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「──────なんだあの人!?」
「あれ、ランボルギーニ……?」
「生ランボルギーニ初めて見た……ッ!!」
「ここで待ってるってことは、誰かの彼氏とかお兄さんだったり!?」
「ウソっ!?誰の!?」
「ふはッ。迎えの車すごいですね、先輩?」
「……友人から(無理矢理)譲り受けただけだ。買っていない」
黒圓龍已は後悔した。何で彼女の大学の迎えにランボルギーニのアヴェンタドールを乗って行かなくてはならないのかと。
目立つのがそこまで好きではない龍已が、こんなクソほど目立つ車を乗ってきたのは数時間前に遡る。
「よっす龍已!久しぶりー!」
「最後に会ったの半年くらい前だっけ?」
「年始に帰って来たんだから約4ヶ月前でしょ。バカケンちゃん」
「飲み物とお菓子用意してあるから早くおいで!」
「あぁ。数ヶ月振りに会えて嬉しい。お前達も元気そうで何よりだ」
龍已は天切虎徹の屋敷にやって来ていた。任務で近くに居るということで、ついでに寄っていったのだ。数ヶ月振りとなる親友達と会えて、龍已も嬉しそうだ。
ケン達はそれぞれ高校を卒業してから大学に入った。分野が異なるので違う大学であるのだが、地元からはそう離れていないので集まろうと思えばいつでも集まれた。皆がすっかりと成人を迎えており、もう21だ。酒も飲めるので、時々皆で集まって親友達だけの飲み会を開いている。
子供っぽさが抜けて大人な感じが出て来た親友達に手招きされて虎徹の家に上がり、変わらず取っておいてある龍已の部屋に集まった。お菓子とお茶が用意され、寛ぎながら食べて適当な話をしていた。
「いやー、大学入って3年だけどさー。ヤリサーって本当にあるんだな」
「わーかーるぅ」
「入学初日は清楚なお嬢様みたいな美人さんがさー、日を追うごとにおかしくなるんだよね。黒髪が金髪だわピアスだわギラギラのアクセサリーだわ~じゃね?口調だわ。チャラい男4人連れて歩いてるの見て確信したね」
「まあ、女性にも色々あるんじゃないかな?僕は何となく大学に行ってるだけだから何とも思わないけど」
「虎徹興味なさ過ぎて草」
「大学は大学で大変なんだな」
大学には行かず、呪術師と呪詛師殺しとして活動している龍已は、大学に通う親友達に大学デビューしてチャラチャラしてる奴等が目に入ってウザいと教えられる。そういった者達が苦手な身からすれば、なるほど……と納得してしまう。
口々に不満を吐くケン達なのだが、もうこの話はつまらねーからやめようぜという声で止まった。次に出された話題は車についてだった。龍已が近くに居るから寄っていくと聞いたケン達は、予定が無いからという理由で態々集まってくれたのだ。それぞれが車を運転して。
「やっぱプリウス良いわ。静かだし燃費もいいし」
「俺は奮発してジムニーだなぁ」
「バイト始めたときからアクア買おうって決めてた」
「僕は家に置いてあるのを適当に乗ってるかな。あ、それで思い出したんだけど、誰かもう一台車要らない?誰も乗らないのがあるんだけど」
「何てやつ?」
「ランボルギーニのアヴェンタドール」
「いや要らねぇ……」
ゲンナリした感じでケンが要らないと口にした。続いてカンもキョウも要らないと口にしている。大体5000万はする高級車をタダで貰えるというのに、口を揃えて要らないと口にする彼等は絶妙にイカレていた。
因みに、虎徹の家の広い車庫には超高級車しか置いていない。中には数億円もするものも存在している。ただし買っているのは乗るためでもなく、一目見て欲しいと思ったから買っているだけだ。虎徹の父親が。
自身で買った車があるから要らないと言って断られた虎徹は、何故かニコニコと笑っていた。その時価数億円の価値がある美しい女性が描かれた絵画よりも美しい美貌を持つ虎徹に、龍已は何となく嫌な予感がした。その笑顔は絶対何か企んでいる時に浮かべるものだと。
「じゃあ龍已はどう?」
「……別に必要だとは感じていない」
「けど高級マンションの最上階に引っ越したんだよね?駐車場あるでしょ?」
「……移動は補助監督の鶴川さんにやってもらっているから大丈夫だ」
「プライベートには必要でしょ?彼女の家入さんを乗せてドライブとかできるよ?」
「それは……」
「まあ、もう龍已の名前で保険に入れてあるから龍已の車なんだけどね?」
「今までの話は一切意味なかったな」
「それは草」
「あっはははは!!勝手に保険入れられてるし!!」
「まあまあ、免許無い訳じゃないんだから貰っとけって!」
最初から問答の意味がなかった。既に、どういう手を使ってかは分からないが保険に入れられていて、もう龍已の車ということになっていた。無表情で遠い目をしたのは仕方ない。もちろん、車の免許はマニュアルを取っているのでしっかりと乗れる。少しペーパー気味なところがあるが、彼の身体能力の吸収力ならば問題ない(適当)。
ただでさえ呪具で何十億と払ったのに、今度はランボルギーニの金を返済しないといけないのか……と少し落ち込んでいると、雰囲気で察した虎徹は、これは日頃から頑張っている龍已へのご褒美としてプレゼントするから、お金は要らないと言っていた。プレゼントであげる代物ではない。
「……ありがとう。大切に使わせてもらう」
「オイル交換もタイヤ交換も何もかもやってあるから長持ちするよ!ついでにガソリンを満タンにし続ける呪具を設置してあるから!」
「俺達のもやってもらったんだぜ!」
「呪具マジ便利」
「虎徹ママ最強」
「……車好きならば喉から手が出るほど欲しい呪具だろうな」
「えへへ」
こうして龍已は、新品でガソリンが半永久的に減らないランボルギーニを手に入れたのだった。
「へー。天切さんハンパねー」
「世界最高の呪具師だからな。基本何でも造れる」
「いつか先輩の親友さん達に会ってみたいです」
「あぁ。必ず紹介しよう。俺も親友達に硝子のことをしっかりと紹介したい」
「なんて紹介するんです?」
「俺が初めて心の底から愛した女性だと」
「ふはッ。なにそれ照れる。ま、私の先輩に対する愛情には負けますけどね」
ランボルギーニを手に入れた事情を、運転しながら家入に話すと、面白そうに笑っていた。普通こんな高級車プレゼントするかね。金持ちの金銭感覚ウケる……と。それには同意している龍已だが、彼も金銭感覚がおかしくなっていることに気が付いていない。
前にテレビを見て、高級のコーヒーメーカーが映り、欲しいなとぼそっと呟くと、耳の良い龍已はしっかりと捉えて買うか?と聞いてきた事がある。因みに値段は10万を超えていた。高級のやつで作ったコーヒーがどんなものなのか気になっただけだから大丈夫ですよと断った家入だが、翌日同じ物をプレゼントされた時は目を丸くした。
別にそこまで欲しいと思った訳ではなく、何となく気になっただけなのだが、態々購入して次の日には届けさせたらしい。めっちゃ愛されてんじゃん私。ウケる。と呟いたが、こりゃ不用意に欲しいって口にできないなと思った。正解である。
「先輩」
「何だ?」
「折角プライベートに使える車が手に入ったんですから、今度2人でドライブデートしましょ」
「あぁ。行きたいところがあったら教えてくれ」
「私は先輩と一緒ならどこでもいーですよ」
「それは……困ったな。なら温泉旅館でもいいか?」
「おっ、イイですね。部屋に備え付けられてる温泉に先輩と一緒に入りたいです」
「……逆上せそうだな」
「ふふっ」
運転している龍已の腕に、邪魔にならない程度に軽く頭を寄せて寄り掛かる家入に、彼はとても幸せそうな雰囲気をしていた。旅行に行くとしたら電車などを使っていた2人なのだが、プライベート用の車を手に入れた事で行動の幅が広がった。
心の中でそっと、プレゼントありがとうと親友に送ると、頭の中でニッコリとした美しい笑みを浮かべる親友を想像した。車の免許も取って、車も貰って良かったと、そう思う龍已であった。
「──────やぁ、硝子。元気してるー?」
「お前の顔を見るまでは元気だった」
「えーなにそれ。僕みたいなGLG滅多に居ないよー?目の保養くらいにはなるでしょ?」
「ならねーよ」
「ま、実際のところ、僕先輩よりも顔良いし」
「は?死ねよ」
「うわ、ガチトーンだ」
無言で医療用メスを手に取って刺しにくる家入に、無限を張りながら和やかに会話をしている五条。全部目を狙っているので六眼の価値分かってんのかー?と問いたい五条であった。
家入は大学が休みの日であり、珍しく傷の手当て要請もない完全な休日だった。なので転がり込んだ高層マンション最上階にある龍已の部屋に居た。昨日の夜は恋人らしい夜の営みに耽って、少し怠い最高の朝を迎え、愛しの龍已に軽い朝食を作ってもらってあーんして食べさせてもらい、任務に行く彼からいってきますのちゅーを与えられ、淹れてもらったコーヒーをゆったりとしながら飲んでいたのだ。
なのにチャイムが鳴らされ、壁に取り付けられたモニターを見て誰が来たのか見て確認してみると、同期の五条だった。出るとメンドいからいいやと放っておこうとしたら、居るのは知ってると勝手に喋り始め、なら開けてやらなければいいやと思えば、早く開けないと玄関扉壊すと言いだした。
流石に玄関扉を壊される訳にはいかないと、盛大な溜め息を吐きながら渋々開けた。五条は壊すと言ったら本当に壊すし、言わなくても壊す。ちゃんと弁償すればいいでしょー?と平気で言ってくる男だ。でなければ居留守で終わらせてた。
「それで、何の用だ五条。私は先輩との愛の巣にお前を入れたくなかったのに」
「そう邪険にしなくてもいーじゃーん。割と真面目な話だからさー?」
「はぁ……それで?」
「あ、その前にお土産~♡今話題のスイートポテト!お土産の他に1つ試しに買って食べたら丁度良い甘さでさ!やみつきになっちゃったんだよねー!」
「私が甘いの好きじゃないって分かってて買ってきたのか?」
「んー?これは僕が食べるために買ってきたやつだよ?」
「最初に土産っつったの忘れたのかよクズ」
「も~。そんなに怒らなくてもいーじゃーん。これとは別に高級のコーヒー豆と50万以上はするお酒買ってきたから許してよ」
「さっさと寄越せ」
後ろ手に隠していた箱と酒の瓶をぶんどっていく家入に、五条はずっと口元で笑みを浮かべているだけだった。コーヒーメーカーのところに貰った高級のコーヒー豆の入った箱を置き、酒は冷蔵庫に入れて、飲む時用のグラスも2つ一緒に入れた。先輩帰ってきたら一緒に飲もうっと……と、考えてリビングのソファに腰掛ける。
五条も適当なところに腰掛けて、テーブルの上に買ってきたというスイートポテトの箱を置き、開けて中身を摘まんで食べ始めた。連絡も無しに来て早々上がり込み、自分で買ってきたものをむしゃむしゃ食べ始める五条に溜め息だけ溢すと、コーヒーの入ったカップを持ちながら目線で何の用だと訴える。
その目線を受けて、もう既に残り少ないスイートポテトを早くも食べ終えると、胡座をかいた膝の上に腕を置いて指を組んだ。雰囲気から確かに少し真面目な話だなと察した家入が、聞く姿勢を整える。
「呪術界の上層部共は根っこから腐ってる。腐ってるのに厭らしくずっとトップに君臨するもんだから、生る芽も腐っていってしまう。腐った蜜柑なんて誰も食べないのにねー?」
「……上層部が腐ってるのは今に始まったことじゃないだろ」
「そっ。だから僕も対抗して、強く聡い呪術師を育てて今の呪術界を根刮ぎ変えよーと思ってさ。その手始めに、僕が高専の先生をすることにした」
「……は?高専の先生?無理だろう。お前はものを教える立場に向いてない」
「まあ、僕も自分でガラじゃないってのは重々承知してんだけどねー。腐った蜜柑共を見てるとそうも言ってられないのよ、これが」
「で、私に何をしろと?言っておくが私は治すのが専門で教える立場に立つ気は無いからな」
「違う違う。用が有るのはセ・ン・パ・イ♡」
「先輩に?」
家入が疑問を抱いていると、何となく言いたいことが分かった。五条が言う立ち向かっていく為の仲間作りに、龍已も噛ませようと言うのだ。確かに、五条は適当なところがあるので教師には向いていないのだろう。実際自分でもそれを感じているようだし。その内領域展開見せてコレが領域展開だよ……で終わらせそう(正解)
だがしかし、それは少しどうしたもんかとも思う。龍已の裏の事情を知らない五条は、日本に3人しか居ない特級術師を、それこそ五条すらも認めるほどの強さを誇る龍已を教える側に持っていければ、どんな生徒が育っていくのか楽しみだろう。
確かに龍已が居れば大分いい感じになりそうなのは想像がつく。しかし家入からしてみれば、龍已の疲労が貯まっていく原因をむざむざ作りにいく無駄な行為にすら思えてくる。特級術師として毎日大仕事だというのに、夜は黒い死神として動いている。そこに教師という役職を与えれば、また
つまるところ、家入は龍已の教師という道を賛成しかねている。異変については誰にも言うことができない秘密。黒い死神はトップシークレット中のトップシークレットだろう。それに他者に漏らさないという縛りをしているので、いくら同期の五条といえども話せない。
というより、何故五条は態々先輩が住んでるこの場所に来たんだ?と今更になって気が付いた。普通に見つけて話すなりすれば良いのにと。
「メールでも電話でもすればいいだろ」
「それがさー、センパイヒドいんだよー?なんか僕のメールアドレスと電話番号を着信拒否してるみたいでさ。伊地知脅し……頼んでも携帯貸してくれないし、灰原と七海すらも貸してくれないしさー。公衆電話使うのはなんか嫌だし、こうなったら直接行ってやろーって思って来たワケ」
「……あ、先輩の携帯でお前を着信拒否にしたの私だった」
「何で??」
「碌でもない内容送りつけそうだったし、先輩の優しさに甘えて振り回しそうだったし。あと伊地知とか灰原達に携帯貸さないように言ったのも私だった」
「だから何で??」
「自分の仕事を先輩に丸投げしそうだから」
「しないよ!!」
いや絶対やるだろ。同じ特級術師で強いって分かっててそこらの呪霊に負けないの知ってるんだから。と、心の中でツッコミを入れた。結構正解。
あれ全部硝子が手を回してたのかよ!と騒いでいる五条を無感情に眺めながら、カップに入ったコーヒーを啜った。けど、まだ話は終わっていない。龍已を教師の道に引き入れたい五条と、これ以上疲れる理由を作って欲しくない家入が反発している。
任務に出ている龍已を捕まえようとしないのは、恐らく特級術師として忙しくて全国を飛んでいるので入れ違いになるのを面倒くさがっているのだろう。最終的に折れて諦めてくれれば御の字なのだが、呪術界の変革という大きな目的が控えているならば諦めないことは分かりきっている。
「はぁ……どうしようかな」
「どしたの?」
「何でもない。取り敢えず直接話してこい。めんどくさいからって任務先へ行かないとなると、どれだけ先に持ち越されるかわからないぞ。先輩も特級だから忙しいし」
「だっよねー」
「──────というわけで来ちゃった♡」
「1級呪霊の前でよくその台詞が言えたな」
山の中にポツンと建てられている廃屋の前で、風船のように膨らんだ体に腕だけが生えている1級呪霊が居て、今から祓おうという時に空から隣に降り立った五条に呆れた雰囲気になる。
家入から着信拒否にしたのは自分だとカミングアウトされながら、直接会ってこいとアドバイスを受けた五条は早速龍已の今日の任務を調べ上げ、次の任務先へとやって来た。五条程の呪術師ともなれば、相当遠くに居ても龍已の気配と呪力を察知できる。後はその場まで飛んでいけば良いだけなのだ。
同じ特級として忙しいはずの五条が、態々何の用でやって来たのかいまいち解っていない龍已は、1級呪霊に向けて『黒龍』の銃口を向けながら顔を彼の方へ向けた。
「一体何の用だ?五条」
「それよりもアレ祓っちゃいなよ。んで、祓い終わったら一緒にお茶しよ!」
「……終わった。それで、どこにお茶をしに行くんだ?」
「んふふ。素直についてきてくれるのセンパイだけだから嬉しいよ。なーんか皆、僕が誘うと断るんだよねー。こんなGLGとお茶できるなら役得だと思うんだけどなぁ。あ、跳ぶよ」
「……ん?おい待て。鶴川さんを置い──────」
いやもう普通に間に合わなかった。
肩にポンと置かれた手と、シレッと言った瞬間移動発言に驚いて止めようとするも、術式の行使が最速なだけあって気が付いたときには喫茶店が下に見える場所だった。つまりは建物の屋根上。眼下に広がる光景に、龍已は静かに補助監督として一緒に来ていた鶴川へ電話を掛けた。
位置情報で得た住所が車で30分以上掛かる場所だと発覚すると、はぁ……と溜め息を溢す。五条に跳ばされて今の場所に居ると説明し、電話越しだが謝罪すると、鶴川は苦笑いをしながら大丈夫ですよと言ってくれた。何か甘い物を買っていこうと決めながら、さっさと下に降りていく五条に続いて飛び降りた。
無限を使ってふんわりと着地した五条と、何の力も使っていないのに音も無く猫のように着地した龍已を偶然見掛けた非術師が、これでもかと目を瞠目させて驚いていたが、まあコレは仕方ないということにしよう。
190以上の長身で脚の長い顔立ちが非常に整った丸いサングラスを掛けた五条と、180以上の身長にピクリとも動かない表情ながら寡黙でそれなりに整った精悍な顔立ちをしている龍已が喫茶店に入ると、店員である女性はギクシャクしながら席に案内してくれた。女性客の視線を集めていることを自覚しながら、2人はメニュー表を覗き込んだ。
「この喫茶店のね、モンブランがチョー美味しいからセンパイも食べてみて!」
「では、そのモンブランと珈琲でいい」
「じゃあ僕はモンブランとアップルパイを2つずつで、飲み物はクリームソーダかな!」
「全部甘いな。甘党の五条らしいが」
「甘いの好きだからね」
呼び鈴を鳴らして店員さんを呼ぶと、偶然席に案内してくれた女の子だった。まだ若いのでバイトの子だろう。明らかなイケメンと寡黙な整った顔立ちの男の2人を相手にして、バイトの女の子は顔を赤くしながら噛み噛みでオーダーを取ってくれた。
ギクシャクしてロボットみたいな動きしながら注文を伝え、すぐに頼んだものが来た。直角にお辞儀をして下がろうとしたバイトの子に、お持ち帰りでモンブランを1つ龍已が頼むと、かわいそうなくらい慌てて注文を取ってくれた。
五条は龍已がテイクアウトをしている間にモンブランを食べ始めていた。アップルパイと合わせて4つもあるので、見ているだけでも喉の奥が甘い。硝子が居たらゲンナリしてそうだな……と思いながら、フォークで自分の分のモンブランを取って食べると、確かに美味かった。
「それで、態々任務先まで来てどうした?」
「んんっ……そうそう。センパイにちょっとお願いがあってさー?」
「何だ?」
「センパイ大学に行って教員免許取ってきてくんない?」
「……………………………は?」
「僕と一緒に高専で呪術を教えて、将来の呪術界を背負って担う優秀な子を育てる教師をして欲しいの♡」
「……俺が教師?」
「そっ」
刺したモンブランを食べて、口から抜き取ったフォークで龍已のことを指して肯定した。教師になってもらいたいと。てっきり海外に任務で行くから今残っている任務を全部引き継いで欲しいと言ってくるのかと思った(普通に最悪)。
モンブランを食べてアップルパイに移行し、バクバク食べている五条の言葉を飲み込んでよく噛み砕く。どういう意図があって教員の免許を取って教師になれと言っているのかはイマイチ不明ではあるが、何も意味がなくそんなことを言ってきたりはしないだろう。ましてや任務先に。
しかし教師か……と思う。呪術師である自身に頼んでくるということは、確実に就く場所は高専だろう。それはまあ良いとして、自身には呪術師の他にやらなくてはならないことがある。それが黒い死神としての呪詛師殺しだ。
ある日を境に、家入から疲れが溜まったなと思ったらどんな理由があろうと休むことと言い付けられている。絶対に守るように。健康のためだからと力説された。医療について勉強している家入の言葉なのだからそうなのだろうと納得して、疲れたなと思うときは休むようにしている。
だが、昼間は呪術師と教師。夜は呪詛師殺しをして、果たして身が持つのだろうか。体力には自信があるが、いつまでも続くともなれば絶対に疲労が蓄積していく自信がある。つまり家入の言いつけを破ることとなる。五条か家入かと問われれば、残念ながら家入を取る龍已は、これは流石に仕方ないと思い断ることにした。
「すまないが五条、俺は教師になれない」
「良かったー。じゃあ東京内でいい感じの大学こっちで探しておく……え?」
「教師にはなれない」
「……何で?僕はてっきりオッケーしてくれると思ってたんだけど。……あ、目的を言ってなかったね。僕は教師になってこれからの呪術界を担っていく呪術師を育てたいんだよね。それにセンパイも噛んで欲しいワケ」
「なるほど。だがそれでも、俺は教師になれない」
「あれー??」
五条は首を大きく捻った。てっきりすぐにオッケーが出ると思っていたのに。しかし現実はきっぱりとしたノーだった。未来の呪術界を担っていく呪術師の卵を育てるという、結構大事な役目だと思うのだが、それでも首を縦に振らなかった。
アップルパイが刺さっているフォークをプラプラと揺らしやがら、顎を引いて丸縁のサングラスの上から龍已の事を見る。別に他人に何かを教えることが向いていないと、彼の口から訊いたことはない。灰原や七海も教えるのが上手かったと言っていた。だから教えることには向いているのだろう。
ならば何故断るのか。目的を言っても断るほどの理由。そんなものあったか?と思い返してみても、特に思い至ることはない。そんなに重要な事ならばすぐに耳に入ってくるだろうから。つまり、自信の耳にも入っていない何かしらの大きな理由があるはずだ。それを先ず知らなくてはいけない。
「何でダメなのー?ちょっと僕に教えてくれない?」
「あまり疲労を溜めるなと硝子に言われている。だから無理だ」
「……硝子かよッ!!」
「それに先程、メールで硝子に『五条に何か頼まれても全て断ってくださいね』ときた」
「硝子ッ!!」
大きな理由……確かに大きな理由だなセンパイにとっては!と、頭を抱えながらつい声を大きくしてしまった。喫茶店の中で大きな声を上げれば他の客の目を引いてしまうが、サングラスを少し下げて和やかに笑えば、多くの女性客が顔を真っ赤にして頭を下げてしまった。顔面宝具か。
五条は素知らぬ顔をしながらやる気のないピースをしている家入を幻視した。何てところで手を打ってくるんだ俺の同期はと心の中で愚痴りながら、そもそも重要なことだってさっき話したじゃん!とも心の中で叫んだ。
どうやら龍已を教師の道に引き摺り込むには、まず彼の中でかなりの優先順位を獲得している家入をどうにか説得しないといけないらしい。まだ振り出しじゃん……とぶつくさ言いながら、最後の一口であるアップルパイを口の中に入れた。
五条の敗北の味は林檎の酸味だった。家入は龍已のマンションの一室で、携帯を開きながら静かにほくそ笑んでいた。
家入硝子
あの時のようにさせないために、龍已に適度な休息を入れることを約束させている。自分が愛されているから、言った事を律儀に守ることを確信しているので五条が説得に失敗することは大体予想がついていた。けど、ダメ押しでメールしておく。
冷蔵庫に入れた高級な酒を早く飲みたくてウズウズしている。だから早く先輩帰ってきてーと思ってる。勿論酒豪。龍已と2人で飲み比べした龍已がぶっ倒れたのに、彼女は余裕だった。
龍已に何か大事な頼みをする場合に壁としてそそり立つのが彼女なので、まずは彼女を説得しないとダメ。
黒圓龍已
1級呪霊を祓おうとしているところに突然五条が来て何かと思ったが、まさかの教師をしてくれという話だとは思わなかった。けど、引き受けたら確実に疲労が増えると思ったので断った。
喫茶店に入って五条が殆どの女性の視線を集めていたが、彼も少しは視線を受けていた。寡黙で整った顔立ちをしているタイプが好きな女性にはドストライクだろう。
余談だが、喫茶店を出たらしナンパされたが、交際している女性が居るから無理だとしっかり断った。
五条悟
まさかまさかの教師の話を断られるというのを経験した。しかもまずは家入を説得しないといけないという状況になってしまったので、また高い酒を買おうとしている。物で釣れるとは思わないけど持っていかないと多分キレられると悟っている。同期なだけある。
この時はまだ包帯を巻いていない……ということにした。サングラスだけじゃ顔が良いのを隠せていないので道行く女性の心をキャッチする。
ランボルギーニ『アヴェンタドール』
数千万する高級車。色は黒に塗られている。虎徹からタダでプレゼントされた。それにちょっと特殊な呪具を設置されており、ガソリンが無くならない。ランクとしては4級呪具。
虎徹の家に置いてあった理由は、海外に居る虎徹のお婆ちゃんからの贈り物。持ってこられた時は血塗れで、弾痕もあった。それを説明された龍已だが、お婆ちゃんの職業についてなんか聞いたらダメな気がしてスルーした。
天切虎徹
龍已が頑張っているから何かプレゼントしよう。何が良いかな……ランボルギーニにしよう!ってなった大金持ち。ガソリンが無くならない呪具を造るなんて朝飯前。寧ろ朝飯食べながら造った。
龍已から返済されている呪具の代金の何十億という金は、全て虎徹が個人で作った龍已用の口座に貯めている。だから実際は金を一切受け取っていない。いざという時の為に貯めて、全部返してあげようとしている。何十億というか、何百億。