最高評価をしてくださった、アラマキさん
高評価をしてくださった、Joan ラムネ123 さん、ありがとうございます。
連休だったので、あげられる時にあげてしまおうと思いまして。
内容うっす!?と思われたら申し訳ありません。エピソード0の大まかな説明などを入れていたら長くなってしまいました。
「──────これは何かな?乙骨憂太君」
「ナイフ……だったものです……。死のうとしました……でも里香ちゃんに邪魔されました」
「暗いねー!今日から新しい学校だよ?もっとテンション上げていこうぜー!」
「……行きません。もう誰も傷つけたくありません。なのでもう……外には出ません」
「でも──────1人は寂しいよ?」
「……っ」
札が所狭しと貼られた部屋にて、椅子に膝を抱えながら座っている少年と五条が居た。彼の名前は乙骨憂太。ある事情から呪霊に憑かれている一般人だった少年である。危険視した上層部が秘匿死刑に処そうとしたが、五条の言葉により秘匿死刑を“保留”にし、東京の高専で身柄を預かっているのだ。
そして今日は、乙骨が呪いというものを学んでいくために高専に通う、第一日目である。しかし彼は行きたくなかった。気弱な性格が災いしたのか、元の学校で執拗な虐めを受けていた。しかしそれに反応した彼に憑いている特級過呪怨霊“祈本里香”が、虐めてきた男子生徒4名を
自分の意思とは関係無かった。確かに虐めは悲しくて嫌だったが、ロッカーに詰めようとは考えていない。反撃すらできない臆病さが、降り掛かる虐めに拍車を掛けた。虐めてきた相手にざまぁみろとは言えない。罪悪感しか感じないのだ。人を殴ったことすら無い彼にとって、自分の所為で他者が傷つくのは酷く嫌なのだ。
だから自殺しようとした。ナイフを自身に突き刺そうとした。しかし祈本里香がそれを阻んだ。ナイフの先は捻られていた。切ることすら出来ないくらい徹底的に。故に乙骨は自殺を諦めて何もしなかった。死を受け入れるつもりだった。でも五条に説得された。その力は他者を助けるために使うことが出来ると。その為に使い方を学ぶのだと。
高専とはそういう場所だ。普通の日常の中に潜む“呪い”の何たるかを学んできいく場所。今の乙骨に必要不可欠な居場所だ。全てを投げ出すのは、何もかもをやってからでも遅くはないだろう。
「──────ってことで転校生を紹介しやす!テンション上げてみんなっ!!」
「「「……………………。」」」
「いや上げてよ」
高専の1年の教室で、五条は大声で叫んだ。しかし1年の3名……2名と1体?は、めちゃくちゃ白けていた。事前に転校生がやって来るということは聞いている。同級生4名をロッカーに詰めたという話も。逆を言えば転校生とロッカー詰め事件しか聞いていないので、どんな奴なのか一切知らないのだが。
1年生の中で唯一の女子は気が強く、起こした事件から尖った奴であると判断し、そんな奴の為に空気を作ってやろうという気持ちは無かった。五条が廊下で待たせている乙骨に声を掛けて中に入るよう促す。気が強い女子はそっぽを向いて無視を決め込んでやろうとしていた。乙骨は五条の言葉に従い、ドアの向こうの冷めた空気をひしひしと感じながら、意を決して中に入った。
1歩足を踏み入れる。緊張や少しの後悔を滲ませたその1歩は何てことはない。事情がある転校生ならまあありえるからだ。しかし、1年生の者達が感じたのは、身の毛もよだつ恐ろしい気配だった。そっぽを向けていた顔を前に戻す。教卓に向かう乙骨が居るが、その背後に……呪い云々を加味しても尋常ならざる“ナニカ”がそこに居た。
それぞれが装備を手に取り、動き出す。乙骨はそれに気がつかず教卓の前まで歩いて向かい、正面に向き直って自己紹介と挨拶をした。
「お、乙骨憂太です。よろしくお願いしま──────えっ、これ……何かの試験……?」
「おい。オマエ呪われてるぞ。
「日本での行方不明者や怪死者は年平均1万人。その殆どが人の肉体から抜け出した負の感情……“呪い”の被害なんだ。呪詛師とかもあるけど、まあ呪いに対抗できるのは呪いだけ。ここは呪いを祓うために呪いを学ぶ、東京都立呪術高等専門学校だよ」
──────先に教えてよ……ッ!!
──────今教えたのッ!?×3
──────メンゴ!!(適当者)
ちなみにだが、五条はマジで今高専について教えた。乙骨は殆ど知識が無いと言って良い。なので、自己紹介しただけなのに刃物を向けられたりしている意味が分からなかったのだ。薙刀を顔のスレスレを突かれ、拳を向けられている。何が何だか分かっていなかったが理解した。彼、彼女達は祈本里香に反応しているのだと。
攻撃の姿勢を見せる生徒達を眺めていた五条は、今気づいたと言わんばかりに警告した。乙骨に手を出そうとすると危ないから、離れた方が良いと。だが警告は遅く、黒板を突き刺した薙刀の刃を大きな手が掴む。黒板から透過するように現れたのは乙骨の身の危険を感じ取って勝手に出て来た祈本里香だ。
また誰かが傷つくと思って焦る乙骨を守るために、特級過呪怨霊の祈本里香が1年生に手を伸ばす。しかし彼等は殺されることなく、弾き飛ばされて頭にたんこぶを作るくらいで済んだ。警告も早ければこんな事にはならなかったが、まあ相手が五条なら仕方ないのかも知れない。
乙骨憂太に取り憑く祈本里香とは、同級生で友達で親しい仲だった。元は歴とした人間の女の子だったのだ。今から6年前。乙骨の誕生日に婚約指輪として指輪を贈った祈本はしかし、それから数日後に不慮の事故に遭う。信号無視をした車に轢かれたのだ。轢かれただけならば、もしかしたら生き残れる可能性も残っていたが、残念なことに頭を轢き潰されていた。即死である。
それを目の前で目撃してしまった乙骨に、特級過呪怨霊と化した祈本里香が憑いた。強力な呪いとなってしまったのだ。その力は……憑かれているだけで乙骨憂太を特級呪術師にしてしまうほどのものだ。凄まじい力を持つが故に、被害を恐れて秘匿死刑にしようとしていた。今は“保留”になっているが。
「──────ってな訳で、彼のことがだーい好きな里香ちゃんに呪われている乙骨憂太君でーす!皆よろしくー!憂太に攻撃すると里香ちゃんの呪いが発動したりしなかったり?なんにせよ、皆気をつけてねー!」
「……それを早く言えや」
「じゃ、コイツら反抗期だから僕がちゃちゃっと紹介しちゃうね!彼女は呪いを祓える武具を使う呪具使い、
「……ふん」
「呪言師の
「……こんぶ」
「パンダだよ!」
「パンダだ。よろしく頼む」
「まぁ、こんな感じ」
──────い、1番欲しい説明が無かった……ッ!!
簡単な自己紹介は終わった。唯一の女子である真希は、呪術界の御三家と呼ばれる禪院家の出である。色々な事情があって高専に呪いを学びに来たのだ。狗巻は呪言師と呼ばれる呪術師であり、言葉に呪いを込めるのだ。なので意味のある言葉は軽い気持ちでは使えず、会話はおにぎりの具のみである。パンダはパンダだ。以上が、今の高専の1年生3名……2名と1体?1匹?である。
同級生となる生徒の説明はしてもらったが、乙骨は取り敢えずパンダの細かい説明が欲しかった。なんで居るのか、そもそもどうやって喋っているのかと色々。しかしまあ、ここで質問する空気ではなかったので、後でこっそり聞いてみようと思った。
「あ、あと僕がどーしても!忙しいときに代わりに面倒を見てくれる頼れる僕のセンパイであり、この高専の教師が居るんだ。今日は早朝からすんごい任務入れられてイライラしてるかも知れないから、殴り殺されないように気をつけてねー」
「殴……っ!?」
「オマエがこの転校生を連れてくるのに、自分の任務を龍已さんに全部押し付けたからだろ。知ってるからな」
「しゃけ」
「普通にひでーな」
「しょーがないじゃーん。憂太のことは基本的に僕が面倒見るんだから。それなのにめちゃくちゃ任務入れてくる腐ったミカン共が悪くない?」
「だからって龍已さんに押し付けんな。つか、別にイライラしても他人にぶつけたりしねーだろ」
「あの……その人って……?」
「センパイ?名前はねぇ……あ、ちょうど来たみたいだから本人に自己紹介してもらおっか!」
「オマエ……忙しいって言ってたのに呼び出したのかよ……」
実は携帯で連絡して少し来てくれるように頼んでいた。いざという時に抑える役目は五条の他にももう一人居る。本人はそんな役目なんて知りもしないが、五条がいざという時は~と上層部に話していた。それが後押しとして高専で預かれるようになっている。まあ、五条だけでも十分であるのだが、戦力は多いに越したことはない。
気配でもうやって来ている事に気がついている五条は、今説明するのではなく、本人に自己紹介してもらうことにした。態々呼び寄せた事を非難されているがどこ吹く風。廊下から足音が聞こえてきて、ドアの取っ手に手が掛けられる。横にスライドされて見えたのは、身長が180を越えている大人の男性だった。
どこまでも無を表す表情と精悍な顔立ちに、長い脚に巻かれたレッグホルスターと、そこへ納められた黒い銃。黒髪に琥珀色の瞳は日本人として親しみやすさを感じるが、それとは別に何か別のものを感じさせる。何と言えば良いのか……そう、雰囲気が他者とは違うのだ。五条も違うが、彼もまた違った。
黒を基調とした服装をしている男性に、この人が五条先生の言っていたセンパイであり、教師の人か……と思っている乙骨の傍らで、祈本里香は大いに反応した。彼女の目線からだと、今入ってこようとしている人間が悍ましいくらいの“純黒”を纏っていた。後ろが全く見えない暗闇で、完全に危険なものであると認識した。
向けられる目は鋭く、今にも大好きで愛してる乙骨憂太を殺そうと考えているように見える。いや、そうとしか思えないし見えない。故に、真希達の攻撃意思に反応して出て来たよりも速く顕現し、五条と黒い危険人物にしか反応出来ない速度で拳を振るった。
突然の事に、教室に入るために1歩踏み出そうとした男性は、正面から全力で祈本里香に殴られた。真希や乙骨の知覚外の速度で殴り、後方へ吹き飛ばして壁全てに穴を開けた。事の以上にハッと気がついた乙骨が顔を青くし、真希達はこれでもかと瞠目した。五条は壁に背を預けながらうっすらと笑みを浮かべる。
「乙骨オマエ何してやがるッ!!龍已さんは何もしてねーだろッ!!」
「ち、ちが……っ!僕は何も……っ!」
「マズいなこれ」
「……しゃけ。ツナマヨ……明太子」
「チッ……どーすんだよこれ!」
「ど、どうしよう……っ!また誰かを傷つけちゃった……っ!!」
「……うん?憂太。別に
「……え?」
「だって──────センパイはマジで強いもん」
「──────聞きかじった程度だが、強いと聞いていたからどれ程かと思えば、膂力は
大穴の開いた壁から何のダメージも怪我もなく歩いてやって来た龍已は、軽い口調で自己紹介をした。しかし乙骨は何で龍已が無事なのか分からなかった。いつも自身を守ろうとして反応する里香とは違い、今回は本気で殴っていた。見た事は無いが、ロッカーの件から察するに相当な威力だった筈だ。現に数枚の壁をぶち破っている。
なのに、龍已は何も起きていないと言わんばかりの対応だ。どういう事なのだろうと思うが、そんなことはどうでもいい。そんなことよりも、本当に怪我をしていないかが気になっていた。流石にこれだけ攻撃を真面に、正面から受けたのだから、大丈夫な訳がないのだ。
心配しながら本当に大丈夫なのか聞こうと思って口を開くと同時に、未だ姿を現している里香が豪速で龍已に突っ込んでいった。今度は本気で殺すつもりなのだろう。鋭い爪を持つ手を振り上げている。殴ってダメなら引き裂こうというのだ。悲痛に近い叫び声で静止を求めるが、里香は乙骨の為に無視をした。そして、大きな手が龍已に振り下ろされた。
「……えッ!?」
「あー……絶対にそうなると思った」
「しゃけしゃけ」
「特級過呪怨霊だろうが何だろうが、龍已さんをそう簡単には斃せねーよ」
「はぁ……だから攻撃するなと言っているんだ。祈本里香は一体何に反応して俺を狙っているんだ」
「さー?てか、何でセンパイ避けなかったの?」
「どの程度の力があるのか体験しておこうと思ってな」
「普通それでも正面からは受けないよねー」
軽く会話をしているが、向けられた大きな手は、対抗するように向けられた右手の人差し指1本で止められている。龍已の体を非常に薄い呪力が覆っているだけなのだが、その呪力量は今の祈本里香の呪力量の数倍。薄く脆そうに見えるだけで、実際は計り知れない呪力を凝縮して鎧のように身に纏い、肉体を超強化しているのだ。
なので、例え全力で振り抜かれた攻撃だろうが、何の苦もなく指先だけで止めることが出来るのだ。端から見れば恐ろしいほど違和感がある光景だが、彼の規格外さを知っている真希、狗巻、パンダはやっぱりなと思っていた。そうなるとは思っていた。
では、何故祈本里香が攻撃したことに反応していたのかと言うと、正確には攻撃された龍已のことを思ってではなく、龍已を攻撃したことでどうなるかに反応したのだ。まあよくよく考えれば、短気でもなければキレ散らかすタイプでもないので大丈夫だと自分達で納得したが。
真希達は完全に傍観の姿勢に入っていることに、人知れず驚いている乙骨。止めなくて大丈夫なの?まあ実際受け止めているし……と困惑も入ってくるが。対して里香は手を受け止められたことに苛つきを見せる。顕現している体から醸し出す呪力は膨大で、殺しに掛かろうとしている。その里香に対し、散歩するような気軽さであっという間に接近し、肩に手を置いた。
「あまり聞き分けの悪いことはしてくれるな。こう見えて何度も同じ事を言うのは好きではないんだ。いい加減に大人しくしないと──────跡形も残さず祓うぞ」
「──────ッ!!!!」
「無闇矢鱈に出て来て人を傷つけなければお前にも乙骨にも何もしない。だから大人しくしていろ祈本里香。良いな?」
「………………………。」
「り、里香ちゃんが誰かの言うことを聞くところ初めて見た……」
「やっていることは脅しだがな」
「いや、普通は無理だから」
無言で乙骨の影に隠れていった里香を見て、龍已ははぁ……と溜め息を溢した。まだ何もやっていない自身に攻撃をしてくるとは何事かと思ったのだ。それも自分にとってはそんなに強くない攻撃だが、一般人からしてみれば即死だ。それを何の躊躇いも無く振るうのだから危険極まりない。
実際は、里香が反応したのは龍已にではなく、存在そのものなのだが、彼が知ることはないだろう。壁は大破してしまったが、龍已は無事なので問題ないだろう。五条と龍已は大きな破壊音に気がついてこっちに向かってくる夜蛾に感づき、説明はどっちがするかのジャンケンをしている。
反射神経と動体視力で龍已が見事勝利をもぎ取り、つまんなそうに五条が怒りマークを額に浮かべた夜蛾に説明した。穴を開けたのは里香で、ぶち破ったのは殴られた龍已だが、五条が説明するのは中々に面白い。しっかり見ていろと叱られている五条の背後で、真希がザマァと笑っていた。
その後、全員で4名となった1年生を2・2にペアを組ませて別れさせ、それぞれに呪術実習をしてもらうことになった。軽めの任務をしてもらうことになり、念の為に別の呪術師が付いている。五条は乙骨のことを監視しなければならないので必然的に乙骨の居るペアの方へ行くことになる。ちなみに、乙骨は真希と、残るパンダと狗巻がペアだ。
車で向かうから先に行っててと言われ、乙骨達は穴の開いた教室から出て行った。龍已も祈本里香を実際に目にし、乙骨との自己紹介を終わらせたのでまた残る任務へ行こうとした。そんな彼の背中へ、五条が待ったの言葉を掛ける。どうやら話があるようだった。
「センパイ、これ憂太の詳細情報が載った資料ね。過去の話とか殆ど知らないでしょ?だから持ってきたよ」
「お前が後で渡すと言っていたから待っていたんだがな」
「あれ、そうだっけ?」
「そうだ」
「……うーん、それはごめんね。てかさ、センパイに聞きたいんだけど、祈本里香……どうだった?正直な話ね」
「……完全顕現ではないのにあの力は凄まじいものだ。呪力量も恐らく埒外のものを内包していることだろう。それに触れた感じでは、恐らく祈本里香の特徴は莫大な呪力量だけではない。他にも何かあるはずだ」
「まだ深くは分かんないか。まっ、僕も同じ考えかなぁ。あ、それとさ、センパイ“上”に祈本里香を祓えって言われてない?」
「言われたが断った。複雑に絡んだ呪いを外部要因で突然祓った場合、どうなるか予想がつかないと適当に言ってな」
「……やっぱりか。けど、何で断ったの?センパイなら問答無用で消し飛ばしに掛かると思ったんだけどなー。祈本里香より
数枚の束になっている紙を手渡しする五条と、それを受け取る龍已。乙骨について詳しい情報が載っている調査書なのだが、五条が後で渡すと言って終わっていたので龍已はほとんど知らなかったのだ。噂で耳にした程度だろう。なので祈本里香の強さを測る為に1度攻撃を受けた。
紙を手に取って中に目を通していく。読み終わると次の紙へ捲って目を通す。それと同時に五条との会話をしていた。五条は少し不思議に思っていたのだ。祈本里香の呪いは非常に強力であり複雑に絡み合っている。六眼で視ているのだから間違いない。つまり下手には祓えないのだ。呪力量ならば、恐らく自身よりも多いこともある。
しかし、こと龍已に関しては違う。昔から五条よりも呪力量が圧倒的に多かった。呪術界で最強と謳われているだけで龍已が居なければ最も呪力量の多い呪術師だっただろう。そんな彼よりも祈本里香は呪力量が多い。だが、五条よりも呪力量が多い祈本里香よりも更に、龍已の方が呪力量が多いのだ。
完全顕現を目にしていないのでどのくらい多いのかという詳しい話は出来ないが、兎に角呪力量だけで見る力の関係は龍已の方が上だ。そこに一撃で消し飛ばせるだけの呪力出力が備わっている。やろうと思えば『黒龍』を向けて呪力を放てば終わる筈なのだ。それは“上”も予想がついていた筈。だから龍已を呼び寄せて祓うように命令してきた。
それを断ってきたのだ。適当な理由を付けて。それが五条には分からない。龍已ならば呪霊なのだからという理由で問答無用で祓ってもおかしくない。まあそうなりそうなら説得して止めるつもりだったが、何も言わずに話を断るのは首を傾げる。疑問をぶつけられた龍已は少し黙った。紙を捲るだけの音が鳴り、全部を読み終えた龍已が調査書を五条に返した。
「噂だったが、憑いている特級過呪怨霊“祈本里香”は乙骨憂太と密接な関係があると聞いていた。それに加えて五条が庇って高専で保護していると、事が運んだ。ならば、お前が何か考えがあっての行動と考えるのが普通だろう。お前の事だ。若人から青春を取り上げることは何人も赦されないとでも言うのだろう?だから、今は取り敢えず様子見だ」
「わーお!正解!あれ、センパイって僕のこと好きなの?そこまで解るなんて悟君困っちゃう!」
「……?だがあくまで様子見だ。一般人を呪い、殺して呪詛師となった場合、五条が何と言おうが乙骨憂太及び祈本里香は殺し、祓う。それは忘れるな。“上”の味方ではないが、完全にお前達の味方とも言えない。いきすぎた助力はできんぞ。それだけ祈本里香は強力で制御が難しく、危険だ」
「もちろん分かってるよ!なんせ祈本里香が無闇に暴れたら憂太と僕が殺されるからね!センパイがこっち寄りなだけまだ良い報せだよ。ありがとね!」
「あぁ。では、俺はこれで失礼させてもらう。まだ任務が残っている」
「あー、任務全部渡してごめんね。明日美味しいものいっぱいあげるから許して?」
「構わないが、硝子が食べられる甘くないやつも頼む」
「りょーかい!酒も何本か買っておくね!」
──────センパイにめちゃくちゃ仕事押し付けたの知ってて絶対にキレてるだろうし、今回はかなり高めの酒多く買わないとマズいよなー。じゃないと硝子に六眼抉られちゃう。
龍已を高専の教師に引き入れる際に、多くの任務を与えないことと約束していたが、今回は仕方なかったとはいえ非常に多くの任務をやらせてしまっている。それは龍已の体調管理や摂取する栄養バランス、疲労度などを裏で管理している家入ならば確実に耳に入るだろう事だ。つまり、絶対ブチギレてる。
サバサバした性格の癖に、龍已が絡むとメスで六眼抉ってこようとする割とイカレた彼女なのだ。気を静めてもらうためにも高額な酒を何本が献上する必要がある。そうしないと何言われるか分からないし、何されるか分からないのだ。怒った硝子は怖い……と、長い付き合いだからこそ解る怖さがある。
おー考えるだけで怖い怖いと言いながら、腕を擦って高専を出て行き、乙骨と真希が乗っている車に乗り込んだ。目指す先は小学校。何の変哲もない小学校だが、児童2名が行方不明になってしまっているので、その児童を保護。死んでいるなら回収。呪霊は見つけて祓除という任務だった。
だが、小学校に出て来た低級の呪霊は図体が巨大であり、乙骨と真希は呑み込まれた。胃袋の中には行方不明だった児童2名が居り、乙骨以外の3名は呪いに侵された。このままでは全滅というところで、真希が乙骨を叱責し、覚悟を決めた乙骨が一時的に祈本里香を解き放ち、彼等を呑み込んだ呪霊を力尽くで祓除。
自分の意思で特級過呪怨霊を呼び出し、完全顕現を実行した。呪霊に気を取られて一般人にもその周辺にも被害は無かったものの、祈本里香の恐ろしい力の全容が422秒の間、完全に野放しになっていた。
「──────何故呼び出されたか理解しているな?黒圓龍已」
「理解しています」
「特級過呪怨霊“祈本里香”の422秒完全顕現だぞ!下手をすれば町一つが消えていたかも知れん!」
「それを防ぐために黒圓、貴様に祈本里香の祓除を命じたのだ」
「しかし貴様はそれを断ったッ!今回は運良く被害が出ずに済んだが、そのまま周辺に被害が出たらどうするつもりだッ!」
「現場には呪術界最強の五条悟が居り、彼等を常に監視していた筈です。いざという時には彼が止めていた事でしょう」
「儂等は祓えるものを祓わず野放しにし、その所為で甚大な被害が出たら如何するのかと問うているのだッ!」
ある場所で、龍已は呼び出しを受けて怒声を浴びせられていた。襖の奥に居る“上”の者達。誰も彼も老人ばかり。昔の考えで思考が固められ、己の保身と立場の死守に心血を注いでいる。今も周辺の人々を心配しているのではない。心配しているのは、周辺に被害が出て秘匿死刑を“保留”にした彼等の判断力の欠如を問われ、上層部の立ち位置を追い出されまいかということだ。
なので、龍已という祈本里香を高確率で祓える存在が居るということを使い、祓える内に祓おうというのだ。もし仮に祓えず何かしらの被害が出てしまった場合、祓えなかった龍已に責任を押し付ければ自分達にダメージは無い。五条の場合だと御三家の五条家という事もあって下手に命令は出来ないが、龍已ならば違う。使い潰そうが何しようが関係はあるまいという考えなのだ。
元々一般の市民だった祈本里香。しかし死後呪いに転ずる事例はあれど、五条悟を以てしても
「確かに私なら祓えるやも知れません。完全顕現を果たした祈本里香がどの程度の呪力量を内包しているのかは直接感じていないので何とも言えませんが、五条からは完全顕現した場合でも、私の方が呪力量が多いと言われました。ならば呪力量に任せた一撃で事足りるでしょう」
「それは儂等も把握しているッ!だから今の内に祓えと言っているのだッ!!」
「──────しかし、特級過呪怨霊“祈本里香”の生前と乙骨憂太が深く関わり合っていた事を考慮すると、力尽くでの祓除はリスクが大きいと推測します。五条の眼で視て複雑に絡み合っている事が判明している呪い。それを外的要因で無理矢理引き剥がした場合、莫大な呪いが何を起こすか予想がつきません。それこそ、完全顕現時に暴れるよりも遙かに上回る被害が出ないとも言えない。私はそれを警戒して祓除はしないのです」
「……チッ。ではなんだ。五条悟のように何時暴発するかも解らん呪いの塊を放置しろとでも言うのか」
「
「……ッ」
「それで、ここは一つ納得をしてもらえないでしょうか。今は暴発の恐れのある呪いでも、これから次第で歴とした呪術師となるやも知れません。五条も私も、その道を望んでいます」
「……もう良い。今は様子を見てやる。ただし、一般人を呪った場合、黒圓龍已……貴様が責任を持って処理しろ」
「畏まりました。失礼致します」
踵を返してその場を後にする。空間には上層部の者達が居るが、またしても祓除の見送りに苛立ちを隠せない様子。貧乏揺すりをしたり、舌打ちをしている。だがやっぱり祓除をしてこいとは言えないのだ。五条のように呪術界で猛威を振るえる家の出ではない。しかし、黒圓一族の歴史は御三家と同等かそれ以上のものを積み重ねている。
黒圓無躰流を代々己の子にのみ継承させていくという超閉鎖的相伝の体術。呪術界はそれに目をつけて何度も交渉をしたが、ただの1度も首を縦に振ることはなかった。どれだけ
「……何故黒圓一族の生き残りがあれ程の力を手にしたのだ」
「儂には皆目見当がつかん」
「あの一瞬漏れ出た呪力。儂には特級過呪怨霊よりも余程不気味で悍ましいわい」
「さっさと女を孕ませ、黒圓無躰流を継承すれば良いものを……何時まで子を孕ませんつもりだ。胎の女を与えようとも返してきおる。継承さえすれば用済みだというのに」
「無下限と六眼の抱き合わせの五条といい、黒圓一族の生き残りといい、何故こうも儂等に反抗するのか。理解に苦しむな」
「まあ待て。いつかは必ず綻びが出るはずだ。そこを突けば良いだけのこと。それまで座して待とうではないか。揺らす材料は探せば幾らでもある」
「──────等と言っているのだろう。呪術界にのさばる塵芥共め」
建物から出て来た龍已は憎らしそうに呟いた。表情は無から動かないが、気配は憎々しい者を見た後のようにドロリとした黒いものだった。何を上から目線で語っているのかと。よくも俺に命令をしてくれるなと。いつか綻びが出て突くのは上層部ではない。自分だ。
知らないとでも思っているのか。黒圓一族から技術を奪おうとして失敗を繰り返したことで、存在を疎ましく思い根絶やしにしようとしたことを。御三家が黒圓一族に良い思いをしていないことを隠れ蓑に、“上”が黒圓一族の抹殺を手配したことを。何も知らずにジッとしていると思っているのか。
あれは仕方ないのだと諦めると思うか。過去を受け入れるとでも思うのか。憎しみ怨念を抱かないような奴に見えるか。逆だ。やられたことは決して忘れない。何年何十年、何世代掛かろうがこの想いは晴らしてみせる。誰も逃がしはしない。やっていることは呪詛師と変わらないのだ。ならば、黒い死神が然るべき罰を与えるのは当然のこと。
今は牙を研いで時期を待っているだけに過ぎない。常に呪術界を内側から観測し、監視している。赦す事は無い。然るべき報いは必ず受けさせる。どんなことになろうとも。
身を潜めて時が来るのを待つ。なので今は乙骨憂太と祈本里香の事をどうにかしなければならない。五条が目を掛けている生徒を、殺したいとは思わないからだ。
乙骨憂太
転校初日に挨拶をしようとしたら武器を向けられた少年。それに反応してボディーガードが顔を出す(危険)
五条が強いのは何となく分かる。雰囲気とかで。それに龍已が強いことは良く分かった。しかし、里香が何故突然攻撃したのか今でも分かっていない。
祈本里香
龍已から得体の知れないものを感じ取って即刻殺すべき危険生物と判断した。が、正面から抑え込まれてしまう。その後脅され、乙骨と離れ離れは嫌だから大人しく引っ込んだ。
禪院真希
呪術界の御三家と謳われる禪院家に生まれ、おちこぼれと蔑まれていた。呪力量が一般人レベルな代わりに身体能力が高いフィジカルギフテッド。伏黒甚爾の下位互換。
一般人レベルなので呪いが見えず、呪いが見える眼鏡を掛けている。気が強く、口調も少し荒い。相手を理解した気になる節があるのでキツい事を言われたりする。
1級呪術師を目指しており、その理由は今まで蔑んでいた相手が大物呪術師になって帰ってきたら、禪院家の奴等はどんな顔をするのか見たいから。それと、自身が禪院家の当主となって腐った禪院家を内側から良くするため。
乙骨のヒロインと噂されている(重要)
狗巻棘
言葉に呪いを込めて、言葉に沿った現象を起こす事が出来る、狗巻家相伝の術式を持った少年。言葉を発するだけで呪いが込められるので、語彙を絞る為におにぎりの具で会話をする。
パンダ
今年から高専に入った。手続きは夜蛾学長がやった。
黒圓龍已
何も知らないとでも思っているのか。黒圓一族をこの世から抹消しようとした者の事なんぞ把握している。時が来れば必ず報いを受けさせる。
絶対に忘れはしない。想いが薄れることもない。そして誰も、逃がしはしない。
家入硝子
龍已に押し付けられた任務の量を把握している。なので五条の六眼抉り取ってやろうと考えている。のだが、翌日超高級の酒が何本も贈られたので、取り敢えずは許してやるが、次やったら酒のプールに沈めてやる。
五条悟
酒をたらふく贈ったので許してくれたやったーと思ったらメスぶん投げられた。六眼に向かって。ちょーコワ。
下戸なので酒のプールに沈められたら多分死ぬ。