呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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短編第█話  助けは暗闇より

 

 

 

 

「──────先輩ッ!今日こそ話を聞かせてもらいますからねっ!」

 

「あら、今日は振り切れたんだ」

 

「やっぱり気づいてたんですね!?」

 

「おっと墓穴」

 

 

 

 まああれだけ話を聞かせてもらうって言っておきながら、私のところに来れない理由なんて周りが放って置いてくれないから以外に理由見当たらんし。というか、毎回押しくら饅頭して人集めてる後輩ちゃんの居場所なんて目を瞑って分かる。騒がしいところがそこだ。

 

 お昼休憩5分前に後輩ちゃんが息を乱してやって来た。おいおい、職場で淫行ですかー?と言わなかっただけ褒めて欲しい。色っぽいのなんのって。一粒の汗が頬から首を通って鎖骨まで流れるところなんて、人によってはご褒美だろう。人によっての部分には、大体の男性が……が入るけど。

 

 絶対に話を聞かせてもらいますっ!と言わんばかりの眼光に、はいはいと観念する。ていうか、何にそんな必死になってるのさ。聞きたい部分についてもよく分からんし。ま、問い掛けてくる質問に答えてあげればいいか。

 

 仕事の話をしてる風で装い、適当に5分を消費するとチャイムが鳴るので昼休憩の時間だ。此処で食べても良いけど、他の人の椅子を使うのは気が引けるので場所を移すことにした。けど後輩ちゃんは毎回食堂なので買ってから移動しよっかって提案したら、どこから取り出したのかコンビニのおにぎりとかが入ってる袋をずいっと見せつけてきた。準備は万端なようですねぇ。

 

 他の人の邪魔をされたくないだろうから、会社から出て食べるかーとなり、歩いて数分の場所にある公設の広場へ赴いた。日向ぼっこしてるおじいちゃんとか居るけど、会社の人達は居ない此処で良いでしょ。空いてるベンチに座りお弁当を広げると、隣に座った後輩ちゃんもおにぎりを取り出した。

 

 

 

「ぉお……匂い的にだし巻き卵かな?きんぴらごぼうと……これは昨日作ってくれた激ウマハンバーグのミニちゃん!へへっ……また会えたねハンバーグちゃん……ふひっ」

 

「……美味しそうですね」

 

「美味し()()じゃなくて、美味しいのよホント!ほら、だし巻き卵1個あげるから食べてみて!」

 

「じ、じゃあ……っ!美味しい……っ」

 

「ねっ、美味しいでしょ!?もー、胃袋掴まれちゃって大変よー。すごい料理上手なんだからー」

 

「……そのお弁当を作ってくれた彼氏さんは……料理人なんですか……?」

 

「彼氏……?」

 

 

 

 きっと朝早くに起きて作ってくれたんだろうお弁当は、もうホントに美味しかった。だし巻き卵なんてもっと食べたい!ってなるからね。白米と合って美味しい!私が白米好きだってバレてますねこれはァ……流石です!

 

 思わずほっぺたをゆるゆるにして食べていると、2口しか食べていない食べてる途中のおにぎりを持った手を膝の上に落として、俯き気味に後輩ちゃんは私のお弁当について言及してきた。確かに私の発言から作ったのが私だとは思わないよね。独り暮らしだってことも話したから知ってるし、なら作ったと考えられるのは彼氏と思っても不思議じゃない。

 

 でも彼氏……彼氏かー……久しく居ない彼氏。高校の頃とか卒業して少しした時には居たけど、別れちゃったしなー。最初は楽しいしドキドキするんだけど、なんか飽きちゃうというか何というか……熱しやすく冷めやすいみたいな?それを相手も感じ取って長続きしないのよ。

 

 後輩ちゃんが言う彼氏枠は龍已だろうね。しかも……ぷっ、料理人とかっ!多才ですぐ極めちゃう性質なのに、自分のご飯作るのに必然的に練度が上がっちゃってるだけなのに料理人に間違えられるとか!本質は冷酷な殺し屋なのに!だけどそのギャップがたまらん!

 

 

 

「彼氏じゃないよー。確かに同棲はしてるけど」

 

「同……棲?なのに彼氏じゃないッ!?」

 

「うん。だって私の従弟(いとこ)だからね。1ヶ月預かってて欲しいって言われてるからさ。その子がまた料理上手でねぇ……私の代わりにご飯作ってくれてるのよ。すっごい助かっちゃう!」

 

「い、いとこ……彼氏じゃないんですね?」

 

「いやいや、違うって」

 

「よ、良かったぁ……そうですよね、先輩に彼氏はできないですよね……(私が嫌ですし)」

 

「なんて事を言うのだ貴様」

 

 

 

 恐ろしいほど速い手刀入れるぞ?……別に今は欲しいと思わないけど、将来的に結婚したりするかも知れないじゃん?なら彼氏だっていつかは作りますぅ。もう26でちょっとは焦りなさいとかお母さんに言われてるけど、独り暮らしは独り暮らしで楽なのよねぇ。今は同棲相手居るがなッ!従弟の龍已君だいちゅき♡

 

 食欲がないのか食べる手が止まってた後輩ちゃんは、なんか食欲を戻したみたいでおにぎりを食べるのを再開させた。ニコニコしながら食べてるし、すっごいご機嫌だ。その顔会社でやったら、こぞって男達が寄ってくるだろうね。ほんと美人だなぁ。ほら、日向ぼっこしてたおじいちゃんがこっち向いて拝んでる。仏の類かな?

 

 モリモリ食べ始めた後輩ちゃんにつられて、私もお弁当を食べ進める。相変わらず美味しい龍已のご飯は毎回いつの間にかって具合で食べ終わる。これでカロリー計算とかもしてくれてるんだから大助かりだ。あとは私が食べ過ぎないようにするだけ。ちょっと無理カナー?美味し過ぎるのも考えものだね!

 

 

 

「先輩。今度、飲みに行きませんか?」

 

「後輩ちゃん私の同期に飲みに行こうって誘われてなかったっけ?そんな連続で行って大丈夫なの?」

 

「大丈夫ですっ!それに、私は先輩と一緒に行きたいですっ!」

 

「そんなに力説するものかね……まあいいよ?日にちはまた後で決めよっか」

 

「はいっ!」

 

 

 

 それじゃあそろそろ戻りますかぁ。話してゆっくりご飯食べてのんびりしてたらいい時間になったし。龍已のお弁当でエネルギー補給したから午後も頑張れるぞぅ!それにしても、後輩ちゃんと飲みに行くなんて久しぶりな気がするな。大体他の人に誘われて渋々行ってるみたいだし。

 

 後輩ちゃん誘うのに忙しくて、私ってあんま誘われないからね。飲みに行く機会なんて自分で設定しないと無いわけよ。けど私ってそんなワイワイガヤガヤが好きじゃないから、態々騒がしいところに行こうとも思わない。だから飲みに行く機会は更に無くなるという。別に行きたいと思わないからいいけども。

 

 午後はまあ特に何かあった訳でもなく、恙無く終わった。後輩ちゃんとは明後日に飲みに行くことになった。お店の予約はしてくれるって話。任せてくださいっ!とまで言われたらお願いしちゃうよね。なんか教えてもらった美味しいところがあるみたいだし。しょっちゅう誘われてるから、そういう情報は後輩ちゃんの方が上だ。

 

 サシでの飲みかーと思いながら電車でスマホを弄って時間を潰し、マンションから最寄りの駅に着いた。改札を通って15分の帰路につこうとすると、黒い長ティーシャツとジーパンっていうラフな格好してる龍已が居た。気配で気づいたみたいで軽く手を上げている。私は一瞬固まったけれど、ハッとして傍に駆け寄った。

 

 

 

「龍已、どうしたの!?」

 

「砂糖と塩、それと卵に鶏肉を切らしたから買い物に行こうと思ったんだが……」

 

「……?あっ、ごめん!お金ね!あーすっかり忘れてた!じゃあ一緒に買いに行こうか!」

 

「疲れているところすまないな。金を渡してくれれば買ってくるが?」

 

「いいのいいの!折角だし一緒に買い物しよー」

 

「了解」

 

 

 

 いやー、すっかり忘れてた。そうだよ、龍已お金持っててもこっちじゃ使えないよね。あっちの世界のお金だもの。多分全く同じものだろうけど、登録番号被っちゃったら偽札みたいになっちゃうし。だから私が居ないと何も買えなかったんだ。もう通帳とか渡しておこうかな。龍已は無駄遣いしないし、クロが呑み込んでおくだろうから盗まれる可能性0だし。あれ?銀行より安全じゃない?

 

 疲れてるなら先に帰ってても良いんだぞって言われたけれど、折角外で龍已と会ったなら一緒に行きたいと思うのが自然だよね。それにスーパーまで途中の道から少し逸れたところにあるだけだし苦じゃない。

 

 2人で並んで歩きながらスーパーを目指す。この道を歩くときは1人だから、誰かと並んで歩くのは新鮮だ。ましてやその相手が龍已ともなると感激で喉が詰まる。182センチの身長に長い足を持つ龍已は歩幅も大きい。けど私の歩く速度に合わせてくれる。こういうところがイイ男なんだよなー。

 

 接して仲良くなれば、黒圓龍已の優しいところが見れてますます好きになる。けど敵対すれば冷酷な部分に触れて死を連想する。真反対な二面性を持つキャラを書きたくて生まれた。けど、その過去は壮絶の一言だ。そしてその過去を作ったのも私。こうやって普通に接してくれるのは嬉しいけど、虐められていたこととか、両親殺されたことについてどう思ってるのかなって思っちゃう。

 

 そんな不安を気配の揺らぎで感じ取ったのか、目敏く龍已が気がついた。そして勘が鋭いので私が何に悩んでいるのか察しちゃうんだ。すごいよね。私何も言ってないし顔にも出してないのに、気配だけで気がついちゃうんだもん。そうして龍已は私の頭を撫でるんだ。労るような優しい手つきで、こちらを安心させる。

 

 

 

「気にしていない。まさか招加も書いた物語が現実となった世界があるとは思わないだろう?確かに悲しい過去もあったが、それについて招加を責めるつもりは無い」

 

「……龍已はそれでいいの?」

 

「良いも悪いも、招加が気にすることでもない。好きなように想像し、好きなように書けばいい。パラレルワールドの事だと思えばいいのではないか?そうすればあらゆる可能性があった世界の1つとして考えられるだろう?罪の意識を持つ必要はない」

 

「龍已は優しいね。皆はそんな龍已が大好きなんだよ。もちろん私もね。……ありがとう」

 

「……どういたしまして」

 

 

 

 本当に気にしていないんだろうな。だからどういたしましてって言うのも違うな……と思ったけれど、私のために言ってくれる。そもそもな話、私のことを怨んでいるならとっくに殺してるだろうしね。けど、そうだなぁ……龍已に殺してもらえるなら私は幸せ者だよなぁ。

 

 私達は黙って歩いた。でもその静かな沈黙は嫌なものじゃない。心地良い。私が頭の奥底で思っていた懸念が消えたことで、より龍已を見る目が素直になれたと思う。龍已が気にしていないことを、私だけが気にしていても困らせるだけだと分かっているから、感謝しつつ気にしないことにする。

 

 そうして歩いてスーパーに着いたら、クロが吐き出した買い物リストを見ながら買い物をした。帰りなんて荷物もクロが呑み込んでくれたお陰で大助かりだ。なんて有能な蛇ちゃんなんでしょう!ありがとうって言いながら頭撫でると嬉しそうにするから、呪霊であることを忘れちゃう。もうっ、ホント良い子!

 

 一緒に帰る途中、私は龍已と手を繋いで帰った。なんだかそうしたい気分だったから。向かう途中のありがとうって気持ちを伝えるのと、私が作った最高のキャラクターと触れ合っていたいという気持ちがあったから。いきなり手を握った私に驚かず、握り返してくれた。それが嬉しくて調子に乗ってスキップしたら、一緒にスキップしてくれた。ぷふっ、無表情の龍已がスキップって面白いよね?だから笑っちゃった。

 

 察しが良いから何に吹き出して笑っているのかバレちゃってデコピンされた。でもコツンって程度だから全然痛くない。メッ、って感じ。ふふって私が笑うと、龍已は微笑ましそうな雰囲気?で私を見る。少しずつだけど彼の雰囲気の違いが判るようになってきた……気がしなくもない……カナ?まだ私は龍已検定低いっす……。あ、ちなみに晩ご飯は私のリクエストで唐揚げにしてもらった!めちゃ美味しかったです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────いいれふか先輩っ。先輩はぁ……もっと私をかまうべきなんです!私はこんなに先輩をだいすきなんですからっ!」

 

「へー、この軟骨の唐揚げ美味しいね」

 

「なのに先輩はぁ、私が他の人に絡まれてもたすけてくれませんしぃ……うぅ……会社でももっといっしょにいたいですっ!」

 

「あ、私ハイボールで。この子は水をジョッキでお願いしまーす」

 

「で、でもですね……先輩がいいなら……ですね……わ、私の家に来ていっしょにっ」

 

「さっき頼んだお刺身来たよ。ほら食べなー」

 

「サーモンおいしいです……」

 

 

 

 後輩ちゃんと約束した飲みに行く日。促されるままにやって来た個室ありの居酒屋で2人で飲んでいる私。後輩ちゃんは酒が弱い。飲み会に連れて行かれるけど、毎回飲まないのだ。飲んだら最後潰れるし、その後お持ち帰りを狙って男達が極上ステーキ前にしたオオカミみたいになって収拾がつかなくなるからだそうだ。

 

 の、クセに私と飲みに来ると私に勧めて自分も飲む。で、1発で酔う。頼んだのは檸檬サワーだ。1杯の半分くらい飲んだらベロベロになってる。頬はほんのりと赤く色づき、とろりとした目は煽情的で、煽っているようにしか見えない。それでテーブルの上にある私の左手に手を伸ばしてずっとにぎにぎしてる。もう離してくんないかな……飽きない?私取り皿持ちながら食べたい派なんですが。

 

 勝手に色々喋っているけど、聞いていなくても聞いていると思ってずっと話しているので違うことを話しても大丈夫。しかも飲んだら殆ど記憶に残っていないから。ヨワヨワのクセに飲むからよ。てか、私の方が酒強いのに同時に飲んだら負けるの分かってるでしょ。まったく……。

 

 

 

「えへへ……先輩の手ぇすきぃ……」

 

「はいはい。じゃ離してねー」

 

「あぁん……」

 

「声抑えろバカタレ。なんつー声出してんだ」

 

「先輩にだったら……きゃっ♡」

 

「うぜぇ……」

 

 

 

 いやんいやんとクネクネしながら頬に手を当ててこっちをチラチラ見てくる。いや何もしないし。何ちょっと期待したような目で見てくるんだか。私がタコワサ食べて呆れた目で見ていると、ムスッとしながら手を差し出してくる。おいまたかよ。どんだけ私の手にご執心なんだいこの後輩ちゃんは。

 

 はぁ……と溜め息を溢しながら取り皿と箸を置いて好きな方の手をどうぞと両手を差し出すと、それぞれの手首を取って後輩ちゃんは自分の胸に押し付けてきた。掌に上着を脱いでワイシャツになった後輩ちゃんのブラと柔らかくてデカい胸の感触が伝わってくる。うん……デカいね。だから何だって話だけど。当てつけかな?

 

 

 

「んっ……ど、どうですか……?先輩……」

 

「でっけーわー。私は持ってないから羨ましいデスネー。はぁ……身長と胸もうちょっと欲しかったな……」

 

「興奮……しますか?」

 

「サイズの違いはあれど同じモンつけてんのに、どうやって興奮しろってんだ」

 

「いっぱい触っていいですよ……?」

 

「満足満足。あ、サラダ頼もっと」

 

「あっ、先輩のいけずぅ……」

 

「めんどくさい……これだから酔っぱらいはよォ……」

 

 

 

 酒クソザコなんだから飲むなっての!胸に押し付ける手を振り払ってテーブルの上に置いてある店のタブレットからサラダを選択して頼む。ついでに新しいハイボールも。後輩ちゃんは……まだ水減ってないからいいか。他には……ミニ炒飯でも頼もうかな。夜なのにたくさん食べるとあれだけど、こういう時くらいはいいよね精神でいく。食べ物にはお金をいくらでも支払うタイプです。

 

 私がタブレットを操作していると、対面に居た後輩ちゃんはまーた頬を膨らませて場所を移動して私の隣にやって来る。んで腕に抱きついてきた。豊満で形までいい胸が私の腕に押し付けられて形をふにゅりと変える。柔らかさまで一級品かよ。彼氏大喜びだな。さぞや行為中ダイナミックダンスすることだろう。ケッ(妬み)。

 

 スリスリして擦り寄っては頬擦りをして、腕を離したかと思えば腰に手をやって抱きついてくる。暑苦しい……あと暑苦しい。そして何と言っても邪魔。引き剥がそうとするとめっちゃ抵抗してくる。子供のイヤイヤ期みたいに首を振って離そうともしない。これは飲み会で酒飲まない訳だわ。つか、他の女達が飲ませないだろう。男が相手なら(まわ)されてるだろうね。おっと、下ネタが多くなると酔ってる証拠だ。危ない危ない。

 

 しっかしよく私に懐くなぁ後輩ちゃん。私は別に特別優しくしてないし、社会人として当たり前のことと仕事のことしか教えてない。仲良い女の同僚は居るだろうし、良くしてくれる女の先輩は他にも居るはず。なのに後輩ちゃんは、よくもまあ私のところに来る。最初のOJTだからかな?刷り込みのカモかよ。チョロいぜ。

 

 

 

「せんぱーい♡」

 

「はいはいなにー」

 

「今日は……いっしょにいたいですー」

 

「さっきも言ってたわ」

 

「私の家にきてくださいよー。おとうさまとぉ……おかあさまに紹介したいですぅ……」

 

「タラちゃんか。てか、なんて紹介するつもり?ただの先輩だよ?」

 

「私が尊敬しててぇ……だーいすきな先輩だって……きゃっ♡」

 

「うぜぇ……」

 

 

 

 てか親のことお父様とお母様って呼んどんのかい!どこのお嬢様だ!けど、実家がお金持ちって噂で聞いたような気がするな。あれ、もしかして超絶美人で金持ちだから男達が我先にってアタックしてんの?欲に素直かよ……。まあ分からないでもないけど。そういや、お持ち帰りされたことないし、必ず迎えが来るってのを聞いた覚えが……確かに前飲んだときも迎え来たな。絶対来るやつか。なら送ること考えなくていいな、ラッキー♡

 

 私的には送っていくのがめんどくさ……ダル……めんどくさいから迎えが来てくれるならありがたい。絶対来てくれるやつなら安心してこのままにできるし、もうベロンベロンにすることもできる。やんないけど。後が絶対めんどくさいし、寝られたら運ぶのがめんどくさい。あれ、さっきからめんどくさいしか言ってないな。それだけ今の後輩ちゃんがめんどくさいってことか。納得。

 

 

 

「先輩……ちゅー」

 

「誰がするか」

 

「むーっ……ちゅーっ!」

 

「はいはいちゅー」

 

「えへへ……」

 

 

 

 言っておくけどしてない。未だに飲み終わってない後輩ちゃんの檸檬サワーのジョッキ表面を押しつけてやっただけ。良かったね後輩ちゃん。キスがレモン味になったよ!冷たくて気持ちいいし一石二鳥だね!だからいい加減腰に回してサワサワしてくる手を退けろ貴様。

 

 適当に相手をしてあげながら、食べたい料理とお酒を頼んで1人満喫する。その間後輩ちゃんは時々スマホを確認してる。お、彼氏か?なわけねーか。どうせ迎えの連絡でもしてるんだろう。あれだけ何度も誘われていれば迎えの連絡をする癖もついているはず。私的には大助かりだ。良くやった!

 

 時間もいい感じになったし、私もお腹いっぱいだしお会計をする。後輩ちゃんは檸檬サワーと刺身2枚ぐらいしか食べてないので私が全額払う。いや、ここまできたら私が食べた分の料金だろ。後輩ちゃんは帰りまで、ずっと私にくっ付いていただけ。何しに来たのだ貴様は。

 

 肩を組んでどうにか店の外に連れ出す。店員さんのありがとうございましたを聞きながら出ると、少し先に黒い車が駐まってた。見覚えがあるのでそっちに行くと、また見覚えがある人が出てくる。私が後輩ちゃんを車のところまで連れて行くと、態々ここまで来ていただきありがとうございましたと言われた。専用の迎えはすげーな。私も送って欲しいもんだ。あ、龍已呼んじゃおっかなー♡

 

 

 

「文創招加様も送るようにと、お嬢様より言いつけられておりますので、どうぞ車へ」

 

「え?いやいやいいですよー。私も迎え(今から呼ぶけど)呼んでますんで、お気になさらず」

 

「そう言わずにどうぞ」

 

「いやいやぁ……」

 

「申し訳ありませんが──────これも命令ですので」

 

「へっ?」

 

 

 

 すぴーっと寝てる後輩ちゃんを後ろに乗せた後、私のことも送るって言うけど、龍已を呼ぶつもりなので大丈夫と断った。夜の空を眼下で眺めながら帰りたいと思ったからだ。でも、車を運転していたであろう黒スーツの人は頭を下げたあと、命令だからと言って軽く手を叩く。そしたら、車から同じ黒スーツの男の人が2人降りてきた。

 

 あっ……と言う暇も無く、私は取り押さえられて車に押し込まれる。車体が長い車で、後輩ちゃんが寝転んでいる後部座席のところは、ちょっとした広い空間になっていた。私を後輩ちゃんの隣に座らせて、向かい合うように黒スーツの男の人が2人座る。運転手はさっさとエンジンを掛けると、出発してしまった。

 

 酔いが冷める。やって来るのは焦り。マズいよねこれ。拉致じゃね?後輩ちゃんの家の関係者だとは思うけど、もしかしたらそれに似て違う誘拐犯かも知れない。ちょっと無用心すぎた。チラリと後輩ちゃんを見ると……寝てやがるコイツっ!頭引っ叩いてやろうか?

 

 どうしよう。割とマジでどうしよう。だって私達のことを見てる黒スーツの人が2人居る。見張りみたいなものだよね。ドアを開けたとしても走ってるから出られない。もしかしたら、内側からじゃ開けられない仕様になってるかもしれない。あれ、詰んだ?

 

 

 

「──────ッ!?」

 

「くッ……急ブレーキを掛けるなっ!お嬢様に何かあったらどうする……っ!」

 

「文創様に怪我は負わせられないんだぞ……っ!」

 

「す、すまん。急に前に人が出てきてな。退く様子が無い。不審な輩だ。対応してくれ」

 

「分かった。俺達が戻るまで鍵は閉めておけよ」

 

「当然だ」

 

 

 

 車が急ブレーキ掛けたことで体が前に飛んでいきそうになる。咄嗟に後輩ちゃんの体を支えてあげると、ニヘラと笑って未だ夢の中。コイツ……っ!はぁ……と溜め息を吐いて運転席の人と会話が出来るように設けられたスライドで開く穴から黒スーツの人達が会話をしている。お嬢様だとか、私に怪我が無いこととか安否を確認してるから、高確率で後輩ちゃんの関係者だろう。

 

 問題は何故私を拉致紛いなことして連れていこうとするのかだけど、何となくさっきの飲みでのある光景を思い出す。スマホを時々弄っていたのを見た。酔った後輩ちゃんはいつもならやらないような甘え方をしていたし、お父様とお母様に会って欲しいとも言っていた。命令ですので……という言葉から、十中八九後輩ちゃんの所為だ。おい貴様、本当に引っ叩いてやろうか?

 

 ほっぺたを抓って伸ばしながら、運転席の方を見れる小さな穴から誰が車の前に出てきたのかチラ見した。そしてそれに血の気が引いた。周りは夜なので暗く、明かりは車のライトだけ。その光を浴びて立っている人物は、全身を黒いフード付きのローブで隠し、顔もローブを深く被って見せない。誰かなんて分かりきったこと……龍已だ。龍已が私を連れ去ったこの人達の前に現れた。まるで、暗闇に紛れて死を届ける、黒い死神のように。

 

 黒スーツの人達2人がドアを開けて外に出てしまった。慌ててドアノブを引っ張って出て、無事であることを教えようと思ったけどやっぱりドアは開かない。窓も開かない。これ絶対マズい。龍已がじゃなくて黒スーツの人達が。勝てる要素なんか0通り越して私を攫おうとした時点でマイナスだ。全身隠しているから、何をしてもバレないと思って()()()()()()()()()()()()()()

 

 止めたい。けどここで龍已の名前は出せないし、良く考えれば私が龍已に頼み込んだら関係者だってバレちゃう。多分、龍已は私を攫おうとしているところを横から掻っ攫われて奪い返しにきた不審者……という立場で事を為すつもりだ。らしくもなく前に出たのは、突然車襲って横転させてしまう確率を下げるためだろう。

 

 

 

「あぁ……どうしよっ!?あっ……デスヨネー」

 

「くッ……あの2人が……ッ!文創様!車から出ないようにお願いしますっ!私が対応して参りますので、どうか!」

 

「あ、うん。(何があろうと絶対勝てないけど)頑張ってクダサイ」

 

 

 

 助手席の方から覗き込んで大人しくしているように言われるけど、そりゃジッとしているしかない。ちなみにだけど、龍已の方へ向かっていった黒スーツの人達は気絶してる。1人はボディーに1発入れられてゲロ撒き散らしながら倒れて、もう1人は頭を掴まれた後持ち上げられて地面に叩きつけられていた。大人を軽々っすか。流石っす。

 

 今向かっていった人は、足払い掛けられて体が地面に付くより先に腹に蹴りを入れられ数メートル飛んでいった後動かない。殺さず気絶させただけだろうけど、絶対に痛い。打撲じゃ済まなそう。倒れた人達に一瞥すらせず、龍已は車の横に来るとドアを開けようとするが鍵が掛かって開かない。

 

 曇りガラスになってて中が見えないからか、手のジェスチャーで離れているように指示を出されたので脇にズレる。すると、龍已は腕を引いたかと思えば貫手で車のドアを貫通させて腕を通した。そしてそのままドアを力技でぶち剥がして投げ捨てる。そんなハルクじゃないんだから……。

 

 

 

「──────お前を攫いに来た」

 

「あ、やっぱり。ん゙んっ……え、えー。こわいなー。たすけてほーしーいー。あ、また明日ね後輩ちゃん」

 

「んうぅ……せんぱーい……」

 

「……元はと言えば誰の所為だと思っとるのだ貴様。最後まで気持ち良さそうに寝こけやがって……」

 

「掴まれ。行くぞ」

 

「うん」

 

 

 

 手を差し伸べてくるので取ると、引き寄せられてお姫様抱っこされちった。きゃっ♡てか?うわうぜぇ……。けど、龍已は壊れ物を扱うように優しく抱き上げると、その場で跳躍して電柱のてっぺんに乗った。私抱えているのになんて跳躍力。絶対防弾仕様だろう車の装甲貫手でぶち抜くし、ドア剥ぎ取るし人知を超えた腕力も流石っす。

 

 けど、車の中とは言えドア1枚無くなった場所に後輩ちゃんと、道路とかに転がってる黒スーツの人達放置して大丈夫かな?って心配したけど、違う黒い車がやって来て、これまた同じ黒スーツの人達が出て来たかと思えば惨状に絶句してた。まあ、見た感じ怪物に荒らされたみたいだもんね。仕方ない。

 

 どうやら3人の内誰かが応援を呼んでいたみたいで心配なさそうだ。龍已と私はバタバタしている人達を少し眺めて、問題無さそうだと分かるとその場を後にした。電柱の上を跳躍して移動して行ったかと思えば空中で止まったので、『黑ノ神』を使ってるみたい。ぐんぐん上に上がって綺麗な眺めを見下ろせる。

 

 もう隠す必要も無いので、手を伸ばしてフードを後ろにやり顔を出す。龍已は横目で私のことをチラリと見ると、攫われているように見えたから何事かと思ったぞと言葉を溢した。いや私の後輩ちゃんが申し訳ない。ホントご迷惑をお掛けしました。謝ったら、無事で良かったと言ってくれた。

 

 

 

「ねぇねぇ龍已」

 

「何だ」

 

「また私がピンチになったら助けに来てくれる?」

 

「当然だ。必ず助けよう」

 

「……へへっ。ありがとうっ!」

 

 

 

 お酒飲んでほろ酔い気分なのをいいことに、私は龍已の首に抱きついて彼の頬に頭をグリグリ押しつけたあと、感謝の気持ちを込めてちゅっと唇を当てるだけのキスを頬にした。龍已はまたチラリと私を見ると、軽々しくそんなことをするんじゃないと窘めながら、私が抱きついたことで少しフリーになった右手で私の頭を撫でてくれた。

 

 今日はお酒飲んだから。それを言い訳に龍已に甘えようかな。ちょっと邪な考えで、それを気配で察知されてるだろうけど、優しいから溜め息を溢しながら許してくれる。私はそれに甘えてベッタリになる。

 

 夜風が頬を撫でて気持ちが良い。眼下の景色が綺麗。私を支える腕や一定の心臓の鼓動が心地良い胸板に、私はうっとりとして彼に寄り掛かる。世界で1番安心できて、安全な場所。今だけは、私のものだ。

 

 

 

「龍已ー?」

 

「何だ」

 

「今度、2人で飲みに行こー?」

 

「構わない。次は攫われないようにな」

 

「私には龍已が居て、助けてくれるから大丈夫ですー。ね、約束だよ」

 

「あぁ。約束だ」

 

 

 

 飲みに行くことか、助けに来てくれることか、どちらの約束かは言っていないけれど、どっちでも、またはどっちの約束も彼なら守ってくれる。頼りになる年上の大人で、可愛くて大好きな私の子。マンションに着いたらおつまみでも作ってもらおっかなーと考えながら、私はまた甘えるように彼に抱き付き、頭を撫でてもらった。

 

 

 

 

 

 

 後輩ちゃんに安否の連絡しとかないと絶対にめんどくさいことになるよね??

 

 

 

 

 

 

 






文創招加

酒の入った後輩ちゃんに甘えられるが基本塩対応。胸を揉んだ感想は、クソッ……私もこんくらい良いモン欲しかった……っ!だけ。別に小さくはない。丁度良い大きさで、確かに美乳。

ほろ酔い気分なのを良いことに、龍已に甘えてベッタリになっている。帰ってからは風呂に入った後おつまみを作ってもらい、お笑い番組を龍已の膝の上で見てる内に寝落ちした。ベッドに運ばれる間龍已の服の裾を離さなかった。

攫われた事にヒヤリとしたが、すぐに龍已が助けに来てくれることを確信した。が、今度は龍已がやり過ぎないかでヒヤヒヤした。でも信じていたので不安は無い。




黒圓龍已

直感で招加に何かがあることを察知し、『黒龍』を使って呪力を推進力にして戦闘機よりも速く移動しながら『呪心定位』で周囲4キロをスキャンして居場所を割り出し、車を襲って招加を奪還した。敵に回したら逃げられない。そもそも走行中の車に走って追いつける。

黒スーツの人達を、最初は攫ったという理由で全身骨折ぐらいには痛めつけてやろうかと思ったが、招加の気配的に望んでいなさそうだったので気絶するだけに留めた。実はちゃっかりと黒スーツの人達の記憶は呪具で消し、車のドライブレコーダーは撃ち壊してある。




後輩ちゃん

実は大金持ちな家の2女。上に姉と兄が居る。会社に入ったのは見聞を広めるためであり、周りが自身の美貌とスタイルしか見ておらず、持て囃してくる中で普通の態度で時には厳しく接してくる招加に懐いた。

酒に弱いのでちょっと飲むと酔っぱらうし、記憶が殆ど欠如する。そのため後からスマホの連絡内容を見て唖然とし、招加が無事か確認しようとしたら、家に着いたから安心していいよー。けど明日みっちり叱ってやるから覚えておけよ貴様。という招加からのメールを見て安堵しながら青ざめ、冷や汗ダラダラ。

迎えに来てくれただろう黒スーツ達の記憶が数ヶ月分ぶっ飛んでるのに首を傾げた。


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