呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

43 / 81


最高評価をしてくださった、彰村紫 おとど S,U トムハチ Joan 鷹箸 KG社長 唯の鮫 さん、ありがとうございます。




第四十三話  百鬼夜行開戦

 

 

 

 12月24日。呪詛師夏油の宣言した百鬼夜行当日。集められた呪術師達は各々自分の持ち場についていた。龍已に指示をされ、基本2人一組体制をとっている。片方が苦戦しているなら手助けをするようにと。そしてそれが出来るようにと。

 

 差し向けられる呪霊の殆どが2級以下の雑魚であるとしても、油断していると途端に死んでしまう。念には念をという方が良いだろう。特級呪術師である龍已の言葉に反対する者は居らず、今も戦いの準備を整えている。

 

 そうして指揮権を持つ龍已と言えば、何処へでも最短で駆け付けられる京都の中央に居た。彼の周りに呪術師は控えていない。離れた場所にこそ居るが、それでも少人数だ。それは何故か?彼の周りに人は要らないからである。龍已が死ぬような相手が居るなら、誰が傍に居ても同じだ。

 

 故に彼は、自身の広大な術式範囲を使って京都の中央から円形に4.2195キロの範囲を1人で担当する。その範囲内に入っている呪術師は念の為に居るだけに過ぎない。そうして呪霊や呪詛師が現れるのを待っていると、それらは空からやって来た。呪霊や呪詛師を呑み込んだ巨大な呪霊が空から落としてきたのだ。

 

 約2000という膨大な呪霊と、何人もの呪詛師の集団。百鬼夜行が始まったと、担当している地区に現れた呪霊達を祓い始める呪術師達。龍已は静かに両手の『黒龍』を左右に構え、他者には見えない『黑ノ神』を前方後方に3つずつ配置した。8つの銃口は膨大な超音波状の呪力を撃ち放った。

 

 

 

「──────『呪心定位(じゅしんていい)』」

 

 

 

 自身を中心とした半径4.2195キロを丸裸にする。存在する建物の形から範囲内に居る呪霊とそれが内包する呪力。それに伴う等級。呪詛師の数。それらが全て龍已の頭の中にある。だが調べられた者達はそれに気が付くことはない。超微小な呪力の音波故に、感じ取ることができないのだ。

 

 察せられるのは六眼を持つ五条悟だけ。しかしこの呪力の音波を散らせば、その近くに居るということが解る。つまり放たれれば居場所は必ずバレるのだ。そして居場所がバレれば、龍已はその場から動くことなく攻撃に移る。

 

 スキャンしたことで感知した呪霊548体。呪詛師26()。合わせた数574。しかし龍已はその数の2倍の呪力弾を用意した。その数は1148発。それはたった2発の弾丸から生み出された。真上に撃ち放たれた莫大な呪力を込められた弾丸は、遙か上空で残る1146発に分裂した。そして感知した呪霊と呪詛師の真上に2発ずつ配置される。

 

 例え分裂しようと1発の呪力弾に込められた呪力は膨大。それを質量そのまま使うのではなく、範囲を狭めて極細にし、1センチ程の極細な光線に変えて、墜とした。命を容易く奪う光線が、夜空に煌めく流星の如く降り注ぐ。敵を逃がさない、逃がしてくれない光である。

 

 

 

「墜ちて来い──────『碧落(へきらく)墜祓(ついばつ)』」

 

 

 

 内包した呪力を細く窄めることで速度を加速させ、貫通力を底上げする。結果、真下に居た呪霊は(心臓)を正確に撃ち抜かれた後、内部から大爆発して祓除された。呪詛師は頭を撃ち抜かれた。呪力で頭を貫かれたので万が一の反転術式も効かない。なのにそれがもう1発撃ち込まれるのだ。

 

 4.2195キロの範囲内に居た574という数字は、ほんの数秒で0となった。呪心定位を使っても、範囲内に生存は無し。しっかりと確かめると、今度は呪術師と戦っていた呪霊が範囲内に入り込んだ。常に『黑ノ神』6機を使って呪心定位で距離と数を把握しながら、『黒龍』をレッグホルスターに納め、首に巻き付くクロから『黒曜』を受け取った。

 

 重量250キロを一切感じさせない軽さで地面と平行に構え、頭の中に入ってくる呪霊の位置と『黒曜』の銃口を合わせる。遮蔽物が多くてスコープを覗く意味は無いので、ただ構えて引き金に指を置いた。すぅ……と息を吸って引き金を引く。『黒曜』の術式により大きな発砲音は無く、アンチマテリアルライフルの長い銃身を通って呪力弾が発射された。そして、建物の壁などを()()()()()

 

 音速を超えた速度で飛んでいく呪力弾は、多くの障害物である建物を完全に透過していき、目標である呪霊の頭を正確無比に撃ち抜いて爆散させた。約4キロ先の目標を撃ち抜くという神業を何の苦もなく成功させた龍已は吸った息を静かに吐き出し、『黒曜』のボルトに手を掛けて引いた。

 

 ボルトアクション式なので、薬莢を使った場合はボルトを手動で引くことで排出され、戻すと次の弾が装填される。排出された薬莢は煙を出しながら弾き出されて宙を舞い、アスファルトの地面に落ちて高い音を奏でた。これは使い捨ての呪具である。呪力を込めると、その呪力が無機物を透過するようになる。透過の薬莢だ。

 

 

 

「……次は南西か。……すぅ……──────」

 

 

 

 引き金を引く。音も無く膨大な呪力が込められた呪力弾が発射され、約4キロの旅路を終えて呪霊の頭を吹き飛ばす。ボルトを引いて薬莢を排出し、次の弾を装填する。敵の位置を常に把握し、範囲内に入った者を1発で排除していった。4キロ先の間とを撃ち抜くなんぞ、龍已からしてみれば造作もない。

 

 呪力弾なので風も重力も、そして透過の薬莢を使っているので障害物も関係無いと言えば簡単に思えるが、龍已は撃った呪力弾の進行方向を途中で変えていない。真っ直ぐ直線に撃ったままにして、動いている呪霊の頭を撃ち抜いているのだ。恐ろしいほどの神業である。1ミリでもズレがあれば何メートルと着弾点がズレるだろうから。

 

 そうして撃ち続けていると、マガジンの中にある弾が無くなる。『黒曜』から空のマガジンを外してレッグホルスターの『黒山』の後ろ部分にカチリと嵌める。代わりに取り付けておいた別のマガジンを外して手に取り、『黒曜』に取り付けた。頭で考える弾を勝手に装填するのが、この『黒山』の術式であり、弾は異空間になっている付属の小さなポケットから自動的に取り出される。つまり、龍已は撃ち続けて居れば良いのだ。

 

 音がない狙撃が何分か続いた。『呪心定位』で位置を探りながら、頭に思い浮かべるのは夏油が来ないことだった。半径4キロの範囲内に入れば解るし、夏油を見つけ次第龍已に報告が来るようになっている。しかし一向に連絡が来ないのだ。何時でも瞬時に掛けられるよう、自分の任務用携帯の番号は打ち込まれた状態にしてもらっている。なのでコールさえ来れば来たことになる。

 

 狙撃で撃ち祓った呪霊の数が100になりそうになった頃、龍已の任務用携帯に着信が入った。構えていた『黒曜』を肩に担いでポケットの中から携帯を取り出す。非通知ではなく反承司零奈と書かれていたので、まさか彼女の方に現れたのかと思い、通話ボタンを押して耳に当てた。

 

 

 

「反承司か。夏油が来たのか?」

 

『あ、ごめんなさい。違うんです。私の所の呪霊は全部祓ったので場所移動をしてもいいか聞きたくて』

 

「構わない。動く際は他の呪術師を最低1人連れて行くように。それと怪我はないか?」

 

『大丈夫ですよ!1級呪霊が何体か出て来ましたけど、術式使われる前に祓いましたから』

 

「……そうか。では、引き続き頼む」

 

『はーい!』

 

 

 

 元気が良い返事を聞いて通話を切った。明るい声とは裏腹に、龍已は反承司が祓っただろう呪霊について考える。1級呪霊は決して弱くはない。むしろ特級を抜いた最上位の強さを持つ呪霊だ。現在2級呪術師をしている反承司だと、数値上は準1級の呪霊を相手にするだけで精一杯のはず。しかし彼女はその1級呪霊を数体祓いつつ、無傷だと言う。

 

 とっくに1級としての強さを持っている。これなら昇級をしても問題ないだろう。担任は五条なので、後で1級に推薦しておくか?と考えていると、またしても携帯に連絡が入った。次は誰なのかと画面を見れば、伏黒甚爾と書かれていた。アイツが見つけたのか?と思ったが、何となく反承司と同じ感じがする。取り敢えず出てみれば、戦闘音が聞こえてくる。

 

 

 

『おーい聞こえてるか?』

 

「後ろの音がうるさいが、何の用だ?」

 

『あー、俺が居るとこはもう祓い終わるから、適当に動いて祓っとくぜ』

 

「了解。呪詛師はどうしている?」

 

『顔が判るように頭に呪具のナイフ突っ込んでる』

 

「なるほど。では引き続き頼む」

 

『おー。あぁ、特級の呪霊も祓ったからボーナス頼むぜ』

 

「……なんの呪具で祓っているんだ」

 

『特級呪具の游雲でボコ殴りにしてる』

 

「……そうか」

 

 

 

 まあ、アイツは普通の特級呪霊では死なないだろうなと思いながら通話を切った。呪力が0になることと引き換えに超人の肉体と五感を手にした甚爾は、呪具も無しだと4級呪霊すら祓えない。しかし逆を言えば呪具さえあれば1級呪霊も祓えるということだ。

 

 現に所持している特級呪具の『游雲』を使って特級呪霊を祓ったという。周りにも呪術師が居て、祓う場面を見ていただろうから祓ったと嘘を言う意味は無いだろう。まあ、甚爾の強さは認めているので、彼が特級呪霊を祓ったと言われても別に驚かない。やっぱりかという思いだけだ。

 

 通話を終えた龍已は、肩に担いだ『黒曜』を両手に持って構える。話している間に範囲内に40体程の呪霊が入り込んでいた。1発で仕留めていくのもいいが、その近くに呪術師が居て苦戦しているようなので、さっさと片づける事にした。

 

 一番近くに居る呪霊に向けて銃口を向け、引き金を引く。発射された呪力弾は直線に飛んでいって呪霊の頭を吹き飛ばした後、進行方向を変えてその場から一番近い呪霊に向かっていった。核を破壊して突き抜け、それを何度も繰り返す。飛び回る弾丸は範囲内に居る呪霊を全て一掃したのだ。

 

 

 

 ──────しかし、夏油は中々現れないな。それらしき人物の報告も無い。俺の術式範囲内に入れば必ず判る。百鬼夜行が始まってからそれなりの時間が経過している筈なのだが……。

 

 

 

 一向に姿を現さない夏油に疑問を抱く。もしかしたら京都ではなく、東京(あっち)に居るのでは?とさえ思う。殺した呪詛師も大した呪力も持っておらず、飛んでくる呪力弾に反応すら出来ていない。1発で死ぬ。夏油ならば精鋭のような者を集めていてもおかしくはない。なのにそれらしき者は居ないのだ。

 

 夏油が居るのは五条の居る東京か?と思いながら、『黒曜』で呪力弾を撃って数多くの呪霊、呪詛師を排除していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、この区画はラスト……ッ!!」

 

 

 

「凄まじいな……あの女の子は」

 

「東京の高専の子なんだろ?確か2年生だって言ってたな」

 

「1級に続いて特級呪霊も祓ってただろ。しかも素手の一撃でだ」

 

「俺、この百鬼夜行終わったらあの子を1級呪術師に推薦するわ」

 

「あれを見て文句言う奴は居ねぇよ」

 

「あんな可愛い子があんな強いのは反則だろ」

 

 

 

 ──────はーうっざ。見てないで戦えよ。何で2級呪術師の私が1級呪霊に特級呪霊まで祓わないといけないわけ?しかもアイツら熱心に見てるの私の胸とお尻ばっかだし。マジでキモい。呪われて死ね。推しに見られるならまだしも、お前らに見られてると鳥肌が立つんだよ。

 

 

 

 別の場所。担当していた地区に現れた呪霊を全て祓った反承司は、知らない呪術師を連れて違う地区にやって来て祓除を開始した。2級呪術師である彼女の戦いぶりは凄まじいもので、走りながら擦れ違い様に呪霊を爆発四散させていた。特級呪霊と鉢合わせた時も、拳の1つで割った風船のようにしてやった。

 

 呪力はまだまだある。精神的疲れも無い。戦いは続行可能だ。だから、後で龍已に褒めてもらえるようにめたくそに呪霊を祓い続けていた。そんな姿を、応援にやって来た呪術師達が呆気にとられながら眺めている。呪具で祓っているので時間が掛かる者も居れば、時間を要する術式により手こずっている者も居る。それを尻目に擦れ違い様の祓除だ。

 

 そして何と言っても、反承司は美人だった。それなりに高い身長に、制服の上からでも解る大きな胸。動いているときにチラリと見えるYシャツ越しの括れた腰。日本人らしい黒髪に琥珀色の瞳。整った顔立ち。なのに異様に強い。現在までかなりの呪霊を祓っている筈なのに、息一つ乱れず傷も無い。

 

 注目してしまうのも仕方ないだろう。今居る地区の最後の呪霊……10メートルはある巨大な呪霊に向けて、アスファルトの欠片を手に取り、呪力を込めて全力で投擲した。少女の肉体は呪力で強化されている。それで物を投げればそれなりの速度にはなるだろう。しかし、反承司が投擲したアスファルトの欠片は他の呪術師が捉えられる速度を余裕でぶっち切った。

 

 音よりも速い雷。雷速。それに迫る速度を叩き出して巨大な呪霊の胴体に大きな風穴を開けて祓った。後からソニックブームのような大気を叩く衝撃波がやって来て、反承司の黒髪がふんわりと持ち上がって揺れた。投擲した後の体勢を元に戻し、手で髪を後ろに払う。崩れ去る呪霊を最後に睨み付けると、鼻を鳴らしながらそっぽを向いて別の地区へ向かった。

 

 

 

「呪霊のクセに私を上から見下すな。(まと)がデカいんだよ雑魚が」

 

 

 

「つ、強ぇ……」

 

「あ、やべ。あの子についていかないと……っ!」

 

「祓った呪霊カウントしてあげろよー」

 

「解ってるわ!」

 

 

 

 見ていただけになってしまった呪術師の中から、反承司に付いてきてくれと頼まれている男が慌てたように走り出した。龍已や動きが速過ぎてそもそも置いて行かれる甚爾のような者達を除き、基本的に2人一組なので一緒に居なくてはならない。なので反承司が移動したら男も移動しないといけないのだ。あと、全然戦えていないので祓った呪霊のカウントをやっている。

 

 走って移動中。呪術師の男は全力で走っていた。にも拘わらず、反承司には一向に追い付けない。それどころか()()()()()()()()()。数メートルの開いた距離は数十メートルにもなり、次の地区に辿り着く頃には米粒くらいの差が開いていた。しかも反承司は呪霊狩りを始めている。

 

 これでは正確な数が計れていないと、確実に自分の方が長く呪術師をしているのに、学生の女の子に負けていると考えると不甲斐ない。だからせめてもと祓った呪霊のカウントをしているのに、それすら出来ていないのだから、内心で謝ることしか出来なかった。そんなこと、反承司は一切気にしていないし、男の事なんて何とも思っていないが。

 

 群を為して迫ってくる3級呪霊達を、跳躍して踵落としの要領で地面に叩き付けた。呪力の衝撃波が発生して地面に波を作り、広範囲に亀裂を入れて呪力を纏う鋭い土の破片を下から叩き付けて穴だらけにした。一掃するとその攻撃を凌いだアルマジロのように丸くなり転がってくる呪霊が目に入り、正面から向かって掌底を叩き込んだ。

 

 

 

「──────『月輪』ッ!!ラッキーで攻撃凌いだからって調子乗んな」

 

 

 

 アルマジロに似た姿をしていた呪霊は、トップスピードに乗って突進したのに掌底から生み出される衝撃と呪力に月輪を描いて消滅した。多少硬いからといって防げる攻撃ではなし。直接攻撃を叩き込めば御覧の通りである。

 

 掌底を叩き込んだ掌を開閉して感触を確かめ、問題ないと判断して顔を上げる。他の呪術師が対応している3級呪霊と少しばかりの2級呪霊。街灯の上で高みの見物をしている1級呪霊が1体居る。チマチマ1体1体祓うのが面倒くさくなった反承司は、大声で戦闘中の呪術師に上へ跳べと叫んだ。

 

 突然の大声につい咄嗟に上へ跳んだ呪術師達。反承司は前方に強く踏み出して跳躍し、体を1回転、2回転目で右脚を横凪に振り抜いた。呪霊の群れとの間にはまだ距離がある。そんなところで蹴りの真似をしても意味は無いと、咄嗟に跳んだ呪術師達が思い浮かべたが、その考えは次の瞬間霧散した。

 

 

 

「面倒くさいから、()()()()全部使ってやる。訳も解らず死ね──────『風薙(かぜな)ぎ』ッ!!」

 

 

 

 目には見えない何かが死神の鎌のように下を通過していったことは解った。呪力を帯びたそれは、呪霊の群れを端から端まで捉える。跳躍が終わった呪術師達が着地し、念の為に各々戦闘態勢にもう一度入った。だが、その必要は無い。先程まで相手にしていた呪霊達の動きが止まり、ゆっくりと上と下に両断されて崩れ落ちた。

 

 反承司の正面に居た呪霊は全部祓われた。たった一撃でだ。加えてその攻撃がどういう攻撃だったのか解らないのだ。えぇ……みたいな視線が反承司に注がれる。まあ態々知らない者に自分の術式の解説をする呪術師は居ないので、努めて無視した。

 

 残るは街灯の上で高みの見物を決め込んでいた1級呪霊のみ。一瞬で眼下の呪霊がやられたことに動きを止めている。睨み付けるは他とは違う気配を醸し出す反承司零奈ただ1人。彼女は呪力を放出して威嚇してくる1級呪霊に中指を立てた。

 

 

 

「捻り殺してやるからさっさと降りてかかってこい。お前を祓わないと次に行けないだろうが」

 

「ぞ、ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞんッ!!!!」

 

「はッ!──────何言ってるか訳解んないから死ねよ」

 

 

 

 街灯を踏み潰し、体を大きくして筋肉のようなものを隆起させる呪霊。膨れ上がる呪力塊を前に、反承司は緩やかで美しい舞のような動きで構え……疾走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────だから捻り殺すっつったろうが」

 

 

 

 全身を強く絞られた雑巾のように捻じ曲げられ、最後は側頭部に蹴りを入れられて頭を消し飛ばされた。頭を失った体が力無く倒れていき、倒れきる前に砕けて消えて祓われた。

 

 ぐちゃぐちゃにされて祓われた1級呪霊に興味も無さそうに後ろの髪を鬱陶しそうに手で払って鼻を鳴らしてそっぽを向く。強かにして強い少女。呪術師は彼女に釘付けだった。一体何者なのかと思案するが、着ている服が高専の服であると解ると瞠目する。高専はこれ程の生徒を育てているのかと。

 

 その思いが伝わってきて、反承司は内心で龍已先生に鍛えられているんだから強くて当たり前だろと、誰に言っているのか解らないが得意気になった。ある程度の()()は終えたので次の場所へ移ろうとする反承司。するとそんな彼女の元へ、巫女服に似た服を着た女性が駆け寄った。

 

 

 

「反承司じゃない!アンタこんなところまで来てたの!?自分の持ち場はどうしたのよ?」

 

「……京都校の庵先生ですか。別に、持ち場の呪霊全部祓ったんで、移動しながら他のとこのクソみたいに雑魚な呪霊を祓っているだけです」

 

「クソみたいって……っていうか全部祓ったの!?殆ど2級以下とはいえ1級呪霊とか紛れてたでしょ?」

 

「1級はもう何体も祓いましたよ。特級は1体ですかね。向かって来る奴ら取り敢えず全部祓ってるんで他の細かい数なんて知らないですけど」

 

「とっ……!?」

 

「もういいですか。龍已先生に褒めてもらうためにもっと呪霊共をぶち殺しておきたいんで、貴女とずっとお喋りしてる暇なんて無いんですよ」

 

 

 

 駆け寄ってきたのは庵歌姫。龍已の先輩であり、京都の高専で教師をしている女性である。準1級呪術師である彼女も百鬼夜行に対抗するために参加している。指揮権を任せられている龍已の指示で持ち場に居たが、周りと協力して呪霊の数を減らしたので他の応援のために動いていた。

 

 反承司を見つけたのは偶然だった。捻り殺した1級呪霊のところは見ていないが、強い呪力の気配を感じたので急いで向かったのだ。誰なのかと思ってみてみれば、数ヶ月前に行った姉妹校交流会で会った反承司だったのだ。龍已の傍に居て、他の生徒とは何処か一線引いているイメージを持つ彼女だが、話してみれば確かに。他の生徒というよりも、他者と一線引いているようだ。

 

 声色から実に興味が無さそうな冷たさを感じる。庵歌姫という人物は知っているが、だからなんだと言わんばかりの興味なさそうな声と目線。その態度で確信を抱けるくらい、話して早々その場を後にしようとする。確かに今は戦いの最中なので呑気に話をして良い状況ではないが、もう少し話をしてくれても良いと思う。

 

 年甲斐も無くムッとしてちょっと小言を言おうとした歌姫だったが、建物に手を掛けてこちらを上から覗き込む巨大な呪霊に気がついた。気配は準1級だろう。反承司がアスファルトの破片を投擲して祓った呪霊よりも大きい。全身から長く鋭い棘を生やし、傍にある建物を傷つけて移動している。

 

 また図体だけデカい雑魚が湧いたよと呆れている反承司と、強い呪力の気配に警戒を抱きながら構えて臨戦態勢を取る歌姫。力を合わせて一緒に祓うわよ!と声を掛けるが、はぁ……と溜め息だけ吐く反承司。この程度力を合わせる必要も無い。またアスファルトの破片で消し飛ばしてやろうと思った時、遠方より呪力の光線が呪霊を呑み込んだ。

 

 頭、腕、脚を残して胴体を極太の呪力の光線が跡形も無く消し飛ばした。呆気ない祓除と、光線に込められた計り知れない呪力量に唖然とする歌姫と、目をキラキラと輝かせて笑みを浮かべる反承司。歌姫は最初こそ何事かと思っていたが、よくよく考えればこんな事出来るのは2人しか知らない。その内の1人は東京に居るのだから、自ずと答えは出てくる。

 

 

 

「──────歌姫先輩も移動していましたか。怪我は……無いようですね。何よりです」

 

「龍已……っ!ふふっ、相変わらずスゴい呪力量と呪力出力ね!」

 

「ありがとうございます。……反承司も怪我は無いようだな。元の配置と残穢から察するに、相当な呪霊を祓っているだろう。偉いぞ」

 

「うぇへへ……うへへ……龍已先生に褒められちった……褒められちった……うひひ……」

 

「性格変わりすぎでしょ!?」

 

 

 

 だらしない顔でニヘラと笑う反承司を見て叫ぶのも無理はない。彼女は龍已が絡むとこうなるのだから。また変わった子が居るなぁ……と思いつつ、空からゆっくりと滑空して降りてきた龍已に笑みを浮かべる。京都の中央で半径約4キロの範囲をほぼ1人でカバーしていた龍已が何故此処に居るのかは解らないが、お気に入りの後輩に会えれば自然と顔がほころぶものだ。

 

 此処に硝子も居ればなぁ……と無いもの強請りをしてしまう歌姫は、顔を振って頬をパチンと叩いて意識を入れ替える。まだ戦いの最中なのだ。楽しいお喋りはこの戦いが終わってからでも十分だ。

 

 歌姫の気付けを見て首を傾げていた龍已は、歌姫から戦況を聞いた。彼女が受け持っていた呪霊の殆どは祓い終えている。あと少し残っているが、どれも低級なので他の呪術師達に任せて、自分は他の場所に居る呪霊を祓いに動いていること。反承司からも、この場所が移動して2つ目の地区であり、龍已が祓った大きな呪霊が最後だということを聞いた。

 

 反承司が実は本当に凄まじい量の呪霊を祓っている事を横で聞いて驚いている歌姫。嘘をつく必要も無いだろうから、本当のことの筈だ。後ろで男性の呪術師が反承司の祓った呪霊の大まかな数を報告してくるが、2級呪術師とは思えない戦果であった。

 

 

 

「なるほど。反承司、呪力はまだ残っているか?」

 

「長期戦になると思って温存しながらやってるんで、半分以上はありますよ!」

 

「ならお前は、引き続き移動をしながら呪霊の祓除を頼む。呪力が少なくなったら無理をせず休憩を取れ。お前のお陰でかなりの呪霊が祓われて皆が助かっている。本当に良くやっている。ありがとう。だからお前が休んでも、他の温存できている呪術師が代わりを務める」

 

「お、推しの頭ナデナデ……っ!あぁ……しあわふぇ……♡」

 

「歌姫先輩は彼から反承司との組を引き継ぎ、付いていてあげてください。呪霊を祓う速度は歌姫先輩の術式との関係上、反承司の方が早いので申し訳ありませんが彼女のサポートをお願いします」

 

「まあ、私の術式って時間掛かるものね。了解したわ。私に任せて」

 

「お願いします。俺は術式範囲内で『黑ノ神』を飛ばして呪霊を祓いながら、他の呪術師へ指示をするために動きます。何かあれば俺の携帯へ連絡を」

 

「うん。龍已もお疲れ様。後もう少しだろうからお互いに頑張りましょ。戦いが終わったら硝子も呼んで私の家で飲みましょうね」

 

「分かりました。楽しみにしておきます。では、また後程」

 

「えぇ。さっきはありがとね!」

 

 

 

 一機だけ傍に控えさせている『黑ノ神』に乗り、返事の代わりに手を振って答える龍已は、瞬く間に遙か上空へ行って別の方角へ飛んで行ってしまった。指揮権があるので、他の呪術師達へ指示をしなければならない。呪霊の数もかなり減っているのでここが正念場だ。

 

 

 

 

 

 百鬼夜行の京都方面は今のところ問題は無い。だが龍已は、東京が今どうなっているのかが気がかりであった。夏油は何をしたいのか。それを思案しつつ、他の場所を回りながら呪霊を祓っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────この禪院家に生まれた面汚しの猿が……ッ!!」

 

「あ?誰だオマエ。あぁ、あの家の……何だっけな。あー、ダメだ名前忘れたわ。誰だっけ」

 

「龍已君やん。久し振りやなぁ。折角やし俺とちょっと遊ばへん?そんなダッサいモン()は捨てて、男らしく拳を使って遊ぼうや」

 

「指示に従う気がないならば、指揮者として見過ごせん。素直に去るならば良し。でなければ──────禪院家といえど覚悟しろ」

 

 

 

 

 

 







碧落(へきらく)墜祓(ついばつ)

上空に散布した呪力弾の呪力を解放し、超広範囲に全滅の光線の雨を降らせる。『天の晄』の広範囲バージョン。光線を細くして範囲を狭めるという縛りで貫通力が底上げされている。




風薙(かぜな)ぎ』

反承司零奈が新たに編み出した技であり、前方に居る呪霊の群れを両断した。地上に居れば1級呪霊も真っ二つだった。




反承司零奈

褒めてもらう為だけに目につく呪霊を片っ端からぶっ殺し回っていた。他の呪術師を置いて高位の呪霊を数多く祓っているので、昇級の話は確実。むしろこの実力の子を2級にしておくのは勿体ないと話されている。

今現在一切の傷無し。受けた攻撃は0。大振りな攻撃に見えて、必要最低限の呪力消費に抑えているのでまだ戦闘は続行可能。歌姫を知っていたのは、今年の姉妹校交流会で会ったから。




庵歌姫

自分の持ち場の呪霊をあらかた祓ったので場所を移っていた。その時に偶然反承司の事を見つけた。自分の術式では反承司のように一瞬で呪霊を祓うことはできないので、龍已に言われた通りサポートに徹している。

龍已に頼まれたから普通にやっているが、これが五条だったら確実にキレ散らかしてた。百鬼夜行が終わったら家入と龍已を自分の家に招待して酒を飲んで語り合いたいと思っている。想像するだけで楽しみ。龍已が居る時点で死亡フラグはへし折れる。なので普通に楽しみにしてていい。




黒圓龍已

人知れず、約4キロ先にある呪霊の頭を正確に打ち抜いて祓っていた。最初の広範囲祓除は作戦であらかじめ決めていたので思いきりやったが、他の呪術師が核の差を思い知っていることを知らない。

何故狙撃をやめて指示を出し始めたかというと、狙撃ばかりで飽きてきたから。そもそも……



「俺は近接戦が得意で、遠距離は()()なんだ」



ちょっと距離感間違えちゃってるのに、神業連発させておきつつ、領域展開まで修得して言う言葉が遠距離が苦手というクソゲー先輩(黒い死神)はどうですか?




伏黒甚爾

呪力が0なので呪霊を自力で祓えない。けど、武器さえあれば特級呪霊を撲殺する事が出来る頭脳派ゴリラ。祓う方法は簡単。知覚できない速度で駆け抜けて、3節棍で全力打撃。これで大抵どうにかなる。てかなってる。

周囲に居る呪術師はなんかが通り過ぎたと思ったら呪霊が祓われているという状況。呪力が無いので呪力の気配は感じられず、残穢も出ていないので何が何だか解らない。まあ、呪具を除く残穢が無いのに祓われている時点で甚爾の仕業。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。