流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
エレベータに矢のごとく突進し、一階に降りてからは売店に向かって全力疾走。そんなスバルを待っていたのは恐怖の時間だった。
「おっそおおおおおおおおい!!」
売店前に設けられた飲食スペースに、白金ルナの怒号が響き渡った。スバルのみならず、ルナの背後に控えている子分2人も縮こまった。
「すぐにって言ったわよね、私?」
「は、はい……」
「なんでこんなに遅れたのかしら!?」
一方的に呼び出しておいて、遅れたら怒鳴る。なんという理不尽だろう。だがそれを受け入れなければならないのがスバルの立場である。
そんな覇王たるルナは完全なるお冠モードになっていた。金髪の縦ロールが、紫色のオーラによって天に向かって逆立っている。
スバルの中で警報が鳴りだした。それを察したのは分からないが、ルナの背後にいた子分2人のうち、大きい方が怯え切った顔で語り掛けてきた。
「スバル、委員長を怒らせたお前が悪い」
そして小柄な方もそれに続いた。
「見てのとおりご立腹です。さあさあ謝罪を……」
大きい方の名前は
小柄な方が
この大中小と並ぶ3人組は、いつもスバルと一緒にいる友人であり、ブラザーだ。そしてスバルの正体がロックマンであることを知っている数少ない人物である。
ルナがリードし、ゴン太とキザマロとスバルがついていく。これがこの4人の関係だ。だがこのリーダーであるルナには、少々ややこしい部分がある。
「ご、ごめんなさい……」
ルナの超ド迫力なお怒りオーラを前にして、地球を3度救ったヒーローは震える声で頭を下げた。こうなると急にしおれるのがルナである。
「ちょ、あ、あんまりションボリしないでよ。私が悪者みたいじゃない!」
悪者でないのなら何なのだろうという話である。
「ま、まあ言い訳ぐらいは聞いてあげてもいいけれど」
「じ、実は……」
ロックマンになってスプリンクラーを修理したことを説明した。すると下に降りていたルナの縦ロールが、また重力に逆らって浮き上がった。
「ロックマン
「は、はい……」
「なんでそのまま来なかったのよ!?」
「いや、そんなこと言われても……」
ややこしい問題とはこのことである。ルナは過去、ロックマンに何度か助けてもらったことがある。その経験から彼をヒーローと呼称し、様づけするほど焦がれていたのだ。
その正体が星河スバルだと知った現在は、複雑な気持ちを抱えてしまっている。
「い、一応言っておくけれど、私はロックマン様のファンであって、あなたとウォーロックのファンではないのよ。まったく、なんでロックマン様はあんなに素敵でカッコいいのに、元のスバルくんはこんなに冴えないのかしら?」
「酷い言われようだ……」
一応庇護しておくと、スバルの成績はクラスで3番目前後、運動ではほぼトップという万能っぷりである。
「それにあなたと融合するウォーロックだって、乱暴でがさつだし……」
『乱暴でがさつで悪かったな』
ウォーロックが不満げにハンターVGから出てくる。突然ルナの顔から余裕が消えた。
「きゃああ! お、驚かすんじゃないわよ、ウォーロック!」
「相変わらず、委員長はウォーロックが苦手だね……」
「だ、だって、なんかその……怖いじゃない!?」
どうもルナはウォーロックの見た目が怖いらしい。そのウォーロックはというと、ルナの反応が面白いようで「キシャー」と言いながら両手を上げて見せた。びくりとルナが後ずさる。どうやら昨晩、パニック物の映画でも見たらしい。
涙目になっているルナを見かねたのだろう。ずっと黙っていたゴン太とキザマロが口を開いた。
「なあスバル、その辺にしておいてやってくれねえか?」
「委員長、結構辛そうですし……」
ルナの腰巾着である2人の言うことは尤もだ。それにそろそろ本題に移りたい。とりあえずウォーロックをハンターVGへと戻した。
「ところで委員長。なんで僕を呼び出したの?」
ロックマンのくだりで明後日の方向に飛んでいた話題を、元の路線に戻した。半泣きになっていたルナはコホンと咳払いをすると、いつもの高飛車な雰囲気に戻った。
「よくぞ聞いてくれたわね。ゴン太とキザマロもよく聞きなさい」
男3人を並ばせるとルナは腰に手を当てた。それだけでどこか優雅さと頑固さが滲み出ている。
ルナが先頭に立ち、男3人が子分として動く。いつものスバルたちの布陣ができ上がった。ボスのルナは3人の顔を見渡すと、ふんぞり返るように胸を張った。
「あなた達に集まってもらったのは他でもないわ。とっても大事なことを提案するわ」
スバルは息を飲んだ。これだけ勿体ぶるということは、それだけ重大な事なのだろう。3人が沈黙する中、ルナは自分のハンターVGをとりだし、エアディスプレイを展開した。
「これよ」
開いた画面の上部には、大きな文字で「レゾン」と書かれていた。スバルは察した。
「委員長、まさか……」
「その通り。私達もレゾンを作って、チームを組むわよ!」
スバルとキザマロの目の色が変わった。拳を握りしめて、「おおお!?」と声を上げ始めた。
「ついに!」
「僕たちもレゾンを!」
「その通りよ!」
興奮してついつい大きな声を出してしまうオタク2人。提案したルナも鼻を高くしている。
そんな彼らと異なり、ゴン太とハンターVG内のウォーロックは首を傾げた。
『レゾンってなんだ?』
ウォーロックたちからすると聞きなれない言葉だったらしい。
「レゾンって、美味いのか?」
「食べ物じゃないですよ」
ゴン太の言葉を華麗に一蹴すると、キザマロは自分のハンターVGを取り出した。
「ブラウズ」
キザマロの声に反応して、エアディスプレイが展開された。キザマロの手がそこに触れると、一冊の分厚い本が抜き出されるように召喚された。「検索、レゾン」と言うと、本はパラパラと自動でめくられ、あるページを開いた。
「僕のマロ辞典によりますと……レゾンとは目標のことです」
「目標? 例えば、牛丼を10杯食べるとか?」
「……ええ、それでも良いと思いますけれど……」
付き合いが長いキザマロも、今のゴン太の発言には一瞬凍ったらしい。
「レゾンを掲げて、皆で共有して、その達成を目指す……と言うのが、現在流行っているんです。委員長もそう言いたかったのですよね?」
キザマロがマロ辞典をエアディスプレイに押し込むと、それは電波粒子に戻って消滅した。
「その通りよ。事の重大さが分かったかしら?」
「おう、なんか楽しそうだな!」
少し温度が違う気がしたが、スバルは流すことにした。
『その目標……レゾンだったか? それには何を掲げるんだ?』
「そんなの決まっているじゃない」
ウォーロックの質問にルナはふんぞり返った。姿が見えていない限りは怖くないらしい。
おおよその見当をつけていたが、今のでスバルは確信した。ルナはあれをレゾンにするつもりだ。
「あなた達、今日から2学期が始まるわけだけれど……大きなイベントがあるのは分かっているわよね?」
スバルとキザマロは頷いたが、ゴン太はぼんやりと見当違いなことを口にした。
「修学旅行のことか? 俺美味いもん食いたいな……」
「結局そこですか、ゴン太くん……」
ゴン太に構っていると、なんでもかんでも食べ物の話題にシフトしてしまう。ルナは小さく手を横に振った。
「それも大事なイベントよね。たしか来月だし。でも、それ以上に大切なイベントが私達にはあるでしょう?」
頭上に牛丼を浮かべているゴン太に構うことなく、ルナはスバルを指さした。
「さあ答えなさい、スバルくん」
待ってましたと言わんばかりに、スバルは言い当てて見せた。
「それはもちろん……生徒会選挙だよね!?」
「その通りよ!」
やっぱりそうだった。ゴン太もようやく理解したらしい。
生徒会選挙。5年生の中から次の生徒会長を選ぶ選挙。それが数ヵ月後に行われるのだ。
これはスバルたちにとって最も大事なイベントである。なぜなら、その生徒会長に立候補する者がいるのだから。
そう、目の前の少女である。
「あなたたち、喜びなさい。この白金ルナが生徒会長になる時が来たのよ!」
「「「おおお!!」」」
今度はゴン太も一緒になって飛び上がって喜んだ。
「ついにこの時が来たのですね!?」
「委員長が生徒会長になったら、きっとコダマ小学校はもっと良くなるよ」
「ウオオオオ! 応援するぜ委員長!!」
「当然よ。オホホホホホ!」
調子に乗ったルナはエアディスプレイを頭上に展開し、桜を舞い散らせた。これも電波で構成された偽物である。そこでポーズを決めれば子分3人は大盛り上がりだ。ウォーロックだけが乗りについていけず、苦い顔で静観していた。
ルナが生徒会長になると言い出すのは今に始まったことではない。少なくとも、スバルがルナたちと関わるようになった今年の4月からずっとだ。
「と言う訳で私たち達は『白金ルナを生徒会長にする』というレゾンを掲げて、共有するわよ。異存は?」
「「「ありません!」」」
「よろしい!」
こうして4人のレゾン作りが始まった。
ルナはレゾンのページに必要事項を書き込んでいく。目標の欄に『白金ルナを生徒会長にする』と書き込んだ。その上にあるチーム名にはまだ何も書かれていない。
「僕、レゾンって初めてなんだけれど、チーム名が必要なんだね」
「ええ、レゾンを共有する仲間という意識を持つためにもね」
「名前か~」
スバルは真っ先にへびつかい座の恒星の名前をいくつか思い浮かべた。どの星も素晴らしい響きの名前だが、ルナが気に入りそうなものは無かった。
「何が良いだろう?」
「牛丼チームとか?」
「こういう展開になると思って、もう決めてきているわ」
「無視かよ」というゴン太を無視して、スバルはルナに尋ねた。
「もう考えていただなんて、さすが委員長だよ」
「ええ、昨日何時間も……食事中も、お風呂の間も、寝るときも、ずっとずっと考えていたの。おかげで、最高に良い名前ができたわ!」
『……ほ~』
興味なさげにウォーロックが呟いた。とりあえず牛丼チームよりかはマシだろう。
「どんなの?」
「フフフ……あなた達も気に入ると思うわ。その名も……」
ルナは大きく深呼吸すると、その完成されたチーム名を口にした。
「ルナルナ団!」
静寂がスバルたちを支配した。ゴン太ですら固まっていた。
「……なんて?」
「ルナルナ団! 素敵でしょう?」
再び無音が場を支配した。売店の方から聞こえる「え~? うまい棒売り切れなの!?」という子供たちの声と、「ふぉっふぉっ、残念売り切れぢゃ! 男前のにーちゃんがぜ~んぶ買って行ったのぢゃ!」という売店のお婆ちゃんの声がやけに鮮明に聞き取れた。
スバルたちはいっせいに背中を向けて、頭を寄せ合った。
「えっと……どう反応したら良い?」
「流石に俺もダサいと思うぞ……」
牛丼チームなどと考えたゴン太ですらドン引きしていた。
「委員長のネーミングセンスが最悪なの、忘れていました……」
知識人のキザマロに至っては、頭を掻きむしっている。
「前にもこんなことあったの?」
「はい、僕のペットの名前を考えてくれたことがあるのですが……ネコタロウ……でした」
『やめてやれよ。可愛そうだろ、その猫……』
「いえ、犬です」
『犬かよ!?』
スバルは想像してみた。生徒会選挙で「ルナルナ団!」と名乗る自分たちを。恥ずかしくてまた登校拒否になりそうな気がした。
「どうしたのあなた達?」
ビクリとスバルたちは飛び上がった。振り返るとどうだろう。先ほどまで威勢の良かったルナが悲しそうな目を向けていたのだ。この瞬間、3人の気持ちは一つになった。
「い、良いと思うよルナルナ団!」
「ええ、1周回ってシンプルで分かりやすいかと!」
「お、おう! なんか……その……い、言いやすいよな!」
ここで別の案を出してもルナが悲しむだけだろう。この人についていく……というのは、鼻から決まっているのだ。
「そう!? やった、気に入ってもらえると思っていたのよ」
3人の口から「は~」と息が漏れ出た。こうなれば恥という十字架を背負って、茨の中に飛び込むだけだ。
そしてルナは高らかに宣言した。
「ルナルナ団。ここに結成よ!」
文字通り火のごとく燃え上がるルナ。スバルたちは「オー!」と手を上げた。空元気だった。
―― レゾン結成 ――
―― チーム名:ルナルナ団 ――
―― レゾン :白金ルナを生徒会長にする ――
○白金ルナ
コダマ小学校5年生。A組。学級委員長。僕たちのリーダー。
怒ると怖いけれど、クラスの皆や、他のクラスの人も気にかける優しい人。
成績は常にトップ。
他にもピアノや「家族リッチ自慢コンテスト」とかでも優勝していて、たくさんのトロフィーを持っています。
ロックマンの大ファンですが、スバルくんとウォーロックのことではないと本人は言っています。
次期生徒会長になろうとしています。
ネーミングセンスは悪いです。
○牛島ゴン太
コダマ小学校5年生。A組。僕の親友。
食べることが大好きで、最近は牛丼に夢中らしい。
成績は常に最下位だけれど、力持ち。
暴れん坊なイメージが強いけれど、本当は寂しがり屋で優しい人です。
とりあえず、片づけをする癖は身に着けてほしいです……。
僕と同じ、ミソラちゃんファンクラブのメンバーです。
○最小院キザマロ
コダマ小学校5年生。A組。
成績はスバルくんと同じくらいで、運動はからっきしです。
身長も2cm誤魔化して120cmと言っています。身長のびのびセミナーに通っていますが、効果は出ません。
誇れることが無いのがコンプレックスです。
趣味は色々なことを知ることで、最近はそれをまとめたマロ辞典という物を作るのが楽しいです。
宝物は、こんな僕を仲間に入れてくれるブラザーの皆……ゴン太くん、委員長、スバルくんたちです。
ミソラちゃんファンクラブのメンバーです。
参照.マロ辞典より抜粋