「ずずっ……」
「味つけはどうだ?口に合うと良いんだが」
「ぉ、おいひいれふ」
「それは良かった。口の端に白米がついているぞ。取るから動くなよ」
「へ、へへ……っ」
なんだこりゃ幸せだなぁ……(満喫)
1人用のテーブルの上に並べられたお皿には、普段の私なら作らないだろう美味しそうな朝ご飯が乗っている。綺麗な形の目玉焼きとウィンナー。レタスのサラダと私好みの濃さをした味噌汁。炊き立ての白米。どれも出来たてのホカホカで、美味しくて箸が進んじゃう。
一緒に食べてくれているのは、昨日の夜私が引き摺って連れてきた男の人。イケメンというより、精悍で整った顔立ちをしてる。ニコリともしない無表情だけど、不機嫌なわけじゃなくて話し掛ければ普通に話してくれる。コミュ力はそれなりに高いみたい。
身長はやっぱり180を超えてた。並んで立ったら見上げないと顔が見えない。体格は細身なのに筋肉質でガッシリ。私が間違えて買ったブカブカの黒いティーシャツを着てる。それでぴったりくらいかな?元々着てたのは私が切っちゃったからね。もちろん差し上げますとも!
椅子とかないのでカーペットに座布団引いて座ってるんだけど、この男の人はものすごく姿勢が良い。棒が背中に1本通ってるんじゃないかってくらい背筋を伸ばして正座しながら食べてる。箸の持ち方も綺麗だし、所作の一つ一つに見惚れそうになる。てか、座高低くね?足長過ぎん?モデルかよっ!体傷だらけだけど……。
スマホの目覚ましで起きた私は朝ご飯の良い匂いで寝惚けた頭を覚醒させた。髪の毛ボサボサ。ノーメイクでショボショボした目と、色々と人に見せるには終わってる顔だけど、男の人はそんなこと気にせず、顔を洗ってきた私に甲斐甲斐しく朝ご飯持ってきてくれて、こうして食べている。
色々聞きたいことがあるが、取り敢えずご飯を食べる。正直、誰かに作ってもらったご飯って久しぶり。仕事があって実家には帰れてないからお母さんのご飯とか全然食べれてないし。あれ、最後に帰ったのいつだっけ……半年……1年……?よし、考えるのはやめよう。
「ふぅ……美味しかったぁ……」
「お粗末様。食器は洗っておくから、仕事に行く用意をするといい」
「あっ、ありがとうございますっ!じゃあお言葉に甘えて……」
さり気なく綺麗に食べた後の食器を持って流し台に行き、カチャカチャと洗い始めた。ありがたいなぁと思いながら、お礼を言って私は洗面台へ。寝癖を温水で解いてサッパリしつつ、次は寝室に行ってお化粧。女のエチケットだからね!今の時代Yo〇Tubeがあるから化粧の仕方なんていくらでも勉強できるんですよっ!
まあ?化粧を施しても私の顔的にはフツーなんですが?はーっ!後輩ちゃんみたいな美人に生まれたかった!無いもの強請りって?やかましいわ!
しっかりと化粧をしたら仕事に行くためのスーツを着る。ワイシャツは1枚ダメにしちゃったんだよなぁ……血で。と思ったら、そのワイシャツの血は落ちて綺麗に畳まれてた。あれ、どうやって落としたの?新品みたいに真っ白なんだけど……まあいいか。儲け!
なんだかゆったりとした時間を過ごせたので心の余裕がいっぱいっ!清々しい朝って素晴らしい!気分はルンルンで、スマホをポケットに入れてバッグを持ちながら寝室を出ると、男の人が付き添って玄関まで送ってくれた。
「これが作った弁当だ。良かったら食べてくれ」
「ありがとうございます!楽しみにしてます!」
「あぁ。いってらっしゃい。気をつけてな」
「はい!いってきます!へへへ……」
顔は無表情だけど、手を振ってくれたので、私も手を振り返して部屋を出た。鍵を閉めてエレベーターに乗り込み1階へ。今日も晴れで気分が良い。朝から美味しいご飯食べられたのが良いのか、憂鬱になっている最寄り駅までの道が楽しく感じた。ちょっとスキップしていると、ランニングしてる人とすれ違って微笑まれた。おはようございますっ!なんてね!
ふんふふん♪と鼻歌を歌いながら歩いて15分。最寄りの駅についたら定期券を改札に押しつけて中に入り、電車を待って来たら乗り込む。30分近く揺れて、着いたら駅から少し歩けば私の職場。社員証を翳して中に入っていくと、受付の人があら?って感じで私を見る。どうやらご機嫌なのがバレちゃったみたい。そうです、私がご機嫌なOLですっ。
エレベーターを使って私が仕事をしている階にまで行くと、自分用の仕事机に座ってバッグを慎重に下ろす。中にはお楽しみが入ってるからね!パソコンを起動させて社員番号とパスワードを打ち込み
、今日やる仕事の大まかな予定を確認して、昨日残業してまで作った会議用の資料を目の届く場所に置いておく。
後は始業の合図があるまでは自由なので、スマホでサイトを覗いてみたり、天気予報を見ておいたりする。時々近くのデスクの人に挨拶をされたら返していると、隣に誰かが立った。もう美人な香りっていうのかな、もうふんわりとした良い匂いが漂ってきたので誰かは大体予想がついてる。
「どうしたの後輩ちゃん」
「あの……先輩。昨日は資料作りもしないで帰っちゃってごめんなさい……」
「いいって言ったのにー。元々約束があったんだから。ドタキャンした方が後が面倒くさいよ。私の方は気にしなくていいの。資料の用意はこの通り、無事終わったしね」
「……分かりました。なら、今日のお昼ご飯は奢らせてくださいっ。それくらいはさせて欲しいですっ」
「あ、ごめんねー。お昼はお弁当作って
「作って……もらった……?まさか先輩、それは彼氏に……っ!」
「お、始業のチャイム鳴ったよ。ほらほら戻った。後輩ちゃん先輩と一緒に〇〇会社行くんでしょ?待たせると怒られちゃうぞー」
「うぅ……後で教えてもらいますからねっ!」
教えてもらうって何を?仕事?料理?まあいいや。今は気分が良いし。後輩ちゃんは私のことをチラチラと見ているが、私にはやるべき仕事があるのですぐに取りかかる。残業なんてしたくないからね。この会社は残業代しっかり出るけど、定時に帰れるなら帰りたいでしょ。私は今すぐに帰りたいけどね☆
会議が始まる時間をもう一度確認して、付箋紙に書いたら目につくパソコンの外側に貼っておく。忘れないためにね。それまでは自分の仕事をしておくぅ。気分が良いと仕事の効率も上がる上がる。気分は仕事が出来るキャリアウーマン!ほいほいっと案件を片付けて椅子の背もたれに背中預けてんーっと伸びー。はー、仕事がザコやでぇ……。
その後も仕事を効率良く進めて、会議も出席してしっかりと資料を配り、プレゼンも完遂した。いい汗掻いたぜ。やることやった後は、お楽しみだったお弁当ぅ!早速食べようと思っていると、何やら騒がしい。まあ理由は分かる。後輩ちゃんがお昼ご飯に誘われているのだ。
「後輩ちゃん。お昼ご飯一緒に行かない?奢るよ?」
「この前美味しいところを見つけてさー」
「良かったら一緒に行こうか!」
「気になってるってところ予約しておいたんだ、僕と一緒に食べてくれると嬉しいな」
「後輩ちゃん!一緒に食堂で食べなーい?」
「後輩ちゃーん!」
「あ、あの……私は先輩と一緒に……っ」
「ムフーっ。へへへ。美味しそう……しかも黒蛇ちゃんのキャラ弁っ!やだ、かーわーいーいーっ。食べるのもったいないっ!それに、んふっ、タコさんウィンナーだぁ。ちっちゃいのに顔もついてるっ。ふふふ……あれ、この小さいタッパーの中は……杏仁豆腐かな?…………しゅきぃ♡えへへぇ……」
「あ、あぁ……先輩っ。そんな幸せそうに蕩けてっ……ま、まさか本当に彼氏が……っ!?や、先輩っ……せんぱーいっ!」
お弁当美味しい……かわいいし食べるのもったいないけど、食べないともったいないもんね!男性社員と女性社員に連れられてご飯食べに出かけ(させられ)た後輩ちゃんの言葉は耳に入ってこないで、誰の邪魔も入らずゆっくりとお弁当を満喫できた。
今の私はニコニコして蕩けた顔をしていることだろうね。普段は社員食堂で食べるか、どこかに食べに行くかの2択だったから。こういう人が作ってくれたご飯って好きなんだよねー。なんだろ、私のために作ってくれたって感じがするからかな?お母さんの料理?あれはお袋の味だから……。
いつも以上に楽しみながら、いつも以上に時間を掛けてお弁当を食べた。気分が良いのでスマホを弄りサイトを覗く。いつも通りの感じなのでまあいいかとサイトを閉じ、余韻に浸る。
昼休憩が終わり、定時の時間に近づく。今日のメインである会議は恙無く終わり、今日のやるべき仕事は終わらせて、今やっているのは明日の分だ。これなら明日も問題なく定時で上がれるだろう。残業しないで帰れるとなると嬉しい。
カタカタカタ、ッターン!とキーボードを打つと同時に定時を報せるチャイムと放送が入る。定時になりました。帰宅する方はお気をつけくださいと、何回聞いたか分からない定型文を聞きながらバッグを持って立ち上がる。奥の方で飲みに行こうと誘われて揉みくちゃにされてる後輩ちゃんが居たが気がつかず、足取り軽く会社を出た。
普段は帰宅ラッシュで電車は座れないのだけど、今日はツイているようで座れた。ラッキーと思い駅につくまで小さく鼻歌を歌い、マンションの最寄りに着いたら降りる。いつも通りの帰路を歩いて立ち止まる。私は上空に広がる星空を見上げながら息を大きく吸った。
「──────いや!あの男の人家に置きっぱなしだからッ!!全然事情聞けてないし無用心すぎるから私ぃッ!!」
ナチュラルに送り出されたからビックリしたわ!今気がついた!めっちゃそのままにして出てきちゃったよ!あれで私を騙してて、今頃部屋のもの全部無くなってましたじゃ笑い話にもならないよ!え、マズくね?ちょーまじくね??は、早く帰らないとっ!
私はここ最近で1番大慌てで帰った。転けそうになりながら見知ったマンションに辿り着き、スピードは変わらないというのにエレベーターのボタンをイッポングランプリの早押し並に押しまくった。チンッと鳴って扉が開くと同時に飛び出して玄関のドアノブに鍵を挿す。ガチャンと手応えがあることにいくらかの安堵を覚えながら開いて──────。
「おかえり。夕飯はできている。……そんなに息切れをしてどうしたんだ。風呂に入ってくるといい。今先ほど沸いたところだ」
「あ、そのっ、えぅ……」
「バッグを持とう。疲れただろう?着替えは置いておくから、早く入ってきてサッパリしてこい」
「アッハイ」
流れるように持っていたバッグを取られ、肩で息をしている私に腕を差し出して支えてくれながらお風呂場まで先導される。お風呂場からは熱気が出ていて、本当にお湯が張ってある。独り暮らしなら面倒くさくてシャワーで終わらせるものなので、張られているのは久しぶりに見た気がした。
肌にワイシャツが張り付いて気持ち悪くて、イソイソと服を脱いで中に入る。少しすると曇りガラスの向こうに大きな人のシルエットが出て、ガサゴソとやると洗濯機をついでに回し、着替えを置いておいたと声を掛けてからお風呂場から出て行った。はふぅ……と疲れをお湯で取り、外に出るとパジャマと下着まで置かれていた。
はぅあっ……と声にならない悲鳴を出しながら身につけて、多分真っ赤になっている顔のままリビングに行くと、ホカホカのご飯が小さなテーブルに用意されていた。チラッと見ると壁につけられたハンガーを掛けられる場所にスーツがある。皺が出ないように掛けてくれていた。
「ちょうど出来上がったところだ。おかわりもある。食べてくれ」
「い、いただきます。……あむ……ぉ、おいひぃ……」
「それは良かった」
晩ご飯は回鍋肉と中華スープ。それと白米だった。もう、ちょうど良い味付けが白米を進ませて、私は上機嫌になって食べた。温かい。美味しい。誰かと一緒に食べられてホッとする。そんな思いが幸せな溜め息と一緒に一粒の涙を流した。シクシクしながらモリモリ食べている私に男の人は頷き、乾いていない私の髪を持ってきたバスタオルで丁寧に拭いてくれた。
優しい手つき。甲斐甲斐しいお世話に、身も心も溶けちゃいそうだった。美味しい美味しいと言って食べていたご飯はあっという間に無くなり、ぱんっと手を合わせてご馳走さまをした。もうね、こんなの毎日出されたらごっつぁんですっ……って感じになっちゃうよ。
あーあー、これはクセになりそう……とか思って天井見上げている私はハッとした。流されすぎる私ってカワイイですか?(チョロい)
「あ、あのっ!」
「……?どうした」
「あなたは誰ですかっ!?」
「聞くのが遅い……」
「はぅっ……」
い、いやまあ確かに遅いけどさぁ?ほら、私もめちゃクソ重いあなたを引き摺って来てさぁ?1日の疲れを取ったら寝ちゃいますやん?仕方ないですやん?あっ、男の人の首に巻き付いてる黒蛇ちゃんから呆れたような心情を検知っ!やめてぇ!おバカな子を見るような目で見ないでぇ!気持ち良くなっちゃう!(キモい)
まあふざけるのはこのくらいにしておいて、割と大切なことなのでしっかりと聞きますっ!って雰囲気を出しながら正座をして座ると、テーブルを挟んだ向こう側に男の人も正座をして座った。姿勢良すぎて笑う。座るだけでも負けてる私って敗北者?新世界行けない?乗り込む船は無い感じですか??
「説明をする前に、俺を助けてくれてありがとう。此処まで俺を連れて来るのに苦労しただろう?」
「え、いやまぁ……」
「こう見えて140㎏以上あるんだ」
「アダマンチウム入れてます??」
「あだま……?よく解らないが、入れていないが……」
「アッハイ。ごめんなさい、分からないこと聞いて」
「いや、構わない。それと、救急車や警察を呼ばなかったことにも感謝している。呼ばれていたらきっと面倒なことになっていた」
「……銃を……持っていたからですか?」
「それもあるが……いや、今はいいか」
それもある……という含みがある言い方が気になるけれど、やっぱり呼ばなくて正解だったみたい。普通に銃を持っていることもあるし、血塗れだったから事情聴取とか面倒くさいだろうしね。
私が偶然通り掛かったんじゃなくて、黒蛇ちゃんに案内されて見つけた事を言うと、そうかと頷いて黒蛇ちゃんの頭を撫でてお礼を言っていた。でかしたとも言っていた。撫でられて嬉しそうに尻尾をフリフリしているのを見てほっこりしながら、男の人のことをもう少し詳しく聞いてみることにした。特に名前だよね。いつまでも男の人って言っているのもおかしいし。
「名乗りが遅れて申し訳ない。俺は
「……っ!こ、こくえんりゅうやさん……ですねっ!ち、ちなみにどういう漢字を?」
心臓が大きく跳ねた。名前を聞いた瞬間ドギンッ……ってした。けどありえない話でもないので適当なメモ用紙とペンを差し出す。それを受け取り、男の人は達筆な時で自身の名前を漢字で書いてくれた。そしてその漢字は……黒圓龍已というものだった。まさかこんな事があるなんて……。
私は心臓がうるさくて仕方ない。あることに対してありえないと頭を振る。勘違いも甚だしい。私は流石にそこまで痛い女じゃない。きっと気のせいだと刷り込む。興奮しているのか、それとも何か別の理由か分からないが息が荒くなる。きっと今の私を見ていて黒圓さんは変な奴だと思っていることだろう。
それにちょっと寂しく思いながら、私は深呼吸をする。けれど、頭に過るのは色々な情報。180センチを超える身長に筋肉質で引き締まっているのに140㎏を超えるという重量。脚に巻いたレッグホルスターと黒い2挺拳銃。絶対に動かない無表情。プロ並みに上手い料理。首に巻き付く黒い蛇。そして……黒圓龍已という名前。
「もう察しているのではないか?」
「な、何をですか……?」
「俺がどういう存在なのか」
「そんな……ことは……」
「いや、もう気づいている。本来ありえない事ではあるが、今回に至ってはありえてしまった。目を背けないで俺を見て欲しい」
頼み込むような声にハッとして顔を上げる。いつの間にか俯かせていた顔をだ。前には正座をしてこちらをジッと見つめる黒圓さん。それと黒蛇ちゃん……いや、
「俺はあなたが書いた二次創作のオリジナル主人公の黒圓龍已だ。
「う、うそ……へへへっ。そんなことはありえないですよぉ……だ、だって黒圓龍已は私が痛い厨二病的なアレの妄想で創り出しただけの……っ!」
「……クロ」
「……けぷっ」
黒圓龍已とは、私が書いている呪術廻戦という漫画の二次創作に於いて、オリジナルの主人公として登場するキャラクターのことだ。厨二病的な妄想で創り上げた、五条悟と同等かそれ以上の強さを持つ、無表情狙撃系キャラだ。過去が重く、それ故に積み重ねられた強さを持つ。
だがそれは所詮、私が書いた二次創作のキャラクターだ。ここは現実。居ることは何があろうとありえない。そんな、漫画のような話があって良いはずがない。そんな思いをぶつけるのだけれど、龍已は信じさせるためにクロに命令した。首に巻き付くクロは口を開けて、到底その中に入りきらない代物を吐き出した。
黒い銃身を持つ……黒圓龍已が唯一持っている狙撃用の武器であり、呪具。
「こ、『
「そうだ。他にも……」
「……けぷっ」
「まさかそのローブって……や、『
「あぁ。俺が黒い死神として使っている、隠蔽に特化した術式を持つ特級呪具だ。俺を助けた時、脚に巻き付けていた呪具は何か分かるか?」
「『黒山』と……『黒龍』……」
「そうだ」
「まさか……そんな……そんなことって……」
私は一体何の夢を見ているのだろうか。いつも通りの日常を送り、いつも通り仕事をしていただけなのに、何がどう狂えば二次創作で書いていた主人公が私の前に居るのだろう。頭の理解が追いつかない。言っている意味は理解出来るのに、何より確かな証拠を見せられているのに、私は理解しきれていない。
本当に本物なのか分からない。手品かも。そんな割と失礼なことを考えながら、恐る恐る手を伸ばす。指先が震えている。歯がカタカタなっている。龍已は動かず、ずっと止まって私を見ているだけ。私の手は、彼の頬に触れた。体温があり、肌の感触がある。親指で頬を撫でると、静かに目を閉じる。
頭の方に手を持っていくと、男の人らしい硬めの髪質。ゆっくり撫でていれば、撫でやすいように頭を下げてくれた。思う存分触れて確かめた私は、倒れ込むように再び座った。信じられないと顔に書いてあるのを自覚しながら、龍已のことを見上げる。
「本当に……」
「特級呪術師の黒圓龍已だ。あなたなら、俺のことを他人の中で誰よりも良く知っているだろう。落ち着いて、話を整理し、飲み込めてからでいい。俺の話を聞いてくれないだろうか」
私は首が取れる勢いで何度も頷いた。私が書いた主人公の黒圓龍已。その相棒のクロが目の前に居る。信じられない超常現象を前にして、私は我が子同然のキャラクターに会えたことに、胸を弾ませていた。
弾むほどの大きな胸は無いけどなッ!!!!
黒圓龍已
呪術廻戦の二次創作に登場するオリジナル主人公であり、それ故に現実には存在しない人間。
クロ
大容量武器庫呪霊。黒圓龍已の相棒であり、女性の前では額にある第三の目を閉じて普通の蛇を演じていた。
女性
呪術廻戦の二次創作で、黒圓龍已を書いて創り上げた人物。未だに信じられないが、信じられる証拠を見せられたので殆ど信じている。それよりも、自身が書いた主人公に会えて感激している。
呪霊が見えるのは、創り出した張本人であるから。そして、一目見て龍已と気がつかなかったのは、龍已の顔を知らなかったから。