流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
コダマ小学校の2階の突き当り。そこに科学部の部室はあった。
「失礼します」
3回ノックしてから中に入ったとたん、眩いばかりの光が目を射した。
「うわあ……」
真っ先に目に入ったのは、ロケットだった。と言っても見上げるような巨大な物ではなく、せいぜい高さ3、4メートルほどだ。
それに数秒ほど目を奪われてから辺りを見る。部屋の隅にはモニターが取りつけられており、様々な蝶が映し出されていく。どうやら標本らしい。
その下には円筒状のケースがあり、何かを保存しているようだ。
隣には化学薬品を混ぜた試験管が並んでおり、色とりどりの薬品が中で泡を立てている。「実験中。触らないように」と書かれている。
部屋の一番奥にある巨大な電子パネル……ブラックボードを見るとロケットの細かい設計図が描かれていた。
ロケットにケーブルで繋がれている高性能そうなパソコン。その隣にはなぜか人体模型が置かれている。
そしてそれの頭上には横に長いモニターがあり、「とばすぞ! ロケット」という文字が表示されていた。
「楽園だ……」
床に置いてある設計図を踏まないように歩みを進めると、聞き覚えのある声が近づいてきた。
「君ならそう言ってくれると思ったよ、スバルくん」
「あ、ぶちょーさん」
先ほど屋上で会った、科学部部長の木野マナブだった。眼鏡の下にある目は、同士を得た喜びで輝いていた。服はもうとっくに乾いている。
「ここが楽園じゃないんだったら、なんなんだって話ですよ」
『いや、科学部だろ?』
ウォーロックの正論に、スバルは大きなため息を吐いた。
「もう~、ロックは分かってないな~、ロマンってやつが」
「まあまあスバルくん。世の中、僕らみたいなオタクばかりではないから」
「流石部長さん、心が広いな~」
言葉を交わした時間はごく短いというのに、この息の合いようである。
ウォーロックと同じくらいめんどくさそうな顔をしたルナとゴン太がスバルたちの横に立っていた。キザマロだけは2人の会話に入りたそうにウズウズしている。
「部長さん、僕たち全員揃っ……」
「キザマロ、ルナルナ団よ」
「……ルナルナ団、勢ぞろいしました。改めて説明をいただいても?」
「ああ、そうだね」
マナブは数歩後ろに下がって、待機していた科学部2人の前に立った。
「では、改めまして……科学部の部長、木野マナブです」
「ポン太です!」
「リカです!」
屋上にいた2人だ。マナブが比較的落ち着いているのに比べて、どこか騒々しそうで声が大きい。
続いてルナたちが自己紹介を行うと、早速本題に入った。
「さて木野部長さん」
「マナブで良いよ」
「え、いやだって6年生……」
ルナたちは5年生だ。年上相手に名前呼びは少々抵抗がある。
「良いよ、気にしないで。それでも抵抗があるなら、部長で構わないよ」
気さくだとは思っていたが、スバルが想像していた以上だった。スバルよりたった一つ年上なだけなのに、とても大人びた印象を受ける。
「……では部長さん?」
「はい」
「そちらの相談内容についてですが、改めて確認させていただきます……」
ルナとマナブが会話をすると、まるで大人が仕事を受注しているようなやり取りにみえた。
そんなルナの手は、この部屋の中央にドンと構えているロケットに向けられた。
「あちらのロケットを飛ばす手伝いをしてほしい……でよろしいかしら?」
「え、このロケットを!?」
スバルは思わず大きな声を出してしまった。
「嬉しいでしょう、スバルくんは宇宙が好きですものね」
「うん、大好きだよ!」
スバルはうっとりとロケットに触れそうになり、慌てて手を止めた。他人の作品に不用意に触れるなど、オタク失格だ。
「このロケット、どこまで完成してるんですか?」
「実は、もうほぼ完成しているんです」
「そうなんですか!?」
これにはキザマロとゴン太も歓喜の声を上げた。
「す、凄い……! たった3人でロケットを造るだなんて!」
「じ、じゃあ、これもう、宇宙に飛べるのか!?」
今にも自分が宇宙へと飛び上がっていきそうなゴン太。それとは対照的に、マナブは沈んだ顔で首を振った。
「いえ、飛べないんです」
「え?」
ロケットなのに宇宙を飛べない。どういうことだろうか。スバルたちの疑問を読み取ったのだろう。マナブはゆっくりとした口調で説明を始めた。
「このロケットはほぼ完成しているのですが、ある部品だけが足りないんです」
「部品?」
「はい、ギガエナジーカードという物なんですが……」
「ギガエナジーカード?」
聞いたことが無い名前だ。キザマロを見るが、彼も知らないようだった。
マナブが説明をしようとした時だった。
『そこからはオイラたちが説明するッス!』
『完璧に説明して見せるッチ!』
マナブの携帯端末から声がした。
「じゃあ、任せようかな。マグネッツ、コイル、よろしく」
マナブは端末をかざすと「ウィザード・オン!」とパネルをタップした。すると端末から白い電波粒子が生まれ、2体のウィザードが召喚された。
「ウイッス! オイラ、マグネッツていうッス!」
「僕、弟のコイルですッチ!」
両者とも白くて角ばったボディが特徴のウィザードだった。兄弟と言うだけあってデザインは同じだ。異なっているのは頭のラインと、サングラスのような目の色だけだった。
マグネッツのラインは赤で、額に『M』と書かれている。目は黄色い。
コイルのは緑色で、額の文字は『C』。目は青い。
「おおおすげえ! 1人でウィザードを2体も持ってるのかよ!?」
「凄いだろう。2人とも優秀なウィザードなんだよ」
ゴン太の興奮を見て、マナブは嬉しそうに眼鏡の中央を中指で押し上げた。眼鏡が一瞬だけ白く光った。
「じゃあマグネッツ、コイル。説明をお願いするよ」
「ウイッス! じゃあ説明するッス!」
持ち主のマナブと違い、随分とテンションの高いウィザードたちだ。科学部で唯一大人しいのが部長1人とは、なんともアンバランスな構成メンバーなのだろう。
マグネッツは踊るように回転しながら、スバルたちの前を飛び回る。
「このロケットが飛べない理由ッスけれど……単純に推進力が足りないんッス!」
「推進力?」
ゴン太が頭上にハテナマークを浮かべた。するとコイルがブラックボードへと移動し、中に入っていった。ブラックボードに地球が表示された。
「地球には重力というものがあるッス。それに逆らって宇宙に飛び出すには、すごい勢いで空に向かって飛んでいく必要があるッス」
「おう、そうなのか!」
ゴン太が納得した顔をした。たぶん理解してない。
「その推進力を得るために、ギガエナジーカードが必要なの?」
ルナが尋ねると、マグネッツは頷いた。
「ウイッス! その通りッス。本当は今の燃料と、オイラの磁力で飛ばす予定だったんッス。けれど計算の結果、この重量を宇宙まで飛ばすのは無理だと分かったんッス!」
「本当はもっと軽量化するつもりだったんだけれど、思ったより重くなってしまってね……」
マナブは心底残念そうな顔をした。
「これを軽量化するのは無理なんですか?」
キザマロの質問に、マナブは首を横に振った。
「やろうと思えばできるよ。けれど、設計を一からやり直すことになる」
「そうなると、内部機構や積み込む装置の選定に……」
「電子基盤の作成やエネルギー回路の組み立て直し、打ち上げの実験も全部やり直しです!」
ポン太とリカが大きく肩を落とした。
「お願いです。時間が無いんです!」
「部長の夢なんです!」
その言葉で、スバルは察した。
「そっか、部長さんは6年生だから……」
「……うん、卒業までにはまず間に合わないね……」
そんな大掛かりなことをもう一度最初から……絶対に間に合わないだろう。
「僕は宇宙が好きでね……将来は宇宙関連の仕事に就きたいんだ」
マナブはスバルの隣に立ち、ロケットの表面を優しくなでた。
「このロケットに、マグネッツを乗せて宇宙に飛ばして、コイルと交信をさせる実験をしてみたかったんだ」
そしてスバルに向き直った。いつもの大人しい雰囲気と異なり、目はキラキラと輝いていた。
「ワクワクしないかい? 自分が作ったロケットを宇宙に飛ばして、映像や写真を撮って……WAXAが撮った物ではない、他の衛星ではできない、僕の衛星からでしか見られない宇宙や地球の姿! 僕はやりたいんだ。絶対に!」
そしてマナブはルナたちに振り返った。
「お願いです。ルナルナ団の皆さん。力をお借りすることはできないでしょうか!?」
「お願いするッス! オイラ宇宙に行きたいッス!」
「ボクも兄さんと交信したいッチ!」
マナブ、マグネッツ、コイル。続いてポン太とリカが頭を下げた。
だがそんなことをする必要はないのだ。ルナの答えなど、最初から決まっているのだから。
「分かりました。私達ルナルナ団、科学部のロケット打ち上げ計画を、全面的にプロデュースさせていただきます!」
マナブたちの顔が一斉に上がった。歓喜に満ちた笑みで、マナブはルナの手を取った。
「ありがとうございます!」
ゴン太とキザマロも、ポン太とリカの握手に応えた。スバルはマグネッツとコイルとだ。
握手を終えると、ルナは早速と言わんばかりに口を開いた。
「では幾ら必要ですか?」
ピシリという音が部屋全体に鳴り響いた。
「言われた金額をご用意……」
「ストーーーップ!!」
キザマロが珍しく滅茶苦茶でかい声を出した。相棒のペディアも飛び出して来て、一緒になって手を振った。
「な、なにキザマロ? ペディアまで……」
ルナがきょろきょろと周囲を見渡した。マナブですら衝撃で眼鏡がずれている。
キザマロは手を前に突き出したまま、首を激しく横に振った。
「ダメ! ダメです委員長!」
「それ、賄賂になるよ!」
「あ」とルナが口を開いた。
「私費の投資はダメです。選挙活動はあくまでクリーンに!」
「そ、そうだったわね。ありがとう、キザマロ」
危うく人の道を外すところだった。
必死に頭を下げるルナに、マナブはまあまあと手で諫めた。
「ところで部長さん」
ここは誰かが空気を換えるところだろう。スバルはそっと話題をふってフォローをいれた。
「ギガエナジーカードっていうのは、どこで手に入るんですか?」
スバルが尋ねると、マナブは今までで一番難しい顔をした。
「それが、一般には出回っていない代物なんだ。内包されているエネルギーが膨大で、危険だから。サテラポリスとかでは普通に使われているらしいんだけれど……」
「サテラポリス……」
世界最高最強の治安組織。そこに「小学生の部活で使うので譲ってください」というのは通らないだろう。
「現状の入手確率は1%……いや、それ以下かな?」
「絶望的ですね……」
ペディアが叩きだした数値はとても現実的で、残酷だった。
「何か手は無いかな……」
正直言って、ルナルナ団の……いや、小学生の手に余る事案だ。
スバルは手を貸してくれそうな人がいないか思い出してみた。
父の後輩で、天地研究所所長の
そう思った時、スバルのハンターVGが着信を告げた。
「ロック?」
『おう、担任の育田からメールだ』
スバルがホーム画面を見ると「着信」というポップアップが映し出されていた。触れるとメールが開いた。
「えっと……僕に客?」
「あら、珍しいわね」
「玄関で待ち合わせか……。委員長」
尋ねるまでも無く、ルナは承諾してくれた。
「良いわ、行きましょう。私達も作戦を練る必要があるようだし、今日のところは……」
ルナが視線を送ると、マナブは頷いた。
「はい、それではお願いします」
科学部たちに頭を下げて、スバルたちは部室を後にした。
「……あれ。なんで委員長たちまで?」
ようやく違和感に気づいた。スバルの客であって、ルナたちの客ではない。
「どんな人か興味あるじゃない」
良いのかな……と言う言葉をスバルは飲み込んだ。
○FM星人
地球が初めて観測した異星人。地球人と異なり、電波の体を持っている。知能は地球人と同レベル。
基本的に他人を信じない傾向があるらしい。
現在はケフェウス星王によって治められており、AM星と地球との融和政策が進んでいるらしい。
○AM星人
FM星の兄弟星の住人達。基本的にはFM星人と同じだが、細部で異なる部分があるらしい。
FM星からの攻撃を受け、壊滅した。
現在はFM星王ケフェウスの改心と償いの元、復興が進んでいるらしい。
○FM星人の侵略
地球がFM星人によって侵略されかけた戦争。
地球人類初の宇宙戦争である。
FM星王ケフェウスからの一方的な宣戦布告と共に、強力なFM星軍の兵士たちが地球に投下され、各地で戦火が上がった。
だが半日後に彼らは地球から撤退。FM星王ケフェウスからは謝罪と宣戦布告を撤回するメッセージが届き、終結した。
ロックマンという者がケフェウスを倒し、改心させたのだという。
サテラポリスとNAXA(WAXAの前身)はロックマンなる者を把握しておらず、確認も取れなかった。
未だに確たる情報はつかめていない。
電波変換の確認に成功。ロックマンの正体は判明した。
○FM星王ケフェウス
FM星の王。地球に向かって宣戦布告し、侵略を行った。ロックマンに敗れた後、改心したようで、丁寧な謝罪文の受信を確認済み。AM星なるものの復興についても書かれていた。
しかし、記載にあったロックマンについては現在も把握できていない。
電波変換の確認に成功。ロックマンの正体は判明した。
参照.ヨイリーレポートより抜粋