呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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第四話  間一髪

 

 

 

「──────本当に送って行かせなくていいの?」

 

「あぁ、大丈夫だ。ありがとう。稽古として走り込みの要領で帰るからな」

 

「そっか……あ、じゃあこれ!一応ね!オモチャのやつをさっき買ってこさせたから受け取って?」

 

「オモチャの銃か……ありがとう。受け取っておく。じゃあまた明日」

 

「うん!」

 

 

 

 武器に予め呪力を籠めておくことによって、呪力が無い者でも呪霊を祓う事が可能になる呪具。その呪具を創る事で有名な天切家の生まれにして歴代最高の逸材である虎徹とパートナー契約を交わした龍已は、その後術式だけでなく、体に纏わせる呪力の精密な操作の練習もしようという話になり、呪力の何たるかを詳しく詳細に説明して貰って独自の特訓をしていた。

 

 小学校低学年であり、今先程細かい呪力の説明を受けたばかりの龍已には、まだまだ荒削りの、膨大な呪力にモノを言わせて無理矢理纏っているようなものなので、無駄に呪力を消費しないように抑え込む等といった練習をしていた。そうして虎徹の助言をもらいながら時間が過ぎ、帰る時間となる。

 

 まだ明るい時間帯だが、呪力があって術式もあり、更に武術を修めていてそこらの暴漢等屁でもない龍已だが、虎徹は龍已を車で送っていこうとした。稽古の一環として走って帰るつもりだった龍已は辞退した。決して、チラリとめちゃくちゃ長いリムジンが見えたからではない。決して。

 

 

 

「……呪力。術式。呪霊。知らないことばかりだ。虎徹と友達になれて良かった」

 

 

 

 黒いランドセルを背負いながら走って帰り、虎徹から手渡された黒いオモチャの銃を見下ろす。飛び道具を一切使ってはならない流派で、使うことは禁じられている。父曰く、銃は腑抜けが使うモノ。今自分は、ダメだと言われている事をやっている。天与呪縛が銃を介す必要があると縛っていなければ、恐らく一生使うことは無かった代物。

 

 使わないと術式が使えないのだから、仕方ないと言えば仕方ないのだが、龍已としてはとても複雑なものだった。走りながらオモチャの銃を手に馴染ませ、もし今の状況を両親が見たらどういう反応をされるだろうか。父は子供に見せられないような形相になってオモチャを取り上げ、叩き壊し、稽古を何時もの10倍の量にするだろう。弥生は……微笑みながら他に欲しい物は無いのか聞いてきそうだ。

 

 想像上の両親が、あまりに対極な反応を示してくるので、やはり銃の事は隠しておいた方がいいと結論付けた。そうして走ること10分程、公園を横切ろうとした時に、龍已はあるものを見た。それは公園に設置されている砂場の近くで立ち尽くす女の子と、その女の子の前で今にも襲い掛からんとしている呪霊だった。

 

 食虫植物のハエトリグサが溶けて、血走った目がそこら中についているような呪霊が、大きな口を開けている。女の子は逃げようともしない。いや、恐怖で動けないようだ。恐らく女の子は見える類の人。ならば仕方ない。龍已は目を細めて手の中の銃を呪霊へと向けた。

 

 

 

「すな……すすぅなぁ……すなぁあぁぁぁぁ……ッ!?」

 

 

 

「……ぇっ?」

 

「大丈夫か」

 

「い、いまの……」

 

「暫くは生まれないだろうが、生まれないとは言い切れない。もうこの公園は使わない方がいい」

 

「え……あ、待っ──────」

 

 

 

 手に持つ銃はプラスチックのオモチャだ。呪力を籠めすぎれば一瞬で砕け散る。それを見越して龍已はごく微量の呪力を撃った。小さな弾丸状の呪力は、吸い込まれるように呪霊の頭らしき場所へと撃ち込まれ、貫通して内部に入った瞬間に内側から爆発して弾け飛んだ。

 

 龍已の術式は呪力の遠隔操作。だから不規則な動きも出来るし、呪力を最後に弾けさせることが出来る。唯爆発させれば良いので、ぶっつけ本番だが出来てご満悦である。

 

 襲われていたところを助けられた少女は、信じられないような目を龍已に向けた。どうやら見えて、しかも呪霊を祓える存在に会ったのが初めてのようだ。だから話をしようとしたのだが、龍已は警告だけすると、その場から踵を返して走って帰ってしまった。その走りは速く、女の子は小さくなった龍已の背中を見ているだけだった。因みに、銃は壊れなかったが、あと一発撃ったら粉々になるぐらいの罅が入り、龍已は人知れず落ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍已っ!今回のやつはどうかな!?」

 

「……重いな」

 

「少し稀少な金属使ってるからね。ちょっと重くなっちゃった。けど、龍已の筋力なら大丈夫でしょ?」

 

「持てないことは無いな……あっ──────壊れた」

 

「うーん。今回のもダメかぁ。龍已の呪力出力に耐えられないなぁ……」

 

「すまん……」

 

「えっ!?なんで龍已が謝るの!一発で壊れる不良品造る僕が悪いんだよ!」

 

 

 

 龍已の術式が判明してから3年、龍已達は小学5年生になった。小さかった体も大きくなっていき、後少しで中学生になる。この3年で龍已は黒圓無躰流の8割程度を覚え、自分のものとした。筋肉も更について身体能力も向上し、小学校の運動会ではアンカーを走ってばかりだ。ケン達との交流も途絶えておらず、それどころか5年生になるまで全て同じクラスだった。

 

 虎徹も3年生の頃から同じクラスになり、仲の良い者達が固まっていた。光一は最初こそ普通に学校に来ていたのだが、あの日見た光景が頭の中で反芻し、小さなトラウマから大きなトラウマになってしまったようで、今では殆ど学校に来なくなってしまった。ケン、カン、キョウは人には見えないナニカが見える龍已という存在を知っていたので、ショッキングなものを見てしまったが、思い悩むほどのものではなかった。

 

 そして今、龍已は虎徹から術式を使っても壊れない銃の製作を手伝っている。呪具師の家系である天切家の呪具の作り方は門外不出なので見せられないと言われ、少し残念に思う気持ちもある。だが龍已はそれよりも、出来上がったものを試し撃ちして、壊れない銃が完成する時を密かに楽しみにしていた。

 

 念の為にと持たされている銃で、時々呪霊を祓っている龍已は、3級等の低級は何ともない。今では2級すらも余裕で祓っている程だ。残念ながら墓地近くの廃れた建物や夜の学校に行っても、1級呪霊は出て来なかったので、現段階では2級までしか祓った事が無い。因みに、威力調整を間違えて銃を壊した時は拳で祓った。

 

 

 

「それにしても……本当に龍已の呪力出力はすごいなぁ。今回のは自信作だったけど、あっという間に粉々だもん!あははっ」

 

「……何度もすまない」

 

「ふふっ。いいよ。だって龍已が壊せば壊すほど、僕は壊れない物を造ろう!って気持ちになって創造意力が沸くもの!」

 

「……それならいいが」

 

 

 

 既に虎徹は呪具師としての鍛練を積みながら、龍已の為の銃の製作に入っている。今のところは全く持ち堪える代物を造れていないが、龍已の為だけに呪具を造っているというだけで幸せなのだろう、造った銃を持ってくる時の虎徹はとても幸せそうだ。

 

 これまで数十丁の銃を造ってもらっているが、そのどれもが一発で砕け散っている。龍已の膨大な呪力と高い呪力出力に、銃が耐えきれない。先ずは呪力出力に耐えられる代物が無いと、龍已は相当な銃を持ち歩く事になってしまう。そうなれば、武術を使うときに邪魔になってしまうので死活問題だ。それが分かっているからこそ、虎徹も本気で取り組んでいた。

 

 

 

「──────龍已……宿題見せてくれ……っ!」

 

「……はぁ。またか、ケン」

 

「いやー、今回は俺もぉ……」

 

「アチキもぉ……」

 

「カンとキョウもか……」

 

「キョウ君のアチキは無視するの……?」

 

 

 

 所変わり次の日の学校で、龍已は3人に囲まれていた。深々と腰を折って頭を下げ、右手を差し出している。まるで一昔前の告白現場のようだが、言っていることは単純。やり忘れた宿題を見せてくれというものだ。

 

 龍已は基本帰ってきたら学校から出された宿題を終わらせてから稽古に励む。勉強を怠ると母が黙っていないからだ。虎徹も真面目な性格なので、龍已と同じく帰ってきたら宿題をやって、それから呪具造りを始める。2人は夏休みの宿題を直ぐに終わらせてしまうタイプである。

 

 それに反して3人は夏休み最後の日に慌ててやるタイプだ。というよりも、前々日位になって家を訪ねられ、泣きながら宿題を手伝ってくれと頭を下げに来た。流石の龍已もビックリである。まだ終わってなかったのかという意味で。その後はお察しの通り、虎徹の家に皆で泊まって宿題フィーバーである。

 

 

 

「頼むよ!な!?」

 

「何か買ってあげるからさ!」

 

「今日は何の気分!?」

 

「今日は……ザクザクの気分」

 

「駄菓子のカツ!!」

 

「金平糖!!」

 

「ガリガリ君!!」

 

「分かった分かった。ほら、国語と算数と理科」

 

「「「あれ……算数と理科も?」」」

 

「えぇ……3人とも宿題が出た教科すら覚えてなかったの……?」

 

「やっべ!?急げ!!」

 

「国語は俺が見る!!」

 

「算数は俺のだ!!」

 

「じゃあ理科は俺!!」

 

「えぇ……綺麗に別れたよ」

 

 

 

 机に座ってガリガリと懸命に宿題を写している3人に虎徹は苦笑いをし、龍已は仕方ないなぁと言わんばかりの溜め息を吐いた。しかしとても楽しい。龍已は1年生の頃の呪霊を指差した発言と、無表情が祟って全く友達が居ない。5年生になったのに友達と言えるのはケン、カン、キョウ、虎徹の4人だけである。同じクラスメイトは遠巻きに見たりするだけで話し掛けて来ないのだ。

 

 学校では片手で足りるくらいの友達しかおらず、皆が自身のことを敬遠としていると思っている。事実、呼ばれていることを教えられたり、確認するときに話し掛けられたりするものの、それ以外のことは全く話さない。だから嫌われていると思っている。

 

 だが実際は違う。龍已は確かに無表情が主で、精々眉を顰めたり等といった小さな変化しか起きないが、会話が成り立たない訳では無い。それはケン達と話しているのを見れば分かる。ならば何故こうも話し掛けられないのか。それは大体がケン達の所為である。ケン達は龍已の事を親友だと思っている。その親友を変な奴と決め付けて仲間外れにしたのは他の奴等だ。

 

 だから今更仲良くしようとしても、やんわりと邪魔をするのだ。今更何言ってんだ?とでも言うように。話し掛けようとすれば誰かが龍已に話し掛ける。遊ぼうと思って誘おうと思えば、ケン達によって既に遊びに出掛けている。放課後一緒に帰ろうとしても、既に連れ出されている。放課後に遊ぼうとしても、大体は虎徹の家に行って呪具の試し撃ちがあるし、これ見よがしに虎徹が約束を取り付ける。お前らセコムか。

 

 結果、龍已はケン達以外の友達が居ないのである。仮に龍已が裏で手を回されていたということを知っても、そうかの一言で終わる事だろう。何故ならば、実際大切なのはケン達であって、その他は所詮その他でしかないからだ。

 

 

 

「よーし席につけー。国語の宿題を確認するから開いて置いとけよー」

 

 

 

「っし!間に合ったっ!!」

 

「俺は最初にやったからヨユーヨユー」

 

「俺は2番目だったからまあオッケー」

 

「宿題くらいちゃんとやってこないとダメだからねっ」

 

「はいはい、気を付けまーす。虎徹お母さん」

 

「虎徹母ちゃんだろ」

 

「いやいや、虎徹ママだろ」

 

「「それだっ!!」」

 

「どれも嫌だよ!?」

 

「虎徹が……母様?」

 

「ふふっ。なぁに?龍已」

 

「おい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「走れ走れッ!!」

 

「走ってるわッ!!アイツが足はっえーんだよ!!なんか武器とかねーの!?」

 

「アレに武器もクソもねーんだけど!?てか見た目キッショっ!?龍已と虎徹は何時もあんなの見てたの!?」

 

「もおぉおぉぉぉっ!何度も言ったよね!?絶対後悔するって!まあ僕もこんな事になるとは思わなかったけど!!」

 

 

 

 その日、ケン、カン、キョウの3人は心底後悔した。まさかこんな目に遭うとは思わなかったのだ。

 

 

 

 事の発端は、ケンの一言から始まった。龍已と虎徹が見てるやつ、俺も見てみたい。と、いうものだ。龍已が自分達には見えないモノが見えていることは知っている。そして虎徹も実は見えているということも曝露されたので知っている。親友5人組の中で2人が見えている。それも時には危ないものが居たりするという。ならば親友が見ているものを見たいと思うし、危ないものならば回避できるように見えた方が良いと思うのも仕方ない。

 

 見たい見たいと駄々を捏ねるケンに触発され、カンとキョウも興味を持ってしまい、同じく駄々を捏ね始めた。しかも学校が終わって直ぐのことである。龍已は先生に呼ばれているので先に帰ってくれと言われている。つまり虎徹はうるさい親友3人を相手にしなければならなかったのだ。

 

 お前らが見えてるやつ見えるようになる何かねーのかよー。ないのー?ねーねー。とウザ絡みしてくる3人に虎徹は折れてしまい、駄菓子屋へ寄ると、オモチャのメガネを3つ購入し、術式を使って呪霊が見えるように細工をした。丸レンズのメガネ、四角レンズのメガネ、星形でピッカピカのメガネをかけた3人は意気揚々と駄菓子屋を出た。因みに星形ピッカピカのメガネはケンがかけている。

 

 そうしてデカいオモチャのメガネを掛けた、アホ丸出し3人を連れて虎徹は廃屋や学校を回っていった。しかし周辺の呪霊は龍已が特訓がてら全て祓ってしまっていたので中々見つけられず、唯3人がアホを周辺の人に晒していただけだった。

 

 買い物途中のマダムなどにクスクス笑われているのに気付いていないアホ3人は真剣だった。親友が見ているものを見て、共感してあげたかった。善意である。しかしメガネはオモチャだ。そうやって探し回ること1時間は経っただろうか。もう諦めて休みの日に探しに行くか……と話していたその瞬間、2メートル程の見た目醜悪な呪霊と出会った。

 

 そう……それはまるで口にパンを咥えて遅刻遅刻ー!と走っていた転校生と偶然接触したイケメンのような構図。しかし相手は醜悪な呪霊とする。ケンは白目を剥いた。カンは静かに瞼を閉じた。キョウはスクワットを開始した。虎徹は微笑みながら蒼白くなった。そして正気を取り戻した虎徹の逃げろという合図で回れ右をして逃げた。呪霊は追い掛けてきた。

 

 

 

「ねぇ待って!?あの溶けてる巨神兵にバカでかくてクソきたねぇ口つけたみたいなのナニ!?本ッ気でキメェッ!!」

 

「ゑっ!?想像してたやつの斜め上いくんだけど!?」

 

「なんであのキモイのアスリート選手みたいなフォームで追いかけてくんだよ!?バカ足はえーんだけど!!」

 

「アイツぶっ飛ばせる武器とか無いの虎徹!?」

 

「呪霊には呪力の籠もった武器じゃないとダメージ入らないし祓えないよ!!僕は戦えないし戦闘力無いよ!!」

 

「龍已は!?龍已なら倒せる!?」

 

「あれはいっても3級だから龍已なら余裕だけどっ……龍已今日先生に呼ばれて遅くなってるから近くに居ないよ!!しかもここから学校まで15分は掛かるし!!」

 

「やべぇほど終わってて草」

 

 

 

 呪霊とは元来からその場に留まるものだ。故に呪霊を見つけたのだとしても、その場を離れれば襲われる心配は殆ど無い。しかし何事にも例外は付きものだ。この呪霊が良い例で、徘徊型の呪霊だ。階級が低いので固定された負の感情ではなく、あやふやで不確かなもの。だからこうして広い範囲を移動しているのだ。

 

 ケン達は必死に逃げた。捕まれば先ず間違いなく殺されると思ったからだ。思い浮かぶのは3年前の廃トンネル内での光景。見るも無惨な死を遂げた人の死体。あんな風にされてしまうのではないか。若しかしたらもっと苦しい目に合わせられるのではないか。それが只管頭の中で回り、足を動かした。

 

 息が切れようが脹ら脛に激痛が奔ろうが、脇腹が千切れたように痛かろうが懸命に走った。そして十字路でケンが右だと言ったので全員で右に曲がると、見えたのは石の塀に囲まれた袋小路だった。素直に終わったと悟った。

 

 

 

「バカッ!ケンちゃんシンプルにバカッ!!」

 

「あっるェ??石田モーターズの方に行けるはずなんだけど……」

 

「それ左じゃなかったっけ……?」

 

「右と左も忘れたのかボケケンちゃんッ!!」

 

「マジでごめんてっ!!」

 

 

 

 まさかまさかの袋小路で逃げ場が無い。急いで引き返して違う道へ逃げようと思っても、振り返った瞬間壁に呪霊の手が掛かり、デカい口が見えたので手遅れであると直ぐに分かった。

 

 逃げ場が無くなってしまい、本気でマズいというのが共通されたのだろう、皆で身を固めて小さくなりながら震えていた。

 

 

 

「──────俺、帰ったら結婚するんだ」

 

「やめろ。マジでやめろ。つーかカンちゃん小学生だろ舐めんな。あと鏡見て現実も見ろ」

 

「フッ──────別にあれを祓ってしまっても構わんのだろう?」

 

「オメェ本気で殺すぞ??」

 

「け、ケン君がツッコミに回ってる……っ!?」

 

「俺、ここを生き延びたら3組の華ちゃんに告白するんだ……」

 

「「この前2組の城峰白亜(完璧イケメン)に体育館裏でキスされてうっとりしてたぞ」」

 

「マセガキとクソ〇ッチがッ!!人の純情弄びやがってぶっ殺してやるッ!!」

 

「ケン君いきなりふざけるのはやめてよっ!?」

 

「こっちは本気だわ舐めんなッ!!」

 

「何にっ!?」

 

 

 

 ギャーギャー叫んでいるが、事態は最悪のパターンのままである。呪霊は既に此方に気付いてゆっくりと近づいている。姿は溶けてしまった巨神兵に汚い歯が乱雑に生えた大きな口が頭と胴体に付いているような、そんな見た目の呪霊である。なのに大きさが2メートルを越えているので小学生からしてみれば本当に巨神兵にしか見えないのだ。

 

 ズルズルと後ろへ下がっていき、石の塀に背中をぶつけた。もう逃げ場なんてない。絶体絶命なのは変わらず、全員で抱き締め合って恐怖心を隠そうとしている。しかし体は正直で震えが止まらない。

 

 

 

「ちゅうぅうぅぅ……ちゅうじだいぃ゙……ちゅうじよおぉおぉ゙……」

 

 

 

「ケンちゃん呼ばれてるよ」

 

「ケンちゃんご指名だって。ハイハイハイ!ケンちゃんのちょっと良いとこ見てみたーいっ♡」

 

「いぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?お前らマジでっ……マッッジでふざけんなよ!?普通この状況で親友売ります!?大体俺は初チューもまだだし!!それに俺は髪が長くて口元にセクシーなホクロのあって垂れ目で微笑みが似合うちょっとえっちなおっぱいの大きいお姉さんにリードされながら夕陽をバックに抱き締め合いながら初チューをするって決めてんだよッ!!」

 

「キッッッッッッッッッッッッッッッッッショッ!!」

 

「ははっ。今世紀最大のキモさだね☆」

 

「ものすごい具体的だから本気度が高いね……」

 

 

 

 ふざけている場合かと言いたくなるが、残念ながらここまでのようだった。呪霊に人間の言葉など届かない負の感情の塊なので、どれだけ命乞いをしても意味が無い。そしてこの呪霊は人間の言葉なんて欠片も分かっていない。だからもう4人の運命は決まったようなものだ。

 

 ゆっくりと歩いて近付いてきた呪霊は、もう目の前だった。大きな体を曲げて手を伸ばしてくる。ケン達は抱き締め合いながら固く目を瞑ってその時を待った。しかしその前に、上からタンッという音が聞こえ、黒い塊が呪霊の真上から降ってきた。

 

 

 

「黒圓無躰流──────『切空』」

 

 

 

「──────っ!?龍已……か……?」

 

「えっ、龍已!?」

 

「な、えっ……っ!?」

 

「龍已……っ!!」

 

 

 

 呪霊がケン達に触れるより前に、電柱の頂上から跳躍し、回転しながら落下してきた龍已は呪力を纏わせた渾身の踵落としを呪霊の脳天に叩き込んだ。呪霊は踵落としの威力に抵抗出来ず、頭を木っ端微塵に吹き飛ばされて祓われた。

 

 常人ならば落下して大怪我を負っているところだったが、龍已は音も無く軽やかに着地した。ケン達には龍已の背中が見えている。自分達の命が危ないときに颯爽と駆け付け、一撃で悪者を倒した龍已がカッコイイヒーローに見えて、ケン達は立ち上がって泣きながら龍已の背中に抱き付いた。

 

 

 

「あ゙り゙がどゔ龍゙已゙ぁ゙っ!!」

 

「ほんきで…!ほんきでしぬかとおもったぁっ!!」

 

「助かりまじだぁっ!!命の恩人龍已様ぁっ!!」

 

「…っ……ぐすっ……ぁりがとう…龍已っ」

 

「……………………。」

 

「龍已……?」

 

「ど、どうした……?」

 

「まさか怪我したのかっ!?」

 

「うそっ!?あの龍已が!?」

 

「……………………。」

 

 

 

 龍已の小学生にしては逞しい体に抱き付き、泣きながらお礼を言っているが龍已からの反応は無い。依然として背中を向けられたままだ。何の反応も示さない龍已に訝しみ、ケンがハッとしたように怪我をしたのか聞いた。助けてくれて怪我なんてしていたら一大事だと、4人でアワアワとしているが、龍已がこの程度で傷を負う訳が無い。

 

 心配されている龍已が一歩前に出る。抱き付いていたケン達の腕の中から出て来て、異様な雰囲気を纏う龍已が振り返った。表情は相も変わらず無。何を考えているのは分からない。しかし何だかヒヤッとする冷たい雰囲気であることは分かった。何も言われていないのに直立不動となる4人に対し、ゆっくりと話し始めた。

 

 

 

「見つけられたのは……偶然だった」

 

「……はい」

 

「先生から呼ばれて職員室に寄り、常に無表情だから何かあっても分からないから話して欲しいと言われ、嫌に時間を食ったからお前達はもう家に着いているのかと思っていた」

 

「……うん」

 

「ふと、先日思い付いた技の試し撃ちをしたら、お前達が呪霊に追い掛けられているのを察知した。3級程度とはいえ、お前達にとっては脅威だろう。だから形振り構わず屋根の上を全速力で駆けてきた」

 

「……うっす」

 

「後少し遅かったら……お前達は呪霊に殺されていた。惨い死体にされていた。本当に──────怖かった」

 

「「「「────────────っ!!!!」」」」

 

「大事な……っ……友達が……死んでしまうのかと……っ思った……っ!怯え方からして……呪霊が見えているし……本当に……心配してっ──────」

 

「ご、ごめんッ!!」

 

 

 

 話し始めたかと思うと、無表情のままでポロポロと涙を流した。言葉も途切れ途切れとなって、冷たい雰囲気は霧散して、本当に心から心配してくれたのだと分かった。常に無表情、冷静沈着、小学生の割に大人びた雰囲気の親友は、とても人間らしい一面も持っている。

 

 一歩離れた事で開いた距離を詰めて、また4人て龍已を抱き締めて泣いた。龍已の言う新技の試し撃ちが無ければ、今頃4人はどうなっていたのか分からない。泣きながら抱き締めている虎徹は、偶々龍已の右手を見た。そこにはグリップのところ以外砕け散ったオモチャの銃が握られていた。

 

 壊れた銃を手放す事すら忘れて、ここまで全速力で駆け付けて最速で呪霊を祓ってくれた龍已。また助けてもらったという事実に胸の奥が熱くなり、やっぱり自分には龍已が一番なのだと再認識した。

 

 

 

「……っ…ところで、ケンがつけているそのメガネは何だ。気になって仕方ないんだが」

 

「あ゙っ……俺のだけバカみたいなやつつけてるの忘れてたッ!てか、やっべ!?これかけたまんまそこら辺走り回ってたッ!!変な子だと思われるッ!!」

 

「元からじゃん」

 

「今更感あるよねぇ……」

 

「ケン君大丈夫だよ!もう下がる事なんて無いから!」

 

「ねぇ泣いていい?これから外歩ける自信無いんだけどっ!」

 

 

 

 笑い合った。もういつも通りの光景がそこにあったから。今回は危ない橋を渡ってしまったけれど、龍已のお陰で助けてもらう事が出来たのだ。助けられない命は無い。呪霊なんて悍ましい存在が居ても、これからだっていつも通りの日常を謳歌出来ると思って()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────父……様?母…様……?」

 

 

 

「──────あー?なんだ、ガキ居んじゃねーか。コイツ()殺せば依頼完了だな」

 

 

 

 1年後。2000年8月。黒圓龍已12歳、小学生6年生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自宅にて父・黒圓忠胤、母・黒圓弥生の両名を殺害したと思われる呪詛師と邂逅。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ハエトリグサが溶けたみたいな呪霊

4級、強く見積もって3級ぐらいの雑魚。生まれたばかり。何故か子供が良く怪我をする公園だから、お母さん達の小さな負の感情が少しずつ凝り固まって生まれた。




デケェ口がある溶けた巨神兵みたいな呪霊

チューしようと思ったらなんか踵落としで祓われてた。もー、恥ずかしがり屋さんメッ☆



作者

呪霊を溶かす癖のある人。

気持ち悪くてSAN値チェックものの姿があまり思い浮かばない。

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