「──────は?」
「いや、いやいやいやいや。冗談キツいって虎徹」
「流石にその手の話は怒るぞ」
「……信じなくても結果は変わらないよ──────」
──────龍已は死んだ。3日前に、ね。
「……嘘だ」
「……龍已が……俺達の龍已が死ぬわけがねぇ」
「……ふざけんな。ふざけんなよ!?龍已だぞ!?俺達の親友の、あの龍已だぞ!?誰にも負けないくらい強いアイツが、何で死ぬんだよ!?」
「……最近あったことを、包み隠さず話すよ。非術師の君達だけど、龍已の親友である君達には知る権利がある」
呪術師と黒怨龍已の最終決戦が終結してから3日後。どうしても話をしたいという虎徹の連絡を受けて、仕事を急遽休んでまで地元に帰って集合したケン、カン、キョウ。どこか食べに行くかと提案するも、何時になく真剣な虎徹が自分の屋敷へ招待した。
親友の大豪邸は勝手知ったるもの。歳を重ねても遠慮なくお邪魔させてもらい、高専に行くまでは使っていた龍已の部屋に集まった。いつでも帰ってこれるように掃除を欠かさず行い、物の位置すら動かさない徹底ぶり。虎徹はケン達が各々適当な場所に座ったのを見ると、置いてある机の表面を細い指先で擦り、先の言葉を吐いた。
黒怨龍已は死んだ。何の疑いようも無い事実。助かる可能性は無く、生き返ることは有り得ない。実は生きていたという奇跡は起こらず、彼の遺体は何者かの手に渡る可能性を消すために、決戦の地である無人島にて、皆に見守られながら火葬された。虎徹は彼が死んだ証拠として、首飾りにされている遺骨の入った小さな瓶を見せる。
誰の遺骨か。当然、親友である龍已のものだ。黒怨龍已本人の遺骨の一部だ。虎徹は自身が掛けている遺骨入り小瓶が付いた同じネックレスを3つ、懐から取り出して呆然とするケン達に手渡した。走馬灯のように蘇る、親友との思い出。彼の顔。声。仕草。癖。そして温かさ。それらを思い出しながら、手の中にある骨を見下ろして……3人は涙を流し始めた。
天切虎徹は語る。ここ最近であった、黒怨龍已に関する全てのことを。完成体となったこと。黒圓龍已は黒怨龍已であったこと。遙か昔より術師達から迫害されていたこと。その怨念を以て、この世から術師を消そうとしていたこと。戦争をしたこと。そして、彼は敗北して、死んだこと。彼の怨の一族としての歴史についても、虎徹は出し惜しみもせず、全て語った。嘘偽り無しの、真実を。
「怨の一族……か」
「じゃあ、呪詛師に龍已の両親が殺されたのも……」
「昔から、初代の頃からずっと……黒怨一族は迫害されてたのかよ……ッ!クソッ……クソッ!!」
「……龍已は死んだ。でも殺すことができたのは僕の呪具だ。それはつまり、僕が龍已を殺したに等しい。……どうか僕を罵ってくれ。親友殺しのろくでなしだって。……っ……本当に、申し訳ありませんでした」
「虎徹……」
「お前……」
「本当にっ……申し訳ありませんでした……っ!」
そして、語ったものの中には、自身が造った呪具により、彼が死んだことも含まれていた。世界で唯一、彼を正面から殺せる術を造り出す事ができる抑止力。天切虎徹は床に膝を付き、手を添えて深々と頭を下げて土下座をして謝罪した。殺したのは自分なのだと。殺してしまい、申し訳ないと。一切の話をせずに呪具を造ったことを、心の底から謝罪した。
嗚咽を漏らしながら、土下座をして謝罪している天切虎徹。華奢な体つきは小さくなって余計弱々しく見える。今にも崩れて消えてしまいそうだった。彼の謝罪に、涙を流しながら見ていた3人は、彼の傍に寄って肩に手を置き頭を上げさせた。
恐る恐る顔を上げた虎徹は、怒るでもなく、悲しむでもなく、各々止まることがない涙を流しながらぎこちなく笑みを浮かべていた。聡明な虎徹の頭脳が、彼等が言わんとすることを察してしまい、肩を震わせて大粒の涙を流す。
「いいんだよ。っ……だ、だいじょうぶっ!だいじょうぶ……ぐっ……だからさっ」
「こ、虎徹はさ?悪くないんだよ。ホントにっ……ホントにワルくないからっ!」
「龍已が望んで……ひっく……龍已が……はぁっ……お前も、造りたくなかったん……だろっ?でも、造った……っ」
「俺達はわかってるっ!造りたくなくてもっ……うっく……アイツの為に造ったんだってさ!」
「そ、それにっ……それにさっ?それ言うなら俺達だってっ……悩み聞くとかっ……大したことじゃなくても……龍已のためにできること……あったはずなんだっ!」
「し、しごどっ……仕事が忙しいからって……っ!時間も作らないで、虎徹にばっかり辛い思いさせてごめんっ!ごめんなぁ……っ!」
「俺達親友なのに……っ!龍已のこと、全然わかってやれてないし……っ!虎徹に負担ばっかりで……っ!」
「俺達こそ、ごめんっ!ごめんっ!」
「ち、ちが……っ!ぼ、僕は……ぼく……っ!う、ぅ……ひっく……うぁ……ぁああああああああああああああああああああああああああああああああ……っ!ぃ、いやだ……いやだよぉっ!龍已ぁっ!置いていかないでぇっ!!」
「ふっ……ぐっ……龍已……っ!!」
「ぁあ……こんなになって……帰って来やがって……っ!」
「もう……話すら……できねぇじゃんかよぉ……っ!!」
この3日間、虎徹は泣くことを我慢していた。泣くのは、非術師の親友達に事情を話してからにしようと決めていたから。だがもう無理だった。罵って、責めて欲しかった。お前の道具の所為で親友が、龍已が死んだのだと。親友殺しのろくでなしと、そういって欲しかった。しかし彼等は決してそんなことを言わない。思わない。
小学生の頃からの付き合いで、小さな頃は毎日遊んだ。休みは朝から夜まで、泊まりながら遊んでいた。しかし歳を重ねることで優先しなくてはならないことも増え、ケン達は結婚してから家族の方を優先していた。子供も産まれ、幸せだった。だからこそ、龍已のことを蔑ろにしていた。
そんなに重いものを背負っているとは思わなかった。彼の過去について知らなかった。話してくれとも言えなかった。時々の集合で酒を飲み、近況報告をするばかりで、彼に語らせる暇が無かった。だから自分達も悪いのだと言う。皆が悪く、誰も悪くない。ケン達は暫くの間、虎徹を中心にして、年甲斐も無く大泣きした。手の中に、親友の遺骨を握り締めながら。
「──────虎徹様。申し訳ありません。つい先程お届け物が……」
「ずずっ……差出人は?」
「……龍已様です」
「……ッ!?龍已からの……?」
「どういうことだ……?」
「もしかして……時間差で送られるようにしてたのか……?」
大の大人4人が顔をぐしゃぐしゃにしながら泣き続けて1時間は経ってしまっただろうか。彼との思い出が次々と溢れ、親友を語っておきながらの部外無さから自責の念に駆られ、涙は一向に乾かなかった。ふとそこで、遠慮がちにドアをノックされた。虎徹の家の使用人で、龍已のことも小さい頃から知っている古株の使用人だった。
女の使用人は手に白い封筒を持っている。差出人を聞けば、龍已であると言う。どういうことだと思いながら立ち上がって封筒を受け取り、口の部分を開いていく。中身を取り出しながらベッドに腰掛けるとケン達も同じく腰掛け、中身が見える位置に移動した。入っていたのは複数枚の紙であった。筆跡は達筆で真面目な印象を与えるもの……龍已の字だった。
4人がごくりと喉を鳴らす。一体何が書いてあるのか。恐ろしいような、期待するような、複雑な気持ちを抱きながら、紙を持つ虎徹が代表して読み上げた。
「すぅ……はぁ……親友達へ。『突然の手紙にさぞや混乱している頃だろうと思う。俺の勘が正しければ、虎徹の家の俺の部屋に全員集まり、この手紙を読んでいるのだろう。俺の過去や正体については虎徹から説明を受けただろうか。まだならば聞いておいて欲しい。自分の口から言えないのは残念だが、俺の親友であるお前達には俺の全てを知って欲しい』」
「……ったく。もう聞いたっつーのっ!」
「まあ、だからなんだってな?」
「龍已は龍已だし!」
「ふふ……続けるよ……『さて、虎徹から聞いている通り、俺はもう死んでいる。この手紙が送られている事が何よりの証だ。勝手なことをした挙げ句に死んで申し訳ないと思う。だが俺の過去が……黒怨一族の怨念を晴らさずにはいられなかった。敗北した身で何を言っているのかという話だが、決着をつけたかったんだ──────』」
──────話は変わるが、俺とケン達の初めての出会いは覚えているか?俺は今でも覚えている。呪霊が見えるということが普通だと勘違いしていた頃、呪霊について話したら気味悪がられて敬遠されていた俺に話し掛けてくれたのがお前達だった。
『なぁなぁ!いっつも本よんでるけど、外であそばねーの?』
『……外で一緒に遊ぶような相手が居ないから』
『なんでー?』
『それは……』
『まあ遊ぼうぜ!本なんかよりカケッコして遊んだほうがたのしいもん!』
『ケンちゃんこうなるとチョーしつこいから、遊んだほうがいいぞぅ』
『チョーしつこくてうっとうしいから!』
『そんなこと思ってたの!?』
幼稚園から小学校に入って少しの頃だった。この頃から俺は友達が居らず、休み時間などは本を読んで時間を潰していた。率先して遊びたいとも思わなかったし、1人でも孤独は感じていなかったから、尚更その状況を悪化させていたのだろう。ケン達に話し掛けられなければ、延々とそのままだったかも知れない。
俺を遊びに連れ出して、休み時間の度に話し掛けてくれた。今日は何をやろう。昨日は何があった。やっていたテレビは面白かったか。人にとっては当たり前の会話でも、俺にとっては新鮮で、しっかりと受け答えができているか不安になるような、大切な会話だった。当時の俺からすれば、家の外で遊ぶなんて考えられなかったくらいだ。
周りの者達に何を言われようと、俺に話し掛けるのをやめなかった。遊びに誘ってくれて、俺にも意見を聞いてきて、本当にこの時は、友達とはこういうもののことを言うんだなと感動した。表情が変わらないから判らないかも知れないが、心の中ではずっと感謝していたんだ。
『変なこと言うヤツは滝シュギョーがおにあいだぜ!』
『カンシャしろよなー!』
『……………………。』
『龍已どうした!?なんでびしょびしょなんだ!?』
『……蛇口を強く捻りすぎて……』
『こら!ウソはダメだぞ龍已!さっきクソバカやろうたちが、トイレで水かけたってさわいでたの聞いたからな!』
『カゼひかない?だいじょうぶ?他の服……ないよなぁ……いや、体育の服あるじゃん!』
『龍已だけ体育の服はカワイソウだから、オレ達も着替えるぞ!』
『かってに着替えたらおこられちゃうんじゃない?ケンちゃん』
『はー?そんなの、着替える理由があればいいんだし!だからぁ──────水あそびだ!おりゃくらえー!!』
『ぶわっぶぇっ!?』
『ちょっ、いきなりはハンソクだぞーっ!ケンちゃんもくらえ!』
『うげっ!?チンコのところだけぬらすなよ!おもらしみたいじゃん!!』
『『え、ちがうの?』』
『ちげーよっ!!』
『……みんな……』
トイレで水を掛けられた俺を心配してくれたというのに、その後俺1人を体操服にするのは可哀想だからと、態と水遊びをして服を濡らして、教師に怒られながら一緒に体操服になってくれたこともあった。そこまでしなくていいと思っていたが、その反面そこまでしてくれるケン達に嬉しく思った。
純粋な子供は善悪の区別がつきにくく、当時の俺は少し周りと違うという理由から軽度の虐めを受けていた。その度に庇ったりしてくれていたケン達は心の支えだった。日頃助けられているのだから、俺も助けたいと思い、できることを探した。その結果が、大体宿題を見せるというものだったのは何とも言えないが。
宿題を忘れたと言う前に、俺がやってきたものを見せると、ケン達は俺を怒ったな。理由は覚えているか?恐らく覚えていないだろう。だが俺にとっては掛け替えのない記憶だ。
『なあ、龍已。なんでいっつも宿題見せてくれるんだ?』
『なんでって……いつも俺が助けてもらっているし、遊んでくれているからお礼に宿題を──────』
『はーっ!?
『おいおい、龍已クーン?それは聞き捨てなりませんぞ!』
『オレ達はさ、龍已に宿題を見せてほしくて遊んでるわけじゃないんだぞ!?』
『お礼はいらないんだよ!友達だろ!?友達だから一緒に遊ぶし、イジメられてたら助ける!ちょー当然のことだろ!』
『たしかにオレ達頭ワルいし、宿題わすれてすーぐ怒られるけどさぁ』
『だからって、龍已に宿題やってきてもらおうとか考えてないからな?』
『いいか、龍已。助けてくれるのはありがとう!すっごいうれしいし、助かる!けどな、それを
『友達……分かった。すまなか……いや、ごめん』
『……へへっ。いいってことよ!だってオレ達友達……いや、“親友”だからな!』
『親友……そうか、ありがとう。俺と親友になってくれて』
『『『これからもずっと親友だぞ!』』』
『あぁ。ずっと親友だ。……それにしても宿題は見せなくて良かったのか……休み時間は残り2分しかないが、ケン達は早く終わらせられるように頑張ってくれ』
『『『あ、ごめん。今すぐ見せてくんない??』』』
『え?』
友達は良いものだと思っていたら、いつのまにか親友になっていた。本当に嬉しかった。その日は嬉しさで夜寝ることもできなかったし、鍛練は集中できず父様にかなり強く叱られた記憶がある。それでもこの時のことは忘れない。まるで昨日のことのようだ。
その後は肝試しのあの事件があり、虎徹も俺達の輪に加わって意気投合し、5人の親友グループができあがった。いつも何をするにも一緒で、遊びに行くときは毎回楽しかった。お前達以外に友達なんて居なかった俺ではあるが、お前達さえ居てくれればそれで良かった。全てが完成されていた。
呪術高専に行くようになり、離れてしまってからは遊ぶ頻度はかなり下がった。任務と仕事の両立。ただでさえ人手不足の呪術界なのに、変に等級を上げてしまったのが悪手だったのだろう。頼られ、使われ、電話でしか話せず数ヵ月会えない時など当たり前だった。
どうにかして時間を作って会いに行くのは大変だった。逃げてしまおうかと思ったことすらあった。だがお前達が励ましてくれたお陰でやっていけた。まあ、最後は離叛してしまった訳なのだが。それについては申し訳ないと思っている。
互いに成長して、カンとキョウに彼女ができて、結婚して家庭を作り、ケンも昔に語っていたタイプの女性を捕まえ……女性に捕まえられて結婚して、カンとキョウには子供だって産まれていた。小さな手を嫁と共に握って笑いあう光景を見たときは、人知れず涙を流してしまったのは良い思い出だ。あぁ、親友達の明るい未来を守れているんだなと、やっと実感できたんだ。
俺と虎徹が居たから呪いについて知っていたが、本当は知らずに生きていくことが最適だった。何も知らず、幸せだけを噛み締めて天寿を全うしてほしい。俺が居た死が隣り合わせの世界なんて知らなくて良いんだ。
黒圓龍已だった時も、黒怨龍已となった今も、お前達4人が掛け替えのない親友で良かったと思っている。お前達以外では、親友にはならなかっただろうとすら思えてしまう。それだけ俺の中で4人は大きい存在だ。
もう死んだ身として、お前達の未来を傍で見ることも、助けることも、守ることもできなくなってしまったが、心より感謝を込めて言わせて欲しい。ありがとう。俺と親友になってくれ。俺とこれまで仲良くしてくれて。ありがとう。本当にありがとう。
お前達と出会えたことは、俺の幸せだった。どうかこれからも健やかに、家族共々幸せに生きて欲しい。皆のこと、俺は心より愛している。
ありがとう。そしてさようなら。皆に幸あらんことを。
黒怨龍已より。我が親友達へ、友愛を込めて。
「くっ……ぐぅっ……」
「そんな……昔のことも覚えてたのかよ……っ!」
「なんで……なんで死んじまったんだよ……っ!なんで龍已じゃないといけないんだよ!」
「クソッ……返せ!俺達の龍已を返せよ!迫害したクセに殺しやがってっ!ふざけんなっ!ふざけんなよクソ野郎っ!」
「アイツは優しい奴なのに……あんなに優しい奴は他に居ねーのに……っ!絶対に許さねぇからな、術師共っ!!」
「うぅっ……うっ……龍已……龍已ぁ……ぐすっ……?もう1枚ある……?」
龍已からの手紙は感謝を語るものだった。友達として、親友として当たり前のことをしてきたから、ケン達には龍已の言う記憶が殆ど無かった。忘れてしまっていた。しかし彼は詳細を覚えていた。ずっと忘れなかった。それ程嬉しかったのだろう。幸せを感じたのだろう。
掛け替えのない親友。出会えたことが幸せ。嬉しいことを言ってくれる。だがそれは面と向かって、本人の口から聞きたかった。こんな死後に届いた手紙などではなく、直接言って欲しかった。彼等は涙を流しながら歯を食いしばり、ここには居ない全ての呪術師、呪詛師に悪態をつく。
きっと彼等が呪術界を許す事は無いだろう。永遠に憎むだろう。怨むだろう。大切な親友を殺した者達のことを。善の術師だろうが、関係ない。彼等にとって龍已を殺す原因となった呪術界そのものを怨んだ。
そうして手紙を読み終えた4人は泣いていたが、手書きの文字が綴られた複数枚の手紙の中にもう1枚読んでいない手紙があったことに気がついた虎徹。その手紙を見てみると、差出人は当然龍已で、虎徹宛てのものだった。涙を袖で拭いながら目を通して読んでいく。
「ずずっ……虎徹へ。親友の中でも何かと1番に世話になったお前へまた別の手紙を書かせてもらった。というのも、虎徹は俺を殺せる呪具を造り出し、使用し、俺を殺したことを悔やんでいることだろう。自責の念に潰されそうになっていることだろう。俺はその虎徹の心に刺さった楔を外したいと思う」
率直に言わせてもらえば、虎徹が俺を殺したんじゃない。それだけは勘違いするな。確かに俺は虎徹の造った呪具で死んだが、だからと言って虎徹が俺を殺したことにはならないだろう。俺よりも遥かに頭の良いお前ならば分かっているはずだ。それなのにそう思うのならば、きっと思いたいだけだ。
虎徹の中で、俺という存在が大きいことは知っている。気配でも、日頃の行動を見ていれば普通に気がつく。何かと俺だけ特別だからな。それはありがたいし、嬉しい。だからこそ、俺が死んだ後の空虚な心に何かで埋めておきたいのだろう。それが自分の所為で俺が死んだと思い込み、自責の念から自分自身を怨むことだ。
無駄なことはするな。お前は悪くない。そもそも俺が造ってくれと無理に頼んだじゃないか。どう足掻いても虎徹の所為にはならない。むしろ、虎徹のお陰で終わったと言い換えてもいい。虎徹でなければ、俺を殺すのは不可能だった。だからこそ、俺はお前に感謝したい。
『黒龍』やら『黒曜』、あらゆる呪具を造ってくれた虎徹には、頭が上がらない。非術師であるケン達に相談できないようなことも、虎徹にならできた。それがどれだけ救われたことか。悩みを吐き出すことを教えてくれたのは虎徹だからな。でなければ呪術師など早々に離叛していたに違いない。
親友達の中でも、虎徹に1番世話になった。何でもやってもらっていた。相談にも、呪具にも、黒い死神としての仕事の斡旋にも。俺が俺として居られたのは、間違いなく虎徹が居たからだ。だから、そう自分を責めないでくれ。俺はそれが悲しい。
違う手紙にも書いたが、虎徹と出会えたことは幸運だった。親友になれて良かった。虎徹が俺の専属呪具師になってくれたことは、俺の自慢でもあるし光栄だった。お前ほどの素晴らしい呪具師はこれから先現れることはないと断言できる。お前は、本当に世界最高の呪具師だ。
死んだ後、愛用していた虎徹の呪具を共にあの世へ持っていけないことが悔やまれる。それくらい俺とあの呪具達は波長が合っていた。短いが、ここまでにしておこうと思う。感謝を示すと終わりそうにないからな。
最後に、こっちにはゆっくり来るんだぞ。それで、来たとしても俺の方に来てはいけない。まあ尤も、虎徹が俺の方に来ることはないだろうが。ではな、虎徹。世話になった。ありがとう。そしてさようなら。
「そっか……僕の中で龍已が神に等しいって知ってたんだ。まあ、あからさまだったもんね。他の人達に最高の呪具師って言われても嬉しくないけど、本当に、龍已に言われると胸がいっぱいになっちゃうなぁ。それとね、そっちに行ったら間違いなく龍已のところへ行くよ。そのための呪具も造るし、媒介にはこれ以上ないものまであるしね」
首に下げた遺骨の入った瓶を、愛おしげに触れて妖しい笑みを浮かべる。泣き腫らした目元を拭いながら、執着とも狂信とも言えるほの黒い感情を瞳に宿している。頭の中には世界最高の呪具師が手掛ける、死後に発動する強力な呪具の設計図が創り出されていた。
この日、4人は龍已の思いを知り、死んでしまったことを受け止めた。皆で金を出し合い、龍已の為の立派な墓を作った。毎年龍已の命日には必ず4人は集まり、まるで全員が揃って騒いでいるように飲み会をし、各々が墓に向かって語り掛けた。
そうして数十年後、50代という若さで天切虎徹が他界した。健康にも問題なく、精神的に少し疲れている印象があるだけだったが、何故か彼は眠るように息を引き取った。棺桶の中の彼は美しい美貌を保ち続け、合わせられた手には、不思議な形の杖を持っていたという。
「──────やぁ。僕の愛する
「……来てしまったのか」
「ふふっ。当然だよ!龍已が居るところに僕が居ないと意味ないからね!──────これからは本当にずっと一緒だよ?」