伊勢桑名の刀工な俺(女)、交差する世界で生きる   作:Glanz.S

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プロロ~グゥ
第1話「誕生、崩壊の足音」・・・プロローグ


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 赤子の声が響く部屋の中『オレ』の意識は意外とハッキリしていた。

 

 そもそも『オレ』は大変遺憾ではあるが頑固者として有名だったし

 『俺』自身、どんな状況でも動じないという自信があった。

 だからこそこの状況でも正常に思考ができているのだろうし『儂』の中に

 もう一人の魂があるのも受け入れることができた・・・が、さすがにこれは

 

 

 「バブバァァァァァァァアアアアアア!!」(動じない方が無理ってもんだろっ!)

 

 

 なんでだ、なんで『儂』は赤子になってやがるっ。『俺』は名前は思い出せないが

 確かに大人であった記憶はある、しかも刀鍛冶をやっていて・・・ん?

 これは違・・・・くはないのか。

 

 

 「バアブゥ」(ややこしいな)

 

 

 そうだ、『俺』は刀を見るのが大好きで、クソ高かったが刀も買ったり、免許もとっていたりして

 家のなかは刀を飾るケースなどで2LDKの二部屋とも埋まっていたような生粋の刀マニアだったはず。

 

 そして『儂』は伊勢の桑名で刀工をしていて、そんな柄ではなかったが弟子もとったりして

 それなりに地位もあったが『儂』は興味がなく、ただ一つの『刀』を打つために生涯を捧げて

 結局完成せずに命を落とした・・・はず、なのだが、どうやら俺/儂は赤子になっているらしい。

 ・・・・どうしてこうなった。

 

 いや?でも、まて・・・生まれ変わったのならもう一度刀を打てる?それに『俺』は刀を

 じっくり見れる?....これはチャンスかもしれねえ・・・ならばっ!

 

 

 「バブ、バァブゥバ、バブゥゥゥウウウ!」

 (この村正が追い求めた極点、それを今度こそ今世で打ってやる!」

 

 

 未だ『俺』は名が思い出せないが生まれ変わっただけでも儲けもの、そして自我も

 『儂』ほど強くはない、だから基本的に思考、判断、行動は『儂』に任せよう。

 

 

 「バブバブァァァァアアアアアア!」(こうして儂/俺の第二の生が始まる!)

 

 

 ・・・赤子は感情のコントロールが難しく、泣くか笑うしかできねぇと思う、儂/俺であった。

 

        ◇   ◇   ◇

 

 「ほうらぁ、ママはこっちですよ~」

 

 「バアブッ」(言わなくても分かってるっ)

 

 

 前世の記憶?があるからか、成長が早かったからなのか、儂/俺の意識がハッキリとしてから

 一か月ごろには、ハイハイができるようになっていた。

 ・・・動けるようになったのは素直に嬉しいが、今儂/俺は非常に機嫌が悪い。

 なぜかって?・・・・・赤子にはおむつ替えってのがあるのはわかるだろ?

 察しのいいやつは今のでわかったはずだが、あれは正直に言って最悪の気分になる。

 

 

 赤子は自分で脱ぎ履きができない、そして自分の意志で排泄も我慢できないため

 赤子はおむつと言うものを履かせられる。儂/俺も赤子の体なので例にもれず

 おむつを履かせられて、我慢しようにも体が言うことを聞かず漏らしてしまい

 儂/俺が母に知らせないといけないため、毎度毎度はずか死ぬ気持ちになっちまう。

 

 

 それはまあ、もう慣れるしかないためあきらめて最悪の気分を毎度味わっているんだが

 今の俺の機嫌の悪さにはもう一つ理由がある、ハイハイができるようになって体の感覚が

 つかめるようになったのだがそれすなわち、漏らしてしまうときの感覚も明確に

 わかるようになってしまうということなのだがそこはまあいいんだ、耐えれば

 

 

 しかし、わかるようになってか尿意が来て漏らしてしまうときに男が感じるであろう

 あの感覚がなかったのだ。

 しかも、もっと悪いことに出ている場所が膀胱から離れているのではなく

 近かったのだ・・・・・これは何かの間違いだとあれを見る前は願っていたのだが・・・

 

 

 母におむつを替えてもらった時に、儂/俺の小さな願いは跡形もなく崩れ去った

 

 

 

 『なかった』のだ、男と証明することができる唯一にして絶対の象徴がそれはもう綺麗に

 突起もなければふくらみもなく、見事につるつるだったのだ。

 その時はさすがの儂/俺でも男泣きしたものだ・・・・・そのあとすぐに寝かせられたが

 

 

 思いのほか早く女になっていることがわかり、不機嫌だったがそれを表に出すのは

 赤子としてどうかとも思い、儂/俺は赤子のように行動している・・・と

 テレビのほうから懐かしい音が聞こえてきた

 

 

 そこでテレビに体を向けた儂/俺のはすぐさまテレビの近くまで寄って流れる映像に見入る

 見た感じ皮鉄と心鉄の組み合わせが終わったものが熱せられ、大槌に打たれ形を変え

 金床の上で素延べされていく、そして次に火造りに入るようで、素延べされたものが熱せられ

 次は小槌で打たれながら形を見覚えのある刀に変形させていく

 

 

 所詮、前世で見慣れた行為であっても、その行為だけで打っている者のことがわかる

 基本的なものだったとしても、赤子の儂/俺にとっては輝かしいものに見え

 その映像に見入っていると、不意に儂/俺の体がヒョイッと持ち上げられる

 

 

 「はぁーい、テレビに近づきすぎでちゅよー、離れてみましょうねぇー」

 

 「バブッ!?バブァ!」(なっ!?何をする、離せ!)

 

 

 じたばたとテレビに手を伸ばし暴れるが、しょせん赤子の力では母であっても

 勝てるはずがなくそのままテレビから離れていきアァ、と悲しみに打ちひしがれていると

 少ししたところで母はどこかに腰を下ろして儂/俺の体をテレビに向けた。

 どうやらソファに腰を下ろしたらしくこの距離で見ろ、ということらしい。

 

 

 「バァブ」(そんなことはどうでもいい)

 

 

 と、またテレビに見入る儂/俺、今度は刀ではなくそれを打っている人物へと目を向ける。

 誰がどう見ても鍛えられているといわんばかりに血管をうき立たせているぶっとい前腕、

 それを打つために丸く縮めている体からでも分かる圧倒的巨躯

 一見すると凄腕の刀鍛冶のように思われるが

 

 

 「バブバァブ」(なってないな)

 

 「あらぁ、どうしたの?」

 

 

 そう、なってない。儂の目で見た限りだとこの刀工、現代では名のある者だと思うが

 まず、体がだめだ。無駄に鍛えられ過ぎた筋肉、そしてそのせいで体勢もめちゃくちゃだ

 腕を振り下ろすたびにぶれる重心、まるでそれしか教わっていないかのように刀の状態

 を確認せずに決められた場所のみを打ち続ける小槌、熱するタイミングも

 冷やすタイミングも、土に着けるタイミングもまるであっちゃいない。

 

 

 今世の鍛冶師は皆こうなのだろうか。

 

 

 「バブバァ」(これだと儂が教われることはなさそうだ・・・)

 

 「何を話しているのかしら?楽しそうねぇ」

 

 

 今世を生きるにあたって、進んだ技術や進化した技術、それらを取り入れて

 儂の目指した極点を打てるかもっ!と思って意気込んでいたのだが

 見た限りだとそんなものはなく、少し落胆してしまった。

 

 

 「おーい、帰ったよー」

 

 「あら、パパが帰ってきたみたいね」

 

 「バブァ」(おお、今日は早いのか)

 

 

 と、いつもなら夜に帰ってくる父が(今は昼過ぎだろうか)早く帰ってきたことに

 少し驚き、純粋に声を漏らしてしまった・・・今日はいったいどうしたのだろうか。

 

 母は儂/俺を抱いて一緒に玄関に向かう。リビングの扉を開き無駄に広い玄関に出ると

 一人の優男がいた。

 身長は目安で約180ほど、がたいについては見た目は細いが脱ぐと鍛えられた体が

 あらわになる、顔については興味のない儂/俺ですらかっこいいと思うほどにいい顔を

 している、そして声も妙に落ち着く感じでありながらも年上感のでる頼れる男のような

 感じがするが・・・なぜか親と言うには頼りなく見えるほど若々しい。

 それに親のように感じない。

 

 

 ついでに母についても言っておくが、身長は目安で約173~5ぐらいで、これまた興味のない

 儂/俺ですら初めて見たときには見惚れて、ボーっとしたほど、ただ美しいだけでも

 可愛いだけでもない、どこか触れると壊れそうなほどの儚さを感じさせるのに

 笑うと聖女のような笑顔を作るきれいな顔、それでいて体はもでる?のように細いのか

 と言われればこれまた違くて、出るところは出て、ウエストや鎖骨あたりは細いが

 肉付きもよく、どこか妖艶さを感じさせる。なのに声は妙にはっきりしていて

 どこか頼れる秘書のような感じが出ていて子持ちのようには見えないほど若々しい

 それに、こちらもまた親のように感じない。

 

 

 多分、どちらも性格があれだからだろう・・・

 

 

 「おお、今日も出迎えが早いっ。僕は幸せ者だぁ」

 

 「ふふ、これぐらいで大げさよ。それに私のほうが幸せ者だわ」

 

 「おや、それはどうして?」

 

 「だって、毎朝あなたにおはようって言ってもらえて、ご飯を作れば

 『おいしい』って言って喜んで食べてくれる。行ってきますのキスだって

 さりげなく毎日してくれるし、家にいても心配させないように連絡だってしてくれる

 帰ってきたらこうやってお話してくれるし・・・夜だって」

 

 

 そこまで言って顔が赤くなり俯く母、それを聞いた父も少し頬を赤く染めて

 「あ、ああー・・・うん」と言っていた。

 またはじまりやがった。この儂/俺という自我を認識してから自分の生活も

 意識するようになっているが、特に家庭環境は悪くない...というより良い。

 

 

 料理や洗濯などは母がしているし、両親の趣味で俺/儂がいた一般家庭のような

 リビングもあるが、家はとても広い、あと使用人がいる。

 これだけでも分かるようにどうやら儂/俺の家はお金持ちらしい、それも大富豪レベルの

 庭はまだ外に出させてもらえていないから見たことないが、多分広い。

 

 

 そして、家族間の仲は良い、そうとても良いのだが・・・それが逆に悪い。

 

 

 今さっきの両親のやり取りを見れば分かるとおり、まるで新婚ほやほやのような

 感じだが、実際この二人は新婚ではない。

 

 一緒に生活していてわかったがこの二人

 まるで熟年夫婦レベルで相手のことがわかっていてそんなの新婚ではできる

 はずがない(ただし一部は除く)、なのに初心を忘れない性格なのかまた、夫婦の

 営みであってもそれが初めてであるかのように営んでいる、儂/俺がいることも忘れて。

 そのせいで寝たいのに寝れず、集中したいのに集中できないためよすぎるのもどうかと思う。

 

 

 さて、だけど儂/俺は両親が嫌いではない、逆に大好きである。

 

 

 儂/俺はそもそも刀工を目指した時点で親との縁はバッサリ切ったし童の時も

 刀工になった後も愛なんて向けられたことはなく、俺/儂も名は思い出せないが

 孤児だった記憶はあるし、そこでも腫物扱いだった。

 

 

 『愛』を向けられてこなかった俺/儂らにとって、今世の両親が儂/俺らに向ける

 愛は感じたことのないものだったし、今もむず痒い。

 けど、全く嫌とは感じなくて逆に嬉しくなるのは俺/儂らが子どもだからってのも

 あるんだろうが、心のどこかで愛...それも親からの愛がほしかったのだろうと思う。

 

 

 「アッ、オッ...パ・・・」(あー、えーっと)

 

 「おや、どうしたんだい」

 

 「あらあらぁ、なにか言いたいみたいねぇ」

 

 

 だから、今この時から親孝行していてもいいかもしれねえな。

 そう思いながら父に手を伸ばして

 

 

 「アッ、パ・・・パパ!」

 

 「・・・え!?いっ今、僕のこと・・・!」

 

 

 それから、母にも顔を向け・手を伸ばして

 

 

 「ンッ、マ・・・ママ!」

 

 「..まぁ!私のことまで呼んでくれるなんて!」

 

 

 嬉しそうな両親の顔を見て思う

 

 (今世は両親を、この幸せな空間を、守っていくのも...悪くはねぇな)

 

 そうして今世の村正こと儂/俺・・・

 

 

 「「やっぱり村雨は天使だなぁ(わぁ)」」

 

 

 ・・・村雨は、今世での生きる意味の一つを立てることができたのだった。

 

      ◇   ◇   ◇

 

 

 「おおっと・・・これは珍しい」

 

 

 他に誰もいない檻のような空間に『彼』はいた。檻の外では色鮮やかな花が咲き乱れている。

 ただし、『彼』は外に出ることもなく、ただボーっとしているように『見える』。

 事実、『彼』はボーっと『視て』いたし、外に出ようとも思っていない・・・と言うより出られない。

 

 

 「厳密には少し違うけどね」

 

 

 どこかを『視ながら』男は言う。そう、厳密には少し違う。

 出ようと思えば出られるし、男の見つけた人物の元へ行くこともできる・・・が出ない。出ようとしない。

 

 

 これは男の戒めであった。

 

 

 とある人間を破滅に追いやり、自分はその場にいなかった。

 

 気づくことができたはずだった、もっとまともに導くことができたはずだった。

 

 この戒めは男の中にあった唯一の良心・・・人の心とでもいうのだろうか・・・・

 それが彼の中で叫んだのだろう「このまま悠々と生きていくのか」・・・と

 

 

 「女性トラブルもあったんだけどね」

 

 

 ・・・男は死なない、いや、死ねない、そして屑だ。

 これも、男が『人』ではないからだろう。

 

 

 「うーん、これ以上正体をさらすと、面白くなさそうだ」

 

 

 ・・・話を変えよう。

 

 男はこの状況を楽しんで『視て』いた。あらゆる世界が入り交じり、その中心となるであろう

 『彼女』と『彼ら・彼女ら』を。

 

 

 この世界は滅茶苦茶だ、それは誰が見てもそう思うはずだ。

 何故、こんな世界が生まれ『彼女』が誕生したのか・・・まぁ、十中八九

 面白半分で創られたのだろう。だからこそ、もう最初の『崩壊』が始まろうとしている。

 

 

 「僕が出てくるのも『彼』の気分次第なんだろう?」

 

 

 ...男が出てくるのはもっと先だろう。まず、こんな序盤に出てくるものではない。

 もっと言えば、第一話に出てくるのも可笑しな話だ。

 

 

 「それはそれで面白そうだけどなぁ」

 

 『彼』を失踪させたいのか。

 

 「いやいや、そこは頑張ろうよ。僕も楽しく『視』させてもらうから・・・さ?」

 

 

 ・・・・・彼はどうやら『視』ているだけのようだ

 

 

 「だけ、とは少し酷くないかい?」

 

 

 そんなこんなでこの物語は続いていく。そして最初の『崩壊』が近づいてくる。

 

 

 「まぁ、頑張ってくれ、楽しみに待たせてもらうよ・・・と、『彼』に伝えてくれるかい、『語るもの』君?」

 

 「――――――」

 

 「ははっ、よし僕も『村雨』ちゃんを観察していくぞ~」

 

 

 

 

 

 『彼ら・彼女ら』が『彼女』と出会うまであと『半年』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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