呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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短編第█話  私の知る彼とは

 

 

 

 

「──────ごめんなさい先輩っ!本当にごめんなさいっ!」

 

「あー、いいよいいよ。そっちも色々大変だったでしょ?」

 

「……はい。車が一部壊されていましたし、ドライブレコーダーも粉々……乗っていた人達は記憶が()()()()無いと話していますし、不可思議なことばかりでした。先輩はどうやって家に帰ったんですか?」

 

「私もあんまり記憶無いんだよね。ふと気がついたらスーパーでストロングを……」

 

「まだ飲んだんですか……」

 

 

 

 酔っぱらった後輩の無茶振り誘拐事件の翌日、文創招加(ふみきずしょうか)は昼休憩時に謝罪されていた。朝は一目があるということで昼食を広場で一緒に食べるように約束し、弁当を食べる前に謝罪が入った。申し訳なさそうに頭を深々と下げる後輩に、文創は手をヒラヒラと振って謝罪を受け入れた。

 

 事が事なだけに叱り散らしてやろうと思ったが、朝からその件が頭の中にあったためか、後輩は蒼白い顔色のままフラフラとしており、仕事も失敗を繰り返して慌てて頭を下げていた。時折目が合うと、自殺するんじゃないかと思えるくらい暗い表情になっていて、とてもではないが追い打ちの叱責ができなかった。

 

 だがやらかしはやらかしなので、食堂で先着30名に限定のメロンクリーム入り絶品メロンパンを買ってくるように言いつけた。買って来れなかったら当分は口聞かないと言うと、もう顔面が真っ白になっていた。ちなみに、後輩はそのメロンパンを5個持ってきた。お一人様1つまでなのに。

 

 

 

「しっかし、後輩ちゃんってお金持ちっていう噂本当なんだね」

 

「うっ……」

 

「会社を継いだりとかってないの?まあ、あったらこの会社に入らないかー」

 

「はい……私には兄と姉が居るので、私が会社を継いだりという話はありません。()()()恋愛をして良いとも言われていますので」

 

「そっか。良かったね。後輩ちゃんは努力家だし、真面目だし、性格も良いし、容姿もとびきり良いから、きっと良い相手が見つかるよ」

 

「……私は……その、先輩みたいな人がいいですっ」

 

「私ぃー?それ碌でもなくない?」

 

「そ、そんなことはないですっ!」

 

「えー、そうかなー」

 

 

 

 アワアワしながら懸命に文創の良さを語る後輩に、適当に流しながら会話を楽しむ文創。内心では事件の内容を誤魔化せている事にホッとしている。記憶が無いのを酒の所為にして、あの場の全員が記憶が無いことにした。変に過去を捏造するとボロが出たときが大変なので、周りに合わせた。

 

 謝罪を受け入れ、今度からこういう無理矢理なことはしないように注意し、メロンパンを齧る。流石に1人で5個も食べられないので後輩と一緒に1個ずつ食べ、残りは家に持って帰って龍已にもあげようと考えた。

 

 

 

「今度後輩ちゃんの家にお邪魔するから、今回のようなことは絶対に無し!いいね?」

 

「……ッ!?はいっ!」

 

「次やったらその場でOJT変わるから」

 

「ふぇっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「龍已ー。ただいまー!」

 

「おかえり。仕事お疲れ様。風呂にするか?それとも先に飯か?」

 

「じゃあ間を取って龍已かなぁ……?」

 

「風呂だな」

 

「ふふっ。すぐに入ってきまーす」

 

 

 

 今日も今日とて龍已の居る我が根城へ帰還を果たしました。誰かがおかえりって言ってくれる家って良いね。帰るのがより楽しみになる。私のおふざけにも付き合ってくれるし、作ってくれる料理は絶品だ。野菜の摂取も気を遣ってくれているから、最近体長が良い。一家に一龍已だね。居たら悪人全員殺されちゃうけど。

 

 かれこれ、龍已が来てから1週間が過ぎた。残りは20数日。外に出て買い物はしてるけど、龍已はそれ以外だと家から出ない。多分だけど、別次元の存在が別の世界で影響を与える訳にはいかないと思ってるんだろうね。まあ実際、術式なんていう超能力に分類される力があるし。

 

 自分のこの世界に対する影響力をしっかりと把握してる。言い方を悪くすると、分を弁えてる。私が居ない時に限って黒圓無躰流の型の稽古をしても良いか聞かれた時は流石だなと思ったなぁ。幼い頃からやってるのを今更辞めるなんてことはできないから、一種のルーティンみたいなものだけど。

 

 一日に掻いた汗を風呂で流して化粧を落とす。用意してもらった服に着替えてからは、龍已が作ってくれた絶品料理に舌鼓を打って満足感に浸る。いやはや、もう1週間かーと改めて思う。日にちが経つのがあっという間だ。毎日が楽しくて仕方ない。それもこれも、別次元からの渡航を可能にしている虎徹の呪具に感謝だね。じゃないと私と龍已が実際に出会う事なんてなかった。

 

 やっぱり最初の邂逅は焦ったね。黒い蛇が居るかと思えば、案内された先に龍已が居たんだから!……チリッと、私の頭に何かが過る。それは龍已と初めて会った時の光景。記憶力は普通ぐらいだけど、衝撃的だったから割と鮮明に覚えている。ゴミ箱を背もたれに倒れていた。服は所々裂けていて、血溜まりの中に居た。

 

 

 

「……あれ?おかしくない?」

 

 

 

 今考えてみると、やっぱりおかしい。だって龍已だよ?私が考えたあの黒圓龍已だよ?()()()()()()()()()()()()()()?そして、呪術廻戦の世界で、誰があんな重傷を龍已に負わせられるの?考えても全然思い至らない。年齢からして原作が始まって少しだとは思う。なら、両面宿儺は指数本分の強さ。到底龍已を傷つけられる段階じゃない。

 

 五条悟にやられたのだとしても、傷口の形から無下限じゃない。服の破け具合から切り傷だっただろうし。そもそも遠距離効かないから無下限の『赫』も『蒼』も『茈』すらも通らない。なら一体何と戦ったんだろうか。龍已に重傷を負わせられる奴なんて、私は書いていないし考えてすらいない。触れてはいけないものに触れたような気がして、ゾッとする。

 

 

 

「──────どうした、招加」

 

「な、何でもないよー?明日の仕事めんどくさいなってさ!」

 

「いつも通りではないか」

 

「そんな毎日言ってるっけ?」

 

「口癖のようにな」

 

 

 

 なんだろう、分からない。分からないから怖くなってきた。私が思っているよりも、違う過程を築かれてるような感覚。私が食べた後の晩ご飯の洗い物を洗ってくれている龍已。彼は多くを語らない。特に自分のことに関してはあやふやにするしぼかす。黒い死神としての裏面があるからか、自身の情報を他人に率先して話そうとはしない。

 

 だから割と謎な部分があったりする。教えてくれる情報に関しても、自分からは語らない。聞かれて初めて答えるという形だ。そしてこれは直感だけど、傷だらけだった事に関しては答えない。私にはそれ程関係する話じゃないから語る必要は無いだろう……とか言われそう。

 

 私は確かに黒圓龍已について最もよく知る人物だろうけど、それはキャラクターとしての彼であって生きている彼ではない。内に秘めた考えや感情については知らない。私は何か根本的な思い違いなどをしていないか?今ここにある情報だけで全てを完結させていないか?疑問に思うと止まらない思考。それを遮るように、洗い物を終えた彼が私に手を伸ばした。

 

 

 

「何か考え込んでいるようだが、大丈夫か?」

 

「んー?大丈夫だよ。仕事についてだから。家でも仕事について考えるとか、私は社畜かな?」

 

「習慣化してしまったら中々抜けないだろう。落ち着けるように珈琲でも淹れるか?」

 

「お願いしまーす!」

 

 

 

 できるだけ自然体に接したはず。さっきまであれこれ考えてはみたが、私が知っている情報のスタートは、あの日倒れている龍已を見つけた時点だ。それ以前は恐らくあっちの世界に居ただろうから私が知り得る筈がない。現在私が書いている二次創作は渋谷事変に入る前で終わっている。だからその時間軸から来てるとは思うんだけど、細かな時間軸は分からない。

 

 描写によっては数ヶ月、または数年飛ばしているから、その過程に於いては不明だ。龍已にとってはあっちの世界こそが現実で、飛ばされた過程も毎秒毎秒生きている。コマ送りのように飛ばされてはいない。だから本人に聞けたら1番楽なんだけど、まだ何とも言えない考えだからなぁ。

 

 私のスマホにチラリと視線を落とす。この中には私の趣味全開の、二次創作のデータが入っている。呪術廻戦に落とし込まれたケン、カン、キョウ、虎徹、龍已。彼等というオリジナルキャラクターを軸に二次創作の世界が形成されている。謂わば、主要のオリキャラはこの5人だけで、他には出しておらず、龍已に対抗できるキャラクターは作っていない。

 

 なら、一体誰が龍已にあんな重傷を負わせられたのだろうか。本当に不思議だ。五条悟は多分違う。渋谷事変前の両面宿儺では無理。虎杖では近接戦でも勝てない。伏黒恵では術式反転で式神は無効化され、近接戦でも同じく無理。ワンチャン相性が悪い釘崎が居るけど、近接戦仕掛けても体の一部を盗れるほど善戦はできない。

 

 伏黒甚爾は死んでるし、夜蛾だと傀儡だから術式反転の効果範囲内だ。冥冥の黒鳥術式も、命を縛りとした突進だって遠距離だ。近距離は戦えるけど、龍已には勝てない。乙骨はまあ可能性あるけど、近距離は例の如く無理。術式をコピーできたとしても、天与呪縛ありきの強みだから大した術式じゃない。戦況はひっくり返せない。呪力量でも乙骨の倍以上はある。

 

 使える人全員で領域展開やって、やっと龍已と互角の綱引きができるくらいの練度。となると、そのやり方でいったのかな?けど領域展開しながら術式使えばいい話だし、領域展開後のオーバーヒートは克服しちゃってるから一か八かの賭けになる。そんな分の悪い賭けに出るかな。みんな賢いし。

 

 てか、私は仲間割れするような描写は書いていない。ストックにも貯めてない。だから仲間割れ自体起きるはずがないんだけど……どうなってるんだろうな。ホントに謎だ。それともあれかな、この世界に来た途端に車に跳ねられたとか?通り魔に襲われる人との間に運悪く転移してきたとか?それならワンチャンあるかも。

 

 

 

「珈琲ができたぞ」

 

「ありがとう。……んー、美味しいよ」

 

「それは良かった」

 

「流石だね」

 

「それ程でもない。珈琲メーカーで作っているからな。それより、ここ1週間二次創作を書いている様子は無いが、良いのか?」

 

「あー。確かに書いてないね。忙しいのと龍已に癒してもらって気分が良くてスカーッと寝ちゃうってのもあるかも」

 

「……それなら、ネタの1つとして俺が今のように現実に現れる話でも書いてみたらどうだ?体験しているだけあって、リアリティを追求して書けると思うが」

 

「……確かに。良いかもね!やってみようかな!」

 

 

 

 私は龍已が淹れてくれた珈琲を飲みながら、彼と会話をする。分かることは全然ないから所詮は憶測。もしかしたら考えるだけ無駄だったりするのかもしれない。例えば、私が書いていない部分の日常で、非術師を庇って怪我を負ってしまった時に転移したとか。そんな感じかも。

 

 気になるけど、今ここでうんうん考えてもどうにもならない。どちらにせよ、龍已は悪いことなんてしないし、1ヶ月で元の世界に戻っちゃうんだから、気にするだけ無駄かもね。だから、龍已が提案してくれた二次創作のネタにはちょっと食いついた。

 

 実体験の入った、異世界のキャラクターが現実に現れてどうこうするって番外編は面白いかも。1から考えると大変だけど、今起きていることを書いていけばいいんだから楽と言えば楽かも。私の読者がどういう反応するのか気になるし、書いてみようかな。

 

 珈琲が入ったマグカップをテーブルに置いて、私はスマホで投稿サイトを開き、二次創作のページを開く。龍已に提案されたネタを箇条書きにして書いてみる。意外と私の中でノってるのか、スラスラと書ける。これはまだメモみたいなものだ。下地を作ってから本格的な文を作っていく。ダメそうなネタなら、この時点で上手く書けないのでボツになる。

 

 これなら書いていっても問題無さそうかな。呪いが出てきてどうたらこうたらで、後味悪かったりするのが多い呪術廻戦の話では異色のほのぼのとしたものにしようかな。偶にはそういう話しにしても良いでしょ。可哀想な話ばかりだとつまらなくなりそうだし。

 

 何年もやっている事だから、1回集中すると止まらなくなる。時々珈琲を飲みながら進めている私は気づかなかった。提供してもらったネタで二次創作を作っている私のことを、ジッと見つめている龍已のことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩っ!お疲れ様でした!」

 

「お疲れ様ー。また週明けにね」

 

「はいっ!」

 

 

 

 龍已が来てから3週間が経った。彼が元の世界に帰るまでの残り期間は1週間やそこらだ。これでお別れになるのは寂しいなと思うくらい、彼が居るというのが私の中で当たり前になりつつある。帰ればおかえりと言ってくれて美味しいご飯。甲斐甲斐しいお世話にゆったり夢心地。

 

 今日も恙無く仕事を終わらせて帰路につく。偶に龍已に迎えに来てもらって、眼下の絶景を目に収めながら帰るのも楽しい。今日は普通に歩いて帰りたい気分だからいつものように電車に乗って帰る。残業が少しあったから暗くなった道を歩いていると、会社の最寄り駅が見える。

 

 元々歩いて行ける距離なので見えるというのもおかしな話だけど、今から並べば早くに停車する電車に乗れる。今日は忙しくなるから遅れるって、予め龍已に言ってあるので問題はない。今日の仕事も終わったことに溜め息を溢して、後輩ちゃんと昼を食べている広場を横切る。

 

 だけどこの時、私は広場を横切る時に目の端で何かを捉えた。もしかして不審者?と思ったけれど、何となく違う気がする。暗くなった周りに溶け込もうとしている人の影……私は目を凝らして見ると、私が見ていることを察した人影は少しずつ私の方へ寄ってきた。一応逃げられるように半身になっていると、一定の距離を取った人影は、深く被って顔を隠していた帽子を外して、素顔を私に晒した。

 

 

 

「初めまして──────でいいですか」

 

「その顔……伏黒恵?」

 

「はい。東京都立呪術高等専門学校1年。伏黒恵です」

 

 

 

 この世界での自分の顔の影響力を知っているのか、恵は帽子を深く被って顔を隠していた……と捉えて良いのかな?龍已に続いて呪術廻戦のキャラクターに会えた私は相当にレアな人だろう。てか、私以外に居ないと思う。内心めちゃビックリしてると、3メートル近く距離を取ったまま、恵は話を続けようとした。

 

 けど、その前に1つ私から問い掛けさせてもらう。『黒圓龍已』の名前は知っているか。知っているとしたら大まかな素性を答えられるか。これによって目の前に居る伏黒恵という人物が私の書いた二次創作の世界から来たのかが判る。

 

 私からの問い掛けを受けた恵は首を傾げたけど、すぐに質問の意図を優秀な頭で理解したのか頷き、『黒圓龍已』は知っていると答えた。黒圓先生のことですよね?と言ってから、知っている大まかな情報を開示した。本人から聞いたのだろう身長と見た目からじゃ分からない体重。日々変わる気分。愛用している『黒龍』のこと。術式と天与呪縛など。ここまで当てられれば十分だ。

 

 私は帽子を被り直した恵を連れてベンチに腰掛けた。隣においでって言うと、素直に頷いて座ってくれた。体を斜めにして恵の全体像を見ていく。体をもっとムキムキにすれば、原作のパパ黒になるんだなってなるくらい似てる。あ、恵はパパ黒のこと知らないんだよね。言わないように気をつけないと。

 

 

 

「いやはや、恵もこっちの世界に来てたなんてね!私に接触してきたのは何で?」

 

「俺達は、何故かあなたの存在を感知できます。細かい場所までは分からないですけど、近くに居ると何となくこの人だなって感じで」

 

「へーっ!だから龍已も私が二次創作の作者だって最初から分かってる感じだったんだ!」

 

「……っ。やっぱり黒圓先生はこっちに居たんですね」

 

「うん居るよー?あ、一緒に来る?他にも誰か居るなら連れてきてもいいよ!」

 

「いえ、()()俺だけです。けど、黒圓先生には会えません」

 

「えっ、どうしてよ。恵は小さい頃から会ってるから慕ってるでしょ?津美紀がお姉ちゃんなら、龍已がお兄ちゃんみたいな感じで」

 

「訳があるからです。今日はその訳を話すために接触しました。念のために、俺には手で触れないでください。俺の呪力が移るかも知れません」

 

「え、どしてどして?何があったの?」

 

 

 

 恵は作中ても真面目なキャラクターだ。元気いっぱいの虎杖と、意外とはっちゃける釘崎を窘めつつ弄られるポジションだ。そんな彼が同じベンチに座りながらも、人一人分の間を開けているのは理由があったみたい。嫌われてるのかとお姉さん思っちゃいました。私はまだお姉さんでいいよね?ネ?

 

 内心では疑問符を。表情にも疑問符を浮かべる私は、何で?とストレートに聞いてみた。おっと、表情にも疑問符出ちまってたぜ☆

 あ、喋りづらいかも知れないから、私の名前は教えた。作者っていうのが判っても名前までは分からないと思ったから。

 

 恵は膝の上に手を置いて、その手を強く握り込みながらポツリと話し始めた。私は最初、そんな重要な話だとは思わなかった。いや、真面目な恵が真面目な雰囲気を出しているから重要な話には違いないとは思っていたけれど、彼の口から語られた話は、私の想像を超えていた。

 

 

 

「黒圓先生が文創さんに何て説明したか、大凡判ります。俺達は文創さんに作られたキャラクターだと……その二次創作の世界から来たんだと言ったんですよね」

 

「え、うん。そう……だけど」

 

「実際は違います。俺達はあなたが創り出した世界のキャラクターじゃない。別の……()()二次創作を書いた人物が同じ文創招加でも、内容が少し違う物語を書いていたら……というパラレルワールドでの世界から来たんです。なので、『文創招加』という人物に創られたのは同じでも、厳密にはあなたが創ったキャラクターじゃありません」

 

「そう、だったんだ……」

 

「文創さん。事態は深刻です。黒圓先生はあなたに嘘をついている」

 

「あ、はは……パラレルワールドの私が書いたかどうかのこと?それなら全然問題ないよ!だ、だって殆ど同じなら……」

 

「違う部分は割と大きいですよ。例えば、親父……伏黒甚爾は生きてます。あなたが書いた物語はどうなってますか?」

 

「……死んでる」

 

「黒圓先生は家入先生と交際してません。あなたは?」

 

「高専の頃から……交際してる」

 

「証拠として、親父の写真です」

 

 

 

 恵が見せてくれた彼のスマホには、津美紀の誕生日を祝っている時の写真が映されていた。そこには確かに、成長している津美紀と恵が映りつつ、生きている恵の母親。そして伏黒甚爾の姿があった。私の二次創作では原作通り死んでいる。龍已が殺したんだ。

 

 それに龍已は家入硝子と付き合っていないらしい。私の二次創作では付き合ってる。高専の時に助けてくれた黒い死神の正体が黒圓龍已だと気づいた家入は、クリスマスイブの日のデート終わり、夜景を眺めながらあの時助けられたのは自分で、幼い頃から助けられたのは自分だったことを明かし、告白をして交際をスタートしている。

 

 黒圓龍已が居ることは同じでも、物語の過程は少し違う。それにふと思う。龍已と呪術廻戦の話をするときは、大体が聴きに徹していた。私が~だよね?って聞くと、頷いて肯定するんだ。確か私はパパ黒の事も聞いた。強かったでしょ?見逃してあげようとは思わなかった?と。それに対して、思わなかったと答えた。つまり()()()と認めていた。実際は殺しておらず、死んでいないのに。明確な嘘だ。

 

 家入とは上手くいってる?喧嘩してない?とか、どこまでいってるの?R18は手を付けた事がなくて怖いから書いてないけど、やっぱり気持ちいい?体の相性は?と聞いた時も、上手くいっているし、体の相性も良い。喧嘩なんてしないとも答えた。これも嘘だ。龍已は無駄なことに嘘はつかない。嘘をつくのは()()()()()()()()()()()()()()

 

 恵が言う深刻な状況というのが聞きたくない。なんだかすごく嫌な予感がする。耳を塞ぎたい気持ちなのに、聞かないとダメだという意志に囚われて、震える声で続きを促した。私の顔色が悪いのを見ていた恵だけど、小さく頷いて続きを話した。

 

 

 

「黒圓先生は約1ヶ月で自分は元の世界に戻ると言ったと思いますが、実際には少し違います。元の世界に戻れるのは同じですが、文創さんを連れて戻るつもりです」

 

「な……んで?というより、どうやって?」

 

「ある程度深く関わったキャラクターの誰かと触れ合うことで、一緒に来ることができます。なので、黒圓先生はあなたと一緒に行動し、世話を焼き、日常の1つに自分自身を落とし込み、混ぜ込んでいる。要は無害を装い、刷り込みを行っているんです」

 

「理由……理由は?」

 

「──────あなたを俺達の世界に連れてきた後に殺すためです」

 

「……あはは……嘘でしょ?なんで?そこまでして私を殺す理由は何?だって、殺すつもりなら、すぐに殺せるじゃん!」

 

「……いいえ。()()()()()()殺すことに意味があるんです」

 

「どういうこと……?ごめん、全然理解ができないし、予想もつかない……」

 

「でしょうね。何せ()()()()()()()()()()、より慎重に動いていると思います」

 

「1回失敗してる……?何を……」

 

「辛いと思いますが、これを見てください」

 

 

 

 混乱する私に見せられたのは、動画だった。少し画像が粗く、撮影者の手が震えているからか画面が小刻みに揺れているし、時々大きく揺れたりしている。だけど、光景は見える。そこには、深く絶望した表情で俯いている……恐らくパラレルワールドの世界の私と、そんな私に『黒龍』の銃口を向けて見下ろす龍已の姿だった。

 

 まさか……と思った時には映像は進み……私の頭は吹き飛ばされた。威力が高いからか、私の首から上は完全に消し飛んでいる。頭が無くなった私の体はびくんっ……と痙攣してから倒れ、血の池を作り出す。呆気なく殺された私。そこで画面を閉じた恵は、大丈夫ですか?と声を掛けた。私は荒く息をしていた。心臓がうるさい。なにこれ、本当にどうなってるの?

 

 

 

「これは補助監督さんが撮っていた証明用の動画です。俺達の世界にやって来た作者を殺すと、別世界であった文創招加という人物が呪術廻戦の二次創作の人物であると世界的に上書きされます。そうなると、あなたが物語を創るのに使っているスマホがキーとなって、世界を書き換える端末になります。本当は作者にしか使えず、キャラクターである俺達には触ることすらできません。けど、殺して上書きされると誰でも触れるようになり、誰でも世界を書き換える事が可能となります」

 

「もしかして龍已は……」

 

「はい──────この方法で死んだ昔の親友と、殺された両親を生きていたことにするつもりです。そして同時に世界中の呪詛師を無かったことにし、呪いも何もかもが最初から存在しない世界に変えるつもりなんです」

 

「確かに私の方でも巌斎妃伽と音無慧汰は死んでる……両親も呪詛師に殺された……呪詛師に並々ならない怨念を抱いているし、そもそも呪いが無ければと考えるのもおかしくない……じゃ、じゃあ本当に……?」

 

「……事実です」

 

 

 

 あぁ……神様。こんな事酷すぎるよ。私が丹精込めて創ったキャラクターが、こんなサイコパス染みたことを私の知らないところでやっていたなんて……しかも、ずっと仲良くしてくれていた彼が、私を裏では殺すためだけに仲良くしていたなんて考えたくもない。でも、映像を見ると確かに龍已が殺している。別世界の私を。

 

 

 

 

 

 

 私は龍已に殺されていた別世界の私を自分自身と重ね、恵が見ている前で盛大に嘔吐した。

 

 

 

 

 

 

 






黒圓龍已

別世界の文創招加を殺しているらしい。




文創招加

厳密には直接的な作者ではなく、パラレルワールドの自分が作者。でも同姓同名であり、内容が少し違っているだけでほぼ同じ。彼女の中の二次創作では、伏黒甚爾は死んでいるし家入硝子と龍已は付き合っている。

動揺を隠せない。




伏黒恵

二次創作の世界からやって来たキャラクター。龍已が行ってきた蛮行を文創招加に伝えるためにやって来た。龍已を除いて現実世界にやって来たのは彼だけ。

自身が二次創作のキャラクターであるということは理解しており、現実では有名なので顔がバレないように帽子を被り姿を隠している。



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