最高評価をしてくださった、鷹馬 水散屋 やり込み隊 マサカの盾 さん。
高評価をしてくださった、鵲くん Cafe俺 diesirae3792 シンタローΩ stss ジュ さん、ありがとうございます。
呪いのある界隈はクソである。紛う事なきゴミクソである。誰が言った言葉か?言わなくても解るだろう。根っからの腐り果てた界隈であると。身を沈めれば、よりそのクソさを味わうことが出来る。そして何より、そのクソさは呪いに関係無いものにまで被害の手を差し伸べる。
黒怨源継はその日出掛けていた。歳を重ね、孫にまで恵まれた彼はその時代では相当なら年寄りだった。肉体にはガタがきているし、少し前になら当然のように出来ていた黒怨無躰流が驚くほどに疲れる。息が切れると回復するまで時間が掛かる。
恵まれた強靱の肉体が嘘のように衰えているのだ。走って転ぶと骨を折ってしまうかも知れないなんて、そんなこと考える日が来ようとは思いもしなかった。しかし何もしないと衰える一方なので運動はする。毎日散歩を心掛けるのだ。どこに行ったか分からなくならないように、妻や息子夫婦に一言添えてから出掛けるようにしている。
その日も天気が良い日だった。まっさらな蒼い空。少しだけ鏤められた白い雲。木々の間を抜けて皺が目立つようになった頬を撫でるそよ風は心地良い。平和を感じる。最近は昔からちょっかいを掛けてきた呪術師は来ていない。来たとしても黒怨無躰流を継いだ息子が居るので大丈夫だ。自分はもうお役御免という訳だ。残りの余生を妻と共に過ごし、死ぬ。それが今の自分の目標だ。
「なんと……なんと……ッ!わ、儂の家が……」
「おい爺さん!危ねぇから近寄るなっ!」
「誰か水を持って来いっ!」
「中に誰か居るのかっ!?」
そう、清々しい晴れの日の
何があったと呆然とする彼は、回りに居る者の中から中に誰か居るのか?というフレーズを聞いた瞬間駆け出した。衰えた老骨には厳しい速度だが、大丈夫だ。愛する家族のためならば肺が痛かろうが我慢の1つや2つしてみせよう。誰もが制止するのを無視し、壁に拳を叩き込んで破壊して中に入った。
稽古場を隣接して建てている己の家はそれなりに広い。趣味で作っていた庭もあるので誰もが羨む広さを持っていたのは密かな自慢だった。今ではもう燃えているのだが。源継は感じ取れるのが難しくなった気配察知で家族の居場所を割り出そうとしたが、微かな気配1つのみを除いて感じられない。恐らくその1つというのは孫の気配だ。
直線距離で行くために、途中の燃えている壁を悉く粉砕して向かった。着物が燃えると脱ぎ去り、手脚が火傷しようとお構いなし。彼がやっとの思いで辿り着いたのは、居間だった。そこには
「お、おぉ……おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」
「……………………。」
長年寄り添った妻は手首、肘、肩、足首、膝、股関節から四肢を
息子夫婦も死んでいた。黒怨無躰流を継いだ息子は不自然な四肢の捻れ方をしていた。腕がある空間ごと捻られたような、そんな不自然なもので、頭は目玉を刳り貫かれ口の中に無理矢理放り込まれている。着ていたものは剥ぎ取られ、その服の一部だろうもので首を絞められていた。
息子の妻も身包みを剥がされて全裸のまま捨てられていた。またの間からは白濁とした粘液が大量に溢れている。長い栗色の髪は自慢だと話していたのに、その髪は根元から全て切られて雑な坊主頭にされている。体中切り傷だらけで打撲痕もある。顔は殴られすぎて歯が殆ど折れていた。涙を流した跡が見られ、首にはくっきりとした手形がついている。
孫は生きていた。まだ少年とも言えない小さな子供。そんな孫も体中を鋭い何かで切られている。血だらけだ。急いで抱き起こすとか細い息しかしていない。すぐに処置をしないと命に関わるだろう。源継は怒りなのか憎しみなのか怨みなのか分からない、全ての負の感情が宿った怨嗟の叫びを発した。
そして彼は見つける。奇跡的に家を焼く炎に呑まれず、家族の血を吸って赤黒くなる、文字の刻まれた畳を。傍に移動して読んでみる。そこには殴り書いた汚い字で、家族を襲い殺した者の言葉が書かれていた。
『報復は終わらない。貴様はこれより凄惨な事を経験する。貴様が死のうが、貴様等の修める技術を提供しない限り、延々と続く』
「──────そうか。そこまでして、
──────どれだけの年月を重ねようともな。
源継は息の浅い孫を抱いて住み慣れた家から消えた。誰もその姿を見ることは無い。中に入り出てきた姿を見ていないので共に燃えて死んだと噂されたが、終ぞこれらの前に再び姿を現すことはなかった。
黒怨源継は死の間際まで生き抜いた。体は衰えの極みだ。箸1つ持つことさえできなくなった。でも、やり遂げた。彼は命辛々助け出した孫を育てたのだ。息子に教えたように、痛みを伴う体に鞭を打って黒怨無躰流を教え、継がせた。そして孫が齢18を迎えるころ、最早彼の体はどう考えても限界を迎えていた。
孫に肩を貸してもらい、とある山奥で対峙する。立っているのが奇跡の源継の前には、拳を構える孫が居る。優しく強く育った孫。今や唯一の家族。山奥に逃げ込んで1人で育て、逞しく育ってくれた孫は涙を流していた。静かに、はらはらと涙を流し拳を震わせる。
源継は呪霊が見えた。呪力も持っている。そして……術式も持っていた。自覚することができなかった術式は、他人に教えられることでどういったものなのかを知ることが出来た。山を下りて必要なものを買いだしている時、偶然居合わせた美しい空色の瞳を持つ青年に教えられたのだ。
『あなたは……継承の術式をお持ちのようだ。自分の何かを次に継がせるための術式。大切な何かがあるならば、大切な人に継がせるのもまた選択でしょう。良く考えてお使いください』
そうか……継承。次に継がせることができるという面妖な力。親切だった青年に使い方を教えてもらった。別れてからは1度も会うことは無かったが、その青年のお陰で源継はある計画を立てることが出来た。
次に継がせることができるならば、継がせよう。
黒怨無躰流を継がせた息子が無惨にも殺されているのを見て確信した。呪術師は術式を使い戦う。呪いを使い肉体を強化する。黒怨無躰流がいくら相手を殺すための武術だとしても限界がある。そこで、源継は黒怨無躰流を継いでいき、呪術師を皆殺しにして殲滅できる、神に愛された子が産まれるまで、継承が続くようにした。
縛りとして、黒怨無躰流を継いだ者が齢18を迎えた日、継がせた者は継いだ者の手によって殺される。殺した瞬間、継承の術式は完了する。生まれたときに半分受け継ぎ、もう半分は殺した時に。そういう風に小分けして継承させ、後に代を重ねた際に情報量で人格がおかしくなることを防いだ。
源継は全てを継承する。来たるべき子のために全ての技術を、記憶を、そして……呪力を。新たな縛りを設ける。選ばれし最後の黒怨無躰流継承者が現れるまで、その過程の代の者達は
「爺様……後に俺もそちらへ参ります。どうかそれまで」
「う……む……たの……んだ……ぞ………」
孫の手が源継の心臓を刺し貫いた。継承の術式が発動する。記憶を、技術を、呪いを全て継がせる。呪いは宿らない。来たるべき選ばれし継承者の為に貯めているのだ。孫はもの言わぬ死体となった源継を暫く眺めていたが、目から零れる涙を袖で拭き、その場を後にして山を下りた。数年後、孫はある女性と出会って結婚し子供が産まれた。
黒怨一族の長子に女は生まれない。黒怨無躰流を継ぐに相応しい男が生まれるように縛りを設けているから。孫の子はやはり息子だった。生まれて間もない頃から黒怨無躰流の稽古をつけ、確実に継承出来るようにする。そして、先代の話をするのだ。こんな事があった。こんな事をされた。だからお前は黒怨無躰流を継がねばならない……と。
憎しみを抱け。恨みを晴らすために次へ継承させろ。受けた怨は全て怨で以て返せ。呪いを使う者達を信用してはならない。そうして教え込んでいき、孫は自身の息子が齢18に達したその日、息子の手によって殺され継承を終えた。
知らぬところで着々と怨嗟の牙を研いでいる黒怨一族だが、その過程は順調にとはいかなかった。何代か重ねると、呪術界から接触してくるのだ。黒怨無躰流を教えよ。継承せよと。もちろん、怨敵である呪術界に対して教えるわけがない。そう答えると、呪術師は襲ってきた。返り討ちにして殺せば殺せないと悟る。呪いを宿さぬ黒怨一族に負けたことを逆恨みし、彼等の大切な家族に手を出す。
息子を殺されたくないだろう。目の前で妻や娘を犯されたくないだろう。ならば教えろ。もしくは戦に参加して加勢しろ。そういって何かと条件をつけた。苦渋を飲みながら了承し、戦に参加した。戦場で数百数千の敵を拳で殺し、落ちている武器で殺した。やがて黒怨一族のその強さに危機感を覚えた呪術界は、彼等の怨念の籠もる声を聞いた。
「覚えておけ。例え俺を殺そうと、俺の次が必ずお前達を恨み怨を重ねる。我等黒怨一族の怨の強さ、深さ、悍ましさに身を震わせるが良い。何時か必ず、俺
黒々とした、怨念以外が宿らぬ瞳で訴えた黒怨一族の存在に、身の毛のよだつ何かを感じとった呪術界は、彼等のことを怨の一族と呼ぶようになった。強大な怨を抱いて人を殺す、怪物の一族であると。手を出した立場の癖に、奴等は危険な存在であり、危険な思想を抱くイカれ狂った凶人共だと広めたのだ。
早くあの強力な武術を手に入れ、黒怨一族を根絶やしにしよう。それが世のためだ。そう信じて疑わず、彼等に接触しては教えるように迫り、拒否すれば大切な者を殺すという行為を繰り返した。その愚かな行為が、怨を抱く一族に強大な恨みを抱かせ、負の感情を増大させているとも知らず。
彼等は呪いを宿さない非術師だ?なんと愚かな。無知とはここまで愚かなのだろうか。彼等は内に秘めた負の感情を、いつ現れるか分からない継承者の為に表に出さず、継承しているのだ。代を重ねれば重ねるほど、強くなる呪い。彼等はほくそ笑む。精々我等の上に立っている気になっているが良い。来たるべき日、お前達は黒怨一族最強の子の手によって滅ぼされるのだ。
「──────ケヒッ。ケヒヒッ。厄介なものだなァ?呪術師は!だからどうということもないが。さて、お前達も向かってくるか?何の為だ?」
「……家族を人質に取られている。その解放を目的として両面宿儺、お前を殺す」
「ケヒヒッ。下らんことを相も変わらずしているのか、愚かな呪術師共は。お前、名は何という」
「黒怨だ。下の名前に意味は無い」
「意味が無い?」
「我等黒怨一族は怨の一族と呼ばれている。いずれ、奴等呪術師、呪詛師を世から消す。完成した黒怨が生まれた時、世界は我々の怨の強さを身を以て知ることになる。さぁ、言葉を交わすのは終わりだ。疾く死んでくれ」
「ほう……ほうッ!縛りも用いて次世代へ継承しているのかッ!ケヒヒッ。面白い。面白いぞ黒怨ッ!怨の一族ッ!叶うならばお前達の完成した怨念を見てみたいものだッ!そしてこの手で壊したいッ!」
呪術全盛の時代。呪術界で最も恐れられた呪いの王、両面宿儺と邂逅した。2つの顔、4本の腕を持つ体に紋様を入れた男と対峙しながら、その代の黒怨は臆すること無く拳を構えた。呪いは勿論宿していない。術式も無い。そんな彼は、正面から呪いの王を見据えて駆け出した。
誰が相手であろうと背を向けない。逃げずに相手を追いつめ、必ず殺す凶人の武術。その強さは両面宿儺と戦っていた呪術師達も身を以て知った。何故なら、両面宿儺と戦っている彼等の中に紛れ込んで無差別に殺し回っていたからだ。背後から忍び寄り、首の骨を捻じ切って砕き、蹴りで頭を吹き飛ばし、手刀で心臓を穿つ。バレないように、1人1人殺して回った。
そして、周りには少ない数の呪術師しか居なくなると殺すのはやめて、両面宿儺との戦いに身を投じた。術式により不可視の斬撃が飛ばされる。最初は勘で避け、不可視の斬撃に慣れると完璧に避けるようになった。炎を飛ばされると死体を投げて盾にし、接近してくると戦場に落ちる数多の武器を使って肉薄した。
興が乗ったからと接近して戦う両面宿儺の腕を取り、2本毟り取った。後にも先にもこれ程のダメージを与えたのは黒怨だけだった。だが、所詮は呪いも無ければ術式も無い、武術が使える非術師だ。両面宿儺の閉じ込めない領域に引き摺り込まれ、満身創痍になる。だが彼の呪いの王は黒怨を見逃した。黒怨を完成させるために、敢えて逃がしたのだ。
両面宿儺との戦いが終わり、敢えて逃がされた黒怨は結局家族を殺された。奴を殺すことを条件として助けてやると言った。なのに討てなかった。ならば家族を殺されても文句は言えまい。そう言われて人質に取られていた妻と娘は犯されて孕まされた後、相伝の術式を持つ子を産まなかったというのを理由に殺された。
恨み、恨み、恨み。憎み、憎み、憎み、怨念を募らせ、その代の継承者の中で歴代の継承者達は怨嗟の声を上げる。そして虎視眈々と反撃の機会を窺うのだ。怨の牙を研ぎながら。そうして1000年以上の月日が流れ、その過程で黒怨は黒圓へと名前を変えて潜むようになり、最後の黒圓継承者……黒圓龍已が誕生した。
『素晴らしい。歴代でも最高の肉体だ』
『才能も完璧だ。この子に使い熟せない黒怨無躰流は無い』
『呪術界も最後の黒怨に怨念を抱かせる、間抜けな要因を作った』
『我等が継承してきた全ての呪いと怨をこの子に』
『才能を開花させ』
『技術を与え』
『衰えを知らぬ完全を授けよう』
『『『──────我等の全てを贄として』』』
長年寄り添い、見守ってきた歴代継承者は、最後の継承者が継承の義を済ませると消える。宿っていた意識は統合されて黒圓龍已と混ぜ合わさり、だが彼の意識をメインとして黒怨龍已へと昇華させる。技術も記憶も全て与え、一番の天敵である衰えから脱却させた。
黒圓龍已は歴代で最も才能に溢れ、莫大な呪いを宿し、術式を持った子だ。しかし黒怨龍已はこれまでの黒怨が積み重ねてきた歴史が1つとなってこの世に根を生やした怨念の大樹である。全ては憎き呪術界を世から消し去るため。呪術師、呪詛師を皆殺しにするためだけに産まれ落ちた、最強の怨なのだ。
「──────我々黒怨一族は、俺の為にやれること全てをやった。強靱な精神を持つために、精神の強い女を娶った。子供には幼児の頃から稽古をつけた。より良い子供が産まれるために相手を選び、子を産み、またより良い相手を……要するに俺は、黒怨一族が長年積み重ねて品種改良した人間だ。俺の母も、襲い掛かってきた呪術師に包丁で応戦した。心の強い女だった。どうだ?俺がどうやって誕生したのか知れただろう。怨の一族と呼ばれた理由も理解したな?」
「……呪術師は本当にクソですね」
「今更だろうに。七海、お前の意見はずっと正しかった。呪術師延いては呪術界はクソだ。でなければ俺は生まれていない」
話し終えた龍已は、前に置いてあるお茶の入ったペットボトルに手を伸ばしてキャップを開け、中身を飲んだ。始まりの黒怨からずっと説明していたので喉が渇いていた。嚥下して喉を潤し、ペットボトルを床に置くと皆の顔を見る。そこには予想通りの反応がある。
真面目な七海は苦々しい表情をしている。灰原は顔色を青くしていた。まだこんな話を聞かせる歳ではない虎杖達は、沈んだ表情をしていた。虎杖は唖然とし、恵は何とも言えない顔だ。釘崎は当時の黒怨に胸を締め付けられているのか涙目になって唇を噛んでいる。
甚爾は呆れたように溜め息を吐いて、何でフィジカルギフテッドを持つ自分と同等かそれ以上の肉体を持っているのか納得した様子だ。補助監督の鶴川は、吐き気を催しているのか口を手で押さえて蹲っている。
反承司は黒怨龍已の過去がそんなに思いものがあったとは知らず、悲痛な表情を浮かべていた。彼女が知る二次創作では、そこまで細かい過去の描写はされていない。彼の口から語られて、始めて知ることが出来た過去の話。でも、決して気分の良いものではなかった。
龍已の親友である虎徹は終始真剣な表情をしているが、手を強く握り込んで血を流している。気配から内心で怒り狂っているのが伝わってくる。まあ予想通りの反応だ。今まで受けてきた仕打ちは、相当なものであるという自覚はしている。何の恨みがあって黒怨一族に手を出すのかと、各々の代で何度も思った。だが良いのだ。今までのことがあったお陰で、こうして完成したのだから。
「俺の肉体は特殊な縛りにより、殆ど不老に近い。我が子の手により寿命よりも早く死んだ継承者達の余生は継承され、その全ては俺に還元される。衰えを天敵とした黒怨は、殺されない限り死なない肉体を手に入れた。齢28を迎え、それから先全盛の力を維持し続け、進化のみを体現する。最早どれだけの呪術師を集めようが、意味は無い。時間が解決してくれる……などという変な期待はしない方がいい。時間を掛ける前に殲滅させてもらう」
「ますます人間やめてんな」
「仕方あるまい。長年の怨が凝り固まった結果だ。完成しなければこんな肉体にはなっていない。その点に於いては完成させてくれた反承司に感謝の言葉しか無い」
「うぐっ……」
再び要らないお礼を言われた反承司が反応した。彼は未完成の時、別に普通の人間だった。歳と共に肉体は衰え、思考力は落ちていく。いつしか年老いた老人にもなることだろう。しかし、今の彼は完成した究極の肉体を持っている。
彼は最早歳を取らない。肉体の衰えも無い。黒怨無躰流の最大の天敵である老化による衰えを克服した。黒怨龍已の全盛期は28だ。完成した今、常に28の頃の力を発揮することが出来るようになっている。歳を取らず常に全盛期の力を。なのに進化はしていくという力を手に入れた。
その力は長期間の動きを可能とさせ、この世に居る呪術師を1人も残さず殲滅するための肉体だ。誰も逃がしはしない。逃がさないための肉体を作り出した。彼の中に居た歴代継承者達の意識を全て犠牲にすることによって。
「話は終わりだ。語ることはもう無い。そこで1つ、お前達に問おう」
「何をかな?」
「──────今この場で死ぬか、来たる日に俺と全面戦争をするか」
「…………………。」
「……どういう意味ですか。黒怨さんならば今すぐにでもこの場に居る全員を殺せるでしょう。日にちを空ける理由はなんですか」
「これでもお前達と過ごした日々は覚えているし本物だ。故に、この場で死ぬことを選ぶならば苦痛なく、安らかに眠るような死を与えることを約束しよう。ただし、俺との戦争を望むならば……凄惨な光景を見ることになると思え」
座りながらレッグホルスターから『黒龍』を抜いて前に出す。この場で殺して欲しいと言えば、望み通りする殺すのだろう。だが彼の言葉に反応して望みを口にする者は誰1人も居なかった。静かで痛い沈黙が訪れる。誰も死を望んでいない。それどころか龍已と戦うことそのものを望んでいない。だがもう、彼とはわかり合えないのだ。
今この場で死を願う者は居ない。暫しの間皆の顔を眺めていた龍已は、それを悟ってかレッグホルスターから取り出していた『黒龍』を納めた。彼はこの場で全員を、即座に殺す事ができる。それだけの力を持っている。しかしやらない。彼にも思い出があったから。未完成の頃に重ねた年月は無駄ではなかった。だからこそ、猶予を与えているのだろう。
悲しいものだ。これまで楽しくやってこれたというのに、ちょっとしたことが切っ掛けでこんな事になっているのだから。彼と戦いたいと望むはずも無く、彼を殺したいと思える筈が無い。では彼はどうだろうか。殺すことに猶予を与えている。ならば戦いたいと思っていないのではないか?殺すことを望んでいないのではないか?
……無理な話だ。今までの、彼が生きてきて重ねた思い出程度では、黒怨一族が受けてきた苦しみや憎しみを拭い去ることは出来ない。猶予は猶予だ。時を見てくれる。だがそれだけだ。殺すと決めたら殺す。それが呪術師をこの世から消すためだけに産まれた彼の存在意義なのだから。
彼の首に巻き付く武器庫呪霊のクロが何かを吐き出した。掌に収まるくらいの大きさをしたキューブだった。表面には目がついていて、サイコロと同じく対面で7個の目になるようになっている。それを受け取った龍已が、放物線を描くように虎徹へ放り渡した。何か解らず訝しげに見ていた者達の中で、虎徹だけはすぐに何なのか理解して瞠目した。
「これって……もしかして」
「──────『
「「「──────は?」」」
「渋谷の無差別テロを起こした犯人を殺した後、奪って持ち歩いていた。それはお前達に返そう」
「……どうして?五条悟は呪術師最強の存在。対立するつもりなら邪魔なんじゃないの?」
「──────我々黒怨一族は敵に背を見せない。
「……そう。五条悟を加えられても勝てるって、確信しているんだね」
「
簡単に渡された、五条悟が封印されている獄門疆。渋谷事変で封印されたと聞かされて、それ以来行方が分からなくなっていた。でもまさか、龍已が持っているとは思わなかったらしい。皆が虎徹の周りに集まり、彼の手の中にある獄門疆を興味深そうに見ている。呪術師最強と呼ばれる彼を渡す。呪術師と敵対するならば絶対にやらない手だ。
しかし彼は五条を明け渡す。最強がなんだ。無限がなんだ。六眼がなんだ。そんなことを理由に、黒怨一族の怨が途絶えるとでも思っているのか。無駄な手は使わない。正面から実力のみで蹴散らす。例え五条悟が居ようとも。その揺るぎない自信が、より龍已の怨の強さを物語っていた。
龍已がゆっくりと立ち上がる。話すことは全て話した。この場で殺し合いはしない。皆の間を通って稽古場のドアまで行き、手を掛けながら最後に振り返る。その瞳は、先程まで穏やかに話していた黒圓龍已のものではなかった。どこまでもおどろおどろしい、黒く暗い怨念の籠もった敵意を剥き出した瞳だった。
「──────待っているぞ、呪術師。俺との戦争に参加する者は良く選ぶといい。足手纏いを連れると自身の首を絞めることになる。俺はお前達を殺し……世界から呪術師、呪詛師を消す。後腐れ無く、悔いを残さぬよう、全身全霊で呪い合おう」
彼は稽古場を今度こそ出て行った。これから先、この黒圓家には戻ってこないだろう。虎徹が居るから自身の居場所は解るだろうと、決戦の場所は口にしなかった。でもこれで本当に決別したのだということを無理矢理叩き付けられた。紛う事なき黒怨龍已との呪い合い。一番望んでいなかった現実である。
反承司は止め処なく溢れる涙を拭おうともせず、正座をしたまま俯いている。虎徹は手の中にある獄門疆を強く握り締め、血が滴るほど強く唇を噛んだ。
「──────私に何も言わず行くのか?」
「……先に居なくなったのはお前だろう、家入硝子」
「硝子って呼べよ、龍已」
稽古場を出て廊下を歩き、玄関に辿り着いて靴を履く。玄関の扉を開いて外に出ると、家入が居た。彼女が居ることは気配で分かっていた。途中から離席していたのは精神を落ち着かせるためだろう。もう大丈夫なのかと思うが、赤くなった目を見れば大丈夫とは思えない。
交際関係にあった、家入と龍已が対峙する。いや、関係を断ったと思っているのは龍已だけで、家入はその事を了承した覚えは無い。呪術師は敵だ。殲滅対象だ。そう言われても、彼のことを愛していることに変わりは無い。変わるわけがない。今もこうして顔を合わせるだけで、会えなかった日の寂しさを埋めるために抱擁したくなる。
でも、出来ない。3歩か4歩進めば抱擁できる距離に居るのに、それが出来ないくらい彼の居場所は遠い。近くて遠い場所に行ってしまった。言葉の重みが違う。親しい者との会話と言うより、如何にも敵と話している時の冷たさを含んでいた。
「なぁ、龍已」
「……なんだ」
「私はさ、やっぱりお前が好きだよ」
「…………………。」
「まあ当たり前だろうな。敵だのなんだの言われて、関係を元には戻せない。お前の手は取らないとまで言われて泣かされて……それでも私はお前が好きだ。愛してる。世界を捨てる羽目になろうと、私はお前を取るよ」
「俺と共に来る気か?やめておけ。お前はこちら側ではない」
「何でそう思うんだ?別に呪術界に未練なんて無い。まだ子供の虎杖達や、同期で付き合いの長い五条には悪いが、彼奴らが死んでもお前が生きていてくれるなら、私はその道を選ぶ。なのに、その選ぼうとしている道すらお前は否定するのか?それならどんな道ならいいんだ?私にはもう分からないんだ。教えてくれ」
高校生の頃から、同年代と比べて大人の雰囲気を持って、時には達観したような口振りをしていた家入。常に落ち着いた物腰で、冷静な彼女。そんな彼女が縋るような目をして問い掛けてくる。お前と一緒に居られるには、どうしたらいいのかと。その他全てを犠牲にしてでも一緒に居たいのに、それすら否定されるなら、どうすれば良いのかと聞いてくる。
深い愛のベクトルが向けられている。最早執着と言っても良いのかも知れない。いや、もしかしたらそんな生温い言葉では表せないようなものを、彼女は龍已に対して抱いて確固たるものにしてしまったのやも知れない。
この世から呪術師は消す。呪詛師も消す。回復役でしかなかった家入硝子も例外ではない。もう敵だ。敵なのだ。引き返せないところまで来ている。その道を、たった独りで進むしかない線路を走っている彼にとって、ついてこようとする家入は無意味な存在だった。だから否定する。共に来ることは赦さない。
「俺とお前は敵だ。共に居ることはない。何があろうともな」
「その根拠はなんだ。敵だからで私が納得すると思うのか?」
「納得するしないの話ではない。俺と殺し合うか、殺されるか。2つに1つだ。共に生きるという選択肢は存在していない」
「だから……っ!そんな言葉で納得するわけが……っ!おい待て!──────行くなっ!」
歩き出して家入の元から消えようとする龍已。これで対話の機会が失われる。居なくなりそうな背中ではなく、居なくなろうとしている背中に手を伸ばしていた。彼の服の袖を力いっぱい掴む。絶対に離さないと言わんばかりの力で。そんなに上手くないが、呪いで肉体すら強化している。
踏ん張って行かせないようにする。みっともなくて、彼女らしくなかろうと、縋り付いてでも彼の脚を止めてみせる。歩き出して黒圓家の敷地から出ようとする彼を止めた。止めることができた。対話をこれで終わらせるつもりはない。核心を突いて、意地でも一緒に居てやろうとする。
だが、そんな家入のことを龍已は抱き締めた。体の向きを反対にして振り返り、隙間が無いくらい正面から彼女のことを抱き締める。背中に回された逞しい腕。強靱な肉体から発せられる人肌の温度。それらが最早懐かしくさえ思えて、視界が涙で歪む。なんでこんな時に抱き締めるんだ。最悪だ。涙が溢れそうになる。
縋り付くように、家入も龍已の背中に腕を回した。恋人が遠い場所へ行くのを悲しみ、別れの最後に抱き合っているように見えるだろう。しかし家入は、抱き締める龍已の腕の力が、強くなっていくのを感じた。ぎちりと抱き締められ、体が圧迫されて息が苦しくなる。
「……っ……かはッ……」
「……………………。」
「りゅ……や………お……まえ……っ」
「……………………。」
「ぃ……や…だ……き……ぜつ……なん……てっ」
「……………………。」
「……ッ……ひゅっ………こほっ……」
「……………………──────すまない」
「……ぃ………っ……ゃ………────────」
彼の背中に回した手で背中を引っ掻き、腕の中から出ていこうと藻掻くのに全くビクともしない。元より筋力の差がありすぎる。女と男というだけでも違うのに、超人すらも凌駕する彼の強靱な肉体に敵うはずも無く、息ができず土気色に顔色を変えながら抵抗した。
意識が朦朧とする中で、彼に対して怒りだとか悔しさが沸々と浮かび上がる。だがそれよりも、また抱いてもらえたという喜びが顔を見せる。息ができなくて苦しい。このままだと行ってしまう。次会うときは敵として会うしかなくなる。だから気絶だけは嫌なのに、なのにどうして……抱き締められるだけで笑みを浮かべてしまうのか。
背中を引っ掻いていた手から力が抜け、腕と体がだらりとする。酸素不足で気絶した家入を横抱きにして抱えると、家にある縁側の方へ回った。起こさないようにゆっくりと下ろして寝かせる。息があることを確認して、乱れた長い髪を梳いて整える。目の下が赤く擦った後がある。それを優しく撫でた。
「すまない、硝子。お前をこちら側には連れて行けない。俺とお前はどうしても、敵でなければならない。……さようなら」
気絶させられ、眠っている家入に語り掛ける。その声色に冷たさは感じない。代わりに感じるのは何か。それは彼にしか分からない。
瞼を撫で、頬を撫で、長い髪を一房手に取って唇を寄せ、最後に彼女の綺麗な手を取って口づけた。最後に眠っている彼女の顔を眺めてから立ち上がり、次の瞬間にはもう、その場には誰も居なかった。
話し合いは終わった。彼の過去は知れた。これからやらねばならないことは定まった。ならば後は戦うのみ。生き残るのは呪術師か、怨か。どちらかのみだ。
「──────始めよう。呪術師と黒怨による戦争を。お前達を殺し、俺はこの世から呪術師と呪詛師を消す。全身全霊で呪い合おう。黒怨無躰流最終継承者、黒怨龍已……──────」
──────────推して参る。
怨の一族
千年以上、呪術師に苦渋を飲まされながら、影で常に牙を研いで反撃の機会を虎視眈々と狙っていた凶人の一族。全ては呪術師を殺すためだけに、代々黒怨無躰流を継承して糧であり贄になることを良しとした者達のこと。
元々、歴代継承者も膨大な呪いを宿しやすい体質だったが、黒怨を完成させるために全てを継承させて捨てていた。
狂っているため、相手に対して負の感情を抱きやすい。1度怨むと何があろうとも忘れない。怨は怨で以て返す。初代は未だ見ぬ敵にすら怨念を抱き、黒怨無躰流を創り出した。
天切虎徹
過去の話を聞き、龍已の意思が変わらないことを察した。長年親友をしてきたからこそ、その気持ちの強さが絶対であることを感じ取る。覚悟を決めねばならない。でも、そう簡単に決められたら苦労しない。
反承司零奈
龍已との戦争には参加するつもりだが、足手纏いになるかも知れないと客観的に考えている。涙が止まらず、止める方法を知らない。止められるなら、それはきっと完成される前の彼が必要だろう。
七海健人&灰原雄
呪術師はクソ。
世界の真理を既に掴んでいた。
まさかここまで酷い過去があったなんて……と、灰原は思ったが、それをおいそれとは口に出来ない。同情してしまいそうになるから。
虎杖&恵&釘崎
一般の出である一般は、過去の呪術師に対してドン引きも良いところ。クズさなら宿儺と同等……?とか考えている。
恵は胸クソ悪すぎてイライラしてきた。
御三家もクソだと思ってたけど、ごめんなさい。呪術師全部クソだったわ。と、泣いた後の真っ赤な目をして言う釘崎。龍已の第一印象はマジで的確。
鶴川
長く龍已の補助監督をしてきたが、あんなに良い人の過去が何でこんなに苦しくないといけないのかと苦しみ悲しんでいる。過去の話では吐きそうになりながら、腕時計を握り締めてどうにか耐えていた。
旧名、黒圓龍已。
千年以上昔の初代黒怨が怨を抱き、過程で品種改良を行い、果てに産まれた黒怨一族の最高傑作。
呪術師を皆殺しに出来る知力。体力。肉体。才能。呪力。術式を持つことで完成した。つまりは彼の存在そのものが、呪術師を皆殺しにできるという証明になっている。
強力な縛りにより、歴代の誰もが呪いを宿す事が無いが、その代わりに持っていたであろう呪いを引き継いで最後に託した。故に彼の内包する呪いは人知を超えている。この総量を超えることは、誰にも出来ない。ついでに言うなら完成した瞬間総量は2倍に膨れ上がっている。
歴代の継承者を内に宿していたが、意識が全て統合されている。故に黒怨龍已であって、全ての黒怨。そのため過去の出来事を全て知っている。何故なら実際に体験しているから。
黒怨の最大の天敵である衰えを克服するために、我が子に殺された継承者達の、これから先生きたであろう残りの寿命をも継承して龍已に与えた。それにより、半不老の肉体を得る。普通に過ごしても千年以上は生きる。
28歳が彼の肉体の全盛期であり、縛りによって衰えを克服した肉体は、それから先の人生全て全盛期の状態を維持する。そこに加え、才能の成長は止まらず常に進化し続ける。どんな呪術師が産まれようと、必ず殺せるために。完成したことにより長寿の殲滅者となった。
彼を止めるには、彼を殺す他ない。だが、完成した時点で呪術師では勝てないことが約束されている。約束された殲滅の星の下に生まれた彼をどう引きずり落とすかは、君達次第。
家入硝子
世界がどうなってもいい。誰が死のうともうどうでもいい。ただ、隣に居て欲しいだけ。それだけが望みだった。