るろうに剣心虎眼流武芸譚   作:ならない

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十番勝負四本目『西洋甲冑』

 

口に懐紙を咥え太刀の手入れを入念に行う。目釘を外し柄から刃を外す、打ち粉をポンポンとはたく様にまぶす。古い油を拭い紙で綺麗に全て拭う。錆止めの新しい油を薄く塗る。太刀を組直し鞘に収める。

 

仁之助が今手入れしている太刀は近藤勇に貰った物だ。近藤が虎徹(そう信じてやまない)を手に入れ時、お古の太刀を仁之助が貰った。

元の持ち主の性格と同じく、剛直で頼もしかった。が最近の闘いの連続で傷んでいた。

 

「本格的に直しに出さないとな…」

 

簡単な手入れではどうにもならない、玄人に頼まなければならない。

 

 

 

仁之助は休日に頭巾を被り顔を隠し、裏口からこっそり屯所を出た。

今日は太陽光が強く感じる。歩くだけで汗ばむ。

 

「ふぅ」

 

頭巾被って来たのを後悔し始めていた。

 

(菅笠にすれば良かったか…)

 

汗を拭きながら町を進んでいると、大きな木箱を積んだ大八車がゴロゴロ音をたて前方からやって着た。額に刺青を入れた車夫と目が合った。仁之助は道の端に寄り道を空ける。大八車が横を通り過ぎて行く。瞬間、後頭部辺りがチリッと疼いた。

 

咄嗟に前に跳ぶ。先ほどまでいた所には金槌が振り下ろされていた。少しでも跳ぶのが遅かったら頭がかち割られていただろう。

 

大八車に積まれていた木箱をバキバキと砕き銀色に輝く人影が現れた。

 

丸みを帯びた金属板が頭からつま先まで全身を覆っている。西洋甲冑、その中で完成形とまで云われるフルプレートアーマーだった。

 

ヨーロッパでもフルプレートアーマーを着た騎士が戦場を駆け巡っていたのは最早昔の事、極東生まれの仁之助にいたっては完全なる未知の存在だった。とは言え、その防御力の高さは一目で理解した。

 

「フン!」

 

大上段で振りかぶる西洋甲冑、隙だらけだった。

 

仁之助は反射的に相手の横通り抜けながら胴を抜き打つ。

 

ガッキンと甲高い音をたて甲冑は仁之助の太刀を弾いた。

その一瞬後、振り下ろされた武器は轟音をたて地面をゆらす。

 

武器は戦鎚、防御を鎧に任せ大振りでぶん回す闘い方の様だ。

 

(どう闘うか…)

 

斬鉄は出来る。しかし、傷んだ刀が持つかどうかが問題だ。

 

西洋甲冑の攻撃を避けながら、考えを巡らせていると、ふと大八車を引いていた車夫のニヤつき顔が目に入る。

 

「やい!虎の小僧、見苦しいで!潔く死ねや!」

 

そうヤジまで飛ばしてくる。

どうやら仁之助が回避に徹しているのを打つ手無しと考えている様だ。

大八車に積んでいたのか西洋甲冑と同じ戦鎚で地面を叩き煽っていた。

 

「むっ」

 

カチンときた。敵の言葉にムキになるなどは未熟なのは分かっている。だが、この時は無性に腹が立った。

 

仁之助は大きく後方に跳んで距離をとった。

そして柄を人差し指と中指の間に挟む様に持ち、逆の手で刃の峰の方を摘まむ、太刀が軋む様な音を立てた。

 

西洋甲冑は戦鎚を振りかぶり、一気に距離を詰めて来た。

仁之助も一歩前に進む。互いの攻撃範囲に入った。

振り下ろされる戦鎚、ビュッ!空気を切り裂く音を立て『流れ星』が一瞬早く繰り出された。

 

西洋甲冑の頭に向かって振られた刃はキィィンと甲高い音を立て半ばから折れてしまった。

 

それを見た車夫はゲラゲラと声を上げて笑っていた。

 

「グワァァ!!」

 

それをかき消したのは、西洋甲冑の叫び声だった。

 

顔を掻きむしる様に兜を手で覆う西洋甲冑、仁之助の『流れ星』は兜のスリット、視界確保の為の隙間に放ち両目抉ったのだった。それでも西洋甲冑は戦鎚を放さず、あまつさえ直ぐに構えた。

 

目が見え無くなった西洋甲冑、それを理解した瞬間、車夫は背を向けて逃げ出した。仁之助は車夫に向かって折れた太刀を投げた。

 

回転しながら飛ぶ太刀が車夫の首を半分ほどまで断ち切った。

それを横目に見た仁之助は興味を無くし西洋甲冑に向き直った。西洋甲冑は戦鎚を闇雲に振り回し叫んだ。

 

「何処だ!何処にいる!」

 

振り回す戦鎚の重さによろめく様子は憐れみを誘った。だが…

 

虎眼流の開祖、岩本虎眼は不貞を働いた弟子の目を抉り追放した。数年後その弟子が復讐のために舞い戻り、その結果、岩本虎眼を始め多数の人物が死に虎眼流は大きく衰退した。

 

その話を伝え聞いた仁之助は手傷をおっても戦意を失わない敵には容赦無く止めを刺す事にしている。

 

脇差を抜き逆手に持つと、西洋甲冑の背後に回り込む、膝裏に蹴りを入れ跪かせると次は背中を蹴りうつ伏せした。

 

「グォ!」

 

背中に馬乗りになり継目に脇差を突き刺さした。脇の下、腰回り、最後に頭を後ろにねじり上げ、首回りに出来た隙間に刃を突き入れる。

 

同じ場所を二、三回刺すと暴れていた西洋甲冑は力が抜けグッタリとなった。

暫く様子を見て完全に動かなくなったのを確認する。

 

西洋甲冑を仰向けにして兜を外し汗と血で汚れた顔を拭いて、合掌、折れた太刀を回収し、その場を後にした。

 

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