呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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第五話  報復

 

 

 雨の日だった。8月の始めであり、小学生として最後の夏休みだった。宿題を最初の3日で全て終わらせ。黒圓無躰流を全てを修めながら、上限を決めること無く稽古を繰り返していた。黒圓無躰流の歴代最高の才能は、弱冠12歳で父である忠胤をも抜き去った。後は完璧な体を作るだけ。それだけだった。

 

 毎日がとても素晴らしいものだった。有名な画家が描いた絵画よりも濃い彩りで、高所からのバンジージャンプよりもドキドキして、実家のベッドの中のような安心感があった。あぁ、このまま歳を取って、愛した女性と結婚して、子供を授かって、時々親友達と酒を飲んだり、下らない話をして盛り上がったりするのだろうと思っていた。

 

 そしてそんな鮮やかな彩りの中でも、必ず入るだろう大切な肉親。愛する両親。広い家と庭の手入れを毎日欠かさずやりながら、その日によって違う己の『気分』を、毎日毎日甲斐甲斐しく叶えてくれた。いつも稽古お疲れ様と。ご飯を用意したから一緒に食べましょうと。母としてやることが沢山で、きっと疲れている筈なのに、それをおくびにも出さないのだ。そんな母の手料理が愛しかった。笑顔が好きだった。母親そのものを愛していた。

 

 父はとても稽古に厳しい人だった。自身が歴代で最高の才能と肉体を持って生まれたと知ると、これでもかと濃厚な稽古を仕掛けた。だが、それが愛情の一環であるということを龍已は知っていた。愛している息子が、今までの誰よりも恵まれていると分かったから、息子のために厳しくしたのだ。だから厳しい稽古も苦では無く、楽しく感じた。

 

 教えられれば出来た。出来るか不安になるような技もあったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。体が何故か自然と型を覚えるのだ。稽古をしている中で悟る。これが自分の才能なのだろうと。体を使うものは悉く何でも出来た。教えられた以上に何でも。しかし慢心はするな。鍛練を怠るなと教えてくれた父のお陰で、自身の才能に驕るような性格にはならなかった。とても感謝をした。

 

 記憶に無い頃から稽古をつけてくれた父は、己の中で最強の存在だった。型を覚えようが勝てなかった。何故勝てないかと問えば、経験の差だと言われた。悔しいと感じ、夜中に寝ずに頭の中の父の動きを見稽古していたらバレて拳骨を落とされた事もある。休むことも稽古の1つだと叱られた。

 

 そんな強い父ではあったが、とても人間らしい人だった。厳つい顔に傷があり、筋骨隆々の肉体。如何にも我が儘な性格に見えて、父は母に一切逆らえない。睨み1つでダンゴムシのように縮こまるのだ。それにズボラで、洗濯物すら畳めない。洗濯機を回そうとして爆発させ、母に土下座していたのを見た時は、その日は遊びに行けば良かったと心底後悔した。

 

 父は稽古に厳しくて、普通出来るだろう事がてんで出来やしない。料理の気分の時等に母を手伝っていた自身の方が出来ると自信を持って言える位だ。だが、そんな父に大きな傷だらけの硬い手で頭を撫でられるのが好きだった。頑張ったな。良くやった。流石は俺の息子だ。そう言って撫でてくれる時は気恥ずかしくも嬉しかった。

 

 そんな……そんな愛している父と母が、真っ赤になって床に転がっている。広いリビングの中で、粉々に壊されたテーブルや椅子。割れたテレビに散らかったキッチン。抵抗したのだろう、知らない人間がピクリとも動かず、4つほど転がっている。しかしあと一人だけは無理だったようで、一人だけ……帰ってきた龍已を見下ろしている。

 

 

 

「あ゙ー……バケモンが。非術師の癖して術式効果受けながら4人殺しやがった。こっちは呪力で防御もしてんのによォ。女は悲鳴どころか包丁持って向かって来やがるし、どうなってんだここの人間は……」

 

「……………………。」

 

「よォガキ。悪く思うなよ、こっちも依頼なんでな」

 

「……誰から、何の為だ」

 

「あー?なんだっけか、お前等が使ってる武術か何かを教えろっつってんのに、一子相伝だーとか言って教えなかったんだろ?だから御三家やらその分家から恨みでも持たれたんだろ。ま、仕方ねーわな。呪術界の御三家から恨みを買って生き残れる奴なんざいねーんだ。諦めな。あ、お前は呪術なんか教わってねーんだろ?俺の話分かんねーよな」

 

「……どうやって父様を殺した。母様は武術の心得が無いから百歩譲って解る。だが父はそこらの者達ではまず触れることすら出来ない」

 

「あぁ、それな。映画とかにあんだろ?小せェ小型爆弾。あれを郵便受けの中に入れる。時を見て起爆して突入。そこに転がってる仲間はそれぞれ視覚、聴覚、触覚を奪い、もう一人は視界内の奴を3秒間痺れさせる。っつーのに、お前の親父は感覚も何もかもねー筈なのに真っ直ぐ向かってきてあっという間に4人殺しやがった。ま、頑張ったが……俺の術式は毒だ。勿論有毒のな。全身から有毒な毒を垂れ流す事が出来る。そんでお前の親父を内側から腐らせて、手脚を撃って動きを封じ、頭をズドン!女は適当にナイフで刺して殺した。おっと術式開示しちまった。ドンマイだなガキ」

 

「……………………。」

 

 

 

 非術師。術式も呪力も持っていない一般人という括りである。呪力は持っているだけで身体能力を強化出来、術式は様々な効果を齎す事が出来る。謂わば丸腰の人間と装備を施した人間の図だ。父は強い。先の話のように、何も持っていないのに瞬く間に術式効果を受けながら4人殺してみせた。母も立ち向かった。勇ましいと思う。誇りに思う。だがそれよりも……今は憎い。

 

 目の前でニヤニヤと汚い笑みを浮かべて嗤っている男は、自身のことを非術師だと思っている。それは言動で解った。故に格下。呪力を悟らせないように隠してはいるが、所詮は子供の技術だ。解る奴には解るだろう。

 

 相手は油断している。情報は殆ど無いに等しいだろう。自身が帰ってきた事に目を丸くしていた。つまり、依頼内容は『目的の場所に居る人間を殺せ』というようなものの筈だ。ならば、当然のこと自身が呪力も術式も持っている事は知らないはず。

 

 玄関を開ける前から嫌な予感はしていた。リビングから廊下に出て散らばった家具の欠片を見た瞬間から、ポケットの中に手を入れ、オモチャの銃を握り締めた。今も尚、銃は持っている。つまり、目の前の男は……本来ならば父が負けるはずの無い三流の呪詛師は……龍已の必殺の領域内に入って油断しているのだ。ならばやることは1つだ。

 

 

 

「さぁってと、じゃあ──────」

 

「──────死ね」

 

 

 

 履いているズボンのポケットを貫通した呪力の弾丸は、真下に向けて撃たれた事で床へと着弾しようとしたが、曲線を描いて進行方向を変え、何も理解しておらず、反応すら出来ていない男の眉間を貫通した。そして……呪力の弾丸は爆発を伴って消滅する。内部から爆発した男の頭は柘榴のように弾け飛び、血と脳髄をぶちまけた。

 

 頭を失った男の体は死体と成り果て、ゆっくりと前に倒れ込んだ。龍已の前に塵芥が崩れ落ちた。それを無表情で見つめていた龍已は、興味を無くしたように視線を切り、倒れている父と母の元へと歩みを進めた。

 

 7人分の死体から流れている大量の血を、靴下が吸い込んで気持ちが悪い。一歩進むごとにぐちゃりと音を鳴らすのが不快だ。最強の父があんな塵芥如きに敗北して死んだのが憎い。優しい母が立ち向かったのに、無惨に殺されたのが憎い。そして、もっと早く家に着いていれば対処が出来た癖に、大切な人が死んでからノコノコ帰ってきた自分自身が一番憎い。

 

 

 

「──────おやすみなさいませ。父様、母様。俺も、この世に存在する呪詛師(ちりあくた)を殺してから、其方へ参ります。それまではどうか……お元気で」

 

 

 

 呪いは吐かない。呪いもしない。唯……送ってあげる。また会うその日まで待っていてもらう為に。

 

 龍已は無雑作に倒れている父と母の遺体を仰向けにし、開いている瞼をそっと降ろした。そして両手を腹の上で組ませる。一端リビングから出て洗面所に行き、タオルを濡らしてリビングに戻る。服から出ている肌で、血に汚れている部分を拭き取り、顔も丁寧に拭いた。

 

 乱れた服を整えて、そっと2人の頬を撫でる。慈しむように、愛おしむように、ゆっくり丁寧に、脆いガラス細工に触れるように。そして順番に額を合わせてから立ち上がり、両手を合わせて黙祷を捧げる。一分程捧げたところで、手を離して目を開ける。広がる光景に変わりは無く。散らかった床の上に、砕けた手鏡の破片があった。そこに映るのはいつもの自分。無の表情だった。

 

 

 

「……こんな時にも、俺は表情が変わらない。ケン達の時には涙が出たのに……何故だろうか。……分からない。本当にもう……分からない。分からなく……なってしまった」

 

 

 

 鑑に映る無表情な自身の顔が忌々しくて、硬い握り拳を叩き付けた。ばきりと粉々に粉砕された破片にはもう目もくれず、リビングから出て自身の部屋へと行った。

 

 家は広い平屋の木造住宅だ。そこそこ古い時代からあるようで、年季が入っている。傷も目立つし、廊下は踏む度にキシキシと音を奏でる。無駄に広く、3人しか住んでいないので大掃除は大変だった。父が武術以外役に立たないので、実質母と自身の2人だけだった。パタパタとあちこち忙しそうに掃除をし、終われば優しいハグとお小遣いが貰えるので、それなりに楽しみだった。整理整頓された清潔な空間は好きだったからだ。

 

 その日の気分は別として、物欲がそこまである類の子供では無かった自身の部屋は、こぢんまりとしている。布団に勉強用の机。ゴミ箱。オモチャは特に欲しいと思わなかったから無い。その代わりに棚を設置し、本を置いている。知識をつける事は苦ではないし、頭は良い方なので知識が身に付くことが実感出来てテストも案外好きだった。

 

 稽古と類い稀なる高い身体能力で勝ち取った色々なメダル。その全てが金だ。途中から貰っても金ばかりなので押し入れの段ボールの中に入れていたのだが、母が折角だから飾ろうと言って態々ショーケースを購入して置いてある。

 

 押し入れから大きめのバッグを取り出して必要な物を最小限入れていく。多くは要らない。机の横に掛かっているランドセルを掴むと、中に学校の教材や筆記用具を入れる。まだ8月。残り数ヶ月あるからだ。

 

 血で汚れた服を着替えて、荷物を持ってまたリビングへと戻った。光景は変わらない。相変わらず塵芥の死体と鉄のような血の臭い。動かない愛しの両親の遺体。目に焼き付いてしまった光景から目を背け、玄関へと行って靴を履き、扉を開ける。中から外へ境界線手前で一度立ち止まり、大きく深呼吸をしてから一歩踏み出した。

 

 玄関から庭を通って道路へ出る前に向き直り、荷物を背負いながら深々と頭を下げた。お世話になった我が家へ、そして置いて行ってしまう父と母へ、これ以上無い、深い愛を込めて感謝を。

 

 

 

「ありがとうございました──────いってきます」

 

 

 

 黒圓龍已。12歳の夏。夢見た幸せな普通との生活に決別をし、裏の世界へ入ることを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────虎徹様。ご友人の黒圓龍已様がお越しになりました」

 

「え?こんな時間に?……もう夜なのにどうしたんだろう。龍已らしくないけど……とりあえず入れて僕の部屋に通してくれる?」

 

「畏まりました」

 

 

 

 自室で龍已の銃の設計を立てていた虎徹は、日が長い夏なのにもう暗くなっている時間帯で我が家へやって来た龍已に疑問を抱きながら、折角来たので会おうと即決して急いで部屋を片し始めた。いそいそと散らばった設計図を一カ所に纏めて、捲れているベッドの布団を直して、鏡で髪型が変になっていないか、服が変でないかを確認してテーブルの前に座る。

 

 来るのをまだかまだかと待ち、ソワソワとする。やっていることは完全に彼女のそれだが、男である。そうして待っていると、部屋のドアノブが回ってドアが開き、やって来た龍已が姿を現した。それだけで嬉しくて顔を綻ばせた虎徹だが、持っているランドセルと大きなバッグ、そして無表情ながらどこか感じたことの無い冷徹な雰囲気に息を呑んだ。

 

 何かあったのだろうかと声を掛けようとした時、龍已は持っていた荷物を雑に床へ放り投げ、座っていた虎徹の胸倉を荒々しく掴むと持ち上げ、勢い良く壁に叩き付けた。

 

 

 

「かは……っ!?」

 

「俺の家に呪詛師(ちりあくた)が5人やって来て父様と母様を殺した。三流以下の塵は無論俺が殺した。死ぬまでに呪術界がどうの御三家やら分家やらどうでもいいことを喋っていた」

 

「……っ……ぐ…っ……けほっ」

 

「だがそんなことはどうでもいい。塵芥だ。この世に存在する呪詛師を殺したい。一つ残らず。だがそれには手がいる。俺が術式を使うための()が」

 

「じ……ゅ…ぅ………?」

 

「そうだ。お前は俺の相棒(パートナー)だろう。だから寄越せ。お前の全てを。1級も特級も関係無い。お前が造った最高最強の呪具を……銃を俺に寄越せ。俺に塵芥共と戦える術を……力を寄越せ」

 

「……ッ……はぁ…!けほっ…けほっ……はぁ……はぁ……」

 

 

 

 足が床に付かない高さまで胸倉を掴まれて壁に叩き付けられ、頸を圧迫されて息苦しくなりながら龍已の話を聞いていた。呪詛師。一般人に害を為す呪術を使う者達。そいつらが親友の両親を殺した。それだけでも腸が煮えくりかえるような気分だが、それよりも歓喜した。

 

 最も大切な親友であり相棒(パートナー)の黒圓龍已から、求められた。何もかもを寄越せと言われた。返答は勿論決まっている。何もかもあげる。金も体も名前も呪具も銃も何もかもを。胸倉を離され、床に倒れ込んで嘔吐きながら恍惚とした表情をして、生理的に流れた涙で視界を歪ませながら見上げる。そこにはやはり無表情な龍已が自身を見下ろしていた。

 

 

 

「えへへ……けほっ……えへへぇ……も、もちろんだよっ。僕の全てを龍已、君にあげる。何もかもを君に捧げるよ。だから君は僕を利用して使って使って使い潰して♡それで一緒に要らないゴミを掃除しよう?龍已の為なら僕、何でもするからね♡」

 

「なら、まず最初に俺を暫くここに置け。あの家にはもう戻らない。そしてお前の家は呪術界でもそれなりに有名な家だろう。なら事実を多少捻じ曲げることすら出来るはず。それで俺の身はお前の家が引き取ったということにしろ。名前は変えるな。黒圓は父様と母様との繋がりだ」

 

「うんっ。うんっ。分かった!手を回してもらえるようにお父さんに話すね?家に関しては何時までも居て良いよ!部屋なんて幾らでもあるし、身の回りのことは全部使用人に任せて!」

 

「あとは呪詛師の抹殺の依頼を仲介する奴を探しておけ。少し術式の鍛練を積んだら呪詛師殺しに関する依頼を受ける」

 

「うんっ。仲介人は探させておくね!」

 

 

 

 龍已の願いは全て叶える。それが今の虎徹の行動指針。やれと言われたことを頭の中で反芻させて覚えておき、父親に相談することを決めておく。呪術界の有名な家は、総じて腐った考え方をする者が多いが、それは呪術師家系の者で、呪具師はそこまでではない。虎徹の父親は呪具師として有名ではあるが、虎徹にあれをやれこれをやれと命令はしない。精々呪具師としての技術の継承だけだ。

 

 呪具は造った者の作品。つまりは個人の力に依存する。なので結局は売れるかどうかはその者の力量次第だ。今回は少し強引に物事を進めなくてはならないので父親の力を借りるが、望まれた術式を付与して適当に名前を出して売れば満足するだろう。

 

 あとは龍已の銃だ。今までは少しずつ手探りで造ってきたが、今回の一件で急いで造る必要が出て来た。少なくとも中学校に上がる前には。大変な労力を必要とするが、龍已の為というならばそんなもの有って無いようなものだ。

 

 

 

「俺の銃を頼んだからな、虎徹。お前だけが頼りだ」

 

「……ふふっ。えへへ……任せてよ。僕の最高傑作を君に……龍已に贈るよ♡」

 

 

 

 頬を赤らめ、恍惚とした表情で見下ろす龍已を見上げる。全てを捧げようと“あの日”に誓った。その誓いを果たすときが……来たようだ。聡明で才能に満ち溢れる歴代最高という頭脳が唸りを上げ、強すぎて物が耐えきれないという龍已の専用武器を精密に組み立て始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいーっす!オマタ!」

 

「ホントにな。俺達30分待たされてんだけど?」

 

「ケンちゃん100%遅刻してくるよねー」

 

「だから好きな子全部イケメンに取られてんのよ」

 

「ソレは関係無いだろ!?」

 

「ほらほら、ケン君は遅刻したこと反省して。皆でふざけてないでご飯行こっ」

 

「………………………。」

 

 

 

 さて、龍已が書類上は虎徹の家に引き取られたということになって一週間が経った頃、龍已は虎徹の家の地下空間で、朝から晩まで術式と武術の稽古を繰り返していた。食事をして鍛練。食事をして鍛練。食事をして鍛練。そして寝る。そのサイクルだった。

 

 最優先事項である親友が、自暴自棄に思える程の濃密な鍛練を積んでいる。しかしあまりにオーバーだ。そこで、虎徹は他の親友達に連絡を取り、無理矢理地下から連れ出し、今は焼き肉屋の前に居る。

 

 

 

「ほら行くぞ龍已!ぼさっとすんなよ!」

 

「……俺は……」

 

「今日の気分が肉なのは知ってんだからな?つべこべ言わず来い!」

 

「…っケン」

 

 

 

 確かに今日の気分は肉だが、それは誰にも言っていない。何故分かった?という疑問を抱くが、長い付き合いの親友だ。何も言わずして察する事も出来るだろうと納得した。そしてそんな親友と、その事に対して別に驚いた様子が無く、当然だろとでも言いたげな表情で此方を見ている。胸が温かくなるのを感じながら、ケンに腕を引かれて焼き肉店に入った。

 

 中学生になろうかという少年と、可憐な少女にしか見えない少年がやって来て受付の女性が首を傾げたが、人数が多いので皆で食べに来たのだろうと思って案内した。全員席に着いたら早速食べ放題を5人分とドリンク飲み放題もつけて頼んだ。

 

 

 

「カルビ頼んで」

 

「焼けるの時間掛かるから鶏肉先頼んで」

 

「渦巻きウィンナー皆で食うから頼んで」

 

「お、ホタテあるじゃん!頼んでー」

 

「僕はサンチュをお願いしようかなっ」

 

「牛ホルモン」

 

「…………いや全員で頼むのお願いしたら誰が頼むんだよ!?」

 

「「ケンちゃんだろ?」」

 

「え、ケン君じゃないの?」

 

「……?」

 

「えっ、俺だったの!?俺が最初にお願いしたのに!?てか、もう誰が何頼んだのか忘れたわ!!」

 

「チッ。面倒くさいなー」

 

「ちゃんと覚えとくよねフツー」

 

「ケン君……」

 

「…………………。」

 

「なぁお前ら、自分が理不尽な事言ってるの自覚してる?ていうかしてね??」

 

 

 

 顔を顰めてぶつくさ文句言いながら店員さんを呼んで注文をしていくケン。勿論頼む品は適当だ。覚えている訳ないだろういい加減にしろ。だが龍已が言った牛ホルモンだけは一番最初に頼んでくれた。

 

 肉が運ばれてきて三つのトングを使ってケン、カン、キョウが肉を焼いていく。家族で来たりして自分でも焼いているからだろう、生の部分は無く、満遍なく焼けていた。肉焼き部隊が編成されているので、余った虎徹と龍已がみんなの分と合わせて飲み物を取りに行った。

 

 

 

「はいっ。ケン君がオレンジで、カン君がカルピス、キョウ君がジンジャーエールだよね!」

 

「うーい。肉焼けてるから適当に置いといたぜ」

 

「ありがとう!」

 

「誰かこのクソなげぇウィンナーハサミで切ってー」

 

「フッ……とうとう俺のハサミテクを披露する時が来たようだ──────」

 

「……切ったぞ」

 

「あんがと龍已」

 

「ねぇ俺の出番は??」

 

「あれ、白飯頼んだ?」

 

「あっ……」

 

「マジケンちゃんつっかえね……」

 

「俺の涙がちょちょ切れるが大丈夫か??」

 

 

 

 不満そうな顔をしながら、やはり全員分の白飯を頼むケン。何だかんだ言ってやってくれるからつい甘えてしまうし弄ってしまう。頼んだ白飯がすぐにきて皆に行き渡る。龍已は感情の読めない無表情で、焼き肉のタレが注いである取り皿に載せられる肉を箸で摘まんでタレに絡ませる。

 

 焼けた肉の茶色とタレの黒、肉の脂が混ぜ合わさり、光を浴びてとても体に悪そうだ。持ち上げて口の中に入れる。柔らかい肉が舌の上で形を変え、濃い味が味覚を刺激する。今日の気分である肉を頬張ることが出来てささくれ立った心が喜びの心を上げた。しかしそれだけでは満足する訳が無く、大盛りで運ばれた白飯の入った茶碗を手に取り、箸で掬って口の中に入れた。

 

 日本人として遺伝子レベルで刻まれている慣れ親しんだ白米。それが焼けた肉、タレと踊って素晴らしいとしか言えない感動を生み出した。決して高級では無い、一般人が良く食べる安物の肉だ。しかし美味くて夢中になって咀嚼し、嚥下した。無表情だが、雰囲気はとても満足そうだ。そこでふと、視線を感じる。周囲に目線を送れば、ケン達が意味を浮かべながら自身のことを見ていた。

 

 柔らかい表情。皆にジッと見られていた事を理解した龍已は居たたまれなさと恥ずかしさで耳を赤くしながら少し俯き、目線を下に向けて逸らした。だが肉を食べたことで胃が追加を希望し、食事を再会した。

 

 

 

「……へへっ。食べ放題だからな!じゃんじゃん頼んでじゃんじゃん焼くから食えよ!元取んねーともったいねーし!」

 

「ケンちゃんそう言うけど、最初飛ばしてあとぐったりしてるじゃん。しかもそこまで多くは食べないし」

 

「虎徹抜いてケンちゃん一番食えないの自覚してる?」

 

「この中だと龍已が一番食べるよね?武術やって体動かすからかな?大分前の食べ放題でずっと食べてたよね?」

 

「つまりケンちゃんはクソザコナメクジのヨワミソゴキブリクソ野郎ってこと」

 

「頼んだのに食べてもらえない憐れな肉達に土下座だね。ほら、あくしろよ」

 

「お前らさては俺のこと嫌いだな??」

 

 

 

 シクシク泣く真似をしながら鶏肉を頬張って、あ…トリニクおいし……とバクバク食べ始めた。最初飛ばして持続力が無いのは本当のようだ。そんなケンを呆れた表情で見ながら、焼けた肉をこれでもかとケンの皿によそう。最初にダウンさせようとしているようだ。

 

 虎徹はその光景を苦笑いしながら見て、チョレギサラダを食べている。この子は逆に肉を食べた方が良い。龍已は早速顔を青くさせ始めたケンに代わって肉を貰い、白飯と一緒に食べ進める。満遍なく色々な肉が追加され、全種類頼むとまたもう1周し始めた。そこで漸く、よそわれる肉が途切れず、ずっとノータイムで食べていた事に気が付く。

 

 皆はちゃんと食べているのだろうかと思って見てみると、無理矢理肉をロケットスタートで食べさせられたケンはダウンしているとして、カンとキョウが全く食べていない。もしかしてずっと、殆ど食べないで自分のために肉を焼いてくれていたのかと思い、ケンが使っていたトングを掴んだ。

 

 

 

「……俺だけ食べてる。お前達も食べろ」

 

「お?龍已が焼いてくれんの?」

 

「じゃあ俺達が龍已の分の肉も焼くから、龍已は俺達の焼いてくれよ。頼むな?」

 

「分かった。任せろ」

 

「うっし。いやー、龍已の焼いてくれる肉うんめー!!焼き加減最高だし、何より龍已がやってくれるのって親友特権だからクソレアなんよなー!!」

 

「本当だよね。龍已の焼いてくれたお肉をサンチュで巻いて食べるのおいしっ」

 

「鶏肉も中までしっかり火が通ってるし、ふりかける塩の量もカンペキ!!さっすがー!もっとちょーだい!」

 

「いいぞ」

 

「…ッ……お、俺も龍已が焼いた肉……っ食いたい!!」

 

「「おらよ。さっさと食ってクソして寝ろ」」

 

「なんッでお前らが焼いた肉渡すんだよッ!!」

 

 

 

 仲良くワーギャーしている間に、龍已は焼いた肉を少しだけケンの取り皿に置いた。それを見たケンは泣き真似をしながら隣に座る龍已に抱き付いた。仕方ないと頭を撫でて食事を再開していると、見えないところでケンが、龍已に抱き付いて頬擦りし、ドヤ顔を向かいに居るカンとキョウに晒す。2人は青筋を浮かべた。

 

 何かを話せば3人で喧しくじゃれあい、虎徹が仲裁に入ってママをし、それを龍已が見守る。いつもの光景だった。そして気付く。鍛練ばかりやっていて忘れていたが、父と母の他にも大切な者達は居て、今も尚生きていて、こうしてふざけることが出来ると。

 

 ふざけながらも、時々こちらに寄越す視線は温かい。恐らく虎徹から大まかなことは聞いたのだろう。だが詳しい話は聞こうとしない。何があったとも聞かない。唯、いつも通りに接してくれる。それが一番龍已には有り難くて、悲しくて、嬉しかった。

 

 

 

「──────ほら、何時までもふざけているな。それより俺にもっと肉をくれ。なんだったらケンを焼いても良い」

 

「龍已のアニキからお許しが出たぜ」

 

「おうおうお縄につけやクソガキがよォ?逃げ道はもう無ェぜ?」

 

「お前らマジで焼こうとすんじゃねぇッ!!!!」

 

「こら3人とも、食べ物で遊んじゃダメだよ?」

 

「すまない」

 

「「ごめんなさぁい虎徹ママ」」

 

「ママじゃないよっ。もうっ」

 

「おい、食べ物で遊ぶなってどういう事だ?え、俺親友とか友達以前に食料として見られてた??」

 

「ケンちゃんみたいなゲテモノ食うわけないじゃん。何言ってんの?」

 

「その冗談クソつまんないからやめた方がいいよ?」

 

「何なんだよお前らッ!?」

 

 

 

 賑やかな食事が続き、ラストオーダーもしっかりデザートを頼んで満喫した5人は焼き肉を後にしてゲームセンターに寄った。ケンがメダルゲームをしようとしたが、メダルゲームが始まると当分帰れなくなるのを知っている4人は全力で引き摺って行き、目的のプリクラ機のところまでやって来た。

 

 そこまで大きくない機械だが、もう少しで中学生という5人はまだ体が小さい方なので入りきった。そして小銭を入れて写真撮影を開始した。

 

 

 

「フレームこれでいいよね?」

 

「ポーズどうする?」

 

「あれ、なんか指定されるんじゃなかったっけ?」

 

「あ、待ってOK押したらカウントダウン始まっちゃった!!」

 

「んッ!?シャチホコのポーズってどうやんだよ!?」

 

 

 

 ケンが間違えて準備が出来ていないのにOKボタンを押してしまい、皆で慌ててポーズをとって変なことになってしまった。掠れている部分もあるし目も瞑っている。何よりカンがケンの陰に入ってしまって一人欠けてしまった。こんなものを印刷するわけにはいかないのでやり直しをし、今度はポーズをある程度決めてからOKを押した。

 

 準備をしてから写真を撮ったので今度は完璧なものが出来た。一番前の一番下で両手にピースをしたケン。その上に龍已と虎徹が2人並んでピースをし、その上にカンとキョウが肩を組みながらピースをしている……風に見せ掛けて前に居る龍已と虎徹の頭に2本の角を作った。

 

 写真をぱしゃりと撮ってから初めて頭に角を生やされている事に気が付いた虎徹が頬を膨らませてプリプリと怒り、その間に龍已がこれで良いかという問いに決定を押した。あっと思ったが、龍已からほわほわした雰囲気が出ているのを察して、全員で落書きコーナーへ移った。

 

 

 

「よっしゃ。ケンちゃんが目立ってウザイから鼻クソつけたろ」

 

「じゃあ俺はほうれい線ー」

 

「では、俺はクマを」

 

「僕はそばかすをいっぱい書こっ」

 

「仲良しとか書くべきだろ!?集中砲火のイジメかっ!!」

 

 

 

 全消しのボタンがあるのでケンの方が優位で、ドヤ顔をした。それを見て苛ついたカンとキョウが首を絞めていた。3人はどうやら参加出来なそうだと思って龍已と虎徹でペンを持って落書きをしていく。虎徹はハートやキラキラな星を絶妙に散りばめ、龍已は達筆な字で『俺たちは仲良し』『親友』と書き込んでいった。

 

 気を取り戻した3人が戻ってきて今度は真剣に落書きして、仲の良さが分かるプリクラを作っていった。但し、虎徹は自分のところに『ママ』と書かれたのが納得いかない。因みにケンが『クソ長男』、カンが『クソ次男』、キョウが『クソ末男』、龍已が『アニキ』だった。

 

 

 

「良いのが出来たんじゃない?」

 

「また撮ろうぜ!今度はケンちゃん居ない時に!あ、これ本人には内緒なッ☆」

 

「本人に向かって内緒なッ☆じゃねーんだよタコ」

 

「結局僕がママになっちゃったんだけど!」

 

「お前がママになるんだよォッ!!」

 

「どういう意味っ!?」

 

「……楽しかった」

 

「……へへっ。ったりめーだろ?俺達親友なんだから!」

 

「また来ような?」

 

「次はボーリングとかやりたい!」

 

「中学生になったらカラオケも行こっ」

 

「……あぁ」

 

 

 

 ゲームセンターから出て来た一行は少し歩いて、それぞれの家に別れるところまでやって来た。それまで龍已はプリクラで撮った写真を大事に持って眺めていた。とても楽しい、心休まる日だった。鍛練尽くしで、怒りや憎しみや恨みがとぐろを巻いていた。しかし晴れた。十分な程晴らしてもらった。大切な親友達に。

 

 じゃあまた。そう言いながら手を振って別れようとした龍已に、ケン、カン、キョウが抱き付いてきて優しく抱擁した。ピクリと体を震わせて困惑していると、優しい声色で語り掛けるように話し掛けた。

 

 

 

「お前が辛いってんなら何も聞かねーよ」

 

「けど、俺達親友だろ?時には辛いことは辛いって言えよ?」

 

「俺達が受け止めてやるよ」

 

「……っ………っ!!」

 

 

 

 優しい言葉に、一週間前に見てしまった遺体となった両親の光景を思い出した。抱き締められている体が震え始め、無表情のまま涙を流した。あの時に流せなかった涙が今になって流れ始め、その涙が辛い、悲しい、寂しいと語っていた。抱き締めてくれる3人を、龍已も抱き締めた。

 

 恵まれた天性の肉体の所為で異常な筋力を持つ龍已の抱擁は痛いが、3人は何も言わずに抱き締め続けた。そしてポツリ、ポツリと話し始める。両親がこの間殺されたこと。殺した犯人を殺したこと。自身がやろうとしているのは、呪詛師という名の人殺しだということを。寂しいこと。悲しいこと。恨み憎しみでどうにかなりそうだったことを。

 

 

 

「……ははっ。ばーか。親友の俺達がお前を一人にはしねーし、否定なんてしねーよ!」

 

「呪詛師?っていうのは悪い奴等なんだろ?ならぶっ殺しても大丈夫だって!俺達が許す!」

 

「映画みたいに銃で撃って頭パーンっ!ってやろうぜ!スカッと爽快!超エキサイティンっ!!」

 

「龍已にはスナイパーとか似合うと思うぞ!無表情で遠く狙ってズドンッ!標的を始末した……とか!?く~っ!カッケーじゃん!」

 

「あはは。君達もすごいイカレてるねっ」

 

「……ありがとう。お前達が親友で良かった」

 

 

 

「「「どういたしまして!これからも親友だぞ!」」」

 

 

 

「もちろん、僕もね!」

 

「あぁ。…っ……俺達は何があっても親友だ」

 

 

 

 

 

 

 龍已は憑きものが晴れたような清々しい気持ちで、虎徹と共に帰路につく。その手には親友達と撮った宝物がある。無表情だが嬉しそうな雰囲気の龍已を見上げて、虎徹は花が咲いたような笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






呪詛師

5人一組の呪詛師集団。どこからか依頼を受けて黒圓家を襲撃した。しかし術式を使ったにも拘わらず4人をあっという間に殺され、残った最後の一人は龍已によって殺された。最後の一人はそれなりに強い。三流だと思われたのは、単純に龍已が強すぎただけ。




黒圓忠胤。黒圓弥生

視覚、聴覚、触覚、3秒間の麻痺を受けながら、呪力で肉体を強化した4人の呪詛師を殺した化け物父さん。

夫がやられても悲鳴一つ上げず、キッチンにあった包丁を持って立ち向かったとても心が強いお母さん。




ケン、カン、キョウ

龍已が色々あって危ないからご飯に誘ったりして慰めてあげてと電話を虎徹から受け、メンタル回復させた凄腕親友達。これからもズッ友だよ♡



天切虎徹

ヤベェ程龍已を最優先事項に上げている金髪碧眼にして童顔な男の娘ママ。


今回のMVP。





しれっと名前紹介コーナー

御劔剣一(みつるぎけんいち)・ケンちゃん

皐野寛鶿(こうのかんじ)・カンちゃん

藤宮梟烙(ふじみやきょうらく)・キョウちゃん


幼稚園からの付き合い。3人と虎徹の共通特技として、龍已の今日の気分を当てることが出来る。何気にスゴい。

ケンちゃんが活発系、カンちゃんがちょっと目付き悪い系、キョウちゃんがお兄さん系……な見た目。だと思う。
モテないモテないと言っているが、密かに人気がある3人だけど、龍已居るしなぁ……みたいな。

龍已は無表情だが精悍な顔付き。沈黙な凄腕傭兵……みたいな感じの整った顔立ち。貫禄もある。イケメンじゃなくて整った顔立ち……伝わるかなぁ……。
力がバカクソ強い。足は鬼のように速い。反射神経人間やめてる。武術こわぁ。遠距離範囲広すぎぃ。技術力ヤベェ……。こんな化け物小学生居るんか??

虎徹は金髪で美しい碧眼。外人とのハーフだから日本語は問題ないよ!童顔で背が小さいし、華奢な体つきなので、告白されるときは大体男子から。見た目超絶美少女で物腰柔らかな話し方で僕っ子だからね!


ヒロインではないからホモォは申し訳ないけど帰って♡

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