは科学部に向かって叫んだ。眼鏡部長と目が合った。
「2人とも、止めて!」
「「ラジャー!」」
指示を受けた部員2人はスプリンクラーに駆け寄ると、ハンターVGと共にカードを取り出した。
「バトルカード、キャノン!」
カードをハンターVGに読み込ませ、先端をスプリンクラーに向ける。
ビジライザーをかけているスバルには全てが見えていた。対ウイルス攻撃プログラムが組み込まれたカードを、彼らのハンターVGが読み取る。すると先端に白くて四角い大砲のような物が召喚された。そこから大口径の弾が打ち出され、電波ウイルスを粉々に打ち砕いたのだ。
ちなみに、ビジライザーをつけていない彼らには、電波ウイルスはもちろん、白い大砲も見えてはいない。
「やった!」
『どうやら、本当に性能が向上しているらしいな』
ウイルスバスティングを行いやすくするためのOSだと育田先生は言っていた。あの程度の弱い電波ウイルスならば、誰にでも倒せるようになったらしい。
電波ウイルスの消滅と同時に、スプリンクラーの回転は段々と遅くなっていき、水も少なくなっていった。
「終わったみたいだね」
『いや、まだだ!』
ウォーロックが言うと、落ち着き始めていたスプリンクラーがまた暴走を始めた。いやさっきよりも悪い。水の量が桁違いだ。それは近くにいた2人の科学部に尻もちをつかせ、とうとう小型ロケットにまで手を伸ばした。
「さ、させない!」
部長の行動に迷いは無かった。小型ロケットに覆いかぶさり身を盾にしたのだ。強烈な水が部長の背中に襲い掛かる。
「ぶちょー!」
「こ、この! バトルカード、ソード! エアスプレッド!」
女部員が悲鳴を上げて、男部員がハンターVGのタッチパネルをタップしていく。ハンターVGはタップの数だけバトルカードを読み取り、スプリンクラーに向かって放っていく。だがスプリンクラーは加速度的に勢いを増していく。
その惨事から少し離れたところで、スバルは冷静に状況を見ていた。
「ロック、これって……」
『ああそうだ。電波ウイルスのやつら、あのスプリンクラーの電脳にまで入り込んでやがる』
それではどうしようもない。ハンターVGのおかげでウイルスバスティングが手軽になったとはいえど、所詮は素人の対処法だ。システムの根幹である電脳にまで侵食されれば、専門家たちの力でしか解決できない。
この状況を前にしてスバルがとる行動は一つだ。
「ロック、行こう! 電脳空間に行って、ウイルスを退治するよ」
『そう来ると思っていたぜ』
スバルとウォーロックが融合した姿、ロックマン。電波の体を持ったあの姿なら、電脳空間に直接乗り込むことができる。電波ウイルスを倒して、スプリンクラーの暴走を止めることなど朝飯前だ。
それだけの力を持っているのに、困っている人を見過ごすなどスバルにはできない。盲目的に人助けに走ってしまう少年であることを、ウォーロックはよく理解していた。
『ほら、行こうぜ』
「うん!」
スバルはハンターVGを頭上に掲げると、いつもの言葉を口にした。
「電波変換 星河スバル オン・エア!」
融合するときの合言葉だ。ハンターVGから青い電波粒子があふれ出し、スバルを包み込み、一瞬後にはロックマンへと変身する。
はずだった。
「……あれ?」
何も反応が無い。ハンターVGの中からはウォーロックの『……ん?』という声が聞こえた。
「ロック?」
『いや、おかしいな。なんでだ?』
ハンターVGの画面を見てみると、ウォーロックが首を傾げながら、近くのプログラムファイルの中を覗き込んでいた。どうやらプログラムのチェックをしているらしい。
「こんなこと今まで……OSがハンターVGに書き換えられたからかな?」
『そうとしか考えられねえな』
「昨日は普通にできたしね。困ったな、どうし……」
ピロンという音が鳴った。ウォーロックの頭上から一通のメールが落ちて来たのだ。動じることなく受け止めるウォーロック。
「こんな時にメール?」
『タイミングが悪いな。後に……』
ウォーロックがそれを放り捨てようとした時だった。メールがウォーロックの手から飛び出し、勝手に開いたのだ。
「え、ロック?」
『お、俺は触ってねえぞ? いや、触ったけれど開いてねえ!』
彼の抗議空しく、メールの中身がハンターVG内にぶちまけられた。ウォーロックの姿を隠すようにメッセージウインドウが開き、自動音声と共に文章が刻み込まれていく。
―― 電波変換を確認…… ――
―― サテラポリスにアクセス…… ――
―― 認証中…… ――
その一文を見て、スバルは驚愕に目を見開いた。
「さ、サテラポリスだって!?」
○電波ウイルス
電波社会のお邪魔虫データ。電波に繋がっている機械に悪さをする。自動販売機が壊れたりする小さな事故から、車や飛行機が暴走するような大きな事件まで引き起こす。
意志があるのか無いのかよく分からないけれど、群れて行動したりはする。
元はFM星が地球を侵略するために送り込んできた電波兵士(地球風にいうと生物兵器?)
だが地球の電波環境の影響や、電波ウイルスを改造して悪いことをしようとする人たちもいて、種類と被害は増加の一途を辿っている。
○バトルカード
電波ウイルスに対抗する攻撃プログラム。ハンターVGに読み込ませることで、誰でも手軽に電波ウイルスを駆除することができる。
様々な電波ウイルスに対抗できるようにするため、多種多様なバトルカードが世に出回っている。ほとんどが破壊された電波ウイルスのプログラムをサルベージ、及び編集したものであり、その電波ウイルスの特徴を捉えた物になっている。
このため広く普及されている反面、まだまだ分かっていないことも多い。
その最たる例が、最近報告されたギャラクシーアドバンスという現象である。
○ギャラクシーアドバンス
複数のバトルカードがプログラム連動することによって起きる現象。攻撃性能が飛躍的に向上したり、その性質が変化したりするらしい。詳しい事は分かっていない。
参照.マロ辞典より抜粋