呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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第三十七話  五条の頼み

 

 

 

 

「──────センパ~イ。ねっ、僕からのお願い♡」

 

「何度も言っているだろう?五条。硝子に言われていてこれ以上疲労を溜め込むようなことはできん。ましてや特級になってから任務の量が俺の心を折りに来ている。教師なんてものをやっている暇は無い」

 

「じゃあ僕と任務の量を分担しようよ!それにさぁ、どうせセンパイに出されてる任務の半分くらいは上の腐ったミカン共が出した嫌がらせでしょ?黒圓無躰流を教えないから~って。特級が出るべきじゃない2級や1級程度の任務もあるから、そこら辺は僕が調整してあげる。だから、ねっ?」

 

「硝子に言ってくれ。俺が話に乗ったと知られれば、怒られるのは俺だ。好きな女性にむざむざ怒られるようなことはしたくない」

 

「健気だねぇ。けどホンット……硝子が壁になるなぁ。我が同期にして恐ろしいよ。あのセンパイを無条件で動かせる存在だからね」

 

 

 

 2級呪霊祓除の任務にマンションから2時間の場所へやって来ていた龍已の隣には、ポケットに手を入れたまま廃病院の中を一緒に歩く五条の姿があった。メインの2級呪霊の他に、4級3級が複数確認できる中でしていていい会話ではない。

 

 しかし五条が無下限呪術で手を下さなくても、龍已の周りを飛んでいる3発の呪力弾が勝手に撃ち抜いて祓ってくれる。彼はただ隣を歩いて会話しているだけだった。任務は無いのかと問いたいが、自分以外の術師でも出来る仕事だったので他の者達に横流ししたらしい。特級が出張るものではないと。

 

 そうして今も高専の教師に勧誘している訳なのだが、これがまた頷いてくれない。しつこいと自覚しながらこれで4日目の張り付きだ。他の者ならば絶対にキレているか無視するだろうくらいにはずっと勧誘しているのだが、龍已は律儀にも一つ一つに断りを入れていた。その理由が家入との約束なのだが。

 

 薄い笑みを浮かべる五条は内心舌打ちしていた。目を覆っている白い布を少し下げて隣の龍已を見る。見られていることは視線で気がついているだろう事なので遠慮なく見させてもらった。

 

 呪力を細かく確認できる六眼で視れば、龍已の体を薄皮1枚分の呪力が覆っている。頼り無く弱々しい呪力に思えるそれは、実際のところ超高密度ながらに薄く張られたものだ。それも弱く見えるようにフェイクも混ぜている。最早癖だろうなと看破しながら、自身にも迫る呪力操作だと感心もする。

 

 誰にも教えられず、たった1人の力でここまでの練度にしたということを本人から確認している。この薄くしながら超高密度にした呪力は、自身の術式を視て考えついたと言っていた。無下限呪術は六眼が無ければ行使できない程、並外れた操作性を要する。それこそ原子レベルのものを操作する技術力を。

 

 その非常に細かくて繊細な無下限呪術を視て、やり方を覚えて今の呪力操作を会得したという。それもたったの2日で。怪物だと思う。素直に彼が誰かに殺されるところを想像できない。それくらい認めている。呪力も自身より多く、体術は誰かに負けたところを見たことも無い。伏黒甚爾でも手に負えないと言っていた。

 

 

 

 ──────だからこそ、そんなセンパイには高専に来て欲しい。そして僕と一緒にこれからの呪術界を背負っていく聡明な呪術師の仲間を育ててもらいたい。僕はちょっとだけ適当なところがあるから、センパイにカバーしてもらって、その強さを少しでも次世代の糧にしたい。だから硝子。悪いけどセンパイは貰っていくよ。センパイだけはどうしても外せないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳でぇ──────センパイをちょーだい♡」

 

「誰がやるかクズ。寝言は寝て言え」

 

 

 

 23時。龍已と家入が住んでいるマンションの最上階へ、五条が家入の説得の為にやって来ていた。今現在龍已はここに居ない。任務で福岡に行っているからだ。五条も任務があったが秒で終わらせて此処へ来た。

 

 優雅に日本酒をかっ食らっていた家入は、やぁ……と言って尋ねてきた五条を見て絶対出ないようにしようと居留守を使ったが(2回目)、開けてくれないと無理矢理入るよ?と静かに脅してくるので聞こえるように舌打ちしながら開けてやった。

 

 下戸な五条は酒を飲めないと知っているので、どう考えても常人ではついていけないペースで酒を飲む。家入が酒豪で酒が好きだということで、龍已がとんでもない量の酒を買って貯蔵しているのだ。因みに、龍已も飲むが家入程は飲めない。酒の席で付き合う時に飲む程度。普段は珈琲かお茶を飲んでいる。

 

 

 

「けどさ、割と真剣にセンパイを高専の教師にさせてくれない?あの強さを少しでも他者に教えられれば、優秀な呪術師が生まれるでしょ?」

 

「お前でも十分だろ」

 

「いやー、僕も外せない用事とかあるしさ」

 

「なら取り込もうとしている先輩の分もお前が気張れよ」

 

「無下にするねぇ。ぶっちゃけ何でそんなに頑ななの?何かそうさせない理由でもあるわけ?流石に怪しいよねぇ?」

 

「……………………。」

 

 

 

 目元を覆う包帯を指で引っ掛けて下に下げて六眼で見てくる。本当に真剣な話しであり、本気であるということは家入にだって分かっている。分かっているが、それとこれとは話が別だ。意地悪で許可を出していないのではなく、そう易々と許可する訳にはいかないのだ。

 

 数年前に龍已が倒れてから体や精神の不調を訴え、表に出て来た謎の人格。そんな、自身よりも龍已の事を知っているかも知れない奴から言われたのだ。多大な疲労やストレスを掛けるなと。掛けても解消してやれば元に戻るのだろうが、未完成やら何やらと不穏な言葉を聞いたら、おいそれと疲労を重ねさせたくない。

 

 家入は自身が本当に心から愛されている事を把握している。それを利用して疲労を溜めないことと約束させ、任務が重なると夜の散歩に連れ出したり、普段やってもらっている家事を代わりにやったりとケアしているのだ。そんな小さな事の積み重ねを繰り返し、今の安定した龍已が居る。

 

 はっきり言ってしまえば、家入は龍已のことを爆発すると何が起きてどれだけの被害を被るか分からない未知の爆弾と認識している。未完成が完成すると何が起きるのかは分からないし、何が起こされるのか考えたくもない。だがこの業界だ。碌でもないことは確実だろう。

 

 しかしその事を他者に話せない。家入だけが知り、家入だけが気をつけつつ管理をしなければならない。だというのに、五条は疲れる原因の労働を1つ増やそうとしている。医師免許さえ取れば自身も高専の専属医師として常駐できるので比較的目の届く近くに居やすいが、それでも疲労の原因は確実に増えるわけだ。

 

 

 

「僕だって結構譲歩していると思うんだけどなぁ。今嫌がらせで受けている任務を他の呪術師達に分けさせて、更には普通に受ける任務も僕がいくらか代わりに受けるっていうんだから。確かに教える教科や課外授業とかはやってもらうけど、任務出してる奴等には僕から言っておくよ。むしろ少しだけ総合的な労働量は減るんじゃないかな?」

 

「肉体的なことは別に気にしてないんだよ。問題は精神的な面だ」

 

「精神的な?センパイだよ?あのセンパイがそんな柔な精神構造してるわけないじゃん」

 

「教え子が自分の見ていないところで死ぬんだぞ。多少なりとも響いてくるだろ。お前は知らないだろうが、先輩はそういうところ結構気にしてるんだぞ。殉職した同期2人の墓参りは1度も欠かせたことはないくらいだ」

 

「呪詛師を狙った任務は絶対殺してくるのにねぇ。けどさ、それを言うんだったら普通の任務も結構同じじゃない?『窓』が事前に見つけるっていうのはあまりないよね。大体は犠牲者が出てから噂を聞き付けて現場に向かって呪霊でしたー☆って感じじゃん?『もう少し早く来ていれば』『後少しだったのに間に合わなかった』『『窓』の報告がもっと迅速だったら』……そんな言葉は何度も聞いてきた。けど、この業界はそんなこと言ってる暇は無いんだよ。後悔が無いことは無い。硝子が言っているソレはセンパイを教師にさせないための後付けだよね?腐ったミカン共は止まらないよ。だから僕達や次の世代の子達が止めるしかないんだ。その為の教師だ。その為の育成だ」

 

「…………………。」

 

「悪いけど硝子。()はセンパイの教師の件、諦めねぇからな」

 

「……そうか」

 

「……じゃっ!僕はこの辺で失礼させてもらうね!明日も任務で早いからさー。しかも1級ごときの。ほーんと特級の肩書きは安くないっつーの!困っちゃうよねー!」

 

 

 

 言いたいだけ言って、五条は両手を合わせる掌印を組んで瞬間移動をして消えた。部屋に居るのは家入のみ。腰掛けているソファに背中を預けて上を眺める。グラスに注いだ酒と氷が動いて、カランと音を立てた。それ以外には聞こえない。

 

 暫くそうやって上を眺めていただけの家入は目を瞑った。ほんの5秒程の短い時間だ。頭の中で葛藤と決断を浮かべて裁定を下した。もうこうなれば仕方ないかと小さく呟く。五条は1度言ったら頑固さで攻めて提案を通してくる奴だ。その強さ故に上の連中と交渉を持ち掛ける事だって出来る。

 

 あーあ、面倒なことになったな。そう心の中で愚痴ると、玄関からガチャリと鍵が外れる音がした。龍已が帰ってきたのだ。時計を見てみると、少しボーッとしていて20分くらい経っている。グラスに入った氷も溶けて小さくなり、酒が薄くなりながら分量を増やしている。それをグッと一口で飲みきり、前のテーブルに置いた。

 

 

 

「──────ただいま」

 

「おかえりなさい、先輩」

 

「……?五条が来ていたのか。残穢がある」

 

「正解です。流石ですね」

 

「まあ、この程度はな。……風呂は入ったのか?」

 

「入りましたよ」

 

「ならば、もう今日は歯を磨いて寝たらどうだ?」

 

「何でですか?」

 

「疲れている気配がする。もう寝て、ゆっくり休むといい。明日は任務が昼からだから、朝は俺が起こそう」

 

 

 

 黒を基調とした服を着た無表情のいつも通りの龍已が、テーブルに置いてある酒を持って片し始め、洗面所に行って家入用の歯ブラシに歯磨き粉をつけて持ってきた。手渡されたそれを握って黙って歯を磨くのを見届けた龍已は、キッチンの方へ行った。遅めの軽い食事である。

 

 レタスを水に晒して洗ってから皿に盛り付け、切ったトマトとキュウリ。最後にドレッシングを掛けてモッサモッサと食べ始めた。今日は野菜の気分のようだ。基本風呂は全てやることが終わって眠る前になってから入る。

 

 サラダを食べている龍已を尻目に、歯磨きを終えた家入が洗面所で口をゆすいでリビングに戻ってソファに座り、リモコンを持ってテレビをつけた。まだ寝る気は無いということか?と無表情で首を傾げた龍已は、サラダを食べ終えて食器を洗って乾燥機に入れてから、風呂へと入りに行った。

 

 風呂が早い龍已は10分程で出て来た。髪の毛も乾かして、家入に選んでもらった黒いパジャマを着て家入の隣へやって来る。が、ソファに座る前に家入が立ち上がって龍已の事をソファの前のカーペットを敷いた床に胡座をかいて座らせ、更にその上から座った。

 

 三角座りをしていると、腹部に逞しい腕が這わされ、軽く抱き締められる。背中に筋肉の胸板と割れた腹筋が当たり、風呂上がり故の高い体温が服越しに伝わってくる。自身と同じシャンプーの優しい香りが漂ってきて、ついうっとりとしてしまう。

 

 

 

「どうかしたのか?眠くなかったか?」

 

「いえ、ちょっと話があったので」

 

「どんな話だ?」

 

「……五条から誘われてる教師の話ですよ」

 

「あぁ。最近は非常勤でもいいと言われている。まるで甚爾(元ヒモ)のようで嫌だからと断っているが、硝子との約束があるから普通にその場で断っているぞ」

 

「はは、先輩は本当に私のこと好きですね。普通の彼氏はそこまできっちり守りませんよ」

 

「……そうなのか?」

 

「えぇ。けど、先輩のそういうところ、私は大好きですよ」

 

「俺も硝子の事が好きだ」

 

 

 

 酒が入っていて耳元でそんなことを言われると、ついつい体が熱くなって下腹部が反応を示してくる。今すぐ体の向きを変えて押し倒したい。が、今はそんなことをしている場合ではない。それは話が終わった後にしよう。

 

 頭を後へやって、龍已の肩に擦り付ける。そして頬に頬擦りをしてから、首筋にキスをして、教師の件は承諾して良いですよと耳に向かって囁いた。まさか家入の方から許可が出るとは思わなかった龍已が顔を向けると、ちょうど目を向けられていて視線が合った。

 

 至近距離で視線が合い、家入がグッと近付いて唇を合わせてくる。その時は目を閉じて、離れると目を開けた。いつも通りの家入の表情があるが、読み取れる気配は少し否定的なものだった。言うならば、本当は嫌だけど仕方ないといった具合だろうか。

 

 

 

「ちょっと色々あって考えたんですけど、五条が言う呪術界を変えていくには聡明で強い呪術師を育てる必要がある。その教師枠に先輩が居れば、大分心強いんじゃないかと思い直しまして」

 

「だが任務が……」

 

「そこら辺は五条がどうにかするって言ってたんで、全部やらせましょう。言い出しっぺなんですし」

 

「んん……まあ、良いのか……?」

 

「良いんですよ。適当な仕事したら私が言いますから」

 

「それは心強いな」

 

 

 

 任せて下さい。そういって家入は胡座をかいた龍已の上で体の向きを変えて横向きになり、膝裏と背中を支えてもらった。両腕を彼の首に回して抱き付いた。首筋に顔を埋めてすぅっと深く息を吸い込む。

 

 大丈夫。先輩ならば大丈夫だ。体調管理は自身が徹底的にするし、適度な休みも与える。五条に縛りをさせてでも、先輩に頼りすぎないように徹底させる。何が起きるか分からないから何も起こさせないようにしないといけない。

 

 では五条に連絡しておかないとな。そう呟いて抱き締めてくれている龍已の肩に顎を乗せながら、真剣な表情をする。本当は龍已の体に何が入っているのか調べたい。そして除去したい。本人には一切知らせてはならないと言われていることから、確実に何か居ることは知らない。

 

 この業界のことだ、知らず知らずの内に呪われていた……なんて事もありうる。しかし龍已はそういったものを気配で感知する察知能力が長けている。まず不意打ちは難しく、そして自身に掛かったものも察せられるだろう。それが機能していないということは、最早彼の一部となって組み込まれていると言っても過言無いかも知れない。

 

 

 

「もしもし。五条か?実はな──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどねぇ。そんなことがあったんか」

 

「大学つまんねーよ?思い入れなんも無いし」

 

「ケンちゃんもカンちゃんもあーいうの、本当に嫌いだもんね」

 

「僕はぁ……男からよく声を掛けられたなぁ……」

 

「虎徹は見た目絶世の美人だからな。仕方あるまい」

 

 

 

 夜の居酒屋。個室で5人の男達が酒を飲んで話をしていた。言わずとも知れた龍已と親友達である。偶然地元の近くで任務があり、その後に任務も仕事も無いということで帰りに会えるかどうか親友のケン達に聞いてみたところ、それなら折角だし飲みに行こうということになった。

 

 飲み始めてから1時間は経った頃、皆がいい感じに酒が入り、話も盛り上がっていた。龍已は既にメールでのやりとりで話したが、直接の報告として、今色々とあって呪術高専で教師としてものを教える立場になった事を教えた。

 

 最初こそ教員免許を取ってもらうために大学へ行ってもらおうとしていた五条だが、高専で教員免許は別に要らないと夜蛾に忠告されたので、ならいいや。それならそれですぐに教師として教鞭を執ってもらえるから万々歳だねと軽かった。危なく特に意味も無い大学に行かせられるところだった。

 

 五条は変に適当なところがあるので、今度から確認しようと思ったのは記憶に新しい。そして彼は間違えたとしても軽いノリで済ませてしまうので余計に質が悪い。家入は医師免許が欲しいので通っている。ズルをして早く取ると言っていたが、どう取るのだろうか。

 

 

 

「んー……龍已ぁ……膝枕してぇ?」

 

「うん?酔いが回ったのか?いいぞ。ほら、おいで」

 

「ふふっ。わーい」

 

「あちゃー。最初に潰れたのは虎徹だったか」

 

「まあ、そこまで強くないしねぇ……」

 

「ごめんな龍已。ちょっとそのままにしてあげてくんね?」

 

「このくらいのことは気にしなくていい」

 

「えへへ……龍已の膝枕安心するぅ……」

 

 

 

 梅酒が入ったグラスを傾けていると、ぽすりと膝に重みが掛かった。隣に座っていた虎徹が体を揺らした後に傾いていき、膝に頭を乗せてきたのだ。5人の中でも1番酒が弱い虎徹が限界に来てしまったようで、顔をトロトロにふやかしている。

 

 膝の上に頭を置いて丸くなってしまった虎徹の頭を優しく撫でてやりながら、手に持ったグラスを再び傾ける。いつもはそんなにはならないんだけどな。と、ケンが言うが、4人は虎徹がこんな風になっているのは、久し振りに龍已と会えたからだと分かっているのだ。だから横になっている虎徹を優しい目で見ていた。

 

 龍已は各々好きな酒を飲んで、唐揚げを食べたり枝豆を店員に頼んでいる親友達を見て感慨深そうにしている。小学校からの付き合いだが、もう皆酒を飲んでいてもおかしくない歳になっている。時が経つのは早いものだ。

 

 本当は此処にもう3人追加したいところだ。交際している家入。そして今は亡き2人の親友達。その8人で飲んでみたいものだが、できても6人が精一杯だ。酒が入ったからだろうか、少しマイナス方面に考えがいってしまう。それを誤魔化すように、一緒に入って溶けた氷の所為で少し薄くなった梅酒を全て呷った。

 

 

 

「ケンは交際している女性は居るのか?」

 

「お?いきなりぶっ込んできたねぇ?しかも大体予想ついてんじゃねーの?」

 

「ぷふっ。ねぇ聞いてよ龍已。ケンちゃんがお気に入りの女優一ヶ月くらい前に熱愛スクープが上がってさぁ」

 

「しかも、最近になって結婚報告したんだよね!」

 

「その後のケンちゃんバカみたいに泣きながら『結婚相手羨ましいよぉ!何で俺は良い出逢いが無いんだよぉ!』ってクソガチ泣きしてんの!ぶっはははははははは!!」

 

「お前ら俺の不幸話ほんと好きよね?なんなの?喧嘩売ってる?買ってやろうかあ゙ぁ゙ん゙!?」

 

「あの、お客様……喧嘩をするなら外でお願いします……」

 

「あ、はい。すみません。喧嘩してないっす。……うっす」

 

「ブフォっ!?なんでそんなっ……萎れてんのあははははははははははははははっ!!」

 

「店員さんナイスすぎるぅっ!!あっははははははははははははははっ!!」

 

「お前らなァ……っ!!」

 

 

 

 相も変わらずケンが弄られ役になり、カン、キョウが大爆笑していた。いつもならば窘める役の虎徹は龍已の膝の上でダウンしているので、静かに見守っている彼しか居ない。だがその騒がしさが、龍已の心を落ち着かせてくれるのだ。久し振りの賑やかさを体験できて満足である。

 

 最近は地元に帰って来れていなかった。基本、仲の良い非術師である親友達を知られないためにフードなどで顔を隠して残穢が出ないようにもしている。それらを徹底した上で会いに来ているのだが、そもそも忙しくて会いに来ることができない。来れたとしても長居もできないのだ。

 

 呪術界にも慣れたものだなと、脈絡もなく思う。最初は黒い死神として活動していて、夜蛾に捕まってほぼ強制的に呪術高専に入れられた。同級生ができて親友になって、後輩もできて恋人ができて……。元担任現学長の夜蛾から、呪術師に後悔の無い死は無いと言われたが、自身の死は何時なのだろうかと考える。

 

 1年後か。10年後か。はたまたもっと先か。未来を視る術式を持たない限り分からない先の将来。自身やその周りがどうなっているのか分からない。そして自身の進んでいる道は酷く脆い。何か1つのきっかけで瓦解してしまう。しかしそれは他の者達には無いと言われると首を傾げる。

 

 大なり小なり訪れる苦しみや哀しみは違えど、皆同じ人生。その未来をより良くするために今出来ることを精一杯やるのだ。ならば、龍已にもそれは言えることだろう。

 

 

 

「はーっ。笑った笑った。お、やベぇ店が閉まる頃だ」

 

「会計しちまおうぜ」

 

「1人いくらか計算してー」

 

「ケン達は出さなくていい。ここは俺が払っておく」

 

「え?いやいやいいよ。一緒に払おうぜ?」

 

「俺は呪霊を祓うだけで報酬が入り、特級呪術師というだけでもかなりの手当てがついてくる。加えて仕事もしているから金は有るんだ。それに久し振りに会って楽しかったから、払わせてくれ。頼む」

 

「……んー……分かった!じゃあここは頼むな?」

 

「今度ラーメン食いに行こうぜ皆で!」

 

「その時は俺達が奢るよ!」

 

「……ありがとう。楽しみにしている」

 

 

 

 この場では龍已が奢る事になった。まだ大学を卒業して就職したばかりで、あまり金の面で裕福とは言えないだろうと思ったのと、親友達と昔ながらの会話が出来て癒された事への感謝として金を出したいと言った。まあ、任務と仕事と特級ということでの金でかなりの金額が振り込まれているので、使わないと勿体ないと感じているのだが。

 

 家だと家入の酒代とかにしか使わないので、偶には違うことにも使いたいところだった。ケン、カン、キョウの3人は最初に否定していたが、これは頑なだろうなと察して、次の時はラーメンを奢るという約束を取り付けて、この場は奢ってもらう事にした。

 

 会計を終わらせて店の外に出ると、冷たい風が肌を突き刺す。もう3月になる。学校ならば卒業するシーズンであり、来月には学校に入学又は学年を上げる月である。いよいよ教師をやることになると感慨深そうにして、親友達とその場で別れる。虎徹のことは龍已が送り届けると言って背中に背負っていた。

 

 今回はそこまでゆっくりできなかったが、今度来るときは休みでも取って、家入を混ぜて酒を飲み交わしたいものだ。龍已は背中に乗せている虎徹が腕を首に巻き付けて後頭部に額をぐりぐりと押し付けてくる感覚を味わいながら、庭のように熟知している道を歩く。同じように酔っている男達とすれ違い、虎徹だけで帰らせるのは危険だなと察した。

 

 本来なるば迎えの車でも来るところだが、今日は龍已が歩いて送っていこうと思う。同僚と飲みに来たサラリーマンや、飲んだ帰りの者達も少しずつ居なくなり、静かな夜の暗闇に居るのは2人だけになった。夜の暗闇は龍已の領域。その彼に全てを任せて背負われた虎徹。歩きながら夜空を見上げて、口を開く。

 

 

 

「……虎徹」

 

「んー?なぁに?」

 

「お前には数々の呪具を造ってもらったな。『黒龍』然り『黒曜』然り……1つ世に出すだけでも名を知らしめる事が出来るようなものを俺個人に出してくれている。本当にいくら感謝してもしきれない」

 

「…………………。」

 

「お前が親友で良かった。お前達が親友になってくれたのが、俺の最初の幸福だ」

 

「……()()()()()()()()()?」

 

「親友であり相棒のお前に頼む。俺の──────」

 

 

 

 冷たい風が強く吹いた。髪を靡かせ、着ている厚手の服を煽るような風。龍已が何かを口にし、虎徹はそれを酒が入って酔っていたとは思えない真剣な表情で聞き届けた。

 

 

 

「──────君はヒドい親友だよ。でも造ってあげる。だって僕は君の親友であり、相棒であり……世界最高の呪具師だから」

 

「……ありがとう」

 

「ホント……()()()親友だよ。でも大好きな親友から、そんな雰囲気をしながら頼まれたら断れないよ。僕が出来るのは、使われないことを祈ることだけだね」

 

「……重ねて、ありがとう」

 

「いいよ。……はぁ。明日から忙しくなりそうだなぁ」

 

 

 

 後から虎徹がキツく抱き締めてくる。少し震えているのは冷たい寒さ故だろうか。それ以外の理由だろうか。人一人背負いながら歩く龍已の、手首に巻き付けられた長いミサンガと、首に掛けられた高価な指輪が悲しそうに揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い木製の廊下を歩く。嗅ぎ慣れた匂いに懐かしさを覚え、任された場所へ向かって進んで行く。目的の場所に着いてドアを開ける。中から聞こえてきた声がピタリと止み、数人分の視線が自身に集中する。

 

 視線が集まっていることに気がつきながら、部屋の中に入って後ろ手にドアを閉める。歩き出して中央に立つと、手に持っていた物を置いて、口を開く。

 

 

 

「今日からこのクラスの担任となった東京都立呪術高等専門学校教師、黒圓龍已だ。俺も新米の教師であるが、呪術師としてはお前達より先輩にあたる。敬えとは言わないが、それ相応の弁えを持つように」

 

 

 

「はー?新米教師かよ。見た目若ェし、お前いくつだよ。ちょっと年上だからってあんま調子乗んなよ?俺舐めてっとぶっ殺すからな」

 

「なんか弱そー。お前から教わることはありませーん。職員室で煎餅でも齧っててくださーい。俺は適当になんかやっとくんでぇ」

 

「僕を新道家次期当主と知っててアンタが担任するつもり?分を弁えて消え失せて、代わりに五条悟を担任させろ。じゃないとアンタ、呪術界から消えることになるよ?」

 

 

 

「ふむ、()()()……か。俺は呪術師として先輩だと言った筈だが……お前達には無知の知という言葉を知った方がいい。だが、俺のことを知らんというのに教師として接しろとは言えんか。ならば、全員グラウンドに出ろ。是非とも大口叩くお前達の実力を見せてもらおうか。当然──────3対1で構わんとも」

 

 

 

 完璧な無表情で出席簿を開いて名前を読み上げ、それぞれの席に着く男子生徒3人に、汚れても良い服装になってグラウンドに来るようにと言いつけて担当するクラスから出て行った。

 

 

 

 

 

 黒圓龍已。4月から高専の教師を兼任することとなった特級呪術師であり、又の名も──────黒い死神である。

 

 

 

 

 

 







五条

この度、龍已を高専の教師の道へ引き摺り込むことに成功した。強いので絶対やってもらおうとは思っていた。黒い死神が呪術界に居ることは知っているが、それが龍已だと知らないので、任務を減らせば大丈夫でしょ?と思っている。彼に非は無い。

断られても延々と誘い続けて、家入が折れるのを淡々と待っているタイプだったので、許可して正解だと思う。それと、龍已に出された嫌がらせの任務は止めさせた。そしてやらなくてはならない任務も手分けしてやるようにする。




家入

龍已に負担を掛けたくないから断っていたが、五条が折れそうにないのと、あの事を言う訳にはいかないという事から逃げ道を無くし、条件を付けて許可した。もうそろそろズルをして医師免許を取り終わる。

彼女が龍已の体調管理をする。偶にオーバーワークのままで仕事をする時があるので、休むことも大切だと説く。




龍已

五条に言われるがまま大学に行こうとしたが、いかなくていいと知ってそうなのかと驚いた。やはり教師なので教員免許が無いとダメなのだと思っていたので、夜蛾は良い仕事をしている。

家入には相当心配されていると自覚しているので、疲れを溜めすぎないように気をつけている。最近の悩みは、活動すると殺されると分かっている呪詛師が増えて仕事が少なくなっていること。




親友達

龍已が地元に来たときは飲みに行くようにしている。結構疲れているだろうから癒されるようにと、昔と同じ会話をするように心掛けているが、いつの間にかそんなつもりはなくても昔のような会話に発展する。

自分達には彼女が居ないのに、龍已にはできていることには何とも思っていない。それどころか祝福している。もしかしたら一生独り身かも知れないと心配していたから。早く彼女の家入に会ってみたいと思っている。




高専に入学した男子生徒3人

2人は一般人上がりであり、1人に関しては暴走族副隊長だった。もう1人は天才肌で、何となく呪術を使っていた。最後の1人は呪術界の家系で次期当主。

全員龍已を舐めて掛かり、グラウンドに出ろと言われ、剰え3対1で来いと言われたので半殺しにしてやろうと息巻いて向かったが、呪力すら使われずにボコボコにされて医務室送りにされた。

その後、体術を教える非常勤講師の甚爾にもっとボコボコにされた挙げ句、話にならない雑魚の猿以下だと馬鹿にされて嗤われた。

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