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「──────本気でやっていんだよな?センパイ」
「本気で投げますからね?」
「無理そうなら言って下さい」
「大丈夫だ、頼む」
高専のグラウンドにて、悟、傑、硝子の3人から10メートル程距離を取っている龍已が自然体に立っている。3人はそれぞれ物を構えている。傑は先端が三つに分かれている三つ叉槍を。硝子は拳銃を。悟は何も持っていないが、その代わりに『蒼』を撃ち込もうとしている。しかも最大出力で。
やろうとしているのは当然、それぞれの物を龍已に向かって投げるのだ。悟に至っては投げるというよりも炸裂させるというレベルなのだが、これは他でも無い龍已からの頼みによって実現している。
龍已が体調不良のまま1級案件の任務に出掛け、報告とは違う2体の特級呪霊と戦闘になり、1体はその手で祓う事が出来たが、もう1体の特級呪霊の自爆をする術式によって深傷を負い、更には任務地に隣接している海に落ちて流され洞穴に辿り着いた。2日以上気絶していた龍已は、死の間際で反転術式を修得し、傷を全快させた。
それから自力で高専まで帰ってきてから、心配してくれていた者達にこっぴどく叱られ、反省してから翌日。3人は朝から龍已の頼みで実験に付き合ってくれというので、何だろうと興味を示して二の句無しについてきた。そして今のような状況になっている。
龍已が死の間際で、本当にギリギリで修得した反転術式というのは、本来マイナスのエネルギーである呪力を掛け合わせる事によってプラスのエネルギーを生み出し、肉体の強化しか出来なかった呪力を、回復方面に使うというものだ。そこでもう一つの恩恵があるのが、術式反転という技術だ。
本来の術式にプラスのエネルギーとなった呪力を流すことによって術式効果を反転させ、新たな力を発動させる。反転術式を扱える者にしか使えない技術である。
「術式順転──────『蒼』」
「──────シッ!!」
「うおっ……反動結構強……っ」
悟からは最大出力の収束の膨大なエネルギーが撃ち込まれ、傑からは三つ叉槍が真っ直ぐに投擲され、硝子からは拳銃から撃たれた弾丸が向かってくる。それに対するは避ける予備動作すらもせず、突っ立っている龍已。このままでは弾丸が体に撃ち込まれ、三つ叉槍が貫き、収束のエネルギーが龍已の肉体を挽肉にするだろう。
3つの恐るべき攻撃が龍已の命を奪わんとしている。だが龍已に焦りは無い。それらが届かない事を解っているし、確信している。夜通しで練習したことによって手に入れた、己の最も得意な領域に引き込む為の一手。これには銃は要らない。何故なら呪力を飛ばすのではなく、展開するのだから。
「術式反転──────『
龍已に向かってきていた弾丸と三つ叉槍は空中でピタリと止まり、悟の放った最大出力の『蒼』は突然消失した。3人は目を見開く。特に六眼を持つ悟は、自身の放った『蒼』が、完全に消え去った事に酷く動揺した。
3人は内容を知らされていない。唯、攻撃をしてくれと言ってきたので、大丈夫なんだろうなと散々確認を取って今放ったのだ。そして見せられたのは、飛んでいった物体の停止と、悟の無下限術式の消失である。
空中で動きを停止させた三つ叉槍と弾丸が地面に落ち、カランと音を立てた。一体何が起きたのか、いや、龍已は一体何をしたというのか。傑が訳が解らなそうにして、硝子はスゲーと感心し、悟は何かを考え込んでいる。そんな3人に対して、無表情ながら満足そうな雰囲気をしている龍已が訳を説明し始めた。
「反転術式で生み出した正のエネルギーを俺の術式に流し、術式を反転させる術式反転。この場合天与呪縛は抜きにしておくとして、俺の術式は呪力を飛ばして自由自在に操る。それを反転させると、
「センパイには遠距離そのものが一切効かないバリアが張られてるってことか」
「チートじゃん。ウケる」
「それってずっとですか?だとしたら、常に張ってて脳が疲弊を起こすのでは……」
「反転術式を全身に掛けている。本来は脳だけで良いのだが、まだ細かい調整が出来ない。無論、反転術式を使っていても、『
「っつーことはさ、センパイを殺すには、センパイに近接で挑んで頭潰さないと無理って事か。しかも銃を介したバカみてぇな威力の呪力の弾やら光線も飛んでくる中で」
「先輩が近接戦で、そもそも誰かに触れられてるところ見たこと無いですし、呪力弾って最高何発まで同時に操作出来るんですか?」
「前までは4000発位だったが、今は反転術式で脳の負担をゼロにしているから20000発位までなら操れる。まあそこまでしたら此処から一歩も動けないが」
「動く必要無くないですか??」
おいおい、クソほど威力が高い呪力弾を全て躱しながら、近接戦最強と謳われながら、歴代最強の肉体と最高の才能を持って一子相伝の技術を全て修めた黒圓龍已に近接戦を挑み、一番防御が厚いだろう頭を捻り潰すなんて誰が出来るというのだ。ホントにクソゲーと化した龍已攻略。
今持ってる呪霊達じゃ太刀打ち出来ないな。というか、呪霊とはいえ術式で取り込んだ呪霊だから術式という括りになっていて、先輩に近付かせたら階級も関係無く勝手に無効化されて消滅するんじゃ?と、傑は自身と龍已との相性がゴミほど最悪なのを直感した。そして同時にある事を思い出した。
「あれ、先輩……領域展開出来ますよね?諦めて近接戦持ち込んだら……」
「「あっ……」」
「まあ、
「おい無理だろセンパイ殺すの!?俺でも無理なんだけど!!無下限術式で無限張ってても領域展開で詰みじゃん!」
「私の呪霊なんて一度術式で取り込んでいるから、特級でも無条件で消されるんだよ?しかも私は領域対策で呪霊出しても、絶対競り負けるよ。先輩暇があると領域展開の練度上げてるし」
「私は元から戦えないしな」
「うっわ、センパイ攻略マジクソゲーだろ」
近付くしかないから近付いたら領域展開される。しかも練度はクソほど高い。何せ暇があれば毎日展開しているのだから。龍已を尋ねに2年の教室に着いたら、中に黒い球体が在るのは珍しい光景じゃない。寧ろ夜蛾も慣れてしまっている。勿論、領域自体が抜け出せない強固なものなので、外から中へは簡単に行けるので問題ない。敵の場合は単なる自殺行為だ。
仮に領域展開を警戒して距離を取れば、呪力弾が遠くから延々と襲い掛かってくるし、領域対策をして引っ張り合いに持ち込んでも、待っているのは龍已の本分である近接戦である。どうやって勝てと。まあ、龍已の領域展開に拮抗しながら、近接戦が頭を飛ばせる者が居れば、その限りでは無いのだが、今の悟達には思い浮かばなかった。
話を聞けば本気で死にかけていた龍已だったが、1人で帰ってきたと思えば手が付けられない位に強くなっていた。元から強いのに何だそれは。笑い話にもならない。心配していた悟達にとっては複雑な思いだった。
「実験に付き合ってもらって悪かった。後で礼をさせてくれ」
「ん?何、センパイどっか行く感じ?これから授業なんじゃねーの?」
「あぁ──────これから任務だ」
「ちっと待てやセンパイよォ?」
「それは聞き捨てなりませんよ先輩」
「こっちに来て下さい、先輩」
「待て、何処へ連れて行くつもりだ。それに任務だと言っているだろう」
「いいから、センパイは黙って俺達についてこい」
傑が龍已の左手首を握り、硝子は右手を取ってギュッと手を繋いだ。悟は両側を確保されたのを見てから頷き、歩き出した。連行される形で連れて行かれる龍已は何なのか解っていない。一応確保されている腕は外そうと思えば外せるのだが、左に居る傑は龍已の視線に気が付いてニッコリ笑い、右に居る硝子は少し俯いているが、髪の間から見える耳が少し赤かった。
3人の後輩に連行されて連れて来られたのは談話室だった。まあ談話室と言っても、テレビとソファが置いてあるだけの皆が利用できる空間なのだが、そこへやって来ると傑と硝子が龍已を解放し、悟が突然前から押してきた。呪力まで使って押されて後ろへ蹈鞴を踏み、ソファへぼふりと座る。
何なのだろうと思いながら立ち上がろうとすると、右太腿に重みが掛かった。視線を下に向ければ、自身の太腿に顔が腹の方を向くように頭を乗せている硝子が居た。チラリと視線が合ったがすぐに逸らされ、背中に腕を回して抱き付かれて腹に頭をグリグリと押し付けられる。
何だか戯れてくる猫みたいだと思っていると、肩が触れるほどの近くに傑が座り込み、前には悟が立っていた。長い脚が前にあり、上を向くと悟が腰を折って上から覗き込む。丸い黒レンズのサングラスが少しズレて、奥の青空のような色をした六眼が目の前に広がった。
「あのさァ……センパイ死にかけたの昨日だよね?」
「まあ、そうだな」
「んで、夜は殆ど寝ないで反転術式と術式反転を練習してェ?まァた懲りずに1人で任務?なに、俺達のこと馬鹿にしてんの?」
「いや何故お前達を馬鹿にしているという話になる。任務が出されたから、今から行って来るという話だろう」
「1人で行って死にかけたのに、同じ事を繰り返すつもりか……と、悟は言いたいんですよ先輩。確かに反転術式を会得して遠距離が効かなくなったかも知れませんが、治ったとしても病み上がりでしょう」
「私達は先輩のこと心配してるんですよ。また報告と違う階級の呪霊が出て来て、万が一が起きたら怖いですから」
確かに夜通し術式反転の鍛練を積んでいたので寝不足かも知れないが、反転術式を全身に掛けているので眠気は無く、寧ろ快調である。昨日死にかけてから自分で傷を治して帰ってきたというのに、もう次の日には任務かと呆れてしまう。しかし仕方ないのだ。呪術界は万年人手不足。そして任務を与えられた以上、行かなくてはならない。
勿論拒否出来るし、他の人に任せることも可能だが、今の龍已は自分で行きたかった。早く呪霊に対して術式反転を試してみたいというのも本音だった。だがそれは悟達が許してくれない。流石に一日と経たず1人での任務は危険だと思われているようで、こうして囲まれてしまっているのだ。
どうしたものかと思い悩んでいれば、服の裾を引かれた。視線を落とせば膝枕を存分に堪能している硝子が見上げていた。細く長い指が服を摘まんでいて、何かを視線で訴えている。そこまで鈍感であるつもりは無いので、すぐに何が言いたいのか察した。はぁ、と溜め息を吐きながら硝子の黒い髪に手を置いて撫でる。
「やっば、キュンキュンするんだけど。………ウケる」
「先輩。硝子は行くなら私達も連れて行けと目線で訴えていたんですよ。撫でてではなく」
「このタイミングで撫でろって言うわけねーじゃん」
「はぁ?どっちにしろ撫でてもらう予定だったから良いんだよ」
「良いのかよ!!」
「なんだ、そうだったのか。付いてくるというのならば俺は構わんが……お前達は今日任務は無く、普通の授業だっただろう」
「ここに向かう途中で私が夜蛾先生に連絡しておいたので大丈夫ですよ。なので私と悟と硝子で同行します」
「先輩、撫でる手止めないで下さい」
「硝子はマイペース過ぎだろ!!」
「私の至福のひとときを邪魔するな五条クズ。六眼抉り取るぞ」
「呪術界の大損害だぞ!?……今さり気なく名前クズに変えたよな??」
立った状態で腰を折り、硝子を真上から見下ろす悟と、先輩の膝枕は私だけのもんだと訴えるように、龍已の腰に腕を回して抱き締めながら悟を睨み上げる硝子。因みにその間龍已は硝子の頭を撫でさせられていた。そもそも、硝子が目線で訴えていた内容が軽く迷子になっていたのはどういう事だろうか。いや、普通に鈍感ということだろう。
硝子と悟が睨み合っている間に、龍已は傑が既に任務へ同行するための手を打っていた事を説明され、もう連れて行くしかないということにやれやれという気持ちだ。危ない橋を渡ってきたが、これでは介護されているようではないか。まあ、それだけのことをしたとして反省し、ここは素直に言うことを聞いておこう。そう思い、睨み合っている悟と硝子の2人に声を掛けて任務へと向かうことにした。
因みになんだが、今回龍已に出されている任務は、夜蛾が病み上がりも良いところなのだから軽めのものにしておけという事で、発生した呪霊の階級は3級である。龍已ならばデコピンでも祓える程度のものだ。なので、悟がつまらないと癇癪を起こすのは必然である。
「──────お待たせしました、先輩」
「いや、俺も来たところだから気にしなくて良い」
「……先輩とこの会話するのイイですね」
「……?」
ある日のことである。龍已と硝子は待ち合わせをしていた。ベンチに腰掛けて、知恵の輪をやっていた龍已の元へ、大人っぽさが出ているカジュアル系な服を着た硝子がやって来る。気配で解っていたので着く少し前に知恵の輪をクロに呑み込ませ、立ち上がる。
集合時間よりも10分早いのに、龍已は既に居た。なのに来たところと言っている。いや知恵の輪をやってただろと言いたい。本当は初めて女の子と2人きりでデートをするので、緊張して40分前から来ていた。
うっすらと化粧をしている硝子は、元から顔立ちも整っているのも相まって美人だ。中学を卒業して少しなので、少し子供っぽさが残るが、着ている服が背伸びをさせていると感じさせない大人のような雰囲気を醸し出していた。そして途端に不安になる龍已。ぼんやりと、自身の服装を思い出す。
ジーパンに黒い服。それだけだ。変にコーディネートをするのは性に合わず、かといって変な格好は出来ないので大人しめのものにしたら、完全に硝子に対して見劣りする黒圓龍已が完成した。これ、隣に立っても大丈夫なのか?というかここまでお洒落してくれているのに、軽めの服装で来た俺は失礼なのでは?そこの服屋で何か買って着替えようかなと悩み始める。
無表情で色々と考え込んでいる龍已だが、硝子は飾らない服装に大満足である。ジャラジャラしたものを付けるタイプではないのは知っているので、大人しめのコーディネートは龍已らしさが出て大変イイ。そして雰囲気的に服装に悩んでいるのもポイントが高い。人知れずクスリと笑った硝子は、龍已の手を握って歩き出した。
「ほら先輩。上映時間もあるんですから行きましょうよ」
「……そうだな。行こう。……この服装は大丈夫……だろうか。家入は綺麗なのに、俺は飾らなすぎた。気にならないか?なんだったらそこの服屋で何か買ってくるが……」
「……ふふ。気にしませんよ。それに、先輩らしいので安心するんで、その服装で十分です」
「そう……か。分かった。ありがとう家入」
「いいですよー」
手を繋いで引っ張られる形で歩いて龍已は、少し歩みを進めて硝子の隣に行く。手はそのままにしていた。プライベートで女の子と手を繋いだ事が無い龍已は、その手の柔らかさに心底驚いていた。こんな柔らかいのかと。肌の感触がきめ細かいし、すべすべしている。自身の傷だらけで異様に硬くて、タコだらけの……血塗れな汚い手とは大違いだ。
そう考えると硝子と手を繋いでいるのが罰当たりな気がしてきて、ゆっくり離そうかと思った時、硝子はそれを解っていて察知したように指を絡ませて恋人繋ぎへ移行した。ビクリと肩が跳ねた。柔い感触が手全体に広がる。
黒圓無躰流は近接格闘とあらゆる近接武器の混合型武術。なので手にするものは全て硬い感触のもの。呪具もそう。人の温かい体温と、その柔らかさを龍已はほとんど知らない。なので、超人の力を持つ龍已が少し力を入れるだけで折れそうな手を、振り払うなんてことは出来なかった。
「家入……」
「大丈夫ですよ。先輩の手は変じゃないです。とっても綺麗な手です。なので気にしないで下さい。私は先輩と手を繋ぎたくてこうしてるんですから」
「……そうか」
「そーですよ」
なら、良いか。そう心の中で溢しながら、龍已は硝子との恋人繋ぎを甘んじて受け入れた。離そうともせず、ほんの少し……集中しないと気付かない程度に力を籠めて柔らかい手を握った。とても安心する。こんな人を殺し続けてきた汚い傷だらけの手を綺麗だと、そう言ってくれるのは親友達を除いて初めてだった。
心をほわほわとさせながら歩く。高身長で更に脚の長い龍已は硝子と歩幅が合わないが、同じ速度になるように調節している。それを当然解っていて、硝子もほわほわした。
歩きながら学校での出来事だとか、悟と傑の喧嘩の話や夜蛾に怒られた時の話などをして会話を楽しみ、歩いて10分位の所にある映画館を目指し、上映時間の15分前に着くことが出来た。丁度土曜日なのでそれなりに人が居る。親子や恋人と来ている人が多い中で、龍已と硝子が混じっても違和感が無い。まるで恋人のようだ。手も繋いだままだし。
「俺は飲み物等を買ってくるが、家入はポップコーンを食べるか?俺は今日塩味の気分だから買ってくる」
「んー、じゃあ私も塩味で良いですよ。私も一緒に行きましょうか?」
「いや、待っていてくれ。すぐに戻る。家入はそこで売っているグッズ等を見ていていいぞ。他にやっている映画の詳細を載せたパンフレットを見ていてもいい」
「……わかりました。待ってますね」
繋いでいた手を離してササッと受付のところの列に並ぶ龍已。一緒に列に並べば良いのにと思ったが、人がすぐに並んで人混みの中という状況になっている龍已を見て、硝子をそんな場所に行かせないようにしてくれていたのが解った。しかもグッズ等を売っている所は、あまり人が居らず、待つのに最適だろう。
人の動きを読んで人が多くない所に誘導しようとしてくれている龍已にキュンとさせながら、大人しく人があまり居ない所で待つ。硝子は美人なので一人で居るとナンパをされるが、親子であったり恋人と来る映画館でナンパするアホは居なかった。そもそもナンパしたところで同じ映画を見るとは限らないし、席が近い訳が無い。
5分程度だろうか。待っていると龍已がポップコーンと飲み物が入ったカゴを2つ持って帰ってきた。自身の分を受け取ろうとすると、持っていくから大丈夫と言われ、1つは左腕で支え、もう一つは左手に持つ。残った右手でポケットからチケットを取り出し、係員に見せて中へとスタジオの中へと入っていく。
丁度真ん中の席なので映画は存分に楽しめるだろう。硝子が座ったのを確認してからカゴを渡し、自身も席に座った。硝子は少しだけ飲み物を飲もうとストローに口を付ける。甘いものが苦手な硝子は、コーラかなと思っていると、口の中に入ってきたのはアイスコーヒーだった。映画の飲み物を、しかも女の子である硝子に普通はコーヒーは出さない。オレンジやジンジャーエールとかだろう。つまり、龍已は硝子が甘いものが苦手なのを解っていて買った事になる。
「先輩、これ……」
「ん……?あぁ、家入のはコーヒーにしておいた。俺が飲み物を奢ると言うと大体コーヒーで、甘いものを食べている所を見ないから苦手なのだと思ってな。……違ったか?それなら俺のはお茶だから交換してもいいが」
「……いいえ、甘いのそんなに好きじゃないの先輩が知ってるみたいで驚いただけです。ありがとうございます」
「合っているなら良かった。……暗くなった。始まるな」
「……先輩最高過ぎてヤバい。ウケる」
合っているのは先輩との相性だよ!とは言えない。しかし言いたい。え?この人普通に優良物件じゃない?1級呪術師だから金はかなり持っているらしいし、真面目だし、話はちゃんと出来るし、気遣い完璧だし、優しいし、人望あるし、バチクソ強いから死ぬ危険はもう無いし、女遊びしないし、プロレベルの料理出来るし、炊事洗濯も出来るし、硬派だし、性格良いし……超優良じゃない?
まあ、絶対堕とすけどね。と、心の中で完結させながら、映画泥棒云々の話を見ている。映画の宣伝等が終わって本格的に暗くなって本命の映画が始まる。内容は、普通の生活を送っていた主人公がある日両親を殺されて復讐の鬼となり、報復を繰り返して心に罅を入れていく毎日の中で、偶然出会った女性と話すようになり、少しずつ普通の心を取り戻していくという感じの話だ。
暗い感じの話に思えるが、感動もので今人気の映画だ。硝子は見ながら、ふーん……こんな感じなんだ。確かに人気出そうと冷静に分析していた。そこまで感情移入させるタイプではない硝子は、暗い中でチラリと龍已を見る。丁度戦闘シーンで、アクロバティックな近接戦をしている主人公に、この程度の動きしか出来ないのか……とぼそりと呟いていた。
近接戦の素人目から見ても、普通に人には出来ないと思われる動きだが、先輩ならもっと凄いの出来そう。ていうかしてた、と思った硝子。そこで、視線に気が付いた龍已がこちらに顔を向けて首を傾げ、顔をグッと近付けてきた。え?と思うよりも先に、硝子の耳元で声を掛ける。
「どうした。何かあったか」
「…っ……ん……何でもないです。先輩と来れて良かったと思ってたら見ていただけです。映画見てたのにすみません」
「大丈夫だ。それに俺も家入と来れて良かった。とても楽しい」
「……………………………………………耳が孕みそう」
暗くて良かった。今絶対耳も顔も赤いだろうから。耳元で囁かれる、男らしい低音の、優しげな声色を出している龍已の声に、心臓が鷲掴みされたようになる。最早キュンではなくギュンである。ナニコレ耳が幸せ。っていうかもう現時点が幸せ。先輩の声が録音されたモーニングコール付き目覚ましとかあったら買う。即決。……ナニソレ本気で欲しい……。
映画そっちのけでギュンギュンしている硝子に首を傾げ、ポップコーンを食べながら映画を再び見始めた龍已。何だこの温度差は、甘酸っぱくて死にそう。人気の映画なのに内容が頭に入ってこない硝子は仕方ない。それは全て龍已の所為だから。
どこかボーッとしている硝子と、おぉ……と最後に伏線を回収した内容に小さく感嘆の声を上げている龍已は、見事映画を見終わった。場内の灯りが点いて明るくなったのに、硝子はハッとした。余韻に浸っていたら映画終わってた。どこのキンクリだと言いたい。
「最初の方に出ていた伏線を、あそこで回収するとは……監督はいい仕事をしているな」
「……私もそう思います。他にも幾つか映画作っているんで、それを見ても楽しめるかもしれないですね」
「近接戦は少し物足りなかったが、それ以外はとても楽しめた。良い映画だった」
「来て良かったですね」
「あぁ」
当たり障り無い返事で誤魔化している硝子に対して、純粋に楽しかったと言っている龍已。すみません、先輩に夢中で右から左でしたとは言えない。少し悪いと思いながら、嘘をつくしか無いのだった。
たっぷり2時間楽しんだ2人は、その後近くの店をウィンドウショッピングをして回った。映画館へ向かうときのように恋人繋ぎをしながら歩き、少し良いなと思った物があったら購入する。荷物はクロが人知れず呑み込んでくれているので嵩張る事は無い。
内心冷や汗を掻きながら映画の話をしたり、服を見ながら似合うかどうか吟味したり、カフェに寄って一息着いたりしていると幸せで、すぐに時間が経ってしまった。辺りも暗くなり始めてしまい、帰らないといけない時間になる。
惜しい気持ちがあるが、また行けば良いだけの話だと受け止めて、帰ろうと提案する硝子に、確かにもう帰った方が良いなと言って賛同する龍已はまっすぐ帰路に着く。
高専までの道のりはそれなりに遠いはずなのにすぐに着いてしまった。幸せな時間ほど経つのが早いというのは本当だったと実感しながら、寮の入り口で繋いでいた手を離す。クロから荷物を吐き出させた龍已が手渡してくれて受け取る。ずっと手を繋いでいたので、離すと物足りなくなる感覚になってしまった。
「じゃあ先輩、今日はありがとうございました。楽しかったですよ」
「俺も楽しかった。……それと」
「……っ!?」
龍已が右手を伸ばし、人差し指で硝子の額を軽く押した。コツンと押されて頭が少しだけ後ろへいく。突然の行動に硝子が驚いていると、龍已は何時もの無表情で、雰囲気は呆れたようなものを醸し出していた。
何かしてしまったか?とこれまでの己の行動を振り返っても、それらしきものが分からない硝子は、荷物を持っていない方の手で突かれた額を押さえている。何に呆れているのだろう。どうすればいい。そう思っていれば、答えを龍已が教えた。
「映画を見ていた時、見ていなかっただろう。気が散っているのは気配で解っていたぞ。感想も俺に賛同するばかりで内容は話していなかった」
「……すみません」
「だから──────次はしっかりと見るように」
「……え?」
「楽しみにしているぞ。今日はそれなりに歩いたからゆっくり湯船に浸かるといい。おやすみ、家入。また月曜に」
そう言って男子寮の方へ歩いて行き、消えてしまった龍已。額を押さえたままの硝子はその場から動かず、少ししたらしゃがみ込んでしまった。髪に隠れている耳が出ていて、赤くなっている。下を向いているので顔は分からないが、恐らく同じように赤くなっている事だろう。
怒られた。しかも普通の怒り方じゃなくて、メッて感じの怒り方だった。声色は優しく、そして何と言っても次はと言っていた。つまりまた行ってくれるということ。デートは乗り気だということ。最後に可愛いを受けた硝子は、流石にウケるとは言えなかった。
「はぁああああああああああああああもう……最高かよ」
任務も邪魔も無いプライベートな休日、硝子はこれ以上無いほど満たされ、任務等で疲れていた体が全回復した。とんでもない反転術式使いじゃないか。これは完敗ですわ。と思う硝子。言わずもがな、今日はとってもぐっすり気持ち良く眠れた。
龍已は初めての女の子との2人きりデートを楽しみ、楽しませる事が出来た。なので彼も大変満足なのであった。
悟
は?遠距離無効化とかクソかよ。チートじゃん。最大出力の『蒼』消えたんだけど??
俺のセンパイ強すぎぃ……と最近になって解ってきた人。いや最初に気付け。
最近『悟』と書かないで『五条』と書こうと思ってる。理由は悟ると読み間違えそうになるから。
傑
えぇ……呪霊嗾けさせるの無理じゃん……とすぐに気付いた。
解ってる?君の極ノ番とか無意味筆頭だからね??
傑と書かないで夏油と書こうか迷ってる。理由は1文字で読み辛いから。あと五条とセットにしたい。
硝子
ソファに座った龍已にノータイムで膝枕させた人。あれ……固くない。寧ろ柔らかい……なるほど、イイ筋肉してますね。あと腹に頭をグリグリやってちゃっかり匂い嗅いでた。椿の匂いがした。
デートしてもらった。やったぜ。めっちゃ色んな事やってくれて楽しくて仕方ない。あまり顔には出さないようにしてたけど、心臓バクバクだった。変な匂いしない?服変じゃない?
またデート行こうっと。
音声を録音できる目覚ましがあることを知って、一番高級で高品質なのを購入したのは何故だろうか。考えるな、察しろ。
任務先の3級呪霊
マジでデコピンで祓われた……。ゴリラかよ。
龍已
遠距離無効化の術式反転を編み出した。書いてて思う。ズルいやつやん!
遠距離合戦だと絶対負けない。クソ程呪力籠めてぶち込むから。勝てるならやってみ?ただしその時は、あんたは穴だらけになっているだろうけどな。
いや、籠めた呪力量的に1発で消し飛ぶわ。
術式反転『
自身は呪力を飛ばして自由自在に操るので、自身から半径4.2195メートル内の、相手から飛ばされたものの自由を剥奪し、無効化する。謂わば絶対に入らせない領域。なので慣性の法則を使って飛ばそうとしても、入らせないので止まる。自分ではなく、相手に作用するようになったのは、天与呪縛の存在で領域展開同様、なんかバグった。結果オーライ。
遠距離なら全てが龍已の所まで来れないので、風圧も術式も毒も侵入させない。遠距離無効化絶対領域。条件は無く、文字通り全ての遠距離攻撃が対象。
これで龍已を殺すには、触れる事を条件とした術式を使用するか、殴り殺すかしかない。ただし、領域展開の綱引きしたら絶対悪手。やめた方が良い。地獄よりも先に黒い世界を見ることになる。
俺に遠距離は一切効かん。拳で来い。……って言わせたいなぁ……。
初めて女の子とデートした。楽しかった。
何処かの龍已を嫁にしようとしたメスゴリラが悔しがっていたとか何とか。