呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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第二十二話  新一年生

 

 

 2005年に於ける東京都立呪術高等専門学校の新一年生は、3人だった。それもこの3人、一人一人が只者では無い。

 

 先ず一人。五条家の奇跡の申し子、五条悟。受け継がれる、初見の術式の完全看破と、呪力を視ることが出来るという特異の眼、六眼。そして五条家相伝の術式である無下限術式。数百年ぶりという完璧な抱き合わせに加え、本人の才能が計り知れないものであるという。五条家が生み出した最強の怪物。

 

 次に一般家庭出身という身で在りながら、入学と同時に単独での任務遂行を行える2級呪術師の名を与えられた男、夏油傑。彼は世にも珍しい呪霊を操る術式である呪霊操術を持ち、取り込めば階級の制限無く自由に呪霊を扱うことが出来るのだという。

 

 そして最後が、唯一の女で紅一点の家入硝子。世界的に見ても扱える者が殆ど居ない反転術式の使い手で、更にはその反転術式を他人に施せるという呪術界きっての超稀少なヒーラーである。反転術式はあの五条悟にでさえ出来ないと言わしめた高等技術だ。

 

 正真正銘の傑物揃い。これ程の存在が一度に入学したのは初であるとされている。故に呪術界はこの話題に盛り上がっていた。上層部は兎も角として、これで呪術界も大きく変わる。その第一歩だとも称された。

 

 だが、そんな3人の内、問題があったのは2人。五条悟と夏油傑の2名である。担任となった夜蛾は、まさか初日にグラウンドを崩壊させるとは思わなかった。理由は一つ。五条悟と夏油傑の喧嘩である。どちらも相手を尊重せず、言いたいことを唯口から垂れ流した。それにより堪忍袋の緒が切れて大喧嘩。夜蛾が鉄拳制裁するまで止まらなかった。

 

 しかしその後に言いたいことを言い合える仲となり、結果早くも親友となった。悟に傑。そう名前で呼び合い、ついでに同じクラスメイトになった家入のことも硝子と呼び合って仲良くなった。所謂さしす組と呼ばれている3人は、かなり早い段階から一つになっていた。

 

 仲良く肩を組みながら楽しそうに話している五条と夏油を横目に頬杖をついて興味なさげにチラリと見た家入は、小さく溜め息を吐いた。大喧嘩をしたり仲良くなったりと忙しい2人だが、家入は一番理解している。この2人がガチで根っからのクズだということを。体は高校生なのに頭は小学生以下の五条悟と、無自覚に相手を蔑む天才の夏油傑だ。

 

 家入はこんなクズ共なんかに時間を割くつもりは毛頭無い。それこそ大喧嘩して夜蛾に拳骨されてたんこぶを作った2人を写真撮りながら指さして大爆笑してやったが、そんなことをしている場合じゃない。やらなくてはならないことと、確認しなくてはならないことがあるのだ。

 

 

 

「……ん?硝子、何処へ行くんだい?次は体術の授業だよ」

 

「なんだ便所?デケェ方なら早くしてこいよー」

 

「黙れクズ共。二年の先輩に挨拶してくるんだよ」

 

「ふーん?硝子らしくないね。そういうのあまり興味が無いと思っていたんだけどな」

 

「二年は3人なんだっけ?誰が言ってたか忘れたけど、硝子が行くなら俺達も行くぞ傑。どんなザコか顔合わせといこうぜ!」

 

「名前すら知らない人を馬鹿にするのは感心しないよ。本当に弱かったらどうするんだい?」

 

「……お前等はグラウンドに行ってろクズ共が」

 

 

 

 コイツ等絶対碌な事しない。確信している家入は100%の気持ちで置いて行くつもりだった。一年も会うことどころか此処へ来ることすら出来なかった。だから、まあ無いと思うが大きな怪我が無いかどうかの確認と、いい感じの相手が居ないかのチェックである。いい感じの相手とは何か?察しろよ。

 

 振り返りもせず一年生の教室から出て行った家入なのだが、既に身長が180以上あって脚がクソ長い二人が直ぐに追い付いてきた。こうなれば引き剥がすのは不可能。人知れず大きい溜め息を吐きながら歩みを進めて二年生の教室を目指す。

 

 少し進めば目的の教室に着き、五条と夏油にバレないように小さく深呼吸をしてから扉を開ける。中から自分達の教室と同じ木の匂いがする。しかしその中にふんわりと懐かしい匂いが混じり、目当ての人物はそこに居た。

 

 一年前に、呪符がそこら中に貼られた部屋で会った時と何一つ変わらない姿だった。短めの黒い髪。日本人特有の琥珀色の瞳。約180センチの身長に鍛え抜かれた事が服の上からでも解る体躯。組まれた長い脚。トレードマークの巻かれたレッグホルスターに黒い二丁の姉妹銃。そして、相も変わらずの無表情。

 

 椅子に座って背を背もたれに預け、手の中でルービックキューブを弄り、驚異的な速度で完成させている光景を見ると、ガラでもないというのに鼻の奥がツンとした。しかし家入は、はたと気付く。生徒用の机と椅子が、教室に居る黒圓龍已の1人分しか無いのだ。悟が言っていた事が正しいならば、龍已の同級生はもう2人居るはず。だが無い。つまり、龍已の同級生は既に殉職してしまっているのだ。

 

 

 

「はぁ?二年3人じゃなかったっけ?今はオマエ1人なの?つまり他の奴等ザコくて死んだんだ。うっわツマンネ。オマエも術式ザコ中のザコだし高専辞めれば?居ても死ぬだけでしょ」

 

「こら悟。言い方ってものがあるだろう?先輩もそれを自覚しながら日々を過ごしているんだから、ちゃんと敬わないとダメだ」

 

「……お前らホントにクズだな。先輩、私をこのクズ共と一緒にしないで下さいね。これからよろしくお願いします」

 

 

 

「………………………。」

 

 

 

 ──────このクズ共……ッ!これで先輩が私に悪い印象抱いたら解体(バラ)して殺してやるっ!

 

 

 

 初めましても、こんにちはも無しに、五条と夏油の口から出て来たのは侮辱だった。龍已は何もしていない。新一年生が入ってきて2週間が経つが、最近まで任務に行っていたので挨拶をする事が出来なかったのだ。その内、自身の時のように近接格闘の訓練で会うだろうから、その時に自己紹介でもしようと考え、今は暇潰しに今日の気分であったパズルでルービックキューブをしていただけだ。

 

 気配が3つ、近付いてくるのは解っていた。だからルービックキューブをしながら教室で待機していたのだ。つまり善意で待っていた。そんな龍已に掛けられたのは、去年己の与り知らぬ場所で死んでしまった親友の同級生に対するザコという侮辱と、自身への侮辱だった。普通ならば殴り掛かるものだろうが、龍已はルービックキューブを動かす手を止めただけだった。

 

 つまらなそうにサングラス越しから見下ろす五条と、胡散臭い笑みを浮かべている夏油。やっと会えたのにクズ共の所為で変な印象与えていないか心臓がうるさい家入。その3人を静かに見る。姿勢を変えること無く、眼だけを動かして。

 

 

 

「……噂は兼々聴いている。五条悟。夏油傑。家入硝子。俺は()()()二年、黒圓龍已だ。お前達の次の授業は体術であり、俺と合同だ。早く行くと良い。時間に遅れると夜蛾先生に叱られる事になる」

 

「あ?オマエみたいな奴と合同?ザコと仲良くやるつもりねーんだけど?つか命令すんじゃねーよザコ」

 

「悟。先輩は私達の為に言ってくれているんだよ。気持ちは解るがここは素直に従って早くグラウンドに向かおうか」

 

……チッ。このクズ共死ねば良いのに。……先輩、後でまた。先に行って待ってます」

 

「……あぁ」

 

 

 

 小さく手を振ってみると、無表情だが同じく手を振り返してくれた龍已にキュンとしながら、これ以上クズ2人組を置いておくと自分が2人を殺しに掛かりそうなので、無理矢理ドアを閉めた。五条も夏油も此処ではこれ以上の会話をしようとは思っていなかったのか、すんなりとグラウンドに向かった。

 

 家入は体術の時間だということで、自身には殆ど必要ないと思うものの、先の合同という言葉を聞いてやる気を出した。もし合同じゃなかったら適当にやってサボっていたが、龍已が見てくれるというのなら話は別だ。ちゃんとジャージに着替える。

 

 女子専用の更衣室に行ってまだ新しいジャージに袖を通す。新品特有の匂いが鼻腔を抜けていくのを感じながら、さっさとグラウンドへ出る。龍已はまだ来て居らず、先に着いたのは解った。しかしそれよりも、2人でポケットに手を突っ込みながら制服で先に着いていた五条と夏油に呆れた。

 

 

 

「何だよ硝子、オッセーと思ったらジャージに着替えてたのかよ。つか、なんでそんなやる気出してんの?」

 

「今日は硝子の意外な部分が見れる日だね。いつもならサボって来ないか、私達みたいに制服なのに」

 

「……お前等こそなんで制服なんだよ。先輩と合同で体術だって言ってただろ」

 

「あー?ぶはッ。俺があんなザコにやられると思ってんの?まず触れもしねーよ。俺と傑は最強だから」

 

「そうだね。流石に私も負けるつもりは無いかな」

 

「……あっそ。勝手にしろよ」

 

 

 

 ──────どうなっても知らねーからな。

 

 

 

 家入は1人、心の中で愚痴た。五条と夏油がザコだの負ける気がしないだの言っている相手は、呪術界きっての超大物である黒い死神だということを彼女は知っているのだ。

 

 龍已が無理矢理情報を吐き出させられている時、後ろに立っていたのは家入だった。この人があの時……呪詛師集団に連れ攫われてしまった当時中学一年生の硝子を助けてくれた、黒い死神なのだと知れて純粋に嬉しかった。この人が……と。()()()助けてくれた人が、また助けてくれた。

 

 他人に対して冷たいと自覚する家入が、初めて心の底から欲しいと思ったものだった。だから先ず第一歩となる今日という日を楽しみにしていたのに、クズ共の所為でめちゃくちゃだ。精々ボコボコにされるがいい。いや、されろ。そう思って冷めた目で見ていると、校舎の方から黒いジャージを着て現れた龍已を見つけた。

 

 制服の時と同じように、脚にはレッグホルスターと黒い銃を付けている。歩く姿も背筋が伸びて綺麗で、一歩一歩を踏み締めていて力強い。そしてレッグホルスターを巻いている脚は変わらずえっちだなぁ……と思った。セクハラである。

 

 

 

「……?何故制服なんだ。夜蛾先生に用事が出来、俺がお前達の授業を見るよう頼まれたとはいえ、体術の訓練だ。家入のように動きやすく、汚れても構わない服装で来るべきだろう」

 

「オマエ馬鹿だろ。最強の俺達が、1年先に生まれただけのザコなんかにやられる訳ねーだろ。少しは考えてからもの言えよ」

 

「私も趣味で格闘技を嗜むので、先輩に後れを取るつもりは無いですよ。なので私と悟はこの格好で十分です」

 

「……はぁ。お前達が良いなら構わない。では始めよう。どこからでも良いぞ」

 

「…………あ゙?」

 

 

 

 静かに拳を握って構える龍已に、五条は青筋を浮かべて睨み付けた。夏油も同じ気持ちのようで、笑みを浮かべながら目を細くした。家入は何か察したのか、五条と夏油の傍から三歩横へ移動して距離を取る。

 

 舐められたと直感したのだ。言動からして、3対1でかかってこいと言っている龍已に、2人で最強を豪語する五条の怒りに触れた。五条悟は人生でたった1度も舐められた態度をとられた事が無い。夏油の喧嘩は相手を舐めているのではなく、牽制しあって起こった出来事だ。だが、純粋に下に見られるのは初めてで、この上なく不愉快だった。

 

 夏油とてそうだった。趣味で格闘技をするくらい体を動かすのが好きで、中学の頃は舐めた態度を取ってきた相手を全員叩きのめしてやった。それもたった一人でだ。そんな自分に、知りもしない癖に舐めた態度を取る龍已がこの上無く気に入らないと感じた。

 

 そんな2人が取る行動は唯一つ。ぶん殴って力の差を見せ付ける。五条が右から、夏油が左から回り込んで、右腕と左腕で殴打をそれぞれ放った。身体能力が元から飛び抜けて高い2人の動きは、常人ならどうにか捉えられるかという域だろう。故に入ったと確信し、2人は地面に大の字で倒れていた。

 

 

 

「ぁ………あ゙?」

 

「…っ……何だ、何が起きた……?」

 

「お前達は互いに顔を殴り合っただけだ。そう仕向けたのは俺だが、取り敢えず挟み撃ちすれば良いと考えるのは早計と言わざるを得ないな」

 

「おぉー」

 

 

 

 左右から突っ込んでくる2人の手首を取って、勢いを更に付けさせて顔に誘導させた。それだけで2人はそれぞれの顔を全力で殴り抜き、次の瞬間には倒れていたと錯覚するほどの衝撃が頭に伝わっていた。珍しいことはしていない。単なる誘導だ。やろうと思えば誰にだって出来る。但し、龍已のそれは完璧過ぎただけだ。

 

 綺麗に決まったのを見ていた家入は感嘆とした声を上げながらパチパチと拍手した。見ていて気持ちの良い受け流しだった。クズ共がぶっ倒れているのもポイントが高いし、何が起きたのか解っておらず、困惑しているのも最高だ。

 

 自分達を見下ろしている龍已を見上げながら、段々と頭に血が上っていく。ここまで虚仮にされたのは初めてだ。しかも龍已は全くの余裕とみた。端的に言ってクソほど腹が立つ。だから五条と夏油は目を合わせてアイコンタクトをした。

 

 倒れ込んでいる状態から、五条が龍已の右脚に蹴りを放ち、夏油が左脚に蹴りを放つ。全くの同時による蹴りは上への跳躍による回避しかない。案の定龍已は上への大きく跳躍した。馬鹿がとほくそ笑みながら一瞬で立ち上がって、避けようのない空中の龍已の顔面に2人で拳を向けた。

 

 龍已は焦りもしなかった。焦りもせず、冷静なまま空中で体を捻って向きを変えた。両手で五条の腕を取り、夏油の腕に両足を絡ませて固定する。そのまま全身の筋肉を使って空中で回転し、2人を無理矢理回転させた。ぐるりと視界が回り、龍已が音も無く着地するのに対し、2人は回転させられたまま地面に叩き付けられた。

 

 アクション映画でしかやらないような動きに、家入はまたしても拍手を贈った。純粋にすげーと思った。それを尻目に、やられた2人は目が回っていたり、背中や腰を叩き付けられて痛みに顔を歪ませていた。赤子の手を捻るようにやられた。だがそれよりもムカつくのが、龍已が全く本気じゃ無いことだ。それが一番苛つく。

 

 

 

「テ…メェ……っ!手抜いてんじゃねーよ!!クッソ腹立つ!!」

 

「げほっ……流石に、私も腹が立ってくるね」

 

 

 

「──────腹が立つ?」

 

 

 

 2人の一言に、龍已のナニカに触れた。腹が立つ。そう言った。そしてその言葉が、今の2人が龍已に向けて放ってはならない言葉だった。

 

 ゾワリ。背筋に何かが駆け抜けた。とても嫌なものだ。経験したことの無い、経験したくないものだ。それが今奔った。決定的な嫌な予感に、2人は直ぐさま立ち上がって大きく龍已から距離を取る。何だコイツ。気配が変わりやがった。見た目は何も変わっていないのに、別人になったようだ。

 

 これは、殺気だ。殺そうとする意思の元発せられる気配。それが濃密に、荒々しく、攻撃的に全身に叩き付けられる。皆は勘違いしているかも知れないが、龍已は顔が無表情から殆ど変わらないだけで、心はイカレた部分を除いて普通の人間だ。そんな人間の、大切な親友を侮辱しておきながら、龍已が腹を立てていないとでも思ったか。

 

 

 

「……腹が立つ。腹が立つだと?その言葉、全てお前達に返してやろう。今も生きていれば共に二年になっていたあの2人は、俺の大切な親友だった。それをお前達は碌に知りもせず真っ向から侮辱した。俺が何も言わないから何を言っても許されると勘違いしたのか?生憎だが、内心はお前達をどう殺してやろうかと考えていた。だが、俺はお前達よりも年上で先輩だ。導く立場にある。私情で暴力を振るうのは、先輩にあるまじき行為だと思い、何も言わなかった」

 

「……っ………だったら何だよ」

 

「……つまり、今からは違うと?」

 

「──────術式の使用を許可する。全力で来い。次目覚めた時は医務室のベッドの上だ」

 

 

 

 呪術高専に張られている結界は、未登録の呪霊が入るとアラームが鳴るようになっている。なので夏油は軽々しく術式を使うことが出来ない。だが、今は苛つきが頭を支配していた。まだ中学の頃の感覚が抜け切れていない夏油は、売られた喧嘩は安く買うスタイルだ。

 

 対して五条も、ここまで虚仮にされた挙げ句、無下限術式を持つ自身に術式の使用を許可するほど舐め腐っていると考えると、腸が煮えくりかえる程の激情が襲い掛かってくる。そこまで言うなら、お望み通りにしてやる。その気持ちが先行し、龍已の言い分を殆ど聞いていなかった。

 

 

 

「術式順転──────」

 

「術式展開──────」

 

 

 

「──────ここまでだ」

 

 

 

 無下限術式が、呪霊操術が使用されるよりも、龍已の一手の方が速かった。

 

 五条は呪力を鮮明に視る六眼で、龍已の呪力を視た。そして気付いた。初めて気付いたのだ。呪術界で最も多い呪力を持っていると思っていた自身よりも、遙かに莫大な呪力の権化を。

 

 無限にも思える呪力の塊が、無理矢理人の形を取っていると錯覚するほどの圧倒的呪力量。それが形を為し、両手で為された掌印によって広がった。まさかコイツ……もう辿り着いているのか。呪術の頂点に。それに気付いた時には本当に手遅れで、2人は囲い込まれた。一寸先すら見えない純黒に。

 

 

 

「領域展開──────『殲葬廻怨黒域(せんそうかいおんこくいき)』」

 

 

 

「マジかよ……」

 

「これが……領域展開……」

 

 

 

 辺りは一面黒だ。黒、黒、黒、黒。黒以外何も見えない。光りも無く、希望も無く、有るのは黒と絶望だけ。入れば最後、タダでは返さない。敵であれば、もう2人は死んでいた。今も生きているのは、龍已が冷静であり、命までは取ろうと考えていないからである。

 

 五条と夏油は、何も見えていないような、まるで盲目になったように純黒の世界に居る。しかし互いの姿は見えるのだ。光が無ければ網膜が光景を映せない……何てことは無い。此処は領域の内部。物理も体積も距離も関係無いのだ。だから、黒の世界でそれぞれの姿が確認出来る。

 

 ザコだザコだと言っていた男が、無意識に下に見ていた男が、呪術の極致である領域展開を修得していた事実に驚愕するしか無い。見せ掛け何てものではなく、正真正銘の領域展開だ。それ故に全身に感じる呪力の濃度が桁違いだ。気を抜けば押し潰されそうな錯覚に陥る。

 

 

 

「五条。術式を見破るお前なら解っていると思うが、俺の術式は呪力を飛ばして自由自在に操作する術式だ。しかし本来は範囲が狭く、自由度も低い。だが俺には天与呪縛がある。縛り内容は銃を介さなければ術式を使用できない。その代わりに約4キロに渡る術式範囲と操作技術を与えられた。つまり、この領域内では、銃で放った呪力は必中を得る」

 

「……それだけだろ。だったら弾が届く前にテメェをぶちのめす」

 

「当てる場所を限定させれば、動けないことも無いですよ」

 

「──────本当にそうか?」

 

「あ?何……がッ!?」

 

「い゙……ッ!?」

 

 

 

 脚のレッグホルスターから『黒龍』を抜いた龍已を見て、一気に駆け出そうとした五条の左右の太腿から()()()()()()()()()()()。夏油は右腕の上腕と前腕の()()()呪力弾が突き抜けた。撃たれた弾が飛んでくる所を見ていない。突然体から出て来たように思える。

 

 しかも、2人の体から突き抜けた4発の呪力弾は、龍已の周囲を高速で旋回している。まるで守護しているかのようなその光景に異様さが現れ、何とも思っていないような龍已の無表情に不気味さが滲んできた。

 

 撃たれた訳でも無いのに撃たれていた。訳の解らない状況に、天才と謳われる悟の脳が回転する。そしてまさかと答えを導き出した時、解っていない傑に教えるように語り出した。

 

 

 

「銃を介して放った呪力は必中と為る。つまり、必ず当たる。だが俺の領域内では天与呪縛の所為なのか、少しズレが生じて解釈が捻じ曲がる。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という風に。簡単に言えば、()()()()()()()()()()撃つことが出来る」

 

「……訳分かんねぇ……」

 

「……つまり、引き摺り込まれれば最後、頭の中から頭の中を撃ち抜かれる……ということですか」

 

「全身だから、頭とは限らない──────そんな風に」

 

「──────ッ!!」

 

「──────ぐッ!?」

 

 

 

 手の中から手の甲へ。足の中から足裏へ。肩の中から背中側へ。上腕の中から前側へ。呪力弾が当たりに向かって来るのではなく、当たりに向かえば必ず当たるのだから、当たる場所から当てる事が出来るという風に捻じ曲がる。だからこの領域内に入れば、内側から撃たれるのだ。

 

 更に恐ろしいのは、体内から撃ち込まれるのは、小さな弾丸状のものだけではなく、嘗て廃病院を文字通り根刮ぎ消し飛ばした超極太大質量光線すらも放てるということだ。それを、あの時の特級呪霊3体に問答無用でぶち込んでやった。結果、特級呪霊は跡形も無く消し飛んだのだ。

 

 5発。10発。30発。体内から撃ち込まれる呪力弾により、体中に穴を開けられていく2人。制服も当然穴だらけで、赤黒い大量の血を吸い込んで重く、フラつけばぐしゃりと不快な音を出す。濃密な呪力によって無下限術式の無限の減速を与えるバリアは機能せず、夏油と共に抵抗虚しく撃ち抜かれる。

 

 呪霊操術で呪霊を出そうとも意味は無い。出した途端、頭に極太の光線が撃ち込まれて消し飛ばされる。攻撃も防御も一切許さない。まさしく龍已の領域だった。そうして撃たれ続けた2人は出血多量によって意識が朦朧となり、最後は力無く倒れ込んだ。

 

 気絶して動かない血塗れの後輩を見つめ、溜め息を吐いた。やり過ぎたと。ここまでやるつもりは無かったと。死の危険が迫るような場所は全て避けて撃った。これは穴が開けられすぎて血が多く出ただけだ。だから領域外に居る家入に少し反転術式を掛けてもらおう。そう思って領域を解こうとすると、純黒の世界に亀裂が入った。

 

 びしりと音を立てて亀裂が入り、太陽の光が漏れ出てくる。最後はガラスのように砕け、外から細い腕が伸ばされた。少しずつ領域の壁を破壊して中に入ってきたのは、家入だった。中に入り込んで見渡し、黒一色の世界と、初めての展開された領域内に目を丸くしている。そして倒れている同期2人を見つけ、呆れた目と溜め息を吐いた。

 

 傍に寄って血が出ない程度に反転術式を掛けている家入を見て、龍已はなるほどと納得する。内側から出られないように領域を強固にすればするほど、外からの侵入は簡単になるのだ。何せ、入って得することは無いのだから。

 

 

 

「先輩、やっぱりスゴいですね。これ領域展開?ですよね。しかもクズ共とはいえ、あの2人を一方的ですし」

 

「……俺も少し、頭に血が上っていた。ここまでするつもりは無かった。態々手間を掛けさせてすまなかったな、家入」

 

「イイですよ。元々私はヒーラーなんで」

 

「ヒーラーか……頼もしい限りだ。だが何が起きているか解らない領域内に突然入り込むのは感心しないぞ」

 

「はーい」

 

 

 

 反省しているのかは少し解らないが、返事をする家入に頷くと領域を解除した。黒い世界の全体に罅が広がり砕け散った。見えるのは変わらずのグラウンド。無傷の龍已と硝子に、血が流れない程度に回復されながら気絶している五条と夏油。やはりやり過ぎたと思って龍已が反省していると、前から拳が飛んできた。

 

 掌で受け止めてパシリと音を響かせる。気絶している2人に向けていた視線を前に戻せば、家入が右拳を出して殴り掛かっていた。心の中で訝しんでいると、続いて左拳、再度の右拳。最後に蹴りが飛んできた。それらを受け止めると、彼女は一歩下がって拳を構える。

 

 

 

「体術の授業ですよね。私だけ教えてもらってないですよ、先輩」

 

「……だが、五条と夏油を医務室に……」

 

「伸びてるクズ共は自業自得なんで放って置いていいですよ。それに少し治してあるんで死にませんよ。死んでもいいけど」

 

「……まあ、家入が折角やる気を出しているからな。このまま続けるか。五条達は少し寝ていてもらおう」

 

「はい。じゃ、よろしくお願いします。……あ、優しく教えて下さい。私ヒーラーですから前に出て戦ったこと無いんで」

 

「勿論だ。そう急かしはしない。下手な怪我の無いようゆっくりとやっていこう」

 

 

 

 血塗れで倒れている五条と夏油から離れ、体術の授業をしている龍已と家入の図は異様だろう。本来ならば2人を医務室に連れて行くのだが、死んだ親友達を侮辱された事による静かな憤りと、家入がある程度治療して死ぬ危険は無いということでそのまま続行となる。

 

 パシリといい音が時々聞こえて、新しく入った一年生の中でも真面で、自身の話を良く聞いて授業に取り組む家入の評価が龍已の中で上昇する。それを何となく察して、彼女は少し口の端で笑みを浮かべながら、2人だけの時間を楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 高専の新一年生との初対面は非常にドタバタしたものではあったが、こうして恙無く終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 






五条悟

体術でも術式ありでも触れられる事すら無いと思って舐めプしたら体中穴だらけにされた人。『蒼』発動したら馬鹿みたいな威力の光線に呑み込まれて、は?ってなった。

無事医務室で目が覚めた。




夏油傑

趣味で格闘術をやっているので負けないと思ったら、少林寺のアクション映画みたいに空中で大回転させられ、脳味噌をシェイクされた人。

取り込んだ呪霊30体消された。ムカついて1級呪霊出したのに……。

悟と一緒に医務室で目が覚めた。




家入硝子

あんのクズ共マジで死ねば良いのに。けど死ぬぐらいボコボコにされてて満足した。ザマァ。勿論写真撮った。

気絶してるクズ共の横で龍已からマンツーマンで体術教えてもらった。優しくと言ったら本当に優しく教えてくれたし、めっちゃ丁寧で解りやすかったから授業が楽しかった。

あ、先輩のホルスター巻いた脚えっちですね。お尻も。まあ上半身も鎖骨とかえっちですけど。()()言わない。

お昼休みとかにお話ししましょって言ったら良いよって言われたので、その日1日ご機嫌だった。




龍已

気配が近付いて来たから自己紹介しようと思ったら、ボロクソ言われた。確かに術式はザコだが、死んだ親友達を侮辱するのは許さん。穴だらけにしてやる(やった)



領域展開・『殲葬廻怨黒域(せんそうかいおんこくいき)

撃った呪力が必中効果を持つが、天与呪縛が作用してくるからなのかどうかは解らないが、解釈が捻じ曲がり、必中効果が作用した場合に限り、敵の体内から撃つ事が出来る。

体内から撃ち込む呪力弾に制限は無く、廃病院を消し飛ばした時のような大質量も放てる。故に相手は初撃で消し飛ぶ。よくある閉じ込めれば勝確の領域展開。

硝子は話をちゃんと聞くし、体術の授業も最後まで真剣にやってたし、侮辱もしてこなかったので印象は良い。

授業終わったら悟と傑を医務室に送り、硝子にはジュースを買ってあげた。

昼休みとかに教室へ行くからお喋りしましょうと、年下にカワイイ事言われたのでOKしたらニッコリ笑ってありがとうございますと言われたので、良い後輩も入ったなぁとほんわかとした。


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