流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
カウントダウン!
残り2日!
電波変換したロックマンは、そのままプロジェクターの電脳へと入った。ミソラのライブ会場をイメージしてか、楽器のようなプログラムが並んでいた。それらのほとんどが凍り付いていた。この氷プログラムがライブ会場を冷やしているのだろう。
そして電脳の中枢に一体のウィザードがいた。
「あれがアイス……!?」
アイスの見た目はせいぜい3等身くらいだ。足がなく、宙に浮いているのだから当然かもしれない。だがこのアイスと思わしき電波体には、すらっとした長い脚があった。手も細長い。スカートのような腰回りに、頭には大きな二つの角……耳だろうか。額には赤いダイヤのような物……揺れているから髪の毛だろうか。なにより、切れ長の青い目が印象的だった。全体的に、フィギアスケーターという印象を受ける。
アイスと思わしき電波体はロックマンと目が合うと、サドスティックな笑みを浮かべた。
「やっぱり邪魔しに来たわね、ロックマン!」
「君はアイスなんだね?」
「少し違うわ。アタシは生まれ変わったのよ。ダイヤ・アイスバーンとしてのこの強大な力で、スズカの邪魔をするミソラを抹殺してやるの!」
「それを僕が許すと思っているのか!?」
腹の底から熱が沸騰するような感覚に陥った。それに促されるままにロックマンは攻撃を仕掛けた。
「プラズマガン!」
威力は低いが、確実に相手の動きを止めることができる単発銃だ。弾速も早い。アイスが水属性と考えて選んだ、電気属性のバトルカードだ。これなら確実に当たると思っていた。
だが残念ながら、ダイヤ・アイスバーンには届かなった。
「アイス・ブロック!」
ダイヤ・アイスバーンの前に二つの氷塊が生成されたからだ。床から少し離れたところで浮いている。電気の弾丸はそれにあったって、乾いた音を立てて弾かれた。
「氷の盾!?」
「と、思うのかしら?」
ダイヤ・アイスバーンがひらりとその場で一回転した。するとどうだろう、アイス・ブロックがロックマンめがけて飛んできたのだ。真っすぐ突っ込んでくる。
つまりそれは単調。躱すのは容易だった。
「さあ踊れ踊れ踊れ!」
そういうダイヤ・アイスバーン自身が回って踊る。どうやらそれがキーになっているらしく、氷塊の動きが変わった。90度曲がってきたのだ。片方の氷塊がロックマンの肩をかすめた。大したダメージではないが、少し痛みが走る。
『スバル、こいつはちょっと厄介だぜ』
「そうだね……」
自在に変えれるとなると、途端に難易度は跳ね上がる。氷塊の動きを見つつ、自分に当たる直前で大きく跳躍して避ける。きっと今のロックマンは、氷塊と共に舞を舞っているように見えるだろう。
「ロックマン……お前さえいなければ、ミソラはあの時いなくなっていた。スズカだって幸せになれたのよ!」
オックス・ファイアが暴れた時のこと言っているらしい。ロックマンはなおも避けながら、ダイヤ・アイスバーンに語り掛けた。
「君は、今自分がしていることを分かっているの。君のせいで大勢の人が大変な目に合おうとしている。ミソラちゃんが一生懸命頑張っている。それを見て、スズカちゃんがどれだけ心を痛めていると思っているんだ!?」
少しは考え直してくれるかもしれない。そんな期待は叶わなかった。
「スズカは甘いのよ。芸能界は邪魔ものを排除することから始まるのよ。その考えがなければ、トップにはなれないわ。だから、私が代わりにその役目を担うのよ!」
『スバル、説得は通じねえみてえだな』
「……そうだね」
さほど落胆はなかった。これだけの悪事をしでかしたのだ。よっぽどの覚悟か、頭のねじが飛んでいなければ、できるわけがない。だがもう一つの目的は果たせた。
ダイヤ・アイスバーンと会話し、時間を稼いで、肩の痛みが抜けるのを待った。この間にも、アイス・ブロックの攻撃パターンを観察していた。パターンが読めてきた。動きの角度を変えれるといっても、90度の直角の動きしかできないようだ。ならば円を描くように動いてやればいい。
向かってくる氷塊の真横に回り込むように動いて躱した。ダイヤ・アイスバーンが「あ?」と声を上げた。この位置では、氷塊はただの的だ。もう一つ、試したいことがあったのだ。
「デストロイアッパー!」
ロックマンの手が鉄の拳に変わった。それを下から突き上げる。拳が当たると、氷塊は激しい音を立てて粉々に砕けた。
「よし、壊せる!」
確かにこの氷塊は固い。だが全ての攻撃を防げる万能というわけではない。そして氷塊が一つになれば、後の対応は簡単だ。突っ込んでくるもう一つの氷塊に正面から向き合い、デストロイアッパーで粉砕した。
「プラスキャノン!」
丸腰となったダイヤ・アイスバーンに攻撃を浴びせた。ダイヤ・アイスバーンが悲鳴を上げる。
「アイス、降参してほしい!」
「嫌よ。諦めてたまるもんですか。ダイヤモンド・ダスト!」
ダイヤ・アイスバーンが両手を上にあげて、その場で激しく回転し始めた。その手には雪の結晶のようなものが見えた。
「横だスバル!」
ウォーロックがロックマンの右隣りに飛び出した。そしてロックマンの体を力任せに突き飛ばした。倒れるように移動しながらも、ロックマンは前方を確認した。ダイヤ・アイスバーンの、向かって右側から吹雪が襲い掛かってきたのだ。
「まずい!」
ウォーロックが突き飛ばした理由はすぐに理解した。近くに箱状のプログラムがあったからだ。その物陰に隠れてやり過ごした。だが問題も起きた。吹雪が通った後の床が凍っていたのだ。
「そういう作戦か……」
床が凍っていれば、当然ロックマンの動きには支障が出てくる。先ほどのアイス・ブロックを躱すのは困難になるだろう。
「これで俺たちをどうにかできると思ってんのか?」
「まあ、戦いなれてない割には、考えてるんじゃないかな?」
相手の足を奪うなど、戦闘の基礎だ。そんなのロックマンは何度も経験済みだ。ここは相手の作戦にあえて乗った。凍った床の上に立つ。
「今よ、行きなさい!」
ダイヤ・アイスバーンが再度踊り出す。アイス・ブロックが二つ生成され、ロックマンに襲い掛かってくる。氷塊が両脇から突っ込んでくる。
「バトルカード、ローリングナッツ」
木の実のような爆弾を手に取った。それを足元に置き、自分はシールドを展開した。これはリモート爆弾で、自分の意志で爆発させることが可能だ。ローリングナッツが爆発する。そして追加効果が発動した。床に草原が広がったのだ。当然滑ることなどなく、ロックマンは氷塊を軽く躱して見せた。ちなみに、一つはヒートアッパーというバトルカードで破壊しておいた。
「そ、そんな!」
こうなったら、もう一つの氷塊なんて気にする必要すらない。あっという間にダイヤ・アイスバーンとの距離を詰める。焦りに染まった彼女は、手に巨大なハンマーを召喚した。
「ぶ、ブレイクアイスハンマー!」
巨大な氷のハンマーがロックマン目掛けて振り下ろされた。それだけだ。
こういう武器は、どうしても攻撃前後に隙ができる。なので、敵の動きを封じてから使うのが鉄則だ。接近されて、破れかぶれに振るったこんな攻撃に、ロックマンが当たるわけがない。問題なく避けて、側面に回り込んだ。
「スタンナックル!」
電気の拳をダイヤ・アイスバーンの横腹に叩きこんだ。弱点属性をつかれ、悶えるように転がった。
「アイス、君の攻撃は僕には届かないよ」
ちょっときついかと思ったが、告げておいた。相手の戦意を少しでもくじいておきたい。その分戦闘は早く終わり、ミソラたちを救出できるのだから。
「さあ、おとなしく僕に倒されて!」
そしてバトルカードのフラッシュスピアを使った。電気を帯びた槍を手に、ロックマンはダイヤ・アイスバーンに歩み寄る。未だに立てずにいる彼女の顔が怯えと焦りで歪む。
だが次の瞬間に顔を歪ませていたのはロックマンだった。
「うわっ!」
何が起きたのだろう。敵は正面にいる。彼女の不意打ち。違う。彼女自身が状況を理解していない顔をしている。視線は後ろ。
振り返った。
「ウイルス!?」
雫のような形をしたウイルスがいた。確か、三日月型の水を飛ばしてくるやつだ。背後から撃たれたらしい。それだけではない、他にも何体ものウイルスがいる。
「前だスバル!」
「え? あ!」
ダイヤ・アイスバーンがロックマンから距離とろうとしているところだった。鳥のようなウイルスに捕まり、高速で離れていく。
「こんな時に、ウイルスが邪魔してくるだなんて……」
「違うぞスバル」
ウォーロックがビーストスイングで先ほどのウイルスを処理しながら、顎で物陰を指した。そこにはヒールウィザードがいた。まさかと思って周囲をうかがうと、合計三体のヒールウィザードが隠れていた。どうやら、安全なところからウイルスだけをけしかけているらしい。
先ほどの鳥のようなウイルスは、ダイヤ・アイスバーンを救出するために遣わしたのだろう。
「どうするスバル。囲まれてるぜ」
さらに4体のウイルスが加わった。どうやら、ヒールウィザードが一度に使役できるウイルスは、二体が限界らしい。そしてダイヤ・アイスバーンは笑みを浮かべながら氷塊を二つ召喚した。
「どういう理由でウイルスが味方してくれているのは分からないけれど、好都合だわ。行きなさい!」
ダイヤ・アイスバーンの声に合わせて、一斉攻撃が始まった。5体のウイルスと、氷塊二つが一斉に襲いかかってくる。こちらはロックマンとウォーロックの2人に対して、相手の手数は7。単純な戦力差は3.5倍だ。圧倒的な無勢。数に気おされ、恐れおののき、とりあえず逃げる。それが本能に従ってとるべき行動だろう。だがそれは凡人がすることだ。
彼らは分かっているのだろうか。今相手にしているのが何者なのかを。
「おうおう、数だけ揃えやがって」
「とりあえず、ウイルスから処理しようか」
この程度、窮地でも何でもない。もっと多くの敵を一度に相手にし、突破してきた経験がある。しかもご丁寧に、敵は7方向から真っすぐに突っ込んでくるだけなのだ。こんな状況、バトルカード1枚で打破できる。
「アイススピニング!」
ロックマンが召喚したのは、一体のペンギンだった。といっても結構大きい。ロックマンの身長の半分くらいはある。太っているのか、横幅がでかくて重い。それを両手で抱え、回すように送りだした。
ペンギンはコマのように回転し、床を滑っていく。氷塊の一つにぶち当たって粉砕した。勢いを衰えることなく、近くの壁に当たった。そしてこのバトルカードの効果はここからが本番である。壁を砕くことなく、音を立てて跳ね返ったのだ。ホッケーのようにだ。今度は二体のウイルスを破壊した。そこからのロックマンは、ほぼ見ているだけだった。ロックマンの周囲をアイススピニングが跳ね回り、ウイルスたちにダメージを与えていく。
ようやくペンギンが止まって消滅したとき、残ったウイルスは二体だけだった。それも瀕死状態だ。ウォーロックが自慢の爪で軽く始末した。
「ロック、ヒールウィザードは?」
「逃げたみてえだな」
「そっか……」
いったい何だったのだろう。今はどうでもいい。早くダイヤ・アイスバーンとの決着をつけるべきだ。そのアイスはというと、顔を引きつらせていた。目をむき出しになるほど大きく開いている。
「私は……私は、負けられない。負けられないのよおおお!」
ここまで来てもあきらめないアイス。彼女のスズカを思う気持ちの大きさが推し量れるというものだ。
ダイヤ・アイスバーンはまたその場で舞を舞った。途端に吹いてくる吹雪……ダイヤモンド・ダストだ。最大の必殺技のようだが、それはもう見た。対策も考えてある。
「ダブルストーン!」
バトルカードの一種だ。ただ四角い岩の塊を二つ召喚するだけの効果だ。その後ろに隠れて、ダイヤモンド・ダストをやり過ごす。
「イナズマヘッドをここに……と」
そして遮蔽物に隔てられたこの状態でも、できる攻撃はある。角度は上からだ。ロックマンはもう一つの岩の後ろに、黄色い竜の頭を置いた。これは雷を降らせる装置だ。数秒後に、竜の頭に帯電が起きた。だんだんと電気が大きくなっていく。最大までたまった時、口を大きく開いて電気を空へと打ち上げた。
ダイヤ・アイスバーンの頭上から。轟音と共に特大の雷が襲い掛かってきた。その場で踊っていた彼女が気づいて避けるなど、到底無理な話だろう。
吹雪がやんだと同時に、ダブルストーンを乗り越えて、ダイヤ・アイスバーンに接近した。なんとか起き上がろうとするダイヤ・アイスバーン。だがダメージが大きいらしく、すぐには動けないようだ。なので、ここはこのバトルカードが良いだろう。
「ハンマーウエポン!」
巨大なハンマーだ。その使用目的は単純にして明快。結果もだ。それを大きく振りかぶった。
「や、やめ……」
「痛いけれど、これで最後だから!」
力の限りにハンマーを振り下ろした。ダイヤ・アイスバーンの体が砕ける。彼女の手はとうとう力なく床に落ちた。同時に弾ける電波粒子。そこには元の姿に戻ったアイスが横たわっていた。背中には黒いカードのようなものが張り付いている。彼らの周りには赤い電波……ノイズが漂っていた。
「……終わったな、スバル」
「うん。これでステージの異変も戻ってると……うっ!」
「スバル!?」
ロックマンが膝をついた。呼吸が荒い。
「大丈夫か、おい。なにか食らったか?」
「いや、たいして受けてないはずなんだけれど……」
思ったよりも時間がかかったが、結局ロックマンが攻撃を受けたのは二回程度だ。それも大きなダメージとは言い難いものだ。
「どっちかというと……痺れる?」
「痺れ……もしかして、ノイズの影響か?」
ウォーロックがノイズに手を近づけた。そしてすぐに引っ込めた。
「スバル、やっぱりこれだ。俺も少し痺れた」
「さ、触らない方が良いよ。それに前回と同じなら、もうすぐ……」
スバルが言い終わる前に、ノイズは集まりだし、赤黒い塊……クリムゾンへと姿を変えた。スバルの予想通り、何かに吸い寄せられるかのように、電脳世界の空……外へと飛び立っていった。
結局、あれはどこに行くのだろう。
「今は考えても仕方ないか」
とりあえず、気絶しているアイスを連れて行こう。スズカが心配しているはずだ。
〇ボツネタ②
マナブの、もう一体のウィザードであるコイル。彼は原作では、スペード・マグネッツのステージでのギミック対策要員になって活躍してくれました。その設定を流用して、彼がロックマンの戦闘を補助するという展開も考えました。
設定としては……マグネッツが磁場操作をしてロックマンの体の自由を奪う。コイルがやってきて、ロックマンを補助する。コイルの思いを受け取って、ロックマンが倒す。
という展開です。ですが、ロックマンはジェミニ・スパーク、ブライ、エンプティーという強敵たちと戦ってきました。そんな彼が、スペード・マグネッツごときに磁場操作されたぐらいで苦戦するだろうか。そして、戦闘能力ほぼ皆無のコイルに助けられるってどうなのだろう。それはロックマンという格を落とす行為ではないだろうか。
戦う力のない者が、意外な活躍をするというのは面白いし、私も大好きな展開です。ですが、これまであまり出番のなかったコイルに焦点を当てても、盛り上がらないだろうなと考えて、やめました。
コイルは、今後はマナブのウィザードとしてちょいちょい出てくる程度に収めようと思います。