呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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高評価をしてくださった、パニックパニック さん、ありがとうございます。





第五十四話  神業の領域展開

 

 

 

 

 

「領域展開──────『伏魔御廚子(ふくまみづし)』」

 

 

 

「チッ……ッ!!」

 

 

 

 両面宿儺の領域展開。一般的な領域展開は、敵を閉じ込めることに特化している。それにより、内側から外側に出るのは難しいが、逆に外から内に入るのは容易となる。入って得することが無いからだ。

 

『伏魔御廚子』の場合、他の結界や領域と異なり、領域により内界と外界に空間を()()()()()。謂わば()()()()()()()()()領域。敢えて『相手に逃げ道を与える』という縛りを自身に課すことにより、領域の性能を底上げし、尚且つ術式が必中となる領域の範囲を最大で半径約200メートルまで拡張している。

 

 これはキャンパスを用いず、空に絵を描くに等しい。つまり誰も考えず出来なかったまさに神業。龍已と宿儺の間の距離は100メートル。逃げ切るにも100メートル後方に下がる必要がある。五条のように何らかの瞬間移動をしなければ必中範囲から抜け出すのは不可能。しかし、龍已は構えた。

 

 怨の一族。その末裔にして最後の生き残り、黒圓龍已は()()()()()()()()()()()。逃げない。来るならば迎え撃つのみ。それが一族が代々受け継いできた鋼よりも硬い矜持。背中を除く夥しい傷が、その矜持の強さを物語る。

 

 結界で内界と外界を分断しない領域展開を龍已はすぐさま察した。察したからこそ、もう領域外に出ることも間に合わず、迎撃しかないことを悟ったのだ。悟ったからこそ、全身を呪力で強化した。限界を超えたレベルまで強化された肉体は、通常の『解』すらも通さない。だが、宿儺の領域『伏魔御廚子』はその程度で防げるものではない。

 

 

 

「ケヒッ。ケヒヒッ。さぁ、どう出る?」

 

 

 

「すぅ……黒圓無躰流──────『(まがり)』」

 

 

 

『黒龍』を両手に持って構えた龍已は、放たれる斬撃を待ち構えた。迎撃の態勢。それ以外には取らない選択肢。世界の時間が止まったように感じるほどの超集中。圧縮された時の中で、歴代最高最強の才能と肉体を持った彼は、虚空を裂いて飛来する斬撃を知覚した。

 

 宿儺の領域の能力。それは、宿儺が好んで使う斬撃『解』と、対象の呪力量・強度に応じて自動で最適な一太刀で相手を卸す斬撃『(はち)』を領域内に存在する全てに、絶え間なく浴びせ続けるというもの。斬り刻むという域を超え、斬撃は宿儺を中心とした半径200メートル内の全てを粉微塵に変えようとしていた。

 

 その中、龍已は目に見えない速度で『黒龍』を振るい、弾き壊し、反らし、凌いでいく。手の届かない真後ろや脚部には、『黒龍』より放たれる呪力弾が彼の体の周りを飛び回って弾いて砕いている。その数は480発。超集中状態で斬撃を弾きながら操ることが出来る最高弾数である。

 

 自身に向かう斬撃の悉くを迎撃していく。だが、呪力弾が斬撃を弾く度に込めた呪力が削れていく。それは呪力量・強度によって自動で最適の斬撃を入れる『捌』によるものだ。込めた莫大な呪力量に一撃で卸すことは出来ないが、確実に込めた呪いを削った。

 

 そして、物体が塵と化すレベルの絶え間なく浴びせ続ける斬撃の数に、少しずつ呪力弾が卸されていく。卸せるまで込めた呪力を削られたのだ。身を護る為の弾が消えていく。それを無意識下での迎撃を行っている龍已は、更に呪力弾を撃ち放って追加した。発射された呪力弾は再び彼の身を護り、一太刀たりとも彼の体には到達させなかった。

 

 

 

 ──────俺の領域展開を真っ向から受け止めるか怨の一族ッ!素晴らしい才能ッ!力ッ!極度の集中状態で迎撃しながら術式を一切狂い無く精密に操作する技術ッ!全てが完成された傑物にして鬼才ッ!イイ……この男は是非とも、俺の手で(こわ)したいッ!!

 

 

 

 両面宿儺が領域を展開すること286秒。その間、黒圓龍已は浴びせられる斬撃の全てを叩き伏せた。400を超える呪力弾が常に彼の周りを飛び交い、飛来する斬撃を打ち壊し、両手に持つ『黒龍』でも斬撃を砕いた。千や万では足りない斬撃を迎撃した龍已は、領域が解けたことを察すると、大きく息を吐き出した。

 

 超集中状態で術式の使用。それに体の周りで飛ばして、自身の手が届かないだろう斬撃を限定して迎撃させ、卸された呪力弾を随時追加していく。過去最高の『(まがり)』の長時間発動。フルマラソンを最初から最後まで全力疾走できる強靱な体力を持つ彼ですら、久し振りに肩で息をした。

 

 

 

「ふーッ……ふーッ……ふーッ……ッ!!」

 

「素晴らしいぞ、黒圓龍已。お前は俺が会い、殺してきた呪術師を含めて最も稀有な力を持つ存在だ。お前のことは、この俺が殺してやる」

 

「はーッ……出来もしないことを言うな両面宿儺。相手を閉じ込めない領域……初めて体験した。正直に言えば完成していなければ危なかっただろう。だが俺にはもう効かん。()()()()()()()()()()()()。そして、俺は至った。更なる高みへ──────」

 

「……ケヒッ。ケヒヒッ!ククク……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!よもや、よもやそれ程の才能があったかッ!!黒圓龍已ァッ!!」

 

 

 

「逃げられるならば逃げてみろ。ここから先は俺の領域だ──────」

 

 

 

 今先程身を以て体験した、呪いの王……両面宿儺の閉じ込めない領域。キャンパスを用いず空に絵を描くが如くの神業。相手に逃げ道を敢えて与える縛りを以て、必中の領域を格段に広げ、更に領域の能力を底上げする。

 

 龍已の会得した領域は天与呪縛が関係しているのか、解釈が本人の意思とは無縁に捻じ曲がる。本来ならばありえないだろう現象が生まれるのだ。必中を得た場合にのみ発現する第2の解釈。必中故に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という効果。

 

 必中が発動する。それはシン・陰流の簡易領域や同じ領域展開の手段を持たず、ただ領域に引き摺り込まれるか、領域展開の押し合いで完全に負けた場合の状態。その時、龍已の領域には距離と過程の概念を打ち壊す。

 

 だが、それがもし、もし仮にだ……閉じ込めない領域となった場合どうなるだろうか?領域展開の押し合いをしたくても、圧倒的距離から行われた場合相手を領域に引きずり込めないのだから発動はしないだろう。やるならば領域展延をしなければならない。シン・陰流は弱者の領域。領域展開ができるのに修得する者は殆ど居ない。

 

 それどころか、全くの知覚外のところから領域展開をされ、呑み込まれた瞬間に必中効果故の距離を破棄した狙撃が行われた場合、相手はどうなるのだろうか?考える必要はない。龍已が閉じ込めない領域を修得してしまった場合、相手は為す術も無く全滅するだろう。ましてや、彼の呪力量ならば効果範囲をより広大なものにできるだろう。

 

 

 

「領域展開──────『殲葬廻怨黒域(せんそうかいおんこくいき)』」

 

 

 

「ケヒヒッ。領域展──────」

 

「無駄だ。受けて確信した。お前の領域の練度より俺の領域の練度の方が上だ。そして呪力量でも俺に分がある。お前の領域が俺の領域を呑み込む道理はない」

 

 

 

 黒圓龍已。初めての閉じ込めない領域を半径約4()2()7()()()()()()展開。

 

 

 

 対抗するため展開しようとした宿儺の領域。しかし、それを真っ向から、圧倒的呪力量の差と、高め極めた練度により押し潰し、塗り潰し、呑み込んだ。僅かな拮抗を赦しただけで、呪いの王の領域すらも呑み込んだ純黒の領域。

 

 絶対回避不可能必中必殺領域が、400メートルを超える範囲で展開された。呪いの王を玉座より引き摺り落とし、黒い死神が死の弾丸を吐き出す銃口を突き付ける。彼を中心とした427メートルはまさに彼の掌の上であり、生かすも殺すも彼次第となった。

 

 莫大な呪力が込められた呪力弾が、宿儺の体の中から飛び出て穴を開ける。腕や脚。腹に背中、脇腹と掌。当てられる場所ならば何処からでも当てられる捻じ曲げられた効果により、両面宿儺を内側から食い破り撃ち破った。40箇所を超える弾痕を作られながら、宿儺は愉しそうに嗤っていた。

 

 その瞳からは恐怖も無ければ怒りも無い。黒圓龍已という個人を強者と認め、伏黒恵と並ぶメインディッシュに定められた。向けられるのは純粋な敬意と煮え滾るような純真な殺意のみ。両面宿儺にとって、黒圓龍已は全身全霊を以て殺し合うに相応しい存在であると認めたのだ。まるで恋い焦がれる想い人に向けるが如く、おどろおどろしい身の毛もよだつ殺意を贈った。

 

 

 

「待って………いろ……お前は………俺が………必……ず………──────」

 

「2度と現れるな。呪いの王、両面宿儺。お前の時代はとうの昔に終わりを迎えた。魂を切り分けて呪物と成り果てようと、お前が存在して良い時代ではない」

 

 

 

 切り分けた魂の4分の3とはいえ、特級呪霊を片手間に殺す呪いの王を捻じ伏せた龍已は、喜びも余韻も無く、冷たく突き放した言葉を浴びせた。それを聞いても、両面宿儺は面白そうに、愉しそうに嗤って虎杖悠仁の内側へと引っ込んでいった。

 

 失血多量により気絶している虎杖。龍已はそんな少年の体を持ち上げて肩に担ぐとその場から大きく跳躍して移動を開始した。彼等の周りは、宿儺の領域の斬撃により直径400メートルが塵と化していた。だが不思議なことに、その範囲内の避難は済ませられており、死亡者はおろか怪我人すら居なかったという。まさしく不幸中の幸いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、上層部は本当に腐ってますね。龍已に術式使うなとか、どこまで舐めてるんです?」

 

「それを俺に言うな硝子。俺もあまりの達示に異議を申し立てたが即座に却下された。お前には悪いが、龍已の事も上は悟と同程度邪魔な存在として認識している筈だ」

 

「はは。そんくらいで龍已が死ぬわけねーじゃん。ウケる」

 

「……心配が口調に出ているぞ」

 

「…………………。まあ、クズが封印されるくらいなんですから、万が一は考えますよ。この業界ですしね」

 

 

 

 ある場所にて、回復要員の家入は東京高専の学長である夜蛾と共に居た。周囲は自立型の呪骸に警護をさせていて、改造人間や呪霊がやって来たら自動で迎撃するようになっている。呪術界でも稀少で貴重なヒーラーの家入をこの場に連れて来るのは難色を示したが、怪我人が多く出るということで特別に連れて来たのだ。

 

 歩道橋で手摺に腕を置いて寄り掛かっている家入は、コーヒー味の飴を舐めて舌の上で転がし、溶けて小さくなるとガキリと噛み砕いた。夜蛾はそんな家入を見ながら、心配ならば心配だと言えばいいのにと思う。

 

 夜蛾にとって龍已は手の掛からない教え子だった。黒い死神という恐ろしいくらいの機密性を持った裏の顔があるが、それを抜きにして考えると優秀だった。そして五条と並んではちゃめちゃに強かった。術式は言っては悪いが大したものではない。しかし呪力量と天与呪縛、そして才能だけで特級呪術師として君臨していた。

 

 そんな彼に課せられたのは、術式の一切の使用禁止。敵の罠が仕掛けられているだろう場所に五条を1人単独で行かせたり、龍已の術式を禁止にしたりとやりたい放題の上層部に、流石に額の青筋が切れかけた夜蛾。そこまでして消したいかと、机を殴って破壊したのが記憶に新しい。

 

 明らかな不利になろうと、その不利な状態で死んでくれたならば御の字。仮に死なずに帰還したのならば、適当に褒美の言葉でも送ってやればいいのだ。そしてまた違うときに処理してしまえば良い。上層部はそう考えていた。本当に腐っていると思う。現に五条が敵の罠に嵌まって封印されてしまっているという。呪術師側にとっての損失がかなり大きい。

 

 ヒーラーポジションの家入を護衛しないといけないので動けない夜蛾は、はぁと溜め息をついた。頼みの綱は今龍已しか居ない。五条が封印された今、呪術師側のジョーカーは龍已なのだ。彼が落ちれば日本は終わると考えて良い。そして、噂をすればその彼が姿を現した。

 

 

 

「龍已かッ!何故こんなところへ来た?いや待て、担いでいるのは虎杖悠仁か?」

 

「学長待ってください。……いつもの龍已じゃない」

 

「何?」

 

「判らないですけど……なにか違う」

 

 

 

「──────察しが良いな。流石は長年『俺』を見てきた家入硝子だ。これ程早く察するとは、恐れ入った。これはお前達への土産だ。取っておけ」

 

 

 

 肩に背負っている虎杖を夜蛾に向けて放り投げた。歩道橋の高さに人一人簡単に投げた龍已に対して、違和感ばかりが感じられる夜蛾は顔を顰めつつ、飛んできた虎杖を受け止めた。虎杖の体は血塗れだった。それも穴が体中に開いていて、あと少ししたら失血死していたかも知れないレベルのものだ。

 

 この傷の出来方は見たことがある。貫通せず、体内に何かが埋め込まれた形跡も無い。まるで内側から外に向けて何かが飛び出てきたような傷。それは龍已の領域展開で必中効果を得た場合にのみ可能な内からの狙撃。昔に五条と夏油が同じような傷を作って1日中痛いと嘆いていた。

 

 つまりこの傷は龍已がやったことにより出来たものだ。しかも領域展開までしてだ。夜蛾は龍已が無駄なところで領域展開などしないことを知っている。なので使ったのは使わざるを得なかったという解釈をした。虎杖に関係して領域を使うのならば、それはもう宿儺関連のことだろう。

 

 詳しいことはまだ報告されていないので夜蛾は知らないが、漏瑚に宿儺の指10本を気絶している間に食わせられ、今彼の中には全部で15本の指が存在している。1度に大量摂取すると体が追いつかず宿儺へ一時的な肉体の支配権が移ることも知らない。しかしなんとなく、そういうことが起きていたのではないかと思える。

 

 取り敢えず家入が反転術式を使って虎杖の応急処置をしたお陰で血は止まった。ただ、家入は応急処置をしつつ龍已の事をチラリと見る。薄く浮かべている笑み。実に自然だ。普通ならばどこにも疑問を抱かない表情。しかしこと龍已に於いては、不気味以外の何ものでもなかった。

 

 

 

「……龍已。お前どうしたんだ。敵に何をされた?」

 

「何をされた?()()だ。()()()()()()()?未完成の黒圓龍已が完成すると思え……と。ただ、完成しただけだ。完成して、本来の俺となった。それだけの話だ」

 

「完成した……。でもおかしいだろ。楔がどーとか言ってただろ。なんで完成した?まさか今回のテロにその楔が居たのか?」

 

「それとは別の理由だ。しかし完成したものは完成した。最早、お前達が知る黒圓龍已ではないだろう。此処へは決別の言葉を言いに来ただけに過ぎない。家入硝子──────」

 

 

 

 

 ──────お前との関係はこれまでだ。 

 

 

 

 

「………………………。」

 

 

 

「──────このテロの主犯は既に俺が殺した。跡形も無くな。残る残党も今から殺す。その後は最後の悪足掻きで放たれた塵芥を殲滅し、世に蔓延る呪詛師を皆殺しにする。その後はお前達だ……呪術師。俺は逃げも隠れもしない。これから先が欲しいならば、俺と呪い合おうではないか。『俺』とお前達(呪術師)とは()()()そういう関係だ」

 

 

 

 交際関係の別れであり、呪術師達との関係も切る決別の言葉を残して消えた龍已。忽然と姿を消してしまい、夜蛾と家入が止める言葉を掛けることすら出来なかった。言いたいことは山とある。何故勝手に完成したのか。何故、呪詛師を相手ならまだしも、呪術師を敵として定めているのか。

 

 夜蛾は龍已が言っていた事を頭の中で反芻して、どういう意味なのかを考えている。同時にまさかあの龍已と敵対関係になるとは思いもしなかったことに焦りを抱いていた。対して家入は、舐めていた珈琲味の飴を早々に噛み砕いた。口の中が苦い。果たしてそれは珈琲の苦味なのか、また別のものなのか。

 

 関係はこれまで。つまり交際関係、彼氏彼女の関係を一方的に断たれたことになる。呪詛師だけでなく呪術師とも敵対するという発言を残しているのだから、当然と言えば当然なのだが、あまりに急すぎる。家入ははぁ……ッと、強く息を吐き出して頭を掻き毟った。そして、強く握った拳を歩道橋の手摺に打ち付ける。

 

 

 

「……訳が分からないな。渋谷駅で一体何が起きていたんだ。……チッ」

 

 

 

 駆け寄りたかった。大丈夫かと、いつもの冷静で沈着な家入とは思えない行動を……彼の前だからこそできる心配をしたかった。回復要員として此処から動けない自分が、実は心の中で悔しかった。だからせめてもと、最前線で術式すら使わせてもらえない彼の無事を祈っていた。祈っていたのに、やって来たのはいつもの彼ではなかった。

 

 作られた自然な笑み。不自然さが無い違和感。彼ではない彼。10年以上交際して、知らないところなんて無いと思っていたのに、それだけの深く強い繋がりがあって、最早自分の一部のような感覚があったのに、そんな彼に対して『怖い』と思ってしまった自分を赦せない。

 

 気配で察していた筈だ。家入硝子が黒圓龍已を恐れていると。他者の健康や気持ちを気配だけで丸裸にする彼のことだ。彼に最も向けられる感情である恐怖から来る恐れなんぞ感じ慣れていることだろう。故に、家入は龍已を恐れた自身を赦せない。到底、赦すことができず、1歩もその場から動けなかったことに後悔を滲ませた。

 

 彼はもう、家入の前には帰ってこない。別れ話がどうとか、決別がどうとかの話ではなくなった。彼は……黒圓龍已は……呪詛師の敵であり呪術師の敵にもなった。誰の味方でもなく、誰という味方も居らず、彼は自分の進むべきだった道に進んでいったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────夏油の皮を被った奴が放った呪術師、呪詛師が多いな。呪霊も改造人間も相当な量だ。まあ……俺に数は関係無いが」

 

 

 

 空へ銃口を向ける。純黒の色をした姉妹銃『黒龍』は、その銃身でしか耐えられない濃密で莫大な呪力を溜め込み、遥か上空へ向けて撃ち放った。先日までの青黒い呪力弾は黒い呪力弾へと変わっていた。前とは違うという揶揄にも思えるそれは、たった1発でその殆どの命を奪う呪いだった。

 

 1発の銃弾の大きさしかないそれは遥か上空、高さ約4000メートルにて弾けた。銃弾の形は黒い光の球体へと変化して空に鏤められている。上を見上げれば、空に浮かぶ異様な黒い小さな斑点に気がつくだろう。何を意図しているのか分からず、つい見上げてしまえばそれで何もかもが終わる。

 

 呪いの黒き光を、自身の敵に向けて放つ超広範囲殲滅。1つに込められている呪いの強さは埒外で、範囲を狭める代わりに貫通力を底上げされているそれを受け止めることは不可能。回避もほぼ無理だろう。音よりも速いという雷。黒き光線は、その雷すらも置き去りにする。

 

 

 

「墜ちろ──────『碧落ノ墜祓』」

 

 

 

 呪霊は等級なんてもの関係無く、ほぼ根刮ぎ祓われた。約4キロの範囲全て。改造人間は死滅した。約4キロの範囲全て。呪詛師は抹殺された。約4キロの範囲全て。呪術師は無事だった。約4キロの範囲全て。()()()見逃された多くの呪術師達は、戦っていた呪霊や改造人間が祓われ殺されたのを見て一息つく。

 

 偽夏油の放った呪術師と呪詛師は約4キロの範囲内に居た者達だけ皆殺しにされた。刹那の出来事だった。しかしその刹那を生み出した人物を思い浮かべて、生き残っている呪術師達は歓声を上げた。これで渋谷のテロは終わったのだと、裏で何が起きているのか気がつかず歓喜の声を上げたのだ。

 

 龍已は1人、広い道路の中央に立っていた。上に向かって撃った『黒龍』を下げる。銃口からは莫大な呪いを込められた呪力弾を放ったためか、煙を上げている。壊れた様子は無い。宿儺の斬撃すらも無傷で耐えた一級品だ。それをある方角へ向けて放つ。純黒の光線が放たれると、途中の壁を全て刳り貫いて目的の存在を撃ち抜いた。

 

 だが、撃ち抜かれた存在は生きていた。それを気配でも解っている龍已はチッ……と舌打ちをしてその場から消えた。呪いの光線で撃ち抜き、円形に刳り貫いた壁を通って目的の場所へ辿り着く。駅の渡り通路のところに出て来ると、目的の存在が見えてくる。

 

 

 

「ハハッ。オマエが獸崇が言ってた呪術師だろ?けど残念。物理は俺に効かないし、お得意の呪力の光線も効かねーよッ!」

 

「ツギハギの呪霊。お前が五条と虎杖、七海が言っていた特級呪霊か」

 

「真人だよ。芋虫に変えてやるから、それまではよォく覚えてな……よッ!!」

 

 

 

 魂に触れて形を変えることができる術式を持つ真人。彼は己の魂の形をこねくり回すことで自身の姿を自由自在に変える。つまり外的要因でしかない物理攻撃は効かないのだ。同時に、単なる呪いの攻撃も効かない。七海の十劃呪法ではダメージを与えられなかった。

 

 唯一真人に物理攻撃を可能としていたのが、虎杖だった。両面宿儺の指を食べたことで内に宿儺の魂が入り込み、無意識の内に魂の輪郭を捉えている。それによるものなのか、魂に触れなければダメージが出せない真人へ、有効打を与えることに成功していた。現時点での唯一の特攻を持つ虎杖。しかし彼は、龍已との戦いで気絶し、家入のところへ運ばれている。

 

 話には聞いている特級呪術師、黒圓龍已。真人は偽夏油が言っていた事が本当なのか確かめるために、手の中で弄んだ小さくしている改造人間を放り投げ、形を変えて先端を尖らせて差し向けた。一瞬で開いた距離を詰めた改造人間の刺突攻撃は、龍已の4メートル手前で完全に止まった。

 

 本当に遠距離が効かないのか!と、笑みを浮かべながら舌舐めずりをした。遠くからチクチクできないのはまあ面倒くさいが、龍已からの攻撃は自身に効かず、直接殴り合うなら自分も望むところだ。直接触れて魂に直接干渉し、体の形を芋虫にしてやろうと画策する。

 

 しかしその考えが浮かんだ時、真人は後方へ弾き飛ばされていた。駅の分厚いコンクリート製の壁を何枚も貫通して、最後は背中から叩き付けられる。大きく罅を入れて陥没した壁にめり込みながら、半分ほど潰れた顔面の感触を受けて小首を傾げた。どうやってここまで飛んできたのか解っていないのだ。

 

 真実を言うと、近寄って殴り飛ばしただけ。真人の横面を殴打し、壁を何枚も粉砕して吹き飛ばした。真人が捉えられない速度で。まあ、ダメージにはならないし良いかと思ってめり込んだ壁から出てきて、歪んだ顔を元に戻す。その後鼻から止めど無く流れ出る血に驚いた。

 

 

 

「何で鼻血が出てんの……?……ッ!もしかしてアイツ……っ!」

 

「初めてだったが()()()()()()()()()()()()()。これで物理が何だのは関係無くなったな、呪霊」

 

「……ハハッ。マジかよオマエ。すげー面倒くさいじゃんッ!」

 

 

 

 真人が衝突して破壊した壁の向こうから、歩いて向かってくる龍已に乾いた笑みを浮かべる真人。虎杖は内に宿儺の魂を抱えることで魂の輪郭を無意識で捉え、有効打を打ってきた。真人にとっての天敵だという認識だったが、今新たに天敵が生まれた。

 

 初めてだったという言葉が本当ならば、恐ろしい奴だというのが正直な感想。強ければ強いほど、無意識で自身の魂を呪力で防御しているものだ。でも完璧ではない。七海でさえも、2、3回真人に触れられれば耐えきれずに体の形を変えられてしまうというところだったのだ。

 

 龍已が強いことは今更のこと。直接触れて術式を使っても、七海よりも回数多く耐えるだろう。その考えが甘かった。まさか初撃で魂の輪郭を捉えてダメージを与えてくるとは思わなかった。動きも見えないくらい速い。少し戦況が不利だなと思いながら小さくしている改造人間を吐き出し、幾つも無理矢理捏ね回した。

 

 

 

多重魂 (たじゅうこん)──────『撥体 (ばったい)』」

 

 

 

 2つ以上の魂を捏ね回して融合させる。多重魂によって発生した魂同士の拒絶反応。これを利用して魂の質量を爆発的に高めることにより、相手に巨大な質量を向ける。1度に5つ以上の魂を融合させたので拒絶反応が強く、視界を埋め尽くす程の質量が襲い掛かった。

 

 天井いっぱいまである圧倒的質量の壁は、龍已を正面から押し潰そうとするのだが、術式反転によって4メートル手前で止まった。元が人間であるので非術師にも見えてしまうこの技は、術式によって生み出された物質ではないので止められても消えることは無い。

 

 その代わりに彼の視界を完全に塞ぐことに成功した。4メートル離れていようと、それだけ近づければもう十分だ。真人は移動していた。『撥体』という壁の中を。改造人間の口を開けて中から杜撰な笑みを浮かべながら姿を現す。そして口を開けば、口内には腕が4本生やされて掌印を結んでいた。

 

 夏油に散々黒圓龍已は危険だと忠告され、獸崇があと1歩で祓われるくらいまで追い詰められていた。確実に強い相手だろうが、魂の輪郭を捉えていないなら、まだ勝てる可能性があった。しかしその思いも先程覆された。輪郭を触れられるようになった黒圓龍已は、真人の天敵でありながら殺しうる存在と昇華した。

 

 漏瑚、花御、脹相、と共に五条悟と殺し合った際に行われた刹那の領域展開。夏油より、龍已の領域展開は押し合いになれば絶対に負けると言われている。例外はないと。では、押し合いにすらさせなければ良い。魂に触れて形を変える術式が必中になれば、領域に引き摺り込んだ時点で勝ちは確定する。コンマ何秒でも触れれば良いのだ。よって特級呪霊真人……0.2秒の領域展開。

 

 

 

「領域展開──────『自閉円頓裹(じへいえんどんか)』」

 

「……………………。」

 

「──────『無為転変(むいてんぺん)』……はい、お終い」

 

 

 

 引き摺り込んだ時点で、龍已は掌印を結んでいなかった。つまり真人は勝ちを確信したのだ。同じ領域を出す時間すら与えず、あれだけ最強と並ぶと謳われていた特級呪術師を殺した。所詮はこの程度かと、無限を操る五条がおかしかっただけかと考えて、これからどうしようかと思案する。

 

 数多くの手や腕が絡まって格子になっている気味の悪い真人の領域。あっという間に勝ってしまったことに若干のつまらなさを感じていた時のこと、真人は自身の領域の光景から一切何も映らない純黒の空間へとやって来ていた。先まで見ていた光景が違うと、辺りを見渡す。

 

 他の呪術師になにかされた?いや、領域を解除していないから無理だろう。中に入ってくればすぐに解る。それすらも無いということは、外に居るかも知れない奴の仕業ではないということだ。ならばもう選択肢なんて無いようなもの。魂に触れて殺したと思っていた黒圓龍已が、何かをしたのだ。

 

 何がどうなっているか解らない空間で真人は1人、辺りを見渡す。すると忽然と、闇から現れるように龍已が姿を見せた。数メートル離れているだけで、特に何か変わった様子が無い。『無為転変』による影響も無いようだ。まさか掌印すらも無く領域を……?と疑った時、龍已が口を開いた。

 

 

 

「塵芥の呪霊如きが、()()怨の一族の()に触れて無事で居られると思ったか?考えが甘いんだよ間抜け」

 

「ってことは、ここはオマエの生得領域ってこと?うわっ、真っ黒じゃん。気味悪いね」

 

「魂に触れて形を弄ぶと言うし、特級呪霊だとも聞いているからどれ程のモノかと思えばこの程度か。苦戦する理由が見つからん。では死ね」

 

「無駄だよ。俺にはオマエの術式は効かない。殴って祓うなら別だけどね」

 

「魂の輪郭を捉えた物理だろう?残念だが、お前の魂に呪いを込める方法には()()()()()。言った筈だぞ、死ねと」

 

「は?」

 

「──────『無窮ノ晄』」

 

 

 

 訳も解らず、真人は黒い閃光に包まれた。最期に見たのは何もかもを呑み込もうとする黒。莫大な呪力が込められた光線が真人の体を呑み込み、抵抗すら赦さず蒸発させるように跡形も無く消し飛ばした。虎杖と七海の2人掛かりでどうにか追い詰めた相手。それも、生まれて間もなく、戦闘経験が浅い真人をだ。

 

 日が立つにつれて真人は術式の熟練度を上げ、虎杖と七海、五条との戦闘で死がなんたるものなのかを掴んでいた。形を変えられるというアドバンテージを有効に使い、選択の幅を広げていく。領域展開を完璧に自身のものにして、呪術師にとって凶悪で狡猾な呪霊へと成長していた。しかしその強さが通用するのは、五条と龍已を除いた呪術師達だけだった。

 

『碧落ノ墜祓』から逃れられた唯一の存在、真人は死んだ。死んだと言うよりも、消滅したと言った方が正しいのかも知れない。彼等は人間ではなく呪霊。故に死という概念ではなく、祓われてこの世界から消えたという認識なのだ。

 

 真人が消え去った場所には、もう龍已は居なかった。後にその場へ訪れる七海は誰とも会うことが無く、一瞬だけ見えた光線で龍已によって呪霊や改造人間を消し去ったことを察したが何故、呪力が黒かったのか首を傾げることになった。

 

 渋谷の戦いは決した。呪術師側の勝利だ。だが実際のところ、封印された五条の行方は解らず、龍已の姿は何処にも無い。困惑する呪術師と高専の学生達。しかし夜蛾学長からの達しにより、特級呪術師の黒圓龍已が離反したことを告げられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 黒圓龍已は名実共に、呪術師の敵として見られることになった。各々はどう思うのだろうか。困惑か、失望か、憤りか。その他のことか。取り敢えず言えるのは、黒圓龍已とはもう、普通の関係には戻れない。

 

 

 

 

 

 






両面宿儺

紛う事なき呪いの王。卓越した技術と知識を持った平安時代最強の呪詛師。閉じ込めない領域を扱い、広大な効果範囲を持つ。自身の領域を真っ向から防いだ者は存在せず、龍已が初めてだった。

まさか、1回受けただけで閉じ込めない領域を完璧に扱ってくるとは思ってもみなかった。完全に予想外。だけど強ければ強いほど愉しいので機嫌は絶好調になった。同時に、龍已をメインディッシュに添えた。

平安時代最強最悪の呪詛師、呪いの王……現代最凶にして生ける伝説の呪詛師殺し、黒い死神に敗北。




真人

変形していない原型の手で直接触れた相手の魂を捏ねくり回して形を変えることが出来る術式を持つ。触れたら改造人間にされて死ぬ、凶悪な術式。この術式を必中にし、文字通り掌の上にする領域展開はまさに必殺。

龍已の事を0.2秒だけ展開した領域に引き摺り込み、早々に殺してしまおうとするが、何故か彼の生得領域に居て、撃ち滅ぼされた。現実の真人は白目を剥いていたが、その後崩れて消滅した。消し飛ばされたのは生得領域にやって来た魂の真人。




家入硝子

昔に龍已の中に居る何者かから忠告されていたが、今回それが発端で龍已が変わってしまったのか把握していない。元に戻せるならば今すぐにでも戻してやりたいが、肝心の本人が姿を消してしまってお手上げになっている。

長年隣に寄り添った龍已から、話これの言葉を突き付けられた。了承した覚えないんだけどな……と思いつつ、龍已と同棲していマンションで、2人で使うベッドを撫でていた。布団に丸まって寝たが、どれだけ包まっても冷たくて眠れなかった。




黒圓龍已

呪いの王の初めて(意味深)を奪った男。

閉じ込めない領域を食らったことにより()()()()()()()()()()()、『殲葬廻怨黒域』を閉じ込めない領域として展開することに成功した。これで領域の押し合いを受けずに引き摺り込む事ができ、尚且つ囲った相手を全員巻き込むことが出来るようになった、史上最悪の凶悪な領域展開。

虎杖と七海が苦戦した真人を一瞬でぶち殺した。魂に触れられたら終わりという情報は掴んでおり、魂に呪いをぶち込まないといけないのだが、()()()()()()()()()()()()()ので、殴り殺してやろうかと思ったら領域展開してきたので乗った。

呪詛師の敵は元からだが、何の理由があってか呪術師の敵にもなった。宣言して決別を示したので変えることは恐らく無い。そして、長年連れ添った家入との交際関係も終わらせた。




殲葬廻怨黒域(せんそうかいおんこくいき)』(改)

必中効果が発動した場合、解釈が捻じ曲がり当てられる場所になら何処からでも当てられるようになる。範囲は普通の領域展開と同じだったが、今回のことで閉じ込めない領域として確立。

効果範囲は前代未聞の427メートル。この領域内に入った存在は総て龍已の掌の上となり、内か外か、弾丸か光線かにより撃ち殺され殲滅される。

史上最悪の凶悪にして理不尽領域。

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