呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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さんの皆さん、ありがとうございます!


お知らせ。

御指摘が有りました、外道傑……夏油傑が入学時、てっきり最初から特級なのかと思いましたが、1級以下だったらしいです。ニワカかましました笑笑




第二十三話  改めて

 

 

 

 

「あ゙ー……クッソ。マジで痛ェ……」

 

「太い血管や神経は綺麗に避けてあるからね……痛みだけだ……」

 

「なー硝子、反転術式で治してくれよ。治せんだろ?」

 

「私も是非頼むよ」

 

「……はッ。自業自得だクズ共。ザマァ」

 

「「ひっど……」」

 

 

 

 五条悟と夏油傑が服の下に大量の包帯を巻いていて、一つの動作をする度に痛がっていた。椅子を座るのにも、足を組むのにも痛そうにしており、日常を送るのに四苦八苦している2人を尻目に、家入は至極興味なさそうに横目で見ていた。

 

 五条と夏油が龍已に体術の授業で完膚無きまでに負かされたのは二日前のこと。昨日は龍已が朝から任務だったので会えなかったが、今日は任務も無いということで会うことが出来る。しかし五条と夏油が会いに行くことは無い。なんだったら謝罪にすら行かない。

 

 まあそこら辺についてはクズらしい2人なので言うことは無いが、家入は昨日会いに行くことが出来なかったので、今日行こうと決めていたのだ。授業と授業の合間の休み時間ではたかが知れているので、行くのは昼休みなのだ。そして今は四時間目の自習の時間。時間のロスが無いように、予め昼飯は購入しておいたので抜かりは無い。

 

 表面上は何時ものクールで冷たいと言われる家入硝子を。内側では早く昼休みになれと怨念を撒き散らしている龍已の唯一真面目な後輩として、早く会いに行きたいという感情を隠している。全身の痛みが気になって硝子の感情に気付いていない2人は、頼んでも反転術式を使ってくれない家入なかぶつくさと文句を言っている。

 

 あー、早く終われー……と、内心でぼやいている家入の願いが叶ったように、四時間目の授業の終了を報せるチャイムが鳴った。五条と夏油は昼飯に何か食べに行こうと席を立ち上がり、家入も買っておいた昼飯の入っている袋を手に立ち上がった。何処へ行って食べに行くんだと問われる前に、先輩のところに行ってくると言えば微妙な顔をした。あの2人でも気まずいという感覚があったらしい。興味ないが。

 

 アイツのとこに行くのかよー、と文句を言っている五条を置いて2年の教室へ向かう。今度はクズ2人が居ないので、存分に話せる。それを考慮すれば、足取りは当然軽くなる。手に提げたコンビニ袋を小さく揺らしながら、龍已の居る教室のドアを開けた。するとそこには、教室内をギリギリまで敷き詰めている黒い球体があった。

 

 向かっている最中に感じた呪力の気配で解っていたが、やはりこれは龍已の領域展開だ。敵によるものではない。日々稽古を必ずやっている龍已だからこそ、領域展開を修得してから毎日欠かさず、()()()()()()()()()の領域展開の稽古をしている。出来て終わりにしない辺りが龍已らしいと言えばらしいが、何も無いのに領域展開しているのは龍已くらいのものだろう。

 

 必殺の術式を必中必殺へと昇華させる、特大のバフを得るための空間。それは内側から外側へは逃げ出すことが出来ないようにすればするほど、外側から内側への侵入は容易となる。つまり囲い込めば勝ちの筆頭である龍已の領域展開は、家入でも侵入することが出来る。呪力で体を少し強化して叩けば罅が入り、中が見える。すると、家入が来たことに気が付いた龍已が領域を解いた。

 

 罅が広がって全体を脆くし、粉々に砕け散ってガラスの割れたような音を響かせるが、物体として飛び散ることは無く、中から椅子に座ってクロスワードをしている龍已が現れた。クロスワードの本を閉じて顔を上げ、入口に立っている家入を見る。

 

 

 

「良く来たな。喋りに来ると言っていたが、もう来るとは思わなかった」

 

「迷惑でした?」

 

「まさか。俺にとって初めて出来た親しい後輩だ。念の為に持ってきておいた椅子を使っていいから座るといい。昼飯を一緒に食べよう」

 

「じゃあ、お邪魔しまーす」

 

 

 

 初めての親しい後輩という部分で内心ガッツポーズをし、何気に椅子を用意してくれていることから、それなりに楽しみにしてくれていたことにキュンとしながら、龍已と対面するように椅子を持ってきて机の上に袋を置いた。

 

 龍已はどうするのだろうと思って見ていると、首に巻き付いている黒い蛇が口を開け、弁当が入った包みを吐き出した。それを当たり前のように受け取り、家入と同じく机の上に弁当を置いた。一昨日の体術の時にも龍已の首に巻き付いていた黒い蛇……のような呪霊。少し気になりながらコンビニ袋から昆布のおにぎりを取り出した。

 

 

 

「家入は弁当を作ったりはしないのか?」

 

「料理はまあ出来るんですけど、医療の勉強とかしてたらやる気が起きなくて結局買っちゃうんですよねー。先輩は自分で作ってるんですね」

 

「今日は手作り弁当の気分だったからな。何時もは食堂で適当に作って食べている」

 

「へぇー。……え、キャラ弁ですか?モデルはピカチュウですね。しかも完成度ちょー高い」

 

「昨日の任務場所が本屋の隣だったもので、試しに何か無いか探していたらキャラ弁特集があってな。気になって作ってみた。如何だろうか」

 

「普通に雑誌に載ってるやつみたいですよ。スゴいです。それに美味しそう」

 

「初めての挑戦だったんだが、そう言ってもらえると作った甲斐があるな。折角だ、食べて良いぞ」

 

「え?」

 

 

 

 ほら、と言われて差し出される黒い箸。まだ一口も食べていない龍已が長方形の大きめな弁当箱を硝子の前に置いて食べるように促す。弁当箱の中身はウィンクをしているピカチュウ。カワイイしキュートで美味しそう。小さいプチトマトや白身魚のフライ。竹輪にキュウリを刺して斜めに切ったものなど、色々と入っている。

 

 男が作ったら確実に茶色一色弁当になる筈なのに、龍已が作るとキャラ弁に命を賭けているような主婦真っ青な芸術が生み出されている。これをファーストアタックで崩さないといけないのか?勿体ない。普通に持って帰りたいと思っている心とは別に、黒い蛇型呪霊の内部で保存が効いているのかほんわか温かい良い匂いの弁当に箸が伸びる。

 

 勿体ない気持ちが有れど、ピカチュウの耳に箸を入れて下に敷いた白米と一緒に持ち上げる。黄色は薄い卵で、背景の黒が海苔。白米は醤油が掛かっていて海苔弁になっていた。卵で模っているピカチュウの耳の部分と海苔弁を口の中に入れ、おかずも食べて良いと言われたので白身魚のフライを半分切って口の中に入れた。

 

 ほんわかとした出来たてのご飯と、優しい海苔弁の味。濃すぎず薄すぎない白身魚のフライの味が口の中に広がって、端的に言ってめっちゃ美味い。自分のではなくて龍已の弁当であると認識していないと箸が止まらなくなりそうだった。引き続いて食べる前に、龍已へ弁当と箸を返す家入は、口の中が幸せだった。

 

 

 

「ホントに、冗談とかお世辞抜きで美味しかったです。先輩料理上手ですね」

 

「そうか。それなら良かった。……さて、では食べてしまおうか」

 

「あっ……」

 

 

 

 龍已も返された弁当に箸を入れて持ち上げ、口の中に入れて咀嚼し、呑み込んだ。小さく頷いて普通だなと言っているが、その美味しさで普通なのかというツッコミは、残念ながら入れられなかった。家入は気付いた。私が使った箸、洗ってない。

 

 何の躊躇いも無く、家入が使った箸を使用して弁当を食べている龍已。元々彼が弁当箱とセットで持ってきた物なのだから使って当然なのだが、仮にも目の前で女子が使っていた箸だ。何か思うことは有って然るべきだろう。それとも、そんなことは気にする必要は無いと思われるくらい興味が無く、本当に唯の後輩としてしか見られていないか。

 

 うーん、と思いながら袋から出していた昆布のおにぎりの袋を破って海苔を巻き、パリッとさせながら一口齧る。良い後輩としか見られてないっぽいなーと再確認していると、弁当を食べていた龍已の手が止まっていた。喉に詰まらせたのだろうかと思っていると、龍已が少しだけ耳を赤くしていた。

 

 家入はおにぎりの二口目に入ろうとして小さく口を開けた状態で止まり、目を少しだけ瞠目させてパチパチと瞬きした。そしてどういう事なのか察すると、口をニンマリと持ち上げて龍已に笑いかける。

 

 

 

「どうしたんですか先輩?」

 

「……いや、何でもない」

 

「でも手が止まってますよ。何かありました?それとも何かあった事を今気づきました?」

 

「……家入は意地悪だな」

 

「ふふ。先輩も照れるんですね──────かーわいい」

 

「…っ……早く食べてしまえ。時間が無くなるぞ」

 

「はーい」

 

 

 

 どうしても持ち上がってしまう口角を隠そうともせず、龍已の事を時々見ながら買ってきた昼飯を食べ進める家入。偶に視線を感じ、その瞬間を見計らって唇についた海苔を取る体で舌舐めずりをしてみると、視線が切れた。どうやら無表情で女に一切の興味が無いように見えて、龍已も男子高校生らしい部分があるようだ。

 

 間接キスで耳をほんのりと赤くしている龍已を見れたので良しとし、気分が一気に良くなった。何だか食べ慣れたコンビニのおにぎりがとても美味しく感じるし、食事そのものが楽しいと思える。

 

 この時間、めっちゃ良いじゃん……と、癖になりそうになりながら、髪に隠れて見えない耳が熱いことを無視して、昼飯を食べていった家入であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば先輩」

 

「何だ」

 

「首に巻き付いている小さい蛇型の呪霊は何ですか?さっき弁当箱を吐き出したり呑み込んだりしてましたけど」

 

「あぁ、まだ知らないのか。これは所謂、武器庫呪霊と呼ばれているものだ。体内が異空間となっていて、見た目に反した貯蔵量を持つ珍しい呪霊だ。俺は何かと武器が多いから、このクロが居なければ持ち運びが面倒になる」

 

「へぇ……クロっていうんだ」

 

 

 

 飯を食べ終えて飲み物を飲み、一服していると家入から疑問を一つ投げられた。隠すことでもないし、なんなら見せているので簡単に説明する。武器庫呪霊は稀少で、見つけようと思って簡単に見つけることは出来ない。仮に見つけていても、仕舞い込めるという部分を見落として低級呪霊として祓っている可能性すらもある。

 

 龍已がクロを見つけたのは偶然で、任務先で呪霊によって襲われ、無惨にも死体となった非術師がクロに呑み込まれそうになっているのを発見した。見た瞬間に食っているのではなく、呑み込んでいると解った龍已は、見つかって逃げ出したクロを追い掛けて捕まえた。そしてこれ幸いと調伏をして契約を交わしたのだ。

 

 親友の虎徹に呪具を造ってもらっている龍已は、単純に武器が多い。その全てを持っていくのは無理だし、人目につく。しかしクロが居ればそんな心配は無く、何処へでも全ての呪具を持っていく事が出来るのだ。居なくてはならない相棒。それが龍已のクロである。

 

 

 

「おいでー」

 

「クロは俺と契約している呪霊だ。他人には従わず馴れ合わない。だから呼んでも……」

 

「おぉ……蛇触ったこと無いけど蛇みたい」

 

「……何?」

 

 

 

 基本巻き付いている首から龍已の手元まで降りてきて撫でられていたクロを家入が呼んだ。掌を差し出しながら呼んでも、契約した呪霊は契約者以外の者とは勝手に接触することは無い。契約を上書きする事も当然出来ない。なので懐くなんて以ての外なのだ。

 

 しかしクロは呼ばれるがままに家入の方へ行った。これまでも興味本位で呼ばれても全く動かなかったクロが、易々と離れていくのに驚愕を禁じ得ない。表情こそ何時ものものだが、内心はかなり驚いているのだ。

 

 差し出した家入の掌に頭を擦り付けるクロ。それを少し笑いながら撫でて、胴体を人差し指で擦って感触を確かめている。その光景は普通有り得ない筈なのだが、どうしてクロは家入の呼び声に従ったのだろう。人知れず、他人が結んでいる契約を強制的に破棄させて自身と契約を結ばせる術式を持っているのでは?と思っていた。

 

 

 

「クロの中にはどの位呪具とか入ってるんですか?」

 

「そうだな……100は超えていると思う。試しに造ったと言っていたものも取り敢えず受け取っているからな。正確に数えたことは無いな」

 

「それ全部買ってるとなると、かなり額がヤバいですね」

 

「特級は凄まじい金額だが、それ以外は特に払ってはいない。試作品も多いから使ってデータを取ったりするのに貢献しているので、金はいいと言われている」

 

「特級呪具を個人で持ってるとか、ウケる」

 

 

 

 一般の出である硝子でも授業で教えられたので特級呪具の価値はある程度把握している。まあ、一級や二級がある中で最上位の特級なのだから価値が高いということは誰でも思い至るだろう。ただし解らないのは特級呪具一つに掛かる値段である。

 

 普通に億はいく特級呪具だが、龍已のそれは普通の特級呪具よりも比較にならないほど高額だ。理由としては龍已の莫大な呪力と強力な呪力出力に耐えられるように、超稀少な金属をふんだんに使用しているという部分があるが、付与された術式も高度であるからだ。『黑ノ神』が良い例である。

 

 一つ手に入れるだけでも莫大な金を用意しなくてはならないというのに、虎徹はポンと渡してくる。金を要求してこないのだ。造るのにも尋常じゃない金が掛かっているだろうに。親友というだけで無料で提供してくる虎徹に、流石の龍已も、いやおかしいだろと思った。

 

 なので今も高専に持ってこられる任務の報酬や、黒い死神として活動している時の仕事の報酬の大部分を虎徹宛てに振り込んでいる。要らないと言って固持する虎徹だが、龍已が無理矢理払っているという状況だ。まあ虎徹はその金を違う口座に入れて、龍已の為に貯金してあげているので、結局受け取ってもらえてないのだが。

 

 家入は特級呪具の話をしている龍已の雰囲気が、どこか楽しそうというか、誇らしげな感じになっていることに気が付き、恐らく呪具を造って龍已に提供している人とは親しい人なんだなと思った。そしてその事を口にしないということは、誰にも明かすつもりが無いということ。それを不躾に聞けばどんな印象を持たれるか解らないので、聞かなかった。

 

 

 

「先輩」

 

「どうした」

 

「先輩って他人に言えない秘密って持ってますか?」

 

「……他人に言えない……」

 

「そうです。誰にも言えないような、心の内に秘めているモノです」

 

 

 

 クロの顎の下を擽って遊んでいた家入が、机の上に居るクロに上から視線を落としながら突然投げた問い。それにどういう意味だ、なんて言葉は掛けない。文字通りの意味だからだ。誰にも言えない秘密。それは誰にだって持っていて、色々な理由によって隠されていること。知られたくない、知って欲しくない、若しくは知られる訳にはいかない。

 

 龍已には隠し事が多い。呪具の出所。誰に造って貰ったのか。何処に住んでいたのか。実家は何処に有るのか。何故呪術師をやっているのか。何故呪詛師に並々ならぬ怨念を抱いているのか。黒い死神の正体。掛け替えのない親友達の名前。上げれば切りが無い。中には調べれば出てしまう事も有るが、自分の口からは言わないのだ。

 

 つまり、答えは是。隠し事があるかと問われれば、有ると言わざるを得ない問い。ここで無いと言うのは非常に簡単だ。無い。その二文字を口に出せば終わりなのだから。しかし龍已は何故か口ごもった。真実を言うように強制された訳でも無いのに。クロに視線を向けて俯いている家入の気配が、龍已をそうさせたのだろうか。龍已は今一解り倦ねていた。

 

 

 

「私にも有りますよ。例えば──────昔呪詛師に攫われた事がある……とか」

 

「……………っ!」

 

「その時に呪術界きっての大物……“黒い死神”に助け出されたとか。最後に『誰にも黒い死神の情報を話さない』と縛りを結んだ事とか」

 

「…………………。」

 

「ねぇ先輩。他人に話さないということは()()()()()()()()()()()()()という意味ですよね。()()()()()()()()()()()()黒い死神のことを」

 

「…………………。」

 

「久しぶりですね──────黒い死神のおにーさん」

 

「………………はぁ。縛りをそんな使い方する奴は初めてだ。一歩間違えれば罰を受けていただろうに」

 

「確信してましたから。ていうか、知っていましたから」

 

 

 

 クロを持ち上げて龍已の首元に持っていき、巻き付かせて返した家入は今度こそ顔を上げた。小さく笑みを浮かべる彼女は、真っ直ぐ龍已の瞳を見ていて、決して逸らさない。疑いの余地が無く、龍已が黒い死神と知っているという発言も撤回しないようだ。そもそも縛りの罰が作用していないのだから、本人と証明されてしまっている。

 

 はぁ、と小さく溜め息を吐く。ここが高専で、教室の周囲には誰も居ないことは解りきっているので盗聴されていることは無いが、それでもここでは軽々しく話して欲しくは無かった。まあ、これだけの話をする場所もかなり限られている訳なのだが。

 

 家入は正体を知っていた理由を話し始めた。曰く、黒い死神として活動していた時に夜蛾に捕まり、情報を無理矢理吐かされた時、舌を噛み切っても治せるように背後に控えていたのは自身だったということ。呪詛師に攫われて助け出してくれた黒い死神の特徴である、黒いレッグホルスターと姉妹銃の『黒龍』を目に焼き付けていたことを。

 

 

 

「当時はこうなる(呪術師になる)とは思っていなかったし、そんなことを注視する精神状態にあるとも思わなかった。まさか『黒龍』を覚えられていたとは」

 

「それだけじゃ無いですよ」

 

「……他にも有るのか」

 

「勿論。寧ろこれが一番ですね」

 

 

 

 家入は机の上に置いていた龍已の手を取って優しく握った。ピクリと反応した龍已にクスリと笑いながら、男の特有の硬さ以上に硬く、傷だらけで豆だらけの龍已の手を撫でる。あの時と同じ手だ。持っていたルービックキューブを渡してくれた時に見た手。色を揃えられない自身に指を指して教えてくれた手。あの時見た、目に焼き付けた手と全く同じだった。

 

 硬くてゴツゴツしていて、普通の人じゃまず有り得ない、長年の厳しい稽古に耐え、普通の女性では手を握ったとしても良い気分にはさせないだろう、大小様々な傷。数々の呪霊を祓い、数多の呪詛師を殺した、謂わば人殺しの手。そんな手が、硝子はとても良いと思う。好きだなぁと感じる。だってそれ程、龍已が頑張って生きてきたという証なのだから。

 

 あまり女の人と触れあった事が無いのだろう、優しく手を撫でられて固まっている龍已を良いことに、存分に手の感触を堪能した家入は、龍已の大きくて硬い両手を、自身の小さな柔い手ではみ出しながらも包み込む。胸中にある感謝の気持ちが伝われば良いと考えながら。

 

 

 

「これでも感謝してるんですよ。助けてもらえなかったらどうなってたか解らないし、どうされていたかも解りませんでしたから。だからあの時はありがとうございました。そして改めて、これからよろしくお願いします、先輩」

 

「……あぁ。あの時は再会しないことを祈ると言ったが、こうして折角再会したんだ、よろしく頼む」

 

「勿論、誰にも知られていませんし、話してないんで大丈夫ですよ。あれは2人だけの秘密なんで」

 

「是非ともそうしてくれ。色々あって正体をバレる訳にはいかなくてな」

 

「勿論です」

 

 

 

 家入は頷いて肯定した。話す気なんて最初から無い。例え縛りが無くたって言わないつもりだ。あの時のことは自身と龍已だけの秘密だ。一応黒い死神との仲介役をしている男も居るのだが、もう会うことは無いのでカウントしなくて良いだろう。

 

 突然のカミングアウトで、まだ会って2日目だというのに、昔からの知り合いのような空気になった。つまりはかなり親しい間柄になることが出来た。もう知らない仲ではないし、聞き分けの良い後輩で、黒い死神の時にも会った事がある。しかも命を助けた相手でもある。龍已の中に家入硝子という人間が強く根付いたことだろう。

 

 家入は龍已に微笑みながら内心でほくそ笑む。大事な先輩を散々に侮辱してくれた同級生のクズ共には殺意が湧いたが、そのお陰で自身の事が良く出来た後輩として映りやすくなっている。その部分にだけは感謝してやっても良い。言わないけど。

 

 秘密を共有した事による特別性。それが龍已と家入との間に見えない糸を繋いでいる。誰にも見えなくて、触れない、故意に断てない細くて透明で強靭な糸。それがある限り、龍已と家入は切っても切れない関係となっている。もう少し踏み込みたい気もするが、焦ってはいけない。恐らくだが、まだ龍已は同級生である親友達を失ってそう長く経っていない。

 

 あの体術の時の言動から察するに、亡くなってから半年経つか経たないかという位。ならばまだ心の中に印象強く居座っている筈だ。そこで畳み掛けても逆効果だろうと解っているのだ。だからまだ良い後輩で居てあげる。ただし、まだ……だ。

 

()()()()人のことを助けておきながら、普通の先輩後輩の間柄で満足するとは思わないで欲しい。こっちはそんなつもりはさらさら無いのだから。龍已が今どう思っていようと、結局手に入れてしまいさえすれば勝ちなのだから良い。人が少ない呪術界というのも大きな点だろう。殉職によって入れ替えが激しいとしても。

 

 家入は、まあ龍已ならその点に於いては大丈夫だと思っている。クズとはいえ五条と夏油を真っ正面から打ち倒すほどの実力者で、黒い死神としてこれまでの膨大な経験があるのだから。だからそう簡単にはやられないと思っている。自身もヒーラーなので現場に行くことは滅多に無い。何時ぞやの時のような例外があるが、それも滅多には起きないだろう。

 

 

 

「先輩。傷を負ったらすぐに私の所に来て下さいね。反転術式で治してあげますよ」

 

「頼もしいな。その時は頼もう」

 

「りょーかいです」

 

 

 

 傷を負っても治してあげる。古傷や火傷痕は治せないが、それ以外ならば治せるようになるから。だから即死するような傷だけは絶対に負って欲しくない。死ねば終わり。終了なのだから。

 

 置いて行かれる気持ちを、龍已はこれ以上無いほど知っている。それも自身が知らないところで失われていた、自身が居ればどうにかなっていたという、悔しさが心を巣くうような、虚しい気持ちを。だから、信用するし信頼する。龍已はそんなことが起きないと。

 

 呪術界はクソみたいな事が山とある。目を背けたくなるようなことも幾らだって起きるだろうし、起こされるだろう。それでも、家入は切実に死んで欲しくないと思った。

 

 どんな傷だって治せるようになる。そう心の中で決めている家入とは別に、龍已の携帯に電話が掛かった。家入に断りを入れてから電話に出て少し会話すると、終わったのか携帯を畳んで仕舞いながら家入に向き直った。

 

 

 

「家入はまだ現場で呪霊を間近で見ていないらしいな」

 

「まあ、ヒーラーですからね。戦う術が呪力しかないですし」

 

「流石に現場の呪霊を見ていないというのもアレだということで、俺と合同で低級の3級呪霊を祓う任務が出た。どうする、行くか?行かないと言っても問題は無い」

 

「いいえ、行きますよ。危なくなったら先輩が守ってくれますよね?」

 

「あぁ、当然だ。大切な後輩だからな」

 

「帰りに何処か行ってお茶でもしません?折角ですから」

 

「祓い終わった後なら構わない」

 

 

 

 普通にデートじゃん……と、嬉々とした感情を抱えながら椅子から立ち上がって伸びをする。現場の近くで待機はあっても、中に入って呪霊を直接見るなんてことは無かった。何せ大切なヒーラーだから、危険な場所へ放り込むなんてことは出来ないのだ。しかし今回は龍已が居る。

 

 単独での特級呪霊3体の即時殲滅という実績を持ちながら、斜め上に位置付けにある特級を除いた、最高位階級である1級呪術師。そんな人が常に護衛をしてくれながら、相手は低級の3級なのならば心配は無いだろうという判断だったのだ。

 

 五条と夏油は強いし、既に任務へ行った事があるので今回は同行しない。したとしても特に意味は無いだろうということだ。それを聞いてグッジョブクズ共と、褒めているのか貶しているのか解らない言葉を心の中で贈る家入だった。

 

 

 

 

 

 

 

 後に昼休みになったら龍已の元へやって来て、一緒にご飯を食べるようになる切っ掛けの1日の流れであった。

 

 

 

 

 

 

 

 






クロ

あれ、前ご主人様が助けてた子だよね?久しぶり!

家入にだけは甘えるクロに、龍已さんも困惑した。





家入硝子

お昼食べに行ったら領域展開されてて、練習してる……すげーと思った人。ていうか先輩のお弁当本当に美味しいんだけど。

これからもお昼にお邪魔する。1人で食べるのも寂しいから、家入が一緒に食べてくれると嬉しいって言ってくれた龍已にキュンとした。

なんだこの先輩、私をキュンとさせるの好きだな?

あの後呪霊を龍已がパパッと祓って最後にお茶した。カフェに連れて行ってくれて奢ってくれたし、たくさんお喋りしました。至福です。

任務出してくれた夜蛾センセーマジグッジョブ。

その日は良い夢見れた。

あの日見た手の傷だけで正体を見破れる人。




傷だらけの最強のクズ達。

登場したのは最初だけ。

2年の教室の方から領域展開した時の呪力の気配がしてマジかよってなってた。




夜蛾

信頼しているし信用している龍已に、家入に呪霊を見せてやる為の任務を出したら、後日家入にお礼を言われた。

いや、なんでお礼を言った。


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