呪術廻戦───黒い死神───   作:キャラメル太郎

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短編第█話  闇夜に縋る

 

 

 

 腰が痛い。酔っぱらって床で寝たまま次の日を迎えて起きた時みたいな感覚に襲われる。目を開けても、辺りは暗い。殆ど見えない。起きたばかりの頭でぼんやりと考える。なんでこんなくらいところに居るのかと。でも、忘れてはならないと頭が理解しているから、眠る前の記憶がフラッシュバックする。

 

 そうだ。私は五条悟に眠らされたんだ。狂ってしまっていると思わされていた龍已が、本当は正常で私のことを守ろうとしていてくれて、助けに来たと言っていた恵や五条悟達が狂っていた。私を殺して、世界を改変するために現実世界へやって来た。

 

 何もかもを明かされた。最初から私が狙いで、邪魔な龍已から遠ざけるために嘘をついて、動画にまで細工をしていたこと。悲しいけれど、そんな手にまんまと引っかかって、龍已を信じ切れなかった自分が憎い。なんて嫌な奴なんだろう。自己嫌悪に苛まれている私は思い出す。此処は何処なのか。何が起きているのか。

 

 

 

「──────起きたか……?」

 

「この声……龍已!?」

 

「声は……抑えてくれ。場所がバレてしまう……」

 

「ご、ごめん……あと……それと……ご、ごめんなさい」

 

「謝る必要などない。全てを話さなかった、俺が悪い」

 

「違うよ……龍已を信じなかった私だよ……。ねぇ、此処はどこなの?戦いはどうなったの?」

 

「戦いは終わっていない。どうにか招加を奪い返し、逃げてきた。見つかるのも時間の問題だろう」

 

「……ねぇ。なんで、龍已の声はそんなに震えてるの?大怪我してるんじゃないの……?」

 

「気にするな……相手が悪いだけだ……」

 

 

 

 私達の声が少し反響しているから、多分そこまで大きくない鉄造りの物の中に居るんだろう。でも、話している龍已の声が震えているのが分かる。彼が声を震わせる理由なんて今は1つしか考えられない。私を奪い返したと言ったけれど、状況的に絶望的なのは容易に想像がつく。きっと、その所為で大怪我を負ったんだ。

 

 固いところで寝ていた弊害で痛めた腰を気にしないフリをして蹌踉めきながら立ち上がり、私は手を前に出してよたよたとしながら声がした方へ歩く。爪先に何か触れて、手の位置を下げればカサついた髪の毛らしきものに触れた。ところどころカピカピになっている。龍已の髪だと分かると、その場に腰を下ろす。

 

 肩に触れる。そのまま伝うように腕に振れようと思ったら、触れられなかった。私の手は虚空を撫でたんだ。肩から辿っても、腕には触れられない。途中で先が無くなっている。私はきっと顔を青ざめさせているだろう。なんとなく判る。龍已の右腕が、肩から無くなっているということが。

 

 

 

「り、龍已……腕が……っ!?」

 

「少し……無茶をし過ぎたようだ……」

 

「ぁ……虎徹から渡されてる反転術式の効果がある呪具は!?」

 

「もう……使った。残りは……無い」

 

「わ、私がスマホで龍已の弱体化を解いてあげる!そうすれば……っ!」

 

「俺を弱体化させたスマホは……別次元の文創招加の物だ……それにそのスマホは……俺達の世界にある……どうしようもない。例え、招加が今スマホを使っても……何の影響も無い」

 

「なんで……なんでよぉ……なんでこんな事に……っ」

 

「巻き込んでしまって……すまない。今の俺では……守り抜くことが……難しい。だから……時間稼ぎに徹底しよう」

 

「時間稼ぎ……?今何時なの……!?」

 

 

 

 私は慌ててポケットの中に入っていたスマホを取り出して電源をつける。ホーム画面に映し出された大きな時刻には、23:24の数字があった。現実世界へ来た龍已は、午前0時を以て元の世界へ戻る。つまり、私を守る人が居なくなることを意味する。それにゾッとしていると、龍已が補足説明をしてくれた。

 

 戻るのは、龍已だけではないらしい。あちら側の世界から1人でもこの世界に来たならば、その時点で強制帰還までのタイムリミットは計られている。つまり、五条達や恵達も、龍已と同じタイミングで帰ることになる。だから龍已はその時間まで粘るつもりなんだ。

 

 けれど、それが無理な事なんて私にはよく解る。冷たい鉄の床に、生温かい何かがある。水よりも粘度があって絡み付くような肌触り、そして鉄のような臭い。座り込んだときにびしゃりと音が立つくらいの量がある。これは全てきっと、龍已の血だ。暗くて殆ど見えないけれど、腕を失っているものとは他に大怪我をしているはずだ。

 

 しかも、今の龍已は別世界の私の手によって凄まじいまでの弱体化を食らっている。素の力でも彼等には勝てないし、弱りきっている龍已には、黒圓無躰流も殆ど扱えないだろう。そんなの、格好の的じゃないか。行かせたら死ぬ。彼を死なせないために引き留めようとする私の手を、彼は震えながらも優しく残った方の手で包み込んだ。

 

 

 

「大丈夫だ……心配するな。招加は死なせない。これからも、これまで通り生きていける。そうなるし、そうしてみせよう」

 

「行かないで……お願い」

 

「この招加と過ごした日々は……楽しかった。ありがとう。そして……さようなら」

 

「ダメだよ……死んじゃうよ……ッ!!」

 

「招加の為に死ねるなら、本望だ。此処から出るなよ。必ず、午前0時までは大人しくしておいてくれ」

 

「いや……嫌っ!お願い龍──────」

 

 

 

 私達が居たのはコンテナだった。立ち上がった龍已が扉を開けて外へ出て行く。外も暗いが、中よりはマシな明るさがある。その明るさで今の龍已の体の状態が見えた。右腕が無く、胴には深い裂傷が幾つも刻まれ、太腿の肉は大きく抉れている。歩くことも儘ならない様子で、片脚を庇った歩き方をしていた。

 

 顔は血塗れで、髪の毛も黒髪とは別の赤黒いものがべったりと付着している。顔色は真っ青で、なのに無表情は変わらない。こちらを見る琥珀色の瞳には殆ど光が無く、死に体だった。行けば死ぬのが解っているのに、彼は私のために時間を稼いでくると言う。

 

 嫌だと言って縋り付こうとするけれど、無情にも扉は閉められてしまった。中からは開けられるだろう。でも、私には開けられなかった。開けて出れば、彼の覚悟を無駄にすることになる。行かないでと、一緒に居てと言いたいけれど言えない。私は無力感に襲われながら、龍已の流した大量の血の中で泣くしかなかった。

 

 

 

 ──────それだけで終わらせるつもりなんてない。

 

 

 

「……許さない。私を殺そうとしたのはいい。騙したのもいい。でも──────龍已を殺そうとしていることは、何があろうと許さない」

 

 

 

 私は龍已の血に塗れた手をポケットの中に入れて自分のスマホを取り出す。ずっと使っている型落ちのスマホ。落っことして画面が割れてしまっているそれは、長年私が愛用しているものだ。これまでの二次創作は全てこのスマホで創ってきた。龍已達の世界でマスターキーになるというこのスマホを起動して、小説投稿サイトを開く。

 

 もう私が書いた二次創作は使えない。軌道修正ができないくらいの話の出来になっているから。だから私が今から書くのは短編。本編に関係あるけれどOVEみたいなもの。この世界を使って五条悟達に目に物見せてやる。

 

 ……これが無駄な事かも知れないことは解っている。いや、目に物見せてやると息巻いているけれど、やっていることは無駄だろう。だって、彼等は私が書いた物語から来たわけじゃない。厳密には平行世界の私が書いた世界の彼等だ。私がどうこうできる存在じゃないし、私が必死こいて物語を書いても、現実に影響出るわけじゃない。

 

 天切虎徹の呪具で、彼等はこちらの世界に渡ってきたのだ。私が召喚したんじゃない。でも、私にできるのはこれだけだから。悲しくて悔しいけれど、このコンテナの中でできるのは、奇跡に縋って物語を書くだけ。そうしていないと、気が狂いそうになるから。

 

 私は縋る。創った存在に。妄想の産物に。私の希望に。呪詛師の絶望に。暗闇より来る闇夜に。平行世界を合わせた中でも、最強の彼に。

 

 

 

 ──────『黒き怨念の怪物は、闇夜より出ずる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────ごめんね、センパイ。今はゆっくり休んでよ。あ、けど招加の居場所だけは教えてくれる。時間も残り少ないしさ?」

 

「………………────────────。」

 

「あ、死んじゃった」

 

 

 

 平行世界よりやって来た黒圓龍已は、血溜まりの中で息絶えた。彼の周りには彼の血を浴びた一行が居る。弱体化し、天敵の術式、天敵の呪具がある戦いではさしもの彼でも戦いを有利に進めることができなかった。

 

 建物の壁に背を預けて、項垂れている龍已の頭からは血が流れている。残る左腕は使い古した雑巾のように捻れ、トレードマークと言ってもいい『黒龍』は持ち主と違って傷一つ無い。だが血溜まりの地面に落とされていた。

 

 辺りに充満する、濃い血の臭い。生命活動を停止した黒圓龍已はもう動かない。死体と成り果てた彼の前で、五条は事も無げに死んでしまったことを確認した。自分達が元の世界へ強制的に戻されるまで猶予はそこまでない。しかし招加を見つけるのはきっと大丈夫だ。

 

 超人である甚爾と真希の鼻ならば、龍已が通った道の匂いを嗅ぎ分けて、必ずや目的の場所へやって来るだろう。最後の悪足掻きだったのか、生き残ることを捨てたために龍已の戦いは死にかけとは思えないほど激しいものだった。誰も彼の後ろへ抜けることが叶わなかった。

 

 もの言わぬ死体を冷たく見下ろした五条が振り返り、皆に声を掛ける。甚爾と真希がメインとなって招加を探すように指示を飛ばしたのだ。しかし、彼等はすぐさま戦闘態勢に入った。振り返っていた五条は掌印を組みながら体の向きを反転させた。

 

 

 

「──────()()が穴あきで曖昧だな。それに、自身の死体を見るのは複雑だ」

 

「……君、何者?なんでセンパイの姿してるの?」

 

「何者?──────俺は正真正銘、黒()龍已だ。ただし、お前達の知る黒圓龍已ではない」

 

 

 

 死んだ黒圓龍已の死体の傍に腰を下ろし、閉じられていない瞼を静かに下ろすのは、今先ほど殺したばかりの龍已その人だった。が、雰囲気が違った。気配や持ちうる術式から、黒圓龍已本人であることは間違いないことを五条は六眼で看破していた。しかし黒圓は黒圓でも、彼は()()()()()怨の一族。その最終継承者だ。

 

 1度死に、地獄へ堕ちて刑罰を受けながら適応してしまうという異例を示し、地獄でなお足掻く呪詛師の希望を砕き、罰を与える地獄の鬼神の懐刀。刑罰執行者。異世界より無理矢理召喚された、怨念の怪物。

 

 彼の何もかもを知っているのに、全く知らない雰囲気。纏う呪い。五条達は警戒した。自身は龍已だと名乗る彼が本当に彼なのか判別できないからだ。しかし五条が本人だと補足することで、多少の驚きを露わにした。

 

 他の世界の黒怨龍已が現れた。その現象は不可能とは言えない。現に自分達も別の次元から現れているのだから。だが、今目の前に居る龍已がどうやってこの場にやって来たのかは判らない。同じように虎徹の呪具で来たのならばそれまでだが、どうやら事のいきさつを知っている様子。となればどうしてかは判明しない。本人に直接聞くしかないのだ。

 

 だが、龍已は呪術師だ。自身の情報をおいそれと開示しない。特に敵には絶対に明かさない。自分達の知る龍已を殺した自分達が敵と定められているのは容易に判る。黒怨となった龍已は既に、両手に『黒龍』を持っているから。

 

『黒龍』を持っている以上、掌印を組むことはできない。少なくとも銃を手放さないとならないのだ。距離はギリギリだが射程範囲内。五条は右手で掌印を組みながら呪力を練り上げ、領域を構築した。周りにも恵達が居るが、得体の知れない龍已の撃破を優先させる。勘で設定する0.3秒の刹那的領域展開。

 

 

 

「『無量空──────」

 

 

 

「──────残念だ。この手でお前達を殺す時が来るとは」

 

 

 

「──────は?」

 

 

 

 目前に居た龍已は消えていた。消えて、五条達の背後に現れていた。『黒龍』から血が滴っている。誰の血かなんてものは聞かなくても判るだろう。龍已のものではなく、敵は五条達しかいない。そして五条はまだ傷を負っていない。というよりも()()()()()()()()だけ。つまり、その血は五条以外の者達のものである。

 

 領域の範囲内だったにも関わらず、発動しきる前に接近した挙げ句、擦れ違い様に恵。釘崎、七海、脹相、真希、甚爾が殺された。それに甚爾が持っていた天逆鉾(あまのさかほこ)は粉々に砕かれている。それぞれの頭が吹き飛んでいる。殴られて潰れていたり、首から上が消し飛んでいたり、中には上半身ごと消し飛んでいた。

 

 五条以外の全員が全滅。瞬きをするような一瞬の出来事だった。五条の知る龍已は確かに強い。特級呪術師であり、裏の最強とまで謳われていたから。しかし、これは違う。この強さはおかしい。こんな龍已は知らない。強い。強すぎる。六眼でいくら見ても、龍已であることは変わらない。同じ術式。同じ存在。違うのは……全身より放たれる呪いを超えた怨念だった。

 

 

 

「一般人にも手を出し、殺したそうだな。文創招加……だったか。別世界の文創招加であろうと殺したのだろう?恋人関係にまでなっておきながら裏切り、嗤い、殺した。そういった存在を呪術界ではなんと言うか知っているか?」

 

「……っ!」

 

「──────呪詛師だ。五条悟。お前を逃がすことはない。残り少ない時間の中で、お前も殺す。慈悲は無い。精々……一般人に手を出すほど狂った自身のことを、死して悔い改めろ」

 

「……僕は死なない。元の世界でやらなくちゃならないことがあるんだからねッ!!」

 

「お前の最強(無限)を毟り取り、お前を引き摺り出して殺す。これは決定事項だ」

 

 

 

 呪術師最強と一族最強が別の世界、別の存在としてぶつかり合う。残る時間は残されていない。五条の野望の達成は絶望的だろう。しかし殺し合わねばならない。相手は逃がすつもりがなく、殺すまで殺しに掛かってくる怪物だからだ。

 

 無限と怨念の怪物の戦いは一瞬だった。一瞬に感じる時間の中で、濃密な時間を過ごした。破滅的呪いがぶつかり合いながらも、周りに甚大な被害は出なかった。それよりも早く、怨念の怪物が無限を千切り、呪術師最強の命を刈り取った。

 

 

 

「地獄に()き、罪を償うといい。そちらの鬼灯様によろしくと言っておいてくれ。五条悟」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はいつも通りの生活に戻った。呪いなんて無い世界で、呪霊に襲われることもなく、呪詛師に命を狙われることもない。朝起きて、会社に行って、何故か矢鱈と私への好感度が高い後輩の相手をして、定時になったら家に帰るだけの日々。劇的な日常を送っていただけに、今の私はつまらなく感じる。

 

 劇的で激動な日は少ない。1ヶ月の殆どはのどかな生活を送っていた。優しくて強い彼との生活は楽しかったし充実していた。あの時が人生の中で1番生き生きとしていたかも知れない。

 

 憎いという気持ちと怒り、そして不甲斐なさから訳も解らず兎に角我武者羅に短編の小説を書き上げた時、私の前に龍已が現れた。同じかと思われた彼は、別世界の彼だった。平行世界の中でもとりわけ強く最強の黒圓龍已を呼び出して召喚していた。

 

 何で召喚できたのかは未だに謎だ。呪術廻戦の世界でスマホを使ったならばまだ分かるけれど、現実世界でスマホを使っても、ただ短編の小説を書いただけのはず。戦いが終わり、私の元に戻ってきた別世界の龍已にも分からないと言われたけれど、推測は話された。

 

 

 

『別の世界の俺が流した血に塗れながらスマホを操作し、小説を書き上げただろう。間接的に膨大な呪いを込めて小説を書き上げたことにより呪物化するように物語自体に効力が宿ったのではないか?それしか考えられん。この線も奇跡に近いと思うがな。この場に虎徹が居れば解明してくれるのだろうが、無いもの強請りはやめ、それで納得しておけ』

 

 

 

『それと、別の世界から五条達が来ることは未来永劫無い。その部分については安心するといい』

 

 

 

 私に呪力は無いけれど、膨大な呪力を持っていた龍已の血を浴びた手でスマホを操作したから、呪物のようになって書いた物語が影響して別の世界の龍已が召喚できた……という事にしておくことにした。確かに虎徹だったらそこら辺の細かい理由も解明させることができるのかも知れないけれど、居ないからどうしようもない。

 

 もう別の世界の誰かを召喚することは、私にはできない。あの時の奇跡は1度だけ。それにもう、別の世界から誰かが来るのも来させるのもこりごりだ。こんな経験は1度だってしなくていい。精神的な疲労がすごいし……。

 

 召喚しちゃった龍已は、直接的な言葉では言ってないけれど、五条達を全員殺したんだと思う。じゃないと親しい友人達を蘇らせるためにまた同じようなことを繰り返すだろうから。なのに未来永劫とまで言っているんだから、きっと殺してしまったんだろう。

 

 呪詛師は何があろうと絶対に殺す彼のことだ。例え知っている人達の顔を見ても躊躇ったりしないのだろう。そういうイカレた思考を持っている。少ししか接してないけれど、彼からもまた優しさを感じた。どの世界の龍已も、やっぱり優しい。あの温かさに触れて、まだ余韻が残っている私は、知らず知らずの内にホロリと一滴の涙を流した。

 

 

 

「先輩!今日もお疲れ様でした!……あれ?もしかして先輩泣いて──────」

 

「後輩ちゃん、お疲れー。また休み明けにねー」

 

「えっ、ちょ……っ!先輩!」

 

「今度また飲みに行こうね?」

 

「やったー!」

 

「……チョロい」

 

 

 

 危ない危ない。つい流れちゃった涙を見られちゃうところだった。まあ後輩ちゃんならいくらでも誤魔化しが効くから大丈夫でしょ。現にもう忘れてるっぽいし。そんなに私と飲みに行けるのが嬉しいかね。もっと誰かと行ってワイワイしてくればいいのに。

 

 とか言ってるけど、後輩ちゃんは本当に良い子だ。あの戦いからもう1ヶ月が経過し、最初の頃なんて燃え尽きたように何も手がつかなかった。何もやりたくないし、何をしてもダメだった。仕事は失敗続きで、それについて怒られても反省しようという考えに至らない。もう身投げする勢いだった。

 

 でもそこで後輩ちゃんが懸命に私のフォローをしてくれた。私のミスなのに一緒に謝ってくれたり、私が遅くに帰ることになると同じ時間まで残って仕事を手伝ってくれた。元気づけるためにご飯を一緒に食べてくれて、体調を崩せば仕事で疲れているだろうに帰りに家に寄ってお見舞いに来てくれた。

 

 本当に良い子だ。こんな子が後輩で居てくれて私は幸せだと思う。付きっきりで相手をさせちゃったから、他の後輩ちゃん狙いの人達からはよく睨まれるようになっちゃったけど、今はその睨みに優越感を感じるようになった。今度家に誘ってお泊まりパーティーでもしようかなと考えてるくらいには、後輩ちゃんとの仲は良好だと思う。

 

 私は上を見上げる。太陽が沈み、星が輝く夜の空。呪いもなく、怨念もないこの世界。あれ程濃い日常を送ったというのに、もう懲りたとすら思っているのに、あの人が帰ってくるなら、多少の苦を味わっても良いとすら考えてしまう。あーあ。最後にお別れの言葉くらい言いたかったな。

 

 後味が悪くて、終わりにするには物足りず、モヤモヤして喉に何か引っかかるような感触。でもこの感じは私らしい終わり方だ。私のこの人生が小説なら、きっと面白い要素なんて大して存在しないだろう。けれど、私はその中で確かに生きている。私は私の人生を送り、全うする。

 

 だからさ……龍已。これから先色々な経験を得て、歳を取って死んだ時には、また私に会ってくれる?頑張ったなって褒めてくれる?そんな淡い期待を抱いても良いのかな。

 

 

 

 

 

 

 返事はない。それでも私は、満足げに微笑みながら我が家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────気をつけておけ。この世に絶対はありえない。気軽に読んでいる物語が、現実に重なってこないとは言い切れない。物語には、その物語で生きる者達それぞれに人生という物語がある。さて、ではここで1つ問おう。お前の物語(人生)はどんな物語だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






呪術廻戦世界の者達

パラレルワールドの文創招加が描いた二次創作の世界の住人であり、原作組。失った者達を蘇らせることができるという希望が狂気を孕ませ、『本来とは違う』という二次創作の側面の影響も受けたことにより一般人にすら呪いを向けるようになってしまった。

生き残りは居らず、別次元より召喚された、あらゆる黒圓龍已の中でも最強の存在である黒怨龍已が召喚され、殺された。




黒圓龍已

目的を全うすることができた。どれだけ弱体化されようと、どれだけ戦力差を見せつけられ痛めつけられようと、己のやるべきことをやった男。心残りは、ちゃんとお別れの言葉を口にできなかったこと。




文創招加

戦いが終わって1ヶ月は燃え尽きたように何も手がつかなかった。しかし会社の後輩のお陰で元の生活を送ることができるようになった。少しずつ笑みも浮かべられるようになり、激動の日常を送ったからか一皮剥け、男性から食事の誘いを受けるようになった。

しかしそれらの誘いは受けず、後輩のことを優先するようになった。傍に居ると落ち着くし、頼れる後輩。きっとこれからも大切にする。




後輩ちゃん

健気な美人。弱っているところにつけ込もうとという考えは抱かず、単純に心配だからという理由で甲斐甲斐しく招加の面倒を見てフォローなどをした。その甲斐あってか、自分を優先してくれるようになったので毎日が幸せ。




黒怨龍已

あらゆる次元の中でも最強の黒圓龍已。その強さは計り知れず、死後地獄に堕とされながら刑罰を克服し、地獄のNo.2に君臨する鬼神の1番の直属な部下となり、日々呪詛師を嬲り殺している。

そうした日々を送り、全力で戦える環境が更なる成長を見せ、生前よりも怨念は増大し、技のキレは増すばかり。地獄に住む怨念の怪物。


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