呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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短編第█話  離れる彼

 

 

 

 

「──────大丈夫ですか、文創さん」

 

「ゔ……ご、ごめんね恵」

 

「いえ、そうなるのも仕方ないかと」

 

 

 

 広場のベンチから蛇口のところまで急いで移動して、恥じもなく胃の中の物を吐き出した私。酸っぱい胃酸が殆どだけど、嘔吐感云々の前に単純に気分が悪い。そしてその理由は明白だ。

 

 別世界の私を自身と同じとカウントしていいのかは分からないけど、私が考えていた黒圓龍已が秘密裏に私を連れ去り殺そうとしていることに吐き気を催す。そんなことをするようには設定していないし、呪詛師紛いのことはしないはず。けど、実際には私が創り出したキャラじゃなくて、私だけど私じゃない……もう頭の中がいっぱいだ。

 

 恵に見せてもらった動画は確かに龍已で、殺された人は確かに私だった。仕事の帰りに連れて行かれたからなのか、今の私と全く同じ格好をしているだけあって、私もあんな風に殺されるのではというリアリティがある。そしてそれがかなり効果的で、私に死の恐怖を抱かせる。

 

 私1人の命で殉職した親友達が蘇り、世界中から呪いが消え失せ、呪詛師が居なかったことになる。つまり真っ当な世界に変わる。冷徹で冷酷な性格だから、龍已ならやりかねないけど、犠牲にする命が悪性のある人だったならまだしも、特に悪事に手を染めた訳でもない私がターゲットなのだから、本格的に私が考えた龍已とは別物と考えられる。別世界の私はどういう風に龍已を創ったんだろう。

 

 

 

「もう大丈夫……ありがとう」

 

「いえ……」

 

「恵はどうするの?龍已のところに向かう?」

 

「分かって聞いてますよねそれ……俺じゃあ黒圓先生を止められません。実力がかけ離れすぎてます。そもそも俺は相性が悪い」

 

「『虚儚斯譃淵(きょぼうかくえん)』で式神が消えちゃうもんね。なら潜伏してる方が良いか。私はどうすればいい?」

 

「文創さんはこのままいつも通りに過ごしてください。俺の他にもいろんな人達が来るはずです。同時に来る予定だったんですけど、多少時間にズレが生まれてるみたいです。早くて今日の内。遅くて明後日です。少なくとも明日には何人か揃います」

 

「……そっか。龍已のことは……」

 

「俺達の世界に戻ってから考えます。取り敢えずは黒圓先生から文創さんを守るのが先決です。約1ヶ月後に、触れてさえいなければいいので」

 

「分かった。事情を知っちゃった私がいつも通りで居られるかは疑問だけど、頑張るよ」

 

「すいません」

 

「いいのいいの!あ、これ今ある分のお金!そっちの世界のお金は使えないでしょ?使ってよ」

 

「え、こんなにはいただけな──────」

 

「じゃ、遅くなると怪しまれるから帰るね!」

 

「ちょっ……っ!」

 

 

 

 私が財布から取り出した4万円を手にして焦っている恵に背を向けて、会社の最寄り駅へと走った。事情は聞きたいけど、変に遅くなると龍已が確認のために『呪心定位』を放つ可能性がある。そうなると恵のことがバレる。此処から私のマンションまで4キロ以上離れているから、幸いなことに常に『呪心定位』をされているということはないけれど、スキャンされたら1発アウトだ。

 

 話で1本遅れた電車に乗ることになったけれど、残業とかで遅れることはよくあることだから怪しまれはしないだろう。どちらかというと、私の気配に揺らぎが起きれば不審に思うんじゃないかな。気配なんて私には分からないけど、龍已は分かる。その人の善性悪性すらも気配で察知できるんだから、かなりマズい状況かも。

 

 恵が言うには、他にもこっちの世界に来る人が居る。けど今すぐじゃない。早くて今日の内。遅くても明後日には到着する。早い方で考えるのは早計だから、遅く見積もっておこうかな。多分龍已は私の、龍已に対する不信感を気配で察知してどうしたのか聞いてくる筈。でも不信感かどうかまでは判らないと思うから、機嫌が悪いことにしよう。

 

 言い訳としては……帰り道で犬の糞を踏んじゃったとかでも良いかな。アホみたいな言い訳だけど、私らしさが出て良いと思う。さてと、ここから私の戦いが始まる訳だ。私をあっちの世界で殺さないといけない以上、殺しはしない。でも、私が勝手なことをしないように手脚を引き千切るくらいはする。だからバレたらいけない。

 

 何でもできる万能超人。術式範囲は4キロ以上。呪力は過去現在未来に於いて最高量。故にガス欠は無し。身体能力はアスリート選手を赤子レベルに感じさせる超人的。正確な気配察知。驚異的な危機察知能力。鋭い第六感。勘の良さ。慌てない焦らない、かなり冷静な性格。言葉にすると最悪レベルだ。相手にしたくないタイプそのまま。

 

 だから、私が龍已の目的を知っていると勘づかれた時点で、ダルマにされて監禁状態とか有り得る。怖い。いつもなら龍已が居るマンションに帰るのがウキウキしてて楽しみだったのに、今では魔王城にすら感じる。まあもっとも、魔王城に居るのは魔王を殺して代わりに居座るクソバグチートキャラな訳なんですけれども?

 

 

 

「ただいまー」

 

「おかえり。……何かあったのか?」

 

「っ。うん。会社から最寄りに行ってる途中で犬のうんち踏んじゃってさー。広場の蛇口で洗ったんだけど、ヌルッとした感触が最悪……」

 

「……そうか。それは大変だったな」

 

 

 

 ほら、思ったとおりツッコんできた。ヤバすぎでしょ。怖すぎっしょ!バレたら手脚切断の監禁ENDとか割とマジで有り得るから手が震えるのですが?逃げるのは100億%無理なので慎重にいかないとヤバい。離れていたから大丈夫だと思うけど、恵の呪力が体に付いてたらどうしよう。言い逃れできないよ。

 

 けど、そんな私の心配は余所に、この日は何も無かった。龍已から何を言われるでもなく、お風呂に入ってご飯食べて寝た。流石に知りたくもなかったことを知っちゃったからあまり寝つきは良くなかったけど、徹夜するよりはマシって程度には寝れた。

 

 いつもなら寝惚けている頭だけど、今日は朝からしっかりと覚醒している。それに寝れない時に色々と考えていたことを実行に移すつもりだ。明日には恵と他のメンバーが揃う。そして私を5日間守ってくれるだろう。1ヶ月が龍已の居られる限度。それさえ過ぎればどうにでもなる。だから、これは時間稼ぎ。

 

 

 

「龍已。昨日言いそびれちゃったんだけど、いい?」

 

「何だ?」

 

「今日後輩ちゃん……この前の誘拐紛いのことやりかけてた子ね。あの子の家に2泊することになってるんだ」

 

「それは大丈夫なのか?」

 

「あー、あれは酔った勢いでやっちゃったことだから。会社でも死ぬほど謝られたよ。今回のはそのお詫びと、後輩ちゃんの両親から、謝罪を受けて欲しいって話になってさ。ご両親が帰ってくるのが明後日。明日は私をおもてなししたいんだってさ。是非とも泊まって欲しいってことになって……心配なら近くのホテル予約しておく?」

 

「……いや、大丈夫だ。それには及ばない」

 

「心配しなくても大丈夫だって!次変なことしたらOJT変わるし、話してあげないって言ったから。すごいよー?死人みたいな顔色してたからね」

 

「好かれているな」

 

「ま、悪い気はしないかな」

 

 

 

 ごめん後輩ちゃん。ちょっと利用させておくれ。龍已から離れる方法なんてこのくらいしか思いつかない。やろうと思えば『呪心定位』で調べられるから、近くのホテルに泊まり込むという選択肢は取らないと分かっていた。お金がもったいないとも考えているはず。現状、お金事情に関しては龍已にできることがないから。特に敏感になってると思う。真面目な性格なのは変わりないからね。

 

 頷いて納得してくれた龍已は、では何かあればこちらから接触する。それまではいつも通りに過ごしてくれと言われた。これで少なくとも恵以外のメンバーが揃うときに私はフリーだ。最初から龍已とぶつかり合うことはない。皆の殺し合う姿なんて見たくないし、他の人が巻き込まれるなんて考えたくないからさ、私にできるのはこれくらいだ。

 

 後輩ちゃんの両親が早く帰って来れれば明日には帰ってくるからと、ちょっとしたブラフの保険も入れてマンションを出る。最寄り駅に向かって電車に乗り、出発したところで大きく息を吐き出した。何とか上手くいった。下手なホラーよりも怖い時間だった。

 

 スマホを取り出してホテルのサイトを開く。マンションから4キロ以上離れているホテルの予約をしておく。替えの下着とかはさっき龍已が用意してくれた。泊まりなら必要だろうって言って。化粧品も入っててちょっとバッグが重くなってるけど、大丈夫。これからのことを考えるなら大した労力じゃない。

 

 ビジネスホテルに泊まる予約を完了させた私は、今更来た眠気と戦いながら電車で移動して会社に向かう。着くと、私がいつもより多い荷物を持っていることでちょっとだけ視線を集めるけれど、だからと言って不審なものでもないし、皆はそこまで私に興味を持っていないから視線はすぐに外れる。

 

 

 

「先輩!おはようございます!」

 

「おはよう後輩ちゃん」

 

「今日は荷物多めですね。何かあるんですか?」

 

「帰りにちょっとねー。行かないといけないところがあるから、念のための荷物かな」

 

「そうなんですね!あの、それで先輩はいつ頃私の家に……」

 

「あぁ、そうだね。じゃあ、近い内に行かせてもらおうかな」

 

「はい!お待ちしてます!都合の良い日を教えてくださいね、迎えに行きます!」

 

「悪いねー。あ、この前みたいなのは無しね?」

 

「あ、はは……本当にごめんなさい……」

 

「気にしてないって。後輩ちゃんが可愛いから意地悪しただけ!」

 

「もう!先輩ったら!」

 

 

 

 後輩ちゃんといつもの会話をして落ち着く。龍已には後輩ちゃんの家にお邪魔するって言ったけど、本当はビジネスホテル。知ってる人である後輩ちゃんの家に泊まれればそれに越したことはないのだけれど、もし万が一戦闘とかになったら危険だし、呪術廻戦のキャラが傍に居るから目にされたら大事になりかねない。てか、普通に巻き込めない。

 

 あと1週間ちょい。その時間さえ過ぎれば龍已は元の世界へ強制的に帰ることになる。そうすれば、私の安全は保障される。いつもの毎日に戻るわけだ。寂しくないかと言われれば、寂しい。私自身が作ったキャラとは微妙に言えないけれど、オリキャラの龍已と一緒に居られた時間は本物で現実だ。掛け替えのない日常だった。

 

 でも、殺されそうになっているなら話は別。私だって死にたくない。そりゃ変わり映えのない毎日で、時にはつまらなく感じるし、漫画やアニメみたいな事が起きないかなーとか思うことはある。でも、そうやって想像するのが好きで、実際に起きないからこそ焦がれる。そこに楽しみを見出していた。生死を分けるような戦いはご免だ。やるのも、させるのも。

 

 龍已と原作キャラには仲良くして欲しい。できるならば、話し合いで終わらせて欲しいものだ。どっちが勝っても、どっちが負けても私は悲しい。別の世界の私は何をしているんだ。何をどうしたら、龍已が他の一般人を犠牲にするような手に出るんだ。私とは違った設定に弄っているのだろうか。

 

 大好きな黒圓龍已が私の知らないキャラのようになっていてモヤモヤする。そんな何とも言えないモヤを抱きながら仕事に取り組み、定時になったら帰る。でも今日はマンションには帰らない。予約したホテルに行く。けどその前に会社の外の広場に行ってみる。もしかしたら恵が居るかも知れないと考えてだ。

 

 バッグを持って広場に行くと、フードを被った人影が2つ。1つは遠目から見ても長身だと解る。それを見て察した。どうやら私は運が良いみたい。最強のボディーガードがやって来たのだから。本物に会えるというウキウキを隠しきれず、小走りをして近づくと恵らしき人影が頭を下げ、長身の方が片手を上げた。

 

 

 

「お疲れ様です。文創さん」

 

「やっ。僕のことは知ってると思うけど、念のための自己紹介ね!グッドルッキングガイの五条悟だよ。よろしくね」

 

「うおー!生五条悟じゃん!身長190以上は伊達じゃないね!でッか!ねねっ、無限出したまま握手させて!」

 

「良いよー」

 

「ほわー!?全然触れない!無限に遅くなる!不思議で気持ち悪い!」

 

「あはは!ズバッと言うね!」

 

「なんで五条先生は嬉しそうなんですか……」

 

 

 

 握手しようとしても、手が一定以上の距離から先へ進まない。透明の壁があるように例えられるけれど、実際は無限に遅くなっているという原理。五条悟が特級相手でも無傷でいられる、最強たらしめる無下限呪術。作中でもこれを破る方法は限られる。領域展延か領域展開。もしくは天逆鉾か黒縄くらいなものだ。

 

 公式認定の最強。数あるジャンプキャラの中でもとりわけチートな無限。性格以外の全てを持った男として有名な五条悟。龍已と正面からやり合える人物。こういう時は大抵責めるほどでもない遅刻をかます五条であるし、強キャラは遅れてやって来るものだけど、私は大当たりを引いた。まさかこんなに早く会えるとは思わなかった。

 

 これで龍已から私を守ってくれる。そう思うと、ズキリと胸が痛む。これまでの3週間一緒に過ごした私の推しであり、妄想の具現。話すだけで楽しかったのに、今では龍已の手から逃げようとしている。今までの『楽しい』が嘘だったと思うと、やるせない気持ちになってしまう。

 

 (かぶり)を振って頭から嫌な気持ちを弾き出す。悲しいし、やるせないけれど、私は私の命の方が大事だ。何の変哲もない、面白味の欠片もない人生だけど、私には私の生きる道がある。それは誰であろうと犯させやしない。絶対に生き延びる。その為にはまず、逃げないと。

 

 

 

「いきなり頭振ってどうしたの?大丈夫?」

 

「……何かありましたか」

 

「んーん。何でもないよ。さ、行こっか。私はホテルを取り敢えずとってあるからさ。五条と恵も来なよ。お金は私が出すから」

 

「こっちで僕達のお金って使えないんだよね。ごめんねー?その代わりにこの宝石あげるから許して♡」

 

「どんな……クソデカすぎィ。お釣りで家建っちゃう……」

 

「五条先生向こうから何持ってきてるんですか……」

 

 

 

 なんかアホほどデカい宝石渡されたんだけど、これ換金したらとんでもないことになるんじゃない?ホテル代出すだけで見返りがスゴい事になってるんですけど。受け取れないって突き返そうとしても無限で受け取ってくれないし、恵は目を逸らすし……受け取るのこれぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあおやすみー」

 

「おやすみ招加」

 

「おー。寝ろ寝ろ。俺も眠ィ」

 

「オッサンはずっと寝てるだけだろ」

 

 

 

 自身の住むマンションではなく、止まっているホテルで夜を迎えること2回目。伏黒恵が言っていたように、呪術廻戦の世界からキャラは他にもやって来た。恵の父である伏黒甚爾。釘崎野薔薇。七海建人。乙骨憂太。禪院真希。脹相(ちょうそう)。特に脹相は渋谷事変で龍已が他と纏めて殺したと思ったが、別の世界の自分が書いた話なので生き残っているのだろうと、文創は思った。

 

 意外だったのは主人公の虎杖悠仁が来ていないことだった。こういう、所謂イベントには主人公が参加するのは当然だと考えてもおかしくないはず。それを五条達に聞けば、呪術廻戦の世界では少し面倒なことになっていて、虎杖を無闇に動かすことができないのだという。五条が居なくなってしまっているが、信頼できる夜蛾学長や、こっちに来ていない他の皆に頼んでいるそうだ。なので現実の方に来たのは、これで全員だ。

 

 皆で文創の傍に居て備えておきたいからという理由で、文創の部屋の周りはそれぞれが泊まっている。彼女1人にするのは……ということで、特に戦闘能力が高い五条と甚爾が同室になっていた。こんなにキャラ達と出会えるのはスゴいと、テンションが上がる文創。各々が当てられた部屋に入り、就寝につこうとなってから少しのこと、文創は夢の世界から叩き起こされた。

 

 ぐいっと引っ張られて起こされる。何事かと思えば、パジャマ姿の自身を他の部屋に居た筈の者達が全員集まって彼女を囲んでいた。何かから守るような陣形に目を丸くして、人と人との隙間から皆が見ている方向を覗き込む。そして瞠目する。そこには黒いローブを身に纏い、フードで顔を隠しながら『黒龍』を両手に持つ龍已が居たのだ。

 

 部屋に張り詰めた緊張。先頭で対峙しているのは五条。そして並んで甚爾。彼の手にはうっすら見覚えのある武器が握られている。天逆鉾だ。発動中の術式を強制解除する破格の能力を持つ。だがこれは原作でも五条が壊したか隠したかで行方が判らなくなっていた筈。流石の二次創作。存在していたようだ。

 

 

 

「やぁやぁセンパイ。こんなところで会うなんて奇遇だね。どうしたの?」

 

「……お前達。招加を返せ」

 

「無理に決まってンだろ。オマエに渡したら俺達の世界に引き摺り込む」

 

「やらせはしないわよ」

 

「ケッ。そろそろ龍已さんが来る頃だと思ったぜ」

 

「すみませんが、黒圓先生。お引き取りをお願いします。こんなところでリカを出したくない」

 

「俺が引き摺り込む……そうか。そういうことか……招加。事情は聞いているな。俺はそんなことはしない。だから俺の方に来るんだ。お前はそっちに居てはいけない」

 

「龍已……」

 

 

 

 両手の『黒龍』は手放さず、静かに、語りかけるように文創を呼ぶ。一般人である彼女には分からないが、今部屋の中は恐ろしいほどにおどろおどろしい呪いが充満している。乙骨、五条、龍已の凄まじく濃い呪い。彼女に何も影響が無いのは、取り囲んで守っているからだろう。それがなければ精神がおかしくなってしまっていたかも知れない。

 

 そっちに居てはいけない。そう言う龍已に頭を左右に振る。それを言う彼の元にこそ行けない。龍已がこちらの現実世界にやって来てぴったり1ヶ月の日、彼に触れていると呪術廻戦の世界に引き摺り込まれてしまう。そしたら迎えるのは死だ。スマホを取られ、世界の改変が行われてしまう。それは嫌だ。自分が死ぬのも嫌だし、自分の所為で誰かが死ぬのも嫌だ。だから拒否をする。

 

 

 

「頼む。こっちに来てくれ。五条達はお前に嘘をついている。俺はお前を守りに来たんだ」

 

「招加。惑わされないで。恵から動画見せられたでしょ?センパイが平行世界の君を殺すところを」

 

「……うん」

 

「何……?……狡猾だな。そこまでするか」

 

「そうしないと招加を守れないからね」

 

「ものは言いようだな」

 

 

 

 龍已と五条が言い争う。先輩と後輩という立場は変わらず、敵対関係に収まってしまっている。どちらかが動いたら、戦いが勃発する。だが頭数は文創達の方が多い。しかし呪術師のスペックとしては龍已の方が総合的に上回っているだろう。それを察して文創はどうすれば良いのかと悩む。

 

 戦えば龍已の方に分がある。一対多を最も得意としている彼だ。領域展開をしようと彼の方が練度は上。それに加えて領域展開後のオーバーヒートが無い。呪いの総量でも全員分集めても彼の呪いの量には到底及ばない。近接戦では甚爾でも勝てない。遠距離戦になれば勝てる者など呪術界でも居ない。

 

 遠近どちらも極めた超人的呪いの怪物。引き金に掛けられている指が動かなくても、術式を使用して呪いの凶弾は放たれる。物量に任せて五条以外の全員が死んでもおかしくない。文創は少し先の未来に地獄絵図を見た。仲が良い筈の皆で争って欲しくない。だからやめてくれと叫ぼうとして、龍已は足を一歩引いた。

 

 

 

「センパイはこんなところでやらないでしょ。それに、()()センパイじゃあ僕達に勝てないよ」

 

「……………………。」

 

「おら、今日はさっさと帰れ」

 

「お願いします、黒圓先生」

 

「……手段は選ばないということか。ならば、3日後に決着をつけよう。非術師……ましてや別世界の一般人は巻き込めない。此処より南東の港、コンテナが置かれた場所へ全員で来い。これで最後にしよう」

 

「……分かった。決着をつけようか。大丈夫。僕達が勝っても、センパイに不利益は無いはずだから」

 

「……変わってしまったな。お前達は。良くない方向へ」

 

 

 

 悲しげに言う龍已は、『黒龍』をレッグホルスターに納めた。そしてフリーになった両手でフードを外す。中には無表情の寡黙な男の顔が現れる。整った顔立ちに、琥珀色の瞳。日本人らしい黒い髪。いつもの彼のように見えて、文創には泣きそうなほど悲しそうな雰囲気を感じ取った。

 

 咄嗟に待ってと言いそうになったところを、彼女の肩に真希と釘崎が手を置いて制す。唇を噛んで、目を伏せる。平行世界の自分が書いた、自身が考えた龍已とは少し違う龍已。その“少し”という部分が致命的過ぎた。取り返しのつかない状態にある彼に、手を伸ばすことはできない。

 

 1歩。また1歩と後ろに下がっていく龍已。3日後までお別れと考えると悲しい。でも呼び止めることはできない。一緒になることもできない。五条達に守られながら、4日目を迎えなければ自身は殺されてしまう。いくら龍已であろうと死ぬのは嫌だ。だから生きる。生きるためには、龍已とは決別しなければならない。

 

 

 

「招加。……俺は必ずお前を救い出す」

 

「させないよ。招加は僕達が守り通す。センパイには渡さない」

 

「……3日後、港にて会おう。そこで全てを終わらせる」

 

 

 

 龍已は部屋から出た。廊下を進んで姿が皆の視線から外れた瞬間、五条でも気配が感知できなくなる。『闇夜ノ黒衣』の術式を発動させてこの場を去ったのだろう。各々は構えていた武器や手を下ろして一息つく。流石に裏の最強とこんなところで戦うことは皆避けたかった。戦いが始まれば、一体どれだけの人が巻き添えになることか。

 

 フッと体から力が抜ける文創は、ぺたりとその場に座り込む。釘崎が受け止めながら一緒に座り込んでくれて、真希が大丈夫か?と言いながら顔を覗き込む。緊張したのと、部屋の空気に押されて息苦しかっただけと答えて深呼吸をし、早く鼓動を刻む心臓を落ち着かせた。

 

 それにしてもと思う。3日後とは、龍已が現実世界に来てから1ヶ月目の日。何故その日に戦うよう態々設定したのだろう。言っては何だが、自身が目的ならば不意打ちでもして狙ってもおかしくないというのにだ。ブラフだったならばそれまでだが、そんなブラフは使わないタイプの龍已には考えづらい。よく解らないというのが正直なところ。

 

 それに、3日後に会おうと言っても縛りを結んだ訳ではなさそうだ。単なる口約束を守る義理はない。反故にされても仕方ない。だが五条達は3日後に備えて体長を整えておかないとねと、話し合っている。受肉しているとはいえ、唯一の呪霊である脹相はそんな配慮は無用だと言っているが、龍已が指定した場所に行くこと自体は賛成しているようだった。

 

 

 

「何で皆は龍已が指定したところに行こうとしてるの?縛り結んでない……よね?なら逃げた方がいいんじゃ……」

 

「本当ならそうしたいんだけどねぇ。そうも言ってられないんだ」

 

「……?」

 

 

 

 飄々とした五条が、真剣な声色でそう言った。どういうことなのか問おうとしたが、五条が真希と釘崎を左右に退けて手を伸ばす。指先が額に触れると、突然眠気が襲ってくる。瞼を開けておこうとしても、意思に反して閉じていく。数秒後、文創は皆に見守られながら静かに眠った。

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ。招加は誰にも渡さない。必ず僕達が守るからさ」

 

 

 

 

 

 







文創招加

呪術廻戦の世界からやって来たキャラ達に守られている。やはり龍已にはすぐにバレると思ったが、来れるメンバーが全員集まったことに安堵している。しかし本当に龍已が敵となっていることに悲しみが心に巣くう。



呪術廻戦世界のメンバー

最終的に集まったのは五条悟。伏黒甚爾。七海建人。伏黒恵。釘崎野薔薇。禪院真希。乙骨憂太。脹相。この者達で黒圓龍已を相手にしなければならない。




黒圓龍已

大丈夫だろうかと心配になり、『呪心定位』を使ったところ文創の傍に五条と甚爾が居たため急いでホテルの方にやって来た。本来ならばすぐに取り返すだろうはずが、一時撤退。3日後に決着をつけることを誓った。


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