「──────龍已ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!ごめんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?置いてってほんとにごめんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「わっぷ」
「ひっく……ごめっ…ひっく……龍已ごめぇんっ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
「うっぷ」
「良゙がっだ生ぎでだぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ!!」
「んっぷ」
「あの……光一君?」
「……なにも言うな」
「でもズボン……」
「なにも言うなッ!!」
先に避難していたケン、カン、キョウは、目の端に涙を拵えた虎徹と、全身ボロボロで頭からも血を流している龍已が出て来ると、汚れることも厭わず全力で抱き締めに掛かった。そしてワンワン泣いた。ボロクソに泣いた。
今すぐ走れと言われて本気で走って、外に出たと思ったら後ろから龍已と虎徹が付いて来ていないのを察して、心臓がキュッとなった3人は、戻りたいけど戻るわけにはいかず、ずっと入り口でウロウロとしていた。光一は終始ズボンの心配だけをしていた。クズだなぁ。
3人に囲まれて抱き締められ、これでもかと泣かれている龍已は、最初こそ目をパチパチと瞬きして驚いていたが、自身の心配をしてくれていたのだと分かると、軋む体に知らないふりをして3人を抱き締め返した。ハグ返しを受けた3人は更に泣いた。
「おい、黒圓龍已」
「……?何だ」
「……ありがとよ。お前が虎徹を助けてくれたんだろ。まあ、礼くらいは言ってやるよ」
「おうおうおう!天下の龍已さんにどういう口のききかたしてんだあぁん?」
「お前なんか龍已のアニキのクソ以下だぜ」
「かーッぺっ!」
「お前らどういう立場だ!?」
「あはは……」
その日、全員生還して家に帰る事が出来た。龍已以外の5人は傷らしい傷は無かったので怪しまれることも無く、暗くなる前に家に着いた。しかし龍已は服が汚れて所々に穴が空いている。しかも頭からは血を流しているときた。流石に家まで送っていくと皆で言っていたのだが、見た目以上の怪我は無いので大丈夫だと言って辞退し、5人は真っ直ぐ家に帰した。
龍已は帰り際、虎徹から真っ直ぐ家に帰るのではなくて、念の為に適当な場所を寄って遠回りをしてから帰った方が良い……という助言を貰い、内心首を傾げながら頷いて、適当に色々な場所へ走って回った。
遠回りをしている間に立ち寄った公園の水道で頭を洗って血を流し、電話ボックスに入って110番に電話を掛け、匿名でトンネルの事を警察に告げた。電話相手は相手が子供の声だと分かると訝しんでいたが、住所を言うとメモを取り、誰の通報か知るために名前を聞かれた所で切った。人生で初めての警察への電話なので、少し達成感が出た。
日が本格的に沈み始め、後少ししたら暗くなり始めるという時間まで遠回りをした龍已は、友達を助け、頑張った自分へのご褒美として、自販機で今日の気分である苦いものである『ニガニガ青汁ジュース』を買って飲んだ。本気で苦かったが、龍已はどこかご満悦で、無表情ながらムフーッとした。
因みに、お金は遊んでいる時に喉が渇いたら自販機で飲み物が買えるように母の弥生から渡されている。
「──────ただいま帰りました」
「あら龍已、おかえ………え?龍已!?その格好はどうしたの!?」
「友達と鬼ごっこをして遊んでいたら、地面から出ていた木の根に足を取られて転倒した後、石造りの階段を転がり、着地した後に偶々居合わせたクラスメイトが乗っている自転車とぶつかりました。全部受け身を取ったので傷は大して無いです」
「どれだけ運が無いの!?本当に大丈夫!?消毒するからいらっしゃい!」
「……すみません母様。服が破れてしまいました」
「……はぁ。服なんてどうでもいいのよ。私は龍已が無事ならそれで良いんだから」
「……っ!はい。ありがとうございます」
「ふふ、なぁに?嬉しそうな顔……雰囲気?して。心配されたのがそんなに嬉しいの?」
「……嬉しいです。ありがとうございます、母様」
「っ……もおぉぉぉぉぉっ。かわいいんだから龍已は!ほら、早く傷を消毒してご飯食べましょう?今日は龍已の気分の、苦いゴーヤチャンプルよ!」
「……っ!」
ハッとした龍已は汚れたり破れたりしている服を脱ぎ、体中の小さな擦り傷を弥生に消毒してもらい、晩ご飯のゴーヤチャンプルをもっさもっさ食べた。嬉しそうな雰囲気を感じ取って弥生はニコニコしていた。
一方で忠胤は苦いものが苦手なので、死んだ目をしながらどうにかこうにかゴーヤチャンプルを口の中に入れた。残しはしない。チラチラ監視している弥生の目が怖かったから。本気で。
「──────黒圓君。今日学校終わったらお話ししたい事があるんだけど……いいかな?」
「……俺も聞きたい事がある」
「良かった!じゃあ、放課後むかえに来るね!」
「あぁ」
あの出来事から明けて日曜日が始まり、各々が精神と体をゆっくりと休め───龍已は稽古があったが───その更に次の日、学校の休み時間に龍已の居るクラスへ、あの日に出会った天切虎徹がやって来た。教室の扉を遠慮がちに開けると中を軽く見渡し、龍已を見つけると嬉しそうにやって来た。整った中性的な顔立ちに線が細い体は女子にしか見えない。だが男だ。
次の時間の準備をしていた龍已の傍にやって来た虎徹は、内緒話をするように龍已の耳元に口を近づけ、放課後に話し合う約束を取り付けた。因みに、龍已の席は一番窓際の一番後ろである。何故か席替えをすると毎回その位置になる。その度にケンが親の敵を見るような目で見てくるのを、龍已が不思議そうにするのがワンセットである。
「なー龍已~。同じクラスの南と堀川、どっちのがかわいいと思う~?」
「なーんかケンちゃんが2人の内どっちが良いのか決められないみたいでさー」
「ばっ…!ちっげーし!誰もそんなこと言ってねーし!」
「はいはい。で、龍已はどっちだと思う?」
「……?誰だ」
「今同じクラスって言ったじゃん!?」
「もしかして名前も知らない?」
「いや、龍已の事だから顔も知らないって言いそう……」
「……俺に話し掛けてくれるのは、このクラスだとお前達だけだからな。だから他の奴等に興味ない。お前達が居てくれたら、別に良い」
「「「んんっ……!」」」
3人が変な体勢に入ったのを無表情で首を傾げて見ている龍已。結局ケンの気になっている子達のことについての話は有耶無耶になってしまった。しかし龍已の大切な友達の気になること。龍已は同じクラスの南と堀川という女子のことを知るために聞き耳を立てたりした結果、有益な情報を手に入れる事が出来た龍已は、意気揚々とケンの元へ行った。
「ケン。南は一組の
「あ゙り゙がどよ゙っ!わ゙ざわ゙ざ教え゙でぐれ゙でっ!ゔれ゙じい゙よ゙っ!!」
「そうか、良かった」
「皮肉だわッ!!」
「え?」
「じゃあ、ようこそ……僕の家へ!えへへ」
「……大きいな。すごく」
「そう……かな?」
学校が終わって放課後。龍已は何処かの公園で話をするのかと思ったが、どうやら虎徹はそんなところで話をするつもりは無いらしく、是非我が家に来て欲しいと誘われて、特に拒否する理由も無いので虎徹の先導の元、虎徹の家へとやって来た。そして見えたのは広大な敷地と真っ白な洋風の大きな家……まさしく豪邸だった。
龍已の家も、広い庭と道場が連なっているのでそれなりの広さだと自負していたのだが、虎徹の家はその比では無い。マジで広くて大きい、圧巻の代物である。チラリと見えた車も絶対に超高級だろうと思えるようなものだった。スーパースポーツな感じである。
流石に場違い感を感じてしまい、萎縮してしまいそうだが、嬉しそうに手を繋いで先導してくれる虎徹にほんわかして直ぐに忘れた。そしてぐんぐんと異常に広い真っ白な壁の家の中を通され、虎徹の部屋に入れて貰った。そしてやはり虎徹の部屋も広かった。龍已の部屋の5倍は広い。金持ちなんだな……と思っていると、何時の間にか虎徹がお菓子とジュースを載せたお盆を持ってきていた。
「家にクッキーとマフィンしかなかった……ごめんね。口に合えば良いんだけど……」
「いや、今日は甘いものの気分だったからいい。ありがとう。……っ!?おいしい……」
「ほんと!?良かったぁ。口に合わなかったら使用人に買いに行かせるところだったよ」
「……(ある意味で)良かった。……このオレンジジュースも美味しい」
「それ?それはね、最高級オレンジの直搾りなんだ!美味しくなかったら違うやつを取り寄せるところだったよ!」
「……おいしいおいしい」
内心ヒヤッとしながら、龍已は出された物を食べていく。もし友達の家に行って何か出されたら、ちゃんと食べてお礼を言いなさいと言われているので、美味い、ありがとうと言いながら食べた。但し、持ってこられた量が普通に多い。今からパーティーでもするのか?というほど持ってきているので、途中でもういいと言おうとすると、もう要らないの?もっと食べて良いよと言ってくるので、胃袋と相談しながら食べた。
晩ご飯入るかなぁ……と、少し遠い気持ちになりながら出されたお菓子を食べ、ある程度時間が経ってから、虎徹と本題の話をすることになった。因みに、龍已が食べている間、虎徹は食べている龍已を見てニコニコ嬉しそうにしていた。結構食べづらい……。
「天切。あの時の……あのナニカについて、詳しく教えてくれ」
「うん、いいよ。けどその前に……その、龍已……って、呼んでも良い?それで、僕の事は……こ、虎徹って呼んで欲しいんだっ」
「……?構わない。虎徹」
「……っ!え、えへへ……龍已っ」
「なんだ?」
「えへへ……えへへぇ……嬉しいなって……ハッ!んんっ。ナニカ、呪霊のことだよね。僕が知っていることは全て教えるよ!」
「頼む」
それから、龍已は生まれてからずっと見てきて、他の人には見えていないナニカについて虎徹から教えられた。悍ましい形をしていたのは呪霊といって、恨みや後悔、恥辱などといった、人間から流れた負の感情が具現し、意思を持ってしまった異形の存在の事だという。
そして何気なく龍已が全身を覆ったり、襲ってきた呪霊に対して使っている、体の内側で溢れんばかりに存在する不思議な力を呪力といい、その呪力を使って術式を行使するのだという。そしてこの術式がとても重要で、呪力を電気として術式を家電と例え、呪力という電気を術式という家電である冷蔵庫や電子レンジに流す事によって、様々な使い方が出来る。
あの日、龍已が遭遇してしまった強い呪霊を祓ったのは、その術式によるものでもあると教えられた。因みに虎徹の術式は、物に自身の思い描いた効果を付与する事が出来る、構築術式の一種であると教えてくれた。付与するものが複雑なものほど呪力を食らってしまい、多大な精神力と集中力、呪力が必要だという。龍已はまだ初心者なので今一ピンとこなかった。
この世に呪力や術式を持たない、所謂非術師が居る限り、呪霊は途絶えることはなく、そういった呪霊を祓う者達の事を呪術師というらしい。一方で、非術師のことを呪って害を与える者達の事を呪詛師という。呪霊には階級が設けられていて、4級未満から始まって4級、3級、2級、1級とあり、最上位に特級というものが存在するが、特級というのは特別だから特級なのであって、滅多に出会うことは無いから今はそこまで考えなくてもいいという。
呪力、術式、呪霊、呪術師、呪詛師、その他にも色々と虎徹から聞いた龍已は、術式の行使をもう一度してみたいと言った。一応そういった時間はあったのだが、何も知らない状態でやるよりも、知っている人間からある程度話を聞いて、少し知識をつけてから行っても遅くは無いと考え、今まで我慢していた。
やってみたいという龍已の言葉に、もちろんと返答した虎徹は、龍已を家の地下へと案内した。そしてそこには広い空間が広がっており、如何にも実験や訓練をするとでもいうような場所だった。此処ならばミサイルが爆発しても大丈夫という虎徹に半信半疑ながら、手を前に向けて、呪力を操り、あの時の感覚を思い出した。しかし、一向にあの時の再現が出来ない。
「……?呪力は十分集まっているはず……何故飛ばすことが出来ないんだ……?」
「……ねぇ龍已。少し待っててもらってもいい?」
「大丈夫だが、どうした?」
「ちょっと、荷物を取りに行ってくるね!」
パタパタと地下から出て行った虎徹に首を傾げている龍已だったが、直ぐに気を持ち直して練習を開始。あの時の、呪力を放った時の感覚をそのままにやってみようと繰り返しいるのだが、どうしても呪力を飛ばすことが出来ない。何度もやっているが何も出来ない。出来るのは呪力で体を覆うことだけだ。
もしかして、あの時は死ぬ瀬戸際だったから火事場の馬鹿力的なアレで出来ただけの偶然で、実は才能が欠片も無いのでは……?と思った時だった。地下に虎徹が戻ってきた。そしてその手には黒光りする見覚えのあるものがあった。
「……それは」
「銃だよ!オモチャが無かったから“本物”になっちゃったけど、僕の予想が正しければ、弾が無くても出来るはず!はい、龍已!」
「……これを使うのか?」
「大丈夫!龍已なら出来るよ!」
「銃……か」
あの日のあの時は、何だかテンションが可笑しな事になっていたから何の抵抗も無く手に取って使ったが、今思えば飛び道具である銃は、黒圓家では……主に忠胤からしてみれば禁忌中の禁忌である。触れることすら禁じられている為、多大な抵抗感がある。しかしあの時のアレをもう一度やってみたい。
暫く虎徹の持つ拳銃に見つめ、大きく深呼吸をした後、意を決して手に取った。プラスチック製のオモチャなどでは無く、本物の拳銃は金属製でやはり重たい。それを両手で持って広く続く地下の向こう側に向けて持ち上げ、照準を合わせる。そして腹の臍の辺りから巡ってくる強大で膨大な呪力を肩を通して腕、手、拳銃へと伸ばしていき、引き金を引いた。
瞬間、拳銃からは青黒く太い光線が放たれた。眩く感じる程の膨大な呪力の塊は、高速で広大な地下空間を一条の光として突き進み、あっという間に反対側の壁に激突して大きな穴を開けた。地下であり、壁の向こうは土の壁なのが幸いしたが、これが普通の部屋ならば確実に民家を何軒もぶち抜いたであろうことは、想像に難しくない。
「………………………ぅん?」
「………わぁー………すっ…ごい……すごい!すごいすごい!こんな膨大な呪力と呪力出力は初めて見た!龍已はまだ小学生なのに!龍已はやっぱりすごいよ!!」
「いや、だが……恐らく壁に大穴が……」
「そんなこと気にしなくて良いよ!それよりも、ね!どうだった!?どんな気持ち!?初めての術式行使だよ!」
「そう……だな、今のは……──────清々しい気持ちだった」
「だよねだよね!僕も見てて驚いて、すっごーい!ってなったよ!風がぶわーってなって!ふっふふ!龍已っ、もう一回撃ってみようよ!ね!?」
「……そうしたいのは山々なんだが、銃がな……」
「えっ?……あー、それだと流石にムリだよね」
撃った本人よりも、傍で見守っていた虎徹の方が大興奮していた。目を潤ませ、頬を赤く染めながら龍已に躙り寄ってもう一度と叫ぶ。龍已も今のは確かに清々しく気持ちの良い一撃だった。叶うならばあと何回か撃ってみたい。しかし、肝心の虎徹から渡された銃がダメだった。膨大な呪力と呪力出力に耐えきれなかったのか、介した銃がグリップの部分以外が砕けてしまっていた。強すぎたのだろう。
一発撃っただけでこの有様。流石にこれ以上は……と思った龍已だったが、虎徹がパタパタと地下空間から出て行ったのに気が付いて、あと何発か撃てるようだと察した。そして数分後、両手いっぱいに有りと有らゆる銃を抱えて虎徹が戻ってきた。
「これ全部壊してもいいから、もっと龍已の術式見せて!
「……?いや、でも見た限り10丁はあるが……」
「いいよこんなの!親戚のおばちゃんが来るとき何時もお土産でくれるんだけど、誰も使わなくて増える一方で邪魔だったから、なんだったらわざと壊して良いよ!」
「親戚のおばちゃんが本物の銃……?」
聞きたいような気もするが、知ったらダメな気がしたので深くは突っ込まない事にして、ありがたく虎徹から銃を受け取って術式を行使した。腹から巡ってくる強大な呪力を手元まで持ってきて、握っている銃を介して呪力を撃ち放つ。青黒い呪力は光線ように形作り、地下空間の壁に大穴を開けてみせた。そして当然の如く持っていた銃は粉々に砕け散り、使い物にならなくなる。
勿体ない気持ちになりながら、砕けてしまった銃の残骸を見下ろしていると、横からスッと次の銃をニッコリとした笑みを浮かべながら虎徹が差し出した。気分的に苦笑いしながら無表情で受け取り、礼を言ってからまた構える。呪力を集めてまた撃ち放とうとした瞬間、同じようなものを何度も撃つのは飽きると考えて、少しアレンジを加えた。
引き金を引いて撃ち放たれた青黒い呪力の光線は、先程までの太い呪力の光線とは違い、細くしなやかな光線へと変わり、速度も上がって壁に穴を開けた。それも先程のものよりも深く穴を開けた。どうやら貫通力が上がったようだ。それを見ていた虎徹はポカンとしていたが、またしても大興奮だった。
「もうアレンジを加えたの!?やっぱり龍已はすごいよ!天才だよ!しかもちゃんと攻撃として使える立派なものだ……すごい……すごいすごい!!」
「そうか?ありがとう。だが、どうやら俺はコツを掴んだらしい」
「え?」
一発撃って砕けた銃を捨て、虎徹が持つ銃を一丁抜き取って直ぐに引き金を引いて呪力の撃った。すると、今度は呪力が光線状になること無く、まるで一発の弾丸のような形のまま……龍已の体の周りを高速で旋回している。残像を残しながら飛び続け、衛星のように離れない。その光景に呆然としながら見ていた虎徹から、更にもう一丁の銃を受け取って一発撃つと、同じ弾丸のような形の呪力が龍已の周りを高速で廻っている。
あまりの光景に開いた口が塞がらない虎徹を余所に、体の向きを変えて前方の広い空間に向けて2つの呪力の弾丸を飛ばした。自由自在に幾何学的な動きをしている呪力の弾丸は、最終的には互いに追突して弾けて消えた。驚愕して固まっている虎徹に向き直り、無表情でドヤァ……という雰囲気を出す。とても分かりづらい。
「龍已……」
「うん?」
「君は絶対に天才だよ。もうすごすぎて言葉が出ないや、ふふ」
そんなもんだろうか……?と疑問に思っている龍已の事を、虎徹はどこか恍惚とした表情で見つめていた。
「気を取り直して、龍已の術式を見ていた僕の予想としては、龍已の術式は本来、飛ばした呪力を遠隔で自由自在に操作する……というモノだと思う」
「だが銃を手放すと、飛ばせた感じがしなかったな」
「そう!それだよ。僕の予想は間違っていない筈だ。なら何が起きているのかっていうと──────天与呪縛だよ」
「天与呪縛?」
「うん!何かを縛られる代わりに、何かを与えられる、生まれた時から持っている縛りのことだよ!」
天より与えられし呪いによる縛り。縛りというのは、何かを不利に強制することによって、能力の底上げを促したりする事が出来る。自分自身に縛りを設ける事が出来る一方で、他者とも縛りを設ける事が出来る。だが、この天与呪縛だけは違う。この天与呪縛は生まれた時から既に肉体に縛りを与えられており、どんなに不利益なものであろうと覆す事が出来ない。
但しその一方で、何かを縛られているので、何かしらで強力の力を得ることが出来る。虎徹の推測であれば、龍已もこの天与呪縛による縛りを受けており、内容は……銃を介さないと術式を行使出来ないというものだ。本来ならば自由自在に呪力を飛ばして遠隔操作で好きなように出来るところを、銃を使わなければ呪力を飛ばすことが出来ず、また銃以外の場所から呪力を飛ばす事が出来ないものだという。
では、その縛りによって何が与えられているのかというと、恐らくだがある程度の広大な術式範囲と呪力出力、そして呪力操作の技術力向上ではないのかと考えている。あれだけ呪力を放出したにも拘わらず、ケロッとしているのを考えると呪力総量もと言いたいところだが、時には普通に呪力が膨大な人が居るので判断がつかないとのことだ。
「銃を使わないと使えない術式……この天与呪縛さえなければ、黒圓無躰流の型と合わせて選択肢がかなり増えた筈なんだが……」
「多分……殴ったり蹴ったり、あと武器を使ったりする武術なんだよね?その変幻自在で圧倒的な手数の多さに、更に手数の多さを組み合わせられれば脅威だよ。けど、縛りでその手数の多さを潰すことによって、広大な術式範囲と高い呪力出力、操作技術が手に入ったんだと思えば、足し算と引き算で良い具合になるのかな……?あとは使い手の龍已次第なんだけど……」
「……とりあえず、一発撃って壊れる銃をどうにかしないとダメだな。これだと手数の以前の問題だ」
「あの……その事なんだけどね……?」
地下空間から出て来て、虎徹の部屋に戻ってきた龍已は、モジモジと落ち着かない様子の虎徹を見ながら首を傾げ、新しく注いでもらったオレンジジュースを飲んで喉を潤した。初めての術式行使の熱から覚めた龍已は、チラッチラッと見てくる虎徹の言葉を待った。
虎徹は一世一代の告白でもするかのような態度であり、二重で大きな蒼い目は水を張っており、首筋から耳に至るまで、顔を真っ赤にしながら口を開いたり閉じたりを繰り返し、大きく深呼吸をすること10回。意を決してある意味告白をした。
「ぼ、僕が龍已の為に呪具を何でも創るから、僕を龍已の
「……呪具?」
「ぁ……えっと……僕の家、天切家は呪具師として
「──────いいぞ。むしろ、こちらこそよろしく頼む」
「ぇ……ぁ………っ……ぁり……ありが…っとう……ありがとう……っ!!」
正直な話、虎徹の持つ術式は、呪具師としてならば喉から手が出るほど欲しがるもので、今はまだ子供なので難しいものは全く付与出来ないが、将来的には必ず呪術界に革命を起こすような呪具を創り出すだろう。そうなれば、莫大な資産だって手に入れられる筈。呪具の中でも最上位とされる特級呪具は、オークションに掛けられれば一つで何億という金が動く。
虎徹は将来、必ず特級呪具を創り出すことが出来る、有名な呪具師として名を馳せるだろうに、それでも選んだのは龍已の専属呪具師、つまり、龍已の為だけに呪具を創るという道だった。まだ子供の口約束だと思うこと勿れ。呪術師はイカレた者が殆どと言われているが、呪具師とてイカレている者が多い。そして虎徹はしっかりとイカレていた。未来の莫大な富より、目の前の絶対の友人を迷い無く取ったのだ。
「虎徹、これから
「……っ…うんっ。うんっ!」
この時、才能有り余る一子相伝黒圓無躰流継承者予定の黒圓龍已と、天切家歴代最高最適術式所持者の天切虎徹が
黒圓龍已
遠隔呪力操術
汎用性が高いが、特別珍しいものでもなく、出来ることは限られて範囲もそこまで広くないという、そのままならば普通より少し下くらいの術式
天与呪縛
銃を介さなければ術式の使用不可
銃等の飛び道具の使用を禁じている家、銃を一切使用しない流派でありながら、本来ならば無数の手数の多さを獲得出来たところを、縛りによって手数の多さを奪われた。代わりに広大な術式範囲、呪力出力、操作技術を獲得した。
元々技術力があったのに、天与呪縛によって掛け算された。恐ろしい。
何故か知らんが呪力がバカクソ多い。やったぜ。
天切虎徹
天切家は代々呪具を造る事で有名な家で、特級呪具を幾つも造っている。そして虎徹は歴代天切家の中で最も恵まれた最高最適の術式と豊富な呪力を持ち、聡明な頭脳と物作りの才能を生まれ持った。まさしく天切家歴代最高の天才にして稀少児。
命が危ないところを助けられ、更には神々しい場面を目にして最優先事項に黒圓龍已を堂々とランクインさせた、イカレた男の娘。
虎徹の親戚のおばちゃん
どこかで超凄腕のスパイをしているとかなんとか。その時に使った銃を何となくお土産にしている。この度全部ぶっ壊された。