Hallo, our Hallownest!!   作:無間ノ海

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 先日ホロウナイトをクリアして、衝動的に書いてしまいました。

 作者の妄想を好き放題つぎ込んだような作品ですが、それでもよろしければお楽しみください。



目覚めの時

 

 

 ……起きて……

 

 

 ……起きて……

 

 

 ……起きて。

 

 

 

 

「……え?」

 

 パチッと目が覚めた。

 見えるのは、何処か黒い空。

 

 体中に違和感を覚える。

 身体を起こしてみると、黒い甲冑のような線の細い身体が目に入った。がさりと、布団のように広げられていた葉が鳴る。

 

(え、なにこれ。)

 

 どっと冷や汗が噴き出した。

 

 ようやく現実を認識できた。

 自分は確かに人間だったはずだ。いや、知識としてそういう記憶がある。一般的な知識常識は頭に入っている。

 

 だが何故か、自分のことだけが思い出せない。

 

 誰の下に生まれ、何処で育ち、誰を愛して、何時死んだのか。あるべき自分の記憶が、すっぽりと抜け落ちていた。

 

 そして気づいてみれば、黒い鎧に一体化したような、人間かどうかも良く分からない身体だ。頭からは二本の触覚のようなものも伸びているし、全く訳が分からない。

 

「というか……そもそもここどこ?」

 

 ふらつきながら立ちあがり、俯瞰するように周囲を眺める。

 

 

 ―――不思議な世界だった。巨大な洞窟…なのだろうか。それにしたってちょっと大きすぎる気もするが。

 光源もないくせに不自然に明るく、木々が岩壁を所狭しと覆っている。少々薄暗いが、逆にそれが神秘的な空気を醸し出していた。

 

 天井は見えない。いや見えるのだが、余りにも遠すぎて距離感が掴めないのだ。ぱっと見、太陽も月もない暗い空にしか見えない。

 

 少なくとも地球ではあるまい。こんな馬鹿でかい地下世界など、見たことも聞いたこともなかった。

 

「……」

 

 どうしたらいいのだろうか。

 

 目覚めれば名前も分からない重篤な記憶喪失、身体は純正な人間ではない謎生物に変異、挙句星レベルで全く違う世界ときた。

 

「服は、着てるのか。誰かがかけてくれたのかな。」

 

 豪華なファーの付いた、細い縄を束ねて作ったようなローブだ。見ようによってはドレスにも近い。

 一応、羞恥心に悶えたり寒さで凍えたりする心配はなさそうだ。

 

「……人を、探そう。誰か、先住民を見つけださないと。」

 

 未知に囚われ、何が何だか判らぬままに、人のぬくもりを求めて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

 どうもこの世界は、文明という概念はないらしい。

 電気やガスどころか、文明の象徴たる火の痕すら、一つとして見つけることは出来なかった。

 

 そもそも生態系が地球とは違うのだろうか。

 カリカリカリッと爪音を立てて走る小動物のような奴や、嘴からキイキイと耳障りな声を出して飛行するものなど、あらゆる生命が元の世界では図鑑でも見たことのないような連中である。

 

 見た目は可愛らしいと言えなくもないが、仮面のように虚ろな目をしている彼らにどうしても恐怖心は拭えない。

 事実、獲物の取り合いや縄張り争いといった野生そのものな生存競争が繰り広げられていたこともあって、音が聞こえたらすぐさま草木の間に隠れるという行為を繰り返していた。

 

 …はて、自分は一体いつニンジャにジョブチェンジしたのだろうか。

 

「というか、どれもなんか虫の要素があるよね。」

 

 正確に言うなら、どの動物にも昆虫の面影を感じられる。

 

 もしかして、この世界では白亜紀のように爬虫類が覇権を取っているのだろうか。

 だからどいつもこいつも、虫の構成要素を取り入れるのが、ここでのトレンドなのかもしれない。

 

「いや、それは私も、か。」

 

 細っこい指を見つめる。

 

 黒く針金のような手先。多くの節を持ち、鋭い流線型で機敏に動く便利な手。

 これは鎧ではない。硬く鋼のようなこの肌は、鋭い異形の掌は、紛れもなく私の裸体のものだ。

 

「その割に、顔は人間なんだけど。」

 

 鏡や水面がないから良く分からないが、目鼻立ちはくっきりと人間の頃と同じように感じる。不思議なものだ。

 

 

 などと自答して寂しさを紛らわせながら洞窟を歩き続けて、いい加減喉の渇きを感じ始めてくるころだった。

 

 

「……火?」

 

 ゆらゆらと揺れ動く光源が、彼方に見えた。

 

 薄暗くぼんやりとした洞窟の明かりではない、明らかなる人工の火の気配。

 

(誰かいるっ!!)

 

 それまでの隠密行動をほっぽりだして、たったったっ、と駆けた。

 

 とにかく誰かと会いたい。会話ができる相手を見つけたい。

 一刻も早く、安全を得たかったから。この不可思議な世界について、教えてもらいたかったから。

 

 彼方の光が、だんだんだんだんと大きくなってくる。

 

 ―――果たして火の元にいたのは、自分と同じく、触角を持った男であった。

 

 人だ。半人ではあるようだが、それでも火を扱い、知能を持った人間だ。この訳の判らぬ世界でようやく見つけた、最初の人類だった。

 

「……うん? そこにいるのは誰かね?獣ではないだろう?」

 

 ちゃんと言葉は通じるようだ。ありがたい。

 若人の風貌に反して、かけられた声は老人のように落ち着いた低いハスキーボイスである。

 

「こんにちは。実は記憶を失ってしまって、あてもなく放浪してきた者です。よろしければ、火にあたらせてもらえませんか?」

 

「おお、そうかそうか!それは辛かったろう。そら、こっちに来るといい。」

 

 事情を話すと、彼は快く篝火のそばを空けてくれた。思えば、この世界で初めて見た人の営みである。

 

(暖かい……)

 

 手のひらからじんわりと伝わってくる熱は、見たこともない生き物たちの生々しい生き様を見て冷えた心を、音を立てて溶かしてくれるようだった。

 

「あの……なんとお呼びすれば?」

 

「む、そういえば名乗っていなかったな。」

 

 

 

「儂の名はエルヴェ。母なる光の女神の元を離れて旅する、しがない放浪者だよ。」

 

 

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