流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
カウントダウン!
残り4日!
スバルが浦方と事件解決に赴いているころ、ルナはオクダマスタジオの中を移動していた。ゴン太とキザマロはいない。
キザマロはスズカと一緒だ。スバルと別れた後、アイスを探しているスズカと再度遭遇。この状況下で見つからないとなると、事件に巻き込まれた可能性が出てくる。キザマロはペディアの統計力を利用しての捜索に名乗り出た。
ゴン太はというと、ジャックが見つからないことが気になって、一人行動中である。
ルナもどちらかに加わろうかと思ったのだが、スズカに頼まれたのだ。ミソラの側にいてあげてほしいと。ルナはすぐに察した。本当にミソラの側にいてあげたいのはスズカのはずだ。ブラザーに脅迫状が届いているのだから。だが彼女は自分のウィザードを探さなくてはならない。きっと断腸の思いだろう。
それにルナも気にはしていたのだ。ただ、ライブ前に訪問するのは邪魔かもしれないと考えて、二の足を踏んでいた。だがスズカに頼まれたというのなら、話は別だ。ためらう理由などない。
そしてミソラの個室の前に来るに至る。
「ミソラちゃん、入って良いかしら?」
「ルナちゃん? 良いよ入って!」
自動ドアが開いて、中に踏み入れる。ミソラはとっくに着替えており、いつものパーカー服だった。
「よく来てくれたね。ゆっくりして行ってよ」
明るく振舞っているが、ルナにはすぐに分かった。
「ミソラちゃん、無理しなくていいのよ」
「……そっか、ルナちゃんには分かっちゃうか」
「当たり前でしょ」
脅迫状が来ているのだ。ライブを見に来るファンたちに危害が及ぶかもしれない。スタッフたちが懸命に対応している。
「なにより、スバルくんもいるものね」
「うん……」
この状況下で、ミソラが心中穏やかでいられるわけがないのだ。それに気づかないようなルナではない。ただ、それでもルナは言いたいことが一つだけあった。
「皆の心配するのも良いけれど、心が疲れちゃうわよ。今は自分の心配だけしておきなさい」
「あ、それはね……クシュン!」
ミソラがくしゃみをした。小さく体を震わせる。
「なんか、冷えてきたかな?」
「変ね、今日はそんな予報なかったと思うけれど」
ルナはハンターVGを開いて、今の気温を確認した。天候制御システムの予定通りで、秋に相応しいものだった。
『ルナちゃん、室温はどうですか?』
「室温……」
モードに促されて室温を見た。そして目を見開いた。
「え……待って、なにこれ!」
室温が低い。そして秒単位で下がっていく。見上げる。エアコンがうねる様な音を立てている。冷房が全力で稼働しているのだ。ルナも足から寒気が走ってきた。
「で、出ましょうミソラちゃん!」
「そうしよう!」
ルナにも分かる。これは脅迫状を送ってきた犯人の仕業だ。室温を下げる嫌がらせか何かだろう。だがルナの読みは甘かった。
自動ドアの前に立つ。だが何も反応がない。センサーの前にルナが立っているのに、なにも作動しない。開錠されない。ドアが開かない。
「ちょ、どういうこと!?」
『きっと犯人の仕業よ』
ミソラのハンターVGからハープが声を出した。
『ミソラをここに閉じ込めて、寒さで苦しめるつもりなのよ』
「嘘っ。そこまでするの!?」
ルナが思っていた以上にこの犯人は凶悪らしい。このままでは自分とミソラの命にかかわる。
「ルナちゃん、これ!」
ミソラはある物に手を伸ばした。先ほどミソラが来ていたセーラー服だ。ハンガーラックには他にもたくさんのステージ衣装が吊り下げられている。一つ一つがかわいらしく、ミソラが着るためにデザインされて、オーダーメイドされた一品ものだ。それを無造作にルナに被せた。
「これで少しはマシになるはずだよ」
「ありがとう、ミソラちゃん。モード、スバルくんに連絡して!」
『分かったよ!』
そうしている間にも、どんどん室温は下がっていく。床にうっすらと白い靄がかかった気がしたのは、きっと見間違いだろう。
確かに体は少し暖かくなったが、気休めだ。エアコンからは強風が吹き荒れて、部屋の空気をかき混ぜる。冷たい風がルナの体温を奪っていく。
ロックマン様が来てくれるまでの辛抱だ。すぐに来てくれるはずだ。だがその期待は裏切られた。
『た、大変だよルナちゃん。この部屋の通信も壊れてる!』
「え、そんな!」
人間のルナには分からないことだが、電波世界には異変が起きていた。ミソラの部屋につながっているウエーブロードの入り口。そこには巨大な氷塊ができあがっていた。デンパくんたちでは通ること叶わず、外に連絡ができなくなっていたのだ。念を入れたのだろう、氷塊の隣では一体のデンパくんが氷漬けにされていた。
「どうしたらいいかしら……このままじゃ……」
助けが来るのを待つしかない。外の人が、この状態を察知してくれるのを祈るしかない。だがいつまでこうして耐えていられるだろう。時間の問題だ。
こんな時にロックマン様は何をしているのだろう。来てくれるとしたらいつだろう。何分後だろうか。何十分とかかるだろうか。もしかしたら……。
唇を震わせるルナの肩に、手が置かれた。温かみを感じた。
「大丈夫だよ、ルナちゃん」
ルナと同様に、ミソラは服を羽織っている。その下から覗いた表情に、不安の色はなかった。
「必ず助けに来てくれるよ。スバルくんがいるから、大丈夫」
「ミソラちゃん……」
でも、知らないことには対処できない。それはロックマン様だって同じはずだ。耐えて待つしかない。
そう思った時だった。部屋の外に人の気配を覚えた。何かピッピッと機械音が聞こえる。誰かいるのだろうか。ドアに手を伸ばそうとする。そのドアが横に開いた。部屋の冷たい空気が漏れ出し、入れ替わりに暖かい空気がルナたちを包んだ。
ドアの前には、一人の少年。
「ミソラちゃん、大丈夫!?」
「スバルくん!」
ミソラが立ち上がった。可愛い衣装を放り投げ、スバルに駆け寄る。
「ありがとう、助けてもらっちゃって」
「良いよ。それより、大丈夫みたいだね」
「そういうスバルくんは大丈夫なの。私、お客さんやスタッフさんたちもだけれど、スバルくんが怪我してないかって……」
今もかがんでいるルナの前で、ミソラは何事もなかったかのように話していた。今さっきまで、寒さで震えていたはずなのにだ。ドアが開く少し前に、ミソラが言った言葉。それがルナの頭で反芻した。
「必ず……か」
「……え、委員長!?」
呟きが聞こえていたらしい。スバルは足元を見て、ようやくかがんでいたルナに気づいたらしい。こうなるとルナも何か一言言ってやりたくなる。勢いよく仁王立ちした。
「な、なんでここに委員長が!?」
「あら、私に対して言うことがそれかしら?」
「あ、えっと……大丈夫?」
「おかげ様で、この通りピンピンしてるわよ。お・か・げ・さ・ま・で!」
「はい……」
そうしている間に、エアコンからウォーロックとオックスが出てきた。エアコンからは暖かい空気が出てきていた。
「スバル、ウイルスは退治しておいたぜ」
「ブルル、エアコンとウェーブロードの氷も溶かしておいたぜ。デンパくんも無事だぞ」
「ありがとう、二人とも」
オックスの言葉を聞いて、ルナはふと疑問に思った。
「そういえばスバルくん、私たちが閉じ込められているって、なんで気づいたのかしら?」
「ああえっと……たまたまだよ」
スバルはごまかしたが、理由はちゃんとあった。犯人のウィザードを探すために、ウォーロックにはウェーブロードを探索してもらったのだ。その途中、ウォーロックは右往左往しているデンパくんとデンパちゃんを発見。事情を聞くと、ミソラの部屋に繋がる道に、氷塊ができていることを知った。すぐにスバルの元へと取って返すウォーロック。スバルは全速力でここへ駆けつけた。というわけである。
スバルにとってはややこしい話を省いたつもりだった。
「そう……」
「委員長?」
「なんでもないわよ」
ルナは平然を装った。すると、ずっとスバルの後ろにいた浦方が声をかけてきた。ミソラにだ。
「ミソラ、大変な目にあったばかりで悪いが、そろそろライブ準備だ。会場に行った方が良いと思うぞ」
「あ、そうですね。じゃあねスバルくん気を付けてね」
「うん、ありがとう」
「ルナちゃん。また後でね」
「ええ。ライブ、楽しみにしているわ」
先ほどまで凍えていたのがウソかのように、ミソラは別のスタッフに連れられて走っていった。
「っと、スバル。新しい脅迫が来た!」
浦方がスバルにエアディスプレイを見せた。スバルの顔色が変わる。
「急ぎましょう。じゃあね、委員長!」
「良いから、さっさと行きなさい。ミソラちゃんを必ず守るのよ!」
「了解!」
スバルと浦方も、慌ただしく走り去っていった。後には、ルナだけがぽつんと残された。モードが出てくる。
「ルナちゃん、かっこよかったですよ」
「……ありがとう。モードにはお見通しなのね」
「はい。だって、ルナちゃんのパートナーですから」
〇天候制御システム
天候を制御しているシステム。晴れにしたり、雨にしたり、気温を変えたりできます。
ただ、悪用されると危険です。200年ほど前には、震度10の地震が起きかけたこともあるらしいです。
参照.マロ辞典より抜粋