最高評価をしてくださった、ぺぺよい さん。
高評価してくださった、ぷらってぃな gn01318449 さん、ありがとうございます。
「──────来たる12月24日ッ!!日没と同時に我々は百鬼夜行を行うッ!!場所は呪いの
「そう言って呪霊を放って逃げてったよ、傑はさ」
「……そうか」
「センパイが居ない時を狙って来たんだろうね。センパイには約4キロの術式範囲があるから。いくら後輩でも、センパイなら呪詛師な時点でその場で殺すでしょ?それに殲滅力ならピカイチだ。
「……五条」
「いいよ。分かってる。僕は大丈夫。……ありがとね」
「……あぁ」
ある日。特級呪詛師の夏油傑が高専にやって来た。乙骨に自己紹介をして呪術師のみの楽園を一緒に創らないか?と勧誘に来たのだ。だが、夏油にとって一般人は猿。同じ程度しか呪力が無く、呪いすら目視出来ない真希のことすらも猿と断じた。そこで乙骨は、友人を貶されたことに怒り突っ返した。
何を言っているのか解らないが、友人を貶す奴とは一緒に居たくないと。夏油は残念だと言いながら、先の言葉を吐いた。呪術師に向けての宣戦布告。東京と京都。そのどちらにも膨大な呪霊を放ち、呪詛師すらも仕向けるという。
宗教団体の教祖という立場になり、呪霊に困っている一般人の悩みを解消するという体を使い、呪霊を集めて取り込み、力を蓄える。そして金すらも集めさせて組織を拡大していた。五条悟の元同級生であり親友。龍已の後輩。世界に5人しか居ない特級の名を冠する存在。それだけの者が宣戦布告したのだ。ハイそーですかでは終われない。
「設立していた宗教団体を呼び水に、信者から呪いを集めていたようです。元々所持していた呪いもあるハズですし、東京と京都を合わせて4000という数はハッタリではないかと思われます」
「だとしも、その殆どが2級以下の雑魚。術師もどんなに多く見積もっても50やそこらだろう」
「そこが逆に怖いところですね。アイツが素直に負け戦を仕掛けてくるとは思えない。僕やセンパイが居るんですから」
「ガッデム!!……OBにOG、それから御三家。アイヌの呪術連にも協力を要請しろ。総力戦だ。今度こそ夏油という呪いを、完全に祓うッ!!」
「「「──────はいッ!!」」」
夜蛾学長と補助監督を含めた呪術師達で話し合いが行われた。内容は、訪れる12月24日の作戦である。放たれる呪霊の数は膨大だ。協力を要請して集まったとしても呪術師というのはそこまで数は多くない。そもそもがマイナーだからだ。それに全ての呪術師が必ず集まるということもない。
命惜しさに参加しない者も居るし、呪術師になって日が浅く、力不足を悟って行かない者も居る。なので2000という数を数少ない呪術師達で対応しなければならない。つまり人の分配が鍵になってくるのだ。
補助監督達は他の呪術師達に救援を要請するために部屋を出て行った。少なくなった部屋の中には実力者達が揃っている。これから誰がどこを守りに向かうのかを決めていく。最初に決めるのは、五条と龍已だ。特級呪術師を一カ所に集中させておくことはしない。片方ずつ派遣するのだ。
「さて、じゃあ僕とセンパイはどうしようか?」
「俺はどちらでも構わない」
「んー、じゃあ僕が東京に付くから、センパイは京都の方をお願いしてもいい?あっちに居る高専の学生3年に2年、歌姫達と連携してよ」
「あぁ。では東京は任せたぞ。此方の方に夏油が来たとしたら、すまないが即座に殺す。……死体はどうする。その場で火葬しても構わないが」
「……出来るなら持って帰ってきて欲しいな。ごめんね」
「……そうだな。すまない。配慮に欠けていた」
「いいよいいよ。僕の我が儘だからね!」
「……では、悟は東京で。龍已は京都で対応を頼んだぞ。指揮の権利はお前達に一任する」
「りょーかい!」
「了解しました」
「では他の者達の配置についてだが──────」
話し合いは行われていく。まだ決行日まで日数はあるが、今の内に決めておいて準備を整えておきたい。龍已は長らく会っていない夏油をこの手で殺すかも知れないと考えて目を瞑る。思い起こされる学生だった頃の記憶。懐かしい過去の日々。思い出を掘り起こして、目を開ける。これでもう躊躇はしない。見つけ次第殺す。呪詛師に例外は要らない。
五条は夜蛾の話を聞きながら、何とも言えない思いを抱いていた。唯一無二の親友が宣戦布告。100名以上の一般人を殺して消えた仲間。いや、元仲間。どちらに来るのか解らないが、出来るならば自分のところに来て欲しいと思う。親友だからこそ、この手で終わらせてやりたいのだ。
思うことはあれど、五条も龍已も大人だ。私情は挟まない。敵ならば呪術師として対応して祓うのみ。どんなに胸が痛んでも、やらなくてはならないのだ。
「龍已先生……」
「反承司か。どうした」
「ちょっとお話しがありまして」
「構わないが、この場で良いか?」
「いえ、人があまり居ないところに」
「分かった」
話し合いが終わって翌日。呪術師の配置や、京都へ行くのは何日前にするか。何で行くか等を頭の中で組み立てながら廊下を歩いている龍已の後ろから、反承司が声を掛けた。何用かと思えば、話があるよう。この場で出来る話ならそれで良いのだが、どうやらあまり聞かれたくないのか、あまり人が居ないところを指定してきた。
頷いて了承した龍已は、廊下を進んでいく。反承司も彼の後に付いていった。辿り着いたのは、体術の訓練などをするグラウンドの、下に下がる階段部分だ。そこに座って話し合いをすることにする。これなら誰かが近くに居てもすぐに分かるし、壁も無いので壁越しに盗み聞きされることもないだろう。
一番下の階段部分に腰を下ろした龍已の隣に、同じく腰を下ろす反承司。すぐに内容を話すのかと思えば、彼女は中々話し出さない。取り敢えず話したくなるまで待とうと思い、隣でジッと口が開かれるのを待っていた。そうして1分程が経った頃。反承司は漸く話すために口を開いた。
「百鬼夜行が行われる日、龍已先生って東京ですか?京都ですか?」
「俺は京都を担当する」
「……そう、ですよね」
「……?どうした」
「……あの、五条悟と龍已先生の担当って反対に出来ませんか?」
「担当を反対に?特級呪術師である俺達をそれぞれに分けるのは当然だが、夏油がどちらに来ようと対応は出来るはずだ。だからという訳でもないが、担当を変える必要があるのか?」
「それは……それ…は……」
反承司は言葉に詰まってしまった。何が言いたいのかは解らない。何せ五条と龍已の担当地域を反対にするというだけなのだ。龍已が弱くて京都に強い呪霊が放たれるというのなら、五条と交換しても良いが、五条と龍已はどちらも果てしない強さを持っている。少し多いくらいの呪霊に遅れは取らないし、夏油にやられるつもりはない。
なので解らない。どうして担当を交換しようとしているのかを。だからそれは如何してかと聞いているのだが、反承司は上手く言えない様子。いや、気配から読み取るに言いたくても言えない、もしくは言って良いのか考え倦ねているといった感じだろうか。要するにそう簡単に理由が明かせないのだ。
階段に座る反承司は顔を俯かせ、スカートを手で握り締めている。どういう気持ちでこの事を話そうとしたのかは解らないし、意図も言葉足らずで伝わってこない。でも伝えようとする気概は伝わってくる。龍已は反承司の頭に手を置いて、優しく撫でた。無理をするなという意味を込めて。
頭に大きな硬い手の感触を感じて、瞠目して驚きながら勢い良く顔を上げた。隣を見上げれば、無表情なのに労るような雰囲気をした龍已が自身のことを見ていて、何でかは知らないが視界がぼやけて滲んだ。目に涙を張った反承司は、そのまま龍已に頭を撫でられた。
「話したいが話せないのだろう。話そうとしてくれるのは伝わっている。だから無理をするな。お前が何に怯えているのかは知らないが、心配することはない」
「龍已先生……」
「話したくても話せないのに、どうしても話したいときが来たら、その時に教えてくれ。気持ちの整理も必要なことだろう」
「……っ。ズルいですよ……そんな言葉を推しに言われたら……もっと言えなくなっちゃうじゃないですか……。はぁ……もう……いいです。私が大事なのは推しともう1人だけ……後はどうでもいい。うん。それが私なんだ。無理に変える必要はない。だから……龍已先生。少しだけ膝を貸して下さい」
「……構わないとも」
「……えへへ。ありがとうございます」
座っている姿勢から体を倒して龍已の膝に体を預け、自身の腕を枕にして寝そべる。感じる体温が彼を人間たらしめる。生きている。彼はこの世界で確かに生きている。死んでいる者が持つ冷たさではなく、生きているからこそ内包し、発せられる温もりだ。それのためなら、反承司零奈は戦える。
これからの多少の道なりには目を瞑ろう。その代わりに、アレだけは絶対にさせない。そう心に誓う。聞いている者はない。心の中で、自分自身に立てる誓いだ。その為にこれまで頑張ってきたのだ。弱点を教えられ、克服し、長所を伸ばしてきた。自分にならやれる。やらなくてはならない。
頭の上に手が置かれる。また撫でてくれている。どの格闘家よりも硬く、どんなに傷だらけな人よりも傷が多く、誰よりも温かくて優しい大きな手。不思議なものだ。呪詛師を絶対に逃がさないのに、この優しさを知った者達も逃がしてくれないのだから。ある種の呪いに匹敵する。
少しの間頭を撫でてもらった反承司は、ありがとうございましたとお礼の言葉を言ってから体を起こした。先と同じように隣に座る。そして、別の話をするのだ。京都に行く龍已に付いていっても良いかと。東京ではなくて、京都の対応をさせて欲しいと。貴方の戦う姿を、近くで見せて欲しいのだと。
推しだからとか、観察したいからとか、そういう理由ではなかった。ふざけた様子も無い、真剣な眼差し。龍已はその目と正面から向き合い、頷いた。学長に掛け合ってみようと。許可が出れば、一緒に来ても構わないと言い、反承司は嬉しそうに微笑んだ。
「──────で、何故お前が一緒に来るんだ、甚爾」
「あー?」
「私と龍已先生だけで行くと思ったのに、何でこのフィジカルゴリラが……」
「イイじゃねーかよ。あっちには五条の坊も居んだ。俺が京都の方行っても問題ねーだろ」
「目的は?」
「暁美と津美紀が本場の八ツ橋食いてーんだと」
「百鬼夜行の対応だぞ。旅行ではない」
「わーってるよ。だから帰りに土産として買ってくんだよ」
「はぁ……」
時が経ち、百鬼夜行が近くなった。そこで龍已と、夜蛾から同行の許可を得た反承司が新幹線に乗って京都へ移動している。だがその2人についていく人物が、伏黒甚爾だった。事前に甚爾がついていくという話を聞いているなら、龍已は何も言わなかった。つまり、許可は得ていない。
勝手についてきたのだ。今頃夜蛾は甚爾が居ないことに気が付いた頃だろう。来てしまっているものは仕方ないし、帰れと行っても絶対に帰らないだろう。龍已は溜め息を吐きながら、新幹線の中だが夜蛾に電話を掛けた。普通に出た夜蛾だが、甚爾がついてきたことを報告すると、呆れたような溜め息を吐いていた。
もういいから、甚爾も京都の対応をさせろという指令を受けたので了解とだけ言って通話を切った。強化された聴覚で会話の内容を聞いていた甚爾は、許可が出たことにニヤリと笑った。
「まったく、自由だなお前は」
「仕方ねーだろ。百鬼夜行が東京と京都で起こるから近づくなっつったら八ツ橋買ってこいって言いやがるんだから」
「金は持ってきたんだろうな?」
「昨日パチでスった」
「このマダオほんとサイテー」
「パチンコが目の前にあんのが悪ィんだよ」
「山があるからみたいに言うな」
「つか、マダオってなんだよ」
「マジでダメなオッサン」
「言いたい放題かよ」
なんと渡されたお土産用のお金は既に使い切っているという甚爾。いや、流石に新幹線に乗るための金は残しておいたようだが、それ以外はすっからかんのようだ。後ろのポケットに入っていた財布を取り出して逆さにしてもゴミしか落ちてこないところを見ると小銭すら入っていないらしい。
お土産を買う金はどうするんだと聞くと、まあどうにかなるだろという楽観的な言葉が出て来た。いや本当に自由だなコイツと思わないでもない。椅子の背もたれを限界まで下げて寝の体勢に入った甚爾を見てはぁ……とまた溜め息を溢す。椅子は3列になっているので、龍已を挟んで反対側に居る反承司はゴミを見る目を向けた。
気配と感じる視線でそれを察知している甚爾だが、慣れているのか何も言ってこなかった。いや、慣れてしまっている時点で大分最悪なのだが、もう良いかと放っておくことにした。
駅に着くまでまだまだ時間があるので、龍已も一眠りしようかと椅子を倒すレバーに手を掛けると裾を引かれた。引っ張ったであろう反承司の方へ目を向けると、トランプが入ったケースを見せながらニコニコとしていた。どうやら遊んで欲しいようだ。別に眠いわけでもないので、快く付き合うことにした。
「むむっ……ババは……えーっと……右だろうから左!……うわーん!」
「外れ。次は俺だな」
「ふふん。私のポーカーフェイスを破れ……あっ」
「これで俺の3連勝だ」
「うぅぅっ……龍已先生ポーカーフェイス強すぎ……」
「元からだ」
トランプでババ抜きをしていると、ポーカーフェイスが石像のようにカチコチの龍已は連勝を重ねていた。というよりも、反承司が分かりやすいだけなのだが。必死にバレないようにしているから逆に分かりやすいという悪循環を繰り返し、勝負に負けていた。でも楽しそうである。
そろそろ同じものばかりやっているので飽きがくる頃だ。なので今度は七並べでもしようとしていた。トランプを切って設置できるテーブルの上に並べようとして、後ろの方からざわりとした声を聞いた。その声は段々と大きくなっていき、最後は悲鳴に変わった。何事かと椅子と椅子の間から後ろを盗み見てみると、どうやら事件のようだ。
無情髭が伸びて焦点が合っていない40代後半辺りの男性が右腕に子供の後ろ襟を掴み、右手には包丁を持っていた。人質として捕らえているようだ。目的は何か知らないが、異常者であることに変わりはない。犯人を刺激しないように、男に近い他の客は離れていく。だが、その中でも1人の女性は泣きながら誰かの名前を叫んでいた。人質の女の子の母親だろう。
「へへ……もう何もかもどうでもいい……最後くらい誰かぶっ殺してやる……へへへ」
「えぐっ……ひっく……ママぁ……っ」
「花菜……っ!花菜ぁ……っ!!」
「待て!近づいたら危ない!」
「嫌よ!わ、私の娘が捕まっているのよ!?花菜!花菜ーーっ!!」
「ふわぁ……ンだようっせーな。気持ち良く寝てんのによ……ぁあ?」
「人質を取って乱心している奴が居るだけだ」
「はぁ?チッ。新幹線止まるじゃねーか。メンドクセー」
「何で態々この新幹線なんでしょうね。龍已先生、どうします?」
「ふむ……」
「おい近づくな!止めようとしたらオマエらも殺すからな!!」
「うぅっ……ひっく……たすけて、ママぁ……」
日夜人ならざるものとばかり殺し合いをしている龍已達は感覚がおかしくなっていて、人が殺されそうになっている危険な状況でも酷く冷静だった。龍已は呪詛師に一般人が殺されるのは我慢ならないが、常日頃何処かで起きている一般人が起こす殺人事件等は興味が無い。あくまで呪詛師が絡んでいることだけだ。興味があるのは。
甚爾は元から他人なんて別にどうでもいいという考えをしている。妻の暁美や娘の津美紀、息子の恵などが危険に迫っていたら動いていたかも知れないが、他の者達がどうしようが興味が無いのでまた寝の体勢に入ろうとして、備え付けのアイマスクを目に掛けた。
そして反承司は、龍已と家入以外がどうなろうと全く興味が無いので、目の前で死んでも何とも思わない。犯人が人質にしている小さい女の子をズタズタに裂いて殺そうが、そんな女の子と目が合おうが助けてあげたいなどとは考えない。龍已にどうするか聞いたのは、自分達にも面倒の粉が降り掛かる前に鎮圧するか、勝手に鎮圧されるまで放っておくかを聞いたのだ。
呪術師は人々を守るヒーローではない。人が知らない場所で知らない化け物を人知れず祓うだけの存在だ。困っている人が居れば必ず助けるのは彼等のやることではない。警察などが居るのだから、彼等に任せておけば良いのだ。視た限り呪詛師でもなく本当に単なる気が狂った一般人である。
さてどうするかと考えている間に、乱心の犯人は少しずつ前に移動していた。捕まえている女の子を無理矢理歩かせながら、1歩ずつ龍已達の方へ来ていた。このままだと唯一何の反応も見せず座ったままの自分達に何かしらの行動を取ってくるだろう。なので仕方ないと、龍已は隣の甚爾を揺すった。
「んぁ?なんだよ」
「あの犯人の手脚の健を斬ってこい。
「はぁ?メンドクセーからパス」
「できたら京都の土産を好きなだけ買ってやるし、遊ぶ金も少し出してやるが」
「……幾らだよ」
「お前の小遣い分だ」
「2倍」
「……まあ良いか。その代わりに百鬼夜行はしっかりと働けよ」
「ククッ……了解しましたご主人サマ。あとナイフくれ」
「クロ。普通のナイフを出してやれ」
「……っ……けぷッ」
「ンじゃぁ……──────サクッと終わらせてやるか」
「年下から金をもらう年上って……」
首に巻き付いていた蛇型の武器庫呪霊クロが、龍已の言葉に頷いて口を開き、中から普通のサバイバルナイフを吐き出した。それを手に取って弄びながら感触を確認すると、シートベルトを外して首を傾け、関節をごきりと鳴らした。金が無くてどうするかと思っていたところに渡り船だ。さっさと終わらせてしまおうとニヤついた笑みを浮かべる。
反承司は年下の人に金を貰おうとしていることに普通にドン引きしていた。でも、この場は甚爾に任せることにして興味なさそうにトランプを切り始める。甚爾はフィジカルギフテッドで強化された聴覚で辺りの音を拾ってタイミングを見計らっていた。
周囲の人間の意識が割かれ、動き出しても構わないタイミングを。誰かに見られないように体の陰にナイフを隠しながら上半身を起こして前のめりになる。脚の発達した強靭な筋肉を力ませて、何時でも動き出せるように準備を整えておく。そして、待つこと数秒で絶好のタイミングが訪れた。
女の子を人質にしていた犯人は、勇気か蛮勇か接近した一般人の男性に驚いて蹴りを入れて距離を取らせた後、女の子に向かって包丁を振り上げて刺し殺そうとした。人が刺されるという場面。人はその瞬間を無意識の内に見ないよう顔を背けて目を瞑る。そこを超人の肉体を持つ甚爾は狙った。
出せる最高速度を、天井や壁を足場に跳ね回りながら接近して擦れ違い様に手脚の健をナイフで断ち切った。五条悟でも速過ぎて目で追えないと言わしめた速度は、一般人の……それも顔を背けてしまった者達の視界には到底映り込むことはなく、知覚されなかった。1秒にも満たない神速で行われた行為を終えて、甚爾はいつの間にか先程の変わらない姿勢で椅子に座っていた。
使ったナイフは、甚爾の速度が速過ぎて血すらも付いていない。血払いをすることもなく、クロの口の中にナイフを押し込んでアイマスクを降ろし、寝の体勢に入った。仕事は終わったから降ろされる駅まで寝かしとけと言っているようだった。
「死ねぇぇぇぇぇぇッ!!!!…………あ、あれ……俺の腕……脚……ぃ、いでぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!いでぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
「ママ……っ!ママぁ……っ!!」
「良かった……っ!花菜、無事で本当に良かった……っ!」
「な、なんだ?犯人がいきなり血を出して倒れた……?」
「そ、そんなことよりも拘束しろっ!暴れられる前に!」
「そう……だな……よし、皆手伝ってくれ!」
後ろからバタバタと忙しない音が聞こえる。一般人からして見れば、犯人が人質の女の子を包丁で刺して殺そうとしたところ、突然血を出して倒れただけだ。それも立ち上がろうとしても立ち上がれない。痛みで藻掻き苦しみながら泣き叫ぶだけなのだ。
周囲を少し見渡して、何が起きているのか困惑しながら犯人を取り押さえている一般人達を確認し、椅子に座り直す龍已。依頼通り誰にも知覚されずに一連の行動を終わらせた。後で金を渡しておこうと考えながら新幹線に流れる車内放送を聞いていた。
「ちょうど良い切れ味のナイフだったぞ、クロ。お前も良くやった」
「……♪」
「……………………。」
──────伏黒甚爾の動き……全く見えなかった。体術の授業でやる動きなんかじゃない。本気の速度……本当に……見えなかった。けど、龍已先生は完全に見えていたようだし、それだけの動きが出来るって信頼してた。だから自分でやらずに任せたんだ。呪力が0だから万が一も無い。……私もまだまだ足りてない。
クロを撫でている龍已と、次の駅で止まるまでの間寝る甚爾を尻目に、反承司は内心穏やかではなかった。2年生に上がったことの他にもしっかりと実力は付けている。入学当初には持久力が無いという問題も、走り込みや長時間の鍛錬を行って解決した。術式の使い方も、自分で言うのも何だが上達している。
武器術も多くの武器で試して近接戦が出来るようになった。でも、それでも伏黒甚爾には勝てず、時々時間の空いた龍已にも稽古をつけてもらったが、力の差、果てしない壁、越えるのが困難を極める別次元の強さを目の当たりにするだけだった。もっと強くなりたい。強くならなくてはいけない。なのに無力感を実感するだけ。
変な事件が起きるまで遊んでいたトランプのカードが、手の中でぐしゃりと潰される。それで心が晴れるわけがない。でも何かしないと口に出してしまいそうで嫌なのだ。強くなりたいなら強い人から技術を盗み、己の力としていくのが1番良い。教えてもらえたら最高だ。つまり、今の自身はとても恵まれている。超人の肉体を持つ伏黒甚爾。五条悟にも匹敵する特級呪術師の黒圓龍已。この2人から1番良く指導を受けているのは自分だ。
でも、強くなっていても強くなっていると思えない。並び立てるとは思えない。刻まれた術式は強力だ。甚爾は呪力すら存在せず、龍已の術式は言ってしまえば呪力を飛ばすだけ。やろうと思えば誰でも出来るのだ。少し細かな操作が可能なだけ。なのに、天与呪縛で銃を介さないと使えない。言葉にすれば簡単なのに、この2人は明らかに別次元の遙か高みに君臨する。
惨め……とはいかなくとも、焦りがやってくる。このままではこの業界、この世界を生き抜くなんて無理だ。人は簡単に死ぬ。少しの衝撃。小さな病気。ふとしたきっかけ。それだけで人間は容易く死ぬ。呪いという負のエネルギーが渦巻く世界で身を置く自分は、何があろうと強くならなければならない。でないと、生き残れず死ぬだけだ。
『車内で事件が起きたため、当新幹線は緊急停止いたします。ご乗車の皆様、ご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありません』
「おい甚爾、起きろ」
「んぁ……着いたのか」
「降ろされる駅にな」
「ふわぁぁ……あ゙ー……寝たりねェ」
「目を閉じて数秒で寝てたぞ。どれだけ寝付きが良いんだ。……?どうした反承司。気配が揺らいでいるぞ」
「……ふぅ……大丈夫ですよ!何でもないです!ちょっと新幹線酔いしたかな?って感じなので」
「そうか?気分が本当に悪くなったら俺か甚爾に言うんだぞ。必ず今日中に着かなくてはならない……ということはないからな」
「はーい!」
元気よく返事をして言葉を返す反承司は、上げた手とは反対の手を強く握り締める。駅に着いたので駅員が車内に入って現場を確認し、乗っている乗客に声を掛けて外に出てもらうよう指示を始めた。それぞれの荷物を持って出口に向かう人の列に3人も紛れ込んでいく。
背丈が188センチの甚爾と182センチの龍已は周りよりも大きく、結構目立つ。なので見失うことはない。2人の背中を見ていると、後ろに居ることもあってか自分達の立場を想起させる。彼等は前に、そして高みで、自身は後ろの遥か下。置いて行かれるというよりも、追い付けず、並び立てない。
詰んできた経験も鍛錬の量も全く違うのだから当然と言えば当然なのだが、あそこへ辿り着く自分の姿すらイメージ出来ない。あそこへ行きたいのに、行けない。それがやはり嫌で手を伸ばしていた。人混みの中、置いて行かれるのを怖がる子供のようだ。そんな反承司の手を、龍已が掴んだ。彼と甚爾が止まって振り返る。2人とも手を伸ばしていた事に首を傾げていた。そんなに見失いそうになる人の多さか?と思っていることだろう。
こんな風に立ち止まって、手を取って引き上げてくれようとはしてくれる。優しいなとも思う。でも、2人が居るところは遠すぎて、引き上げてもらうくらいじゃ上がれないのだ。手から感じる温かさが冷たく感じるが、努めて笑みを浮かべてお礼の言葉を言った。念の為に繋いでおくかと言う龍已と手を繋ぎながら駅を出て、適当な建物の立ち入り禁止な屋上へと出た。
「ンで?どーすんだよ。確認やら何やらで数時間は動かねーぞ」
「車で行くのもな……甚爾と反承司は高所恐怖症か?」
「高いところは大丈夫ですよ!上から見る景色とか好きですし!」
「俺も別に何ともねーな」
「そうか。それなら使えるな。──────『黑ノ神』起動」
「おいおいマジかよ。それ使うのかよ」
首に巻き付いたクロが吐き出したのは、龍已の持つ呪具の中でも特別別格な性能を持つ『黑ノ神』であった。全く同じ形のユニットが6つで1つの異例特級呪具。存在を存在させない術式により、何者にもその場にあることが解らず、姿すら観測することは出来ない代物。それを全て出して、龍已にだけは見えるユニットの2つの上に乗った。
まだ半分も進んでいないのに、此処から車で行ったらかなりの時間が掛かる。それなら空から直線距離で行ってしまおうと考えたのだ。3人は体幹もバランス感覚も優れているので、かなりの速度を出しても大丈夫だろう。
『黑ノ神』の術式を解くと、黒のユニットが姿を現す。甚爾も何気に目にするのは初めてなので興味深そうに見ている。叩いてみても、『黒龍』と同じ特殊金属を使用しているので壊れない。例えビルの上から落とそうと傷一つつかない硬度を持っている。龍已はそれぞれ2つ使って上に乗れという。意図を察してすぐに乗ると、彼から試験管の中に入った透明の液体を渡された。
「これは数時間だけ他者の認識を誤魔化す呪具だ。全部飲んでおけ。人が空を飛んでいるところを見られれば騒ぎになる」
「味って……」
「製作者はイチゴ味にしたと言っていた」
「えっ……あ、美味しい」
「味まで再現出来んのかよ。どんな呪具師だ」
「──────世界最高の呪具師だ」
『黑ノ神』の上に乗って移動していると、人が飛んでいる光景が映る。そうなれば大きな騒ぎになるだろうから、他者の認識を誤魔化す呪具を渡したのだ。飲んでしまうので使い切りだが、こういう時に使わずして何時使うのか。まあ、甚爾に渡すと何しでかすか解らないのは確実だが。
試験官の中身を飲んで効力を発揮したのを実感すると、乗っている『黑ノ神』から呪力が放出されて宙に浮かび上がった。最初は落ちそうになった反承司だったが、すぐにコツを掴んで揺れることもなかった。対して甚爾と言えば、『黑ノ神』の上で寝転んで新幹線からパクったアイマスクをつけて寝ようとしていた。
龍已は普通に座っており、反承司も立った状態だと疲れてしまうのでゆっくりと座った。準備が出来たと判断したら、高度を上げて前へと進んでいった。空から見る景色は良いものだ。風も気持ちが良くて清々しい。快晴な空な事もあって晴れやかな気持ちになれる。
先程まで抱いていたモヤモヤとした気持ちに光が差すようだ。もしかして、それを感じ取ってこんな風に空から行く方法をとってくれたのだろうか。下の景色を眺めていた顔をチラリと龍已の方へ向ける。彼は携帯で道を検索して、睨めっこをしていた。私のためなのかな、違うかなと、彼の中にある真実を想像しながら、反承司は笑みを浮かべた。
ナビの地図と睨み合う龍已と、空の上でも寝ている甚爾と、ニコニコしている反承司は長い空の旅を終えて京都に辿り着く。起こるのは呪詛師夏油による百鬼夜行。果たして夏油はどちらに現れるのだろうか。
反承司零奈
何かに囚われていて、強くなることに焦りを抱いている。比べる相手が悪すぎるのは自覚しているけれど、どうしても彼等と比べてしまって酷い負の感情が胸の中を巣くう。
自分は呪力を使っているのに、呪力の無い伏黒甚爾に負け、術式の技術は龍已に全く追い付けない。まだ子供で学生なのだから無理しなくていいのに、何故か強くなろうと急いでいる。
伏黒甚爾
お土産を買ってくるのと、移動するための金を殆どパチンコでスった人。あー、どうすっかなーと適当に考えていたら、龍已から手頃なバイトをやらせてもらったのでこれで一安心。
ずっと寝ようとしているのは、京都にはこんなに色んなものがあると暁美と津美紀からずっと話を聞かされ、寝るのが遅くなって寝不足だから。恵はさっさと寝た。
毎月のお小遣いは5万円。大体2日で無くなる。
黒圓龍已
流石に京都までの道のりをナビ無しでは無理。携帯の電波が途切れないくらいの高度を維持しながら京都の高専を目指している。
空から行くようにしたのは、気配で何となく反承司が落ち込んでいたから。何に落ち込んでいるのかは解らないが、気晴らし程度の気持ちでやった。
『黑ノ神』の上で寝転び、寝ている甚爾にどんだけ神経図太いんだと呆れている。
庵歌姫
今日やって来る龍已ともう一人の東京校の生徒を待っていたら、なんか空から来て普通に驚いた。あと何で伏黒さんが居るの?