詳細は前話の後書きに書いて有ります。
申し訳ございませんでした。
鯰髭が仁之助に果たし状を届けていた頃、薄暗い雑木林の中を二つの人影が疾走している。小さな影を別の影が追っている。小さな影は仁之助が真古流に襲われた日に一人逃げ出したあの小男だった。追う影は雷十太であった。
「ヒッ、ヒッ、ヒャ」
奇声を上げ必死に走る小男の顔は恐怖に染まり涙と鼻水でグシャグシャになっていた。追う雷十太の顔も凄い、その顔は憤怒のために歪み目は血走り、まさに鬼の如くであった。
「ぬん!」
雷十太は刀を振り抜いた。瞬間、雑木林を裂き斬撃が飛び、小男の肩に傷を付けた。
「ギャ」
態勢を崩した小男に雷十太が迫る。このままでは逃げ切れない、そう思った小男は刀を抜き雷十太に向き直る。それは‘腹を決めた’と言うより‘やけっぱち’による行動だったが、
「貴様!あの時逃げた癖に吾輩には立ち向かってくるのか!!!」
雷十太は、自分が仁之助より下と見られた。と捉えた。
「ヒッ」
雷十太の怒号に身をすくませた小男に刀が振り下ろされる。右の肩口を斬られ右腕がポトリと落ちる。
「ギァァァ!」
「死ね!死ね!死んでしまえ!!」
「ギァ!やめ、止めて!」
次々と刃が振り下ろされる。左手が落ち、足が落ち、顔が裂かれ、
「···」
グシャ、グチャ、と湿った音が響く。小男はとっくに息絶えていたが、雷十太は刀を振り下ろすのを止めない。
「フ、フヒ、フヒヒ」
怒りに染まっていた雷十太の顔が次第に別の色が浮かび、笑い声が止まらなくなっていた。
「フヒ、フハハ、これか?これが、人を殺めると言う事か?フハハハハ!!」
もはや人の形を留めず、どこがどこの部位か分からぬほど斬り刻まれた小男だった肉片の上で高笑いを上げ、何とか形を留めていた頭を蹴っ飛ばす。
「堪らぬ!これは堪らぬ!!」
恍惚とした表情で叫ぶ。
「吾輩は、俺はコレを今の今まで知らなかったのか!!何と損をしていた事か!!」
今までの人生が一気に色褪せ、酷く退屈でつまらぬ物になり果てた。
「ら、雷十太殿!?これは一体!!」
追って来た顔に包帯を巻いた坊主頭と鉢巻の男が驚愕の表情を浮かべる。
「ん?」
「「!!」」
雷十太の眼で射すくめられ、二人は恐怖に慄いた。最初から泥の様な濁った眼をしていた雷十太だが、今、二人を見る雷十太の眼は人を見る眼では無い、獲物を見付けた獣の様な怪しい光を宿していた。
「···何だ貴様らか」
興味を失った様に二人から視線を外し、小男だった肉片に視線を戻す。
「何の用だ」
「い、今しがた果たし状の返書が届きました」
「で?返事は?」
「承知したと···」
肉片に刀を振り下ろす。血肉が飛び散った。
「「ヒッ」」
「虎眼流!藤木仁之助!!フハハハハ!!」
一匹の獣が楽しそうに実に楽しそうに笑っていた。