雷十太との決闘より半月が過ぎ、その一戦、雷十太を手に掛けた事が仁之助に暗い影を落した。事など全く無く、普段の生活に大きな変化は起きなかった。
ただ一つ、変化した事が有ると言えば、由太郎との稽古の合間合間に語り合う事が増えた。
寡黙とまでは言わないまでも、どちらかと言うと余り自分の事を語らない仁之助と由太郎の会話と言えば、由太郎が頻りに質問して仁之助が幾つか答え、由太郎が「流石は先生」と感心すると言うものだった。
しかし、決闘から暫く経ってからは、仁之助は自分から剣術や剣客に対する己の見解を語る様になり、また由太郎に関して剣術以外の悩みや不満を聞く様になった。
「タッ!」
「ヤッ!」
「トウッ!」
気合い声と共に床を踏む音と木剣がぶつかり合う音が塚山邸に新しく設えられた道場に響く。仁之助と由太郎は木剣で激しく打ち合っていた。ビュンビュンと風切り音を立て稽古とは思え無い速度で振るわれる木剣、それを躱し防ぎ弾く。
「手打ちになっているぞ!腰を入れて打て!」
「は、はい!!」
どれ程の時間打ち合っているのか、由太郎の息が上がり汗が滝の様に流れ汗止めに頭に巻いた手拭いがグッショリと濡れ必死に木剣を振っていた。一方の仁之助は軽く汗ばむ程度で余裕の表情だった。
「ヤァー!!」
由太郎が体当たりする様な勢いで踏み込み木剣を仁之助に振り下ろす。自身に振り下ろされる木剣を仁之助が防ぐ、バシンッと鋭い音が鳴る。
「良し!!」
仁之助がそう言うと由太郎の顔に喜びの色が浮ぶ。
「タッ!」
しかし、間髪入れず仁之助が由太郎の木剣を弾く、由太郎の体が多く崩れた。崩れたところに追撃の木剣が由太郎を襲う。木剣が由太郎の頭に当たる直前、ピタリと止まる。
「油断大敵」
ぽつりと呟く。
井戸で汗を洗い流し胴着から着替えた二人は塚山邸の畳敷の一室で正座し対峙していた。
「さて由太郎、剣術を学ぶ意義は何だと思う?」
出された茶を啜り一息ついた仁之助が口を開く。
「強く成るため!」
間髪入れず由太郎は答える。目を閉じ上を向き、少し考えて仁之助は話す。
「確かにそれも一理ある···」
「はい!」
自分の考えを師が肯定してくれるのが、よほど嬉しいのか無邪気な笑顔を浮かべる。
「···だが、それだけでは無いと私は思う」
「では剣術を学ぶ意義とは?」
真っ直ぐ師を見つめる。
「
「はい」
「ならば剣術は···いやさ武術全般を学ぶのは、そのための腹を拵えるために有る」
茶を一口飲む。
「今は士の時代では無く、目まぐるしく世情も変化して行く、それでもだからこそ己に誇りを持ち、恥を知り、決して曲らぬ歪まぬ芯を心に持たねばならない」
「···」
由太郎は黙して考える。
「まぁ、これはあくまで私の考えで、君が自分なりに考えて別の答えを持つのは悪い事では無い」
「はい先生!!」
元気良く答える由太郎に満足気に頷き仁之助はぬるくなった茶を一気に飲み干した。