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2006年。4月。龍已は高専の3年に上がり、五条、夏油、家入は2年生に上がった。そして高専には新たに新入生がやって来た。今年度の新たな生徒は2人。名前は七海建人。灰原雄。どちらも一般家庭からの出身である。
そしてそんな新一年生との顔合わせだが、五条達は既に済ませている。何でも2年生の教室に来て挨拶に来たらしい。随分と行儀の良い子達だなというのが龍已の聞いたときの感想だ。
ん?こう聞くとまるで龍已は会っていないように聞こえる?正解である。龍已は何故か何時も間が悪く、今回も長期の任務に行っていて顔合わせを済んでいない。五条達の時もそうだった。今回は2週間の出張であった。しかも、明日新入生が入ってくるという時に出発してしまった。
どんな子達であるのかは、毎日電話を掛けてくる家入から聞いていた。今日はどんなことがあった、こんな事が起きた、あんな事してクズ共が夜蛾に怒られていた。そんな1日の出来事を電話越しに教えてくれる。その中に新入生の話も出て来るのだ。
長期の任務で海外に居るので、時差が生まれてこちらが朝でもあちらが夜という事もある。だが、龍已は家入が眠くて寝落ちするまで話を聞いて、最後におやすみと言うまでがテンプレだ。そして今日、龍已は帰ってくる。大きなキャリーバッグを引いてカラコロと正面から歩いてくる。そこへやって来る陰が一つ。
「先輩、首を長くして待ってましたよ。怪我は無かったですか?」
「怪我は無い。最初から最後まで無傷だ。待たせてすまない、硝子。……ただいま」
「はい……おかえりなさい」
前から抱き締めてくる家入に、キャリーバッグの取っ手を離して抱き締め返しながら頭を撫でる。触れれば触れるほど強く抱き締めてくる家入に苦笑いの雰囲気になりながら撫で続けた。そして一分位の時間が経った頃になって、龍已と家入は離れた。
キャリーバッグを持っている方とは別の腕に手を回して腕を組み、高専の中に入っていく。2週間の間、毎日電話をしていたので2週間ぶりという気がしない2人は、龍已の自室へと向かった。家入がドアを開けてくれて中に入り、キャリーバッグの中身を整理する。その間も家入は龍已の隣を陣取っていた。
そんなに寂しい思いをさせてしまったのだろうかと思いつつ、取り敢えず今は持ち帰ったものの整理をしてしまわないといけない。持って行っていた服や、洗濯しないといけないもの、歯ブラシや貴重品の取り出しをして、全て終わるとベッドに腰掛ける。すると、家入がぽすりと膝の上に頭を置いた。黒いさらりとした髪を梳いたり、撫でたりする。
「……やっぱり声だけじゃ我慢出来ませんよ」
「任務だったのだから仕方ないだろう。……どうすれば良い?」
「次の休みデートしましょう。ウィンドウショッピングでもいいので、先輩と一緒に居たいです」
「予定を空けておくから、一緒に過ごそう。2週間の埋め合わせをさせてくれるか?」
「……ふふ。もちろんですよ。約束するだけで私は元気いっぱいです」
「それなら良かった。さて、夜蛾先生の所に帰還の報告をしてくるが、硝子はどうする。このまま俺の部屋に居るか」
「んー……食堂に行ってるんで、一緒にご飯食べましょ。6時で少し早いですけど、晩ご飯です」
「解った。何が食べたいか考えておいてくれ」
「はーい」
一緒に部屋を出た龍已と家入は、それぞれの場所へ向かった。龍已は帰ってきたことを報告するために夜蛾の元へ。家入は食事をするために食堂へ行った。後に、家入と龍已は2人で晩ご飯を食べて、今日あった事を話したりして、2人の時間を楽しんだ。
「──────すまない。待たせたか」
「いえ、それ程待ってませんのでお気になさらず」
「今日はよろしくお願いします!」
出張から帰ってきて翌日、龍已は新入生の七海と灰原と任務にやって来ていた。元々龍已には、早速と言わんばかりに違う任務が入っていて、それを終わらせてから合流という形で2人と会っている現状であり、七海と灰原とはこれが初対面だ。
見慣れた高専の車の前に居るということもあるが、ある程度の外見的特徴を聞いていたので、新入生の2人のことはすぐに解った。そしてそれは2人も同じなようで、龍已がやって来ると2人とも頭を下げた。
「2人の事は聞いている。七海建人、灰原雄。俺は黒圓龍已、3年で1級呪術師をしている。今日は俺が呪霊を祓うところを見学するという話だが、それで合っているか」
「はい。五条さんや夏油さん、家入さんから良く黒圓さんのことは聞いています。七海です。よろしくお願いします」
「夏油さんからスゴイ強い先輩が居るって聞いて今日楽しみにしてました!灰原雄です!よろしくお願いします!」
「よろしく頼む。では自己紹介はこの辺にして、早速だが呪霊を祓いに行く。2人は俺の後ろから来てくれるか」
「分かりました」
「了解です!」
今回の任務地は使われなくなってからそれなりの年月が経ってしまい、それでも取り壊しもされず残っている廃老人ホームである。しかも幾つかの曰く付きで、ここに入った老人は突然体調が悪くなってしまい、病院に搬送されやすくなったり、酷いときには倒れてそのまま亡くなってしまうというケースがあった。
呪霊とは単純な負のエネルギーではなく、人の負の感情が凝り固まって形を為した存在である。それを既に教えられて知っているかも知れないが、念の為に後ろから着いてくる2人に話している。七海ははいと返事をして声での相槌をし、灰原は夏油さんに教えてもらいました!と元気良く返事をした。
もう2年生組とは仲良くなっているようで、灰原は夏油と馬が合うようだ。言葉も元気溌剌という感じで、七海は真面目というのが印象だ。一度教えられている内容も、龍已が話していても確認するように聞いている。性格は正反対みたいだと感じる。
「七海、灰原。呪霊がどこに居るか解るか」
「全然解らないです!」
「……いえ、解りません。黒圓さんは解るんですか」
「2つ奥の部屋に3級が1体居る」
「……何で解ったか聞いても良いですか?」
「気配を読んだのだが、所詮は経験だ。今お前達に足りないもので、その内身に付くものでもある。こればかりは今すぐに出来るようになれとは言えんが、出来るようにならなければ呪霊に一歩出遅れる。呪霊には気による気配というよりも、呪力による気配を感じ取ろうとすれば上手くいくだろう。……まあ色々言ったが、今はまだいいから出来るようになった方が良いという話だ」
「了解です!」
「分かりました」
経年劣化が進んだ老人ホーム内を散策していて、龍已からのアドバイスが飛んできた。まだ呪術師になって日が浅い2人には、まだ少し呪霊の気配を読み取るのは難しい。それはその内勝手に出来るようになるが、どうせなら早く解るようになった方が良い。相手は解っていてこちらが気付いていない……なんて事はよくある話だからだ。
この老人ホームには3級が2体居るという話なので、龍已が察知したという呪霊を祓えば残りは1体だ。1年生の七海は3年の先輩である龍已の事を信じていない訳では無いが、本当に2つ奥の部屋に呪霊が居るのか半信半疑だった。実際にその目で確認したいタイプなのだ。
龍已が先頭で2つ奥の部屋に向かい、立て付けの悪いドアを開けようとしたが、上手く開かず、仕方ないと溜め息を吐いた龍已はドアノブを持ったまま後ろへ
灰原は気付いていないようだが、七海には解った。龍已が外したドアにはガラスが嵌め込まれていて、見た目よりもずっと重量がある。恐らく50キロ以上はある代物を、あんな軽々と持っていたのだ。しかも呪力を一切使わず。どんな腕力をしているのだろうか。
「……本当に居た」
「何だ、嘘だと思っていたのか」
「いえ、そういう訳では……」
「いや、それで良い。
「はい。分かりました。助言ありがとうございます」
部屋の入口から中を覗き込むと、蛾のような呪霊がこちらを見ていた。恐らくドアを取り外すときの音に気がついたのだろう。今にも襲い掛かって来そうなのでつい臨戦態勢に入るが、龍已が手を上げて待ての合図をする。その場にしゃがんだ龍已に首を傾げるが、次の行動に瞠目する。
しゃがんで手に取ったのは、経年劣化で崩れた壁の破片。それを手に取って親指で弾くと、呪力を伴ったそれは、七海と灰原の目にも辛うじて捉えられるという速度で呪霊に向かい、頭を正確に撃ち抜いて祓ってしまった。まさか落ちているもので、そんな簡単に祓うとは思わず固まる。しかも飛ばす速度が親指だけで飛ばしたとは思えなかった。
固まる2人に次の場所へ行こうと声を掛けて歩き出す龍已の背中を見て、七海と灰原はここ2週間の間に言われたことを思い出した。五条と夏油は2人で最強と言っていたが、1人だけ例外が存在すると本人達が言っていた。曰く、戦えば理不尽さが解る。初見殺しの権化。呪力の怪物。近接最強。そんな言葉が並べられる、超強い先輩が居ると。
今は出張の任務で居ないけれど、会ったら挨拶をしておけよ。そしてその強さをその眼に焼き付けろとまで言われた。名前は黒圓龍已。知りうる中で最も1級呪術師らしく無い1級呪術師だと。しかしその一方で面倒見が良く、解らないところは親切に教えてくれるから本当に頼りになる。そうも言っていた。
最初聞いていた時は表情が訝しげなものになった。五条と夏油を以てしてそこまで言わせる人が本当に居るのかと。だが今なら解る。どうして今まで気が付かなかったのだと言いたい、超精密な呪力操作を常にしていた。薄皮一枚程度の呪力を全身に覆っているそれは、集中すれば自身達では到底考えられないような呪力量だ。
見た目は心許ない。だが実際は超凝縮しているだけで、解放すれば恒星のようにその身を覆い隠すだろう。それを知った今、この人には例え、自身の術式を真面に叩き込んでも全く一切のダメージが入らないだろう。強制的に弱点を作り出す術式とは言うが、ここまでの呪力差があったら効くものも効かなくなる筈だ。五条の無下限のバリアのように。
「──────気付いたか。俺が全身を覆わせている呪力に」
「……えぇ。恐らくですが……私達に会った時からですよね」
「……僕も今気づきました!」
「少し時間が掛かったが、自身で気付けたのは良いことだ。戦いとは情報戦だ。如何に相手の情報を掴むか。如何に相手に偽の情報を掴ませるか。小さな事でも勝敗を分ける。それもこの業界に於いて、負けは死を意味する。気が滅入るかも知れないが、死ぬことに比べれば易いだろう。その調子だ、七海に灰原」
「分かり……ました」
「……はい!」
言葉が深い。一般人が言うこととは訳が違う。実際に経験しているからこその経験談。だからこそ、言葉の一つ一つの重みが全く違う。そしてその内容は知っておいて損はしないどころか、教えられていなければ取り返しがつかなくなったりしてしまうこともあるだろう。これまで五条達とも任務に行ったが、それらしいことは教えられていない。てか祓ってる所を見て、はい解散が全てだ。
立ち止まって2人に教え、また歩き出した時、龍已の全身を覆った呪力の質が変わった。薄皮一枚程度に覆われているのは変わらないが、今度は超密度ではなく、本当に弱々しい呪力に感じるのだ。恐ろしいと思った。恐らく、相手に悟らせないように感じ取れるのは弱い呪力。だが実際は先程から一切変わらない、超密度の呪力だ。有り得ない程の呪力操作。自身では到底真似できない。
そしてこれこそが、先程の説明にあった、相手に偽の情報を掴ませるという実践。これでは相手からしてみれば格下に思えて嬉々として突っ込むだろう。だが本来は超密度に凝縮された莫大な呪力。斬り付けてもダメージは無く、その拳には必殺の力が籠められる。なるほど確かに、理不尽で初見殺しな訳だ。
この数分で、この2つ年上の先輩が遙か高みに居ることを実感させられる。挑めば死。それだけしか湧かない。なのに、その力の秘訣を何の躊躇いも無く後輩の自分達に教えてくれる。導いてくれる。スゴい。とてもスゴい。1つ年上の先輩達を見た後だから尚更実感する。この人は尊敬に値する先輩だと。
「最後の3級が最深の部屋……恐らくはキッチンだろう部屋に居る。だが……まあいい。取り敢えず向かおう」
「……?はい」
「了解です!」
老人ホームのキッチンに向かう3人。お年寄りのために階段を設けないバリアフリー仕様の平屋建てになっており、その代わりに金を掛けたようで中は広い。なので少し歩いて一番奥にあるキッチンスペースを目指した。
立て付けが悪く、錆びた鉄が擦り合う不快な音を出しながらドアが開けられ、中に居る呪霊を見つけた。七海と灰原は、やはり龍已の言う通り3級だろう人と同じ位の大きさをした犬のような呪霊を見て、気配を読めるようになると便利だなと思った。しかし2人はすぐに臨戦態勢に入った。
反射的だった。戦いの世界に足を踏み入れたばかりの自身達にも解る巨大な悪意と殺意。それが気配となって叩き付けられた。3級なんて気にしている暇が無いくらいのソレに、部屋に入って左を振り返った。そこには年老いて骨と皮だけになって皺だらけとなった老婆の妖怪のような呪霊が居て、眼球の無い、空虚な穴をこちらに向けていた。
はっきりと解る。これは3級なんかじゃ無い。2級……いや、1級相当だ。何がどうなってこんなものが居るのかと叫びたい気持ちになり、七海は念の為に任務には持って行っている背負ったケースに手を掛けて、入っている鉈を取り出そうとした。灰原も術式を使おうと呪力を解放したところで、2人の肩に手が置かれる。
「解ったか。あれは1級の呪霊だ。『窓』を信用するな……と言いたい訳では無いが、『窓』の報告は鵜呑みにするな。2級呪霊2体を発見したという報告が、特級呪霊3体だった……何てことも有り得る。そうなった場合、今のお前達が取ろうとした戦闘ではなく、一旦その場を引いて態勢を立て直して気持ちを入れ替え、情報の修正をするなり、応援を求むなりしろ。お前達は入って間もなく故に階級は4級。実力も1級とは言えない。つまりここでの正しい判断は退くことだった。
「は……い。すみません……」
「……冷静になれてなかったです……」
肩に手を置かれた事によって冷静さを取り戻した。そして龍已からの助言を聞いた。
言われたとおり、ここは退くべきだった。戦ってもまず勝てない。仮に勝てたとしてもどちらかが死んでいただろう。そしてそれだけの相手が報告に無い。人間は間違える生き物。『窓』とて呪霊を発見して報告しただけの人間だ。見間違いや勘違いも起こすだろう。それを含みで対処するのが、呪術師なのだと、2人は理解した。
2人の間を抜けて1級呪霊の元へ向かう龍已。あれ、残っている3級はどうするのだろうかと思い、3級呪霊が居たところを見ると……その呪霊の頭は無くなっていた。まるで抉られたように半円を描いて消滅していて、今まさに消えようとしているところだった。一体何時の間に祓ったというのか。
2人が目を白黒している間に、1級呪霊と龍已の戦いは始まった。いや、戦いと言うにはあまりにも一瞬で、圧倒的で、そして何よりも鮮やかで流麗過ぎた。老婆のような呪霊が術式を発動させようとして両手を合わせんとする前に、目前へ移動していた龍已が右足を振り抜いた。
「黒圓無躰流──────『
「灰原、今の見えましたか」
「ごめん、見えなかった。けど多分、蹴ったんだと思う!」
「蹴って
「僕も解らないかな!」
呪霊の頭に向けて放たれた蹴りは、長い脚を存分に使ったもので、放つ瞬間は解っても蹴った後まで場面が跳んだように見え、2人には蹴りの課程が見えなかった。蹴りを放ったと思った次の瞬間には蹴り終えており、呪霊の頭と体は両断されていた。ピッと線が入り、遅れて頭が飛んでいった。断面は斬ったかのよう。
刃物の中でも最強の切れ味を持つ刀。それを全力で振りかぶって斬り付けたような、美しい断面。蹴ってついた跡とは思えないそれに、2人は知らない内に自身の首を手で擦っていた。あんなの受けたら痛みが無いのに次の瞬間には死んでいる。なるほど、これがあの五条と夏油に近接最強と言わしめた理由かと、直感した。
頭だけとなった呪霊は、醜いその顔を困惑に彩りそのまま虚空に消えるように消滅した。龍已はそんな呪霊に一瞥すらもせず、此方に向かって歩いて戻ってくる。堂々たるその姿は逞しく、強く、頑強で、とても頼りになるものだった。
「これで任務は終了だ。俺は補助監督の鶴川さんと情報の違いについて報告してくる。報告書も俺が書いておく。お前達はこのまま高専へ帰ってもらって構わない」
「……いえ、黒圓さん。すみませんがやることが終わってからで良いので私達に時間を下さいませんか」
「もっと色々教えて欲しいです!お願いします!」
「……?俺が居ない間に五条や夏油に教えてもらったのではないのか」
「あの人達は……適当ですから」
「夏油さんには少し教えてもらいましたけど、大体五条さんとすぐにどっか行っちゃいます!」
「……はぁ。そうだな……今は11時……報告して情報を正し……報告書を書いて12時……ならば話は何処かの飯でも食べながらするとしよう。突然1級呪霊に当ててしまったからな、飯は奢ってやる。1時間後になるがそれで良いか」
「はい、ありがとうございます。ご馳走になります」
「奢ってもらうのは悪いです!けどご馳走になります!ありがとうございます!」
本当に性格は対照的だなと思いながら、あの2人は折角の後輩に殆ど何も教えていないのかと溜め息が出て来る。既に2週間が経ち、任務にも同行させているというのに、2つ年上の先輩に態々頼むくらいのことだ、本当に教えてもらっていることは授業で教わっていることと大差ないのだろうと当たりをつけた。殆ど正解である。
間違っているのは、あの最強コンビが適当で教えてくれないから龍已を頼っているのではなく、単純に龍已を頼りにしているだけだ。まだ会って1時間も経っていないので信頼も何も無いだろうと判断している龍已だが、他の2人がどれだけ適当で、頼りになるのは強さだけしか無いことを知らない。
先輩らしい先輩は今のところ龍已だけ。何せ教えてくれるし強いし、警告してくれるし強いし、頼りになるし強いし、為になる話をしてくれるし強いからだ。知れば溜め息を溢すだろう内容は、知らない方が良い。
龍已は素直に後をついてくる2人を同行させ、表に駐めてある高専の車の中に居る鶴川の元まで向かった。そして情報が違った旨を話して鶴川を蒼くさせ、報告書に詳細を書いて直ぐに終わらせて飯屋に向かい、鶴川も混ぜて4人で昼を食べた。
静岡県浜松市。そこで龍已は任務を遂行していた。内容は1級呪霊の祓除。東京からかなり離れた場所での任務となってしまうが、呪術師には文句は言えない。何時ものように補助監督の鶴川と一緒に現場へ向かった龍已は、今日の気分であるクイズをするために、2人でクイズを出し合って道中の暇な時間を過ごした。
学校での呪霊の祓除だったので面倒な説明をして、一旦学校の職員を納得させた。現在も使われている学校の中へ入っていき、屋上を目指す。教室には居ない。体育館にも居ない。居るのは屋上だ。まるで蛸のような巨大な呪霊が陣取っている。
屋上へ出る為の扉を開けようとしたが、全く開かない。まあ十中八九呪霊の体が大きすぎてつっかえているのだろう。なので、龍已の腕力で無理矢理少し開けて隙間を作り、その間に『黒龍』を差し込んで引き金を引いた。莫大な呪力を籠めた弾丸が呪霊の体に入り込み、体中を駆け回らさせ、最後に頭の部分で爆発させた。頭が無くなった呪霊は体を崩壊させ、祓い終えた。
「……?電話……夜蛾先生か」
『龍已か。任務は終わったのか?』
「今祓い終えたところです。何かありましたか」
『2日前に任務へ行った歌姫と冥冥が帰ってこない。連絡も繋がらない。今から至急向かってくれるか。五条達にも声を掛けているが、お前が一番近い。浜松市の〇〇だ』
「……此処から10分くらいですね。今から向かいます」
『頼んだぞ』
了解。そう言って電話を切って畳んだ。ポケットの中に入れて扉を今度こそ開いた。消滅して殆ど消えかけている呪霊に一瞥してスキップするようにフェンスの上に跳躍して乗り、そのまま一歩踏み出して下へ落下した。普通ならば飛び降り自殺として処理されるが、龍已は一切の音無く着地した。
そのまま何も無かったように走り出し、学校の門から出てすぐの所に駐めている車の中に入り込む。中では補助監督の鶴川が待っていて、お疲れ様ですという言葉と共に珈琲を渡された。受け取って夜蛾から話された内容を伝え、車を出してもらった。
向こうは大きな屋敷。そこには準1級呪霊が棲み着いている。それを祓いに歌姫と冥冥が派遣されたが、2日経っていて、音沙汰も無く、そして電話も繋がらない。龍已の記憶の中に嫌なものが流れ込む。2日以上の音信不通。考えられる情報とは違う呪霊の階級。そして親しい者の死。ぎちり。何かが軋む。みちり。何かが千切れそうだ。ぐちり。呪力が呼応する。
龍已から放たれる気配が強大で巨大なものになっていき、底無しに感じる莫大な呪力が唸りを上げていくのを、運転席で車を動かしている鶴川は冷や汗をダラダラと流しながら身を以て体験していた。恐ろしい黒いナニカが背後に居るのは恐ろしく怖い。だから懸命に後ろに居るのは龍已だと念じ、自己暗示を掛ける。そうしないと、恐ろしさで黒に呑み込まれそうだから。
車が駐まる。豪邸と言える屋敷の門の前に。他に車は無い。五条達はまだ来ていない。到着していない。だが待たない。待てない。待てるほどの余裕が今は無い。心は黒に満ち満ちていて、頭はこれでもかと冷静だ。全身から放たれる呪力の一端。それだけで閉ざされた門が拉げて破壊される。
真っ正面の玄関から入るつもりなのか、真っ直ぐ進む。その足取りは軽く、気配は悍ましい。親しい先輩である歌姫は、龍已が尊敬する人だ。そんな人が死んでいるかも知れないともなると、あの龍已でも呪力に異常が出て来る。扉の取っ手に手を掛けて、扉を腕力のみで引っ張り引き抜いた。ばきりと音が鳴って扉を放り投げて捨てて、中へ入る。瞬間、不快な呪力と気配が体を包み込んだ。
「……この気配……呪霊の結界か。つまり、俺と結界の引っ張り合いをご所望か──────呪霊風情が」
呪霊の結界によって部屋が継ぎ接ぎにされている。だからどれだけ動いても同じような廊下が延々と続いていく。走るだけ無駄だということだ。しかし所詮は結界術。術式によるものではない。となれば死ぬ危険は無く、未だ結界術を使っているということは、中に居る人間が生きていて戦闘中だということだ。
ここで一つ確認しておくのは、領域展開についてだ。領域展開とは、必殺の術式を必中必殺へと昇華させる呪術の最高難度の御業。しかしそれは結局のところ、領域という空間を創り出す結界術の一種だ。つまり、今屋敷の中を全て覆っている呪霊の結界術とは同じものとなる。そうなればやることは一つ。結界術の引っ張り合いだ。
「領域展開──────『
掌印を組んで膨大な呪力を注ぎ込む。展開されるは黒よりも黒い純黒の世界。それは呪霊の発動させている結界術を呑み込んで上書きする。引き摺り込まれた結界術は掻き消え、龍已の領域展開がその場を支配した。しかしすぐに領域は閉じられ、中から『黒龍』を構えた龍已が出て来た。
呪力を籠めた『黒龍』の引き金を引く。撃ち出されるのは、五条程の気配察知能力と、六眼を持っていなければ気が付けない程の微弱な呪力。しかしそれは無機物を透り抜け、音波のように広範囲に行き渡る。そして透り抜けた無機物の形。触れた人間。その人間が呪力を持っているか否か。呪霊。その全てが龍已に把握される。イルカ等が使う反響定位、エコーロケーションの呪力によるものだ。
「──────『
範囲は術式範囲である約4キロメートル。その全ての形や呪力の有無を感知する超広範囲索敵技。これにより昔から呪詛師の居場所を特定していた。形は鮮明に龍已の頭の中に映し出され、見た写真の呪詛師の骨格を照合し、呪力の有無も照らし合わせて標的を絞る。龍已を中心とした半径4.2195キロメートル内に呪詛師が居た場合、その時点で掌の上だ。身を隠そうと意味は無い。
その技を今撃ち放ち、無機物を全て透り抜けて呪霊をいち早く発見した。そしてその近くには歌姫と冥冥の体のシルエットが浮かび上がる。結界術を無理矢理解かれたことに怒って一番近くに居る歌姫達を狙ったのだ。そんなことはさせない。龍已は呪霊の居る方向へと『黒龍』の銃口を向け、引き金を引いた。その瞬間、膨大な呪力を籠められた蒼黒い光線が呪霊の頭を消滅させ、同時に屋敷の天井が崩壊を始めた。
全く関係無く天井が崩壊したことに不可解さを感じるが、よく知った呪力の気配なので自身に対する攻撃では無いと判断する。しかし範囲が広いので屋敷は粉々に砕け散るだろう。なので龍已はその場で強く踏み込み、崩れかけの壁を無視して歌姫の元まで一直線に突き進んだ。何枚もの壁を貫通して歌姫と冥冥の元へやって来た龍已は、2人を抱き寄せて呪力を解放した。
「おっと……おやおや」
「わっ……え、龍已──────」
「術式反転──────『
身近に、自身を中心として半径約4メートル内に歌姫と冥冥を入れた龍已は、術式反転を使用した。自身に向けられた害有るものの侵入を一切赦さない遠距離殺しの空間。それは無機物にも有効であり、上から振ってくる瓦礫の山を塞き止めて3人を護り通した。そして崩壊が止み、球状に止まった瓦礫に向けて『黒龍』の銃口を向け、引き金を引いた。
強力な呪力が放射状に放たれ、上に乗っていた瓦礫を粉微塵に粉砕した。吸えば害となるので粉となった瓦礫も阻まれて龍已達を避けて降り注ぐ。視界が確保されたので辺りを見渡せば、屋敷があった場所は地面を大きく抉られ、屋敷そのものは瓦礫の山と化していた。そしてその中心に居る3人を見下ろすように、よく知った顔がこちらを見ていた。
「──────助けに来たよー歌姫。泣いてんの?つか、センパイそこに居たんだ」
「泣いてねーよ!!そして敬語!!そもそも龍已が来てくれたからお前はいらない!!」
「ふふ。怖い怖い。君が来てくれなかったら危なく五条君の『蒼』の巻き添えになっていたよ。慰めてくれないかい?龍已君」
「術式反転の範囲内に来てもらう為に寄せただけで他意はありません。だからどさくさに紛れて抱き付かないで下さい」
「少しくらい慰めて欲しいね。おぉ、とても柔らかくて良い筋肉をしているね。それにとても良い香りがする……椿かな、これは」
「やめて下さい」
歌姫は先輩の歌姫を敬わない態度を貫く五条に不満を叫び、冥冥は好機と言わんばかりに龍已の首に両腕を回して抱き付いた。さり気なく豊満な体を押し付けてきて、龍已の体の感触の感想を口にする。首筋に顔を寄せて匂いも嗅いでくるのでセクハラだと言っても勝てるだろう。
歌姫は五条の物言いにキレて、そもそも別に助けだって要らないと叫ぼうとして、固まっている龍已達3人の背後に大きな呪霊が地面を突き破って出て来た。結界術を張っていた呪霊の他に居たもう一体の呪霊だった。龍已が『黒龍』の銃口を向けようとしたが、更に下から別の呪霊の気配がしたのでやめた。そして呪霊は、違う呪霊によって飲み込まれようとしていた。
「──────飲み込むなよ。後で取り込む。それと悟、弱い者イジメは良くないよ」
「強い奴イジメる奴がどこにいんだよ」
「君の方がナチュラルに煽っているよ、夏油君」
「あ゙……」
「夏油ォ……ッ!!」
「──────歌姫センパーイ。無事ですかー?」
「あ、硝子……っ!」
「心配したんですよ。2日も連絡が無かったから。あと冥冥先輩は先輩を取らないで下さいね。私の先輩ですから」
「ふふ……悪かったね」
五条の隣から夏油と家入もやって来た。夏油は呪霊に動きを封じさせた呪霊を丸く丸め込んで、飲み込むことで取り込み、家入は歌姫に手を振って心配していた旨を伝え、冥冥には目を細めて忠告した。冥冥は家入の視線を受けて龍已の首に回していた腕を解放して離れた。特に懲りた様子は無い。
無事である龍已達の元へ五条達もやって来る。家入が龍已の隣までやって来ると、歌姫は龍已と家入を抱き締めた。何故か涙目で。どうやら心配してやって来た龍已と、心配してたと安否を確認してくれた家入に感極まったようだ。
「硝子!龍已!あんな奴等みたいになっちゃダメよ!!」
「あはは。なりませんよあんなクズ共」
「……まあ、東京から静岡まで態々来たのですから、歌姫先輩を心配してくれたんですよ。口は悪くても気持ちは受け取ってあげてもいいかと」
「そーそー!やっぱセンパイはわかってるー!って事でセンパイはこっちね。歌姫に抱かれてるとヒステリックが移るから」
「先輩は私達と一緒に仲良くしましょう」
「おいクズ共、私の先輩に触んな。クズが移るだろ」
「そうよ!龍已があんた達みたいになったらどう責任取るのよ!てかヒステリックってなんだよ!!」
五条と夏油が歌姫に抱き締められている龍已の腕を引いて連れ出し、龍已の肩にそれぞれの腕を組んで仲良しをアピールする。その光景を見せられれば当然、家入がキレる。額に青筋を浮かべて医療用のメスを構えて切り掛かろうとし、歌姫もキレた。主にヒステリックの部分で。
五条と夏油がニヤニヤして龍已を独占し、家入がメスを振り下ろすが五条の無下限に阻まれて刺さらない。歌姫は2人を罵倒していた。そんな光景を冥冥は面白そうに観戦していたが、ある事を思い出したようで、巫山戯合っている5人に声を掛けた。
「それにしても──────帳は?」
「「──────あ゙」」
龍已も帳のことをすっかり忘れていた。というよりも鶴川が居るので帳は降ろしてくれているのだと思い込んでいたのだった。
これは夜蛾先生に怒られるし、跡形も無く消えた屋敷にメディアが殺到するだろうな……と、溜め息を溢す龍已だった。
黒圓無躰流・『
最短最速で放つ蹴りで、速度によっては蹴ったのに刃物で斬ったような断面を作り出す。謂わば斬撃の蹴り。龍已のこの技は、刃物というより刀で両断したような威力となる。防御の上からでも斬る。歴代でもトップの威力。
──────『
イルカ等が行うエコーロケーションの呪力バージョン。しかし呪力の場合は反響するのではなく、透り抜けていき、その際の形を感じ取る。その際に呪力をどれだけ持っているかも解る。範囲は術式範囲と同じで4.2195キロ。何処かに居る呪詛師を簡単に見つけたのはこれを使っていたから。
飛ばすのは微弱な音波状の呪力なので、普通は気付かないし、察知能力が高くても気付かせない。今までに五条にしか察知されたことが無い。まあ察知したところで、もう当たっているのだから場所はバレている。超広範囲索敵技。隠蔽殺しの技とも言う。
五条
2日も音信不通の歌姫達の為に静岡まで行った人。けど煽る。なので感謝の気持ちは一切持たれていない。だから歌姫にマジで嫌われてんのよ。反省しろ?
夏油
歌姫の背後の地面から出て来て食おうとした呪霊を捕獲した人。龍已が『黒龍』を向けようとしたのにマジで焦った。あと1秒遅かったら消し飛んでた。吐瀉物を処理した雑巾の味ぃ……。
家入
2日も音信不通だった歌姫が心配だったけど、目的地に着く少し前に龍已が向かったと夜蛾から聞いて、生きてるなら絶対大丈夫だな、特級来ても。と、冷静に考えていた人。
冥冥先輩、私の先輩に抱き付くのやめて下さい。マジで。
歌姫
継ぎ接ぎで部屋の位置を変えられる空間に少し閉じ込められただけで2日も閉じ込められてた人。空間が元に戻り、蒼黒い光線が飛んできてビックリしたら天井が崩壊して更にビックリした。
龍已が来て腰を強く抱かれた事に少しキュンときた。護ってくれたし。けどダメ!龍已は硝子のものなんだから!
良い子と良い子が付き合って超嬉しい。全力で祝福する。3人で買い物は本当に天国で仕方ない。また行こうね!を全力で言う人。
冥冥
どさくさに紛れて龍已に抱き付いた人。おや?女の子みたいに柔らかい筋肉だね。それに良い匂いだ。あ、腰を強く抱かれたのはとてもキュンとしたよ。強引なのもいいね。
めっちゃナイスバディで顔も良いのに全く相手にされない。けど逆にそれが良い。もう救いようがねぇな。だから走馬灯にも出て来ないのよ。
七海
あの若かりし頃の七三君。五条と夏油が適当なのに、この先輩は普通に良い先輩だな……尊敬出来る。という感じで信頼もしているし信用もしている。更に尊敬もしている先輩が出来た。
武器を使った格闘戦を教えてもらう。五条に夏油?知らない人ですね。
灰原
一番尊敬しているのは夏油だけど、その次には龍已を尊敬している元気いっぱいの人。龍已が家入と付き合ってると知った時はデカい声でおめでとうございます!!と祝福した。
ごめんね……君の術式分かんないし、思い付かないよ……。
龍已
2日も音信不通……大切な人……おし殺す。
領域展開を軽くやったけど、呪力はクソほど余ってる。
呪力による探知は動物の可愛い所を映しているテレビで、イルカが出て来てエコーロケーションの話をされたときにピンときて修得した。通り抜けるのをやるのに3日掛かった。ムズいのよ?あれ。
今回の後輩は随分と対照的だな……。けど真面目だ。大丈夫、教えてあげるから。をやってたら先生みたいだと言われて学生なんだけど……となった人。
知ってる?君色んな人達に(感想の方々に)先生向いてるとか、先生してるとめっちゃ言われてるからね。
後輩とのファーストコンタクトに絶対遅れる呪いが掛かってる
鶴川
龍已の恐ろしい気配にめちゃクソびびっている間に五条達が到着し、帳は降ろすから下がってろと言われた人。
あれ……スゴい音がしたのに帳降りてない……ヒェ。
帰ってきた龍已に全力で頭を下げて謝った。普通に許してくれたけどめっちゃ罪悪感がある。普通に自分の仕事なのに……。