仁之助と剣心の再会から数日後、神谷活心流道場ではバシン!バシン!と竹刀同士がぶつかり合う音が響いている。
防具を着けた二人の子供が向かい合い、試合をしている。言うまでもなく一人は由太郎で、もう一人は神谷活心流道場門下生の明神弥彦である。
仁之助は道場の方わらに座してジッと試合の様子を見ている。その反対側には剣心が座っており、薫は試合の審判をしている。
弥彦は相手の手元から伸びて来る竹刀を必死に防いでいた。
(この猫目強え···)
竹刀の速度が違う。ドッシリと落ち着いた構えから疾風の如き攻撃が飛んで来る。
(う、腕が痺れる)
一撃一撃攻撃が重い、竹刀で防御してもその衝撃が手や腕まで響いてくる。
このままでは徐々に体力を削られ負ける。そう思い何とか反撃に転じたいが、攻撃が鋭く反撃する隙が無い。しかも時が経つにつれ次第に速度が増し重さが増し鋭さが増した。
今まで出稽古で他の道場の稽古に交じり大人とも試合して勝った事も有る弥彦だったがこれ程の強敵は初めてだ。
(負けてたまるか!!)
気合いを入れ直し由太郎の動きに必死に喰らいつく。
「ほう、やるな」
仁之助は感嘆の声を上げた。ああも激しく攻められて気圧されるどころか、むしろ闘志を燃やす弥彦に感心した。
格上の相手との戦いで追い詰められた時に踏ん張り粘る事は難しい。相手が強ければ強いほど人は敗けても仕方ないと思ってしまうものだ。
「彼は強く成るぞ」
仁之助は弟子に好敵手が出来る予感に思わず笑みがこぼれた。
一方的な試合が展開する中で由太郎は戸惑っていた。由太郎はこの日初めて防具を着け、竹刀を持った。仁之助との稽古では防具など着けず、打ち込むのも木刀であって竹刀の軽さは如何にも頼りない。
しかし、それにも次第に慣れ何時も通りの動きができ始めた。戸惑っているのはそれでは無い。
(何故!?何故勝てないんだ!?)
これで有る。一方的に攻めているのに一本が取れない。
(先生が見ているんだ!!)
尊崇する師の前で不甲斐ない試合は出来ぬと気負い、より激しく攻め立てる。だが弥彦は体力を削られながらも粘る。後一歩が届かない。気負いが焦りになり始めた。
焦りから攻撃が荒く技の冴えに陰りが見え始めた。
「ヤッ!!」
大上段から全力で振り下ろされる竹刀、大振りのその一撃をふらつきながらも咄嗟に躱す弥彦、竹刀が空を泳ぐ。
由太郎は全力であるがために大きく体勢を崩してしまった。
「ぐっ」
弥彦の竹刀が繰り出される。由太郎の面を打つ、否、打つと言うよりポンと当てる様な有効打とは程遠い攻撃、体力の限界に達した弥彦にはそれが今できる限界だった。
弥彦はそのまま前のめりに由太郎を巻込みながら倒れた。
「この、さっさと離れろ!!」
「ゼェゼェ、る、るせぇ、腕が痺れて動かねぇんだ!!」
仁之助はジタバタと藻掻く二人を苦笑して引き剥がす。
「神谷先生、今回はこれまでにしましょう」
「そうですね」
「先生!勝負はまだ着いていません!!」
「戯け」
コツンと由太郎の頭に拳を落す。あまり力を入れた様に見えなかったが由太郎は痛みに悶る。
「攻め切れず焦って反撃を食らう···どう見てもお前の負けだ」
「はい···」
消え入る様な返事をした由太郎は悔しそうに己の袴を握り締めうつ向いてしまう。
うつ向いた頭を仁之助の手が乱暴にワシワシと撫でる。
「明日からの修行はより厳しく行くぞ」
「は、はい!!」
由太郎は嬉しそうに元気よく返事をする。
その様子をジッと見つめていた弥彦の頭を剣心がポンポンと撫でる。
「弥彦も良くやったでごさる」
「や、やめろよ」
手を振りほどこうとするが腕が痺れて動か無いため振りほどけず結局なすがままにされてしまった。
弟子二人を下げ今度は仁之助と剣心が進み出る。手には竹刀が握られている。
「さて緋村殿···始めようか!!」
「そうでござるな藤木どの···参る!!」
今度は達人二人の試合が始まった。