るろうに剣心虎眼流武芸譚   作:ならない

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十番勝負三本目『跳刀地背拳』

 

近頃、新撰組隊士中に1つの噂が立っていた。

 

『藤木仁之助と市中見回りに出れば刺客に襲われる』

 

市中見回りの任は隊伍を組んで行われる。その中で不逞浪人と斬り会いとなるのも日常茶飯事だ。隊士にも死傷者も頻繁に出る。

とは言え、わざわざ厄介事に巻き込まれのは誰だって御免だ。

 

故に仁之助と隊伍を組むのを隊士達は嫌がった。沖田総司などが「じゃあ僕が」とニコニコと言い出し近藤勇が「組長格が軽々しく出るな」と止めるまで乗り気だった。

隊務に支障が出始めると、士道不覚悟けしからん。などと新撰組副長・土方歳三が御立腹になっている時、一人で行動したいと、仁之助本人が言い出した。

 

流石に自分が狙われているせいで誰かが『切腹』となったら寝覚めが悪い。

 

 

 

一人で見回りに出る様になった。とある日

 

「首長処刑刀術!受けてみろぉー!」

 

大男が中華風の大刀を扇風機の如く高速回転させながらジリジリと迫ってくる。

大刀の回転に巻き込まれそうになった野良猫の首根っこを掴み自身の背後に投げた。

 

「タッ!」

 

仁之助は気合い一閃、大刀回転の中心、つまり大刀を持つ手に突きを入れる。

斎藤から直伝された全身を使った突きは、牙突とまでは行かないものの威力絶大で、大男の手を貫き、腕を抜け、胸に吸い込まれ、心臓を射貫いた。

大男はドウッと音たて倒れ伏した。

 

腕にヒリヒリとした痛みを感じ袖を捲って見た。腕に傷ができていて血が出ていた。

猫の引っ掻き傷が意外と深かった。

 

 

 

別の日

 

「竜吐火焔術!」

 

口から火を吹きかけて来た男がいた。

仁之助は小柄を投げた。

 

「ギャ!」

 

男の右目に小柄が刺さり、怯んで火が止んだところを抜打ちで仕留めた。

 

その後の延焼を食い止める方が大変だった。

 

 

 

仁之助は今日も今日とて見回りに出る。

 

町屋が並ぶ京の市中、他の土地には無い京独特の雅が感じられ、等とか言えれば良かったのだろうが、毎日のように暗殺、謀殺、暗闘が何処でも起こりえる京、その空気は暗く淀んでいた。

 

暫く進むと、人集りに出会った。

 

「集うな、散れ散れ」

 

治安維持の観点から京では徒党を組んだり一つ所に集う事が禁じられている。

新撰組の任務は謂わば警察活動、ある程度の集団に出会ったら速やかに解散させる義務がある。

 

「げ、壬生狼や」

 

「皆、逃げい、斬り殺されるで」

 

蜘蛛の子を散らすように逃げだす人々、新撰組に対する雑言の類は今に始まった事では無い。

仁之助達が江戸から出てきた当時から、京の人々からの侮蔑の念は強かった。やれ「田舎者の御上りさん」やれ「坂東武者の野蛮人だ」そう陰口を叩かれていた。

そんなよそ者が我が物顔で町中を練り歩く、無駄に気位の高い京の人々が新撰組を嫌うのは想像にかたくない。

人々が白い目で見てくるのには慣れて来たが、目の合った幼児が泣き出したのには本の少し落ち込んだ。

 

頬を叩き気持ちを切り替える。

視線を向けると散った人集りの中央に男が仰向けに倒れていた。

 

「行き倒れか?」

 

息の有無を確めるために駆け寄った。

 

「なんと凶悪な人相…」

 

舌をダラリと垂らし白目を向いた男の顔は、今にもヒャッハー!!と叫び出しそうな強面だ。

身体も行き倒れにしてはガッシリとしたて筋肉がしっかりついていた。

そんな詳細が良く見る位置まで近づいた。

 

(妙だな…)

 

そう思った瞬間、強面男の目がカッと大きく開いた。

 

「掛かったな!」

 

強面の身体が寝た体勢のまま跳ね上がり宙に浮く

 

「ヒョー!跳刀地背拳!」ビュッ

 

刃が煌めいた。

 

 

 

跳刀地背拳の使い手の強面男は勝利を確信した。会心の死んだ振りに騙されたマヌケが易々と自分の距離まで近づいて来た。

 

宙からマヌケを見下ろす。

後は手首に隠した鎌で首をかっ斬るだけだ。

 

(今日は身体が軽いぜぇ~!)

 

身体の重さが半分に成った様な心地だった。そして強面は意識を失い、二度と目覚める事はなかった。

 

 

 

高く跳ねた強面男の身体は上半身と下半身に分かれ、左右の屋根の上に乗った。

 

血と内蔵が雨の様に道に降り注いだ。

 

「これでは幼子に泣かれるのも無理はないか…」

 

その情景を見た仁之助はため息混じりに呟いた。







後日、新撰組屯所の道場で床に横になりバタバタと跳ね回る仁之助の姿が目撃された。
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