呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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第三十一話  術師殺し VS 呪詛師殺し

 

 

 

 

「…っ……アンタ。どっかで会ったか?」

 

「──────気にすんな。俺も苦手なんだ、男の名前覚えんのは」

 

 

 

 突如現れた男に五条が刺された。長い剣は背中から刺されて腹まで貫通している。龍已は五条がこの程度では死なないと信頼して助けには入らず、恐らく目的だろう天内の前へと出て『黒龍』二丁を引き抜いて手に持ち、何時でも呪力弾を撃ち出せるように構えた。

 

 夏油は術式の呪霊操術で巨大なワームのような呪霊を取り出して男……伏黒甚爾に向かわせ、五条は『蒼』の要領で伏黒を飛ばした。足場の無い空中。そこで夏油が呼び出したワームのような呪霊が伏黒に大きな口を開いて丸呑みにした。普通ならば死んでいるだろう。

 

 だが龍已は呑み込まれる瞬間、伏黒は笑っていた。死ぬ間際の人間が浮かべる表情ではない。あれはあの程度では死なない。呪霊が伏黒の身体を粉々に噛み砕いたならば死んだと解るが、丸呑みだと中で何をしているか解らないのだ。

 

 右目は伏黒を丸呑みにした呪霊に向け、左目は血を流して膝を付いた五条と、彼に駆け寄る夏油に向けた。別々に動く瞳が向けられた瞳で五条の出血量と刺された時の角度を頭の中で計算し、内臓が綺麗に外されている事に気が付いて安堵の溜め息を溢す。やはり信頼していただけのことはある。五条曰く、内臓は避け、呪力で強化して何処にも刃を引かせなかったらしい。ニットのセーターに安全ピンを刺したようなものだと。

 

 

 

「天内優先。アイツの相手は俺がする。傑達は先に天元様の所へ行ってくれ。センパイも頼んだ」

 

「夏油が居れば十分だろう。俺も残ってあの不可解な男を仕留めた方が良い。それならば確実だ。俺が援護射撃しよう」

 

「おいおい誰に言ってんだよ。俺だぞ。1人でじゅーぶんだっての!センパイもほら、行った行った」

 

「……油断するなよ悟」

 

「だから誰に言ってんだって」

 

 

 

 いつも通りの五条に少し渋っていた龍已だったのだが、夏油が腕を引いて行きましょうと声を掛けてきたので此処は五条に任せようと考え、その場を後にした。背後から呪霊が斬り裂かれる音がする。武器を使い熟す龍已だからこそ、音で判別できるが……尋常では無い切れ味の刀剣だ。恐らく刀。そんなものは持っていなかった筈と頭の中で考えた。

 

 首に巻き付いているクロが龍已の背後に顔を向けて何かを見たらしい。走って移動している龍已の顔の横で何かを示すように動いている。必死なその姿に、察した。武器庫呪霊だ。クロと同じ武器庫呪霊を飼っているのだあの男は。

 

 ならば何処にその呪霊を隠していた?呪霊な以上、龍已ならば例え4級以下の雑魚中の雑魚呪霊の気配だって見逃さない。だからあの場には居なかった。そこでふと思い出す。あの男からは呪力が一切感じられなかった。非術師でもほんの少しであろうと持っている呪力が0。天与呪縛か何かのようだ。ならば何を得たのか。

 

 対人経験が圧倒的に多い龍已の脳は答えを導き出した。呪力が無かろうと五条の背後で気配を気取られる事も無く近付き、一瞬で距離を詰めた。刹那的な時間で目にした動きは超人的な速度。龍已と同じくらいの速度だった。つまり、呪力の一切を捨てる事を強制されたことにより、超人的な肉体を手に入れたフィジカルギフテッド。だから高専の結界内を自由に移動できた。

 

 

 

「──────先輩!!」

 

「……っ!何だ、夏油」

 

「いえ、エレベーターが着いたのに降りてこないのでどうしたのかと……何かありましたか?悟の事ですか?」

 

「……いや、何でも無い。大丈夫だ、すまなかった」

 

 

 

 高専最下層。薨星宮、参道。入口からエレベーターに乗って降りた所にあるこの場所が、黒井と天内が一緒に居られる場所だ。これより先は余所者の存在を許さない。だから黒井はここから先には行けないのだ。つまり、お別れの時だ。

 

 あの伏黒について色々なことを考えている間に乗っていたエレベーターが目的の最下層に着いていたことを夏油に教えられた龍已はさっさと降りた。一緒に付いてきていた黒井はすぐに立ち止まり、涙を浮かべている。今まで一緒に過ごしてきた家族のような子が、これから同化して消える訳では無いとはいえ、もう会えなくなることが哀しいのだろう。

 

 人として当たり前のことで、呪術界に関わり、星漿体として生まれた事により、将来の成長……老衰というものを奪われた少女は、これまでも不幸な人生を送ってきた。その寂しさや哀しさを埋めてくれたのが黒井だった。

 

 

 

「理子様……私はここまでです。理子様……どうか……」

 

「黒井……黒井、大好きだよ……っ。ずっと……これからもずっと……っ」

 

「私も……っ!!大好きです……っ」

 

 

 

 泣いて抱き締め合って、別れを哀しんでいる。その光景に龍已は憐憫の感情を抱くが、天元との同化は必要不可欠。仕方ないこと。だから悪いがここで、やはり同化はしなくて良い。君は自由だとは言えない。それが夜蛾から新たに与えられたは任務だからだ。

 

 本来2人に与えられた指名式の任務。それに念の為に同行してくれと、呪詛師集団『Q』を皆殺しにした事を連絡した後に言われた。独断の任務斡旋に責任は取ると言われ、こうして一緒に居る訳なのだが、龍已、任務に忠実だ。与えられた仕事は完遂する。だから天内には天元と同化してもらう。

 

 涙を流しながら付いてくる天内を連れて、黒井から離れていった。時々後ろを振り返っている天内を見ると、流石に心苦しいが仕方ないのだ。そうしてトンネルの中を歩き続けて少し、到着した。古い建物が円状に連なり、中央に巨大な縄に巻かれた大樹が立っている空間。天元の膝下。国内主要結界の基底。薨星宮、本殿。

 

 ここまで来れば後は簡単だ。階段を降りて門を潜り、大樹の根元まで行けばいい。そこは高専を囲う結界とは別の特別な結界の内側となっており、招かれた者のみが入ることを許される。そして同化まで天元が守ってくれるのだ。そう夏油が説明した。しかし、その次の言葉に天内と龍已は驚いた。

 

 

 

「──────それか引き返して、黒井さんと一緒に家に帰ろう」

 

「………………え?」

 

「……は?夏油……お前は何を言っている」

 

「夜蛾先生から話を聞いた時、あの人は同化を抹消と言った。つまりそれだけの罪の意識を持て……という意味ですよね。脳筋のくせに回りくどい……だから理子ちゃんと会う前に話したんです。悟と2人で。星漿体が同化を拒んだ時はどうするか……と。悟はその時同化は無しと答えました。例え天元様と戦うことになったとしても……と。だから、私達は理子ちゃんがどんな選択をしようと君の未来は私達が保障するよ。私と悟は最強なんだ」

 

 

 

 龍已は目を細めたのを尻目に、天内は語り出す。星漿体として生まれた自身は周りとは違う存在で、そう言われ続けて、自身にとっては星漿体(とくべつ)が普通だった。危ないことは避けられてこの日まで生きてきた。小さな頃に両親が死んで、今では悲しくも無く、寂しくも無い。だから同化は……離れ離れになることは大丈夫だと思っていた。

 

 どれ程辛くとも、いつかそんなものは消えてしまうと。だがやはり、皆とまだまだこれからも一緒に居たい。色々な場所へ行って、色々なものを見て、色々なことを経験したい。そう泣きながら話すと、夏油は優しく手を伸ばした。

 

 

 

「帰ろう、理子ちゃん」

 

「……っ……うんっ!」

 

「……そういう訳で、見逃してくれませんか、先輩」

 

「お前達が最も恐れるのは天元様との敵対では無く、俺との交渉決裂だろう。今もそうして術式を発動させようとしているのを察知すれば嫌でも解る」

 

「……正直、先輩の理性は固く、任務に忠実なのは解っています。そして私が全力で相手をしても勝てる要素が皆無なことも。だから……お願いします。見逃して下さい」

 

「………………………はぁ」

 

 

 

 泣きながら笑って夏油の手を取った天内を背後に隠し、夏油は龍已と対峙する。問題は龍已だ。この人物ほど敵対して最悪だと思う日は無かったが、こうして敵対することになるとは夢にも思うまい。改めて夜蛾から任務を言い渡された事は知っている。だから天内が同化を拒否して、2人でそれを助けるとした場合、一番の障害は龍已だ。

 

 戦えば先ず間違いなく龍已には勝てない。相性が最悪なのだ。取り込んだ呪霊は術式による遠距離攻撃と判定されてしまい、龍已の術式反転で無効化されて問答無用で消される。階級も関係無い。領域を展開する呪霊を出したところで、龍已の領域を押し合いで制するのは無理だ。だから……夏油は深々と頭を下げた。もう頼み込むしか手段が無いからだ。

 

 腰を折って深々と頭を下げる夏油に習って、天内までも頭を下げ始めた。どう考えても悪者の構図になっていることに微妙な感覚になりながら溜め息を吐き……駆け出した。目にも止まらぬ速度で夏油達の方へ向かい、驚いて交渉決裂かと思っている夏油の背後へ周り、脚を蹴り上げた。

 

 

 

「──────シッ!!」

 

「……生身で弾丸蹴り飛ばすとか。お前もフィジカルギフテッド持ってるって言われなきゃ信憑性無いぞ」

 

 

 

 龍已が夏油達の背後に回って蹴り飛ばしたのは、拳銃から放たれた銃弾だった。夏油達は背を向けていたから解らなかったが、反対に龍已からは見えていた。気配も無く現れた伏黒は拳銃を構え、明らかに天内を狙っていた。だから射線上に躍り出て、飛んでくる弾丸を蹴り上げた。

 

 蹴られた弾丸は下からの衝撃に負けて真上へと飛んでいき、勢いが死んでいって落ちてきた。それを右手で受け止め、親指で伏黒に向けて放った。親指で弾いた筈なのに拳銃で撃ったのと同じ速度のそれは、伏黒のもう1発の弾丸によって撃たれて弾かれた。弾丸を視認する動体視力がある事と、武器の扱いに慣れていること。警戒心があり、反応速度も脅威的であることが知れた。

 

 

 

「──────ッ!?お前……悟はどうした」

 

「あ?……殺した」

 

「そうか──────死ね」

 

「待て、夏油」

 

「……何で止めるんですか」

 

「冷静になれ。お前ではあの男には勝てない。五条がやられたということは何かしらの絡繰りがあるはずだ。その点俺は対人にも慣れているし肉弾戦にも自信がある。お前は天内様を連れて地上に出ろ。同化をさせないことは仕方ないが見逃してやる。その代わりに死ぬ気で守れ。そして地上に居る五条の容態を見てこい。硝子も連れてだ。その後夜蛾先生の元で複数人で固まっていろ。俺が此処から出て来なくても気にするな。良いな」

 

「ですが……っ!!」

 

「──────行け。保障すると言ったのはお前だ。忘れたとは言うまいな」

 

「……解りました」

 

 

 

 伏黒を警戒しながら天内を連れて出口を目指す夏油。当然それを見逃すつもりも無い伏黒は拳銃を向けるが、その拳銃を横から呪力弾が撃ち抜き、伏黒の事をも狙うが身を躱された。ひらりと余裕を持って躱されたことに目を細める。視線を向けること無く避けられた。直感か何かだろうか。

 

 伏黒は『黒龍』を向けている龍已に面倒くさそうな表情をして、夏油達を狙うことをやめた。まずは龍已をどうにかしなければならないと判断したらしい。体に巻き付いている芋虫のような呪霊から、吐き出された刀を受け取ってくるりと回してゆっくりと近づいてくる伏黒に、龍已も『黒龍』を両手に持ちながら構えた。

 

 

 

「お前に問う。本当に五条を殺したのか」

 

「あー?あれは嘘だ。あぁ言っときゃ呪霊操術のガキが冷静さを欠いて突っ込んでくると思ったんだが、やっぱりお前が気付けしやがったな。五条のガキは死ぬほどの傷を負わせたが、死んじゃいねぇよ。時間が経ったら死ぬかもしれねーけど」

 

「……お前の目的は何だ。何故天内様の()()狙った。盤星教辺りに雇われて殺害を依頼されたのではないのか」

 

「殺せとは最初言われたが、殺すなら断るっつったら拉致でいいって言われたから受ける事にした。まあ、拉致って引き渡せばどうせ殺されんだし、大して変わんねーがな。脚狙ったのは動き回られちゃ困るからだ。失敗した訳だが」

 

「……殺すことが目的では無い……?」

 

「もういいか?──────少し寝てろ」

 

 

 

 律儀に投げ掛ける問いに答えた伏黒は、ゆっくりと歩いていた歩みから一転し、豪速で突っ込んできた。その速度たるや、龍已が今まで相手してきたもの達の動きの中で圧倒的に速い。踏み締めた一歩目からの最高速度を叩き出し、持っている刀を振り上げて袈裟に斬り込んできた。

 

 動きが異常に速い。だが見えるし対応出来る。両手に持つ『黒龍』の内、左手に持つ方だけを構えて受け止める。がきりと嫌な金属音を奏でて刀は止まった。それに少し驚きながら笑みを浮かべる伏黒と、目を細める龍已。刀は特級呪具で、恐ろしい程の切れ味を持つ。なのにこの黒い銃は斬れもしないし傷も付いているようには見えない。対して龍已は、片手とはいえ受け止めた時の重さに驚く。

 

 呪力による肉体の強化無しにこの重さ。骨に衝撃が響いてきた。突き抜ける衝撃は地面へ受け流したから問題は無いが、どういう膂力をしているというのか。触れて受け止められ、受け止めた瞬間に一瞬だけ思考した龍已と伏黒は更に動く。右手の『黒龍』を向けて引き金を引き、頭を狙った。それを顔を逸らすことで回避。続いて第2第3の弾丸も撃つ前から避けた。

 

 撃ち込んだのは呪力で形成した弾丸。つまり非術師にも見えない弾丸だ。それを軽々と避けた。しかも普通の弾丸の3倍近い速度で操って飛ばしているのに。恐るべき反射神経に反応速度。そしてそれに付いていく肉体。

 

 

 

「俺は生まれつき呪力が全く無い。その代わりに人間離れした身体能力と、常人より遙かに鋭い五感を手に入れた。高専の結界を通り抜けられたのは呪力を持っていない透明人間だからだ。臓物も透明な俺は体に巻き付いた武器庫呪霊をコンパクトにして飲み込んでる。そうすれば武器を携帯したまま結界の中を通ってあのガキのところまで行けるってことだ」

 

「天与呪縛によるフィジカルギフテッドは予想がついていた。情報の開示によるブースト。だがそれだけで俺に勝てると思っているのか。舐めるなよ術師殺し」

 

「なんだ、知ってたのか──────よッ!!」

 

 

 

 左手の『黒龍』に叩き付けていた刀を引いて、連撃を叩き込んでくる。一つでも当たれば致命傷に成り得る斬撃の嵐の中で、龍已は前に一歩踏み出した。両手の『黒龍』を使って受け止めて、逸らしてを繰り返しながらほぼ零距離で呪力弾を撃ち放つ。近接戦を織り交ぜた銃撃。ガンカタと呼ばれるそれは、弾が無くなれば補充する必要があるのだが、呪力による弾丸を使う龍已には必要ない。

 

 伏黒は刀で一撃一撃を全力で振っているのに、それらを完璧に受けられて、その中で呪力弾を撃ち込んでくる龍已に笑みを深くした。化け物かと心の中で愚痴る。この動きは五条の坊にすら捉えられなかったのに。しかもコイツ……どんどん近づいて来やがる。

 

 龍已の本来の近接戦の戦い方は、距離を取らない。大袈裟に回避もしない。手や脚を使って逸らしたり受け止めたりはすれど、結局行うのは只管前進と怒濤の攻撃だ。止まない攻撃で相手を追い詰め、隙が出来れば徹底的に追い込み、弱点を見つければ執拗に突く。相手が完全に死ぬまで止まらない超攻撃特化の戦闘スタイルだ。

 

 刀を振っている伏黒は拙いと直感した。強化された超人的な聴力が空気を裂きながら飛んでくるものに気が付いた。その数背後から30弱。すぐに龍已から距離を取って振り向き様に飛んでくるものに刀を振った。斬ったのは呪力弾。背後から?と一瞬考えたが、すぐに結論を出す。この呪力弾は遠隔操作が可能なのかと。

 

 幾何学的軌跡を描きながら飛来する呪力弾を弾きながら、突っ込んで来る本体。手数が多すぎる。近接戦をしながら呪力弾を撃ち、避ければ飛び回って面倒な位置から飛んでくる。一振りで7つの呪力弾を斬り裂いた伏黒は、こちらに銃口を向ける龍已に嫌な予感を感じ、すぐにその場から跳び引いた。瞬間、『黒龍』の銃口から蒼黒い光線が放たれ、壁に綺麗な孔を開けた。受ければ呪具ごと孔が出来ていた事にヒヤリとしたものを感じながら、問題ないと判断する。

 

 

 

「──────『黑ノ神』起動」

 

「──────ッ!?ッぶね……ッ!!」

 

 

 

 だが、問題なかったのはここまでだ。龍已の首に巻き付いた武器庫呪霊のクロが、何かを吐き出した。しかし目には見えない。何を吐き出した?と少し考えた時、伏黒は顔を横に逸らした。顔の真横を蒼黒い光線が通り過ぎていく。完全に回避することは叶わず、横側の髪が少しが消滅し、頬に一条の傷を作った。赤い血が流れて負傷した事を気付かせる。

 

 何も無いところから呪力の光線が飛んできた。匂いも無いし音も無い。風の乱れも感じない。本当に何も無い虚空から放たれた呪力。どんな絡繰りだというのか。しかし考えている暇は無い。その一撃貰うだけでも簡単に死ぬ光線が同時6カ所から放たれるのだ。少々無理がある体勢で避けたのは良いが、やはりというべきか、龍已本人も突っ込んできた。

 

 見えない感じられないモノから飛んでくる絶死の光線6つと、零距離を敢えて作り出して近接戦を仕掛けてくる龍已。そして両手の『黒龍』から放たれる呪力弾は遠隔操作で空間を自由自在に飛び交い、死角から向かってくる。怒濤の攻撃が目まぐるしくやって来る。これでは何時か必ずボロが出て被弾して死ぬ。()()()無かった手札。まだまだありそうだと思う中で、一か八か形勢逆転のための一手を取る。

 

 一度その場から距離を取り、体に巻き付いた武器庫呪霊から杭のようなものを吐き出させ、光線やら呪力弾を避けながら地面に突き刺した。その瞬間、伏黒へ向けられた光線や呪力弾が消滅した。目を細める龍已に、伏黒は肩を回して体の調子を確かめ、武器庫呪霊から短剣と鎖を吐き出させた。

 

 

 

「使い切りタイプだが、一定時間遠距離の攻撃を無効化する結界だ。俺からはお前に飛ばせるが──────なッ!!」

 

 

 

 ──────短剣に鎖を取り付けて振り回し、遠心力による加速を与える。避けられない程のものではないが、術式反転で止めるか。それで俺には遠距離が効かないという情報を敢えて開示し、思考的に追い込む。直前で発動してあの男が驚いたとしても、パフォーマンスに変わりは無い。ならばここで晒してしまおう。俺が無駄に考える事も減る。

 

 

 

 龍已は術式反転を使用して、鎖に繋がれた短剣を受け止めることにした。伏黒が近くから暗器などを飛ばしてくる可能性があり、それを直前で止めたとしても、驚きで硬直することは有り得ないと判断した。恐らく対人戦が殆どだと推測される伏黒にとって、遠距離が効かないという相手はこれまでにも居たはずだ。

 

 そして一方で面倒な遠距離攻撃を仕掛けてくる奴が居たから、今のように対策を取れる呪具を持っているのだろう。遠距離攻撃を無効化する結界を張る呪具はその性能から長時間の使用が出来ないという事は解っている。それもあくまで遠距離なので、近づいてしまえば作用しない。自身の術式反転と同じようなものだ。

 

 大凡人に飛ばされたとは思えない速度で飛んでくる短剣に、体の力を抜く。止まると解っている以上、全力で構える必要なんて無いのだから。

 

 

 

「──────本当にそうなのかな?」

 

「──────ッ!?お、お前……虎徹か……?」

 

 

 

 何時の間にか、親友の一人である天切虎徹が龍已の前に居た。最近会えていない親友だが、相も変わらず女にしか見えないその容姿は時価数億はいく絵画の女性像よりも美しい。そんな虎徹は、見慣れた天切家の龍已の部屋で、ベッドに腰掛けながら脚を組んでこちらを見ていた。

 

 ラフな格好は目に毒だろう。しかし見慣れているし男だと解っている龍已にとっては何時もの光景。だが可笑しい。先程までフィジカルギフテッドを持つ伏黒と凌ぎを削っていた筈だ。なのに何故こんなところに居るのか。訳も解らず困惑している龍已に、虎徹は手に持つティーカップに口をつけて紅茶を嗜み、ゆっくりと語り掛ける。

 

 

 

「龍已の術式反転は脅威だよね。君は恐ろしい威力の遠距離攻撃を可能とするのに、君には遠距離攻撃が効かないんだもん。けどさ──────ちょっと天狗になっていないかな?」

 

「──────ッ!!」

 

()()()()()()()()()って思ってたよね?本当に?絶対?君がこの世に絶対は無いって言ったんだよね?2人で最強の五条君とか夏油君が龍已に負けたように、最強に思える龍已も死にかけたよね?相手は恐らくその道のプロだよ?君の情報くらい集めてると思うけどなぁ」

 

「だが……もう術式反転は発動している。あの呪具が俺に届くとは……」

 

「僕は呪具を造り出す呪具師。それもこの世で一番の腕を持つ……ね。そんな僕は君よりも呪具について詳しい。だから教えてあげる。呪具の中には、相手の術式を解除するっていう呪具が在るんだよ。確か昔君には教えたね?名前は何だったかな?」

 

 

 

 

 

「──────────天逆鉾(あまのさかほこ)

 

 

 

 

 

※この間0.001秒

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────黒圓無躰流・『刈剃(かいそ)』」

 

「……チッ」

 

 

 

 飛来する短剣は、確かに発動している筈の術式反転『虚儚斯譃淵』の領域をものともせずに貫通した。そして短剣が触れた瞬間に約4メートルの不可侵領域そのものが解除された。恐らく飛来した短剣は天逆鉾で間違いないだろう。発動中の術式を強制解除するという世にも珍しい術式を持った特級呪具。迎撃態勢を整えていなければ体に突き刺さっていた。

 

 右脚を使って右下から左上への最短最速の蹴りが放たれ、天逆鉾が龍已に辿り着く前に上へと弾いた。伏黒は舌打ちをする。高確率で獲れる一手だと思ったのだ。調べ尽くした情報の中に、龍已は反転術式を使えて術式反転も会得したと書かれていた。しかもそれは遠距離からの害有るもの全てを阻む不可侵領域の展開だということも。だから遠距離は効かない状態に慣れている今ならば、やれると思ったのだ。

 

 どういう訳か体の力を抜いて待ちの姿勢に入っていた筈なのに、突然迎撃態勢を整えた。今の一瞬に何があったのかは解らないが、防がれたものは仕方ない。弾かれた天逆鉾は鎖ごと寄せて振り回す。先端が捉えられない速度に達して空気を切り裂いている音が鳴る。そして、龍已は伏黒に向けて駆け出した。

 

 鎖を巧みに操って天逆鉾を嗾ける。当たれば腕は確実に持っていく力を持ったそれは、最小限の動きで躱され、避けられた天逆鉾は地面を大きく抉って砂煙を上げた。拙いと直感する。巻き上がってしまった砂煙を使って姿を眩ませられた。ならば気配でと意識を集中するが、何も感じない。呪力すらも断ち切って紛れやがった。何処へ行ったか探すフリをして、手の中に戻した天逆鉾を背後に突き刺した。

 

 来るならば背後。音もした。それ故の振り向き様の一撃。しかしそれは空振りに終わった。少し変な足音だと思ったその正体は、脱ぎ捨てられた靴が一足置いてあっただけだ。本体は……真っ正面からやって来ていた。急いで振り返った伏黒は驚異的な肉体の動きで間に合いはしたが、龍已は別に斬り付けた訳でも何でも無い。一つの『黒龍』はホルスターに納め、もう一つは口に咥えている。空いた両手は……掌印を結んでいた。

 

 

 

「領域展開──────『殲葬廻怨黑域(せんそうかいおんこくいき)』」

 

「バカが──────領域も術式だッ!!」

 

 

 

 世界を純黒に染め上げて呑み込む領域が展開される。最高練度のそれは、術式も呪力も持たない人間である伏黒にとって最悪の事態。抵抗も何も出来ずに、殺される瞬間を待つしかない地獄の空間。内側からは出ることが不可能の理不尽。しかし、手に持つ天逆鉾が伏黒を救い出す。

 

 呑み込まれようとする瞬間、異質な呪力を帯びる天逆鉾が龍已の領域すらも強制解除してみせた。発動している術式ならば問答無用で解除する天逆鉾には、あの領域でさえ抗えなかった。そして罅が入って瞬く間に破壊される領域。純黒の世界から彩りを取り戻した世界に解き放たれた超人の肉体は、正確に龍已の体を刺し貫く()()()()

 

 足下の地面が砕けて足の裏から甲まで何かが貫通してきた。痛みに我に返りながら思うのは、飛び交う呪力の弾丸。だがおかしい。そんなことは有り得ない筈だ。

 

 脚を突き抜けてきた呪力弾は意志を持つように伏黒の両脚を出たり入ったりを繰り返して貫通を何度も行い、幾つもの風穴を開けた。如何に超人と言えども動くための筋肉を断たれれば跳躍すらも出来ない。その場から動くことが出来なくなった伏黒の、天逆鉾を持つ腕は速度を落とさざるを得ず、天逆鉾を持つ手の手首を取られ、捻られ、空中へと投げられた。

 

 

 

「黒圓無躰流──────『飜礙(はんがい)』」

 

 

 

 手首を取られ、捻られたことで天逆鉾を取り溢した。ずきりとした痛みが奔って顔を顰める間に、今度は腕を取られて関節を極められながら空中へと投げられた。その際に腕からはばきごきと鈍い音が何度も鳴り、数箇所に於いて骨を折られたことを悟らされた。痛みが尋常ではなかったが、空中に投げられた伏黒は体を捻って体勢を整える。

 

 しかしそれは悪手だった。大凡の落下地点に移動し終えている龍已が脚を大きく開き、右拳を引いて構えていた。狙った通りの場所へ落ちてくる伏黒。折られたのは右腕だ。脚は使い物にならないが、まだ左腕がある。武器庫呪霊の口から伸びている、もう一方を観測されない限り際限なく伸び続ける特級呪具の鎖を握り、操って天逆鉾を龍已の背後へ向けた。

 

 落ちて最適の落下地点に到達するよりも先に、天逆鉾が到達した。背中から不思議な形をした刃が肉を突き破り、胸から貫通した刃が出て来た。大量の血が噴き出るも、龍已の顔に苦渋の色は見えず。肉を斬らせて骨を断つ。どんな攻撃をされても受け止める覚悟は決めていた。

 

 

 

「黒圓無躰流──────『鏖砲(おうほう)』」

 

 

 

 晒された左脇腹に拳が突き刺さった。触れられた瞬間に解る、解ってしまうこの殴打の強力さ。手加減した一撃にも拘わらず、伏黒の脇腹は大きく抉れ飛んだ。そして訪れる第二撃目が体の中に衝撃を張り巡らせていく。全身の内側からやってくる痛みそのものに意識が飛びかける。

 

 殴打の威力で後方へと吹き飛ばされていき、壁に激突して止まった。砕けた壁の一部が、叩き付けられた後に床に落ちて背を預けている血塗れの伏黒に降り注ぐ。ぱらぱらと壁の破片が鏤められているのを、他人のような感覚で味わっている。切れた額から流れる血が目に入ってレッドアウトした視界の中で、龍已が此方に向かって歩いてくる。

 

 背中に突き刺さった天逆鉾を無理矢理引き抜き、血が噴き出るも掛けられた反転術式によって瞬く間に完治。傷一つ無い状態となった。体の前面は今更どうこう言う程の綺麗さは無く、古傷だらけなのだが、背中の傷は一つも無かった。

 

 

 

「…っ……げほ」

 

「反転術式がある以上首を斬り落とすか、この天逆鉾で頭を刺すかしか俺を止めることは出来ない。つまりお前は、最初から俺を気絶させるのが目的だったのだな。名は何だ」

 

「は、はは……げほッげほッ……殺すとは……考えなかったのかよ。……伏黒、甚爾だ」

 

「伏黒甚爾……。お前の攻撃に殺意が無かった。……どうしても解らん。教えろ。お前は最初、天内様のことを拉致するつもりだと言ったな。殺せと言われたものを拒否する程、殺すことに抵抗した。殺した方が格段に楽な筈なのにも拘わらずだ。それだけの強さがあって殺しはしない。ならば何故こんな事をしている」

 

「……金が……いる。嫁が目を覚まさねぇ……その治療にクソみてぇな金が掛かる。だからこの仕事をしてた。そもそもこの仕事は報酬が3000万だ。最先端技術を使って集中治療室にも入れてる。だから金がいる……それにガキも2人居る。こんな仕事してっから殆ど会ってねぇが……な。本来……嫁はもう死んでてもおかしくねぇ」

 

「……病気か。持ち直したのか」

 

「いいや……知らねぇガキが一度術式か何か使って嫁を治した。……が、再発した」

 

「人を殺さないのはお前の妻への後ろめたさか」

 

「……違ェ。俺の仕事のことは知ってる……だから殺す必要が無ければ殺すなと言われた。それを……俺は律儀に呪いとして守ってんだ。笑うぜ」

 

「……俺は笑わん。良い妻だろう。お前のことを思い呪いを掛けている。結局、お前は人を殺した事が無いのだな」

 

「昔は殺したが……嫁に会ってからは……殺してねぇ……これからも……無闇には……殺……さ………ねぇ……………」

 

 

 

「──────その言葉、違えるなよ」

 

 

 

 出血多量で意識が朦朧としていく中、伏黒が見たのはこちらへ手を伸ばす龍已の姿だった。あぁ、これでお終いか。この仕事をやれば大金が手に入り、嫁の治療に当てる事が出来ると思ったが、ここで自身は死ぬ。

 

 五条の坊の対策は立てて、実際に戦闘不能にしてやった。呪霊操術のガキの対策は攻めるだけのゴリ押しで十分だった。だがコイツの対策は面倒だった。金が掛かる呪具を買い取って遠距離を無効にしながら天逆鉾を使って術式を強制解除し、腕や脚を刺して動きを一時的に封じた後に気絶させて終わりにするつもりだった。だが無理だった。

 

 情報に無かった呪力弾の遠隔操作。見えないナニカ。黒圓無躰流という格闘術。遠距離攻撃の多さに加えて本人が突っ込んでくる厄介性。しかもフィジカルギフテッドを持っている自身と同等以上の肉体。そして領域展開の修得に反転術式。無理だと解った仕事は引き受けないし、逃げるべきだと思った場面では即逃げる自身が、何故ここまで立ち向かったのか。

 

 解らないが、コイツとは戦って勝ちたいと……勝たないといけないと思った。思わされた。まあその結果がこれなのだが、仕方ないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 伏黒甚爾。呪力から解放された新たな肉体を持つ超人。その意識は黒い黒い暗闇の中へと引き摺り込まれていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






黒圓無躰流・『飜礙(はんがい)

背負い投げをしながら関節を決めた腕の骨を上腕から前腕に掛けて砕く技。空中へ投げるか、地面に叩き付けるかは投げた側次第。



黒圓無躰流・『鏖砲(おうほう)

超一点集中で打ち込んだ衝撃を突き抜けさせる、鎧通しの技。防御は不可能。防御すれば腕を千切り、突き抜けた衝撃が離れた体をも貫く。その後、通り抜けた衝撃の余波が訪れて第二撃目が打ち込まれる。馬鹿みたいに威力が高い呪力無し逕庭拳みたいなもの。ただし、一撃目の時点で体に大穴が空いて、二撃目で体は消し飛ぶ。

会得して使い熟した者は、初代と龍已しかいない。




五条

自信満々に行かせたのに、伏黒甚爾にボコられた。腕と脚を滅多刺しにされ、腹も何度も刺されて死にかけている。おっと、プラスのエネルギーの気配が……。




夏油

天内を逃がすことを決めるが、一番デカい壁が龍已であることを解っていて、いやこれクソゲー……と普通に絶望してた。まあ許してくれたけど!

家入に事情を説明して来てもらったら、龍已置いて行った事にキレられた。




家入

寮に居たら焦った夏油から電話が掛かってきて現場へ急行。血塗れの五条を見つけるも……あれ?となる。

先輩置いて行った?……どんな事情があれ夏油、お前のその前髪後でちょん切るからな。

この子が天元様と同化する子?え、同化は無し?へぇ、ウケる。




黒井&天内

同化が無くなったことによって抱き締め合って再開を喜んだが、置いてきてしまった龍已が心配している。と、思ったら血塗れの五条を発見。普通にヤベェ……。




龍已

天内様の同化は無し?は??????????????

呪力が無いのにバカみたいな速度で走る伏黒甚爾に普通に驚いた。

解ると思うけど本気では無い。本気だったら視界いっぱいの呪力弾をぶち込むし、武器庫呪霊最初に狙う。んで領域展開で終わり。


昔は殺しても、嫁が出来てからは殺してないと……ふーん?




伏黒甚爾

呪力から解放された、謂わば新たなステージに入り込んだ唯一の人間。フィジカルギフテッドのフィジカルゴリラ。なのに同等以上の肉体持つ龍已が居て、は?ってなった。

まさかここまでとは思わなかった。嫁は今のところ生きてるし、子供が居るのは覚えている。名前は偶に忘れる。

稼いだ金を増やそうと、お馬さんを見に行って泣きたくなったのは記憶に新しい。だからクズなんだっつーの!




領域展開後に術式使用

公式曰く、領域展開をした後は肉体に刻まれた術式が焼き切れて、術式の使用が困難になるとのこと。困難。困難ですってよ奥さん!無理じゃ無いんですって!まーお買い得っ。



明らかな弱点、龍已パイセンがそのまんまにすると思ってんの?(煽り)



毎日領域展開してる人が耐性とか……焼き切れない加減とか……身に付けないとでも??(煽り×2)




作者

え、戦闘これでいい?大丈夫?幻滅しない?してもいいけど。

あ、誤字報告ありがとうございます!

昨日ゴールデンカムイの2期見てて、尾形テメェ!!良いのは声と射撃センスだけだなマジで!!ってなってた人。







????

ん?ちょっと練習がてらやってみっか……ん?お姉さん伏黒?は?



…………………ふぅ……知ーらね。



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