呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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高評価をして下さった、ガンマニア 我蛙 nekomamu コセイ とりーむ


さんの皆さん、ありがとうございます!





第三十二話  改道

 

 

 

 

「──────……っ………あ?」

 

 

 

 伏黒甚爾は目を覚ました。瞼を開けて視界に広がるのは満開のお花畑……ではなく、真っ赤な血の池……という訳でも無く、知らない天井が広がっていた。人間離れした嗅覚が薬品の匂いを嗅ぎ分け、聴覚が人の動いた時に出る布擦れの音が聞こえてくる。

 

 隠れるつもりが無いようで、カーテンに仕切られたこの場所の外側に誰か居るのが気配でも解る。その気配には覚えがある。アイツだ。天与呪縛でフィジカルギフテッドを獲得した自身を良いようにボコボコにしたあの終始無表情のガキ。あれがすぐそこに居る。いや、そもそも何故自身は生きている。

 

 上半身を起き上がらせ、右手で何気なく頭を掻いた伏黒はハッとした。確か右腕の骨は何カ所も砕かれた筈。本来は動かせば激痛が奔る。腕を持ち上げて振ってみても痛みは無い。形も変形している訳でも無い。折られる前のものそのものだ。

 

 脚も痛みが無い。呪力弾が入っては抜けてを繰り返して穴だらけになって動かせなくなった自身の脚。体に被せてあったシーツを取って見てみると、脚も無傷だ。左脇腹は殴打で穴を開けられた。だが穴なんてものはどこにも開いていない。どうなっているのか。そう思案した時にカーテンが開かれ、無表情の男が入ってくる。龍已だ。

 

 

 

「目が覚めたか。体に違和感はあるか」

 

「ねぇよ。……なんで殺さなかった」

 

()()だ。殺される心配が無い等と自惚れるなよ。お前の命は俺の掌の上だ。不用意に動けば即殺す。それでも今生かしているのは、お前にやってもらいたい事があるのと、お前を深く知らないからだ」

 

「……とりあえず、何をやらせるつもりだ?」

 

「盤星教が邪魔だ。天内様を見つけ出し、引き渡された後に殺すだろうというのはお前の言葉だった。だから影武者を殺したように見せ掛けて依頼者に渡せ。その現場を映像に残すなりして押さえる」

 

「星漿体の顔は割れてんだぞ。どうするつもりだ」

 

「呪具を使って変装する。俺が」

 

「……彼奴らもカワイソウなもんだなァ。興味ねぇけど」

 

 

 

 医務室だろうベッドから立ち上がった伏黒に警戒することも無く背を向けて部屋を出ようとする龍已。その背中を見て、隙がねぇなと思う。真後ろに立っているのに動きの一つ一つが勘付かれている。まるで全身を全方位から監視されているかのようだ。まあ、それでも生きているだけ御の字だろう。どんな理由があろうとも。

 

 先に出ていった龍已に続いて、何の縛りも無しに自由にするとは、流石に無用心じゃねーか?と、気配で監視されている状況でも思うところがある。ここで裏切ったらどうするつもりなんだと、龍已の手の甘さに微妙な感情を抱きながら首の後ろを掻いた。そして手に何かが触れた。

 

 固い感触だ。金属のような何かが首を一周して付けられている。繋ぎ目は無い。一通り触れてみたが外せそうにないそれは、首輪のように感じた。寝ている間に襲撃してきた奴の首に巻かれた怪しいもの。十中八九普通のものではないだろう。察するに、何かしらの裏切るような動きをしたりすれば、即殺す為の呪具だ。甘い監視なんかじゃ無い。言葉通り、伏黒甚爾の命は龍已の掌の上だ。

 

 可愛げがねぇガキだと溜め息を溢しながら、医務室から出て行く。すると扉を開けてすぐに見たことある顔があった。天内理子だ。星漿体のガキがなんの護衛も無くこんな所に居やがる。……と、思ったが、よくよく気配を探れば龍已のものだった。全く気が付かなかった。

 

 

 

「変装をすると言った筈だぞ。お前は俺の話を聞いていたのか」

 

「……フツーは驚くだろ。どうなってんだそれ」

 

「信用なんぞしていないお前に教える必要は無い。その首に付けられた呪具が良い証拠だ。仮に俺の言葉に沿う行動をしなかったり、逃げだそうとする行動や考えを俺が察知したら起動させる。どうなるかは……言わんでも解るだろう」

 

「……俺はお前を依頼人の所に連れてきゃいいんだろ。あれからどんくらい経った」

 

「1時間程度だ。それと、言っておくが俺の心臓が止まってもその首輪は発動する。お前は、お前が死んだ()()()()()良く考えて行動しろ。良いな」

 

「……鎖に繋がれた野良の狂犬か何かか」

 

「全く以てその通りだな」

 

「……ケッ。わーったよ。時間が惜しいんだろ、さっさと行こうぜ」

 

 

 

 無表情の天内が淡々と話すのは不気味だ。あれだけ元気が溌剌としている少女が一変して無表情で妻や子供の事を盾に脅しているともなれば驚くだろうし、天内のことを知っている五条達が見ても爆笑するだけだろう。

 

 龍已は腕を回して元の姿との差異を確かめながら歩き出す。伏黒もその後を付いていく。此処は高専の結界内。伏黒は呪力が0の透明人間なのでアラームは鳴らない。そして歩いていくと、伏黒と五条が戦っていた所にやって来る。『蒼』で抉れた地面に破壊された建物。殺してはいなかったが、放っておけば死ぬほどの傷なのは確かだ。

 

 しかしその事に触れないということは生きているのだろう。自身の傷を跡形も無く消した手を使ったりしたのだろう。取り敢えず考えることはやめて、伏黒は天内の姿をした龍已から自身の携帯を受け取って電話を掛ける。勢い余って殺したが、天内理子を手に入れた……と。

 

 落ち合う場所は決めている。龍已もどこかへメールを送っているようで、伏黒から聞いた依頼人との合流場所を聞いて、その場所をメールに書いて送った。嘘を吐けば死ぬので真実しか話していない。そしてこのまま天内理子……の姿をした龍已を渡せば怪しまれるなと思っていれば、龍已は首に巻き付いたクロからナイフを受け取って頭を斬った。

 

 血が流れていく。傷自体は軽傷だが、見た目は重傷者みたいだ。まさか自分で傷を負うとは……と見ていたが、コイツなら普通にやるだろうなとも納得した。予め傷を作って血を流しておく事で、それっぽく見せるのだ。

 

 高専の敷地から出てタクシーを拾って向かう。最初血塗れの少女と堅気には見えない男が乗ってきてギョッとしていて警察に電話をしようとした運転手だが、他でも無い血塗れの少女の姿をした龍已に脅されて走り出した。向かうのは盤星教、星の子の家だ。場所に着けば龍已が金を払って伏黒と降り、建物の陰に隠れる。

 

 そこで龍已はクロから、伏黒が使っていた武器庫呪霊を吐き出させた。龍已が捕まえて無理矢理呑み込ませたのだ。勿論天逆鉾は没収しているので首輪は外れない。伏黒の武器庫呪霊に態と呑み込まれ、伏黒は落ち合う場所へ武器庫呪霊を体に巻き付けながら向かった。多分息できないだろうから、少し早足で。

 

 

 

「──────おらよ。星漿体、天内理子の五体フルセットだ。殺しちまってから少ししか経ってねーからホカホカだぜ」

 

「フム……確かに。金の受け渡しは手筈通りに。多少色も付けよう」

 

 

 

 死んでいないとも知らず、袋に天内の姿をした龍已を詰めていく盤星教の代表役員、園田茂に伏黒はあーあと思う。どうせこの現場も録画されてるか録音されてるんだろうなと察する。どうせ自身にはどうすることも出来ないが、解体が確定した盤星教に心の中でご愁傷様と言っておく。

 

 園田は駄目元で依頼した天内の奪還が殺されて持ってこられた事に気を良くしたのか、要らない情報をベラベラと喋る。曰く、盤星教は奈良時代に天元が日本仏教の広がりと共に術師というマイノリティに対する道徳基盤を説いたのが始まりだとされているらしい。そして星漿体は穢れであると認識しており、500年に一度の同化は禁忌とされているらしい。

 

 同化を阻止して天元が暴走してしまい、人間社会がめちゃくちゃになったのだとしても、星と共に堕ちるというのならば已む無しとまで言い切った。頭が可笑しいんだろうなと察してやって、自分はこのあとどうするか適当に考える。取り敢えず表通りに出るかと考えて、受け渡しをした地下から出て行った。

 

 伏黒が出て行って少しした頃、現場には五条と夏油がやって来ていた。伏黒の事は自身に任せろと言われたので、五条は少しごねたが任せ、その代わりに助けに来てくれと言われた。来る前に龍已がメールをしていたのは五条と夏油で、場所を報せていたのだ。

 

 表から堂々と入っていき、下への階段を降りて扉を開けると、血塗れの天内の姿をした龍已が床に寝かされ、それを盤星教の信者達が満面の笑みで拍手をし、喜びを噛み締めている。これがもし、本当に天内の死体だったらと考えると、同じ光景だったらと思うと、五条と夏油はこの場に居る全員を殺してしまいたくなった。

 

 五条は反転術式を会得していた。殺されてはいないが、死にかけた事により龍已と同様呪力の核心を掴み、反転術式を覚えて自力で傷を治した。それからは何故か頭がハイになっていて、全てが自分を中心に回っているのだと錯覚している。

 

 

 

「傑。コイツらこの場で殺すか?今なら、多分何も感じない」

 

「……気持ちは解るが先輩の前だ、やめておいた方が良い。それにそもそも意味が無い。此処に居るのは一般教徒しかいない。呪術界(こちら)を知る主犯はすぐに逃げただろう。まあ依頼人はもう逃げられないが。それにもう言い逃れは出来ない。元々問題のあった団体に最後のトドメを刺したんだ。すぐに解体される。先輩のお陰だ。……もう帰ろう」

 

「……そうだな」

 

 

 

 五条が寝そべっている龍已を抱いてその場を後にし、夏油もその後に続く。意味は無いとは言ったが、意味が無くてもアレは殺しても良いと思った。殺してしまいたいとも思った。だが非術師だ。術師は非術師を守るために居る。そう心の中で唱え続けて心を落ち着かせている夏油に、五条と龍已は気が付かなかった。

 

 星の子の家から出て来た五条達は、高専の車の中に乗り込んだ。3人が乗ってドアを閉めると、五条の腕の中でぐったりとしていた天内の姿をした龍已がパチリと目を開けて体を起こした。死体の真似はもう終わりだ。必要が無くなったので演技はやめて普通に椅子に座る。無表情で大人しい天内が気味が悪いと思ったのは仕方ないだろう。

 

 

 

「その姿のセンパイについて笑いたいところだけど、それよりもアイツはどうした?」

 

「先輩の話だと此処に来るということですが、本当ですか?襲撃して悟を殺しかけた奴ですよ」

 

「車の特徴は伝えてある。来なければ死ぬだけだ。必ず来るだろう……噂をすれば」

 

「──────よォ。五条の坊と呪霊操術のガキにご主人サマ。ちゃんと来たから首輪発動させんなよ」

 

「……変な動きをしたら、私がお前を殺してやる」

 

「へーへー」

 

「オッサン。俺と後でやり合おうぜ。今ならオマエを簡単にぶちのめせる」

 

「俺みたいな猿に負けた奴が吠えるじゃねーか」

 

「あ゙?」

 

「……喧しい。今は高専に戻ることを考えろ。五条も夏油も、全て抑えろとは言わんが、まだ他にやることがあるだろう」

 

 

 

 天内の少女漫画らしい声で叱った龍已に威厳はあまり見られないが、無表情と記憶にある本来の龍已の姿を思い浮かべて大人しくなった3人。普通に今の状況は面倒くさい事になっている。天内は同化をしないということになっているし、襲撃してきた伏黒は生きていてこうして一緒に居る。

 

 これで怒られるのは、伏黒を除いてこの中で一番年上な龍已である。こんな事が無いように同じに任務を与えられたというのに、結局龍已は五条達を止めることが出来ず、襲撃者も保険は掛けているとはいえ野放しにしている。はぁ……と溜め息を吐きながら、服の中に隠れていたクロに伏黒の武器庫呪霊を呑み込ませるのだった。

 

 そうしてその後、高専に戻った龍已はまず、伏黒を呪符の貼られた部屋に連れて行って手脚を縛って拘束し、少しの間待っているように伝えた。怠そうにしながらはいはいと返事をする伏黒を確認し、今度は天内と黒井を国外へ逃がす算段を立てる。

 

 天内は星漿体であり、同化は今日の満月に行われる。だが天内はこの日本から脱出させ、同化させようにも、どうしようも無くさせる。それ以外にも天内を狙おうとしている輩が居た場合も考えて逃げさせる。この世に絶対は無い。どこかで天内が生きているということを知られる事もあるだろう。なのでほとぼりが冷めるまで、天内と黒井には国外でバカンスでもしてもらわなくてはならない。

 

 生きていたことを知られれば、恐らく殺される。例え同化する意志が無いとしても、星漿体であるというだけで狙おうとする者は出て来るだろう。それ故に龍已は、携帯で国外行きの飛行機を頼む。行くならすぐの方が良い。結局夏油は夜蛾の所へ行っていないので、まだ天内が天元の所へ行っていないという情報は渡っていない。

 

 伏黒が五条との戦闘で気を引くために蠅頭をばら撒いた事によると処理で、その時の高専はてんやわんやだったが、伏黒が目を覚ますときにはもう処理は終わっていた。だがその後の報告だったりで夜蛾は忙しいので今のところは大丈夫だ。後で、実は天内を海外へ送っちゃいましたーと言ってネタばらしするのだ。知っても後の祭り状態にする。

 

 

 

「本当に……何もかもありがとうございました。このご恩は忘れません」

 

「……ありがとう、五条。夏油。黒圓。家入。お前達のことは忘れないから。また、日本に帰ってきた時には皆で遊ぼう!」

 

「私は理子ちゃん達を送り届けるから、まださよならではないけどね」

 

「はは。本当に逃がすんだ、ウケる。んじゃ、ばいばーい。怪我すんなよー」

 

「じゃーな天内、黒井さん。金使い果たすなよ」

 

「天内様。黒井さん。御達者で。また会える日を楽しみにしています。それと後輩の七海と灰原もお二人の為に動いてくれていたので、覚えておいてあげて下さい」

 

「解りました。ご挨拶が出来なくて残念ですが、その時になったら訪ねるとお伝え下さい」

 

「1回話したから大丈夫!……ばいばい、皆!!」

 

 

 

 元気に話した天内と黒井は目の端に涙を貯めながら手を振って高専の車に乗り込んだ。もうさっさと行かなければならないので、別れの挨拶は短くなってしまう。だが今生の別れという訳では無い。今の日本は天内達にとって危険地帯だから、安全になるまで海外に逃げていてもらうだけだ。

 

 金については問題ない。逃がすという手を取らせた五条と夏油が責任を持って工面する。勿論、龍已も乗っているので出すが、9割は2人が払う。飛行機代と海外で生活するための生活費、その全てを。まあ特級でありながら次期五条家の当主となる五条にはそんな金はポンと出せるし、特に金の使い道が無かった夏油も貯金があるので軽く出した。

 

 普通に総額が億に達しているのに天内と黒井がビックリしていて受け取れないと辞退していたが、受け取らないなら金は出さないとまで言われて逆に脅されたので、渋々受け取っていた。因みに、龍已は行き先をハワイに設定していた。色々と苦労があっただろうから、楽しんで来いという意味でだ。

 

 それと、龍已の携帯には天内と黒井の電話番号とメールアドレスが追加されている。全員交換していたのだが、龍已だけまだ交換していなかったので、自身のものなんて別に必要ないのでは?と口にした瞬間毟り取られて入れられた。この一言で定期的にメールや電話が2人から来ることを今はまだ知らない。どんだけ感謝されてると思ってんだ。

 

 普通の女の子らしい喋り方に戻って別れの挨拶をして、車に乗り込み、夏油も一緒になって付いていった。最初は五条が行こうとしたのだが、黒井を拉致られたことを思い出して、今度はしっかり守るからと手を上げたのが夏油だった。なので護衛は夏油に任せた。

 

 さて、と龍已は気持ちを入れ替える。残る問題を片付けなくてはならないが、返答次第によっては死体が生まれることになる。ある伝手で手に入れた情報を携帯で見ながら、伏黒の居る部屋へと向かった。

 

 

 

「──────さて、旧名禪院(ぜんいん)甚爾。改め伏黒甚爾。お前にはもう少し聞きたいことがある。その答えによって未来が変わる。心して答えろ。ただし嘘偽りの答えはやめておいた方が良い」

 

「……分かった。そもそもお前相手に嘘なんざつかねーよ。まだ命は惜しいんでな」

 

 

 

 旧名禪院甚爾。婿入りをしたことによって伏黒と名前を変えたこの男は、元々呪術家系からの出だった。しかも禪院家というのは呪術界に於いて御三家に名を連ねる名家である。しかしこの御三家の中でも血筋を最も重要視していて、相伝の術式を持っていて当たり前。持っていなければ軽蔑され、術式そのものを持っていなかったり、呪力量が少ないと人間とすら見てもらえない。

 

 禪院家に非ずんば呪術師に非ず、呪術師に非ずんば人に非ず。相応しい人間以外は人として見ない。そんな厳しい言葉を掲げる禪院家に生まれた伏黒への扱いは、相当酷いものであった。

 

 今でこそあの五条を戦闘不能にさせる程の力を持つ伏黒は、フィジカルギフテッドを与えられても、術式はおろか呪力が全く無く、その身一つでは4級以下の呪霊である蠅頭すらも祓うことは出来ない。そうくれば禪院家で虐めが起きるのは当然のことで、意味も無く暴力を振るわれ、無視され、本人に聞こえるような陰口を言われる。やることも掃除や洗濯と雑用も良いところ。だから自分の意志で禪院家を出た。

 

 行く宛ての無い伏黒はまだ仕事も見つけていなかったので、町などで知り合った女性と肉体関係を作り、家に居座ったりして金を貰い、パチンコや競馬などに行って貰った金を擦り、偶に知り合った仕事を仲介する人間から仕事を貰い、人殺しをして稼いだりしていた。

 

 周りから猿だ猿だと言われていた伏黒は、特に目的も無いままその日その日を生き続けた。だがある日、今の妻である、暁美(あけみ)と出会い、猿と言われ続けた自身を肯定してもらい、恋愛関係になって結婚までした。子供も生まれて家族らしい構図となった時、体がそこまで強くない暁美が病床に倒れて死の淵を彷徨った。

 

 一時は死ぬ寸前まで行ったものの、何処の誰かも解らない子供が何かしらの術式を行使して一命を取り留め、元の元気な姿を見せてくれた。しかし少し経ったらまた病気が再発し、病院のベッドに戻る結果となった。今度は術式を使った子供が居ないので、死なせるわけにはいかないと集中治療室に入れていた。

 

 だが金が掛かる。集中治療室で最先端技術による治療ともなれば、毎日毎日金が掛かってくる。諸事情で(お馬さんを見て)金が無くなった甚爾は暁美を死なせないために仕事を受け続けた。そこまで高い報酬が有るわけでもないのでギリギリで……だから自身の子供にすら殆ど会っていない。

 

 しかも昔に肉体関係にあった女が病んでしまい、甚爾の元へ自身の子供を置いて消えてしまった。謀らずも出来てしまった血の繋がらない子供。養育費が2倍である。忙しいのに何なんだよと舌打ちしたのは良い思い出である。

 

 妻の暁美からは必要ないのに殺しはしないでと言われたのを呪いとして受け取り、殺せと言われた仕事は受けていない。非術師も殺したことが無い。術師を専門とした仕事をしており、殺しはしない。だが捕まえて引き渡した後は恐らく殺されているだろうことで、別に殺していないのに術師殺しと呼ばれるようになった。

 

 

 

「こちらでも色々と手を回して調べはしたが、直接お前の口から訊いておきたい」

 

「……好きに質問でもなんでもしろよ」

 

「──────非術師を無意味に殺した事はあるか」

 

「……ぁあ?」

 

 

 

 先ず最初に龍已が聞いてきたのは、甚爾が今までの人生で非術師を殺した事はあるかということだ。椅子に座らされて手脚を縛られている甚爾は前に立つ龍已の事を見上げながら考える。嘘をつく為に捏造する話を思い浮かべているのではなく、過去を思い出しているのだ。

 

 自身は禪院家で人間では無く、猿として扱われた。だからあの猿は、この猿は、そう言われて過ごしてきた。だからか、術式を持って恵まれた奴等を殺したりボコボコにしたりして術式を持たずとも、人間として扱われている奴よりも強いのだと、勝手に自身を肯定するために術師を狙っていた。

 

 恵まれたオマエは、呪術も使えねぇ俺みたいな猿に負けたんだ。そう言って殺した術師に吐き捨ててやったこともあった。俺は猿じゃねぇ。そう言い聞かせるために仕事を受けた。だから何の力も無い非術師なんざ狙った事は無い。狙う必要も無い。絡まれたら喧嘩してボコボコにしたことはあるが、それだけだ。

 

 

 

「──────ねーよ。殺したのは嫁に会う前だし、その時も相手は術師だ」

 

「……成る程。嘘では無いか。ならばもう一つ。お前が殺してきた術師の中には善人も居た。今は殺していなくとも殺した事は変わらん。人によってはお前を呪詛師と同じ括りと扱うだろう。だがその話を限りなく無しに出来るとしたら、お前はどうする」

 

「どーもしねぇ。嫁を治すのには金が要る。そう言われたところでやることは変わらねぇ」

 

「ならばそのお前の妻が治るとしたら……お前はこれからどうする。何をしたい。何を為せる」

 

「治せる……治せるなら……何だってしてやる。術師をとっ捕まえるのも、呪霊を祓うのだってやってやる。命令されるがままに従ってやる」

 

「──────その言葉、違えるなよ」

 

 

 

 龍已は甚爾の目を真っ正面から見つめる。琥珀の瞳に黒いナニカが灯り、嘘偽りは赦さないと語る。そしてそんな瞳を見て甚爾が悟った。龍已が非術師を無意味に殺してきたかどうかを聞いてきたのは、呪詛師に類する行動をとってきたかどうかを確認してきたのだろう。

 

 そういう場合、大体は呪詛師に大切なものを奪われた時の奴の反応だ。龍已もそうなのだろう。しかも、人を殺してきたからこそ解るものがある。コイツは、黒圓龍已は人を殺した事がある。いや、それだと語弊が生まれるだろう。殺した事があるではなく、今も尚殺し続けているのだ。

 

 この業界では何時か必ず人を殺す時が来る。だがそれは所詮、必要に迫られて殺すのだ。嬉々として己の意志で殺したりはしないだろう。相当イカレていない限りは、人を殺したいと思わないはず。どちらかというとそういう思考は呪詛師寄りだ。つまり龍已は後者の呪詛師寄りの思考回路で、呪詛師のみを狙って殺している。

 

 龍已が本来相手にしている相手のことを看破していると、件の龍已は部屋を出て行った。自身以外誰も居ない、呪符が所狭しと貼られた部屋。灯りは蝋燭に点けられた小さな炎のみ。時計すらも無く、唯椅子に縛られて戻ってくるのを待つ。どの位待っただろうか。体内時計で一分少しだろうと当たりをつけた時、ドアが開いて龍已が戻ってきた。そして開口一番、甚爾の思考を停止させた。

 

 

 

「お前の妻、伏黒暁美だが──────今完治させた」

 

「…………………あ?」

 

「そして経歴についてだが、五条が手を回して不問にさせる。無罪放免という訳では無いが、実質無罪と変わらん。それからお前の今後の身の振り方だが──────」

 

「まて……待てッ!!今なんつった!?軽く流してんじゃねぇ!完治……?完治っつったのか!?暁美は()()()()だぞ!?そう簡単に治る訳がねぇ!!手術を始めたなら解るが完治は有り得ねぇだろ!!」

 

()()()()()()()()()()。こちらは何でも有りの術式が蔓延る業界だ。末期の癌を完治させるなんぞ訳ない。安心しろ。再発はしない。俺が世界で最も尊敬し、信頼し、信用する呪具師が伏黒暁美を呪具で治した。再発の万が一は有り得ない」

 

「は、はは……マジかよお前……ッ」

 

 

 

 手脚を縛られながら、甚爾は体を前に倒す。嘘では無いだろう。嘘をついた時の声色や匂いで解るが、龍已からはそんなものを感じない。それに確かに、呪術ならばそういうことも出来るのだろうが、本来呪力には体を治す力は無い。強化は出来るが治せないのだ。反転術式を除いて。

 

 つまり龍已の言う通り、呪具師がやったのだろう。だがそんな都合の良い呪具が有っただろうか。いや、そんなものは聞いたことが無い。そうしてふと思った。このガキが持っている呪具だろう代物は途轍もない硬度を持っていた。特級呪具である刀が傷一つ付かない硬さを持つ呪具は並の呪具ではない。恐らくそれを造った呪具師。コイツにここまで言わしめる存在。

 

 これは勘に過ぎないが、呪具師は龍已から要望を受けてその日の内に造った事になる。半日すら経たずにそんな代物を造り出すのはよっぽどの腕なのだろう。甚爾は舌を巻く思いだが、それよりも暁美が生きている事にホッとしていた。しかしそんな喜びの感情を持っている甚爾の頭に手を置き、無理矢理上を向かせた龍已は、至近距離で甚爾の目を覗き込んだ。

 

 

 

「何を勝手に喜んでいる。完治させたのは今だけだ。無論タダではなく、条件を呑んでもらう。お前はこれから俺の監視下で呪術師として働いてもらう。まずはこの高専で体術の授業を受け持ってもらおう。非常勤講師としてな。他にも斡旋された呪霊の祓除。そして呪詛師の始末だ。いいか、始末だぞ。生け捕りとは考えなくて良い。見つけ次第殺せると判断した者は殺せ。妻の呪い(頼み)なんぞ俺には知ったことでは無い。これが俺のお前に出す条件だ。術師殺しとしてのお前は死んだ。これからは呪術師として生きていけ。勝手な行動や裏切りは赦さん。その時は……お前の妻諸共殺す。良いな」

 

「……それだけで良いのか……ぐっ」

 

「余計なことは喋るな。呑むのか呑まないのか、それだけを答えれば良い」

 

「……その程度で良いなら願ったり叶ったりだ……その話呑ませてもらう。これからよろしく頼むぜ、ご主人サマ」

 

「お前が妙な事をしない限りだがな」

 

 

 

 実質話を呑む以外の選択肢は無かった。呑まなければ、恐らく殺されていたのだろう。龍已にとって甚爾はそこまで欲しいという人材では無い。人手不足の呪術界で使える手札が有った方が良いだろうというだけだ。それも非術師を殺していない存在。まあ術師を殺していたので呪詛師よりではあるが、確認すると呪詛師という扱いにはなっていなかった。

 

 殺さないで生け捕りにしていたのが効いていたのだろう。それに、甚爾は龍已が知る限り呪力が全くの0という特殊な存在だ。聞いたことも無い類の存在なので、少しだけこの場で殺すのは惜しいと思ったのだ。

 

 別に同情するつもりは無いが、病床に伏せている暁美を治すのに大金を稼ぐため動いている甚爾を見て条件を出してみた。伸るか反るかは任せていたので、話に乗れば呪術師として動いてもらい、呪術師にとって透明人間になる甚爾に呪詛師殺しをやってもらう。拒否すればそれまで。唯それだけだった。まあ、甚爾が生きていられるのは裏切らない限りだが、この様子ならば裏切ることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 龍已は甚爾の手脚を縛っている縄を解いてやって自由にする。手首を擦っていた甚爾は龍已よりも高い身長で上からニヒルな笑みを浮かべながら見てくる。首に巻かれた黒い首輪型のチョーカーが光り、フィジカルギフテッドの怪物が呪術師の仲間入りを果たしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






虎徹お手製お試し呪具・『姿映しの玩具』

指輪型の呪具で、姿を真似たい者の肉体情報を取り込むことで一時的にその者の姿になれる。龍已の場合は血を飲んだ。医務室の外で。

本当は現場近くが良いが、感覚を慣らせる必要があったので早めに使った。勿論術式は使えなくなる。呪力も使えないし、体が切り替わると筋力も同じになるので、この時だけは龍已は非力な少女と同レベルだった。

……………………オ゙ッエー!!血は飲むものじゃ無い。




同化について

態々2日後の満月とまで指定してくるので、同化する日は決まっていて、それ以降は進化が始まり同化出来ない……としたいけど、11年後に他の奴とも出来なくは無い……とかなんとか言っているのであやふや……ちょっとどうすればいいの……。

同化の日を過ぎても星漿体との同化は出来るの……?ちょっと情報なくて解らないですぅ……。





天内&黒井

取り敢えず君達このまま日本に居ても危険だから海外に逃げてくんね?お金あげるからさ!

てか、そのまま居たら無理矢理同化させられてたから。

その日の内に飛行機取ってた龍已だけど、ちょっとズルしたので問題は無い(大有り)




夏油

今回はちゃんと護衛するよ。黒井さんの時は失敗したから挽回のチャンスを下さいな!って感じで海外まで一緒に行って来た。




五条

反転術式を会得して最強に片脚突っ込んだ。意気揚々と甚爾ぶっ殺そうと思ったけど状況が訳ワカメ。殺さないの?えぇ……。

ハイになってしまった分のフラストレーションは龍已にぶつけた。なので、甚爾が寝てる1時間の中には『赫』と『茈』を龍已にぶっ込む五条の図があった。

五条家の謎パワーで甚爾を実質無罪まで持って行き、伏黒家は五条の預かりとなったので他の家には手出しさせない。因みにそのクズの息子さんの術師はねぇ……。ま、禪院家ドンマイ!




家入

電話があって急遽向かったら死にかけた五条居たけど、自力で傷を治してて驚いた。ウケる。

天内と黒井とは話をした。同性ということもあって色々と話してあげたし、天内からは年上のお姉さんみたいなポジション故か懐かれた。ウケる。

甚爾が起きた後は何を仕出かすのか解らないから龍已に言われて隠れてた。大事なヒーラーだからね。




龍已

まあ確実に怒られるだろう先輩。言いだしたのは自分じゃないし、渋っていたところを襲撃されて有耶無耶になってしまい、ヤケクソで同化中止に乗っただけだけど、責任を取ろうとする。

甚爾を医務室に運んで家入さんに手当を頼んでいたら、五条とバトルさせられた。というか『赫』と『茈』をぶっ放された。は?その『茈』威力高すぎだし速すぎ。術式反転間に合わなかったら死んでたし、少し押されたから呪力にモノを言わせて防いだ。少し冷や汗を掻いたのはナイショ。




甚爾

フィジカルギフテッドのフィジカルゴリラで、野良の狂犬。この件で首輪を付けられました。

因みにその首輪発動したら、龍已が全力の呪力で強化した肉体でも耐えられない爆発が起きて首が体と離れるから。籠められているのは龍已の莫大な呪力。防げないからね?

妻が一瞬で完治して驚いたし感謝してる。出された条件もゆるゆるだから、願ったり叶ったり。つまり、職をくれるってことだろ?いいやん。

でも呪詛師は絶対ぶっ殺してもらうから。

ほら呪詛師さん達。黒い死神と術師殺しが向かいましたよ。さっさと死んで下さいね♡





どこかの呪具師

電話が来て造って欲しいものがあるし、ある人のところに行って欲しいと言われたので移動中の車の中で呪具造ってた人。

ん?癌を治す為の呪具?随分具体的だけど、30分もあれば出来るよ。使い切りタイプになるけどね!

いやそんな簡単に造れるのかよスゲーな。


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