るろうに剣心虎眼流武芸譚   作:ならない

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由太郎

塚山由太郎は父親の塚山由左衛門の仕事に付添い伊豆へと出向いた帰り、突如として現れた悪党共が馬車を襲い外へと引きずり出された。悪党共は五人、棍棒や短刀で武装していた。近くに御者と使用人が地面に転がっている。暗く二人が生きているかどうかも分からない。

 

「何者だ。貴様達は!?」

 

由左衛門が尋ねるが返ってきたのは返事では無く棍棒の一撃だった。鼻から血を噴き出しながら地面を転がった。

 

「止めろ!!」

 

由太郎は父を殴った男に飛び掛かった。だが、いともたやすく殴り倒された。

 

「巫山戯た真似しやがって!!」

 

悪党はそう言いながら倒れた由太郎の頭を踏みつける。

 

「うぐ!」

 

由太郎を何度も踏みつける悪党の足に由左衛門が縋り付き必死に叫んだ。

 

「止めろ!!止めてくれ!!」

 

悪党は由左衛門を振り払うと下卑た笑いを浮かべこん棍棒り下ろした。

 

ボロボロになった由左衛門は地面に頭を擦り付けた。

 

「お願いします。金は幾らでも差し上げます。命だけは、由太郎の命だけは!!」

 

「根性無しめ」

 

土下座で懇願する由左衛門に唾を吐きかけ吐き捨てる様に言う悪党の言葉に由太郎は泣きそうだった。

 

「ち、畜生っ」

 

殴られたのが痛い訳でも無く、悪党共が怖い訳でも無い、自分の無力が憎かった情けなかった。

 

「何をやっている!!」

 

怒気を含んだその言葉は雷鳴の様に轟き渡りその場にいた全ての者が身をすくませる。

 

怒声の発せられた方に皆が目を向ける。そこには竹束を背負った一人の男が立っていた。

 

 

 

その日、仁之助は重倉十兵衛のもとへご機嫌伺いと虫籠に使う竹を貰いに出向いていた。

 

重倉は幕府が倒れた後、隠居して東京の郊外の古い農家を改築した隠宅で慎ましく暮らしていた。その隠宅の裏には竹藪があり仁之助はその竹藪から虫籠などの細工に使う竹を切り出させて貰ている。

 

一通り挨拶を終え、竹藪から何本かの竹を貰い短く切り分け竹束を拵えて隠宅に戻ると酒肴の準備が出来ており、酒と焼いた筍に木の芽味噌を塗った筍田楽で歓待を受けた。

 

この筍田楽を作ったのは重倉では無い、お松と云う二十歳そこそこの女で住込みで重倉の身の回りの世話をしている。

 

初めて隠宅を訪れた時、重倉に対するお松の気安い態度から仁之助は「重倉の御隠居の御息女ですか?」とたずねた。お松はクスクスと笑い始め、重倉は頭を掻き「ワシのコレだ」と言って小指を立て「前の女房と死に別れてから寡夫暮らしをしていたが隠居すると豁然と女体が好きに成ってな」と照れた様に笑った。仁之助は空いた口が塞がらなかった。

 

酒杯を傾けながら二人は世間話に花を咲かせる。話しが仁之助自身の近況になった時、ふっと重倉が思い出した様に話題を振った。

 

「お前も良い歳だ。そろそろ身を固める気は無いか?良ければ世話をするが?」

 

「その事は遠慮したく」

 

「誰ぞ好い人でもおるのか?」

 

「一人暮らし気楽さを一度味わってしまうと、どうも······」

 

「分かるが、家族を持つのも良い物だぞ」

 

自分が妻子を持った姿を想像しようとした仁之助だったが上手く行かなかった。

 

筍田楽の旨さに普段余り酒を呑まない仁之助も思わず呑み過ぎてしまった。その様子を見た重倉は「今宵は泊まっていけ」と言ったが丁重に断り帰途に付いた。

 

夜気の冷たい風を浴び人家も人通りも無い郊外の道を歩いていると前方から男の怒声が聞こえてきた。

 

「おゃ?」

 

目を凝らせば脱輪した馬車に数人の男が群がっているのが見えた。強盗だと認識した瞬間、仁之助は油断無く歩み寄って行った。

 

 

 

怒声を放った男、仁之助は背中の竹束から一本、竹を引き抜き右手に持った。構えらしい構えを取らず腕はだらりと下げたままでゆっくりと五人の悪党に歩み寄る。

 

「だ、誰だてめぇ!!」

 

「ぶっ殺されたく無かったら消えろ!!」

 

「止まれ死にてぇのか!!」

 

「オラァ!!」

 

「ゴラァ!!」

 

五人はそれぞれ凄むが、その様子を見ていた由太郎は大声で凄む五人組よりゆっくりと歩く男の方が遥かに強そうに見えた。キャンキャンと吠える仔犬にゆっくりと近づく虎、その様に見えた。

 

やがて仁之助の放つ圧力に耐えられなくなったのか短刀を持った悪党の一人が奇声を上げ仁之助に打ち掛かった。瞬間、バシッと鋭い音が響くと短刀を持った男は白目を剥いて倒れ伏した。

 

「「「「なっ!?」」」」

 

悪党共には仲間の身に何が起こったのか分からなかった。短刀を持った男が間合いに入った瞬間、仁之助の右腕が消え鋭い音が響き、次に右腕が見えた時には手に持った竹はササラ状になっていた。「加減が難しい」と呟きササラになった竹を捨て新しい竹を引き抜いた。

 

悪党共が状況が分からない中で由太郎だけは何が起こったのか見えた。

 

「こめかみに一撃······」

 

その声が聞こえたのか仁之助が由太郎を興味深げに見つめた。

 

「へぇ」

 

仁之助が余所見をしたのを隙きと見たのか残りの内の三人が一斉に打ち掛かった。

 

「見てな」

 

由太郎にそう言うと、仁之助は竹を大上段に構えた。最初に短刀を突きこんで来た男の手首を打ち短刀を叩き落とし返す刀(竹)で男の脳天を打ち抜いた。声も無く崩れ落ちる男に目も向けず次の相手に向き直る。

 

竹を下段に構えなおすと、別の男が大きく振りかぶる棍棒を下から軽く叩いた。あくまで軽く叩いた様に見えたが竹は一気にササラになり、叩かれた棍棒は凄まじい勢いで回転しながら少し離れた林の中落ち、大きく体勢を崩した男の腹に拳を突き込んだ。

 

「ぐえっ」

 

潰れた蛙の様な声を上げ倒れ伏した。

 

三人目の男は何か武術の心得があるのか、大振りをせず持っていた棒を槍の様に構え突いて来た。しかし、仁之助は容易く避け相手の懐に入り込み、襟首を掴むと気合い一合、一本背負いで地面に叩き落とした。

 

三人を打ち倒した。その間六秒弱、残りの一人はオロオロと周りを見渡したが、三人を打ち倒す様子に見入っていた由太郎を見つけると由太郎に飛び付き人質にしようと試みた。だがそれより早く仁之助が男の腕を掴み「むっ!!」と気合いを込めた瞬間、男の腕からゴキャッという怪音が響いた。

 

「ッッッ!!」

 

腕を握り潰されるという非常識な攻撃の痛みに悲鳴になら無い悲鳴を上げ口から泡を吹いて倒れ伏した。

 

「す、凄い······」

 

そう言った由太郎の顔にはもはや先程の陰は無く、晴れ渡った表情で仁之助を見つめた。

 

近くの林からこっそりと去って行く大きな人影をチラッと見て仁之助は追うかどうか迷ったが怪我人の手当を優先した。

 

(それに後は警察の仕事だ)

 

裂いた手ぬぐいで由太郎達の止血をしながらそう思った。

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