仁之助は巨大木剣カジキで由太郎は振り棒で向かい合いながら素振りをしている。
「漫然と振るな!眼前に敵が居ると思って打ち込め!」
「は、はい!」
仁之助の激が飛び、由太郎が息を弾ませながら答える。
由太郎を弟子にして一ヶ月の間、塚山邸の中庭で千本素振りを毎日続けさせていた。
『素振り三年で初伝の腕』それ程に言われるほど重要で大事な修行であるが巷の道場では単調な修行を続けては門弟が離れてしまう。そこで門弟の興味を繋ぐため防具を付けて竹刀での打ち合いなどの派手な試合稽古をやらせる様になる。
無論、仁之助とて竹刀での打ち合いも無意味では無いと思う。しかし、そう言った試合形式の稽古は基本稽古で身体を作った後で無ければ所詮竹刀舞踊になり、小手先ばかり器用な軽い剣となってしまう。自然、太刀行きの速さも違ってくる。
故に由太郎に課された稽古は地味だが辛い古法の修行法が取り入れられていた。先ずは素振り、由太郎が振っているのは竹刀や木刀では無い、振り棒と言う樫の木の棒に鉄製の輪を嵌め込んだ重さ二貫目(7・5キログラム)の棒である。続いて走り込み、高下駄を履き山野を駆け巡る、不安定な高下駄で足場の悪い山野を駆け、崖をよじ登り、川の流れに逆らい遡る、これにより筋肉はもとより体幹を鍛える。
一ヶ月の間、辛く厳しい荒業に耐え心身を鍛えた由太郎の身体は引き締まり顔付きも精悍に成った。
「止め!今日はこれまで」
「ハァ、ハァ、は、はい!ありがとうございました!!」
弾む息を整えながら汗だくの由太郎が頭を下げる。
塚山邸で夕食を御馳走になり、仁之助は帰途に付いた。
肩にカジキの包みを担ぎ夜気の冷たい風が吹く道を一人歩く仁之助は思案していた。
(そろそろ、基本の形を教えるか)
この一ヶ月で由太郎は驚くべき上達を見せた。仁之助としては形稽古に入るのは後二、三ヶ月先の事だと見越していたが、その段階を由太郎は軽々越して行った。正に天稟、その才能に末恐ろしさと何よりその才能に剣を教え鍛え上げる事に喜びを感じていた。
何かに気付き不意に立ち止まる。
「···何か用か?」
前方の夜の闇の中から三人の男が現れ、また後方にも気配を感じた。真ん中に肩に黒い羽飾りを付けた筋骨隆々とした大男、大男の左側には鉢巻を巻いた中肉中背の若い男、右側に肩幅の広い鯰髭の男。それぞれ、大男は帯刀し、若者は柄の両端に刃が付いた異形の刀を背中に背負い、鯰髭の男は笹穂槍を持っていた。後方の気配は二人、おそらく此方も武装していると見た。
「何か用か?」
再び、今度は強めに問いかける。大男が進み出る。
「吾輩は石動雷十太!!日本剣術の行く末を真に憂う者である!」
大男は堂々と名乗り胸を張っり、そして己の目的を語り始めた。昨今の剣術の弱体化は嘆かわしい、そこで脆弱な新剣術を淘汰し、古流の実戦剣術を復古させ『真古流』として日本の剣術界を立て直す。と言う事らしい。
「虎眼流・藤木仁之助!!吾輩達の同士になれ!!」
雷十太の主張は仁之助にも心当たりがあった。武士階級の廃止により剣術は下火になって行くだろう。更にこれからの時代の戦場は銃や砲による戦いが中心となり、心身練磨の手段としての剣道はともかく、戦の術としての剣術はその多くが滅ぶのは自明の理。
ならば滅びそうな古流剣術が命脈を保つための互助する体制を組織するのも理解出来る。
「断る!!」
だが気に入らない。新剣術を淘汰すると豪語するのもそうだが、そも___
「勧誘ならば礼節を弁えよ!!」
___路上で武装した多人数で囲み‘同士になれ’など無礼なのも極みある。
「···殺れ」
雷十太が静かに言うと後ろに下がる。鉢巻は異形の刀を構え、鯰髭は槍を
「他流の者、丁重に
カジキを包んでいた布を解く
「
手応えを確かめる様にカジキを一振りする。