最高評価をして下さった、け〜ん せいこうくん しょーZ とらねこ ほんにゃく アイソレーション [email protected] いくらのおみそしる さん。
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天内理子の護衛について、黒圓龍已はクソ程怒られた。
そうならない為に同行させたのに、何故に海外へ逃がすための飛行機の手配をお前がしている?と夜蛾に事情聴取された時には、バレるの早いなと思った。違う、思うところはそこじゃ無い。
天元を高位の存在にしない為には同化が必要なのは散々説明されていたし、そもそも虎徹から教わって知っていたので重要度が高いのは把握している。でも、もう海外へ飛ばしてしまったのでどうしようも無い。まあ最初からそれが狙いだったのだが、それも込みで怒られた。
勿論、こうなる切っ掛けは五条と夏油なのだが、正座して怒られている龍已を見て五条がゲラゲラ笑い、夏油が笑っている五条を窘めているようで面白がっていたので、龍已の後龍已以上に怒られて3段のたんこぶを作っていた。自業自得もいいところである。
そうして天内理子の護衛からの海外への逃避行手助け事件から一ヶ月が経った頃。事件のほとぼりも冷めて何時もの日常が戻ってきた。更にその中には伏黒甚爾が含まれるようになった。五条の五条家不思議パワーで甚爾の事を無罪と同じ程度まで持ってきて、高専の非常勤講師として雇ったのだ。内容は体術。つまり、近距離ゴリラが2人となった。
「クッソ!!おっさん動き速すぎだろ!!本当に呪力無いんだろーな!?」
「先輩に任せないで私がやっていたら、恐らく瞬殺だったね。今思うと恐ろしいよ」
「呪術やら呪力に頼り切ってるから俺みたいな猿に負けんだよ、坊」
「教えるつもりならそのニヤけたツラ隠せよ。楽しんでんの丸わかりなんだよ!!」
「あー?隠すつもりなんざさらさらねぇな。『2人で最強』が呪力のねぇ俺にボコられてノビてんの見てると面白くて仕方ねぇ」
「傑。やっぱアイツ殺そうぜ」
「乗った」
「はッ。やってみろよクソガキ共」
「……何をやってるんだあの3人は……」
「あのクズ共と+αは放って置いて、私達はおしゃべりしましょ。先輩?」
「今体術の時間なんだが……」
物騒にドンパチかましてる五条達を木下の木陰に居ながら見学していた。龍已は今更教えてもらう必要が無いので自主的にやっているのだが、家入がやる気無くて木陰に引き摺り込んでしまった。腕に抱き付いて肩に寄り掛かり、甘える声で誘惑してくる。五条と夏油が聞いたら、え?誰?と言いそうな甘い声だった。
最強2人組とフィジカルギフテッドが戦い始めて早々グラウンドを破壊し始めたのを尻目に、無表情ではぁ……と溜め息を吐いた。それが折れた時の証拠であることを知っている家入はニンマリと笑みを浮かべた。何だかんだ甘い龍已が大好きだ。それ抜きにしても大好きだ。
抱き込んでいた腕を離して横になり、龍已の膝を枕にした。甘えて腰に腕を回して抱き付けば、優しく頭を撫でてくれた。椿の匂いと頭に感じる撫での感触が至福で、腹に顔を埋めながら嬉しそうに笑う。
「あ゙ー……幸せ過ぎて溶けちゃいそう。先輩好きすぎてヤバい。ウケる」
「俺も硝子のこと好きだぞ」
「……ふぅ……先輩、そういうところですよ」
頭をグリグリ押し付けてくる家入だが、龍已からは髪に隠れていた耳が頭を動かした拍子に見えて、赤く染まっているので照れているというのは解っている。というより、態と照れるように言っているだけだ。好きだと言う割には、言ってあげると照れる家入が可愛いのは認める。無表情で解らないと思うが、大切に思っている。
抱き付いて離れない家入に、仕方ないなと思いながら頭を撫でていれば抱き付く腕が強くなる。何だか深呼吸しているようで、腹に顔を押し付けられたままそれをやられると流石に恥ずかしいので、肩を軽く叩いて顔を上げてくれと伝えるのだが、頭を左右に振ってイヤイヤとするので、短時間で2度目の溜め息を吐いた。
顔を押し付けられて見えないが、やはりニンマリと笑っている家入の頭を撫でていれば、校舎の方から夜蛾が飛んできた。まあグラウンドが消滅しようとしていれば飛んでくるのも頷けるだろう。例の如くゲンコツを落とされている最強2人組と甚爾である。
「オイ、ご主人サマ。今日家に寄ってけよ。暁美達がお前連れて来いってウッセーんだよ」
「……何で放課後になってから言うんだ。前もって言えば菓子でも用意出来たというのに。事前に教えるということは出来ないのか?成人しているのにそんなことも解らんのか」
「あーあー聞こえねェ。いいから行くぞ」
「おい、邪魔くさいから肩に腕を回すな」
「いいじゃねーか。ケチケチすんなよ」
一日のカリキュラムを終えて放課後。龍已は今日特に何か用が有るわけでも無いので真っ直ぐ寮へ帰ろうとしたのだが、教室から出たところを甚爾に捕まった。龍已の雰囲気が、うわ絶対面倒くさいと語っているのを解っていてニヤついている甚爾に、内心ゲンナリしていた。
態々3年の教室までやって来る程の用事は何なのかと思えば、飯の誘いだった。実はこの一ヶ月で、龍已は伏黒家に無理矢理連行されることも少なくはない。というのも、伏黒家は五条の預かりとなっていて禪院家からの圧力等は無いのだが、その手を五条にさせたのは龍已で、甚爾が術師殺しをやめて非常勤講師として働き、甚爾の妻の伏黒暁美を治す手立てを用意したことがバレた。
まあバレたと言っても甚爾がベラベラ喋ったのが原因なのだが。勿論その後は甚爾をボコボコにした。体術で甚爾を真っ正面からボコれるのは龍已しかいない。ついでにグラウンドもボコボコになった。それは仕方ない。ゴリラとゴリラが殴り合っているのだから。
もう術師殺しの仕事はしなくて良いのかと言われて、呪詛師の始末をする事は約束されているが、それ以外ならばもうやらなくて良いし、暁美の末期癌が治ったのも龍已による手引きだと知ると、暁美が是非直接会ってお礼をしたいのと、息子と娘が母親を助けてくれた事にお礼を言いたいとの事だったので家へ来て下さいと誘われた。
勿論龍已は断った。え?断るのか?と思われるかも知れないが、打算が有っての行動だし、何より甚爾が裏切れば暁美諸共殺す算段なので、その相手からお礼を言われる筋合いは無いと判断したのだ。だから行かない。お礼も必要ないと拒否したのだが……まさか高専へ伏黒一家が迎えに来るとは思わなかった。いや、そこまでする?と思っても当然だ。
来る気が無い。一切。全く。これっぽっちも無いということで、来てもらうのは諦めて皆で行こっか!って話になった。そもそもお礼をしなくちゃいけない相手に、来いというのは間違っているわよね、とは暁美の言葉。良くそんな良い女性に拾ってもらったなと甚爾に吐き捨てたのは記憶に新しい。
「スーパーに寄るぞ」
「あ?別に寄んなくていいだろ、めんどくせー」
「手ぶらで行かせる気か。知っている仲とはいえ、家に呼ばれている以上何かを持っていくのが普通だろう。それに帰り、何か必要なものを買ってきてくれと頼まれているんじゃないのか?」
「あー、何か言ってたなそんなこと。忘れたわ」
「砂糖。醤油。豚バラ肉。特売日の卵を2つだ」
「何でンなこと知ってんだよ」
「お前が頼りないから俺に暁美さんからメールで送られてくるんだ。何故俺が他人の家のお遣いをせねばならん。まあ、暁美さんに信用されてないお前の所為だがな」
「忘れてただけだ。俺は信用されてない訳じゃねぇ」
「ほざくな。金使いに関してお前は底辺だ。給料日に生活費からも金を取って、パチンコで7万スったのを知っているんだぞ愚か者め」
「……チッ」
何でこんなのと結婚しているのか本当に解らない龍已は、後で離婚でも勧めておくか?と思案した。実際そっちの方が良いかも知れない。この男の所為で息子と娘がグレたらどうするつもりで、どう責任を取るつもりなのだろうか。いや、2人とも真面目だから反面教師になって立派に育つ筈だと信じる。グレたらこの元ヒモは殺す。
さっさと家に帰ろうとする甚爾を無理矢理引き摺り込んでスーパーの中へと入っていく。片手にカゴを持って携帯に書かれた買い物リストを見て何が必要なのか把握し、売っている棚に向かう。伏黒家が使っている醤油のボトルを手に取ってカゴに入れ、すぐそこにあった砂糖も入れた。
今度は豚バラ肉なので、途中にある卵を取りつつ肉コーナーに行ってどれが良いか悩んでいると、手に持っているカゴが突然重くなった。かなりずっしり重量が変わったので、大方の予想がつきながらも念の為カゴの中に目を見やるら、するとそこには、これでもかと酒が入っていた。入れたのなんて一人しか居ない。振り向いて睨み付けると、何でも無いような顔して立っている甚爾が居た。
「酒を買いに来たのではない。全部戻せ。そもそもお前は天与呪縛による肉体の強化で酔えないだろう。金の無駄だ。買うなら自分の金で買え」
「お前待ってる間にパチンコでスった。300円しかねぇ」
「自業自得だ。さっさと戻さないと頭撃ち抜くぞ」
「おいおい。こんなところで銃抜くのか?大騒ぎになるぜ」
「──────『黑ノ神』起動」
「わーったって。戻してくっから狙い定めんな。おっかねーなオマエ」
本気でやろうとしているのか、首に巻き付いているクロが何かを吐き出したのでカゴに入れた選り取り見取りの酒を手に戻っていった。そもそも暁美が酔えない癖に飲む甚爾の為に酒を買って冷蔵庫に冷やしてあるのを知らないのか。というより、何故他人の家の冷蔵庫事情を把握しなければならないのか。
はぁ……と、主に駄目な元ヒモゴリラが悪いのだが、溜め息が溢れる。これ以上買い物をしていると甚爾が余計な物をカゴに突っ込んでくるので、さっさと目当ての物をカゴに入れて会計のレジに向かう。制服姿でメモを見ながら買い物をしている龍已を、暖かい目で見ていたお母さん達が居たことを知らない。
今度は酒の肴になりそうなものを見ている甚爾の尻に蹴りを入れてスーパーを出て行く。それなりに力を入れたので痛そうにしている甚爾を無視してレジ袋を持って伏黒家へ今度こそ向かう。1週間に1度は必ず呼ばれているような感じがする伏黒家の道は覚えてしまった。
道を歩いていると、目指していた伏黒家が見えてきた。元々はボロボロのアパートに住んでいたのだが、五条がこんなところに4人は無理でしょと最もなことを言って、売られていた一軒家をそのまま購入して譲った。受け取れないと言っている暁美とは反対に貰える物は貰える主義の甚爾は普通に貰った。五条も金銭感覚が可笑しくなっている。
新築という訳では無いが、立派な一軒家に着くと甚爾が持っていた鍵で玄関のドアロックを開けて中に入る。続いて龍已も入れば、音で気が付いた暁美達がパタパタと玄関にやって来て出迎えてくれた。
「いらっしゃい、龍已君。買い物を頼んでごめんなさい」
「大丈夫です。頼んでも忘れて買ってこない役立たずが居るのは解っていますから」
「おい」
「龍已さん……おかえりなさい」
「わーい!龍已さんおかえりなさーい!龍已さんが来るの楽しみにしてたんですよ!恵も!」
「……っ!津美紀!それは言わなくていい!」
「むふふー。照れないの!」
「…………お邪魔します」
まだ知り合って一ヶ月だというのに、何故来るとおかえりなさいと言われるのか、龍已の中では甚だ疑問である。少し警戒心が足りないのでは?と思うが、口にはしない。言ったところで善人のこの家族は総じて助けてくれた良い人だからと答えるに違いないから。因みに家入も誘いはするが、他人の家族と一緒に居るのは窮屈に感じるということで来ない。
それと、お気づきだろうか。他人の龍已にはおかえりなさいがあるというのに、幼稚園年長の息子の伏黒恵と、恵より1つ年上で義理の娘の伏黒津美紀が一家の大黒柱の甚爾にはおかえりなさいと無いということに。恵は態とだが、津美紀は龍已に気を取られて忘れているだけである。何時もならちゃんと言う。
それに気づいて微妙な顔をしている甚爾に、暁美がクスクス笑っていた。温かい家族だと思う。龍已が助けなければこんな構図は無かっただろう、表面張力のようにギリギリの場所に居た伏黒家。恩義を感じているのか龍已を引き込み、その温かさを分けてくれる。だが、呪詛師に殺された両親を思い出すので、龍已は温かいと感じても、浸っていたいとは到底思えなかった。
靴を脱ごうとすると買い物袋を暁美が受け取ってくれたので、座って靴を脱ぐと背中に津美紀が覆い被さってくる。まだ小学生の津美紀は元気いっぱいだ。恵は大人しく、静かに近くで本を読んでいたりする事が多い。龍已は靴を脱ぎ終えると、腕を首に回した津美紀を背中に乗せたまま立ち上がった。そして近くに居る恵の手を取ってリビングに向かう。
「きゃー!龍已さんすごーい!あははははははっ。たかーい!」
「恵は良いのか?」
「……大丈夫です」
「あ、龍已君。今日は生姜焼きにしようと思ったんだけど、恵が龍已君の生姜焼きが食べたいって言って聞かないから、まだお肉焼いてないの。買い物までしてもらって悪いのだけれど、お願いしてもいい?」
「何だ、恵は俺の作ったやつが食べたかったのか」
「……龍已さんの料理、美味しいから。ダメ……ですか?」
「いいや。少し待っていろ、すぐに作ってくる。暁美さんには細かい分量を調べて今度教えます。いつも目測なので」
「あら、ごめんなさいね。とても助かるわ」
「……俺、龍已さんの飯が食いたい。同じ味でもヤだ」
「こーらー恵ー?龍已さん困っちゃうでしょ!」
「……そこまで求める程美味いか……?何時もの味で変わり映えが無いが……恵がそこまで言うなら、また作ってやろう。それで良いか?」
「……っ!ありがとう、ございます」
そんなに絶讃される程のものではないと思っている龍已は不思議そうだが、伏黒家は龍已の作るご飯が絶品だと思っている。気分で飯を作ったり、体調管理のために料理をする龍已の料理スキルは、手先が器用なのも相まってレベルが上がり続けている。なので無自覚だが料理上手というスキルを手にしているのだ。
背中に張り付いた津美紀を降ろして、恵の頭を一撫でしてからキッチンへ向かう。何故か置いてある黒いエプロンを身につけて、出来上がっていない生姜焼きだけを作っていく。サラダとして刻んだキャベツと味噌汁があるので、本当に生姜焼きの肉だけをやれば良いだけのようだ。
基本初めての料理以外は目測で材料を入れる龍已は、生姜を手でおろして、醤油、砂糖、料理酒をボウルに入れて混ぜ合わせ、タレを作っていく。フライパンにはごま油を敷いて熱しておき、手を翳して温度を確認したら、用意されている豚ロースに薄力粉をまぶしてフライパンに投入。
裏表がしっかり焼けたら、作っておいたタレを掛けて焼き上げていく。色などを見て、全体に味が馴染んだと思ったらフライパンから取り出し、まな板の上へ一度置く。包丁で一口大に切ったら、刻んだキャベツが載った皿の上に置いていく。最後に余ったタレを上から掛けてあげれば、出来上がりだ。
「美味しそー!」
「……良い匂い」
「龍已君は本当に料理上手ねぇ」
「器用なもんだな」
「肉を焼いただけですが……。まあ、冷めないうちに食べましょう」
「そうね!せっかく出来たてなんだから食べましょっか!」
「いただきまーす!」
「いただきます」
「おー。うめーじゃん」
行儀良く手を合わせていただきますとしている横では、既にもう食べ始めている甚爾が居た。そんなんでいいのかと思うが、暁美がしっかり教えているようで問題は無さそうだ。龍已も自分の生姜焼きを摘まんで口に運び、咀嚼すれば生姜の味が広がって白飯が進む。だが何時もの味だ。
いつも通りだなと感じている一方で、伏黒家は大層美味しそうに食べていた。特に生姜味の料理が好きな恵は黙々と食べていた。目を輝かせているのは、幼稚園生で物静かでクールな何時もの恵とは違っていて、年相応と言えるだろう。津美紀もニコニコしながら食べているので、龍已は自分の生姜焼きを少し恵と津美紀に分けてあげた。
「えっ、龍已さん食べないの?」
「……龍已さんの分が少なくなっちゃう」
「甚爾が事前に伝えに来なかったから、少し先に食べてしまっていた。だからもう腹がいっぱいでな。俺の肉は恵と津美紀にやるから、代わりに食べてくれるか?」
「そうなんだ……じゃあ貰う!ありがとう!」
「ありがとうございます」
「サラッと俺の所為にすんなよ」
「事実、伝えるのが遅い」
「甚爾?また言うの遅かったの?」
「……ケッ」
暁美が相手に回るとまず勝てないので、話から離れて食事に戻った。もー、と言いながら甚爾に笑いかける暁美はやはり善人だ。とても悪い印象というものが無い。人殺しをしていた甚爾に、殺す必要の無い人は殺さないで、と呪いを掛けただけのことはある。
龍已から3分の1ずつ肉を貰って嬉しそうにしている津美紀と恵を見ていると、弟と妹を持った気持ちになる。保護欲を刺激させる子供はやはりすごい。子供を持ったらこういう日常を送っていくのだろうかと、漠然と考える。だが龍已は自身には無理だと即答した。
身を置いている状況が状況なだけに、正体がバレた時に狙われるのは家族だ。2人で最強と言っている五条と夏油にも負けない、呪詛師殺しの黒い死神。本当だったら彼女すらも生涯作れないし、作らないと思っていた。まあ、今は少々色々とあったので家入と交際しているが、家入と出会わなかったら一生独り身だった。
黒い死神は呪詛師には倒せない。呪詛師の命を平等に、無慈悲に刈り取る死神そのもの。だが倒せない存在に大切な存在が居たならば、狙うのが当然だろう。もし、正体がバレれば、家入と親友達が狙われる。仮に誰かが自分の所為で死んでしまったりすれば、恐らく、龍已は自分で自分を抑えきれなくなるだろう。呪詛師に対する黒い死神ではなく、単なる黒い死神と成り果てる。そんな意味の分からない自信があった。
「龍已さん!」
「──────ッ!!……どうした?」
「あのね、学校で宿題だされたんだ。龍已さん教えて!」
「……俺は読めない本があったから、教えてほしいです」
「そうだな……では宿題を先に終わらせてしまおう。恵はその後でも良いか?」
「はい。大丈夫です」
「龍已君、面倒を見てくれてありがとね。助かっちゃうなぁ」
「この位ならば大丈夫です」
津美紀に手を引かれて小さなテーブルの元まで行く。繋いだ手は小さくて柔らかい。向けてくる笑顔は信頼を抱いていて無警戒の、子供の眩しい笑顔。呪詛師はこの太陽のような笑顔に雨雲を掛けてくる存在だ。笑顔を曇らせない為に、自身は呪詛師をこの世から一匹残らず殺し尽くさなければならない。例外はなく、徹底的に。
温かさを感じれば感じるほど、心に黒い炎が灯り、燃え上がり、巣くう。生かしてなるものかと、この世に居て良い者達では無いと。そこでふと思った。自身は、日頃からここまで憎しみや恨みを抱いているような奴だったか?と。
少し考えすぎか。天内理子の話から少し事後処理等で忙しかったから、解らないところで疲れているのだろうと判断した。そもそも龍已の目的は変わらない。呪霊を祓う事では無く、呪詛師を皆殺しにする事なのだから。
「はぁッ……はぁッ……はぁッ……うぅうううっ!」
男は泣きながら走っていた。目的の場所も無く、只管追い掛けてくる奴から逃げていた。夜の暗闇からは逃げられないが、追い掛けてくる奴からは逃げられる筈だ。脚を右左と交互に出せば逃げられる。横腹が千切れるように痛くても、走り続ければ希望がある。そう信じている。
男は呪詛師だ。何となく非術師を殺すのではなく、狙って嬉々として殺している。狙うのは女だ。若いのが良い。触れた相手の音を5分間消す術式で、路地裏でも連れ込めば、声を上げようが手を叩こうが音は出ない。助けは呼べないのだ。
そういう若い女を攫って、人気のないところで飽きるまで犯す。避妊なんかしない。欲望のまま犯し尽くして、勢い余って殺したり、飽きるまでは止めない。それで飽きたら殺す。苦痛に顔を歪ませるのを見るのが好きだ。助けを必死に求めるのを無駄だと悟らせるのが好きだ。絶望して諦めながら、少しだけ希望を持っている目を覗き込むのが堪らない。
今日もそうやって若い女を攫って犯して殺して、財布からお小遣いを頂戴する予定だった。だが何時の間にか正面に居た、黒いローブの奴に銃を突き付けられて咄嗟に逃げた。暗闇に包まれる夜。音も無く現れた全身黒に身を覆った存在。こんな奴は聞いたことが無い。だから解った。黒い死神だと。
「クソッ……殺されてたまるか!殺されてたまるかよ!俺はもっともっと女を甚振りたいし犯したいし殺したいんだ!こんなところで死んだら犯せないだろうが!!」
呪詛師になったのは高校生の頃だった。術式で道で擦れ違った女の音を消して誰も来ない廃屋で犯したのが始まりだった。常に触れていれば5分経っても音を消していられる。だから誰かに見付かることは無い。殺した奴は火を点けて焼死体にしてやる。そうしないとこびり付いた体液でバレるから。
火を点けるときも好きだ。死体に点けるのが大体だが、時々は生きているまま火を点ける。すると音が出せないのに助けを求めるのだ。それをゆっくり観賞してやる。肉が焦げていく匂いなんて、嗅いでいるだけで幸せな気持ちになる。だからやめられない。
黒い死神はターゲットを逃がした事は無い。だが自身は逃げる。逃げて自身を待っている女達の元へ行くのだ。殴って蹴って踏み付けて、大事に大事に犯すのだ。そんな妄想を広げて涎を垂らして恍惚とした表情をし、逃げ続けていると、左脚に弾丸が当たって千切れ飛んだ。体勢が崩れて地面に倒れ込み、千切れた脚が目の前に落ちてくる。血を吹き出して、痛みが襲ってきた。激痛だ。
「あし……俺の……俺の俺の俺の俺の脚ぃ!!痛いぃ……!!痛い痛い痛い痛い痛いぃ!!」
弾丸が脚を突き抜けて余波だけで太腿から脚を千切っていった。対物ライフルによる狙撃だ。発砲音は聞こえなかった。弾だけが突然飛んできた。暗闇でどこに居るのか解らない。弾がどこから飛んできたかも解らない。怖い。痛い。憎い。怖い。痛い。痛い。
何でこんな目に遭っているのか解らない。自分は呪詛師で、女を攫って犯して殺しているだけなのに、なんで狙撃なんて酷いことをされているのか全く解らない。けど逃げないと死ぬのは解る。だから片脚だけでも無理矢理立ち上がって逃げようとした。そしてその脚すらも狙撃によって太腿から千切れ飛んだ。
走るための脚が無くなった。無理矢理千切られたから痛くて仕方ない。涙と鼻水、涎で顔中をぐちゃぐちゃにしながら、どこかに居る黒い死神にやめてくれと手を振って訴える。そしてその振っている腕を上腕から撃ち抜かれて千切れた。脚が無く腕も無い。何も出来ない達磨だ。
逃げることすら出来なくなって、痛みに叫んで泣いた。年齢は48だが、それでも泣き叫んだ。誰かがやって来てくれれば良いと思って大声を上げた。そこら一帯に帳が降ろされているとも知らずに。傷口から血が流れ続けて、意識が朦朧としていると、黒いフード付きローブで身を覆った奴が上から見ていた。助けてくれ。そう言う前に、眉間に炸裂徹甲弾が撃ち込まれた。
「──────助ける奴なんぞ居るか塵芥風情が。死して悔い改めろ。地獄の底で悔い続けるが良い」
『黒龍』から放たれる炸裂徹甲弾が呪詛師の男の頭を粉々に破裂させた。しかし、龍已はそれでも撃つのを止めなかった。辛うじて残った頭に何度も弾を撃ち込んで首から上を完全に吹き飛ばし、心臓にも弾を撃ち込んだ。
腕と脚を無くした死体に弾を撃ち続ける。死んだ呪詛師を殺し続けた。やがて弾が無くなってカチリと鳴り、弾切れを起こすと大きく息を吸って、吐いてを繰り返して深呼吸をした。何時もならば一発で終わらせて帰るのだが、どうも衝動的に撃ってしまった。まあ、偶には良いかと思って帰路につく。
殺したことを仲介人に電話で伝えて、歩きながら人の目が無いところでローブを脱いでクロに呑み込ませる。何だか気分が良くない。体調はいつもの通り完璧だが、思考回路が纏まらない。今も呪詛師を殺したくて殺したくて仕方ない。なんなら、夜遅くで擦れ違う人が呪詛師に見えてくる。
どうしたのだろうか。何時もの自分らしくない。客観的に考えて何か可笑しい。このままだと非術師を撃ち殺してしまいそうだ。だから龍已は走った。全速力で風となり、高専まで帰ってきて女子寮の方へ向かい、家入の部屋のドアをノックした。今は深夜1時。起きているかは解らないが、起きていたら会いたかった。だが、家入の返事は無い。眠っているようだ。
「──────先輩?」
「──────ッ!!硝子……?」
「そうですけど、どうしました?こんな夜中に……!?」
家入は少し目が冷めてしまったので、食堂に行って水を飲んで戻ってきたところだった。そしたら何故か龍已が自身の部屋の前に居て、踵を返して帰ろうとしているので声を掛けた。ビクリと肩を震わせて振り向いた龍已に違和感を覚える。気配に敏感な龍已が、気配を消している訳でも無い自身の存在に気が付かなかった?と。
そして振り向いた龍已はいつも通りの無表情。だが雰囲気が何だか暗い。沈んでいるというより、黒いと言えば良いのだろうか。言葉では上手く表せない龍已の状態に、目を細めて何かがおかしいと判断した家入は、急いで自室のドアを開けて龍已の手を取って入っていった。
手を引かれるがままの龍已をベッドに押し倒して無理矢理横にさせ、頭を胸元に抱き締める。片手で頭を撫でながら、もう片方の手で背中を撫でた。落ち着かせるように丁寧に優しく。すると龍已が腕を背中に回して抱き締めてきた。少し強くて息が苦しいが、そんなことはおくびにも出さず抱き締め続け、出来るだけ柔らかな声で話し掛けた。
「どうしました先輩。大丈夫ですか?」
「……解らない。呪詛師を殺して帰っていたら、擦れ違う非術師が呪詛師に見えた。呪詛師を殺したくて仕方ない心境になって、異常を来していると判断して……落ち着ける場所に来たかった。夜遅くにすまない……」
「いーですよ。私は先輩の彼女なんですから。甘えたいときは甘えて下さい。多分、先輩は積極的にやり過ぎたんですよ。少しは休憩した方がいいです」
「そう……か……そうだな……」
「休みの日にデート行きましょ。電車使って少し遠出して、美味しいものとか食べて来ましょうか」
「……あぁ……硝子となら………楽…し…………」
「先輩?……寝たか。……こんな先輩初めて見た。雰囲気もなんかおかしかったし……少し様子見ておくか」
何時もならば淡々と呪詛師を始末して何でも無いように帰ってくるのに、今日は何だかおかしい。ましてや非術師が呪詛師に見えるとなると異常にも程がある。龍已は分別が出来る人だ。時には冷酷だとか冷たいだとか思われるが、しっかりとした天秤を持っているだけだ。
非術師には自分と同じ目に遭って欲しくないという理由で呪詛師殺しをしていて、副次的に両親を殺した呪詛師を赦さないという感情を持っているが、今は後者の感情に引っ張られているように思える。
家入は強く龍已を抱き締めた。朝になったら何時もの龍已に戻っているようにと思いながら。今の龍已はとてもではないが正常とは思えなかったから。
五条
体術を教えてくれるようになった甚爾にボコられている。無限バリア張ったら負けを認める事になるし、甚爾がクソほど煽ってくるので使わない。使わないでボコすと決めている。今は全敗。
夏油
五条と同じく甚爾にボコられている。格闘術が趣味とは言ったが、こんなゴリラに勝てる訳なくない??動き見えないんだけど!
大丈夫。大体の人がそうだから。
伏黒暁美
甚爾が生きていて、仕事も見つけてくれて、何と言っても末期癌を治してくれた龍已にめちゃくちゃ恩を感じている。治したのは知り合いだと言っても、手配してくれたのだから変わらないと言って譲らない。
料理が出来て恵と津美紀に懐かれている龍已のことを、良いお嫁さんになるなぁ……とホッコリしてる。いや奥さん、その子男ですから。
甚爾
酒をカゴに入れたら撃ち殺されそうになった人。そもそも肝臓が強すぎて酔えないから酒嫌いとかほざいてる癖に飲むな。
呪力にも術式にも恵まれた五条と夏油をボコボコにするのが楽しすぎる。それだけで非常勤講師になって良かっと思っている。体術の時間は全く本気じゃない。
津美紀
龍已のことを優しいお兄さんだと思ってる。とても善人思考のお姉ちゃん。子供には無表情で怖がられる事がしばしばある龍已だが、何故か最初から津美紀に懐かれた。
津美紀曰く、とっても優しい雰囲気だったからとのこと。津美紀ちゃん。その人……黒い死神よ??
恵
伏黒家を保護すると言ってやって来た五条がデリカシー無かったので龍已のことも警戒したが、お土産くれるし料理上手いしちょっかい掛けてこないし優しいので尊敬してる。でも五条、テメェはダメだ。
五条は恵から五条さんと言われているのに、龍已は龍已さんと下の名前で呼ばれている事に不満を抱いている。何で??気付かない時点でアウト。
ちゃっかりヒモの血を出してきた。んもー、カワイイなぁ……だから原作でヒロインって言われてるんだよ??
家入硝子
なんか龍已が可笑しかったので抱き締めてあげた。胸にかかる息がこそばゆいが、抱き締め合いながら眠るのヤバすぎ。龍已が可笑しいけど、もっと堪能していたい。
落ち着ける場所として龍已に心を完全に許されている勝ち組。良かったね、君が誰かに殺されたら龍已が壊れるよ!
龍已
最近忙しくて呪霊を祓うのと呪詛師殺しを立て続けに受けており、大切な非術師と呪詛師の境界線が壊れかけた。何でだろうか。
家入さんが居てくれなかったら、内心ではとんでもないことを考えている黒圓龍已ver2.0とかになってたかも知れない。
龍已くーん?非術師が呪詛師に見えるんじゃなくて███が居ないから非術師まで呪詛師に見えてるだけだから!!