流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
いや、3年ぶりですね。もの凄く長い時間、投稿を止めてしまい、申し訳ございません。
この3年の間に、転職活動したり、資格勉強したり、同人誌に参加したり、流星のロックマン パーフェクトコレクションが発売されたり、色々とありました。
また、今回のオリジナルストーリーがどうやっても面白くならず、書いては時間を置いて、別の形で執筆してはやっぱり面白くならず……と悪戦苦闘しておりました。
この度、ようやく納得のいく出来上がりとなったため、投稿させていただきます。
毎週日曜日の0時更新となります。
どうぞお付き合いください。
39.BIGWAVE。それは面倒な奴がいるところ
『ジャック、ずらかろうぜ』
ああ、相棒の言う通りだ。
『もう嫌なんだろ。俺もこんな面倒な事はごめんだぜ』
そうだ、うんざりだこんな茶番。そして見るがいい。面倒事に巻き込んでくるドリル女の哀れな姿を。
『お前は別に、あいつらとお友達でも何でもないってのによ。助ける理由なんざねえしな。さっさと帰っちまおうぜ』
その言葉に笑みが浮かんだ。そうだ、迷う理由など微塵もないのだ。ただ一言口にするだけで、このくだらない時間から解放されるのだ。
「そうしようぜ」
意を決すると、ジャックはハンターVGを前方に掲げた。
◇
ミソラのライブが終わった次の日の朝。ジャックはコダマタウンの道を歩いていた。足を向ける先は公園。日曜日の朝ということもあり、のんびりとした空間になっていることだろう。だがそこに向かうジャックの足取りは重たいものだった。
「この町で一番良いバトルカードショップ……。それがあの店かよ……」
エアディスプレイで開いているのは、お店のレビューサイトだ。最も高い評価を得ている店の名前はBIGWAVE。ジャックには少しばかり縁がある。
この町に来た初日、ロックマンが来るかもとウイルスをけしかけた店であり、先日は屋根の上からスバルを襲撃しようかと考えた場所でもある。そう考えると、少々足を踏み入れづらくなった。
「やっぱり行きたくねえ……」
そのつぶやきが聞こえていたらしい。ハンターVGからコーヴァスの声が聞こえてきた。
『ジャック、そもそも俺たちにはバトルカードなんて必要ねえんじゃねえのか?』
「俺もそう思ってたんだけれどな……」
スペード・マグネッツ、ダイヤ・アイスバーン。この二体の捨て駒のおかげで、ロックマンの戦闘データはある程度取れた。奴の最大の長所は、戦いの幅広さと、状況対応能力にある。
敵の特徴を理解し、瞬時に変わっていく戦況を把握し、多種多様なバトルカードの中から的確なものを選び、使い分けてくる。カードの組み合わせまで考えたら、戦い方は何万通りに広がる。奴の頭の中では、どれだけの思考パターンが形成されているのだろうか。それも敵の攻撃に身をさらしながらでだ。
この離れ業をやってのけるのは、歴戦の強者だからだろう。強敵たちとの戦いの中で磨かれた戦闘スキル。流石はヒーロー様だ。
だが、それがどうしたというのだ。戦闘経験ならこちらだって負けてはいない。スバルがウォーロックと共に戦いだしたのは、わずか半年前だという。それに比べて、自分は幼少の頃より戦闘訓練を受けてきた。相棒のコーヴァスも一流の戦士だ。
あんなロックマンとかいう温室育ちの平和ボケには負けない。必ず勝てると言い切れる自信がある。いや、奴のデータが集まった今は確信へと昇華している。ロックマンなど、俺とコーヴァスの敵ではない。
だがそれに反論してくるのが、あのおっかないお姉さまである。「念には念を入れて準備しなさい」という一言で、バトルカードショップに来ることになってしまった。
「戦い方の幅を広げるってなら、やっぱりバトルカードなんだろうな」
『その点はハンターVGに感謝だな。バトルカードが使いやすくなったからよ。ククク、サテラポリスのやつら、敵の戦力まで上げちまってることに、気づいてんのかね?』
「気づいてねえだろうよ、馬鹿だろうからな」
もしくは、そんなことになりふり構っていられないくらい、戦力を求めているのかもしれない。まあ、こちらはありがたく利用させてもらうだけだ。
「しょうがねえ、行くか」
コーヴァスと会話している間に、BIGWAVEに到着した。室外機を見ると、新しい物に買い替えたらしい。まあ気にすることではないだろう。店にかけた迷惑程度、自分と姉がやろうとしていることに比べたら些事というものだ。
「いらっしゃい的な!」
中に入ると、サングラスをかけた陽気な店長がお出迎えしてくれた。確か、先ほどの情報レビューサイトによると、南国ケンというらしい。
「おや、この店は初めてかな?」
この言葉に驚いた。つい聞き返してしまった。
「お前、客の顔をいちいち覚えてんのか?」
この質問に、南国はニッコリと笑って答えた。
「もちろんさ。この店に来てくれる人は、皆顔を覚えているよ。大切なお客さんだからね」
そう言えばレビューには「客のバトルスタイルに合わせて、有用なバトルカードを進めてくれるなど、相談にも乗ってくれる」と書いてあった。どうやら、店の評判は本物らしい。
だがこの距離感が近い接客姿勢。親しい人を作りたくないジャックとの相性は、あまりよくなさそうだ。
そんな彼に追い打ちをかけるように、南国ケンのハンターVGから声がした。
『ハ~イ、君もこの店の波に乗っていくか~い?』
言い終わるが早いか、そいつはハンターVGから出てきて姿を現した。太陽に胴体が生えたような見た目だ。
「俺の名はサーフ。アイボー、南国ケンのウィザードさ! 今後ともヨロシクね~! チュぱっ!」
っと投げキッスをしてきた。「うわっ……」という声が出そうになった。
「さあさ、お客さんは何をお求めかな? 僕らが力になる的な?」
あ、この店は駄目だ。このコダマタウンにとっては凄く良い店なのだろうが、自分には合わない。致命的に合わない。これは退散するのが良さそうだ。
踵を返そうとしたジャックの足を、別の声が止めた。
「あらジャックじゃない」
女の子の声だった。ジャックは飛び上がって振り返った。
「ゲッ、ドリル女!」
「誰がドリルよ!」
学級委員長にして、ルナルナ団とかいうお笑い集団のリーダーで、星河スバルの親分で、ジャックにとっては害悪の塊のような存在である、白金ルナがそこにいた。ご自慢のツインドリルは、今日も後頭部で元気に跳ねている。
「なんでお前がここにいるんだよ」
「そんなの、バトルカードを買うために決まってるじゃない」
するとルナのハンターVGからモードが出てきた。
「私、バトルは苦手なんです。ウイルスと戦うの、凄く怖くて……それで、ウイルスたちの動きを止めるようなバトルカードがあれば、私でも戦えるんじゃないかなって!」
途端に、南国ケンのサングラスが光った。
「オッケー、それならこれ……パニッククラウドなんてどう的な?」
「こいつは便利だぜ。複数の敵のプログラムに干渉して、一時的に混乱状態にできるって代物さ」
サーフの補足説明に、ルナとモードはすぐに頷いた。
「分かりました。それをください」
「まいどあり!」
瞬く間に取引が成立した。どうやらこの店長、結構なやり手らしい。
「ところで、ジャックくんはどんなカードをお求め的な?」
「あ、いや……接近戦用のバトルカードが欲しかったんだけれど……今日は良いや」
さっさと立ち去ろう。ドリル女もこの店長とウィザードも苦手だ。だが逃がしてはくれなかった。
「っていうか、ちょうど良かったわ。ジャック、今から付き合いなさい」
「……は?」
なにを、さも当然とばかりに言ってくるのだ、このドリルは。
「いや、なんで……」
「ヤエバリゾートにいる友達が困ってるらしくって、今から行くところなの。さ、エスコートしなさい」
「いや、だからなんで俺まで!?」
「まあまあ、良いじゃない的な?」
文句を言ってやりたいのに、南国ケンが横から口を出してきた。
「ン~、いいねえ! ヤエバリゾートっていや、有名な観光地さ。海は無いが、別の波に乗れるぜ!」
「そんなところに友達と行くなんて、きっと楽しいよ」
サーフもケンも、完全に他人事だ。一発殴ってやりたいが、後で姉がうるさそうだから、やめておこう。
「それに、こうして誘って貰えるって、青春的なものだよ」
「そうそう、大人になるにつれて、かけがえのない思い出になっていくものさ」
いや、ウィザードが言うなよ。ついこの間生まれたばかりだろうが。という文句を言う気力もなかった。
行きたくないが、行くしかないだろう。姉に報告すれば、100%の確率で「行きなさい」と言われる。断れば「星河スバルたちに近づくチャンスだったじゃない。なぜ断ったの?」とおっかないモードになる姉が待っている。ジャックに選択肢はないのだ。
結局、バトルカードを買う元気もなく、上機嫌のドリル女に連れられて店を後にした。その足取りは、重いというよりは引きずるようなものになっていた。
〇南国ケン
バトルカードショップ『BIGWAVE』の店長さん。
『的な』という語尾を使う、気さくで明るいお兄さんです。
お酒が好きみたいで、ハードトロピカルという秘蔵のお酒があるのだとか。
〇サーフ
南国さんのウィザード。
こっちも負けずと明るいです。口癖は「ハ~イ」です。
なんでも、ウェーブに隠された暗号を探す航海に憧れているのだとか。
何のことなんでしょうね。
〇BIGWAVE
バトルカード専門ショップ。コダマタウンの公園にあります。子供からご高齢の方まで、多くの人に愛されています。
参照.マロ辞典より抜粋