流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
カウントダウン!
残り1日!
ロックマンがダイヤ・アイスバーンを倒したころ、この事件の仕掛け人たちはオクダマスタジオの屋上にいた。基本的に人が立ち入らないことと、時間が夜になりつつあることもあり、人気はない。悪事の顛末を見届けるにはうってつけの場所だろう。
クインティアは右手に持った白いカプセル状の物を高く掲げた。それに吸い寄せられるように、赤い塊……クリムゾンが集まりだした。そう、これは発生したクリムゾンを収集する道具だ。優に50センチはあろうというそれはすぐに満杯になった。
「どうだ姉ちゃん?」
「まずまずと言ったところかしらね。スペード・マグネッツが発生させた分より、少しだけ多いくらいかしら」
クインティアの声には落胆の色が見えた。3枚しかない特別製のカードを使ったことを考えると、もっと欲しかったというところだろう。
「まあ仕方ないわ。今回は期待外れだったと思いましょう」
「おい、それはどういう意味だ?」
クインティアとジャックの後ろから声がかかった。そこには3体のヒールウィザード。ロックマンとダイヤ・アイスバーンとの戦いに横やりを入れた連中だ。
「あら、答えないと分からないかしら?」
「ふざけんな! キング様からの指令で来てみれば、いきなり任務を言い渡されて、戦わされて、俺たちは手持ちのウイルスが全滅だ!」
「それだけじゃねえ、最初は4人もいたんだぞ」
「1人やられちまったじゃねえか!」
その1人とは、ウォーロックとオックスの手によって倒されたやつのことだろう。
「あら、何を怒っているのかしら。ダイヤ・アイスバーンの計画の補助要員が欲しかったから呼んだ。ロックマンの集団戦のデータが欲しいから、あなたたちに指令を与えた。あなたたちはどちらもろくにこなせなかった。弱いからやられた。それだけの話でしょう?」
「なんだと……」
ヒールウィザードたちが前に踏み出した。
「おいこのアマ……ディーラーの幹部か何か知らねえがな、ここまでコケにされる理由はねえんだよ」
先頭の一人が電気の鞭を取りだすと、残る二人も同じようにした。これを見て、黙っているジャックではない。クインティアとの間に立つ。
「お前ら、姉ちゃんに手を出してみろ。俺が……」
『キャハハ!』
この緊迫した空間に、無邪気な声が響いた。場違いな高い声に、二人と三体は静まり返った。
『ねえティア~。最近バトルしてないからご無沙汰なの。いいでしょ、ねえ!』
「はぁ、良いわよ。付き合ってあげるわ」
クインティアはポケットからハンターVGを取り出した。どうやら彼女のウィザードのおねだりらしい。
『ありがとう、ティア大好き!』
「どうも」
クインティアはそっけなく答えると、ハンターVGを手に掲げた。
「電波変換……」
トランスコードではなく、その合言葉を口にした。クインティアの体が赤と水色の電波粒子に包まれた。
「構えろ!」
ヒールウィザードたちが気合を入れなおし、構える。その腕が飛んだ。頭から腕にかけて無数の穴が穿たれる。おそらく、彼らは頭上から無数の弾丸に撃ち抜かれたことにも気づかなかっただろう。体が崩壊し、跡形もなく消滅した。
「思った以上に使えなかったわね」
電波変換を解き、クインティアは数秒前と変わらぬ口調で呟いた。
「良いのか、姉ちゃん?」
「良いのよ。この程度の手駒はいくらでもいるわ。ヒールウィザード以外にも戦力はあるし」
クインティアはエアディスプレイを開いた。そこにはロックマンとウォーロックの姿と、いくつも数値の羅列があった。
「この程度の損耗でロックマンのデータが取れたのよ。ミスターキングも満足するでしょうね。特に、ウォーロックのデータがたくさん取れたのは僥倖よ」
『ウォーロックねえ、懐かしい名前だな』
低い男性の声が、ジャックのハンターVGから聞こえたきた。中から一体のウィザードが出てきた。
黒い翼に、折れ曲がった鋭い嘴。ナイフのような爪に、背中の翼からは炎のような赤い電波粒子が放出されている。その姿を例えるなら、炎のカラスというところだろう。
「コーヴァス、ウォーロックってやつとは知り合いか?」
『キャハハ、知り合いっていうか~』
今度はクインティアのウィザードが出てきた。
水色の胴体と、頭と肩と腹部の下には赤い装甲。頭からは水色の電波粒子が両サイドから出ている。そして左手には一本の杖。腹部には水が入っているのだろうか、白い泡のようなものが見える。
「長い付き合いっていうか~。ねえコーヴァス?」
「ヴァルゴの言うとおりだ。昔馴染みってやつだな。俺たちがFM星にいたころの話だから、結構前だな」
勝手に二人で懐かしんでいる。といっても、ろくなものではないだろうとクインティアは予想はしていた。このコーヴァスとヴァルゴを知っていたら、当然のことだ。
「ティアのウィザードになって良かったわ。全然退屈しないんだもの!」
「で、ジャック。次はどんな事件を起こすんだよ」
「計画は姉ちゃんに任せてるからな」
だったら、もう少しいうことを聞いてほしいところだ。クインティアは別のエアディスプレイを開いた。学校のスケジュール表だ。
「もうすぐ、修学旅行が始まるわ。行先はここよ」
ジャックと、コーヴァスとヴァルゴが行先を見て首を傾げた。
「ここに何かあるのか?」
「ええ、三枚目のカード……クラブの称号に相応しい者がいるわ。マグネッツやアイスとは大違いのね」
「そうか、そいつは楽しみだぜ!」
「ティアって、ほんと面白いこと思いつくよね~」
ウィザード二人の称賛を軽く受け取っておいた。
「というわけで、今日の活動はここまで。帰るわよ」
「分かったわ」
「おうよ」
ヴァルゴとコーヴァスはハンターVGへと戻っていった。するとジャックは踵を返した。
「じゃあ姉ちゃん。俺、ライブに行ってくる」
その日、クインティアはもっとも険しい顔をした。
「ジャック……行かなくてもいいのよ。もう計画は終わったのよ」
呼び止められたジャックは、気まずそうに頬を掻いた。
「いや……ほら、修学旅行のとき、その……自然にふるまっていた方が良いだろ?」
どうやら、スバルたちの友人のふりをして、できる限り油断を誘う作戦らしい。
「……そう、あなたにしては仕事熱心ね」
「ああ、だから先に帰っててくれ」
「ええ。そうするわ」
弟は電波変換をしてこの場を去った。適当なところで解除して、ライブ会場に紛れ込むつもりなのだろう。
『キャハハ。ティアったら、何を心配してるの?』
「……そうね、きっと杞憂ね」
この抱いた違和感は気のせいだろう。ジャックの心の闇は自分が一番理解している。友情、絆、ブラザーバンド……彼がくだらないと思っている物だ。それにうつつを抜かす、星河スバルとその友人たち。ジャックにとって、この世で最も嫌いなもののはずなのだから。
◇
スバルとウォーロックはライブ会場の下にいた。彼らの前には言い争いをしているスズカとアイスと、それを見守っている浦方がいる。ダイヤ・アイスバーンとの戦いが終わった後、気を失っていたアイスをプロジェクターの外に運び出した。電波変換を解いた後に、何食わぬ顔でスズカと浦方に連絡を入れたのだ。
運がいいことに、アイスは暴走していた時の記憶はほぼ忘れているらしい。自分が悪事をしていたところをウォーロックにとっちのめされ、こうして連行されたと勘違いしてくれた。
そして、今はスズカから説教をもらっているところだ。
「アイス、なんでこんな事をしたの!?」
「決まってるでしょ。スズカ、あなたを一流の女優にするためよ。そのために、ミソラは邪魔なの!」
アイスの言うことも一理あると思う。邪魔な人は排除してでも自分の目的を叶える。それが芸能界のような競争激しい世界ならなおさらのことだろう。
「だからと言って、ミソラをけなしても良い理由なんてないよ!」
「甘いのよあなたは。自分が上に立つためには、誰かを蹴落としてでも這い上がる必要がある。それをしなければ絶対に勝てないのよ!」
スズカは首を横に振った。
「アイスはミソラの何を見ていたの?」
「何をって、いつもあなたの出番を横取りして……」
「そうじゃないよ。ミソラが誰かを傷つけたことがあるかって訊いてるの」
その言葉にアイスは押し黙った。スバルはスズカの言葉に頷いていた。
「ミソラはいつだって、誰かのためにって歌ってるんだよ。アイドルとしてのし上がりたいからって、他の誰かを攻撃したりしたことなんてある?」
「僕は……」
そこでスバルは口をはさんだ。
「僕はミソラちゃんのアイドル活動についてはそこまで詳しくいないんだけれどさ。そんなことしないと思うよ」
「し、知らないのならなんで……」
「これでもミソラちゃんのブラザーだからね」
ミソラとは今まで何度も一緒に戦ってきた。二度ほど仲違いしたことはあるが、ミソラは己を投げうってでもスバルの力になってくれた。なによりも彼女が歌う動機を知っている。亡き母親を悲しませるような過ちを、彼女が繰り返すことはないだろう。
「ミソラちゃんは皆を笑顔にしたいから歌ってるんだ。その皆の中には、同業者のアイドルや、自分を嫌っている人も入ってるんじゃないのかな?」
スバルの隣では、ウォーロックが首を掻いた。
「まあ、ミソラが暴走しようもんなら、ハープが止めるだろうな。あいつはそういう女だ」
「そうなの?」
「尽くす女らしいぞ、本人曰くだがな」
ウォーロックは肩をすくめて見せた。
「そんなミソラだから、俺たちも手を貸したいと思うんだ」
傍観に徹していた浦方も加わった。ミソラサポーターズの働きは、ただの仕事以上のものだったのが良い証拠だろう。
何も言えなくなるアイスに、スズカは告げた。
「そんなミソラだから、私は好きなの、憧れで、目指すべき目標で、ライバルなの。だからお願いアイス、今回みたいなことは二度としないで。そして、私を支えてほしいの」
「スズカ……」
これだけの事件を起こしたウィザードはヒール認定され、処分されるのが常だ。だがスズカはそんなことするつもりはないらしい。
「ね、お願い。私のマネージャーが務まるのは、アイスだけなんだから」
「……分かったわ。ありがとう。そして……」
スバルと浦方に頭を下げた。
「ごめんなさい」
「いいよ、もう」
スバルとしては特に思うことはない。ミソラが無事だった。それだけで十分だ。裏方はまだ不満がある顔をしていた。
「正直言うと、まだ文句を言ってやりたい気分ではある。けれど今回の立役者が許すって言うのなら、もう俺も何も言わねえよ。コンサートも無事に……」
その時、スバルは初めて見た。裏方が「あっ!」と大声を上げているところを。
「しまったスバル。もうラストソングだ!」
「あ!」
そういえば裏方に言われていた。ラストソングだけは聞いてほしいと。観客たちをヒートアップさせるために、ノンストップで歌っていたのだ。スケジュールが前倒しになってしまったのだろう。
「エレベーターは動くようになった。急いでくれ!」
「は、はい!」
スバルは慌ててエレベーターに乗った。裏方とスズカと共にライブ会場へと向かう。大きくなってくる歓声。降りると、異常に熱した会場と観客たち。その最後尾にジャックがいた。
「遅かったじゃねえか、スバル」
「ジャック、来てくれたんだ」
「……まあ誘われたしな。最後だけは聞いていこうと思って」
「ありがとう。きっといい曲だよ」
ステージの上には汗をぐっしょりとかいたミソラ。彼女が皆に手を振る。
今日のライブの、最後の曲が始まろうとしていた。
〇ボツネタ③
2章では、キング・ルーツを登場させようかと考えていました。あ、でっかいデンパ君のことです。
彼の一声で、多数のデンパくんが動き出し、ミソラのライブ妨害を食い止めるために、情報収集に一役買ってくれるような展開です。
ですが別に登場させる必要ないなと考えて、やめました。
なんていうか……存在がギャグみたいなやつなので、シリアス展開に出したらあかんなと……。