流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
また、前回参加した同人誌はスバミソ本で、キズナカンストという名前です。
ぜひ、検索してみてください。
走る。いや、飛ぶ。飛んでいく。それは自分ではない。景色がだ。
「いやっほー!」
ジャックは大きくジャンプした。空中に体が浮く。それはほんの1、2秒の僅かな時間。それで充分だ。体に刺激が駆け抜けるのには。リアルウェーブ製のスキー板がセミオートに動き、ジャックの足を閉じさせ、リアルウェーブでできた雪を捉えた。
「すげえな、スキーって」
「そうでしょ、楽しいでしょ」
滑田アイがジャックの後から追い付いてきた。続いてドリル女とゴン太だ。言うまでもないが、皆スキーウェアに身を包んでいる。ジャックのは紫色だ。
「もちろん、アイちゃんのヤエバリゾートだからってのも大きいけれどな」
「なんでゴン太が誇ってるのよ」
「コースを褒めてくれてるんだよ。ゴン太くんは」
ゴン太が威張るのが少々イラっとしたが、そんなことはどうでも良い。きれいな雪、光量豊かな快晴、最高のスキーコース。そう、これぞヤエバリゾート。観光客の満足度星5のヤエバリゾートでのスキーなのだ。
「……って、そうじゃねえ!」
ようやく、ジャックは自分が間違っていることに気づいた。ドリル女たちが驚いた顔でジャックを見た。
「なんで楽しくスキーやってんだよ! そう、お前! 滑田アイ! なんか困っててドリル女たちを呼んだんじゃねえのかよ!」
そもそも、ジャックがこのヤエバリゾートに来たのは、ドリル女に無理やり連れて来られたからだ。そのドリル女たちがここに来たのは、滑田アイを助けるためだ。まあ、どうせ生徒会長選挙の票目当てだろうが。
ようやく現実に戻ってこれたジャックに、ドリル女たちは笑って答えた。
「ああ、それね。まだ時間が早いのよ」
「だから、それまではスキーしてようぜ! ってなったんだよ」
「フフ、あの時は大会前だったから、一緒にスキーできなかったもんね。スバルくんとキザマロくんにも会いたかったな~」
3人で楽しそうに話している。もちろんジャックは気に食わない。
「じゃあ、せめて情報共有しろよ。時間あんだろうが!」
なんて無駄な時間を使わせてくれたのだろうか。いや、結構楽しくはあったが……。
「そうだね。ごめんね。ジャックくんは、私の依頼内容について知ってると思ってて……」
申し訳なさそうにする滑田アイの隣で、ルナが軽く手を横に振った。
「違うわよ、アイちゃん。私が伝えるの忘れてたわ」
「そうそう、アイちゃんは悪くねえ」
「良いから、早く教えろ!」
グダグダと会話が続くせいで、話が進まない。さっさと、その問題とやらを話してもらいたい。
「うん。これはね、うちの……私のお父さんが経営している、ヤエバリゾートの従業員さん。まようさんとくろみさんが、休日デートしていた時の話なんだけれど……」
アイがトツトツと語りだした。ジャックは聞きこそしたが、殆どは必要のない情報として切り捨てた。簡単にまとめると、その2人は山頂で、奇怪な声を聞いたらしい。時間はお昼過ぎくらい。その原因を調べて欲しい。というのが今回の依頼らしい。
「でもよ、そのヨヨヨって声。観光客がふざけてただけじゃねえのか?」
「そう思って2人も辺りを見回ってみたんだけれど、人影が見当たらなかったらしくって……」
「五里のやつが邪魔してきたこともあったし、不安だよな」
「うん、リフトの調子もたまに悪くなるし、心配で……」と頷く滑田アイを余所に、ジャックは「あ~……」と小さく呟いた。ハンターVGで、以前ヤエバリゾートで起きた事件について軽く調べると、エアディスプレイを閉じた。
「分かった。調べりゃ良いんだな」
「うん、よろしくね」
「……おう」
万が一ということもある。一応、今回は同行しておいた方が良いだろう。
◇
それからもう少しだけ遊んで……いや違う、遊びに付き合わされた後、ジャックたちはリフトに乗って、山頂に向かっていた。前のリフトに乗っているゴン太と滑田アイは楽しそうに話をしている。「オックスの炎で牛肉あぶって、炙り牛丼にするとうめえんだよ」「それ美味しそう。私も試してみよっと」と、中身のなさそうな会話をしている。
自分の隣にはドリル女だ。
「あの二人、仲良いでしょ」
「ん、ああ……」
聞こえてくるのは、ゴン太の物が多い。「任せてくれ、俺がアイちゃんの悩みを解決してみせるぜ!」というものだ。アイも嬉しそうにしている。
それにしてもこのリフト、滑田アイが言っていた通り、少し動きが悪い気がする。ちゃんと整備しているのだろうか。
「ゴン太のやつ、えらい張り切ってるな。そんなに良いところ見せたいのかよ」
正直に言って、自分では分からない感覚だ。
「それもあるでしょうけれど、一番はアイちゃんの力になりたいって気持ちだと思うわ」
「は、何か違うのか?」
「全然違うわよ」
ドリル女は当たり前だと首を横に振った。
「アイちゃんって、自分を応援してくれる人たちの期待に応えたい。その人たちに喜んでもらいたい。っていう気持ちで、練習に励んでるの。ちゃんと練習に集中できるように、アイちゃんの不安を一つでも減らしたい。ゴン太はそう思ってるんじゃないかしら?」
「……は?」
なんだそれは。
「バカバカしい」
声に出てしまった。
「ちょ、ジャック! なんてこと言うのよ!」
「いや、だってよ……」
ドリル女の睨みに怯むことなく、ジャックは自分の気持ちを語った。
「練習とか努力ってのは、自分のためにすることだろ。自分が何かしたいことがあるから、成し遂げたいことがあるから、必死に頑張るんだろうが。それを他人のためにって……そんなの、自分の人生を捨ててるだけじゃねえか」
ジャックからすれば、他人に体よく使われているようにしか思えない。自分の人生も時間も、そこで積み上げたものも、全ては自分のためにあるべきだ。それが当たり前だ。
「……そうね。ジャックの言うことも正しいと思うわ」
いや、思うじゃないだろうが。自分の利益第一で動いているドリル女が、一番分かっているはずだ。
「けれどね。自分がしたことで、誰かが喜んでくれる。それって、凄く嬉しいことだと思うわよ」
「そんな事、あるわけないだろ」
「……そう?」
最後の言葉は、少し悲しそうな色があった。てっきり、食って掛かってくるかと思ったが、そんなことはなかった。何なのだろう、調子が狂う。
「俺は、他人のために行動するなんて、バカのすることだと思うぜ」
そうだ。結局、人は自分のために行動するのだ。このドリル女の生徒会長選挙が良い例だ。生徒のためにだとか言ってるが、結局スバルたち下僕をこき使って、生徒たちに良い顔をして、自分が権力と栄誉を手に入れたいだけだ。欲望の権化みたいな女が、何を言っているのだろう。
と、そこまで考えた時だった。ジャックはふと思い出した。昨日の、オクダマスタジオの出来事。響ミソラのドラマでの、エキストラ出演。監督から降りてと言われた自分。代わりに降りると宣言したドリル女。軽くではるが化粧をして、普段はとは異なる服を着てくるほどに、楽しみにしていたイベント。あの時、彼女はどんな気持ちだったのだろう。そう、確かこう言っていた。「私の分も楽しんでちょうだい」
「……あ」
思わず口をふさいだ。あの後、ロックマンが出てきて、エキストラは全員排除になった。どちらにせよ、ドリル女は出演できなかった。だが問題はそこではない。
「えっと……」
「さ、降りるわよ」
「え、あ!」
リフトが山頂に到着していた。ドリル女に続いて、慌てて降りる。
「ルナちゃん、ここが山頂だよ。見てみて、いい景色でしょ」
「あら、良い眺めじゃない!」
ドリル女はいたって平然とした顔で、滑田アイとゴン太と一緒に、景色を見下ろしていた。ジャックも釣られて見てみる。確かに、雪山が並ぶこの光景は一見の価値がある。だが、この3人ほど楽しい気持ちにはなれなかった。
『ジャック、てめえが正しいぜ』
ハンターVGからコーヴァスが話しかけてきた。
『他人のため? バカのすることだよ。だが、俺たちは違うだろ?』
「……ああ」
そうだ。自分の考えは正しいのだ。
けれどなぜだろう。楽しそうにしているドリル女の横顔を見ると、後ろめたい気持ちになるのは。
〇ヤエバリゾートでの事件
ヤエバリゾートで起きた事件。気象制御装置の故障によって、落雪、吹雪などが起き、お客さんたちに被害が出ていました。廃業の危機だったんですよ。
全部、五里グループの会長、五里門次郎の嫌がらせと、乗っ取り計画でした。
僕らがロックマンが無事にすべてを解決し、お客さんも戻ってきました。むしろ、ロックマンが現れたという箔まで付きました。
これでアイちゃんもスキーが続けられますね。
参照.マロ辞典より抜粋