呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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最高評価をして下さった、斧さん かじぬん ネーム さん。

高評価をして下さった、影崎


さんの皆さん、ありがとうございます!




第三十話  星漿体

 

 

 

 

『続いて昨日、静岡県浜松市で起きた爆発事故。原因はガス管の経年劣化!?現場の節アナウンサー!?』

 

 

 

「この中に帳は自分で降ろすからと、降ろそうとした補助監督の鶴川の仕事を取り、補助監督そのものを置きざりにした奴が居るな。そして見事に帳を忘れた。名乗り出ろ」

 

「それは俺の失態です。歌姫先輩達が危険だということで冷静さを失い、鶴川さんを怯えさせてしまって帳を降ろせる精神状態では無くならせてしまいました。帳が降りてから行けば良いものを、我先にと突入し、建物内の結界術を上書きするのに領域展開もしたので、鶴川さんは更に怯えたと思います。そもそも、現場に到着した時点で向かっている五条達に一報入れるべきでした。申し訳ありませんでした」

 

「そーそー!今回はセンパイが──────いで!?」

 

「擦り付けようとするな悟。最初からお前のことを言ってるんだ。それと龍已。自身で把握しているならば良い。違う任務が有ったのに急行してくれて助かった」

 

「俺と扱い違くね!?」

 

「お前と先輩を一緒にすんなよクズ」

 

 

 

 普通に帳を降ろすから下がってろと言って鶴川を下がらせ、自身達を送り届けた補助監督も置いていき、更には数秒前に帳は自身で降ろすと言った事を完全に忘れて『蒼』を屋敷にぶち込んだ五条がどこからどう見ても悪い。夜蛾も最初から解っていたので、責任を名乗り出た龍已に擦り付けようとしていることを含めて鉄拳指導に入る。

 

 一旦その場は解散となり、五条達は2年の教室へと向かって行った。そこでは五条が帳とは本当に降ろさなくてはいけないものなのか?という話を出し、夏油は目に見えない脅威を極力秘匿するための処置だと言う。弱者生存。それが夏油の思うあるべき社会の姿だ。弱きを助け、強きを挫く。呪術は人を守るためにある。そう自信ありげに言うのだ。

 

 しかしそれに対抗するは五条。対抗というよりも唯単に正論が嫌いだというだけなのだが、大いなる力……呪術に理由や責任を乗せるのは、それこそ弱者のやること。そしてそれが五条が思うこと。この時点で話に亀裂が入り、煽りを受けた夏油は座っている椅子から立ち上がり、背後から取り込んだ呪霊が姿を現そうとする。五条は全く取り合わないつもりらしい。

 

 家入はすぐにその場から逃げたので教室には夏油と五条しか居ない。また校舎が吹き飛ぶ大惨事になるかと思われたが、丁度良く夜蛾が来たことによって2人は何食わぬ顔で席に着いた。家入が居ない事に訝しむ夜蛾だが、持ってきた案件が2人を指名しているものなので丁度良いと、用件を話し始めた。

 

 用件は天元様との適合者である“星漿体”。その少女の護衛と()()である。

 

 この天元というのは、不死の術式を持った人間である。しかし不死であっても不老では無いため時が経てば老いてしまう。だが問題なのはそこでは無く、一定以上の老化を終えると術式が自動的に肉体を創り変えようとする。それを“進化”と呼び、人の枠組みから解放され、より高次の存在へとなってしまう。

 

 天元曰く、そうなれば意志というものが無いとのこと。天元が天元で無くなる。東京と京都の各校。呪術界の拠点となる結界。多くの補助監督の結界術。それの全ては天元1人で強度を底上げしている。天元の力添えが無ければ、防護(セキュリティー)や任務の消化すらも儘ならなくなってしまう。それ程重要な人物だ。

 

 なので500年に一度、星漿体という天元と適合する人間と同化し、肉体の情報を書き換える必要がある。より高次の存在へと昇華するのを、500年前の状態に戻してリセットするということだ。そうすればいつも通りの天元で居る事が出来る。その護衛と抹消を、天元の指名で五条と夏油に与えられた。期間は2日後の満月まで。それまで護衛し、天元の元まで送り届ける。それが内容の全てだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍已、居るな」

 

「えぇ。何かありましたか。今は自習の筈ですが」

 

 

 

 黒板に自習と大きく書かれた3年の教室に、担任をしている夜蛾が入ってくる。自習と言われているので大学レベルの物理をやっていた龍已は、シャーペンを置いて前に立つ夜蛾に目を向ける。夜蛾も龍已に用件があって来たのだ。

 

 用件は五条達が受けた星漿体の護衛と抹消について。実際に受けるのはあの2人だが、龍已には少し違うものを受けてもらいたくて来た。それは星漿体を狙う一派の殲滅である。

 

 

 

「天元様と星漿体の事は知っているな?」

 

「知っていますよ。500年に一度行われる肉体の回帰。それが今年の、それも2日後であることも」

 

「ならば話は早い。その星漿体の少女は、天元様の暴走によって呪術界の転覆を目論む呪詛師集団『Q』に狙われている。所在が露呈してしまった事でだ」

 

「──────生死は?」

 

「──────問わない。故の殲滅だ」

 

「良いでしょう。その任務受けます。『Q』とやらの構成人数。外見的特徴。持ちうる術式。行動パターン。現代兵器の有無。組織構成等の情報は」

 

「こちらは殆どの情報が無い。星漿体を狙っているという事だけだ」

 

「……解りました。俺独自で調べます。夜ではないので黒圓龍已として任務に行きます」

 

「解った。頼んだぞ」

 

 

 

 席から立ち上がった龍已はすぐに教室から出て行った。そして携帯を取り出して補助監督の鶴川に掛けると、今すぐに車を出すように頼み込む。携帯の向こうから焦ったように動き出す鶴川の音が聞こえてきて、事務の仕事でもしていたらしい。間が悪かったようだと思い、階段を使って1階に降りると自販機で珈琲を購入した。鶴川に渡す用である。

 

 いそいそと用意された高専の車に乗り込み、鶴川に珈琲を渡しながら行き先を告げる。車に付いているナビを起動させて目的地を設定している鶴川を尻目に、龍已は別の場所へと電話を掛けた。それは長年お世話になっている、呪詛師の情報を掻き集め仕事の斡旋をする組織だ。

 

 それで龍已の黒い死神の姿を担当としている男に繋げ、呪詛師集団『Q』についての情報を全て開示させた。組織構成や構成人数。見た目に持ちうる術式。それらを全て頭の中に入れて戦闘方法を確立させる。第1の弾丸で仕留めきれなかった時を考えていた第2第3の弾丸も考え、『Q』の殲滅を思い描く。そしてそれは完璧で問題は無し。

 

 目的地を目指して車を走らせること数時間。龍已は星漿体が居るという場所へやって来た。見上げる高さの高い建物。その中に居るという。だが、別に膨大な呪力を持っている訳では無いので殆ど非術師と変わらない。判別は難しい。だが良い手がある。

 

 

 

「少し手荒だが……戦闘が起きれば同じだ。今は呪詛師の殲滅及び星漿体の身柄の安全確保──────『呪心定位』」

 

 

 

 表の道を歩いているのでオモチャの銃を使って呪力のソナーを放つ。微弱な呪力なのでオモチャは壊れなかったが、次の一撃で破壊されることになる。高層ビルの中に居る全ての人間の位置や外見的特徴を捉えた龍已は、数多く居る中で使用人のような格好をしている人間を1人見つける。だが確証は無いので一発の呪力弾を撃ち放った。

 

 オモチャが木っ端微塵となって破壊されるが、放たれた呪力弾はビルを出入りする人の間を縫って突き進み、ビルの中に設置された非常用ベルを鳴らす為のボタンを撃ち抜いた。瞬間、けたたましいベルの音が鳴り響く。ビル内の人間が伏せたり慌てたりする中で、先程感知した使用人のような女性が、隣に居た少女の前に立って周囲を警戒し始めた。これで星漿体とその付き人が解った。

 

 最上階の端の部屋に居る。それが解った以上問題は無かったが、すぐ近くの男子トイレから変な格好をしている男が出て来て星漿体の方へと一直線に向かっている。直感する。呪詛師集団『Q』の戦闘員だと。そうなればこのままという訳にはいかない。龍已はクロからナイフを一本吐き出させ、口に咥える。そしてビルに向かって走り、()()()()()()()()()()()()

 

 類い稀なる超人の肉体を持つ龍已は、指先の力も尋常ではない。故に壁に指先をめり込ませて駆け登っているのだ。靴を履いている足も壁を破壊しながらめり込ませて、垂直であろうと関係無い。龍已の足場とさせる。非術師達に見られるのは頂けないが、形振り構ってはいられない。星漿体のすぐ傍に居るのだから。

 

 ものの数秒で最上階の位置までやって来た龍已は窓に向かって拳を振り上げる。中では星漿体の前に立って守る使用人の人と、その人に向かって刃物を振り下ろそうとしている呪詛師が居た。しかし龍已が拳で強化ガラスを破壊し、中に入り込む方が呪詛師の手よりも早かった。

 

 

 

「──────ッ!?何だおま──────」

 

「──────先ず1人」

 

 

 

 ガラスを突き破って入ってきた龍已に驚いたのだろう。呪詛師は目の前の使用人では無く、龍已の方へと標的を変えて右手に持つナイフを突き出してきた。右手で呪詛師の右手首を取って体を近づけ、自由の左手で噛んでいるナイフを取って腕を交差させ、呪詛師の首を深々と斬り裂いた。

 

 斬られて血が噴き出すよりも早く、手首を掴んでいた右手を離して顎に右肘を叩き込んで脳を揺らす。そして左手に持つナイフに呪力で流して頭に突き刺し、頭の中で呪力を暴発させて脳を破壊する。一瞬で刺して抜いた動きは誰にも見えず、肘を食らわせただけで終わったように見えるだろう。反転術式を覚えられたとしても、呪力によって脳を粉々にしたのでもう死んだ。即死である。

 

 血に塗れたナイフを持って無傷どころが返り血すらも浴びていない龍已は、突如現れた凄腕の暗殺者のようにしか見えないだろう。だからだろうか。助けたはずの使用人は星漿体を庇って距離を取っていた。振り向く龍已にビクリとしている2人に、まあ普通はその反応だろうなと思った。

 

 

 

「ち、近付かないで!!」

 

「黒井と妾を殺すつもりなら、まずはお前が死んでみせよ!!」

 

「……お初にお目に掛かります。私は東京都立呪術高等専門学校3年の黒圓龍已。1級呪術師をしております」

 

「……え?」

 

 

 

 龍已は怖がらせないように血塗れのナイフを後ろに隠しながら、その場で片膝を付いて頭を下げた。何もしてこないどころか仰々しく挨拶をしてきた龍已に困惑し、護衛をしてくれる2人の通う呪術を学ぶための学校と名前が同じ事に声を上げた。

 

 呪詛師を殲滅するのが出された任務であれど、それは星漿体を護るために周囲で動く事を意味する。それならば勝手に動いて鉢合わせになり、面倒な説明をするよりも最初から姿を現して説明しておいた方が楽だ。だから呪力弾を飛ばして呪詛師を殺さず、態々壁を駆け登って此処まで来た。

 

 龍已は懐から高専で発行される学生の身分証明書を取り出して、2人に向かって放った。証明書は一番近くに居る使用人のような格好をしている黒井と呼ばれた女性の足下に落ちた。それを拾い上げて見てみると、顔写真と名前。そして1級呪術師であることを示すと書かれていた。

 

 

 

「お嬢様、この方は本物の呪術師ですよ。安心して大丈夫です」

 

「ほ、本当か……?」

 

「呪術高専で私の担任をしている夜蛾正道という先生の電話番号をお教えしますので、確認を取って下さっても構いません」

 

「いえ、これを見せていただければもう大丈夫ですよ。現に襲い掛かって来てませんし。あの動きならば、今頃私達は死体になっている筈です。……それよりも、護衛は2人とお聞きしましたが……」

 

「私は護衛を担当する者ではありません。星漿体である天内理子様を狙う呪詛師集団『Q』を殲滅する為に派遣されました。つきましては天内様の近くで動くことも有り得るということで、こうして馳せ参じて挨拶に参りました。お騒がせして申し訳ありません。近くにこの呪詛師が潜伏しており、向かって行ったことにより、少し手荒な真似を取ってしまいました。非常用ベルも私によるものなので、ご心配には及びません」

 

「い、いえいえそんな!私達は助けてもらった側ですから、どうぞ顔を上げて下さい。失礼な態度を取ってしまってすみません……。お嬢様、黒圓さんにお礼を言いませんと」

 

「そ、そうだよね……んんっ。褒めてやるぞ黒圓とやら!よくぞ妾と黒井の危機を救った!お前はこのまま任務に戻って妾達を狙う呪詛師を打ち倒してくるのじゃ!」

 

「は。では私はこれにて失礼致します。後程、私の後輩で今回の護衛の任につくものが到着しますのでよろしくお願い致します」

 

「はい。本当にありがとうございました。どうかお気をつけて」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 龍已は立ち上がって死体となった呪詛師をクロに呑み込ませ、その場から消えた。星漿体世話係の黒井美里と天内理子は龍已が去って行った後、ホッと一息着いて近くのソファに腰を掛けた。突然変な格好をしている奴に狙われてどうなるかと思ったが、掴まる所なんて無い外から窓を突き破って入ってきた龍已には驚いたものだ。

 

 ほんの一瞬の攻防で呪詛師を殺した龍已の動きは、洗練されたもので強さがはっきりと解った。お世話係でありボディーガードもする黒井はある程度の近接も熟すことが出来る。そこらに居る呪詛師相手ならば負けるつもりは毛頭無いが、アレはダメだ。無理にも程がある。何よりも殺すという行為に慣れている。躊躇いも容赦も無かった。

 

 勝てるビジョンが全く見えない。あんな化け物は初めて見た。振り返った時の琥珀の瞳を見たときは、年甲斐も無く失禁するところだった。恐怖しか抱けなかった。だが、龍已の態度は仰々しく、こちらを気遣うものだった。血に塗れたナイフも隠したし、頭も下げた。敵意が無いと示したのだ。こんなに強くて素晴らしい人が居るならば、きっと護衛の人も良い人なのだろう。

 

 黒井はそう思って天内の身の回りの安全が確保されることに安堵した。その約10分後。やって来た護衛をしてくれるという2人に会うことで驚くことになる。失礼なことをいきなり言った事は天内が悪いが、まさか両手と両足をそれぞれ持って千切ろうとするとは思わなかった。普通やらねーからそれ。

 

 

 

「も゙……も゙ゔやべで……だじゅげで……」

 

「なら疾く仲間の情報を吐け。人数は知っている。配置は。拠点は。此処へは何人で来た」

 

「ひがしの……に、2ぎろさぎに……きょてんが……あっで……ほがのが……いまず……こごには……2人だげ……でず」

 

「そうか──────死ね」

 

「ま──────」

 

 

 

 天内が居たビルの中から出て来た龍已は、外で天内を狙っていたバイエルという呪詛師集団『Q』の最高戦力の1人を見つけて背後から襲い、腕や脚の骨を全てへし折って拉致した。誰も居ない林の中に連れ込んで顔を殴りまくり、痛みによる恐怖で情報を吐かせた。大凡の場所が解ればもう用は無い。

 

『黒龍』で呪力弾を撃って頭の中を粉々にした龍已は、死体となったバイエルの肉体をクロに呑み込ませ今度は東に向けて銃口を向けた。引き金を引いて飛ばされるのは『呪心定位』。微弱な呪力の音波が飛び交い、2キロ地点に差し掛かった時、呪力を持つ集団が一カ所に集まっていた。

 

 目を細めて呪詛師集団『Q』だと確信した龍已は、鶴川に電話を掛けて車を出して貰おうと思ったが、2キロ程度走って行けば十分だと判断して体勢を低くし、呪力を纏って一歩踏み込んだ。瞬間、龍已の姿は掻き消え、非術師の目には一切映らない速度で駆け抜けた。

 

 100メートル走を素の身体能力で3秒も掛からず駆け抜ける龍已は、呪力を使えば1秒を切る。つまり1キロ先に走って移動するには10秒あれば十分だということ。よって2キロ先には20秒で到着した。呪詛師集団が集まっていたのは何でも無い一軒家。どうやらカモフラージュのつもりらしい。

 

 

 

「『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』……そして死ぬと良い──────『地ノ晄』」

 

 

 

 周囲一帯に帳を降ろして非術師達に悟らせないようにし、莫大な呪力を籠めた呪力弾を地面に向けて放った。普通の弾とは違って地面の中すらも突き進む呪力の弾丸は、『Q』が居る一軒家の真下まで辿り着くと、籠められた莫大な呪力を全て解放した。放たれるのは蒼黒い呪力の光線。それが下から現れる。

 

『天ノ晄』とは違って下からやって来るこの光線は、地面によって気配を悟らせない。そして完全な死角からやって来るので咄嗟の回避は広範囲なことも加味して不可能。況してや呪詛師集団『Q』はそこまでの強さを持っていない。

 

 所詮は最近になって呪詛師となった『Q』の一味は、高い報酬を設定されていない。別に金が欲しい訳でも無い龍已は、既に殺してクロに呑み込ませた2つの死体を受け取り、天に向かって伸びる蒼黒い光線の中へと投げ入れて消し飛ばした。これで、龍已の任務は完了した。構成員全9名。始末を終えた。細胞一つすら残さず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?んんっ……何だ、五条」

 

『あ、センパイ?今ドコいんのー?』

 

「〇〇だな。1時過ぎたが腹が減ったから遅めの昼でホットドッグを食べていた」

 

『ぶはッ。マイペースなんだけど!てかその位置だと廉直女学院と高専の直線上でしょ。ちょーっと呪詛師に狙われててさー。俺ガキのお守りしてるから手伝ってー。あと、俺の分のホットドッグも買ってきてくれる?』

 

「場所は……いやいい。見つける。少し待っていろ」

 

 

 

 目の前の店員に5個のホットドッグを頼み、左手にホットドッグが入った紙袋を、右手に『黒龍』を握って廉直女学院の方向へと『呪心定位』を放った。すると五条と天内の姿が浮かび上がり、その近くに紙袋を被った大男が居た。しかも全く同じ姿形のが4人。透り抜けてもそれぞれが本人のようで式神では無い。

 

 その場から大きく跳躍して周囲の人を驚かせながら屋根の上を疾走する。距離はそう大したものでもないのですぐに五条達の元へ辿り着いた。五条は龍已の姿を見るとお気楽に手を振ってくるので返し、天内も大きく手を振ってくるので振り替えした。だが天内はすぐに固まった。何故なら、龍已がホットドッグを齧っていたからだ。

 

 最後に大きく跳躍して五条達の傍に降り立った龍已は、左手に持っていたホットドッグの入った紙袋を五条に渡した。護衛をしていて呪詛師に襲われているというのに紙袋の中に手を突っ込んでホットドッグを取り出し、龍已と一緒にもぐもぐと食べ始める。

 

 

 

「あ、これうめーじゃん。ソーセージ太ェし。センパイ良い買い物すんね」

 

「…っ…ごくッ。美味いだろう。頼むとその場で作ってくれるんだ。その5つは俺が食べようと思って頼んでおいたものだが、皆で食べると良い」

 

「センパイ今何個食った?」

 

「これで7個目だな」

 

「はは!センパイ食べすぎー」

 

「お前達言ってる場合か!?変な奴そこに居るんじゃぞ!?しかも4人から5人に増えてるし!!」

 

 

 

「まあ慌てんなよガキ。これでも食って黙って見てろ。センパイがあんなのに負ける訳ねーだろ──────俺達のセンパイだぜ?」

 

 

 

 天内の口の中にホットドッグを詰め込んで黙らせると、天内はゲッホゲッホと嘔吐きながら涙目で龍已を見た。ホットドッグの最後の一欠片を口の中に放り込んで咀嚼し、呑み込んだ龍已は『黒龍』を構えて4発分発砲した。呪力弾は真っ直ぐ分身した呪詛師へと飛んでいき、避ける間もなく頭を粉微塵に吹き飛ばした。

 

 しかし本体は外れだったようで、紙袋を被った4人の分身体呪詛師は液体のように姿を変えてしまい、最後の1人は体中から汗を流していた。普通の弾丸ならば避けられた。しかし龍已の『黒龍』から放たれた呪力弾は普通の弾丸よりも遙かに早かった。

 

 避ける間もない攻撃に分身体が避けられる筈も無く、術式によるどれも正真正銘の本体の分身は砕けた。時間が経たないと再び分身を作り出せない呪詛師は、もう逃げるしか選択が無い。だから後ろへ一歩下がったのだが、自身の回りに4発の呪力弾が廻り続けているので動けなくなった。少しでも動けば体を突き抜ける。だから硬直するしか無い。

 

 

 

「さて、何故天内様を狙った。何の目的があった」

 

「そ、それは……」

 

「センパイ。ソイツ呪詛師御用達の掲示板にこのガキが懸賞金懸かってんの見て狙ったみたいよ。3000万だし」

 

「成る程。理由が知れた以上、お前にはもう用は無いな。疾く死ね」

 

「嫌──────」

 

「──────呪詛師の時点で逃がすつもりは無い。死して悔い改めろ」

 

 

 

 天内はゴクリと喉を鳴らした。やはり躊躇いも何も無かった。頭を飛んでいる呪力弾で撃ち抜いて殺した。もの言わぬ死体と成り果てた呪詛師の肉体は、龍已の首に巻き付いていた黒い蛇型の呪霊が呑み込んでいく。テレビで見た捕食シーンのようで生々しかった。

 

 傍で立っている五条も、人が死んだのにホットドッグを食べている。2人は完全にイカレていると思った。だが実力は確かであることはもう確信した。こうなれば、身柄は守ってもらえる。星漿体である自身と、大好きな黒井の2人を。

 

 しかしそこで、天内の携帯に連絡が入った。内容は写真が一枚だけ。だがそれは、手脚を縛られている黒井の写真だった。五条はそれを見て夏油に電話を掛ける。黒井とは夏油が一緒だったからだ。そして電話には夏油が出たが、天内の身の安全を優先して欲しいと言われて離れた隙に連れ攫われたらしい。

 

 天内にとって黒井は大切な家族だ。そんな人が殺されるかも知れないというのにジッとはしてられない。五条と夏油、そして龍已がこのまま天内を高専に送り届け、家入に影武者をやらせて黒井を連れ戻そうと考えるが、天内は拒否した。行くなら連れて行けと。龍已は即反対だ。天内は星漿体。替えがいるのかも解らないのに、危険に晒す訳にはいかない。

 

 天内はお別れも言っていないのに高専に行けば、別れの時になっても黒井が来なかった時の事が考えに浮かぶ。それが嫌だ。だから行く。そう言って聞かなく、龍已が少し眠っていてもらおうと一歩踏み出した時、五条に腕を掴まれた。

 

 

 

「待ってセンパイ。天内は連れて行く事にした」

 

「……星漿体である天内様をむざむざ危険地帯に連れて行くのか。合理的では無い。この場合、護衛である五条と夏油は天内様を高専へ連れて行き、硝子に影武者をしてもらって俺が取引現場に行くのがベストだ」

 

「だーい丈夫だって。俺と傑は最強だし、センパイも居る。万が一はありえねーって」

 

「最強だから大丈夫は根拠になっていない。あくまで狙いは天内様だ。お前達ではなく、俺でもない。この世に絶対は有り得ないのだぞ──────お前達ならば解るだろう」

 

 

 

 2人居れば最強。それを豪語する五条だが、龍已に限ってはそうも言ってられないことは重々承知している。つまり最強でも負けるときは負ける。龍已とて、五条達を相手にしても勝てるが、任務先で死にかけた事がある。この世に絶対は無い。だから安全を考慮して天内は高専へ連れて行く。

 

 龍已に少女の涙は通用しない。別れすらも言えない事に憐憫に思う感情はあれと、目的のためならば仕方ないと切り捨てる。万が一が起きて天元と天内が同化出来なかった場合、呪術界はかなりの痛手を負うことになってしまう。大を取って小を捨てる。その覚悟がある。冷静な頭で冷酷に考え、導き出した答え。故に龍已と五条は対立する。

 

 目を細めて睨み合う龍已と五条。五条の腕を掴む手に力が入り、龍已からは莫大な呪力が放出される。膨れ上がっていく気配と呪力が衝突しあって軋む。六眼と無下限術式の抱き合わせと黒圓無躰流継承者の2人がぶつかり合おうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────めんそーれっ!!!!」

 

「……はぁ」

 

「まあまあ、先輩。黒井さんも助け出せた訳ですし」

 

「すみません……まさか盤星教信者の非術師にやられるとは……ご迷惑をお掛けします……情け無い」

 

「不意打ちなら仕方ありませんよ。私の責任でもある」

 

 

 

 こうして、一行は沖縄へとやって来ていた。結局あの場では龍已が折れてしまい、全員で沖縄に行くことなった。黒井を連れ去った者達は、交換の場所を沖縄に設定した為だ。

 

 一応空港を抑えられないように、1年である七海と灰原にも来てもらい、今は空港の守備を任せている。本当に連れて来るつもりが無かった龍已なので、1人溜め息を溢していた。原因となった五条は天内と海水浴をしながらナマコを突いて2人で大爆笑している。頭が可笑しいのか。

 

 だがその原因を知っている。五条が無下限のバリアを張り続けているからだ。天内を守るために飛行機の中でも警戒していた。夏油が呪霊を使っているにも拘わらずだ。龍已も飛行機では天内の隣に座り、窓側に居た。天内を狙うならば自身をどうにかするしか無く、術式反転で遠距離を無効化するためだ。

 

 反転術式が使える龍已は体調を崩していないが、五条は違う。反転術式が使える訳でも無いのに、脳に多大な負担の掛かる無下限呪術を使用し続けているので疲労もしているだろう。夏油がそろそろ帰ろうと言って天内が落ち込み、1日滞在を延長した五条を見て、また溜め息を溢した。

 

 そうして皆で遊んで観光をし、次の日の同化の日に飛行機に乗って高専へと帰って来た。現在の時刻は15時。天内の懸賞金が取り下げられてから4時間が経過したときだった。全員が高専の結界内に入った

 

 

 

「これで一安心じゃな!」

 

「……そう……ですね」

 

「悟、本当にお疲れさま。先輩もありがとうございました。もう術式反転解いてもいいですよ」

 

「……ここまで長時間展開したの初めてだった」

 

「二度とごめんだ、ガキのお守りは」

 

「お?やんのか??」

 

 

 

 気が抜けたように龍已が『虚儚斯譃淵(きょぼうかくえん)』を解いて、五条もぶつくさ文句を言いながら無下限を解いた時だった。音も無く五条の身体を背後から刺した男が居た。

 

 龍已は五条が刺される寸前で気が付き、もう間に合わないと判断して天内の前に即座に移動した。五条ならばその程度では死なないと信頼していたが故の行動。そして五条の無下限が解けた瞬間を狙って襲ってきた口元に傷のある男は薄く笑っていた。

 

 

 

「…っ……アンタ。どっかで会ったか?」

 

「──────気にすんな。俺も苦手なんだ、男の名前覚えんのは」

 

 

 

 誰かにその瞬間まで気付かれる事も無く、高専に張ってある結界の中を自由に移動してきたこの男に、夏油も警戒する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲撃者の男の名前は伏黒甚爾。()()()呪力を持たない代わりに人間離れした身体能力を得たフィジカルギフテッドの持ち主。龍已と同じ超人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






天内理子

天元様の星漿体である少女。龍已の態度が良かったので天狗になり、調子に乗って後から合流した五条達に失礼なことを初っ端吐いたら千切られそうになった。それは自業自得。

貰ったホットドッグが美味しくて悔しいぃ(ムシャァ)




黒井美里

天内理子のお世話係をしている女性で、近接戦がある程度出来る。だが龍已の動きを少し見ただけで力の差を悟った。向かえば絶対殺されると思ったし、後少しで漏らすとこだった。

君、拉致られたからホットドッグねーよ(五条が食った)




『地ノ晄』

天ノ晄の下バージョン。上から降ってきて目視可能なものと違い、地面によって呪力の気配を消され、突然足下を崩壊させて放射される呪力の光線。あっと思った時には消滅してる。




五条

天内に性格が悪そうな顔してると言われてブチッときた人。足を持っていた。

ホットドッグ美味ぇ……となりながら呪詛師と龍已の戦いを観戦してた人。あのぐにゃぐにゃした軌跡を描く呪力弾はホントにウザイと思う。

黒井が拉致られたと解った途端にもう1個ホットドッグ食った奴。





夏油

天内に自己紹介したら嘘つきの顔だと言ったらしブチッときた人。手を持っていた。

結構近くに龍已が居て大丈夫だろうけど、一応黒井に言われて五条を追い掛けた……隙に黒井拉致られた。普通に失態だと思った。

ホットドッグかい?1個じゃ全く足りないよ。




龍已

天内は気絶させて高専に連れて行って、自分と家入でトレード場所へ行き、黒井を救出しようと思ったが、五条が全員で行くと言っては?となった。いや、護衛対象危険に晒してどうする。

止めなかったら首トンしてた人。あくまで同化が目的だからね。仲良しこよしが目的じゃ無い。

呪詛師ブッコロしてすぐに何か食えるもの売ってないか彷徨ってた。亡霊かゾンビかなんかか。










問・どうやって沖縄に連れて行くことを決めたの?


通りすがりの人に審判をしてもらってジャンケンした。どっちも目を瞑って。

目を開けてやると龍已が動体視力にモノを言わせて出すもの変えてきてジャンケンにならないから。五条も瞑ったのは公平さを出すため。


「ジャンケンポン!」

「えっと……サングラス掛けてる人が勝ちです」

「はーい俺の勝ちー。じゃ空港行こうぜ」

「良し!お主良くやった!さあ、黒井を助けに行くのじゃ!」

「……………………。」

「まあまあ先輩」

「……はぁ」



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