呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

28 / 81


最高評価をして下さった、さすらいウサギ ササマル Rusalka1118 晏樹 チーフなっちゃん Fabula カルマ Named-118 アントル ツムユウ まちまちmk3 XANCHLLO uncertain 西の巫女 さん。

高評価をして下さった、HC-ちくわ 新城真宵 さっとん syamaku mochamoro うぉるぴす 蒼。 明日のやたからす コセイ BREAKE 飛鳥 バーサーカーグーノ みろくまる 露場 ペンタゴン ルポット サマーカット 


さんの皆さん、ありがとうございます!





第二十八話  前日聖夜

 

 

 

 

「ん、んん………………っ」

 

 

 

 小鳥が囀る朝、黒圓龍已は目を覚ました。半目に目を開いてパチパチと瞬きをし、ムクリと上半身を起こした。頭がボーッとする。思考が儘ならない。起きたばかりで寝惚けているのだろう。そう思って両腕を上に伸ばして欠神をする。体からバキバキと関節が鳴り、伸びきった体は早くも何時もの状態になった。

 

 今日は12月24日。クリスマスイブ。今日の夜に、無垢な子供達はサンタさんが来てくれることに夢を抱く。そんなソワソワしている我が子を優しく見守る両親。他にも交際している女性や男性と蜜月を楽しんだりもする、そんな日。クリスマスイブか……と特に何かを思うでも無い龍已は、首に奔った痛みに気付いた。

 

 そっと手を首に這わせる。何の痛みだろうか。触れてみれば、凸凹となっていて、皮膚に何かを突き立てられたような痕になっていた。手触りで何なのだろうと、寝惚けた頭で思案し……歯形だと答えを導き出した。その瞬間、龍已は眠る寸前までの記憶をフラッシュバックさせる。

 

 優秀な頭脳はその時見た光景を鮮明に記憶していた。半分以上飲まれたペットボトルのジュース。押し倒されて上を向き、綺麗な顔が覗き込む。情欲に塗れた、空腹の獣のような瞳。荒い息遣い。体を舐め上げる赤い舌。そして、噛み付き貪るが如く食む血を塗った唇。染み一つ無い美しい肢体。

 

 

 

「んん……あぁ、せんぱい。……おはようございます」

 

「………………………………………スゥ──────ッ」

 

 

 

 龍已は上を向いて大きく息を吸った。全てを思い出した。何を盛られたのか。何を言われたのか。何をされそうになり、結局何をされたのか。直接的な部分は意識が無いので把握していないが、ナニカの体液等でぐちゃぐちゃになったシーツと、少量の赤いシミを見れば、もう取り返しがつかない事になっているのは理解させられる。

 

 声が掛けられ、傍を見たら、何も身に纏っていない生まれたままの姿をした家入硝子が、とろりとした目で龍已を見上げ、ニコリと笑みを浮かべた。その目には愛おしい者を見る、見られていて恥ずかしくなってしまうくらい深い愛を孕んだものが宿っている。

 

 寝惚けていた頭が覚醒し、普段通りの頭が戻ってきた。だから気付いた。この部屋に籠もっている、息がつまるくらい濃い匂い。頭がクラクラするくらい濃い匂いが鼻腔を突き抜けて、脳を直接刺激する。そして、朝起きてすぐは男には基本的にある生理現象が起きている。そこにこの匂い。龍已の息子は暴走していた。

 

 

 

「んぐッ……!?」

 

「おはようございます、せ・ん・ぱ・い?」

 

「ぉ……はよう。いえい……っ!?」

 

「いえい……何ですか?違いますよね?」

 

「しょ……うこ……っ!」

 

「はい、そうですよ。あなたの硝子です」

 

 

 

 暴走して天高く伸びる息子に、家入は何の躊躇いも無く手を伸ばして上から下へと交互に動かした。既に手慣れた動きに、龍已は肩をビクリと跳ねさせ、上半身が前に傾いて体が震える。どうしたらいいのか訳も解らず、自由な筈の手は不自由なようにベッドのシーツがギリギリと握っていた。

 

 反応が良いと、舌舐めずりをしながら目を細めて笑った家入は、一度膝立ちになって場所を移動し、上半身を起こしているだけの龍已の背後へ回る。未だ龍已のモノを握り続けている右手はそのままに、左手は龍已の腹や胸板を擦り、夥しい傷に指でなぞる。背中に押し付けられた発育の良い乳房が柔らかくて温かくて、容易に形を変える。

 

 肩には顎が乗せられていて、耳に熱い吐息を吹き掛けられて再び肩を跳ねさせると、長い舌を伸ばしてベロリと舐めた。ぐちぐちと耳からも下からも聞こえて、龍已の目はグルグルと回っているようだ。どうなっていてどうすればいいのか理解が出来ず、経験した事の無い快楽が襲い掛かる。体が全く自由に動かない。まさしく今は、家入の掌の上だった。

 

 

 

「いえい……硝子……っ話を──────」

 

「その前にスッキリしちゃいましょ。はい、思いっきりイって下さいね」

 

「……っ……────────────ッ!!!!」

 

 

 

 ぶるりと体が震えて、手の中に熱いモノが出されたことに深い笑みを浮かべる。寝ている間に散々弄って覚えさせた体は、簡単に果てさせる事が出来る。医師免許を取るために人体について勉強していたことが、こんな所で大いに役立つとは思いもしなかったが、愛する人がそれで快楽を味わえるならもっと色々と、知っておいても良いかも知れない。

 

 熱いものを吐き出された右手を閉じるとぐちゅりと鳴り、これが龍已の新たな命の元だと考えると興奮する。そして自身の手で果てさせたという実感は、この身を滾らせるのだ。経験が無いことは知っている。だから、自身が初めての相手で、自身も初めてだった。この事実に胸が高鳴って仕方ない。

 

 フルマラソンの距離を全力疾走し続けられる驚異的な体力を持っているのに、肩で息をしている龍已の背に頬を擦り寄せて目を瞑る。体の前面には夥しい傷が有るのに、背中には一切の傷が無い。このアンバランスさは、相手に背を向けない、逃げないということを物語っている。

 

 敵を前にしたら前進しかしないのだろう。攻めて攻めて攻めて、相手が死ぬまで攻撃をやめない、殺しを前提とした超攻撃型武術。それ故の無傷。スベスベで柔らかい筋肉に覆われた、脂肪が一切無い綺麗な背中。左手で抱き付き、右手に掛かった白濁としたモノをぐちぐちと弄びながら、肩で息をしている龍已に話し掛ける。

 

 

 

「ねぇ先輩。私の気持ち、解りましたか?」

 

「はぁ……はぁ……あぁ、解っ……た」

 

「これだけの事をしておきながらですけど、先輩が好きで仕方ないんですよ。付き合ってくれます?」

 

「……だが、俺は……」

 

「アレがあるから親しくなりすぎるのは危険だって言いたいんですよね。大丈夫ですよ。その為の覚悟だって決めてますから。どうですか、お返事は」

 

「硝子は……俺を置いて死なないでくれるか……?」

 

「必ずとは言えませんよ。この業界ですから。でも、戦いの最前線に立つ先輩よりは、確実に死に辛いですよ私は。だってヒーラーですから」

 

「……そうか……そうだな。……俺なんかで良いならば……よろしく頼む。硝子」

 

「ありがとうございます。とっても嬉しいですよ、先輩」

 

 

 

 傍に置いてあったティッシュ箱からティッシュを取って右手を拭った家入は、龍已の正面に回って首に腕を回し抱き付く。肌と肌が触れ合って温くて気持ちが良い。女の人と抱き締め合った事が無い龍已は手を所無さげにしていたが、潰さないように恐る恐る家入の背中に腕を回して抱き締めた。

 

 やはりこういう時の力加減もとても優しい。大きな体に包まれていると、ついうっとりしてしまう。顔の横にある龍已の頬に擦り寄って頬を擦り付け、龍已に頭を撫でられたことにはぁ……と幸せそうな溜め息を溢した。

 

 手に入れた。龍已からもよろしくという言葉を聞いた。あれ程望んでいた、初恋の人をこの手に収めた。達成感と幸福感が尋常では無い。夢では無いのに夢のように感じる。まさか自身がここまで物事に熱くなれるとは思いもしなかった。実感が湧いてくると本当に最高の気分だ。抱き締めているこの人が最初で最後の彼氏と思うと、口の端が持ち上がって笑みを浮かべてしまう。

 

 ニヤニヤと見えない所で笑っていると、背中に回っている太くて逞しい腕が離れ、肩に何か掛けられた。何だろうと思って一度龍已から離れると、肩には白い布が掛けられている。肌触りからして、最初の方で邪魔だからと投げ捨ててしまった布団のようだ。ふんわりとして、この部屋に充満した情欲の香りではなく、柔軟剤と龍已の匂いがする。

 

 

 

「裸だと寒いだろう。着れるものを持ってくるから、これを羽織っててくれ」

 

「……はぁ。先輩」

 

「何だ?」

 

「そういうとこですよ。大好きです」

 

「…っ……俺も、好きだ」

 

「……ははッ。幸せすぎてヤバい。ウケる」

 

 

 

 脱がされてベッドの下に落ちている自身の服を適当に羽織った龍已は、クローゼットから家入が着ても良さそうな服を見繕っている。初めての性交だったので腰が少し痛くて、脚を動かすと違和感を感じてしまう今としてはとても助かる。

 

 ガサゴソと服を探して、黒に白いラインが縦に入った長袖のTシャツやズボンを持ってきた龍已は、家入の事を見た後、少し目線を逸らした。何で視線を逸らすんだろうと思ったが、簡単なことだった。

 

 家入は全裸で、今は布団を肩に掛けているだけだ。手はベッドに付けていて、大事な所は隠れて見えていない。歳の割に発育が良いと自身でも思う大きな胸は、布団で大事な部分が隠れているが、体の前側を殆ど晒してしまっていた。胸元と腹部を見て、目線を逸らした。ナニソレ、可愛い。一緒に居れば居るほど可愛くて仕方なくてキュンとする家入だった。

 

 

 

「風呂に入ったらこれを着ると良い。シーツは家……硝子が入っている間に変えておく……何だ?」

 

「目を逸らさなくても、いっぱい見ていいんですよ。寧ろいっぱい見ていっぱい触って下さい。遠慮しなくていいですから」

 

「…っ……今は、風呂に入ってこい。汚れているだろう。」

 

「ふふ。はーい」

 

 

 

 何だったら一緒に入ります?なんて言っても良かったが、流石にシーツは変えないと拙いぐらいぐちゃぐちゃにしてしまったので、後片付けをさせて悪いなぁと思いながら、少し歩きづらくてひょこひょことさせながら、部屋に供えづけてある風呂場へと向かっていった。

 

 シャワーを出してお湯を浴びている音が聞こえてくる。まさかこんな事になるとはと思いながら、エアコンの暖房を付けた。着替えの服は家入が持っていったので大丈夫。自身はすごい事になっているベッドのシーツの交換に入った。完全に事後であると解るシーツは匂いも凄く、洗って落ちるのかと困惑する位だ。

 

 ササッと変えてベッドメーキングを終えた龍已は、首に掛かっている指輪と左腕に巻かれているミサンガに触れて擦った。まるで親友達に報告するように、目を瞑って何かを考えている。数秒が経って目を開けると、首に感じる噛み付かれた痕を反転術式で治した。一瞬で傷は治り、痛みが無くなる。

 

 

 

「……朝食でも用意するか」

 

 

 

 今の時間は9時頃。高専が休みとはいえ眠りすぎた。夜には任務もあるのでしっかりしなくてはならない。本来は6時には起きているのだが、やはり睡眠薬の所為で何をされても起きず、こんな時間まで眠りこけていた。薬は流石に耐性など付けていないので、もし薬を盛ってくる呪詛師が居たら案外簡単にやられるかも知れない。

 

 少し拙いと思い、薬の耐性でも上げる訓練でも始めようとぼんやり思いながら、部屋に付いている小さなコンロに火を付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だァはははははははははははははっ!!せ、センパイ!硝子に薬盛られて犯されたってマジかよっ!!あの俺と傑を同時にボコすセンパイが……っ!!睡眠薬で寝てる間に……っ!!食われ……ぶははははははははははははははっ!!」

 

「いや悟。流石に先輩が可哀想だろう。抵抗も何も出来ない状態だったんだからね」

 

「うるさいぞクズ共。ていうか私の許可無く先輩に触んなよ?クズが移る」

 

「はーッ……はーッ……はー、おもしれ。これはいいクリスマスプレゼントだわ」

 

「流石に硝子をお姫様だっこしながら教室に来た時は驚きましたよ」

 

 

 

 24日の18時頃。龍已は五条と夏油に笑われていた。というのも、晩飯を食べる為に食堂へ向かったのだが、まだ歩きづらいという家入にお姫様だっこしながら向かってくれと言われ、それ以外は受け付けないとまで宣言されてしまった。そうくれば、もう抱いて行くしか無く、そんな場面を五条と夏油に見付かってしまったということだ。

 

 まず龍已が家入をお姫様抱っこで現れた事にポカンとしてから大爆笑し、なんでそうなっているのか聞かれて、絶対に答えないようにしていたのに家入が簡単に言った。睡眠薬で眠らせて食った……と。流石に龍已もギョッとしたが、もう後の祭りだ。五条と夏油は再びポカンとした後にやはり爆笑した。

 

 因みに今は龍已が椅子に座り、その上に横向きになって家入が膝の上に座り携帯を弄っている。飯を食いに来たのに上から退いてくれないので動けない。しかも五条と夏油が質問攻めにしてくるのは家入の所為なのに、話に入ろうとしない。なので仕方なくて龍已が答えているという訳だ。

 

 眠らされて童貞を奪われた話をするなんて、誰がやっても恥ずかしいだろう。龍已もそう思うので早く飯を作りに行きたかった。早く、一刻も早くこの場から離れたかった。

 

 

 

「硝子、上から退いてく──────」

 

「はい、先輩。こっち向いてー」

 

「……いや、なんで写真を撮った」

 

「待ち受けにしようと思って」

 

「硝子、センパイ好きすぎだろ」

 

「意外だね。硝子は付き合っててもベッタリしないタイプだと思ったよ」

 

「先輩は別」

 

「ぶはッ!センパイ耳あっけー!!」

 

「はーッ。先輩が可愛くて仕方ない」

 

 

 

 無表情だが、耳が赤いので照れているのは丸わかり。そんな龍已を見て家入が可愛くて仕方ないと言ってまた写真を撮った。撮られる前に手で顔を隠そうとしたら、見事にそれぞれの腕を五条と夏油に取られて防がれた。耳が赤い状態をバッチリと写真に収め、家入は無言で2人にサムズアップをし、2人はウィンクをしながらサムズアップを返した。

 

 何だかんだ仲が良いなと思いつつ、変なところで連携を取ってくるなと言いたい龍已は、はぁ……と溜め息を溢して家入の背中と膝裏に腕を通した。ゆっくりと持ち上げて立ち上がり、椅子に戻す。その後は当然キッチンに向かう。これ以上あの場に居ると何されるか解らないからだ。

 

 黒いエプロンを付けて鶏のモモ肉を取り出す。どうせ五条と夏油も食べるだろうから、クリスマスイブなので唐揚げの山でも作ってやろうと思った。少し大きめに切って醤油やみりんを使ったタレを入れた袋の中に次々と入れていき、揉み込む。油を注いだ鍋に火を付けて温度を上げ、手を翳して適温になったらモモ肉の入った袋の中に片栗粉を振り掛けた。

 

 更に揉み込んで後は揚げるだけの状態にしたモモ肉を菜箸で持ち上げて、熱せられた油の中に入れようとして人の気配を感知した。振り向いてキッチンの入り口を見ると、そこには顔だけをひょっこりと出して見つめている家入が居た。

 

 

 

「今から揚げる所だからまだ出来んぞ」

 

「いや、料理してる先輩が美味しそうだと思って」

 

「そうか………………………………は?」

 

「家庭的な先輩は良い嫁になれますよ。あ、そしたら私の嫁ですね。ちゃんと養いますから安心して下さいね」

 

「話を進めるのか……」

 

「あとその長い脚とかお尻のラインとか、腕捲りしてる腕とか首筋とか鎖骨とかえっちですね。その気になっちゃうので気をつけて下さいね」

 

「……えっちだと良く言われるんだが、そんなにか?」

 

「襲って良いですか?」

 

「……まだダメ」

 

「ゔ……っ!!」

 

 

 

 耳と頬を少し赤くしながら目を伏せてダメだと言って、唐揚げ作りに戻ってしまった龍已の背後で胸を押さえながら膝を付く家入。今の言い方はズルい!と心の中で叫んだ。本来はそんな言い方しない癖に、なんでこういう時にだけちょっと口調を崩すのだ。こちらの心臓に多大なダメージが入るでは無いか。

 

 天然のやり手か……?と呆然としたが、よろよろと立ち上がって最後に龍已の背中を見た。その時、家入は目撃した。萌えて倒れた家入が立ち上がり、龍已を見ることを想定していたかのように顔だけを少しだけ振り向かせて、流し目を送っていた。表情は変わらない無表情だが、雰囲気が楽しそうだった。まるで反応を楽しんでいるような……。

 

 今のは分かってやっていたのだ、間違いない。目を瞠目させて固まる家入に満足そうにして、再び唐揚げ作りに入る龍已を見て確信した。そして決心した。今夜抱き潰そうと。なるほど、これが誘い受けか!!(違う)

 

 獣のような瞳を向けて襲い掛かりそうな家入を五条と夏油が回収してテーブルに着いた。今は我慢しろ。後で幾らでも襲って良いから。そんな何の助けにもなっていない言葉を投げ掛けて落ち着かせた。そうだよな、ここじゃ無くて先輩の部屋か私の部屋でヤれば良いんだよな。と、ダメなところで納得している家入と、面白そうに笑っているクズ2人を尻目に、山盛りになった唐揚げを皿に載せて龍已が持ってきた。

 

 美味しそうな匂いが食堂に充満し、育ち盛りの五条と夏油は目を輝かせた。テーブルの真ん中に置いてキッチンに戻り、人数分の白米とサラダ、箸を持って来た。お好み用のマヨネーズやレモンも置いて準備は完了。龍已が席に座ると、いただきますをして唐揚げを摘まみ、齧り付いた。

 

 

 

「──────ッ!?うんめェッ!?」

 

「……っ!味が濃くて白米が進むね。とても美味しいですよ、先輩」

 

「……やっぱ先輩のご飯美味しいです。流石ですね」

 

「まだまだあるから急がず食べるんだぞ」

 

 

 

 バクバク食べる五条と、静かに尋常じゃ無い量を掃除機のように食べる夏油。全部食べられる前に別の皿に幾つか唐揚げを取り分けて、そこからゆっくり食べている家入。美味い美味いと言われてそんなに美味く出来たのかと思って唐揚げを齧ると、ジュワッと肉汁が溢れて濃い唐揚げの味が広がる。だがいつも通りだった。変わらない味。騒がれる程のものではないと判断する。

 

 普通だなと思いながら食べているが、後輩の3人が美味しそうに食べているのでまあ良いかと思えてくる。態々美味しいと言っている人に普通だと言って気分を下げさせる必要は無いだろう。しこたま揚げたのにもう半分しか無い唐揚げに箸を伸ばし、全部食べられる前に自身の分も確保した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……?誰か見──────」

 

 

 

「……帰るとするか」

 

 

 

 紅白鉄塔の上で『黒曜』を構え、スコープ越しに呪詛師を見ていた龍已は、何か死の気配でも感じ取ったのか、振り向いた瞬間に引き金を引いた。付与された術式により爆発のような発砲音は無く、無音で大口径の実弾を発射した。狙うは2.4キロ先の呪詛師の頭。何となく呪力を使う気分にならなかったので、実弾勝負で狙った。

 

 戦車の装甲に容易に風穴を開け、中に居る人間を柘榴のように吹き飛ばす弾丸が2キロ以上に渡って突き進み、振り向いた呪詛師の眉間に着弾した。そしてその後、大口径の弾丸は前から入って後頭部を突き破り、衝撃で脳髄を後頭部を破裂させながらぶちまけた。近くには誰も居ない。今の時刻は20時。暗闇の中だ。つまり黒い死神の動く時間。

 

 呪詛師の頭が破裂して死んだのをスコープ越しに確認した龍已は、一番上に近い高さから飛び降りた。空中でクロに『黒曜』を呑み込ませ、音も無く地面に着地した。そして何事も無かったようにその場を後にする。

 

 近くの建物の屋上に現れた龍已は、鍵の閉まったドアを剛力で無理矢理捻ってドアノブを破壊し、中へと入る。非常階段を降りていって『闇夜ノ黒衣』を脱いでクロに呑み込ませる。一般人の服装となり、建物から出ると、予め場所を教えておいたので迎えの車が駐まっている。中からずっと龍已の補助監督をしている鶴川という男性が出て来て、仕事が終わった龍已にホッとしている。

 

 補助監督の中で唯一、龍已が黒い死神であることを知っている鶴川は、龍已が仕事に行くときの脚としても動いてもらっている。他言しないように縛りも結んでおり、毎回龍已が帰ってくるとホッと安堵して心配してくれている優しい人だ。

 

 

 

「良かった……お疲れ様です、黒圓1級呪術師」

 

「鶴川さん。あなたの方が俺より年上なのですから、もっと砕けた話し方をしても良いですと何度も言っているでしょう」

 

「あ、はは……。帳を降ろして報告書を纏めたりするだけの中間管理職の事務員が、命を賭して日夜戦ってくれている方に軽い口調で話し掛けるのもな……と思っていまして……」

 

「ならばせめて、黒圓1級呪術師ではなく龍已と呼んで下さい。言い辛いでしょう」

 

「えっと……では、龍已君と」

 

「えぇ。ありがとうございます」

 

「い、いえいえ!とんでもない!ささ、高専に戻りますから乗って下さい。龍已君は強いので大丈夫だと思っても見えないところで体は疲労しているものですから、運転中は休んでいて下さいね」

 

 

 

 態々回り込んで後部座席のドアを開けてくれる鶴川にお礼を言いながら乗り込み、持ってきていたバッグの中からあるものを取り出して手の中で弄り始めた。その光景をバックミラーで見ていた鶴川は優しく微笑んで運転に集中した。

 

 今日は24日。クリスマスイブ。なのに呪術師には聖夜などは関係無く、出された任務の為に駆り出される事は当然のもの。龍已の場合は任務ではなく仕事ではあるが、それでもやはり聖夜であろうとなかろうと関係無い。今は夜の9時。此処から高専まで車で2時間といったところ。急げば渋滞に遭っても日を跨ぐ前に到着する。

 

 ここからは日頃送り迎えをしている補助監督の腕の見せ所。ナビには出て来ない、秘密の近道を使って30分は早く着いてみせる。後ろで作業をしている龍已を見ながらそう決心していた。その決心が効いたのか、高専には本当に30分早く辿り着き、安堵の溜め息を溢した。

 

 

 

「はい、着きました。龍已君、ゆっくり疲れを取って下さいね!今日はクリスマスイブで、明日はクリスマスですから!」

 

「ありがとうございます。では、これは鶴川さんへ俺からのプレゼントです」

 

「えっ……」

 

 

 

 バッグからゴソゴソとさせて取り出したのは小さな箱だった。白い包みに黒いリボンで包装されたその箱を渡さる。重さはそこまでではない。中に何が入っているのか解らないので開けても?と断りを入れると、差し上げたんですから良いですよと言われて破かないようにしながらゆっくりと丁寧に包装を解いた。

 

 中から出て来たのは高級そうな黒い箱。開けてみれば中の機構が透けて見えるタイプの、鶴川が一目見て超カッコイイ……と思った腕時計だった。しかし絶対に値段が張るだろう。そんなものを年下の、まだ高校生の子から受け取るのは……と少し渋る。龍已はそれを見越してか、箱の中に納められた時計をひょいっと盗り、鶴川の左手首に一瞬で付けた。

 

 無理矢理受け取らせた龍已は、腕に巻かれた時計を見て何処か興奮している鶴川に満足そうな雰囲気にすると、踵を返して高専の男子寮の方へと向かってしまう。ハッとして気がついた鶴川は、帰る龍已の背中にお礼の言葉を贈るのだった。

 

 

 

「龍已君!あ、ありがとう!こんな素敵な物を貰えて、すごく嬉しいです!」

 

「……日頃お世話になっているので、今回は龍已サンタからのクリスマスプレゼントです。大切にして下さい。俺の感謝の印ですから」

 

「……っ!龍已……君。本当に、ありがとう……っ!」

 

 

 

 補助監督というのは、あまり呪術師に感謝される事は無い。中には真面目な人が居て、感謝の意を示されるが、それだけだ。こんな風に何かを贈ってもらうなんてことは滅多に無いのだ。任務の場所へ送って帳を降ろして、任務が終われば送り届ける。しかしこの業界だから、担当した呪術師が帰ってこない……何てこともある。

 

 かく言う龍已も、一度死にかけている。その時は手に怪我を負っても気にせず、死に物狂いで吹き飛んだ廃屋の残骸を掻き分けて龍已の事を探した。結局、龍已は海に落ちて数キロ先まで流されていたので、見つけようとしても見つけられない訳なのだが、それでも、あの時ほど自分に索敵の類の術式があったらと思った事は無い。

 

 龍已は何時も、ありがとうと言ってくれる。お疲れ様とも言ってくれる。やっているのは運転と帳しか無いのに。龍已は呪霊に呪詛師と、一歩間違えれば死んでしまう場所に立っているのに、こちらを労ってくれる。それが泣きそうなほど嬉しくて、胸が締め付けられる。こんな子供に最前線へ送っているのは自分なのに。助けを求められても、何も出来ないのに。

 

 鶴川は頭を下げた。深く深く頭を下げた。背を向けて帰っていく龍已に向けて。ありがとうと、これからもよろしくお願いします。そんな言葉が伝わってくれるように。頭を上げて小さくなった龍已の背を見ると、右手を上げているのが見えた。流石は黒圓龍已だ。敵わないなぁ……なんて思いながら、頬に伝わる涙をそっと拭った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おかえりなさい先輩。怪我は無いですか?まあ、先輩は反転術式使えるので必要無いと思いますけど」

 

「……やはり居たか」

 

「勿論居ますよ。クリスマスで彼女ですから」

 

 

 

 晩飯の唐揚げを食べて少ししたら仕事へ向かったので、数時間ぶりの家入。気配で龍已の部屋に居ることは解っていたので苦笑い……の雰囲気になる。まあ、居るのはこの際別に良いのだが、居て当たり前みたいな感じでベッドに横になりながら本を読んでいるのは、少しくつろぎ過ぎではなかろうか。

 

 エアコンの暖房をつけてくれていたので部屋の中は外よりも温かく、来ているコートやマフラーを外してハンガーに掛け、ラフな格好になる。その姿を家入はジッと見ていて、その目はまるでストリップショーでも見ているような目付きだった。

 

 何となく考えていることを察した龍已は、小さく溜め息を溢しながらベッドに横になっている家入の元まで向かう。ベッドに腰掛けてこちらを見る家入の頬に手を伸ばして撫でる。擽るくらいの力加減にすれば、目を細めた家入が手の方へ寄ってくる。目の下や頬を撫でて少し経つと手を離した。

 

 視線でもっと触ってと言っている家入に、渡したいものがあると言って仕事に持って行っていたバッグの中に手を入れる。目的の物を掴むと取り出し、何が出るのかと楽しみにしている、上半身を起き上がらせた家入の前に出した。それは、黒いマフラーだった。

 

 

 

「プレゼントだ。クリスマスにしては味気ないかもしれん。だから明日、何処かへ一緒に出掛けよう。女性に贈るものは何が良いか解らない。……一緒に見て、欲しいと思ったものを言って欲しい。それを改めて贈りたい」

 

「……私の名前が入ってる……。もしかしてこれ、手編みですか?」

 

「現場へ向かう途中と帰る途中で編んだ。急いで作ったが、ミスが無ければ解けない筈だ……ミスが無ければ」

 

「……すげー。ありがとうございます先輩。嬉しいですよ。それに、私別に物欲がある方じゃないので、一緒にデートしてくれるだけでも幸せです。……でも強いて言うならば──────」

 

「あ、おい……っ」

 

 

 

「──────先輩をちょーだい」

 

 

 

 筆記体で硝子と入っている受け取った黒いマフラーを巻いてみて、その完成度に感嘆とした声を上げた。付き合い始めたその日なのでプレゼントなんて用意している筈も無く、何か無いかと考えて出した結論は、手編みのマフラーだった。まだまだ厚めの服が手放せない時期。それに家入はこの間新しいマフラーを買おうかなとぼやいていたのを思い出したのだ。

 

 それならばと即実行に移した。バレないように鶴川にメールを送り、黒い毛糸と編み込むのに必要な棒を買ってきてもらったのだ。幸い移動に時間が掛かる現場だったので、ミスしないように細心の注意を払いながら急いで編んだ。その日の気分で編み物はやったことがあるので経験に於いては大丈夫だった。

 

 ふわふわとして温かく、しっかりと丈夫に出来ているので問題なく使えそうだと考えた家入は、明日早速これを巻いてデートに行こうと心に決めた。そしてマフラーを丁寧に解いて、畳んだ後テーブルの上に置いて避難させ、戻ってくる時に龍已にのし掛かりながら押し倒した。

 

 整った綺麗な顔が上から降りてきて、熱いキスを交わしてくる。隙間なんて無く、逃がさないとでも言うように首に腕を回され、家入が満足するまで口の中を貪られた。いやらしい水音が部屋に響き、2人の顔が離れると唾液の橋が口から引かれた。それを舌で舐め取り、艶やかな表情で笑みを浮かべる。

 

 

 

「……ちゅ………んはぁ……覚悟して下さいね先輩。明日は2人揃って寝不足のデートですよ」

 

「……っ……お手柔らかに頼む。俺は意識が無かったんだ」

 

 

 

「んー……──────ダメです。先輩を今日抱き潰すって決めてたんで」

 

 

 

「本当に……寝不足になりそうだ」

 

 

 

 自身の胸板に手を置いて、ニッコリと笑みを浮かべる裸の家入に、本当に寝かせてくれそうに無いなと、情欲に塗れた瞳を見ながら思う龍已であった。

 

 

 

 

 

 家族や恋人と過ごすクリスマスの日。世間では聖夜と言われているが、一部からは性夜なんて言われ方もしている。それを龍已は身を以て体験した。

 

 

 

 

 

 

 






五条

食堂で夏油と話していたら、家入をお姫様抱っこする龍已が現れてえ?ってなったけど、内容が面白すぎて大爆笑した。

唐揚げうんま!?専属料理人にならない?




夏油

五条と喋っていたら家入と龍已が来てすぐに何があったか察した。何時かはこうなるのかな……と思ってた。正解です。

唐揚げ美味しいね。今度から集ろうかな。




家入

やはり初めての時は少し痛かったけど、慣れると止まらなかった。なのに龍已が枯れないからニンマリした。人体理解からのテクニシャン。龍已に対してだけ性欲過多。すぐ襲おうとする。

先輩絶倫ですね。もう腰が痛いですけど……夜はまだまだこれからですよ。



楽しみましょ──────せーんぱい?



デートは超楽しかった。ていうか幸せ。マフラーは大事にしている。五条と夏油に触れられそうになったのを医療用メスで威嚇した。




龍已

起きたら食われたことを思い出した。普通に薬盛られて、えぇ……となった。

シーツすご……これどれだけ長時間やっていたんだ……俺が起きる1時間前まで?……………………………え?


精力絶倫の癖に食われてる人。久しぶりに筋肉痛になった(腰が)


何で男の俺が食われる側なんだ……これは絶対可笑しいということは当然解ってる。


デートの時、本当に何も要らないと言われたので、どうにか服やバッグを受け取ってもらった。値段は全部で600万くらい。ちょっと金銭感覚が可笑しくなってるかも知れない。けど、初めての彼女だし良いよネ!!





鶴川

一番最初の頃から龍已の補助監督をしていて、補助監督の中で唯一龍已の正体をしっている。顔も優しげで性格も優しい。今年で22歳。

彼女は居ない。この業界だから作ると哀しませることになるかも知れないから独身でいようかなと思っている。

補助監督仲間からは、自分達は五条や夏油のような問題児の相手をしなくてはならないのに、鶴川だけが一番真面で、偶に補助監督全員に差し入れをしてくれる龍已の専属補助監督であることを死ぬほど羨まれている。

黒圓1級呪術師の補助監督代わって!!と言われてもダメですと即答する。流石にあの子達の相手はちょっと……。やっぱり龍已君がいいです!


龍已君はとっても良い子。貰った腕時計は毎日付けているし、補助監督仲間にも自慢した。めっちゃ羨まれた。ふふん。




鶴川は知らないけど、貰った腕時計は100万はする。






作者

違う作品にこの話を間違えて投稿してしまってクソほど焦ってゲロ吐くかと思った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。