中学二年生になってから少し、その日の気分で釣りに行き、送ってくれる虎徹の家の使用人にもやることがあったので東京まで行った日、龍已は東京の呪術高専の者達と思い掛けない邂逅をし、戦闘にまでなった。どうにか撒くことが出来た龍已は、臭いの酷い下水道を移動し、頃合いを見て上に出た。
電話をして迎えに来てもらった龍已は、臭いのついてしまった服を着替えて虎徹の家に戻った。家には休みを虎徹の家で謳歌していたケン達が居て、今日何があったのか聞いてきたので話した。今まで呪詛師殺しをしてきて見つかった事が無い龍已が、そんなことになっているとは知らず、聞いていたケン達は心底驚いていた。
そして龍已は自身の考えを話した。車に乗っている間に考えていたことを。自身は確かに強い。少なくともこれまで呪詛師を数十人も殺せるくらいには。だがそんな自分でも捕まるときは捕まるのだ。今回ので身に染みた。若しかしたら捕まっていたかもしれないのだ。クロがいなければ確実だった。
なので、自身が何の音沙汰も無く帰って来なければ死んだと思って欲しいと話した。そして絶対に尾を引き摺ってはならないと。呪詛師殺しという名前と依頼達成率100%という実績が、目の上のたん瘤扱いになっている。死ぬときは何の情報も残さず死ぬつもりだから、不自然な行動は取らないでくれと。万が一黒圓龍已が黒い死神とバレた場合、狙われるのはケン達なのだと。
虎徹は表上の資料で匿っているので、言い逃れが出来ないかも知れないが、何かと理由を付けて自身が脅していたり、兎に角協力していたという事実は隠せと。ケン達は頷いてくれた。本当はそんなこと考えたくも無いが、それが龍已のケン達に対する想いなんだと思えば、頷くしかなかった。
次に龍已は虎徹にあるものを作ってもらうように依頼した。それは毒。万が一の自決用の毒である。体が原形を留めなくなって確実に死ぬような強力なものだ。それを奥歯に隠して、いざという時に使う。情報は拷問されようが吐くつもりは毛頭無いが、呪術で吐かされる前に死ぬのだ。
聞いていた虎徹は悲しそうだったが、仕方のないことだ。龍已がこうなれば梃子でも動かないのは知っているので、作ることにした。普通の毒だと即死は難しいので、呪具として、唯死ぬ為だけの呪具を作る。
そうして龍已が心を決めてからある程度が経って夏。龍已達は、近くの祭りへとやって来ていた。
「いやー、何だかんだ来たこと無かったんだよなー」
「ケンちゃんが部活終わりにダウンしたり……」
「ケンちゃんが熱出したり……」
「ケン君がお婆ちゃんの家に行くから行けない事になったり……」
「ケンが食中毒になったり……」
「おうおう、戦犯いるなァこれェ?どう落とし前つけるンだぃ兄ちゃん?」
「こりゃあ今日の屋台奢りだよなァ?毎年楽しみにしてたのによォ?」
「いや確かに俺率たっけェけど、屋台奢りはやめよ?ね?アレ一つ一つ中学生の財布には重いじゃん??……ねぇ待って!せめて返事してっ!!え!?本当に奢らせないよね!?今日そんなに持ってない!すっごい痩せてるから俺の財布ちゃん!!!!」
後ろで自転車を走らせながら騒ぎ立てるケンを置いて、カン、キョウ、虎徹は自転車を走らせ、龍已は走っていく。元よりケンの財布なんかには期待していない。今日はみんなで祭りに行って来ると親に話すと、みんなで何か買って食べなと言われてお小遣いを貰っているのだ。まあ、それでもケンが一番持っていないのだが。
虎徹は大金持ちなので気にする必要無いが、龍已も黒い死神として受け取っている報酬があるので金問題は大丈夫だ。まあ、細かく言うと、8割以上を『黒龍』や『黒曜』の代金として渡しているので、報酬の全てが懐にある訳では無いのだが。
取り敢えず祭りが開催されている場所に行かないことには始まらない。少し先から明るい光と人の賑わう声と音を聞きながら、4人は自転車を走らせ、一人は走った。
祭り場所から少し離れたところで自転車を停めて鍵を掛け、徒歩で現地に向かう。そこにはよくある祭りが開催されていた。人も賑わい、数多くの屋台が並んでいる。何だかんだ来れなかった祭りにみんなで来れた事に5人は互いに目を輝かせ、心を躍らせた。着いただけで気分が高揚している。
さあ行くぞ……と、なったところで、例の如くケンが何かを見つけたようだ。楽しみだなーと言いながら笑い合って進んでいると、中学三年だろうか、自分達よりも少しだけ年上に見える男子3人が、自分達よりも少し年下、中学一年と思わしき一人の女子に話し掛けている現場をケンが見ていた。
3人の男子の内、少しだけ顔が整っている、如何にも運動部に所属してますよと言える体付きの一人が和やかに話し掛け、後の二人は話し掛けている一人の後ろで茶化すように笑っていた。話し掛けられている女子は乗り気では無く、どうでも良さそうな顔をしているが、横顔を見るとかなり整っているように思える。そうなればケンの行動は早く、速い。
「こんな所で一人でいるんじゃなくて、俺達と一緒に回ろうよ」
「興味無いんだけど」
「ぶはっ、フラれてやーんの!」
「ははっ、だっせー!」
「うるさいなー。ね、ちょっと一緒に回るだけでいいからさ!」
「──────どう見ても乗り気じゃねーじゃん。しかも祭りの入り口でつまんねーことすんのやめろよ」
「……何?お前。つか誰だよ」
「うっわ、もしかして助けに来たよ!ってやつ?」
「漫画読みすぎだろ!」
ケンが話し掛けてやめさせようとすると、3人の男子はケンのことを見て笑った。ナンパしていた男子は顔を顰めていたが。話し掛けられて、ナンパされていた少女はケン達の方に少し顔を向け、少しだけ目を開いた。
「折角の祭りで気分上げてこーって思ったら、入り口でしょーもないことやってるから止めてやってんだろ。感謝しろよ」
「はぁ?なんだお前、何様のつもりだよゴラ」
「お前がどー思おうが興味ねーんだよ」
「舐めてんのお前?」
「そーいうのがしょーもねーって言ってんの分かんねーの?ハッ。頭悪すぎて草も生えねーわ。つか、何?やる気?いいぜやってやるよ。見せてやってくだせぇ
「うっわ、最後のでめちゃクソだせぇよケンちゃん……」
「だからクソザコナメクジなのよケンちゃん……」
「ちょっと今のは……ダサかったかなぁ……」
「……俺がやるのか?」
「チッ。マジ舐めてんなコイツ。やっちまおうぜ」
まさかまさかの龍已頼りである。ケンが駆け足で行くから歩いて向かい、話を適当に聞いていたら親友から飛び火されるとは思わず、龍已は内心驚きながら見ていた。しかし邪魔された3人はケンの事しか目に映ってないのか、苛ついたような視線を送っていた。ついでに少女はケンを呆れた目で見ていた。
喧嘩には自信があるのか、ケン達が5人居るというのに、3人の男達の内少女に話し掛けてナンパしていた男子がケンの胸倉に掴み掛かろうと動き、龍已が目を細めた。どんな理由があろうと、親友を傷付ける奴は誰であろうと許しはしない。そしてそれはイカレている龍已からしてみれば、絶対となる。
ケンに掴み掛かろうと伸ばした右腕の手首を右手で掴み、背中へ捻り上げた。肩からびちりと嫌な音が鳴り、あまりの痛さに顔を大きく歪ませ、無理矢理解こうとするが一ミリも動きやしない。そしてそのまま龍已はその場から無理矢理腕を捻り上げた男子を人気の無い所へ連れて行った。
男子の仲間の2人は、友達がやられている事に怒って顔を険しくさせ、人気の無い物陰へ入っていった龍已達を走って追い掛けた。
「へっ、バカな奴等だ。俺に喧嘩売るなん痛!?何で今殴った!?」
「ケンちゃんが喧嘩ふっかけたのに龍已にやらせたから怒ってんだけど?」
「龍已関係無かったでしょ?アイツ今日すっごい楽しみにしてたんだからね?アレがあったりするから行けないかもと思ってて、今日は奇跡的に無かったから、合流してからずっとソワソワした雰囲気してたのに」
「なんでこんな日に限ってケン君は……今のは流石に無いよ。龍已を体よく使ったんだよ?しっかり反省することっ」
「……そう…だよな。ごめん。龍已が帰ってきたら謝る。もうしない」
「てか、あの3人大丈夫か?さっき龍已が左手にメリケン付けんのチラッと見えたんだけど」
「大丈夫じゃねーじゃん!!」
カン、キョウ、虎徹の言う通り、今日の祭りのことを龍已はとても楽しみにしていた。何だかんだ行けなかった人生初の夏祭りである。朝早く起きて武術の稽古や術式の鍛練を行いながら、夜に行く祭りを心待ちにしていた。実はソワソワしている事がバレていたのだが、だからこそカン達は微笑ましそうに見ていたのだ。
なのにコレである。全く関係無かったのに、龍已がやることになってしまった。虎徹曰く起きてからずっとソワソワしていた龍已に、心から楽しんで貰おうと思っていたのに、今日は依頼のことなどを忘れて精一杯羽を伸ばして欲しかったのに、結局こうなってしまった。差し向けた訳でも無いのに心苦しかった。
だからケンを叱った。まるで今のは龍已を自分のボディーガードする道具のように扱ったから。その気が無くても、強いと解っている龍已にやらせたから。それが伝わり、ケンはとても申し訳なさそうにしていた。
ケン達が微妙な空気になっている中、ナンパされて結果的には助けられた少女はケン達の方に近付いて、小さくだが頭を下げた。
「ありがとうございました。助かりました」
「んん……気にしなくていいよ。俺が助けた……っていうのは違うし」
「……さっきの人は……?」
「んー、
「あれ、龍已からメール来た」
「なんて?」
「えーっと、『先の3人を叩きのめしたら、ちょー強い高校生の兄貴呼んでやるって叫んでいて興味があるから、適当に潰してから合流する。今日は肉の気分だから豚バラ串を買っておいてくれ。金は後で渡す』だってさ」
「あーあ、俺知ーらね。龍已の事だから骨は折らないと思うけど、動けないくらいの全身打撲だろうね、メリケン付けてたし。高校生のちょー強いお兄さんお疲れ様」
「ケンちゃんは豚バラ串6本買って持ってて」
「は!?6本!?ちゃっかり自分達の入れんなよ!?」
「あ?全部龍已のに決まってんだろ文句あんの?全く関係無いし悪くない今日の祭り心から楽しみにしてた龍已に喧嘩させて要らない時間食わせて一人で優越感に浸ろうとしていたクソザコナメクジのヨワミソゴキブリクソ野郎のケンちゃん??」
「本当にすみませんでした」
「──────ふーん。あの人龍已っていうんだ。……覚えとこ」
喧嘩することになった龍已の事が気がかりだったのだろう、稀に見る美少女に気にしない方が良いと言って、ケン達は歩き出して出店の方へ向かっていった。ケンはカンとキョウに怒られながら、申し訳なさそうな表情のまま豚バラ串の売っている屋台を探していた。
まだ始まってそこまでの経っていないので、人の数が多い。人混みに連れ去られそうになりながら豚バラ串の屋台を探し出し、6本購入したケン。一本500円だったのでかなりの痛手だが、龍已にしてしまった仕打ちを考えればいくらでも足りない位だ。
そして件の龍已は、無理矢理呼ばせた高校生10人を一人でボコボコにしていた。勿論骨は折らないように気を付けながら、両の拳に装着したメリケンで急所も顔も関係無しに遠慮無くボコボコにしていた。ちょー強い高校生はこの中の誰なんだと思いながら制圧していくと、結局誰なのか解らないまま地面に全員転がっていた。最後に俺の事は忘れろと、3人の中学生達も合わせて脅すと、お金が無いというケンの為に一人一人の財布から金を奪い取った。
折角の祭りなのに、結局荒事が出来てしまったと思いながら携帯を確認すると、送ったメールに対して了解と返事があり、写真と共にここに居るから!という文を見る。入り口から少し離れた所にある、屋台の外側で買ったものを囲んでみんなで食べることにしたらしい。
なら自分は飲み物を買って行こうと思い、屋台の中でも名物である瓶のラムネを6本買って、その場で一本飲んだ。少し動いて喉が渇いていたのだ。飲み終わって満足すると、瓶回収の箱を見つけて捨てておき、ケン達が待っている場所へ早歩きで向かう。
「待たせてすまない。飲み物のラムネを買ってきた」
「おっ!ちょうど飲み物忘れたなーって話してたんだ!クソ助かる!」
「人混みの中歩ってたから喉が渇いちったぜ」
「ありがとう龍已。色々買ったから一緒に食べよっ」
「あの……龍已、俺……」
「……はぁ。オラ、さっさと行けやクソザコナメクジ」
「ぶん殴られて顎が達磨落としになれやヒーロー気取り」
「ごはッ!?背中二人で蹴んなよ!扱いが雑だから!俺のせいだけど!」
「……?」
抱えているラムネを全員分渡せば、お礼を言われながら買ってきたものを見せてくれた。お好み焼きやたこ焼きがあるので美味しそうだなと思っていると、視線を落として落ち込んでいるケンが恐る恐るやって来た。それが焦れったかったのか、カンとキョウが同時にケンの背中に蹴りを入れた。
どうしたのかと思っていると、ケンは手に持っていた豚バラ串を6本も手渡してきた。いや一本で良かったんだがと思いながら、合計幾ら掛かったのか聞くと、両手を振って受け取れないと叫ぶと、申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。
「…っ……ごめん、龍已。楽しみにしてたのに余計なことやらせて。しかも、龍已のこと物みたいに扱った。俺、お前の親友なのに……。今回のこと本当にごめんっ!もう絶対にしない!約束するから!……許してくれないか?」
「……元から気にしていない。いきなり俺に振られて驚いたが、ケンに怪我があった方が、俺は悲しい。だから気にしなくて良い。ケンが無事で良かった」
「……っ!ご、ごめんなっ、龍…已っ!ごめんっ!う、うぅうぅぅ……っ!!」
「おっと……大丈夫、許す。俺はケンを許す。だからみんなで一緒に買ってきたやつを仲良く、何時もみたいに食べよう。楽しみだったんだ」
「ゔん……っ!ゔん゙っ!」
「まったく、世話が焼けるっつーの」
「けっ。……いつまで泣いてんだよケンちゃん!俺早く食いてーんだけど!」
「ほら、ハンカチあげるから涙拭いて。みんなで仲良く一緒に食べよっ」
「沢山買ってきたな。ケン、俺は豚バラ串をこんなに食べられないかも知れないから、一緒に食べてくれるか?」
「…っ……っ………。ぐすっ、おう!食えるぜ!」
ケンが少しずつ目に涙を溜め始めたのを見た龍已は、白くなるほど握り締めたケンの手を取って許すと伝えた。武術の稽古で豆だらけになり、鋼鉄のように硬くなってしまった龍已の傷だらけの手は、とても優しくて温かくて、安心できた。だから自分がしたことが、親友に対する事じゃ無かったと改めて実感して泣き出した。
謝罪をしながら抱き付いてきたケンに少し固まったが、優しくて抱き締め返して頭を撫でた。怒っていないし、気にしていない。それよりも親友に怪我をされる方が嫌なのだ。その為ならばいくらでも頼って良いのだが、どうやら今回のはケンがどうしても嫌らしいので、謝罪を受け取った。
目を腕でゴシゴシと拭うと、龍已に促されるまま座り、屋台の人に付けてもらった割り箸を片手に持って、もう片手には龍已が買ってきたラムネを持つ。他のみんなもその姿勢になり、ケンの事を早く早くと急かすように見ていた。やっぱり親友で良かった。そう思ったケンはラムネを持ち上げて音頭をとった。
「んじゃ、俺達が揃って初めての祭りに……乾杯!!」
「「「「──────乾杯ッ!!」」」」
チリンッ。と音を奏でながらラムネをぶつけ合い、強い炭酸飲料を飲んでシュワシュワを感じる。炭酸に顔を顰め、それがみんなも同じだと可笑しそうに笑った。
買ってきたものを好きなように摘まんで食べて、足りなくなりそうになったらジャンケンをして買ってくる人を決めた。ロシアンルーレットのたこ焼きで、辛いのが当たったケンに爆笑しているカンとキョウ、飲み物を渡す虎徹に、見守る龍已。とても……とても楽しい祭りだと思った。
表情が変わらない龍已は、やはり無表情だったが、雰囲気はとても楽しそうだった。高校生から巻き上げた、受け取りづらい8万円をケンに握らせながら、みんなでまた来たいと、切実に思った……夏の日の思い出である。
あの思い出の夏祭りから一年。中学三年生、最上級生となった龍已達は今でも変わらず親友だ。しかし遊ぶ頻度は下がってしまった。虎徹の家に全員で集まりはするものの、やることはもっぱら勉強だ。そう、高校受験の勉強会である。ケンは言わずもがな、カンとキョウもそこまで成績が良いとは言えないので、常にトップの虎徹と、二番をキープする龍已に教えてもらっているのだ。
日頃のおふざけを窘めて面倒を見ている虎徹は、どうやら勉学に於いても面倒を見ているようだ。しっかり虎徹ママをしている。成績優秀者のNo.1とNo.2を家庭教師にしているケン達の心情としては心強いと言わざるを得ない。
虎徹は呪具師として生きていくことが決定付けられているが、最終学歴が中卒というのは字に起こすだけで恥ずかしいので高校は必ず出るつもりで、大学は特にどうするかはまだ決めていない。龍已も最終学歴が中卒だと、亡き母が大泣きするので、しっかり大学も出ようと考えている。
つまり高校は必ず行くのだ。ならば5人で一緒の高校に行こうという話になり、ケン達に会わせるのでは無く、ある程度頭の良い高校に入ろう!という事になったのだ。自分達に合わせて、頭の良い虎徹と龍已を偏差値の低い学校へ入れたく無いのだ。
中学生の部活動が終わり、学校が終わればすぐに帰れるようになってからは、虎徹の家に行って勉強をし、時には解らないところを教えてもらい、いい時間になったら帰るというサイクルを繰り返していた。親友達となら、嫌いな勉強も悪くない。学校の定期テストでも、3人共成績が上位に入るようになった。
偶には息抜きとして遊びにも出掛け、遊び足りないがみんなで同じ学校に通う為に勉強を頑張り、10月中旬。寒くなり始めようとする季節。学校が終わってみんなで勉強を少ししてから、龍已は一人抜けて仕事に出掛けた。依頼が出された呪詛師殺しである。
山梨から東京まで逃げてきたという、呪術師が捕り逃がした呪詛師の始末である。東京はあまり良い思い出が無いので近付きたくないというのが本音だが、そんなことで維持している依頼達成率100%と信用を落とす事なんて出来やしない。
この日も何時ものように黒いローブを身に纏ってフードを被り、黒いレッグホルスターに『黒龍』を納め、首にクロを巻き付けながら、夜の暗闇に紛れていた。真っ暗闇ではなく、美しい満月の日だった。少し明るくて見えやすい日だが、そんなものはこれまでも腐るほどあった。故に無意識に慢心していた。
「──────お前が黒い死神か。例の件では世話になった。だがそれとこれは話が別だ。率直に言って話を聞きたい。我々に同行してもらおう」
「……………………。」
追っていたのは瞬間移動をする呪詛師だった。本来はそこまで遠くの方まで移動は出来ないのだが、この呪詛師は天与呪縛として左眼が無く、左腕も生まれついて無い。左脚は麻痺して碌に動かせない。その代わりに広い術式範囲とそれなりに多い呪力を持っていた。
瞬間移動にはインターバルが必要で、跳んですぐに跳ぶということは出来ない。しかし範囲が広いので追い掛けられても逃げ切れた。しかし龍已は、黒い死神は呪詛師を絶対に逃がさない。何処までも追い掛ける。偶然目が合って存在がバレてしまい逃げられているが、追い付けないほどでは無い。だから追い掛けているのだが、呪詛師が逃げている方向から人の気配がした。
今は使われていなさそうな病院の前に車が二台止まっている。その内の一台の前には少女が背中を預けている。呪詛師はその少女を人質にしようとしているのか、明らかにその少女に向かって瞬間移動していた。させはしない。少しやり辛いが、クロから『黒曜』を引き抜いて撃ち込もうとして、少女に近付いた呪詛師は横合いから攻撃を受け、壁に叩き付けられて気絶した。
呪詛師を気絶させたのは人形だった。大きな呪いの籠もった人形……呪骸。人間大のサイを基に造られたかわいい?呪骸。そして車からもう2つ、ゴリラとカバに似た呪骸が出て来る。忘れもしない、危なく捕まりかけた日に見た呪骸だった。そしてあれを操るのは1人だけ……呪術高専の夜蛾正道だ。
もっと早く呪詛師を殺していれば、『黒龍』や『黒曜』を最初から使っておけば、少女の気配ではなく夜蛾の気配を察知していれば、満月で月明かりのある日じゃなければ、呪詛師が逃げた先に夜蛾が居なければ、色々な不運が重なって邂逅してしまった。
フードの中で静かに溜め息を吐き、誰でも入れる代わりに誰も出られない効果の帳が降ろされたのを感じながら、龍已は面倒なことになったと心の中でぼやいた。呪詛師を始末出来ていないのに夜蛾にも見つかり、逃げられず、相手は捕まえる気マンマン。本当に嫌になる。
龍已は前から来る夜蛾と3つの呪骸を見ながら、今回はどのように逃げようかと算段を立て始めるのだった。
何で帳が降りきる前に逃げなかったの?
視覚情報よりも効果が~みたいなやつ。ヤクザ……じゃなくて夜蛾さんがやりました。一級だからね、出来るでしょう。多分。
何で逃げる呪詛師撃たなかったの?
なんか、追い掛けて首の骨を映画みたいにへし折りたい気分だったから鬼ごっこしてた。それなりに呪力使うみたいだから、すぐガス欠になると思ったら、その前に邂逅しちまったぜ。
因みに、今日の運勢は最下位。自身にとって嫌なことが起きるでしょう。ラッキーカラーは白☆
祭りでボコッた3人。
普通に女子が可愛かったのでナンパしたら、ヒーロー気取りが来て苛ついて、その連れにボコられて他の奴等に俺の事喋ったら見つけ出して指の骨全部へし折ると脅された。メリケンで容赦なくやられたので本気だと思った。
ボクシングやってる高校3年の兄ちゃん呼んだら、3日は目覚めないくらいボコボコにされていた。実は兄弟揃ってタバコも酒も夜遊びも繰り返すクソガキ。ザマァ。
起きたら金が一銭も無かった。クソッ、アイツ殺……されちゃうからいいや、うん。